リオリールとトルテのアトリエ~三つ大島の錬金術士~ 作:ジャミゴンズ
新作発表めでたい
楽しみですね
01. 青くて丸い難題
リオリールとトルテがアカデミー入学試験を受ける決意表明をしてから2週間が経過しようとしていた。
決意を固めたは良い物の、季節は晩夏。
成人の儀まではまだ、三カ月以上の期間がある。
それまでにしなくては行けない事はたくさんあるが、それでも日々の生活がそう簡単に変わるわけではない。
ユウバナ村の復興や、村の人たちの依頼を達成するために、アトリエの錬金釜に火はずっと点いたままだ。
そんなわけで、今、リオリールとトルテは新たな目標を得てユウバナ海岸へと訪れている。
海の上でリオリールは勢いよく水面下に飛び込むと、ぐんぐんと水底へと潜り込んで行った。
運動は下手っぴであることを自覚もしているリオリールだが、流石に海育ちということだろうか。
泳ぐのは苦手ではなく、特に素潜りは得意だった。
そんなリオリールの少し後を追って、兄のカスカルがついていく。
お互いに少しだけ海の底に在る地面を両手で触れて、目的の物を首尾よく見つけると、顔を見合わせてからゆっくりと水面へと浮上していった。
「ぷはぁっ!」
「ふう……素材探しってこんなので良いのか? 獲ってくるだけなら簡単だけど……」
「わかんない! あ~~、でもあれだね。海で泳ぐのって気持ちいい~」
「おい、遊びに来たんじゃないんだろ、リオ」
「あはは、そうだけどさ~。こうやって海に入るのは久しぶりだし、少しくらい楽しんでも良いって思うな!」
「そうやって大事な目的をすぐに忘れるのは、お前の悪い所だ」
「ぶうー、お兄ちゃんは硬すぎなんだよぉ。去年はみんなでずっと泳いでたじゃん」
海の中で拾ったヒトデで口元を隠し、頬を膨らませるリオリール。
そう、今はフィールドワークとして素材の収集に訪れていたのである。
秋に入っているユウバナ村は残暑が強く残る地勢であることが知られており、秋になった今でも非常に蒸し暑い日々が続いていた。
一応、ユウバナ村は海沿いの漁村であることも手伝って、地勢的に夏場でも涼やかな風が吹き付ける事が多く『みつ島』の中では過ごしやすい夏ではあるのだが。
うんざりするほど暑い日々が続く時、こうしてユウバナ海岸で泳ぐのは一般的な過ごし方の一つである。
そうした土壌が子供たちを自然に『海』というものに慣れさせて、漁師としての下地が出来上がっていくのが一般的だった。
なので、リオリールはまったく考えに浮かばなかったのだが、トルテやイッチは水着を持って居なかった。
「せっかくフィールドワークってやつの勉強に来たのに、水着が無いとは思いつかなかったなぁ。一緒に採取したいよね、やっぱり」
「ま、アイツはユウバナ村の人間じゃなかったしな。俺達の村で水着を持っていない人は居ないし……そこのところをもう少し考えておくべきだったかも」
「そういえばさ。 ねぇ、お兄ちゃん、水着って錬金術で作れるのかな?」
「知らん。普通に買った方が早い気はするけど……作るつもりか?」
「お金はなぁ~、使うの勿体ないじゃ~ん? それに錬金術なら破れない水着とか作れるかも? 私のなんて、毎年サイズが変わっちゃって買い直すのめんどい~~~」
リオリールは自分の胸を抱える様に持ち上げて、蔦と水草で布を縫い合わせた水着を見せてきた。
カスカルは海の上で器用に肩を落として溜息を吐く。
「リオ、はしたないぞ」
「わー、お兄ちゃんエッチだー! 妹の事をなんだと思ってるんだ―」
「アホか……でも水着が破れやすいのは確かにそうなんだけどな。 男物はまだマシだけど」
「でしょー? それにさ~、私たち100万コールを稼がないといけないしぃ……」
「普通に買った方が早いと思うぜ」
「またサイズが変わったらすぐに買い直しなんだもん!」
兄に見せていた水着から手を離して、リオリールはゆっくりと身体を揺らして水面に背を向ける。
背を伸ばしてリラックスし始めた妹に、カスカルは苦笑した。
目を瞑って波の揺らぎに身を委ねる妹をしばし眺め。
カスカルはそうだな、たまには良いか、と小さく息を吐いて同じように背を向けて太陽へと身体の向きを変えた。
リオリールと共に青空に向けて海洋のベットへ、自然の織り成す波間に身を委ねる。
ゆらゆらと自然の波に流されながら、さざ波が耳朶をつき。
双子は空を見上げた。
潮騒と、陽光が二人を照らして。
「ん~~……やっぱりこの時期は海だねぇ」
「俺達、海と一緒に育ったからな」
「あのさ~、お兄ちゃん。錬金術で水着を作るの、手伝ってもらっても良い? ちょっと思いついた事があるんだよ」
「好きにやってみろよ。何事も実践していって経験を積むのが、最も効率が良いってシーバーシーさんも言ってたしな」
「来年も同じ水着が着れるように、絶対に錬金術でサイズ調整が出来るように改良してやるんだから」
フンス、と鼻息を荒くして良い水着を作るんだぁ、と手を上げたリオリールは、砂浜で見守るトルテ達に向かって手を振った。
「リオ、楽しそう」
「そうですね」
小さく手を振り返しながら、トルテは苦笑して砂を両手で集めていた。
今日の目的は、もちろん遊びに来たわけではない。
テクテクと歩く小さな蟹に、少しだけ気を逸らされながらトルテは汗を拭きながら作業を進めて。
アカデミーの入学試験を受ける事が決まり、シーバーシーから成人の儀での試練内容が明かされたから海岸に足を運んだのである。
つまり、今後の人生を左右するだろう、試練に関しての対策と経験を積みに来たのだ。
シーバーシーから伝えられた内容の一つが、フィールドワークである。
「実際に足を運んで素材を厳選する。最も重要な錬金術士にとっての資質の一つ。採取と鑑定」
「ボクたちのような錬金助手にとっても、フィールドワークの知識が無ければ助手としてのランクは低いまま、と」
トルテはリオリールに手を振り返しつつ、砂浜で錬金術に使える『黒砂』を瓶に詰め込みながら、シーバーシーから伝えられた言葉を反芻する。
水着が無いので海の中の素材(魚類や貝類、海藻など)の採取をリオリールが、砂浜に取得できる素材をトルテが担当している形だ。
同様に、空の瓶を抱えながらイッチも大講師の事を思い出すようにして、空を見上げた。
フィールドワークを疎かにしてはいけない。
錬金術士にとって大前提となる、眼を育てる為ともう一つ。
絶対に軽視してはならない重大な事として、爆発事故の防止である。
その理由は、もちろん素材だ。
錬金術士という職業につく者たちは精度の差はあれど例外なく、鑑定能力に長けている。
基本的には技術として勉学に励み、実践を経て錬金術を行う事は可能とされているが、素材を見抜く目だけは生まれつきの才覚に拠ってしまう。
確かな知識を有していても、或いは錬金術を行うに当たって真っ当な技術を持っていてもだ。
素材の隠された特性によっては、本来は薬のはずだった物が毒にもなる。
本来、混ざり合う事のない素材同士が結合することによって、爆発すら起きてしまう。
出来上がった調合アイテムの見た目が『たる』などでも、中身が爆弾になっていれば大事故となろう。
故、錬金術士は素材そのものを、まず、その眼で見極めなければいけない。
シーバーシーはまず、この事をしっかりとリオリールとトルテに学んで欲しかったに違いないのだ。
説明を受けた時に、短くない時間を割いて熱心に二人の駆け出し錬金術士へ話して居たのをイッチは思い出す。
そして錬金助手として働く者にも、それは求められた。
過去は冒険者、今では錬金助手として活動している者たちは、その大半が素材に関する知識の乏しい者たちだ。
精通している者は少なく、素材の品質や能力を鑑定出来る人となると更に希少な存在である。
錬金助手は素材に対する正しい知識を得る事で。
爆発そのものを調合開始前から出来る限り排除することが可能だ。
ユウバナ村の炎上も、元の原因は素材の反発による事故からである。
大陸の首都で同様の事故が発生すれば、大参事になることは間違いない。
最初に求められる才覚は鑑定眼。
危険性を排除するため、どれだけ他の才覚を有していようと鑑定眼無しと判断されれば錬金術士としてアカデミーへ通うことは出来ない規則になっていた。
「特性を見極める事は確かに大事。私もリオも、それは自然に出来ているけど……シーバーシーさんが強調しているからには、多分もっと深い意味があるんだと思う」
「一説では、素材の声を聴くことが出来る人も居ると聞いた事がありますよ」
「素材の声?」
「万物には魂が宿る、という考え方なんでしょうか。そんな風に言われるのを聞いた事が在ります。実際にどうなのかは、錬金術士ではないボクでは分かりませんけどね」
「……素材の声……そんな事あるのかな」
「グァ」
トルテの戸惑いを含む声に応えるように、アードラーのドラが一つ鳴いた。
この雛は、大人たちからも色々と意見が出て騒ぎになったが、一応はアトリエでトルテが面倒を見る形で様子見という事に落ち着いたのである。
トルテがつけた名はドラ。アードラーだからだ。
もっとなんかこう、みたいな顔をしている周囲を他所に、トルテは名付けの親になれて満足そうだったので誰も何も言えなかった。
こうしてアトリエの中だけで完結していたリオリールとトルテの作業は、素材の採取の為にフィールドワークを行う事が増える事となった。
アトリエから歩いて5分程度のユウバナ海岸だけで採取するのならば、フィールドワークも大した事では無かったが……これについては言うまでもないだろう。
つまり、駆け出しの錬金術士の二人にとって、新たな問題の始まりを告げることになったのである。
最初に立ちはだかったのは、青くて丸くて、そして三つ大島にも大量に生息している原生生物。
ぷ に ぷ に である。
見た目こそ緩さの塊としか言えない、基本青色のゼリー体を持つ、このぷにぷにという生物。
顔は笑みを浮かべているようにさえ見える、気の抜けそうな風体ではあるのだが。
モンスターと指定されているだけあって縄張りのような物が存在するのか。
突然に凶暴性を発揮することで知られていた。
大きさこそ成人の男性なら両手で抱えられる物が殆どで、その体躯からは特殊な攻撃はなく、殆どが体当たりという原始的な攻撃による物だ。
稀に体内に溜めこんだ空気を圧縮して放つこともある(通称ぷにブレス)
モンスターのゲロとして、ぷにブレスは三つ大島で忌避されている攻撃だ。
だが、実際に食らうとなると、その威力は実際に侮れない。
顔面に硬質なラグビーボールが大型犬ほどの質量を伴って、殺意を持って高速で向かってくると思ってもらえれば恐ろしさが分かるだろうか。
ところで、リオリールはユウバナ村の人間からはどういう評価を受けていたのか、という点が問題である。
水泳を除くすべてにおいて壊滅的な運動神経。 脅威の方向音痴。
そして戦闘能力皆無のへっぽこ三重苦である。
村の若い女性たちの中では一番パワーはあるのだが、いかんせん運動は不器用だった。
バンメンなどのスポーツで村中の子供たちが集まると、決まってドベの最下位に居るのがリオリールである。
そんなリオリールが、モンスターの突進を躱せるわけが無かった。
「いっだぁ~~~~っ!」
バチン! と周囲に音を響かせながら、リオリールは呻いた。
ついでにトルテは産まれてからこの方、スポーツ等と言う物を体験したことはない。
当然のようにトルテも、モンスターの突進を躱せる訳が無かった。
「う"ぉっ……~~~~~っ!」
初めての痛みは腹部の辺りへの直撃であり、トルテは自分でも驚くくらいに野太い悲鳴を上げてそのまま大地に突っ伏し、悶絶した。
ドラが胸元から飛び出して、びぃびぃと悲壮な声で親の危機を訴えている。
「あーっ、もう! なんでお前ら、自分から当たる方向に向かって行くんだ!?」
「お兄ちゃんひどい! 逃げてるんだって──―あっ、ぐはぁっ~」
「カスカルさん、早く仕留めましょう」
最初の襲撃は錬金術士の二人がノックアウトされたものの、幸いに命に別状はなく数分で片がついた。
その日はイッチとカスカルに運ばれて、リオリールとトルテはユウバナ村で一晩の間は強制的に眠ることとなった。
明けて翌日、気を取り直して採取地へと出かける。
比較的安全な街道を通っているのに、運の悪いことに再び青ぷにと遭遇。
いや、リオリールとトルテの二人にとっては運の良い事だったようだ。
「このぉ、昨日はよくもやってくれた!」
「やってくれた!」
「……おい、大丈夫かよ」
「大丈夫! お兄ちゃんは手を出さないでね! 私たちの恨みは、自分の手で晴らすんだからっ」
「そう、コイツ等はここで殺さなきゃいけない存在」
「行くよ、トルテちゃん!」
「うん!」
「……」
呆れるカスカルを他所に、リオリールとトルテはお互いに武器を構え──―昨日はフラムだけしか持って行かなかったので、身を護るための武器は装備していなかった──―突然現れた人間達に動揺している青ぷにへ向かって意気揚々と指を向ける。
リオリールは顔に直撃して、今もまだ鼻が赤いままだし、トルテはトルテでユウバナ村に帰る途中でゲロゲロしてしまった恨みがあった。
ユウバナ村で林業を営んでいるイモールに頼みこみ、出世払いでリオリールは武器を加工・調達して準備をしてきたのである。
『アカイ樫』という木材の中でも硬質な素材で作って貰った、調合用とは違う、武器としてのオールをビシっと構える。
そしてトルテはアトリエのベランダに干してあった、トルテが持てるサイズの物を選び、鈍器と化した『とつげきうお(ブリ)』を持ってきていた。
お互いに顔を見合わせて、一つ頷くと、リオリールとトルテは驚いたまま間誤付いているぷにぷにへと、先制攻撃を仕掛けた。
「でぇぇぇいっ!」
「死ね」
「ぐはぁ」
「あっ」
リオリールは振り下ろし、トルテは思い切り横に振り払った。
残念なことに、リオリールは空振りをして地面を叩き、トルテの攻撃は一緒に攻撃を仕掛けたリオリールのおでこに直撃した。
どうもブリの当たり所が良くなかったのか、そのままふらふらと後退して、ついにはリオリールは倒れ込んでしまった。
そして隙を見逃さず青ぷにの高速追撃の体当たりをそのまま受けて、敢え無くノックアウト。
そして、ぷにぷには生存本能に従い、リオリールを殴ってしまって、アワアワと動揺しているトルテへと体当たりを行って──―
「う"ぉっ」
昨日とまったく同じ場所に体当たりを食らったトルテは、焼き直しをしたかの様にもんどり打って地面に倒れ込んだ。
ぷにぷにはしばし、倒れ込んだ二人の少女の近くでうろうろしたが、脅威が去ったと認識したのか。
草むらの中に勢いよく潜り込んで去っていった。
いつでも倒せるように銛を構えていたカスカルは、少しだけ周囲を警戒してから息を吐いた。
「……はぁ……ユウバナ村に帰りましょうか、イッチさん」
「そ、そうですね、あはは」
「もしかしたら、このフィールドワークの課題の一番難しいところって、採取地で妹たちが戦おうとしているのを止めて、守る事じゃないかって気がするんだ」
「ボクたちが試験を受ける上で、そこが見られる可能性は高いですよね」
「だよな。先が思いやられるよ……昨日今日、予定してた採取地にすら行けてないんだぜ。ちょっと真剣に考えないとな」
「そうですね、思ってたよりも大きな問題ですね、これは」
カスカルとイッチはユウバナ村にリオリール達を運びながら、対応を考え込むことになった。
実際のところ、これは本当に大きな問題である。
イッチはゲームでのリオリールを見ていたのでそれほど心配はしていなかったのだが、こうして彼女のヤバさが浮き彫りとなる実態を見て考えを改めることになった。
大袈裟ではないほど、リオリールは破滅的な戦闘能力である。
先の件にしたって、驚き戸惑って殆ど動いていないぷにぷにを相手に、渾身の一撃をスカしていた。
トルテもまた、リオリールと互角と言って良いだろう。
しかも彼女たちは今までのところ、敵の攻撃は100%無防備で食らってしまっている。
「まだ、凶暴性が低い『青ぷに』だから何とかなってるけど、危険なモンスターが現れたら今のところどうしようも無いよ」
「命に関わる危険ですよ。正直なところ、リオさんやトルテさんを見ていると、すぐさま逃げるべきで戦うのは反対ですね。そういう訳にも行かないでしょうから、ボクたちが前で身体を張ってる間に、フラムを投げてもらうしか無いでしょう」
「ははっ、知ってるか、イッチ」
「はい?」
「リオリールは、物を投げる才能が無い」
「どうして」
ゲームではしっかり投げてたじゃないか、錬金術士じゃないか、とイッチは反論したくなった。
だが、双子であるカスカル以上にリオリールの事を詳しく知っている人間など居ないだろう。
だから、リオリールは物を投げてもヘッポコなのだ。
それはきっと事実。
意見を飲みこんで、イッチは自分が背負っているトルテへと視線を自然に向けてしまった。
「ああ、イッチさん。俺はイッチさんが考えてる事は分かる。トルテが投げれば良いと思うよな? でもコイツ、物を投げても遠くに飛ばないらしいぞ」
だから蹴り込んで少しでも飛距離を伸ばすという打開策が出来たらしい、とカスカルは教えてくれた。
その様子はイッチもフラムを蹴飛ばしているトルテを何度か見かけているので、カスカルが言いたいことは分かった。
飛距離が……良くて前衛を張るカスカルやイッチに届けば良い方だろう。
つまり、フラムが自分たちに飛んでくる可能性がある。
足で蹴飛ばすことを考えれば、そのコントロールも絶望的だろう。
イッチは快晴のみつ島の空を見上げて、もう一度呟いた。
「どうして」
「どうするか……まぁ、やっぱ特訓か。 そうだな、特訓しないとだな。 こんな風に、目的をもって採取に行く経験なんて、あんまり無かったしな」
「あ」
「どうした?」
「いえ……気にしないでください」
「ああ、まぁ。何か良い案が思いついたら教えてくれな?」
「それは勿論」
イッチはカスカルの言葉で、少しばかり心当たりを見つけてしまったのである。
そう、何を隠そう、リオリールから採取地でのフィールドワークの機会を奪ってしまったのは、間違いなくレッドマンの思惑であることに気付いたからだ。
本来、ゲームの中のリオリールは錬金術士として錬金術を行うために、システム上、素材の採取には積極的に出かけることになる。
だが、この世界でのリオリールはどうだろうか。
大嵐を契機に、ユウバナ村の復興のためにアトリエの中で錬金釜の前で籠りっぱなしだった。
実際に素材を集めてくるのはもっぱら、イッチやカスカルを含めて村の大人たちで。
とにかく錬金術で村の依頼を熟す為に、総出で協力してアトリエに素材が運び込まれてきた。
それらをアトリエで素材の選別をし調合を行うだけだったのが、リオリールとトルテのやってきた事である。
リオリールのアトリエに置かれているコンテナには恐らく、ゲームの中で集めるよりも多くの素材が眠っている。
種類も数も、ユウバナ村の復興の為に今も集められているからだ。
つまり、リオリールの採取。それに伴うモンスターの対処。
その経験と体験を奪っていたのは、紛れも無くイッチ……レッドマンサイドの落ち度である。
「リオさん達が納得するなら、ボクが全て倒してしまっても良いんですけどね……」
自嘲しながらイッチは言った。
貰いものとは言え、それだけの力はレッドマンから貰っているイッチだ。
身体能力だけで言えば、恐らく全人類の中でも突出していると思えるほどの全能感を自覚している。
そして、それはきっと正しい感覚だった。
ある時、誰も居ない時間帯を見計らって思い切り岩を殴ってみたのである。
拳から出血はしたがすぐに収まり、痛みは無かった。
そして殴った岩は爆発したかのように四散していたし、なんならその背後は土が捲れるほどの衝撃波を放っている跡が見受けられた。
マンガでしか見た事の無いような、馬鹿げたパンチ力だったのである。
しかし、イッチがモンスター等の脅威を全て排除してしまえば、どうなるだろうか。
リオリールとトルテは自分達だけでフィールドワークをしっかり出来ない存在となってしまうだろう。
四六時中張り付いている訳にも行かないから、モンスターへの対処を彼女たちだけで出来るようにならなければいけない。
戦闘面に才能なし。
採取地に向かう事を禁ずる。
そう判断されれば、成人の儀でのアカデミー試験で彼女たちが錬金術士として相応しいと認められる事はきっと無いのだろう。
こうしてリオリールとトルテは日々の依頼の調合に加えて、採取地でのフィールドワークをしっかり出来るようになるために、戦闘訓練まで始めることになったのだった。