リオリールとトルテのアトリエ~三つ大島の錬金術士~ 作:ジャミゴンズ
※一部、図鑑の再現風で台本表現を用いています。
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オーレンジスにアデーレという機械人形を見せられて……あれから3週間。
「グギャアアアアァァァ──ー!」
その夜。
ユウバナ村の夜に鳴り響く、奇声が一晩に渡って続けられた。
残響すら残る絶叫。 空気を切り裂く音の波紋はどこまでも夜のユウバナ村を包んでおり鳴り止まなかった。
ユウバナ村から『まみどり大森林』の麓まで届いてるのではないかと言うほどの大音量だ。
「ギャアアアアァァァ──ー!」
その音の発信地はリオリールとトルテのアトリエだった。
「おはよ~……」
「おはよー、リオ……」
一夜を明けて目の下にしっかりと隈を作って、幽鬼沁みた表情を見せて寝ぼけ眼を擦るリオリール。
ほとんどそんな彼女と変わらない姿で、疲れきった表情で挨拶を返すトルテ。
その原因は、深夜のユウバナ村で奇声を上げ続けた、一匹のアードラーのせいであった。
トルテが成長を見守っていたドラは、想定以上にすくすくと順調に育ち、今ではユウバナ海岸を悠々と飛翔する海鳥と殆ど変わらないくらいの大きさである。
既にドラの巣であったトルテの胸元から巣立ち、今はイッチとヘーゲで急遽作った鳥かごの中に放り込まれている。
ちょっと前までラグビーボールくらいの大きさだったと言うのに、その変貌たるや。
体長およそ40cm。全高55cmほど。
翼を広げた時は1mを優に越すほど大きくなった。
いくら何でも急成長のしすぎであった。
そして、恐ろしい事にまだまだ成長中である。
そうした結果、親元から離れた雛鳥であったドラだったが。
始まったのはトルテの胸の中に戻ろうと(最早伸し掛かろうと)して出来ずに叫ぶ、夜泣きであった。
「依頼掲示板にすっごく近所から騒音の苦情がきてるね……」
「トルテちゃんが一階のソファーで眠ってあげても、カゴに入れてて遠いからすぐに鳴いちゃうし……それに起こされちゃうし」
「ゲージから出したら押しつぶされるし……」
「あれは死ねるよねぇ……」
げっそりしながらお互いに苦笑をしあっていると、セットしていた道具から完成を報せる甲高い音がアトリエに響いた。
「あ、トーストが焼けたね」
「ほんとだ」
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●アチチ・パン挟み1号 作成者:リオリール
軽食を毎回作ってもらうのに遠慮して、リオリールが作成した自動でパンを加熱する道具。
挟み方を間違えるとパンをすぐに貫通し穴が開いてしまいボロボロになるので、微妙に使いずらい。
レシピ:(中和剤)・アイヒェ・カーエン石・蒸留石
・効果 ・特性
HP回復・小 良い香り
焼きたてのパン 貫通力+
トルテ「リオの作る道具は使い方に癖があるのが多いよね」
リオリール「便利なんだけどね。ちょっとコツが居るのはそうかも~」
トルテ「あ、おいしい。ハチミツバターは良い出来かも♬」
リオ「トルテちゃんのジャム、美味しく作れてるね~、今度レシピを教えてもらっても良い?」
トルテ「うん、いいよ。リオもパン挟みのレシピ、私にも教えて」
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●ハチミツバター 作成者:トルテ
リオリール作ったパン挟み1号を使ってから、味を増やす為にトルテが作った調味料。
レシピ:(食材)・ピュアオイル・(中和剤)
・効果 ・特性
MP回復・小 味が良い
トルテ「他にも味を増やしたいな」
リオリール「あ! 『オオオニブドウ』とかで作ったらブドウ味だよ!」
トルテ「ハチミツほど甘くはないけど、良いかもね」
リオ「うーんと、他には『甘露の実』とか『三色ベリー』とか! わぁ、いろいろ考えられて楽しい! 美味しい物も増えて一石二鳥だ!」
トルテ「う、発想が速い……料理の参考書も読むべきかな……」
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マグカップを片手に少しだけレシピの話をして、お互いに顔を突き合わせてドラの扱いについてリオリールとトルテは頭を悩ました。
ユウバナ村の人達がドラを保護することに賛成してくれたとはいえ、元がモンスターで怖がっている子供や住民も居るので、放し飼いにすることは出来ない。
これには三つ大島という場所全体で、モンスターの被害にあった村々が少なからず存在しているという歴史があるから、致し方ない部分が大きいのだ。
このまま成長してどんどん大きくなってしまうと、アトリエの中に押し込むのは窮屈になってしまうかも知れないという問題もある。
特にアードラーを初めとする、空を飛ぶことが出来るモンスターの被害は根本的に防ぐことが出来ないと言って良い。
田畑を荒らされるだけで済むだけの、比較的穏当に解決する場合もあるし、人的被害を被る事も稀に報告される。
一番酷いのは、集団でモンスターが村に住み着いてしまい、人々の方が追い出されて廃村になってしまった、という事例も存在していた。
比較的に稀な事ではあるとはいえ、実際に起こったことがあるモンスターによる災害なのだ。
「ドラも、爪が長くなってきたし、嘴で突かれると凄く痛い」
「もうこの大きさになると、ちょっとした事でも私たちが怪我しちゃいそうだよね。 じゃれてるだけなのは分かるけど、これだけ大きいとやっぱりちょっと怖いもん。 う~~~ん、皆がモンスターの飼育に反対していた理由は、こういう事でもあるんだろうなぁ」
「こんなにすぐに大きくなるなんて、思わなかった」
「あはは、そうだね。 雛の時は掌に乗って本当にかわいかったよね~~~!」
ドラが一番懐いているのは母と勘違いしているトルテだが、一緒にアトリエで生活しているリオリールにも凄く懐いている。
鳥類の中でも大型化する個体が多いアードラーは、その知能も高いのか感情表現が豊かで、凶暴性が無ければ見ていても飽きないほど愛くるしい。
だが、それはそれ。
「とにかくまずは、騒音問題だよね。 錬金術で何とかしてみようよ」
リオリールの提案に、トルテは親としての責任感もあって一も二も無く頷いた。
ドラの騒音問題について、トルテがレシピを考案している間にリオリールは普段の通り、自分の下に溜まった依頼を机の上に広げた。
本当はトルテの補佐が出来れば良いのだが、依頼掲示板に貼られたアトリエの仕事を疎かにも出来なかった。
リオリールとトルテのアトリエが、ユウバナ村で生まれてからというもの、依頼が途切れた事は一度も無い。
それは当然、ユウバナ村復興という、一番大きな問題への解決のために当然の事ではある。
日用品を含めて、依頼は途切れない。
中和剤やゼッテルなどは普段の生活から、全ての人が利用すると言っても過言ではないだろう。
毎日の様に定期的に依頼が舞い込んでくるし、その完成品の配達に追われてイッチやカスカルがアトリエの中に居ない事も増えてきた。
簡単に錬金術で調合を! ……と言っても、その作成過程でかかる時間を削減することはとても難しい。
しっかりと作るべき順番を考えないと、この日までに納品してくれ! というような期日のある依頼は間に合わない事もしばしば。
効率面で言えば、リオリールはトルテに大きく劣る。
今回はドラの事もあるし、その間はどうしたって生産性が落ちてしまう。
リオリールが頑張らないといけないだろう。
「大口の中和剤の依頼は最初に片付けないと。6件分かな? うぅ、40本もある……こっちはえーっと、工具のハンマー? インゴットから作れば試験の練習にもなるから……そうなると素材はこれとこれと~~~」
そうした日常のアトリエ経営の合間に、リオリールとトルテは成人の儀で行われるアカデミー試験対策にも時間を割かねばならない。
三つ大島で唯一の錬金術士であるリオリールとトルテ。
シーバーシー大講師に見込まれて、アカデミー入学試験を特別に成人の儀で行われることになったのは周知のとおり。
ただ、この時期外れのアカデミー試験を受けるのはリオリールとトルテだけでは無かった。
大陸にて受験を待っている錬金術士の候補生も、同様に受けることが決まっているという話である。
人数は多くない物の、試験はリオリールが受けるものと変わらないのだ。
この候補生たちは、本来の大陸で行われているアカデミー試験日に、何らかの事情によって受けることができなかった人たちである。
日常依頼。そして試験勉強。 当然、それにはフィールドワークでの採取も含まれていて。
更に加えてリオリールやトルテ自身の個人が抱える作成物も、ここ最近は増え始めていた。
つい最近で言えば機械人形のアデーレ復活の為、オーレンジスからよく分からない機械や機材の発注が来ている。
まみどり大森林の遺跡で拾った機械など、ぱっと見は用途不明のガラクタとしか思えない見慣れない素材も渡されたりしていた。
期間のような物は指定はされて居ないが、協力を約束したからにはあまり後回しにしても居られないだろう。
トルテもトルテで抱えているものがある。
今回のドラの騒音対策の件もそうだし、ヘーゲから『生きてるナワ』などの個人的な発注が大口で入り込むことがあったりしていた。
妹のミルミスからの、幽霊が見えてお話できるようになる道具の事も、出来ればアカデミーに入る前に終わらせたい。
勿論、今の知識ではとても手は出せないし素材もまったく揃える当てが無いのだけれども。
「そういえば、エルオネの荷車のこともあったよね。 こ、これは時間がいくらあっても足りそうにないかもぉ……」
エルオネからの依頼。
それはオーレンジスからアデーレの事で依頼を受けた、一週間くらい経った後の事だった。
「リオ姉ぇ、ちょっと時間あるかな?」
「うん? エルオネ? どうしたの、こんな夜遅くに」
「えーっと……」
「? とりあえずアトリエの中に入って話を聞くよ? 話しにくい事なの?」
「うん、ちょっとだけ」
そうしてエルオネを迎え入れたリオリールは、少しだけ待ってて貰うように言ってソファーへ座らせる。
本日分の稼働に区切りがついて、トルテとリオリールはアトリエの作業場の掃除の最中だった。
「ふぅー、意外と散らかってるね」
「リオ、いいよ。 後は私が片付けておくから、エルとお話をしてきて」
「え、悪いよ。 私が使った分の素材だし……」
「あんまり待たせるのも可哀そうだし、リオと一緒に片付けるより私一人の方が速いし、リオだと遅いから待たせるし、私が話を聞けないプライベートな内容かも知れないし……だから、いいよ」
「うぐっ、言い返したいけど全部事実だから何も言い返せないよ……うぅ~、分かったよ。トルテちゃん、ごめんね」
そんなやり取りを経てリオリールがエルオネの隣に座ると、妹はやっぱり忙しそうだね、と声を掛けてきた。
「うーん、そうだねー! でもねエル。私の錬金術がみんなの役に立ってるかもーって思うと嬉しい気持ちの方が強いから、へっちゃらだよ」
「鍋を爆発させるだけの何が面白いんだろう、って子供の頃からずっと思ってたけど、リオ姉はスゴイね」
「あう、妹の当たりが強い……そんな風に思ってたんだぁ」
「そりゃ思うでしょ。でも、こうしてユウバナ村が大変な時に皆を助けてるし、本当にリオ姉はスゴイし……ちょっと羨ましいなぁ」
勝手知ったる姉のアトリエ。
カップの中にささっと葉を居れて、作った紅茶を注いで、リオリールに手渡しながらエルオネは姉を珍しく素直に称賛した。
実際にリオリールとトルテの錬金術で造られた道具が、今はユウバナ村の色んなところで見るようになった。
朝起きれば『中和剤』で洗濯をする母親たち。『生きてるナワ』などで荷づくりをする漁師たちや『背負いたる』を担いでまみどり大森林へ出かけて行く人など。
オーレンジスからの依頼を受けた姉を見てから、エルオネはユウバナ村で利用される調合アイテムに注目するようになった。
先ほど挙げた多くの物だけではなく昔から存在した『魔除け鈴』や『ヒーリングサルヴ』なども、今では姉が錬金術で作っているというのだから、驚きである。
「えっとね……あのさ、リオ姉たちが忙しいのは分かってるんだけど、私も依頼をしたくって」
「エルが? もちろん、大歓迎だよ! っていうか一番嬉しい! ささ、お姉ちゃんに任せて!」
「えっと、それで、色々こだわりたいと言うか、何というか……リオ姉が大変かもだよ?」
「あはは、可愛い妹の為ならちょっとくらい大変なことでも、何でもないって。もー、エルにしては珍しく遠慮なんてしちゃっておかしいってば!」
「な、何それ。人がせっかくお姉ちゃんが大変だろうからって気を使ってるのに……じゃあもう遠慮なく言っちゃうからね!」
「まっかせなっさーい! ……で、私は何を作ればいいの?」
エルオネはぐいっと腕を伸ばしてリオリールの胸に手を突きだしてきた。
握られているゼッテル用紙に気付いて、リオリールはそれを開いて覗いてみると、そこにはイメージのような画と注釈がビッシリと書かれている。
エルオネからの依頼は、荷車だった。
それは見た事のないデザインが施されており、リオリールが最初に見た時はとても荷車だと思えなかったくらい。
ただ、説明を受けるとエルオネが欲しい荷車という全体像が少しだけ見えてくる。
「リオ姉の錬金術で作った移動式の販売所を作りたいの。今まではただ荷車に平積みしてるだけだったけど、商品を置く場所とか、それを飾り付けるスペースとかを作って、見た目を派手にするんだ」
「た、確かに……でも、こういうのが作れたら本当にお店が移動してるみたいになれるのかも……?」
「平積みすることは無いから、真ん中は刳り貫いちゃってその上に建てる感じ。 天井にも手を加えれば暖簾が作れるし、空洞を利用すれば荷車の中に人が入れるし、即席のカウンターだって作れるでしょ?」
「あ、本当だね。 え、スゴイ。 エルってば、こんなのを考えてたんだ?」
「オーレンジスさんとかにも相談に乗って貰ったの。 ほら、部屋を増やすような、すごい絡繰りを作ってたから、その時に思いついたの」
エルオネがこの移動式の販売荷車を発想したのは、アデーレと出会ったあの日にオーレンジスの絡繰り部屋を見てからだった。
もともとユウバナ村の為に自分が何を出来るのか、というのと、自分もユウバナ村の為になることがしたい、という気持ちが募って溢れた結果だ。
エルオネは考えても考えても、やっぱり自分に出来ることはお金を稼いでくる事しか無いんだと結論をつけた。
今は色仕掛けが通用しないので、お店を作って曲りなりにも得意だと思う、移動販売店という健全な方向に発想は進んだという形である。
「本当は、オーレンジスさんとヘーゲ兄に最初は頼もうと思ったんだけど……説明してもなんか、こう無骨な物しか出来なくって」
「あははは、確かにあの二人だと、実用性一点張り! みたいなものしか出来そうにないかも」
「荷車のベースの部分は試作品ってことで、もう作って貰ってあるんだ。お代は、私が稼いできたコールで充てる事になってるの」
「え、もう交渉まで自分でしてきたの?」
「うん」
「やだ、妹が凄い」
「なにそれ? リオ姉だってお金が絡むなら交渉くらいするでしょ」
「ぐはぁ」
「?」
その辺(交渉など)は兄のカスカルに丸投げしているリオリールは、妹の言葉が深く突き刺さり呻き声をあげ、顔を見ることが出来なかった。
と、いう様な一幕を思い出していたリオリールは、エルオネからの依頼も、なるべく早急に仕上げる必要があるなぁと考えていた。
エルオネが積みこむ商品は、まだこの三つ大島に浸透していない、リオリールとトルテという錬金術士の産みだしたアイテムの予定である。
見慣れない便利な道具が売れるのは、大人たちが行商に出ているというだけで実証済みみたいな物だ。
ロイヤルクラウンの解毒剤一つでも、十分採算が獲れるだろう。
こうした外部から生まれるコールが増えて行けば、ユウバナ村の復興は加速度的に速くなっていく。
それはもしかしたら、アトリエだけで産みだす力よりも強く、大きくユウバナ村の復興をエルオネが支えるかも知れなかった。
少なくとも、それを可能にするだけの力はエルオネにあるかも知れない。
なんせ以前から数千コールを自分一人だけの力で捥ぎ取って来た妹である。
物思いにふけっていたリオリールに、トルテから声が掛かる。
相変わらずトルテのレシピを考案する速度はとんでもなく、笑ってしまいそうになってしまう。
「リオ、出来たよ。 一応、参考書にあった大本のアイテムの構造は逆で……騒音を起こす『三叉音叉』なんだけど、手順と工程を変えれば音を打ち消す道具に理論上は出来るはず」
「ほんと? へぇー『三叉音叉』かぁ……聞いたこと無いけど、本当はどういうアイテムなの?」
「音で錬金術士を殺す道具」
「と、トルテちゃん! そんなの使ったら私たちも危ないよ!」
「自分で使うから私は死なないよ?」
「ええっ、私は死んじゃうの!?」
一人でショックを受けているリオリールにトルテは首を傾げながら、必要な素材をピックアップする作業へと移っていった。
名前の通り、『三叉音叉』というのは見た目はただの音叉である。
音叉というと馴染みが無いかもしれないが、U字に曲がった金属製の音を出す器具だ。
基本的には音楽用などで良く見られる物だろう。
音を出すというよりは、固有の周波や振動数を出すことに特化した道具と言え、本来の用途はトルテが言う様に音響兵器としてモンスター等に使う物である。
『魔除け鈴』も構造こそ違えど、道具の用途としては似ているだろう。
ちなみにトルテは知らない事だが、『三叉音叉』は大陸では使用が禁じられている道具の一つだったりする。
理由は音を出す破壊兵器──―音響兵器は単純に意図せず殺人にまで及んでしまいかねない、危険度が高い道具だからだ。
トルテがこの道具に着目したのは、音を出すという一点だ。
ドラの鳴き声は日ごとに身体が大きくなっていくせいか、どんどん大きくなっている。
そのドラの鳴き声は口から出る声であり、声は音の振動から発されるのだ。
「つまり、結局は波? っていう奴だったかな。 ドラの声の音の振動が音叉に当たって、その振動音がぶつかって相殺できれば、騒音問題は無くなる……ハズ」
「へ、へぇー、ほぉー、な、なるほどな~~~! それね! うんうん!」
「リオは分かってなさそうだけど、簡単に言うと音と音をぶつけるってだけの話だよ」
「あ、なるほど! それなら簡単だね! 最初からそう言ってくれれば良いのに~、殺すとかいうから怖かったよ!」
「それで素材なんだけど……インゴットに特性を付与するだけじゃ足りないと思う。ドラの声に反応して振動……というか音を出すようにしないといけないから」
「出来ればドラにくっつける形の道具の方が良いよね?」
「あ、そうだね……自分で手で持って使うっていう考え方をしてたけど、その方が手間が無くて良いかも」
『三叉音叉』そのものを作る訳では無いので、レシピを変える必要があった。
本来は攻撃用や環境そのものに作用する調合アイテムの為『メテオール』などの攻撃用アイテムが望まれるが、このユウバナ村では不適格である。
そして、リオリールの提案からドラにくっつける形が望ましい事から、トルテが選んだ素材は『ぷにぷに玉』『ユウバナの実』となった。
「ぷにぷに玉?」
「うん」
「生きてるナワとかに使ってる、あの?」
「そう」
意外かも知れないが『ぷにぷに玉』の用途は錬金術では非常に多岐にわたる、とても重要な素材の一つだ。
『生きている』特性が明確についていて数多く用意できる素材は、世界広しと言えど『ぷにぷに玉』に勝る物は無い。
そしてドラの騒音対策の為に最も重要なのは『ぷにぷに玉』が神秘の力を兼ね備えているカテゴリーに属している事である。
神秘の力とは。
便宜上、アカデミーが区分けしたカテゴリー上での話であり、実際に神秘性が重要視されている訳ではない。
動物の化石にも神秘の力は存在しているし、錬金術で作った道具──―すなわち人工物にも神秘の力の素材となるアイテムは存在している。
このカテゴリーに属する力というのは、明確に現実の物理法則では測れない全ての物事や事象に対して、一旦は神秘の力を有している、と定義しているに過ぎない。
「たぶん『ぷにぷに玉』の個数を増やせば、十分に『三叉音叉』に近い音を抑えてくれると思う」
「取り付けるならやっぱり首輪かな? そうなると『なめし皮』が良いのかなー」
「うん、加えるとしたらそうだね。 獣の皮か魚の皮をまた用意してもらわないと。 それで、本物の『三叉音叉』は『メテオール』っていう今の私たちにはかなり難しい爆弾の作成が必要だけど、今回は音を抑えるだけの道具だから」
「あんまり難しい物は、今の私たちじゃ作れないもんね……」
インゴットやクロースなど、最近作り始めて手を付けた道具。
シーバーシーから貰った資料で判明したのは、それらが比較的に作成の難易度が低い方であることだった。
実際にアカデミーの錬金調合物・難易度表という小難しそうな史料でも下位に属しているのは事実。
必要に迫られて今回は『三叉音叉』の調合に挑戦するが、今のリオリールとトルテでは、本物の『三叉音叉』を調合するには力不足だと思われた。
その理由は、素材を用意することが出来ないからだ。
錬金術には作成そのものの難易度に加え、素材を用意出来るかどうかというのも難易度を左右する要素の一つである。
『メテオール』は爆弾に属するが、リオリールはおろか、トルテでも作成に成功したことは一度も無い。
錬金術の失敗と言えば、釜の中での爆発というのが一般的なイメージだ。
それとは別に、錬金術士としての経験や能力が足りずに失敗する時は、完成物がしっかりと出来ないという物もある。
一番わかりやすい例は、産業廃棄物となって完成品が釜の底に残った時だろう。
ちなみに一番、錬金術士がダメージを受けて忌み嫌われているのは、爆発した上に産業廃棄物が釜の中から飛び出す事。
とっても凄く、くそったれなのである。
「素材の関係上、作成難易度は下がるはずだけど……でも、多分失敗は多くなると思う。だから、リオにも手伝ってほしいんだけど……良いかな?」
「もちろん! 私もトルテちゃんやドラちゃんの為に出来ることはしたいしね! それに~~」
「それに?」
「グアアアァァァ────!」
訊き返したトルテに応えるように、ドラが大声を上げて鳴いた。
ちょうど良く、リオリールは苦笑して肩を落とし、トルテへと口を開いた。
「夜泣きキツすぎ! ぶっちゃけ今も、めっちゃ眠いんだよー!」
「わかる!」
こうして三日三晩かけて、夜泣きと格闘しながらも、ドラの騒音問題は何とか解決することが出来たリオリールとトルテだった。
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●ドラのガラガラ 作成:トルテ・リオリール
夜泣きが酷い、成長途上のドラの為に造られた騒音対策用の専用アイテム。
首に引っ提げた、子供をあやす為のガラガラが、ドラの大きな声に作用してガラガラの中の音叉が反応する。
音叉の音は少しだけ響くが、ドラの鳴き声はアトリエの中くらいにしか聞こえなくなって騒音問題は解決した。
アトリエで寝泊りしているトルテとリオリールの夜泣きのダメージは少しだけ軽減された。
レシピ:インゴット・ぷにぷに玉(4個)・なめし皮・ユウバナの実
● 効果 ● 特性
・騒音を打ち消す ・生きている
・振動波を起こす ・効果安定++
・生命の力
・希少な一品
トルテ「ドラの夜泣き用に作った道具だね。ドラの為の一点物だよ」
リオリール「これを作ってる時は、とにかく眠かったよね。トルテちゃんが眠すぎて無限に『なめし皮』を作ってたのには笑ったなぁ~」
トルテ「…………リオこそ、ぷにぷに玉で埋もれて遊んでたのは滑稽だったし」
リオリール「む、トルテちゃんこそ、完成品のお試しの時にドラの鳴き声が打ち消されなくて間近で鼓膜をやられて泣いてたじゃん」
トルテ「は? 泣いてないし。リオの方こそインゴットが歪んでて毎回作り直しだーって泣いてたし」
リオリール「泣いてないもん!」
トルテ「私だって泣いてなんか無い」
リオリール「むぅー! 強情っぱりなんだからっ……でもさ、真面目にこれを作れた経緯の詳細って覚えてる?」
トルテ「リオの方こそっ……えーっと、実は覚えてない」
リオリール「私も……どうやってこれ、作れたんだろうね~……知らない間に妖精さんとかが作ってくれたのかなぁ」
トルテ「妖精? そんなの居るわけ……」
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