リオリールとトルテのアトリエ~三つ大島の錬金術士~ 作:ジャミゴンズ
プロローグ 裏ボス・悪魔怪人レッドマン
プロローグ 裏ボス・悪魔怪人レッドマン
祖父の遺した、くたびれた錬金術のレシピ。子供の頃、私が錬金術を始めた切っ掛け。
私は愛する家族の為に 『立派な』 錬金術士になりたかった。
父が与えてくれた最高級のアトリエ。子供の頃から、私が錬金術を始めた切っ掛け。
私はおとーさんの為に 『最高の』 錬金術士になりたかった。
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……
……
プロローグ : 裏ボス・悪魔怪人レッドマン
三つ大島という島がある。
フィンデラーント王国という大きな国家が治める、グラナート大陸。
その大陸から海を隔てて東方に浮かぶ、三つの大きな島。
海路が確立され、木造の大型船による往来が盛んになり始めた頃に見つかった、青い海に浮かぶ小さな群島である。 四方を広大な海に囲まれて、恵まれた島内の自然の恵みによってそこに居る現地の人々は生活を営んでいた。
そんな三つの島に囲まれるように、中央には小さな島がポツリと存在する。
そこはそのままの意味で中央島と呼ばれており、三つ大島全体の統治を司る組織が形成されている。
名を三つ大島・中央自治区。
ひねりの無い名前だが、それだけに分かりやすかった。
だが、そんな三つ大島の地表で平和に暮らす人々は知らない。
その中央島の地下深くに、巨悪が潜んでいるということを。
数百年の時を中央島の地下深くに棲み、大望である世界征服を企み活動をしている悪魔の存在。
名を 『悪魔怪人レッドマン』 と呼んだ。
「まったく。 そういうつもりは無かったんだが……」
レッドマンは世界征服を目論んでいる悪魔である。
モコモコした赤い体毛に、まるで出店に売られるキャラクター物のお面のような顔を張り付けて表情を歪めながら。 ふざけた容姿から迸る赤く黒々しいオーラは肉眼で把握できるほどで、四肢はあるものの人間とは思えない真っ赤な毛むくじゃらの剛腕を持ち、額にはぶっとい角が生えている。
体を丸めて蹲ってしまえば、体毛の量から巨大なモグラのモンスターだと思われても不思議ではない。
今、レッドマンの膝元には、分厚い大きなビジュアルブック兼攻略本が鎮座しており、隣には黒い本が漂っていた。
『ケケケ、何いきなり一人でブツブツとぉ~……話してるんだぁ、レッドマンよぉ』
"浮遊"している不穏なオーラを撒き散らしている本。
この本は魔本・イービルズブック(命名レッドマン)
レッドマンが中央島地下に隠れ潜む元凶。 それが悪魔の本だ。
悪魔との契約。その目的が達成されたとき、悪魔は契約者の魂を喰らう。
契約者はレッドマン。契約内容は世界征服の履行。 少なくとも、レッドマンはそう認識していた。 長く付き合ってきた限り、その認識を疑う理由はどこにもない。
レッドマンは呪いにも似た悪魔との契約を何とかしようと、今までイービルズブックを消滅させる手段を試行してきた。
ところが、契約者は魔本に危害を加えることが根本的に出来ないらしく、魔本から流れ込む力のせいで死ぬ事もできない。
おかげさまで何百年も契約内容の履行の為(形はどうあれ)世界征服を目指すハメになってしまった。 だが、それもここまでだ。
手元の預言書(ビジュアルブック兼攻略本)に触れて、吐き捨てる。
「ちっ、お前と出会った時、きっと最初からこうやって諦めるべきだったんだろうな」
『クックック、何だ。 ギブアップかい? それなら魂を頂戴していいのかぁ?』
「クソ悪魔、テメェにやる魂なんかねぇ」
『契約で繋がった時からそのクソ悪魔とやらにアンタもとっくに成ってるんだぜぇ、レッドマン。 世界を早く征服するんだな』
「クソが」
イービルズブックは話が終わったと判断したのか、ふわふわと天井まで浮いてペタっと張り付いて止まった。 忌々しい本だが、排除も廃棄も出来ない物だ。 諦めて、手元の攻略本へと視線を送った。
今思い出してもバカバカしい。 演劇の休憩中、熱中症で意識が朦朧としている時に吐き出した悪役側の台詞。
──この世界を俺の物にする!
おかげでこの様だ。
当時、これが何の本なのかはまったく分からなかった。
後になって気付いたが、それはレッドマンが住んでいる、三つ大島の全容などが空から写し出されて掲載されているものであったのだ。
アトリエシリーズ最新作!
そう銘打たれた本には独自の世界観と可愛らしい写実的なイラスト、そして自然豊かな優しい世界が広がっている。
何百年と悪魔として生きていくうちに、レッドマンはこの本に書かれている文字の解析が進み、読めるようになっていた。
そしてこの本が、三つ大島を中心に描かれた 『預言書』 であることに気がついたのである。
絶望の根元であると同時に、この本はレッドマンの希望だった。
クソ悪魔ことイービルズブックは、契約者であるレッドマンが世界征服を目指さなくては自由に動き回れてしまう。 あんな危険な魔本の悪魔を野放しにして、この世界に解き放つわけには行かない。
かといって、レッドマンも世界征服などという迷惑極まりない、かつ面倒臭くてタマラナイことをしたくもない。
悪魔であるイービルズブックの存在は凶悪だ。
魔本に書かれた出来事は、全て現実にすることができるのだ。
本当にレッドマンが願えば何でも叶ってしまう。 それこそ、何もかも……悪意であろうと、善意であろうと。
もともと三つ大島で育ったレッドマンにとっては、魔本とのせめぎ合いは世界……とは言わないまでも、故郷の三つ大島を守る為の戦いであったのだ。
預言書によれば。
三つ大島にある最北の島の村 『ユウバナ村』 に住む少女が、独学で錬金術を成功させたところからスタートするらしい。
つい近頃、三つ大島はフィンデラーント王国領へと正式に併合されたばかりで、物語が始まる時期と預言書に書かれた時期はピッタリと合っている。
リオリール・フェルエクス
レッドマンを殺してくれる希望の少女。
デカデカと大げさに誇張された文字で 『主人公』 と強調されている名前。
「クソ悪魔を……俺を滅ぼしてくれるのはもう、この主人公とやらに期待するしかない……」
玉座から立ち上がり、レッドマンは攻略本兼ビジュアルブックの預言書を片手に歩き出す。
ここまで、世界征服の準備と称してイービルズブックを解放しない為にたくさんの悪事を働いてきたレッドマン。
働いてきた悪行の中には、人攫いも含まれていた。
大陸に住む赤子を十年ほど前に攫って、錬金術の参考書と最高峰の錬金釜などを用意し、そのまま拠点の一室に監禁している。
育児などする気はないので、ほとんど魔本イービルズブックに任せていたが。
レッドマンの真の目論見は別のところにあった。
自分を滅ぼしてくれる錬金術士なる存在を、自らの手で育てることを試していたのだ。
「……よし……んんっ、トルテ……入るぞ」
「あ、おとーさん? 今開けるね」
可愛らしい年相応の少女の声が扉越しに聞こえてくる。
扉が開くと父代わりのレッドマンの訪問に、トルテと呼ばれた少女は微笑んで迎え入れた。
トルテは赤子の頃に燃えた家屋から攫ってきた、今年でめでたく14歳くらいになる子だ。
彼女の名前は焦げた名札についてあった残っている部分で、読めるところをそのまま据えた結果。
三つ大島の基準で考えると、(攫ってきた日が誕生日として)後9ヶ月もすれば15歳となって、成人の儀を行うことになるという年頃であろう。
少々、年頃の娘にしては身長も低く、肉付きも華奢に見えるし、肌も健康的とは言えないくらいに白い。 だが陽も当たらない地下深くで監禁している状態で育ったことを考えると、これでも十二分に健康体のはずだ。
薄い桃色の頭髪は短く大雑把にまとめられ、些か過多に思える装飾品を肩から、腰から、そしてふとももに張り付けている。
ブローチやペンダント、ネックレスに指輪、ポーチにハンマーにレシピ帖・メモ帳・コンパスとロープと水筒と鈴に試験管。懐からちらりと見える懐中時計。
装飾品や小物類の全てはレッドマンが誕生日(攫ってきた日)を迎えるごとにトルテへとプレゼントしたものである。
見た目で他に特徴的なところと言えば、目元の下にある黒子だろうか。
父からの誕生日プレゼントは、監禁された部屋で錬金術に明け暮れるトルテにとっても大切な物のようで、その全てを装飾品として身につける習慣ができてしまったようなのだ。
はっきり言って見た目がうるさい、とレッドマンは思う。
とはいえ奇抜なファッション感覚であっても、持って産まれた容姿は非常に整っていたせいで、見目はとても可愛らしい少女と言えよう。
まじまじと眺めてから、レッドマンはトルテに確認する様に尋ねた。
「トルテよ、錬金術の調子はどうだ」
「爆弾は、いっぱいできたよ。 おとーさん、今度はどこを破壊するの? 牧場? 時計塔? 何処でも私の爆弾で破壊できるよ、うふふふ」
「……ふ、ふむ、順調のようで何より。それより、遂にお前が外に出るときが来たのだ……。 その、なんだ。 世界征服をするべき時が来た、そういうことだ」
「え? 世界征服を……?」
驚いたように身を引くトルテ。 その様子を見て、レッドマンは確信するに至った。
レッドマンが望む錬金術を強制して覚えさせた、少女トルテの役割。
大事なのはリオリール・フェルエクスという少女だ。
彼女を支え協力し、或いは同じ錬金術士として立ちはだかり、トルテは主人公であるリオリールの成長を促す……そうなれば最高の結果だ。
そして最終的には巨悪の根源・レッドマン自身をクソ悪魔イービルズブックと共に屠ってくれること。
相手を破壊する事に特化し、打撃力や爆発力などを中心に爆弾の錬金術ばかり勉強をさせていたのは、自らを滅ぼす攻撃を産み出させる目論見である。
想定以上に攫ってきたトルテには懐かれてしまった気がするし、思想がちょっぴり過激な方向に育ってしまったが、それは些細な問題だ。
予言書が絶対である保証は無い以上、保険をかけるのは必要だろう。
彼女が根本的に性根が優しい少女なのは、育ててきたレッドマンが一番分かっている。
育ての親としては複雑ではあるが、いっそのこと三つ大島で恋人か何かを見つけてもらって、愛のパワーみたいなので自らが滅び去るのも一興であろう。
もちろん、主人公とされるリオリールが自発的にレッドマンを殺しにきてくれれば、トルテには自らの人生を好きに謳歌してもらっても良い。
自分が死ねれば何でも良いのだ。
トルテが錬金術を捨てても、死ぬことが出来るなら好きに生きてくれて構わない。
育ての親の気持ちとしては、むしろ自由になって貰いたいくらいである。
期待に満ちた声でトルテへと語りかける。
「いずれ人々はこの世に私という巨悪が存在することを知り、殺しに来るだろう。その時、お前がどうするべきか──いや、お前はもう自由の身となるのだ」
一拍置いて、レッドマンは少女と目を合わせて笑った。
口元がグニグニと動くが、それで笑顔が作れているのかは分からない。
「トルテ、お前は外に出て三つ大島で、お前の好きなように過ごせ」
「おとーさん……はい、分かりました。 遂に、この日が来たんですね」
「ふふふ……そうだ。 暫くしたらこの場所から出ていけ。 必要な荷物を纏めて、15歳に成ったら成人の儀を執り行えば良いだろう」
レッドマンの想定通りの成長を見せているとはいえ、トルテは今はまだ成人すらしていない未熟な少女。
錬金術士として見れば、まだまだトルテには成長が欠かせないだろう。
レッドマンに詳しい事は分からないが、少なくともトルテの爆弾では死ぬことはできない。
予言書に書かれている『N/A』『メテオール』などの強力な攻撃アイテム(らしい物)に『究極の破壊力』などの特性を山盛りにしてくれなければ困るのだ。 そしてレッドマンは死ぬのだ。
正直、錬金術士の作り出す攻撃系アイテムが自分に効かなかったらもう詰みである。
主人公のリオリールの事もそうだが、もし殺しに来てくれるなら、トルテ自身の成長にもレッドマンは期待している。
「分かりました、おとーさん。 頑張ってみます」
「うむ! 殺してくれる事を期待しているぞ、トルテ!」
「はい!」
力強い娘の返答に安堵し、会話を終えてトルテが作ったばかりの爆弾を回収し、両手一杯に抱えて踵を返す。
部屋を出たレッドマンは即座に玉座の間に移動した。
宣言したとおり、主人公やトルテが自分を殺しに来る環境をこれから作らねばならない。
三つ大島。
グラナート大陸。
そしてフィンデラーント王国で暴れ回る日が来たのである。
「来い、イービルズブック!」
一喝し叫べば、契約者の呼び声に応えて何処からとも無く空間に亀裂が走り、かつて契約を交わした忌々しい笑い声がレッドマンの耳朶を打った
『──―ケケケケケッ! なんだぁ? 急にやる気になったのかぁ?! どういう風の吹き回しだぁ?』
「もともと、世界征服計画の準備はずっと進めてただろう。 いよいよその時が来たってだけの話だ、クソ悪魔」
『ハァーン? まぁそういう事にしてやらぁ。 それで、具体的にまずは何を始めるんだヨ?』
問われてレッドマンは数瞬、黙した。
いくつか案はあったが、とりあえず手近な自分の弱点から消してしまうことにする。
震えそうになる手を叱咤して、魔本を掴み取りページを開いて口を開いた。
「そうだな……まず最初に、三つ大島からロイヤルクラウン(キノコ)を根こそぎ奪ってやろう。ククククク、人間どもの悲鳴が今から聞こえるようだぜ。主要な食卓に並ぶ食材のひとつが、イキナリ根こそぎ消えちまうんだからな……」
『キノコ? レッドマンの嫌いな食べ物じゃねぇか?』
「イービルズブック。この作戦の本質はロイヤルクラウンというキノコに酷似した悪魔のキノコを増やすことだ。悪魔のキノコの効果はそうだな……」
やや悩みながら、レッドマンは真実を入れ替えるべく、手を動かした。
魔本イービルズブックを開いて、モコモコした体毛が生え揃う指の先っぽを歯で少し切ると、指から滴り落ちる血で文字を書き連ねていく。
ロイヤルクラウンに姿形が酷似した菌類。
安直にイビルズキノコと名付けた物の設定を黙々と書き込んだ。
こうすることで魔本は書き込まれた内容を現実世界に反映させ『魔力』を媒介とし事象を操るのである。
血で認めた内容を一度推敲し、レッドマンは本を閉じる。
「まぁ、とりあえずはこんなところか。この恐ろしさが分かるか」
『なるほどぉ? まずは精神攻撃ってところかあ?』
「三つ大島の主要輸出品のコイツが消えるってことは経済的な打撃も凄まじいハズだ。そして何より一番イカスのは俺の嫌いな食材(キノコ)がクタバルってことだ! 世界征服の足がかりになるこの三つ大島を完全に支配するための一手。 まずはコレで、この島の人間どもの気力と金を根こそぎ奪ってやるという寸法さ」
『クックック! やる気になってくれて嬉しいぜぇ~力を貸してやるよ、レッドマンよぉ~』
「とっとと力を解放しろ。悪事が糧なんだろう? さぁ、(俺達が)滅亡する世界征服の始まりだっ!!」
数日後、悪魔の魔本の力が浸透した。
三つ大島からロイヤルクラウンは消え去り、イビルズキノコがにょきにょきと大量に生え揃ったのである。
悪魔の力で事象が書き換えられ、三つ大島の自然が歪んでしまったのであった.
ほぼ同時期。
悪魔レッドマンに育てられ、悪魔の住処から飛び出した錬金少女が、三つ大島へと上陸していた。
彼女が辿り着いたのは 『みつ島』
リオリールが住んでいるという場所に最も近いところだ。
上陸地点だけはレッドマンの言いつけに従ったからである。
そんな彼女だったが、レッドマンの期待とは裏腹にトルテの認識はズレまくっていた。
「おとーさんの夢……遂に世界征服が始まるんだね。おとーさんの為に、私も頑張らないと!」
トルテは薄桃の髪を両手で掻きあげて、潮の匂いを目一杯に肺へ吸い込みながら意気を上げた。
生まれて初めて見る太陽がまぶしい。目を細めて空を見上げる。
じゃらじゃらと過多な装飾品が、動きに合わせて耳障りな音を奏でていた。
生まれてから初めての外。
この年になって初めての独り立ち。
トルテは今まで、世界征服計画による破壊工作には実力が足らずに、外の世界へ出される事は決してレッドマンに許されなかった。
こうして独り立ちが許され、外での活動が可能になったのは自分の錬金術の実力が一つの形になったと、一人前だとしてレッドマンが認めてくれたからだろう。
正式に認められるには、まず成人の儀を終えることが、目標の一つとなるようだ。
レッドマンの居城から持ち出した数少ない私物から、トルテはシンボルを手に決意を固める。
父であるレッドマンは家族を失って路頭に迷ったという赤ん坊の頃、トルテに向かって錬金術を覚えるようにと保護し、アトリエを与えてくれた。
数日前、珍しくレッドマンがトルテの部屋の前に現れて尋ねられたことの答え。
つまり、トルテがすべきことは単純明快だ。
『──―殺してくれることを期待しているぞ、トルテ!』
いずれ来るレッドマンの野望・世界征服に向けて
障害となるであろう『錬金術士』どもを、トルテの爆弾で葬り去る為に!
「私の役割……うん、大丈夫。錬金術士を見つけ次第 『爆殺』 すればいいんだよね、おとーさん……よぉーし、がんばる!」
決意と共に、悪魔の錬金少女・トルテはみつ島へと降り立ったのであった。
長らく平和であったフィンデラーント王国。
その領地である三つ大島と海を挟んだ大陸を中心に鮮烈な記録として残り、後世にまで恐れられた悪魔。
悪魔怪人・レッドマン。
世界征服に乗り出した三つ大島に潜む悪魔の足跡はこうして始まったのである。
ネタバレ:ラスボスはレッドマン。