リオリールとトルテのアトリエ~三つ大島の錬金術士~   作:ジャミゴンズ

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05. おニューで爆発

 

 

 シーバーシーが残してくれたカタログは、アカデミーで実際に使われている錬金機材を纏めた物の最新号である。

 リオリールとトルテの二人は、彼からカタログの機材を一つ、プレゼントして貰う事を約束していた。

 

 

 リオリールとトルテが忙しい日々を過ごしていたある日。

 アトリエには大きな荷物が届けられた。

 ボ──ー、という間の抜けるような低い声に揺られて、それは引っ張られてきたのである。

 

「こんなに大きな荷物。お疲れ様です、クラウス兄さん!」

「おうリオちゃん! 久しぶりに会ったけどまた大きくなったな!」

「わぁっ! ちょっと何処を見て言ってるんですかー! せめて背丈を見てくださいよー!」

「わっはっはっは、いやー、でもよ。これ釜だろ? 二つもあって大変だったぜ。でも、まぁコイツ等の馬力はやっぱ頼りになるからな」

 

 クラウスと呼ばれた男がニコニコしながら、牛を足を叩いて快活に笑った。

 

「クラウス兄さん、お久しぶりです。いつも俺達に荷物を届けてくれて、ありがとうございます」

「よっ! カスカル、大きくなったな。今年に成人だろ? 頑張れよ」

 

 その大きな荷物を届けてくれたのは、クラウス・ディートボーク。

 アサハレ村とユウバナ村の丁度中間。 アサユウ街道沿いに立って運営されている大きな牧場の跡取り息子である。

 年齢は20歳。 過去に額を切った関係で傷痕の残るスカーフェイスであり、赤黒い髪をざっくばらんに切った快活な偉丈夫だ。

 カスカルは彼の事を尊敬していて、リオリールにとっても、ちょっとだけエッチで頼れる兄貴分といった感じである。

 

 クラウスのボーク牧場では『三つ牛』を大量に畜産しており、『みつ島』で数少ない確立されたブランドの一つである。

 当然、クラウスの牧場の羽振りは良く、三つ大島で最も資産のある家と言っても過言じゃなかった。

 三つ牛は食べてヨシ、皮ヨシ、乳ヨシと文句のつけどころのない食材の一つであり、高級品だ。

 そして『三つ牛』は大人しく従順であるのに、大型の動物であるので馬力もすさまじく、人を乗せて馬車として活動したり、クラウスのように物を乗せて運搬業にも用いられる。

 

 更に言うと、三つ牛はとんでもなく強い。

 

 基本的に温厚。 

 そして集団で社会性を構築する習性もそうだが、敵対した相手に対しての集団突撃は、下手なモンスターよりも恐ろしい威力を誇っている。

 外皮が固く、筋肉と脂肪のバランスの整った大きな質量の突撃があるため、モンスターに狙われることも稀で放置して飼育しても問題ないという強みがある。

 畜産業にとってモンスターの襲撃は常に悩ましい問題になることが常なのだが。

 

 この三つ牛に限っては例外だった。

 

 三つ牛は消化するのが苦手な物を食べた時に飛び出す、おならが死ぬほど臭い(3日は匂いが取れないらしい)という事と、例外なく8年目で寿命を迎えて安らかに死ぬ、という以外に悪いところが無い神がかった牛と言われている。

 三つ大島で途轍もなく強い三つ牛の畜産業をしている所は多いのは、8年育ててもリターンが出るほどに儲かる。 そういう理由があるからだった。

 

 もちろん、何かの拍子に怒りに触れて牛の突撃によって破滅した牧場も少なくないが。

 

 祝い事があれば『みつ島』の全ての村々が、牧場に発注して『三つ牛』を購入するというのだから、その凄まじい人気が伺えるだろう。

 

「しかしユウバナ村は不幸だったな。 俺のところは何とか、例年通りって感じの大嵐の被害だったけど」

「どうもこの辺だけがピンポイントで、被害の大きい災害になってしまったみたいなんですよね」

「もぉー、困るよね! 大嵐なんて無くなれば良いのに。 夏が始まる前にワーッと来て五月蠅いし、アトリエでの作業は出来なくなるし、ロクなもんじゃないってば!」

「リオちゃんが釜を爆発させる事も無くなるから、村にとってはその方が良いんじゃないか?」

「あ──ーっ! クラウス兄さん、最近会ってないから私の事を知らないんだ! 今はもう爆発なんて殆ど、だいぶ、その、無いんだからー!」

「はは、リオ落ち着けって。 でも兄さん。リオリールは最近、錬金術も順調で頑張ってるのは本当なんですよ」

「えー、本当かー?」

「本当ですってば!」

「はは、分かった分かった、そんな詰め寄るなって。 まぁ確かに、こんなにアトリエも立派になったしな。 ほら、離れろリオ! 近すぎるだろ顔が。 誘ってるのか?」

「むぅぅ、誘ってません! もう良いもん!」

「あらら。 むくれるなって。 悪かったよ、リオちゃん。 はは、参ったな」

「久しぶりに会ったんですし、クラウス兄さんゆっくりして行ってくださいよ」

「いや、わりい、カスカル。 この後、もう一軒配達があってな。 終わったらコイツ等の世話があるから無理だ。すまねぇな」

「えー、それは残念です」

「リオ、しょうがないよ。 兄さん、忙しいでしょうけど、また顔を出してくださいね」

「おう、またな!」

 

 そう朗らかに笑ってクラウスは、荷物を曳かせてきた三つ牛のお尻をまたもパンパンと叩いて。

 牛が必要になったら、何時でも来いよと一言残して、止める暇もなく帰ってしまった。

 爽やかで明るいクラウスは、アサハレ村のキエーシャ先生の学び舎の、最初の学生だ。

 言うなれば、リオリールとカスカルにとって、クラウスは学校の先輩に当てはまる。

 

 そこで幼いころから面倒を見てくれたお兄さんなので、忙しそうに帰ってしまったクラウスの事は双子にとって残念な事であった。

 

「もぉー、相変わらずクラウス兄さんは変わんないんだから。 私の胸を見て話すの止めて欲しいなぁ」

「はは。でもさリオ。兄さんはお前の事を気に入ってるみたいだし、俺は兄さんが義兄になるなら大歓迎だけどな」

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん、何言ってるのさ、もー!」

「それより、これ。 大陸から送られてきた錬金釜だろ? アトリエの中に運ぼうぜ」

「も、もぉう。 でもこれ大きすぎてお兄ちゃん一人じゃ無理だよね。 力持ちのイッチさんを呼んでこようか」

「ああ、頼む。 二つもあるしな」

 

 そう、リオリールとトルテが、カタログから選んだもの。

 

 それは錬金釜であった。

 

 せっかくシーバーシーがプレゼントしてくれるのだからと、母のユトネの勧めもあって、とびきり高価な物を遠慮なくお願いしたのである。

 

 縦1m30cm。 横は1m45cm。

 高さも80cmもある大型の釜であり、それが2口。

 今まで調合に使っていた錬金釜──―正確には鉄の鍋──―と比べると、錬金術で造られているだけあって釜の強度は明確に差がある。

 形やデザインもオシャレであり、ただ調合をする為だけには不必要なんじゃないかと思える程に細工が施されており、洒落ていた。 都会ぢからを感じるリオリールである。

 

 では、本当に洒落てるだけで機能性は無視されているのかというと、そこは錬金術が本場のアカデミーの釜というところだろうか。

 

 素材を置く場所が開閉式で折りたたまれており、レシピを置ける台帳すら、調合中に邪魔にならない場所にあってワンタッチで開くことができた。

 口周りは何時でも開閉が可能で、釜の底には温度をある程度ではあるが調整する昨日までついている。

 特に、釜の底の調節機能は凹凸の在るボタンが存在しており、火力の調節弁が設けられていた。

 

 これは、煮立った釜からエネルギーを得て、レヘルンを適量噴射して火を消さずに威勢を落とすことが出来るようになっている。

 そして取り付けられてるレヘルンには『永久機関』の特性が付与されており、無限に使用することが可能だった。

 

 当然、失敗した時の爆発の被害も最小限になるように設計されている。

 蓋を締めれば殆ど全ての調合において、爆発規模が縮小するのだ。

 

 本来、爆発反応が高まった調合失敗の爆発は、錬金術士は防ぐことができない。

 ある点を過ぎ去った時点で、どれだけ腕の良い人が攪拌しようが、他の道具で中和しようが爆発してしまうのである。

 だが、この錬金釜は釜の方が自動的に爆発反応を感知して蓋を締めてしまう。

 爆発の規模はずっと小さく抑えられるし、圧力に負けて釜が爆散することも無い。

 産業廃棄物だけは出てしまうが、それは失敗の代償である。

 

 まさしく、錬金術の機材としては最高級の釜。 文句なしの一品だった。

 

 お値段、2口で驚愕の 4 8 7 万 コールである。

 

 

「うん、良い錬金釜……おとーさんに貰った奴と、殆ど変わらないかな」

「うへぇ……トルテちゃんのおとーさんって、すごいお金持ちなんだね……」

「そうだよ。おとーさんはすごいの」

 

 何故か胸を張るトルテに、リオリールは苦笑した。

 羨ましい話だが、この錬金釜の値段はすさまじい。なんと行ってもユウバナ村の復興に必要な金額が、釜3つで賄えてしまうではないか。

 釜3つでユウバナ村が復興します、なんてリオリールにとっては恐ろしい話であった。

 いっそ、これを一個売った方が手っ取り早く……なんて思いも一瞬だけ過ってしまう。 

 その位には恐ろしい金額だ。

 

 大陸では旧式となっているらしい、釜を用いての錬金術だが、こうした機材はしっかりと用意できるようになっている。

 それを大した時間を掛けずに用意して、大陸から遠く離れた三つ大島に送り込むシーバーシーの財力や手際にも恐ろしさを感じてしまいそうだった。

 流石は大陸の貴族……と想いつつ、そういえばお母さんも貴族だったようなと心の片隅に過る。

 

 そんなリオリールの思いを他所に、トルテは言った。

 

「釜が新しくなったってだけなのに、凄く良い気分……」

「あは、そうだね」

「旧式っていうけど、お値段は新式の機材とあまり変わらない」

「カタログで見てると、殆ど変わらないみたいだけど。 でも、新式の錬金術の方が機材の用意する量は多そう?」

 

 リオリールの疑問に、カタログを開いていたトルテが答える。

 実際には使用人口の関係から生産数の少なくなってきた釜だからこそ、このような値段になっているのだが、二人はその実態については詳しくなかった。

 とはいえこのレベルの金額がポンポンと飛び交う大陸は、どんな魔境なのであろう。 経済の額面が飛躍しすぎてて頭が追い付かない。

 なんとも言えない微妙な感情をお互いに向け合って、リオリールとトルテは苦笑しあった。

 

「あ、錬金溶液のレシピと保管用の容器が一緒についてる」

「本当だ……これ、シーバーシーさんが書いてくれたみたい……へぇー、シーバーシーさんがオマケで作ってくれたんだって!」

 

 釜のレシピ台帳のところに、お洒落な便せんが置いてあるのを見つけたトルテが開いてみると、錬金術で使う水として最適な、錬金溶液のレシピと実物が付随していた。

 字もとっても流麗で、恰幅の良いシーバーシーの姿が思い出される。

 

「真水よりも、今はこの調合液体で錬金術をするのが一般的、か」

「すごいなぁ、向こうは色々と研究が進んでいるんだねぇー」

 

 言いながら、リオリールもトルテも、新しい錬金釜の前で落ち着かない様子でうろうろと観察を止めない。

 それを見ていたカスカルは肩を竦めて、ゼッテル用紙の束から一枚、依頼の紙を抜き取った。

 

「リオ、トルテ。 早速、始めてみるか?」

「うん!」

「やる!」

 

 バッっと元気のいい返事と共に振り向かれて、カスカルは盛大に顔を見合わせて笑った。

 

 リオリールとトルテは我慢できないと言った様子で、レシピを確認して錬金溶液を満たし、素材を手に取ると、勢いよく新しい釜を使っての調合を始めて──―

 

 もう言わなくても分かるだろうが。

 

 

 ちゃんとアトリエは爆発した。

 

 

 

 

 幸いなことに、アトリエの爆発の規模は今までよりも格段に抑えられて、少しばかりの煙が室内に充満するだけで終わった。

 ただ、納得がいかないのは素材を投入して間もなく『中和剤』の調合で爆発させてしまった二人の錬金少女である。

 

 不満です、という顔を隠さずに悔しさに拳を握り、頬を膨らませるトルテ。

 新品の釜で早速、調合を失敗して爆発させてしまって意気消沈してソファーに力なく身体を預けるリオリール。

 

 爆発の原因は、錬金溶液だった。

 

 今まで、リオリールは生まれてこの方、井戸水か海水でしか錬金術を行ってきていなかった。

 その為、海水を使っている感覚で温度や素材の投入を行った結果、あまりにも反応の良すぎる錬金溶液の『効率』の高さについていけず、爆発反応を抑え込むことに失敗してしまったのだ。

 

 トルテもユウバナ村に来てからはずっと海水での感覚に慣れていた。

 だが、それよりもトルテの失敗は、錬金溶液によって高まり過ぎた素材同士の『軋み』のようなものを制御できない事が原因だった。

 

 つまり、リオリールもトルテも、攪拌能力が錬金溶液を使った調合に追いつけなかったという事だ。

 

「ううう、ここに来て、また新しい課題が生まれてしまうなんて、そんなの聞いてなぁ────ーいっ!」

「こんな高効率で素材同士の反発が進むなんて、信じられない反応の高さ。 今まで調合に使っていた水は何だったの……」

 

 不公平さを感じるほどには、錬金溶液の効果の高さを認めてしまっていた。

 爆発する直前に、攪拌していたリオリールとトルテの手には、確かな手応えが返ってきていたから。

 

 やがて、ぽつりとトルテは言った。

 

「リオ、シーバーシーさんが作った錬金溶液は使わないでおこう」

 

 トルテが言ったのは自分が失敗したから、という単純な意味ではない。

 

 今回使った錬金溶液は、新しい錬金釜を用意してくれたシーバーシーが、好意から贈ってくれたものである。

 アカデミーの大講師が錬金術用に作ったこの錬金溶液は、恐らく彼がわざわざ錬金術で作ってくれた凄まじく上質な一品もの。

 そこまで説明すれば、リオリールも途端にトルテが言いたい事に気が付いた。

 

「自分で、自分用の錬金溶液を作って、それで自分の調合をしないと意味がないってこと?」

「そこまでは言わないけど……どちらかというと、シーバーシーさんの錬金溶液に頼ってはいけないっていうか、そういう話かも」

「うん……うん、確かにそうだね。今までよりもずっと品質の良いアイテムが、出来そうな手応えだったもんね……自分の実力ではないって感じだった」

「これに慣れたら、怖いくらい。いっそ捨てた方が良いかも知れない。 どこかで頼ってしまって、自分の実力と勘違いはしたくないから」

「でもさ、トルテちゃん。この位の溶液をしっかり作れるようになれば、錬金術士としては凄く上手になってるって事でもあるよね?」

「ん……それは確かにそうだね、悔しいけど。見本として取っておくのも……あり、か」

「うん! 追いつけ、追い越せだよ!」

 

 

 錬金溶液という新たな武器と共に、リオリールとトルテには新たな挑戦が追加されたのであった。

 

 

 ・──────────────────────―●

 ●錬金溶液      作成:トルテ・リオリール

 

 素材の能力を最大限に引き出し、特性数の枠も必ず+1される驚愕の性能を誇る、錬金釜に満たす為の調合用の水。

 特別な素材は必要なく作れるが、作成する人の腕がもろに品質と効果に影響する、ある意味で中和剤と同じく最も錬金術士の腕前を見定める事が出来る作成物でもある。

 この調合液体によって『リオリールのアトリエ』では品質・効果・特性の付与に上限値が無くなる。

 品質999を目指す為には、『効力』を高めた品質の良い錬金溶液が必須となる。

 

 レシピ:井戸水・トーン(魔法の草)*2・ウニ・(中和剤系)

 ● 効果            ● 特性

 ・効果最大値上昇        ・貫通力(リオリール)

 ・品質最大値上昇        ・クサイ(トルテ)

 ・特性を引き出す

 

 トルテ「いい加減、どんな物にも貫通力を付与するの止めてよ、謎が増えるから」

 リオリール「トルテちゃんこそ、臭い!」

 トルテ「く、クサイって言わないで!」

 リオリール「ちょっと! あの、いや、トルテちゃん、それフラム! なんで懐から取り出したの!?」

 トルテ「爆殺します」

 リオリール「ぎゃあああ──ー、投げないで! 悪かった! 私が悪かったから────!」

 ●──────────────────────―・

 

 

 

 

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