リオリールとトルテのアトリエ~三つ大島の錬金術士~   作:ジャミゴンズ

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13. 錬金術士の私 リオリール

 

 

 寝静まったユウバナ村の空に、ゆらゆらと揺れる少女が居た。

錬金術士と縁を結ぶことは何度か経験している。

 

それも随分と思い出せないくらいには過去の話だが、しかし。

しっかりと技術と知恵が継承されて生まれたアカデミーが発足してから。

まさか、こうしてまた駆け出しの錬金術士と、その成長を見守る事になるとは思わなかった。

 

『世の中って不思議ねぇ~』

 

 パメラがミルミスに憑りついて、彼女を悪意ある怨霊たちから護る様になって、もう2,3年くらいは立つだろうか。

フィンデラーント王国は対モンスターの間引きもしっかり行っているので、グラナート大陸に居を構えていると忘れがちだが、錬金術の発達していない場所では、幽霊たちの活動は活発になりやすい。

人の手によってモンスターとして清められたり、浄化したりという事を行っていないのだから、それは当然の事だった。

 

 

 三つ大島も例外ではない。

どういう訳か、中央党には幽霊はおろか生物でさえも、全く寄り付かない原因が居るみたいだが。

パメラが島を見回ったところ 『ひと島』『ふた島』『みつ島』 の全て幽霊もわんさか存在していた。

 

 そこに、霊体を強烈に惹きつける存在。

ミルミス・フェルエクスは肉体を持たない幽霊たちにとって、あまりに眩しい。

幽霊の視点から見るとミルミスはまだ幼子であり、言ってしまえば隙だらけ。 

 

 憑りつき安さが半端では無かった。

流石にお友達となった彼女が、他の幽霊に憑りつかれるのは気分の良い物ではない。

 

なので、しばらくは彼女が自衛できるくらいになるまで、パメラはミルミスの傍に居てあげようと思ったのだが。

 

『たまには幽霊らしく、と思いついて姿を隠していたけれど、かえってリオちゃん達には大変な思いをさせちゃいそうだわ~』

 

 それはパメラにとっては気紛れの一つに過ぎない。

 

長い幽霊人生を生きている(?)中、たまたま選んだのがユウバナ村で姿を見せずにミルミスの隣に寄り添っていたというだけの話だ。

そんな友人の姉が錬金術士を目指していたのなんて、まったくの偶然であった。

 

 

失敗だったかしら、と首を傾げながら空に揺蕩う、雲をベッドにして寝転がる。

ドレスがふわりと浮かび上がって、月光を傘で遮りながら。

 

 パメラは幽霊として格式が高いらしく、それは本人も自覚していた。

 

まずハッキリとした意思があり、どこか別の世界の『パメラ・イービス』すらも薄らと認識できる。

 

鮮明な記憶こそ持たないが、ざっくりとした概要は世界を隔てて観測できてしまうくらいに。

 

どうしてそうなったのか、何故そういう能力が備わっているのかはパメラ本人も分かっていないし、ぶっちゃけ気にしても居ない。

 

ただ、一つハッキリとしているのは、パメラは自分の意思で生者に姿を見せることが可能なのである。

 

 リオリールが悩んでいるような幽霊の姿が見えるようになる道具など、必要なんて無かったのだ。

 

『う~~~~ん』

 

 いっそ今から姿を現してあげようか。

しかし、お友達となったミルミスが頑張って勇気を出したこと。

今まで自由に姿を現せたのに、黙っていた事に怒られてしまうかもしれない、と思うと少し気が引けた。 

それは100%パメラの都合ではあったが。

 

それに、錬金術士として幽霊が見えるアイテムを作る、という言葉をリオリールは意気こんで宣言していた。

そのやる気を削ぐのもパメラとしては躊躇われる事だった。

 

『そうねぇ。時間はあるし、ゆっくり待とうかしらね。 ふふ、リオちゃん、頑張ってね~ちゃんと会える時を楽しみにしているわ~』

 

 アトリエの空の上で、暢気な幽霊が無責任な事を言いながら、くるくると傘を回していた。

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、探したぞ。 アトリエに居ないから何かと思ったら、こんなとこに居たのか、リオ」

 

 兄であるカスカルの声に、リオリールは驚いて顔を上げて振り向いた。

背中に籠を背負って、銛を持っていて、まるで何処かに素材の採取にでも出かけるような装いだった。

 

「お、お兄ちゃん……」

 

 カスカルがアトリエに出向くと、リオリールとトルテの姿が珍しく無かった。

どちらか一人が居ない、と言う事は今までにもあったが、二人とも不在なのは本当に珍しい事である。

仕方なく、カスカルはユウバナ村の中の心当たりを探し回ったが、見つかったのは夕陽の華が咲く、ユウバナ村を一望できる丘の上だった。

今日は快晴で、雲も殆ど無い日である。

ユウバナ村がしっかりと眺望できる、良い景色が広がっていた。

 

 双子の妹の振り向いた顔を見て、少しばかり驚く。

基本的に能天気な妹が、暗い顔を見せることは少ない。何か悩みがあることは、その顔を見ればすぐに理解できた。

 

「……それにしても、リオと二人でこの丘の上に来るのは久しぶりだな」

「え? あ、うん……そうかも」

「なぁ、覚えてるか。村を焼いた日の事」

「うぅその字面のパワーは何度聞いても……忘れる訳ないじゃん……お兄ちゃんのイジワル」

「はは。悪い。 でもさ、リオと一緒にここに来ると思い出すよ」

 

 リオリールの座っているベンチまで歩いてきて、カスカルは隣にごく自然に座り込んだ。

何時かの災厄。それはリオリールが錬金術の失敗から引き起こされた、ユウバナ村の炎上事件のことだ。

家屋がほとんど木材だったのが、良くなかったのだろう。

ユウバナ村の人達がどれだけ頑張っても、どんどんと建物に類焼していってしまって、子供のリオリールとカスカルだけではどうにもならなくなってしまった、あの事件。

 

「珍しくお兄ちゃんと喧嘩して、私一人で調合してたら……はぁぁ……」

「俺がちゃんとついてれば、止めれたかも知れないもんな……はぁぁ……」

 

 二人して当時の事を思い出してしまい、殆ど同時に大きなため息を吐いてしまう。

こうして息が揃ってしまうと、お互いに双子であることを実感してしまいそうになる。

 

あの時は二人して、この丘の上で途方に暮れた物だった。

リオリールは錬金術士を目指す事をそこで一度止めようとしたし、カスカルは自責の念で押しつぶされていた。

二人して村に仕出かした罪を償って死んでしまおうと、この丘で泣きながらに話し合ったものである。

ウータスが迎えに来るまで、双子揃って散々に泣きはらしたものだ。

 

子供の頃とはいえ、恥ずかしさと後悔しか残らない苦い思い出だった。

 

「なぁ、リオ。何か悩んでるみたいだけど、俺にも話せない事か?」

「う、ううん。別に話せるんだけど、お兄ちゃんにばかり頼っていられないっていうか、何ていうか……その、私も大人になるんだし……」

「ああ……そうだな。そういや、俺が言ったよな。自分で考える事、自分で答えを出す事。それってやっぱり大事な事だよな」

 

 そう言ったカスカル、でも、と区切って続けた。

 

「でもさ、リオが困っていたら助けたいって思うぞ。リオは、俺の大事な妹だから」

「お兄ちゃん……でも、良いのかなぁ?」

「もちろん。俺はリオリールのお兄ちゃんなんだ。それにさ……はは、まだ俺達、大人じゃないしな」

「ふふ、何それ。何かそれってずっこくない?」

「ずっこくない。成人の儀が終わるまで、俺達は子供だろ」

 

 促されて、悩んでいるのに笑ってしまって、リオリールはどうしようもないほど、兄を頼っている事を自覚してしまう。

甘えてばかりいられない、と思っても手を差し伸べられたら振りほどくのは難しかった。

 

 とつとつと、リオリールは自分の悩んでいることを打ち明けた。

本心はきっと、シーバーシーの提案を受けてみたいのだ。ずっと憧れていた錬金術士という存在に成れると思うと、心が騒めく。

今でこそ、トルテのおかげで少しは作れる物も増えて、錬金理論もちょっとだけ理解をしているけれど。

 

家族を助ける為にも、そして勿論、ユウバナ村を助ける為にも、リオリールは錬金術をもっともっともっと、もっと学んでいきたいと言う欲求が膨らんでしまっている。

 

「シーバーシーさんは、ああ言ってくれたけど……やっぱりユウバナ村に居ないと出来ない事も多いと思うの」

「ま、それは確かに。アトリエがあるからこそできる依頼や、単純に調合アイテムを輸送するにもタイムラグは絶対あるし、その時に必要な道具がすぐに手元にないっていうのは、キツイかもな」

「そうだよね……」

「うーん、錬金術で道具を一気に移動させるような物があれば解決するんじゃないか?」

「えぇ!? そんなものどうやって作るのか見当もつかないよぉ」

「まぁ無理だよな……そんな物あるわけないか」

「うーん……あのね、でもね。今の話もそうだけど、ミルミスの依頼を達成するには、私には錬金術の腕前が足りない物が多すぎるから、うぅ……なんか、こうやってずっと考えてもグルグルと纏まらなくて分からないんだ」

 

 ミルミスの話は、カスカルも聞き及んだ。

 

 昨日の夕食、アトリエに居るリオリールを除いて、ミルミスが家族に話をしてくれたのだ。

幽霊が見える事。

家族と髪の色や瞳の色が違うことがコンプレックスだったこと。

そして、カスカル達が送った熊の人形に、幽霊の少女が憑りついてくれていて。

知らず悪霊やモンスターのゴースト達からミルミスを護ってくれていた事。

 

 母が見えない幽霊に向かって、頭を下げていたのが印象的だった。

 

 

「パメラさんだっけか。 まったく、ミルミスも早く言ってくれれば良かったのに」

「それはきっと、言えなかったんだよ。ミルミスはずっとずっと、悩んでいてようやく、その事を話してくれたんだと思う」

「ああ……そうだな。ミルミスが勇気を出してくれたことを、感謝するべきだよな」

 

 カスカルは一つ息を吐いた。

丘の上から見るユウバナ村は、やっぱり少しばかりあの大嵐の日を境に景観が変わっていた。

疎らな住宅が並ぶ中、いきなり場違いなほど立派なアトリエが建って居て。

フェルエクス家の傍にあった納屋は綺麗さっぱり無くなっていて。

 

「そういえば、あのシーバーシーっていう大陸の人、俺のところにも来たぞ」

「え?お兄ちゃんのところに?」

「リオがアカデミー試験を成人の儀で受ける場合、望めば俺もそう変更になるよって聞いた」

「お、お兄ちゃんが!?どうして……お兄ちゃんは、錬金術なんて出来ないのに!?」

「リオがアカデミーからの話を受けた場合、俺も錬金助手としての試練を受けることが出来るってさ。 まだ決まっていないから、試練の内容までは秘密だったけど」

「そ、そうなんだ……そうなるんだね……」

 

 リオリールは何だか申し訳なさを感じると共に、兄であるカスカルが、どんな進路を考えているのか知らない事に今になって気付いてしまった。

時折、家の中やアトリエのすぐ外で、何かを考えている様子を何度か見かけたことがあるから、きっと将来の事は考えている筈だ。

思い切ってリオリールが聞いてみれば、カスカルは肩を竦めて薄く苦笑するだけ。

 

「さてなー。俺はいったい何をしたいんだか……」

「えぇー、すっごく意外だよ。お兄ちゃん、しっかりしてるから絶対に何か考えてると思ったのに」

「しっかりしてる、か……そう胸を張れたら良かったんだけど。 なぁ、リオ」

「なに?」

「お前、アカデミーに行きたいなら行けよ」

「え、でも……」

「俺はお前が、少し羨ましい。やりたい事がちゃんとあって、大陸のアカデミーから……ちゃんとした人に誘われて。こんなチャンス、きっと早々無いだろ?」

 

 それはカスカルの、リオリールのことだけを想った本心の吐露であった。

錬金術士になる。

自分のやりたい事を、それこそ子供の頃からずっと追い続けてきた妹のリオリール事を、カスカルは誰よりも身近で見ていた。

 

 爆発は毎日起こす。ユウバナ村を焼いてしまうほどの事件も稀にやらかした。

妹のせいでアトリエの掃除はいっつも手伝わされたし、面倒事は放っておいてもリオリールの方から勝手にやってきたのだ。

子供の頃、いい迷惑だとカスカルは本心から思っていた。

 

 でも、同時にリオリールはカスカルが村の子供たちと遊び歩いていた時に、ずっと錬金術士の夢を追いかけて鍋を掻きまわしていたんだ。

 

 まっすぐに、自分の夢に向かって。

 

大人になるに連れて、リオリールが頑張っている姿を見るたびに、カスカルはずっと胸の中で焦っていた。

リオリールへと突き放すように言った言葉は、多分、殆どが自分に返って来る物だった。

 

 もう大人になるんだから、ちゃんとしなきゃならないって。

 

「リオ。他の誰が、何を言ったって、俺だけはお前が子供の頃からずっとずっと、頑張っている所を知っている。アカデミーに行く事を選んでも、ユウバナ村捨てたなんて絶対に思わないぜ」

「う、うん……行っても、良いのかな」

「兄ちゃんである俺が許す! なんてな、ははは、親父の真似だ」

「ふふ、お兄ちゃん物真似が下手!」

「うぐ、や、やっぱりそうか。物真似屋みたいなのは、俺の職業には合って無さそうだな……」

 

 そう言ってカスカルは立ち上がると、両手を挙げてぐぅーっと背を伸ばした。

 

不思議とリオリールも釣られて立ち上がり、同じように会話をしていて凝り固まった筋肉を解すように、身体を伸ばした。

朝日はもう随分と立ち昇って、日陰になっていたはずなのに、今ではすっかりリオリール達を照らしている。

 

兄であるカスカルと、こうして二人きりでゆっくりと話したのは何時ぶりだろうか。

ずっと一緒に居るはずなのに、なんだかとても新鮮な感覚だった。

身体を伸ばしている兄の横顔を、リオリールは思わず見つめてしまって。

ああ、お兄ちゃんのこと私、好きだな。そう思った。

 

 その顔がくるっと振り向く。

 

「なぁリオ。もし自分一人で悩んでも分からない時は、誰かに話をして背中を押して貰おうぜ」

「うん。お兄ちゃんに話したら、スッキリした気がするよ。 大人の人だって、自分一人で悩みが解決できなかったら、人に頼ってるもんね」

「ああ、その通りだ。もうちょっと気楽でいいのかも知れないな、俺達」

「あはっ、そうだねっ! 子供だもんね」

「ああ、子供だ」

「あはは、くぅーっ! なんかずーーーーっと考えていたから、お腹すいちゃったよ! お兄ちゃん、ご飯食べに行こう!」

「朝飯でもないし、昼飯でもないし……中途半端な時間だなぁ」

 

 先に歩き出したリオリールを追う、兄の足音とボヤキを聞きながら。

 

あんなに苦しい気持ちが胸いっぱいに広がっていた筈なのに。

ユウバナ村の上に広がっている空のように、いつの間にかリオリールの心は晴れ渡っていた。

 

 

 

 

「えーーー!リオ姉ぇ、王国のアカデミーに誘われたの!? 凄い凄い! スゴイよお姉ちゃん! 首都のメーテルブルクって所でしょ!? それは行くべきだよ! 何に悩んでるのか知らないけど、お姉ちゃんは今スーパードリームを掴めるチャンスを得ているんだよ!?行くべき行くべき!ぜーったいに行くべきだってば!」

 

 ムーエン夫妻の取引に付いていったエルオネは、大人たちの判断でふた島行を目の前にして、ユウバナ村に送り返されていた。

どうもモンスターが街道を塞いでしまう事件が起きたらしく、安全を考慮して子供であるエルオネはユウバナ村に送り戻されたらしい。

 

 そんなわけで、顔を見るなり不機嫌です、といったオーラを周囲に隠すことなく撒き散らしていたエルオネであった。

 

が、リオリールのアカデミーへの招待の話を知ることになると、一転してパァーっと笑顔が広がった。

 

「お姉ちゃんがアカデミーで頑張れば、私もメーテルブルクに行くチャンスが巡って来る! お姉ちゃんがコネとか伝手とか手に入れたら私も大都会にデビューできる……ああんっ、夢が広がっちゃうなぁ~もぉー! リオ姉ぇ、ほんとに超、ちょー頑張る時が来たんだから、悩んでる暇なんて無いっ!金持ちの男を捕まえてバラ色の未来を掴むのよーーー!」

 

 勢いに押されて、リオリールはエルオネの言葉に頷いてしまう。

 

よっしゃー、待ってろ大陸の金持ちどもーーーー! メロメロにして捕まえちゃうぞー!

 

海岸のある方向に向かって気合いを入れるエルオネに、なんて野心の持ち主なのだろう、とリオリールは妹の存在に恐れを抱いた。

 

 

 

「うふふ、リオ。良かったわね。お母さんは賛成よ。 いつか、こんな時が来るんじゃないかと思っていたわ」

「う、うん、お母さん。 一杯考えたけど、やっぱりアカデミーに行きたいの」

「錬金術士として本当に大成したいなら、私もアカデミーには行くべきだと思うわ」

「お姉ちゃん、居なくなるの?寂しい……かも」

「でも、ミルミスのお友達のパメラちゃんを助ける為には、やっぱりちゃんと勉強しないとダメだと思うから……ミルミス、アカデミーに行かせてほしいな」

「うん。お姉ちゃん、がんばって」

「ありがとう、ミルミス……お母さんも、ありがとね」

「うふふ、良いのよ、リオ。 ユウバナ村のことは、心配しなくても大丈夫だからね」

 

 母のユトネは柔らかな笑みを浮かべ、その後メーテルブルクに住んでいた頃に感じたアカデミーの雰囲気などを教えてくれた。

末っ子のミルミスは熊の人形を抱えながら、リオリールに抱き着いてきて。

リオリールは困ったように笑って、ミルミスの頭を撫でた。

 

 

 

 

 

「そうか。君の人生の為に、君が選んだ道を否定はできないね。 なに、ユウバナ村の事は心配しなくてもいいさ。 でも、そうだな……子供の頃から見てきたから、居なくなってしまったら寂しくなるね」

 

 アムースコ村長はそう言って、柔らかな物腰でリオリールとの話をそう締めくくってくれた。

 

 リオリールは申し訳なさそうに頭を下げたが、すぐに村長に手を掴まれて顔を上げる。

 

「リオちゃん、君の気持ちも分かるつもりだから否定はしない。 だけど頭を下げるのは、まずは成人の儀をしっかりと終えてからにしようか?」

「うっ、そ、そうですね。 アムースコ村長……あの」

「うん」

「いつも本当にありがとうございます。 私、頑張ります」

「ああ、リオちゃん。 応援しているよ」

 

 

 

「ああっ、なんてことだ! それは話が違うよリオ君! 僕との契約はどうなるんだい? 反対するよ、反対反対反対!」

 

 徹頭徹尾、自分の利益だけを考えて発言していたオーレンジスさんはリオリールがアカデミー試験を受けるのに反対されてしまった。

そもそも了承した覚えも無かったが、オーレンジスは走り出すと止まらない人だった。

揉みくちゃにされて。

いつもの様に言葉の洪水を目一杯浴びせられ。

 

 ようやく解放されると、彼は先ほどとは別人のように彼は冷静に言った。

 

 

「どんな苦労があっても腐らないようにね、リオ君。 君の夢である立派な錬金術士になるために、僕の力が必要になったら言ってくれたまえ。 錬金術の真理を知ることは叶わないだろうが、僕の研究が君の役に立てることもあるかも知れない」

「あはは、ありがとう、オーレンジスさん。 その時はお願いします~……たはは、髪がくちゃくちゃだ」

「いやぁ、悪い悪い。 ああ、そうだ。 逆に僕の研究も手伝ってもらえれば嬉しいのだけど」

「はい、約束します、オーレンジスさん」

「うん、ならヨシ。 頑張ってね、リオちゃん」

 

 

 

 

 リオリールはその足で、ユウバナ村の皆にアカデミー試験を受けるかどうか、悩んでいることを話していった。

ロモイお婆さんも、ヘーゲ兄さんも、ヘイジさんも、イモールさんも。

 

皆が皆、最終的にはリオリールがやりたい事を目指すべきだとして送り出してくれた。

本当の胸の内は分からないけど。

きっと少し、言いたい事も呑みこんでくれたのだろうけど。

 

 

 リオリールは晴れた空を眺めながら、ゆっくりと村の中を歩いて。

 

 

 陽が沈み始めた夕方になって、リオリールはようやくアトリエに戻って来た。

錬金釜の前に、一日ずっと立たなかったのは、キエーシャ先生の学び舎へと、アサハレ村に行く時くらいだ。

 

 

 アトリエの玄関を開けると、カスカルが珍しくエプロン姿で出迎えてくれる。

 

「……? あれ、お兄ちゃん、何か作ってたの? 珍しいね」

「イッチが料理を教えてくれるっていうから、ちょっと習ってたんだ。料理人になるって訳じゃないけどな……リオ、食べてみるか?」

「わ、これ……ナニコレ、焦げてるけど……産業廃棄物みたいに真っ黒だよ!?」

「暗黒物質だそうだ。 イッチさんがそう言ってた」

「もぉー!なにこれ! 失敗作じゃん!妹に押し付けないでよー!」

「ははは、冗談だって! いてっ、怒るなよ、ちゃんと別に用意してるって!」

 

 そうして案内されたテーブルの上で、リオリールはトルテが椅子に座っている事に気付いた。

 

「リオ……」

「トルテちゃん……」

 

 

 この日、リオリールはアカデミー試験を受けることを正式に、ユウバナ村に滞在しているシーバーシーへと告げた。

 

錬金術士のリオリールとしての、本当の一歩を。

 

 

成人の儀でアカデミー試験を受け、入学する……その一歩を踏み出す決意をしたのである。

 

 

 

 

 

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