リオリールとトルテのアトリエ~三つ大島の錬金術士~ 作:ジャミゴンズ
準備を終えて入口に戻ると、日は空高くに上がって昼時になっていた。
リオリールもトルテも、そこで大きく口を開いて唖然としてしまう。
いや、錬金術士である彼女たちだけではない。
カスカルもゼルマも、みなが一様に朝に見た光景から一変した遺跡の姿に呆けてしまって居た。
「こんな大きな花園なんて、無かったのに」
「いや、そんな馬鹿な。見落としていただけに違いないさ、そうに決まってる」
「こんな大きな物を?」
「……」
朝に来た時は花や実をつけた植物は確かに見なかった。
陽が昇ったから花弁が開いた、というだけなら分かるが、つぼみなども存在していなかったというのに、今では色とりどりの花が開いている。
ちょっと前までは植物も枯れていて廃墟にふさわしい、うすく寒い光景であったのに。
今見ているこの場所は、遺跡の入り口前に立派な花園に出現したと言っても過言ではなかった。
リオリールは手近な花壇となった垣根の傍に近寄って、花を手に取ってみる。
「見た事も無い花……錬金術の調合にも、使えそう……赤、青、黄色、緑、スゴイ色の数だよ」
その横で覗き込んだトルテは、リオリールに同意する様に頷いた。
「瑞々しいね。鮮度も品質も見た事が無いくらい良質。 この花『多色染料』の素材に適してるかも」
錬金術士としては、いっそ歓迎できるような光景の変化だったが、疑問は募る。
一方でカスカルは入口を封鎖している建物の正面扉に手を当てて、耳を澄ませていた。
「中の音は……特に何も聞こえないな」
「石材や建物の外観に変化はありませんね。といっても、見事としか言い様がない花園が現れるだけで印象がだいぶ変わりますけど」
イッチの声にカスカルは頷いて、天井を見上げれば、ここにもレリーフが刻まれている事に気が付いた。
散見されるレリーフには何かの生き物を象った物が刻まれている。
狼のようにも見える四足の動物は共通しているが、口に咥えている物が球体だったり、四角い物だったり変化が見られた。
「何か意味があるのか? どう思う、イッチさん」
「刻んであるレリーフの数はこの付近だけでも10枚以上になります。同じ物もあれば、画が違う物も……これだけでは何とも言えないですね」
「そうか、そうだな……」
共通点は確かにあるが、それが何なのかと問われると答えは出そうに無かった。
ゼルマはナハトバッハに同じようにカスカルの疑問をぶつけている。
「あんたは大陸のプロフェッショナルだろ。どうなんだい?」
「いや、俺達はまだ駆け出しだ。そこまで史跡に詳しい訳じゃないし、三つ大島には来たばかりだから」
「見習い? どういう事だい。装備も充実していたし、経験だって豊富なんだろう? 村で聞いてた話と違うじゃ無いか」
肩を落とし、ナハトバッハはとつとつと語り始めた。
そも、大陸の人間は三つ大島との交流は最低限になるように国から言われてきた。
本格的に交流が進もうかという現在も、同様に法が適用されている。
その理由は三つ大島に住む人たちを刺激しないように、国家の方針で定められていたから。
外交をもって三つ大島をフィンデラーンド王国に吸収合併しようという目的を考えれば、小さな交流すらも目を光らせて監視する必要があった。
三つ大島という領土を取り込むために、王国は長い年月と莫大なコストをかけている。
ナハトバッハは勿論、妹のマルグレートもその事は知っていた。
今後の未来でどうなるかはともかく、今の三つ大島に大陸から来訪するには幾つかの役所で手順を踏まなければ正式には訪れることができない。
併合前は少なくとも、滞在するための証明が必要だった。
それは大陸からの許諾証もそうだし、三つ大島を管轄している中央島の行政上での許可もそうだ。
当然それは三つ大島から大陸に渡るのも同様で。
アカデミー講師のシーバーシー、王国騎士のインヴェルンも、例外なく中央島でこの手続きを行ってからユウバナ村へと訪れている。
「色々と言っているけど、とどのつまり密航者か。あんたたち、無許可でウチの島に来たんだね」
「……妹は上昇志向が高かった。見返してやると言って聞かなくて……いや、これは言い訳だな」
「ああ、兄貴のアンタが止められなかった。それどころか一緒に来てる時点で、全部言い訳になるさね」
少なくとも、現行法ではナハトバッハ達は悪事を犯している。
三つ大島に古址街道を初めとした過去の遺跡が多く残っている事は、大陸でも有名だ。
大陸の歴史家などは、三つ大島への調査に胸を躍らせている者も多い。
貴族の間でも話題になるなど、新しい国土となる三つ大島に多大な期待と注目から、視線が集まっているのは間違いが無かった。
既に調査隊の入島の申請なども多く中央には打診されている事が、分かっている。
「待てなかった、ってことでいいのかい?」
「……ああ、その通りだ」
「まったく、呆れるおバカだねぇ……もう」
ゼルマは首を振って苦笑を浮かべてそう言った。
ここでナハトバッハを責め立ててもマルグレートは危険な状況であることに変わりがない。 ゼルマが責め立てても仕方ない事である。
「マギー……ああ、妹の愛称なんだが、マギーも俺も、実績が欲しかった。それも、すぐに目に見える形で」
「そりゃどうして? 急ぐ必要なんて、無いんだろ?」
「俺達には後ろ盾がなくて、パトロンも居ない。金も無かった。遺跡の調査活動するにはどうしても必要な物だ。だから、まだ真新しい三つ大島で大きな発見となる功績か、そうでなければ」
「金目になるものかい?」
「ああ」
「そこまでして、遺跡を調べたいってのは、何故なのか。 聞いても?」
「それは……」
言いよどんだがナハトバッハだったが、話すべきだと思ったのだろう。
顔を上げてゼルマに目を合わせ、口を開いた。
「俺達には、弟が居た。 弟も遺跡調査を目指していて、ある日を境に戻ってこなかった」
「まさか」
「ああ、無許可で遺跡の中に、一人で入って行ってしまって行方不明になった」
「なるほど。だけど、それなら大陸の遺跡を調べるべきなんじゃないか?」
「勿論、それはそうだ。 だけど大陸の遺跡を調べるには既に名を挙げて功績を認められた者か、もしくはその土地の所有者から調査の許可証を買うしかなくて……弟が消えた遺跡に入るには名声か巨額の金を稼ぐしか無いんだ」
「ふん、そうかい。同情はするけど真っ当な道じゃないおバカなのは判ってるんだろ?」
「そうだ、な……すまない」
「あたしに謝られても。 ま、事情は分かったさ」
肩を落として小さくなるナハトバッハを視界の端に修めつつ、どこもお金が無くて大変なんだなぁ、と暢気な感想を抱きながらリオリールはレリーフの刻まれた柱の前に立った。
狼が何処かの崖上で、空を見上げているものだった。
空には太陽があり、その太陽が照らしているのは一本の大きな大きな樹木だ。
壁画の為に分かりずらいが、その樹木には色とりどりの──―先ほど、花園で観察していたような色彩豊かな花を咲かしている。
狼は何かを咥えていた。
「あれ……? これ、何処かで見たような……?」
狼の口元には記憶に引っかかるような、何か見覚えのある形をした物だった。
リオリールはじっとその場所を見つめて、目を閉じて唸る。
絶対にどこかで見たはずだ、と記憶を掘り起こし、しばし。
ふっ と天啓に閃くものにあっ、と声を出した。
「そうだ、オーレンジスさんの部屋の中で見たんだ! 確か、アデーレちゃんの頭についてた──―」
螺子に似ている。
言葉にすることがリオリールは出来なかった。
その時、リオリールは壁画の狼の口元を撫でていたのだが、ジジジ、と何かのノイズ音が響いたからだ。
「ん? なんだ?」
「今の音は?」
リオリールは音が何処から鳴ったのか、探すように振り向いた。
その瞬間だった。
バカンッと何かが割れるような音。身体が急に浮遊感を感じ、視界が一気に下方へと落ちる。
「へっ!?」
「リオっ!」
「トルテさん!」
少し遠くの方から響いた、トルテちゃんを呼ぶイッチの大声。
兄であるカスカルの焦燥の声と共に伸ばされる手。
それを掴む暇もなく、リオリールは開かれた地面の中へと吸い込まれるように落ちて行った。
トルテが最後に見た光景は、リオリールが柱の前のレリーフを触り、異音が響いたと思った瞬間に落ちて行く姿だった。
同様に、自分の視界が一気に暗くなって、遠くなった認識だ。
気付いた瞬間には何も出来る事は無く、トルテは浮遊感の中で身を縮こませる事しか出来なかった。
やがて何かが背中に当たり──―思ったよりも衝撃はまるで感じなかった──―真っ暗闇の中で地面に着いた事を理解する。
「……」
トルテは恐る恐る、手を伸ばしてみた。
起き上がるのは何があるのか分からないので、怖かったのだ。
ただ、伸ばした手すらも見えない真っ暗闇の中では、何も意味のある行動にはならなかった。
「っ、そうだ。カンテラ……」
腰に付けた異物感に気付いたトルテは、ポーチの中から火種を手探りの感触で探し出し、カンテラへと慎重に火を点けた。
生きてるナワに念じると、すぐに腰から外れて、トルテは右手でカンテラを持って掲げた。
ぼんやりと灯りが生まれ、周囲がゆっくりと照らし出されていく。
最初にトルテが見たのは 顔だった。
「ひゅいっ……!」
声にもならない音が肺から吐き出される。
まるで本物の人間が、目の前に現れたかのようにトルテの顔の眼前に現れたのだ。
驚きすぎて、気絶しなかったのをトルテは自分で褒めた。
一気に心拍数が上がったのを自覚しながら、左右に首を巡らせば、人体を模した手や足などが所せましに並んでいる。
最初に見たような、人間の顔が乱雑に足下に転がっていた。
「いやっ!」
恐ろしくて、反射的に蹴飛ばした首が、何かに当たった。
まるで最初から仕組まれていたかのように、トルテの蹴飛ばした首は跳ね返って、トルテの頭上にある何かにぶつかる音が響く。
掲げたカンテラが、トルテの頭上から降ってくる人影を捉えた。
四肢のある意思の無い人形が、トルテの目の前に落ちて、首がもげる。
「……」
トルテは気絶した。
「いたたた……ど、どうしよう、真っ暗すぎて何にも見えない」
同じく落下してしまったリオリールは、落ちてきたはずの天井を見上げても、まるで光源が見当たらない事に焦っていた。
幸い、当たり所が良かったのか、落下時のダメージは殆ど無い。
いや、実を言うとヒーリングサルヴで痛みそのものは抑えているだけだが。
とにかく、リオリールも持ってたバックがクッションになってくれたおかげで、落下時のダメージは大きく抑えることが出来ていた。
問題は視界が効かない事だ。
身体の向きを変えたり、手で地面と思わしき場所をまさぐったりするが、視界が効かずにどうすることも出来ない。
そこで、リオリールはカンテラの存在を思い出すが、持っているのはトルテと兄のカスカルだけだ。
いや、正確には調査道具を一式揃えているはずのナハトバッハも、背中に背負ったリュックの中には入っているのだろうが。
リオリールは少しの間、助けが来るのを待つか、それとも自分からこの場を動くかを逡巡した。
動かない方が良い。
ゼルマが、ナハトバッハが。
何より、誰よりも信頼している兄のカスカルが、必ず助けに来てくれる。
だけど。
そうは思ったのだが、数分……リオリールの体感では数十分に及ぶ暗闇の中で、痺れを切らしてしまった。
急に独りぼっちになってしまった上、真っ暗な遺跡の中に閉じ込められたとあって、怖かったのだ。
「うう、もう我慢できないよ。 えっと、何か、光源になるような道具がポーチの中にあったかも」
光源になるような道具は何があった。
思考を巡らしている中、リオリールはフラムの導火線に火を点ける為の打ち石くらいしか持っていない事に気が付いた。
今はそれしか心当たりがない。
リオリールは打ち石を何とか手の感覚だけで取り出して、地面に膝を付けながら石を目一杯叩きつけた。
カツン! と音が鳴って、一瞬だけ火花が散る。
「あぅう、ダメだ、こんな一瞬じゃ何にも見えないや」
流石に瞬時に周囲を確認することは出来ない。
そもそも、光源としては火花程度では足りな過ぎた。
真っ暗の中で動くことは出来ない。
もしもこの遺跡の中も崩落寸前であったら、どこに道が続いてるのかもわからないし、穴があってまた落ちてしまったら、ますます脱出することは出来なくなる。
リオリールはマルグレートも同じように、レリーフの調査をしていて落とし穴に入ってしまったのだと気付いたが、今は自分の身の方が危ない。
その思考を追い出して、考える。
「そうだ、纏めてるゼッテル用紙の束を燃やせば、少しは周りが見えるかも」
思いついたのは、素材や道具、錬金術士としてフィールドワークをする為に考えていた事をメモした(又はする予定だった)ゼッテル用紙を燃やしてしまうことだ。
僅かな時間しか周囲を照らさないだろうが、それでも何も見えないよりはマシなはずである。
再度打ち石で火種を作り、リオリールはゼッテル用紙の束を迷いなく燃やした。
僅かな焦げるような臭気と共にぼんやりと照らす光源を確保したリオリールは、周囲を急いで確認すると長方形の部屋のようだった。
遺跡の入り口で見た物と同じような、だけどサイズだけはとっても大きくなった壁画が、正面に飾られているのが分かる。
左右を見回せば、奥の方に扉と思わしきものが見えた。
そして、背後の方に何か、妙なガラクタや段差。そしてぼんやりと朧な光が見えたような。
そこでゼッテル用紙の束は燃え尽きてしまった。
「後ろに光ってる物があったからあそこに行けば……でも、こんな暗い中を歩くのは無理かも」
そしてリオリールはまた、暗闇の中でポーチを触りながら、身体を低くした。
脂汗に張り付くクリーム色の髪を撫でる。
喉を一つ鳴らして、リオリールは決断した。
暗くて良く見えなかったが、背後にあったガラクタは木材に見えた。
危険だとは今でも思っているが、何も見えないままではこのまま暗闇に閉じ込められてしまうだけだ。
「フラムで燃やそう」
決断すると同時、一瞬の躊躇いもなくリオリールはフラムの導火線へと打ち石を叩きつけた。
ジリジリと最近になってようやく聞き慣れた、導火線が燃える音を聞いて少しだけ安堵する。
「いけ────!」
そして投擲。 直後に爆発。
リオリールの予想通り、何に使っていたのかも分からない家具のようなガラクタは、木材で出来ていたのか。
爆発と爆風を受けながら、轟音を立てて燃え始めて周囲を赤く照らし始めた。
「あっっつぅぅ……だめだこれ」
燃えた木材を持とうとしたが、フラムによって熱されたせいか火傷してしまいそうだった。
松明として利用するのは難しそうだ。
煙によって少しだけ咳き込む。
危険を感じ、急いでリオリールは身を低くしたまま部屋の中を駆け抜けて、光っぽい何かが見えた場所へと急ぐ。
煙と炎で視界が悪いし、少しだけ息苦しいが、どうやらこの部屋はかなり大きい構造で密室では無かったらしい。
空気の抜けるような音が聞こえているのにリオリールは心底安堵を抱きながら、大胆かつ慎重に歩を進めた。
「あった、さっきのはコレだったんだ!」
それは炎による照り返しなどではなく、確かに物質そのものが光っていた。
光の正体は苔である。
石の壁。 その溝に沿うようにびっしりと生え揃った苔そのものが、自ら光を放っているのだ。
リオリールはその苔を手で触ってみた。
「感触は普通の苔みたいだけど……」
苔は苔だった。
だが、問題は壁に生えている状態では光源となりそうな、この光る苔が手に取って毟ってしまうと光が消えてしまうことである。
まだ燃えている炎の光を利用して、リオリールは苔をじっと観察した。
どうにかして、この不思議な光りを放つ苔を持って移動できなければ、また暗闇の中に閉ざされてしまう。
爆弾だって数個も使ってしまえば無くなるのだから。
じっくりと見ていると、特性や効果、素材の特徴などが見て取れた。
「──―これ、錬金術の素材になる? そうだ、錬金術で光を作れれば!」
いつもの癖で懐のポケットに手を突っ込んで、ゼッテル用紙の束を燃やしてしまった事に気が付く。
そもそも、ペンで紙に書き込む事は、この光る苔の目の前でも光源が弱すぎて難しい。
トルテがやっているように、頭の中で理論を構築し、レシピを完成させなければならない状況に追い詰められた事を、リオリールは理解してしまった。
リオリールは念のために持ってきていた、小さな鍋をポーチから取り出す。
トルテから聞いて空間を弄るポーチの作り方を教えてもらっていて、本当に良かった。
念の為にと持ってきていた自作の錬金溶液を鍋の中に移し、少し火勢の弱まった木材を幾つか拝借して、鍋をその上に置く。
リオリールの手は震えていたが、苔の光を頼りに準備は整った。
光を作るんだ。
パチリ、と火が爆ぜる音が鳴り響く中、リオリールは額に浮かぶ汗を拭いながら必死に思考を回した。
素材として根本となるのは、植物類にカテゴリーされるだろう、この『光る苔』だ。
ポーチの中で持ってきている素材になりそうな物は、先ほど花園で手に入れた『色とりどりの花』
リオリールは採取した花を全て取り出して、その全ての花弁だけを手で千切り、擦る様に混ぜ合わせる。
本当はすり鉢で行うべきだろうが、そんな器材までは流石に準備していない。
葉や茎の成分は恐らく、必要のないものだ。
調合で使う部分は、花びらが適していると思う。
それはリオリールの直感によるものだったし、根拠はあまり無い物だったが、結果的には調合の難易度を下げる物だった。
リオリールがイメージしている光源は、少し前に話していた時に発想しかけたカンテラだ。
遺跡の中でも外でも、三つ大島で暮らす夜中に出歩く人は大概カンテラを腰や手に提げている。
最近では何かの事故で燃え移らないように鉄を用いる事が主流だが、少し前は木材だけで型組をしてカンテラを造っていたことも知っていた。
目の前に、木材はたんまりとあった。
だいたいは燃えているが、無事な乾いた木材もいくつか転がっている。
「ポーチの中に木材なんて持ってきてないし、これで作るしかないよね」
手近に転がっていた先端だけ燃えて焦げている棒の様なものをリオリールは掴んだ。
ざらざらとした感触だったが、明らかに木材のような木目ではない手触りに、思わず目を向ける。
「あれ、これ……金属? ううん、なら好都合だよね。よし!」
光る不思議な苔。
よく分からない棒状の何かの金属
花園で手に入れた名前も知らない色とりどりの花
レシピとしては、光源として苔。これはカテゴリ・神秘の力。
金属はインゴットの代わり。
そして花は、ピュアオイル……植物油の代替品。
何度か頭の中で反芻し、リオリールは組み上げたレシピを口の中で何度か復唱。
トルテの声。教えてくれた知識。
レシピを組む際に気を付けること。
そして、錬金術として体系建てられている、基礎と初歩。
カテゴリーの種類と、最終的に調合を行って完成するアイテム。
反発、爆発……失敗の要因。
じっくりと時間をかけてリオリールは、頭の中で理論を構築していく。 そのうえで素材でその原因になるものは無いハズだった。
気が付けばリオリールは身体がとても火照っていた。 暑くて仕方ない。
びっちりと汗だらけになった額をもう一度。
持ってきていた布で丁寧に汗を拭きとった後、そのまま頭を覆って即席の頭巾にする。
大丈夫だ。
材料はきっと何とかなった。
投入順序は──―先に溶かす必要があるインゴットからで良い。
使っている水は、錬金溶液だ。
何度か試しているから、感触は覚えてる。
攪拌の感覚は……うん、大丈夫。 リオリールは自分を信じられた。
レシピを頭の中で準備をしている最中に、室内を照らしていた火勢はほとんど勢いを消失して、フラムによって炎が燻る破裂音すらも無くなった。
周囲に余分な音が無くなり静寂が訪れる。
視界に頼れる光源は目の前で光っている不思議な苔だけ。
暗闇に馴らす為に瞑っていた目を見開いて、リオリールは煮立ち始めた小さな鍋へと視線を向ける。
ポーチの中から、お鍋をかき混ぜる大きめのヘラをその手に握って。
「ふぅ──ー…………大丈夫……できる。 私は、できるんだから……い、いくぞぉ~~~」
震えた声を誤魔化すように、リオリールは一つ大きな息を吸い込むと、何かの金属を鍋の中に放り込んだ。
約40分のぐるぐるとした攪拌を経て、リオリールの調合は無事に成功した。
「やった! 出来た! 光ができた────!」
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●光苔カンテラ 作成:リオリール
苔がぼんやり光って灯りを点すカンテラ。
光源としては強く無く、所持者の周囲をぼんやり照らすくらいだが、暗闇の中を蛍光する灯りとして十分に機能する。
色とりどりの花を素材に使った結果、虹色に光るゲーミングカンテラが完成した。
探索用のアイテムだが、持っているだけで所持者のステータスを少しだけ底上げする。
アカデミーでも登録されていない、リオリールの独自の発想から生まれたアイテム。
レシピ:錬金溶液・(植物油)・(インゴット)・光る苔
● 効果 ● 特性
・周囲を照らす ・貫通力+
・虹色 ・出来が良い
・ブレイク値上昇 ・沁みだす光
・全能力強化
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こうして探索用のカンテラを即席で調合することが出来たリオリールは、達成感にぐったりしたまま暫く、出来上がったばかりの淡い虹色の光の傍でしばしの時間を過ごした。