リオリールとトルテのアトリエ~三つ大島の錬金術士~ 作:ジャミゴンズ
※ 一部、図鑑風再現っぽく台本表現を用いています。
アトリエでの作業を行うに当たってある程度のサイクルが出来上がっていた。
ユウバナ村の住民たちは早朝にアトリエへと素材になりそうな物を持ち寄ってきてくれる。
アトリエが建設されてからそこに住んでいるトルテは、目を覚ますとアトリエの玄関に積み上がった素材をコンテナの中へと運搬するのが日課となった。
大抵、どんな素材が集められたか検めている間に双子の兄妹・リオリールとカスカルが連れ立ってアトリエにやってくる。
イッチはアムースコ村長の家を任せられてるので、家の周りの掃除などをしてから遅れてやってくるのが常になった。
ユウバナ村の人たちが集めてくれた素材をアトリエの中に運び終える頃になるとイッチも合流して、そこで全員で朝食をとる時間に丁度なっている。
リオリールとカスカルが母が作った料理を持ち寄ることもあれば、イッチがアトリエ内の厨房で作る事もある。
食べ終わったら住民依頼のリオリールとトルテは調合に取り掛かり、その間にイッチとカスカルが依頼を達成するのに不足分の素材と解毒薬に必要な材料を集めに行く。
昼食を終えたら休息の時間だ。
放っておくとリオリールもトルテも無限に釜の前でぐるぐるしているので、カスカルが見兼ねて休み時間を作ったのである。
陽が暮れるころになるとアトリエ内の暖炉に火が点いて、蝋燭が点てられて解毒薬の調合へと移る。
一定量の解毒薬が完成したらトルテは二階の自分の部屋に、リオリールたちは自宅へ(時にアトリエに素泊まりし)と戻っていく。
そんな日々が始まったのである。
「ぐ、ぐるぐる~~~ーーーーっ!」
ヤケクソ気味に放たれた大声に応えるかのように、反応が大きく跳ね上がり、僅かに発光して間抜けた音と共に収束する。
鉄鍋の底からずるずると引き出された物を一度見てから、トルテは作業机の方へと振り返った。
カスカルが大きく頷き、イッチがそっと親指を立てる。
「っ、や、やった! あ、いや、このくらいは、まぁ……できるし」
・―――――――――――――――――――――――●
●貨車の大幌 作成者:トルテ
レシピ:アイヒェ・なめし皮・手織り布・(金属)
● 効果 ● 特性
・実用性に長ける ・量産品
・ふわふわ
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7回目の失敗と一度の爆発を経て、リオリールは完全に感覚を掴んだ。
突き入れたオールの先端が、液体を掻き分ける振動を指先に伝え、柄を持っているリオリールの腕から余分な力が抜けて行く。
ぐるりと一つ回して鉄鍋から気が抜ける音が少量の噴煙と共に沸き起こる。
さっと抜いたかき混ぜ棒を持ち上げ、リオリールはトルテへと手を高く伸ばしてタッチする。
「やったね! 成功ぉーう!」
この道具は未だ散らかっている場所が多いユウバナ村の運搬の助けになることだろう。
兄に使用感を試してもらってお墨付きを得たリオリールは、早速いくつか手持ちの素材で作り上げたのだった。
・―――――――――――――――――――――――●
●背負いたる 作成:リオリール
レシピ:たる・なめし皮・手織り布・(金属)
● 効果 ● 特性
・かるい ・貫通力++
・たくさん入る
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数多くある錬金術を用いた道具。
その道具において多分に汎用性を持つアイテムというのは広く知られるものだ。
大陸では大衆に一般化されているアイテムというものは、錬金術士ではない者にも人気のある商品として存在する。
そうした物の殆どは、誰にとっても便利で扱いやすい調合品なのである。
簡単に言うと、とっても人気。
つまり、錬金術を知らない三つ大島でも一度使い勝手を知ったら暮らしの中で手放せない物になる可能性が高い。
「うん。 良い出来……よしっ」
アイテムの使用者の意思に従い、思い通りに動き出す。
魔法と言っても信じてしまいそうなこのアイテムの神髄は、梱包や荷づくりに真価を発揮する。
時間の経過と共に『活き』が失われて行って普通のナワになってしまうが、逆にその性質が便利に利用されてもいるのである。
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●生きてるナワ 作成:トルテ
レシピ:トーン・セイタカトーン・ぷにぷに玉
● 効果 ● 特性
・生きている ・量産品
・活きが良い ・出来が良い
・素早さダウン・大 ・特性で強化
・生命力奪取
カスカル「生きてるナワって割には一見、ただのロープだよな」
トルテ「色んな参考書で取り上げられてる、大陸では有名な錬金アイテムだって」
カスカル「ふーん? そんなに凄いのか、それ」
トルテ「うん、じゃあ試してみる?」
カスカル「うわっ、おいマテ、俺で試すことは無いだろ! わわっ、ヤメロォッ!」
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「トルテちゃん、鼻歌してるね~機嫌が良さそう」
「上手くいったんでしょうね。 リオさんの方はどうですか?」
「うん、こっちもバッチシおっけー! あはは、初めてちゃんと自分でレシピを作ってみたんだけど、上手くできたかも~」
リオリールの差し出したそれは一見するとただの床材のような木板であった。
イッチは不思議そうに調合アイテムを観察するが、特に妙な部分は見当たらない。
『リオリールのアトリエ』に登場するすべてのアイテムを作成した経験がイッチにはあるが、記憶には存在しないアイテムだった。
「これは何に使うんですか?」
「え、気になる? 気になっちゃう? へへへ~えっとね、あ、そうだ。 お兄ちゃんお兄ちゃ……えぇ……」
作業を終えたばかりのトルテと談笑していたはずのカスカルは、何故か両手を頭の後ろに組んで『生きてるナワ』に巻き付かれていた。
イッチは不思議そうに首を傾げ尋ねた。
「何やってるんですか?」
「カスカルがただのナワなんか作って何したいんだっていうから、実演してみたの。 便利だよ」
「なるほど、大陸では一般的ですが、こちらでは見慣れない物ですからね」
「え、すごいすごいっ! 使った人の思い通りに動くナワなんて画期的だよ!」
「そうですね、大陸では荷物の梱包、道具などの固定、あとは物捕りなど、幅広く用いられていますね」
「はぁ~、便利だねぇ……勝手にやってくれる……そういうの私も何か作れるかなぁ? うーん?」
「おまえらっ、談笑してないで早くほどけ! なんか力が抜けてくんだが!」
「錬金術すごいでしょ?」
「わかったわかった! 俺が悪かったって!」
何故かドヤ顔のトルテの命令に従ってナワが自発的に解かれて、自らくるくると動き出して収納されていく。
大きく肩を落として安堵するカスカルは、酷い目にあったと愚痴をこぼす。
実際、カスカルはどんな風に使うのかを聞いただけで効果を疑った訳ではないのだ。
乱れた服を直しながら立ち上がると、今度は妹から謎の板を差し出される。
目の前に用途不明の道具が現れた。
「ねぇお兄ちゃん、私もこれ作ってみたんだけど、試しにこの合板に乗ってみてくれない?」
「途轍もな~~~く、嫌なんだが……ちなみにこれはどういう道具なんだ?」
「えっと、多分だけどびよぉ~~んってなると思うんだ!」
「びよぉぉん? くそっ、嫌な予感しかしねぇ!」
「大丈夫だよ! 自信作だよ!」
「リオがそう言ってるから、不安なんだよっ!」
リオリールが口頭での説明と共に、膝を一度曲げてから、自分の体をぐーっと伸ばしてバンザイする様子に双子の兄は何かを察し、カスカルは顔を引きつらせた。
兄として長年、妹の面倒を見て来たからこそわかる。 この道具はきっと危険な物だ。
こうして効果を試しているのは、実際に妹たちの錬金術で作られた道具が安全に使用できるものかどうか確認している為でもある。
リオリールとトルテの提案からユウバナ村を挙げてアトリエを建設してもらい、復興に取り組む一つの事業として錬金術を盛り立てた。
そうして作り上げた、ユウバナ村にとって必要な道具やアイテムが危険な物となったら村長や村の皆に向ける顔がないのだ。
そうした事情はあるのだが、未知の道具を使うのは案外と恐怖をカスカルに抱かせるものだった。
謎の板を目の前に躊躇いを見せるカスカルに、そっとイッチが声をかける。
「では、ボクが試しましょうか? 道具の実験台は嫌ですよね?」
「あ~……いや、俺がやるよ。 イッチさんに怪我させたら、村長に何か言われそうだしな……」
申し出を断り、嫌な予感しかしないカスカルは、わざわざアトリエの外に出て一度深呼吸。
覚悟を決めて謎の合板の上に載った。
瞬間、ばねの着いた土台のグラビ石が作用し凄い勢いでカスカルをびよぉぉぉぉぉんっと押しあげて、アトリエの煙突を越えて空中へと放り投げた。
ユウバナ村が見える。
カスカルも住んでいる、小さいけど活気ある気風の良い漁村だ。
青い空と白い雲、陽光差し込む海に浮かぶユウバナの岩がキラキラと光っている。
空を飛翔する黒い鳥が クサ"! くさ"! と妙な鳴き声を上げながらカスカルの周囲を回遊していた。
村長の家と並んで自分の家が一望でき、母であるユトネが大きくなってきたお腹を末の妹であるミルミスの耳に当てていた。
カスカルは長閑なユウバナ村と家族の穏やかな触れ合いの景色をたっぷりと堪能し、地面へと向かって落ち始めた頃に腹の底から思いっきり叫んだ。
「リオぉぉぉぉっ! 失敗作! やり直しだっ! ばっかやろぉーーーーー!!!」
「お、お兄ちゃぁぁぁーーーーん! ごめんなさぁぁぁぁああいっ!!!」
着地はイッチに助けられて無事に怪我無く地面に返ってくることができた。
なお、その光景からトルテが錬金術士を殺害する方法の一つに『びよよぉん』が加えられる事になった。
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●びよよぉん合板 作成:リオリール
凄い勢いで跳ね上がる合板。
人間一人を乗せると高さ20mを越えてカチアゲてしまう。
重量のあるものを動かすにはちょうど良い
ユウバナ村では船の底のメンテナンスや大きな丸太の束の押し上げなどに利用されるようになった。
レシピ:アルゲマイン合板・ガラクタばね・グラビ石
● 効果 ● 特性
・すごくのびる ・貫通力+
・たくさん入る
・びよぉぉぉん
トルテ「リオは人を殺害する道具を作る才能があると思う」
リオリール「真顔で何てこと言い出すのトルテちゃーん!?」
トルテ「え? とても良い道具だと思ったけど」
リオリール「もぉー! 違うんだよぉ……もっとこー……びょぉおおおんってゆっくり上がってくと思ったんだよぉー!」
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トルテにとって調合は暮らしの中心にある。
慣れない調合の合間に気分転換に行うものは、爆弾の調合なのだ。
だからカスカルからの言いつけを破って、休憩の時間である昼下がりに釜を煮立てて調合を行うことがままある。
休憩に爆弾を作る。
これこそがトルテにとっての休息であり、おとーさんの野望の為の修行なのだ。
だが、やはりトルテも人間。
如何に人生の大半を錬金術に費やして暮らしの一部と言っても、休まなければまともな思考ができなくなる事だって普通にある。
だから、疲れた頭で考案した謎のレシピに従って試行した錬金術が何故か一発で調合に成功し、作り上げてしまったこのアイテムはトルテにとっても説明できないほど意味不明な物になってしまったのだ。
とはいえ理由はある。
リオリールの発想力はトルテにとっても刺激的で、錬金術はレシピに在るものが全てでないことに気付けたからだ。
独創性は未知であり、錬金術士の道でもあると直感が働いたからなのだ。
「―――だから、私は悪くない」
「いや、悪いとか悪くないとかじゃなくてだな……」
「とりあえず効果を試したいかな……カスカル、お願い」
「なんて絶妙に手で持ちたくないデザインなんだ……」
見た目は70cmほどのブリ(魚)に赤と黄色の石のような物がヒレの部分に着いていて、投擲用の棒が尻尾に刺さっているものだ。
仕方なくトルテに使用方法を聞いて外に出たカスカル。
目標を定め棒の部分を持って振り下ろす。
すると、なんとブリの口の方から小さなブリが飛び出した。
樹木へと放たれ、飛び出した小さな15cmほどのブリは10尾ほど一気に放出され、刺さったりぶつかったり、小規模な爆発を起こして高速回転したりして目標の木々を痛めつけた。
小さいブリは冷凍されてないのにかなりの硬度を誇っている。
ちなみに一度小さなブリを放出すると、何度振りかぶっても二度と小さなブリは出てこなくなったので、使い切り用のようだ。
今後、この棒のついたブリはただの鈍器である。
カスカルは使用した後、少しだけ今しがた起こった光景を心の中で整理して。
そして手に持っている大きなブリを地面に叩きつけて叫んだ。
「何に使うんだよ! こんなものっっ!!」
「むぅ、カスカル……武器として使う?」
「はぁ!?」
「うーん、私が使うには、ちょっと重いし、調整しないとサイズがでかいから……」
「違うだろ、そこじゃないだろ、問題はっ!」
当たり前だが、大きなブリも小さなブリも硬すぎて食用としては使えなかった。
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●とつげきうお(ブリ) 作成:トルテ
レシピ:(魚)・フロジストン・カーエン石・アイヒェ
● 効果 ● 特性
・ブリが飛び出す ・破壊力増加
・ブリが刺さる ・使い切り強化
・打撃ダメージ・小 ・ソニックスロー
・爆発・小
・かたい
トルテ「これは……うーん……カテゴリ別けに悩むね……」
カスカル「悩むところはそこじゃないだろ。 使い終わった後どうするんだ、これ? 硬すぎて壊す事もできないし……」
リオリール「えっとねーそうだなぁー……あっ、アトリエの二階のテラスに並べてみる? ユウバナ村には合ってるかもだよ?」
トルテ「じゃあ、カテゴリはオブジェだね」
リオリール「色んな魚で作ったら、ユウバナ村で獲れる魚の見本市みたいになるかも? おおー、他所から来た人へアトリエの宣伝とかにもなりそうだし結構良いんじゃない、お兄ちゃん!」
カスカル「な、なるほど……それは良い……いや、まぁ悪くないかもしれないな……」
●―――――――――――――――――――――――・
「トルテちゃ~ん、あれ~?」
「リオリールさん、おかえりなさい」
「あ、イッチさん、トルテちゃん出かけてる? あっ」
「あいつ……ったく」
休憩時間と夕食を終えてアトリエへと戻ってきたリオリールとカスカルは、イッチにそっと一本指を立てられて言葉を引っ込めた。
備え付けられたソファーに寄りかかりながら規則正しい呼吸をして目を瞑っているトルテが居たからだ。
鉄鍋から煮立つ音がしているので、また休みの時間に調合を行っていたのだ。
ソファーに立て掛けられている 『とつげきうお(アジ)』の存在がそれを高らかに主張していた。
カスカルだけは一瞬、あの錬金アイテムの口から飛び出してくるのがアジ(小)なのか、それともやはりブリ(小)なのか気になったが無理やり思考を追い出す。
机にはゼッテル紙とインクセットが置かれており、何かしらを考えて書いている途中に眠ってしまったようだ。
リオリールは起こさないように慎重に近づいてゼッテル紙を覗き込む。
「依頼のあった調合品のレシピ……わ、こっちは勉強用で纏められてる……」
「休憩しろって言ってるのに、ずっと働いてたら身が持たないだろ」
「私だけじゃなくて、お兄ちゃんやイッチさんにも採取してくる素材の事教えてるもんね」
素材の採取に出かける前の数十分ほど、二人に講義を行ってどういう素材が良い物か、効率的な採取のやり方はどうか、とトルテは行っている。
品質を保つのに重要な点の一つとして、素材の良し悪しも関わってくるのでトルテにとっては欠かせないやり取りであった。
当然、ユウバナ村の住民たちに錬金術を認めてもらう為にも必要な事である。
自分が使うアトリエを村の人たちに用意して貰って使わせて頂いているのだ、リオリールも同様にその思いはある。
荷物を下ろして腕をまくり、リオリールは錬金釜へとオールを引っ掴んで近寄った。
「……今日は私、トルテちゃんの分も解毒薬の調合するよ。 お兄ちゃん、準備手伝ってくれる?」
「そうだな……ま、そのうちトルテも起きてくるだろうけど」
「あはは、結局そのまま調合始めちゃいそうだよねー」
「だろうな……ま、やり過ぎないように気を付けて見てやるか」
「では、私はトルテさんが起きた時の為に夕食の準備を始めてしまいますね」
イッチは調理場へ移動すると昼の洗い物をささっとこなして、ゴミと産業廃棄物を片付けに勝手口を開けて外へと出る。
ゴミ置き場に捨てて顔を上げれば、夕陽の花が開き、夜の帳が落ちてくる空を一つ眺めて、アトリエ外の木柵に羽を休めている黒鳥へとイッチは視線を向けた。
アトリエの建設が終わってしばらく。
急に現れた、カラスのような見た目の鳥は昼は悠々と空を翔けているが、ユウバナ村の範囲内から外に出ることは無かった。
ほとんどの人はこの黒い鳥がユウバナ村に住み着いた事に気が付いていたが、誰もが特に気にする様子はない。
まぁ、この世界にはアードラーのようにモンスターも徘徊しているから、攻撃性の無い鳥類にはあまり意識が行かないのだろう。
イッチも最初は、この世界にもカラスみたいのが居るのかと思っただけで余り考える事も無かったのだが。
「アトリエの周囲だけを、まるで観察しているようにしてるなんてね」
行動範囲は本当に狭く、街中にある建物や空を飛んでいる時もアトリエから離れる事がないのだ。
試しにイッチは黒い鳥に近づいてみた。
本当に野生であるのならば、人が近づけば飛んで逃げて行くはずである。
それは鳥類の本能のような物であり、アードラーなどの攻撃性の高い生物ですら基本的には人が近づけば逃げて行く。
例外は巣が近くにある時や、傷付けられて闘争心を呼び起こしたり、子供を抱えた母など、敵対に理由する場合がある時だけだ。
ゆっくりではあるが、まったく動かない黒鳥の目の前まで難なく近づく。
手を伸ばして、その羽毛を撫でる。
「……ボクが本当の人間ではないから、逃げないの? 君は」
「エ"ッ! カワ"ッ!」
「え、君どういう鳴き声してんのさ……」
あまりに無理やり捻りだしてるような鳴き声にたじろいだ物の、イッチは予測が当たっていた事を確信した。
それはこの黒鳥に触って初めて気づいた。
何度か撫でていた羽を引っ張ってみたが、抜けることは無く硬質であった。
目はまるで何かの宝石を埋め込まれたかのように均質で、構造的に明らかに生物の瞳の役割をしていないことが分かる。
精巧に作られた偽の身体だ。
接近して直接触ってみたり、じっくりと観察しなければ根本的に鳥でないという事に気が付かない。
「君は仲間か。 ボクの」
確信はこれだ。 役割は監視に近いものだろう。
それが主人公のリオリールなのか、イレギュラーのトルテなのか……いや、異物であるという意味では同じ存在のイッチなのか。
それは分からないが。
レッドマンには常に監視され、行動を見られていると思った方が良いのだろう。
最後に通信をしたのは三日も前。
レッドマンは大陸の方へとイービルズブックと共に向かうとの事だった。
何をしに行くのかは語らなかったが、悪魔が出向いた先なのだ。
きっとロクでもない用事だ。
正直なところイッチは、レッドマンが何をしたいのか全く分からない。
ゲームの中でも唐突に現れた裏ボスだから、背景も知らない。
怪人一号だけではなく、このような鳥まで用意してるのだからリオリールに関して多大な興味を抱いている事と、トルテの事を気にしている事は分かっているのだが。
「まさか君にも、人の魂が入ってるって事はないよね?」
「クワ"ァ!」
「……そろそろ戻るよ。 お互い仕事を頑張ろうね」
「ァザッ!」
そう言ったからではないだろうが、夜の黒に混じる様に羽ばたかせて空に溶けて行く。
飛び立った黒鳥を見送って、イッチはアトリエの中へと戻った。