リオリールとトルテのアトリエ~三つ大島の錬金術士~   作:ジャミゴンズ

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09. 街道遺跡

 

 

 

「くそ、ダメだ。どうやっても開きそうにないぞ」

 

 遺跡の入り口に取り残されたカスカルたちは、何とか入口を開こうと四苦八苦していた。

ナハトバッハとイッチが落とし穴を、ゼルマとカスカルで入口の扉を、どうにか開けないかと試行錯誤してみたが、何をやってもうんともすんとも言わなかった。

 

「仕掛けはこのレリーフなんだろうけど、リオの奴、どうやって反応させたんだ?」

「窪みはあったけど、これに何かを挿すような事はしていなかったからね」

「条件が分からないな」

「見ていたけど、リオもトルテも、別に変な事はしてなかった。 何かの条件に引っかかったのは違いないけど」

 

 そう言ってゼルマが顎に手を当てて考え込んでいる所に、ナハトバッハたちが合流した。

 

落とし穴は完全に石畳みで閉じられており、繋ぎ目を破壊することも石畳みに穴を開けることも硬度が高すぎて無理だった。

入口もダメ。落とし穴に繋がる石畳を開けるのも無理となれば、思いつける方法は殆ど無い。

背嚢から、ナハトバッハ幾つかの掘削用のショベルを取り出す。

結局、最終的に頼るほか無いのは、物理的手段である。

 

「道が無いなら作るしか無い」

「こんな場所に来てまで、穴掘りかい?」

「確かに、地下に落ちたってことは掘れば良いって話かもしれないけど……」

 

 ゼルマとカスカルは気の乗らない様子で口にするが、他に良い方策も思い浮かばなかった。

仕方なしにカスカルがナハトバッハからショベルを受け取り、その軽さに少しだけ驚く。

大きさはカスカルの腰ほどまであり、鋼鉄としか思えない素材で造られているのに、紙の様に軽かった。

 

「調査の為に錬金術士に作って貰った道具なんだ。普通のスコップよりは、疲れないと思う」

「すっげぇ。こんな軽いなんて……うわ、反動も全然ない! やばいってこれ!」

 

 試しにカスカルが地面に匙の部分を突き刺してみれば、まるで大地の土が滑らかなバターを割くように、力も居れていないのに突き入れられた。

この広大な廃墟が土砂で埋まっていても、掘ってみようという気力を取り戻すくらいには、カスカルのやる気を復活させてしまっている。

 

こうした物が農具などに応用できれば、かなり労力を省くことが可能になるだろう。

それは単純に人の手を減らし、大きな生産力を産むことを想像させた。

カスカルは驚きとともに、錬金術の可能性にここで大きな衝撃を受けることになる。

 

「こんな道具が大陸では一般的な物なのか?とんでもないな……」

「大きく普及している訳ではない。何だかんだ、錬金術で作られる物は値段が高いからな」

「三つ大島も、錬金術が広まったら開拓できる自然が多くなりそうだな」

「王国が積極的に動いてるから、そうなる日も近いかもしれない」

「確かに……」

 

 こうしてカスカルに少なくない衝撃を与えつつ、救出活動は再開され協力して穴を掘ることになった。

 

 

 

 交代で行われる作業の最中にナハトバッハはカスカルへと歩み寄って頭を下げた。

 

「カスカル君、すまなかった。君の妹まで巻き込んでしまって」

「いえ、ナハトバッハさん。そりゃ心配ではありますけど……でもそれは、ナハトバッハさんも同じじゃないですか」

「いや、俺の妹……マギーは死んでも死なないような奴だから心配はあまりしてないんだ。 世界の裏側に飛ばされても、果てしなく他人に迷惑を掛けて図々しく生き残るだろうな」

「はは、何ですかそれ」

「冗談じゃないんだぜ」

「想像がつきませんよ」

 

 カスカルは苦笑を交えて、ナハトが不器用に慰めてくれているのかと思った。

後に確かにナハトバッハの言う通りだと頷く事になるとは、この時は考えていなかったのである。

ただ、不思議なのは落とし穴の仕掛けがリオリールとトルテを巻き込んだ後に、一度も反応をしなくなった事だ。

その事を何となく聞いてみれば、ナハトバッハは少しだけ心当たりがあるようだった。

 

「錬金術?」

「正確には、錬金術士、かもと踏んでいる」

 

 確かに落ちてしまったのはリオリールとトルテだ。

二人とも共通している事といえば、年齢を抜かすなら共通点は錬金術士であることくらいだろう。

ナハトバッハの姉、マルグレートも友人から教えてもらってお遊び程度に錬金術を嗜んでいるらしい。

もちろん、本格的に錬金術士としての勉強はしたことがなく、基礎となる中和剤も殆ど失敗するようで本当に趣味として楽しんいるだけであると言う。

 

 重要なのは錬金術適正試験ではマルグレートも適正資格ありと判断されており、ナハトバッハは無しと診断されている。

 

遥か過去、この廃墟へ入る資格があるものは、錬金術士だけだったのかもしれない。

ナハトバッハの予測に、カスカルは曖昧に頷いた。

大陸と接触する100年くらい前までは、錬金術の存在は三つ大島では無かったものだ。

それが三つ大島の常識だったし、カスカルにとっても事実だった。

 

だから、過去に三つ大島で錬金術が存在して、それが廃れたなんて容易には信じられない。

フィンデラーンド王国の発展してきた背景に錬金術があるのなら、三つ大島で失われた理由は何故なのだろうか。

おかしいじゃないか。

三つ大島に錬金術が存在したのなら、なぜ三つ大島は発展することが出来ず、錬金術という技術を失ってしまったのだろうか。

 

「一番に考えられるのは、戦争だろう」

「戦争?そんな話は、昔話やおとぎ話にも伝わって無いですけど……」

「それこそ、口伝ですら伝わらないくらいに、昔の事だったのかも知れないぞ。調査が進んだら、そういう歴史も紐解ける日が来るかもしれないね」

 

 ナハトバッハの言葉に、カスカルは作業の手を止めて考え込んでしまった。

あまり三つ大島の過去に興味を抱く事は無かったが、こうしてナハトバッハと話して居ると確かに気になってしまう。

過去の遺跡から手掛かりが現出した以上、なぜ先祖たちは錬金術を捨てたのかという疑問が湧き出てくる。

 

 歴史家、調査……遺跡。

 

 カスカルは少しだけ想像してしまった。

自分が歴史家の道を選んだ時。そして大きな発見をした時の事を。

 

遺跡調査の時に錬金術に頼る事は、ナハトバッハさんやマルグレートさんも積極的な事から、推奨される事なのだろう。

 

幸い、カスカルにはリオリールとトルテという錬金術士が居る。

遺跡調査の為に道具を揃える苦労は、伝手の無い人よりも楽ではありそうだ。

 

妹たちが作ってくれた道具を有効に使い、三つ大島にある多くの遺跡や廃墟から過去を調べ上げ、大きな功績を手に入れる。

子供らしく妄想が広がって、カスカルは沢山の知り合いたちに賞賛を受けたり、王様から栄誉の証を戴いたり。

率直、その妄想は楽しかった。

 

カスカルは首を振った。

大切な家族が遺跡の中で遭難して、救出作業の最中に耽る考えではない。

ただ……

救出しようとしているマルグレートが栄誉や功績を求めて無茶をする気持ち、それが少しだけ理解できてしまったカスカルだった。

そのくらい、魅力的なロマンを兼ね備えている職業であることを認めてしまったから。

 

「さて、そろそろ戻らないとゼルマさんに怒られそうだ。交代してくるよ。カスカル君は、もう少し休んでいてくれ」

「あ、ええ。お願いします……」

 

 遠ざかるナハトバッハの背を見送って、カスカルは軽くため息を吐きながら周囲を見回した。

もうお昼も過ぎて陽が沈むまでは3時間ほどだろうか。

あまり悠長に休んでる場合でもなかった。

錬金術のショベルは確かに、凄まじい力を発揮しており、人力とは思えないペースで掘り進む事が出来ている。

だが、それでも何処までリオリールとトルテが落ちてしまったのか分からない現状では、急ぐに越した事は無いだろう。

 

 そこでふと、カスカルは周囲を見回していて気付いた。

 

 イッチが居なかった。

 

 

 

 

『なに?みつ島の遺跡でリオリール・フェルエクスと逸れて危険だと? 何をしているんだ、怪人一号』

「申し訳ありません。合流を急いでます。しかし、一つ問題が」

 

 ショベルを肩に掲げ、イッチはぷにぷにを模した通信機でレッドマンとの交信を行っていた。

不自然になることは承知で、場所を移して一人で穴を掘り進めることにしたのだ。

 

主人公であり、レッドマンにとっても大事なリオリールに大事があれば、イッチは即座に命を落とすことになりかねない。

入口をレッドマンに与えられた力で破壊することも考えたが、流石に人間離れをしすぎていて、リオリールを救助した後の立ち回りが描けなかった。

 

 古址街道の遺跡はゲームの中にも存在する。

 

この遺跡は本来、序盤では遺跡の中に入る入口はストーリーが進まない限り入ることは出来ない。

少なくとも成人の儀を終えていなければ道が解放されないのだ。

アカデミー入学後である中盤以降になって解放される採取地の一つであり、遺跡の内部には遥か過去の遺物が残っている。

だが、現実としてリオリールとトルテは遺跡の中に入り込んでしまった。

 

メタ知識として知っている出現するモンスターの強さを考えると、悠長に構えている訳には行かない。

 

『その問題とはなんだ?』

「既に遺跡の外壁を破壊しています。中には過去の錬金術の遺物とモンスターが残ってて危険です。 そして……内部には入れるのですが、私は夜目が効きませんので、暗闇の中では救助活動が行えない」

『なるほど。視界が効かないのか。仕方ない、お前の目を闇の中でも見えるように今すぐ魔本で造り替えてやる』

「ありがとうございます、レッドマン」

『他に必要な事があれば纏めて今から言っておけ。こっちも王国への工作に手間取っていて時間が掛かっているんだ』

「ひとまずは夜目が効けば問題ありません。リオリールは必ず助け出します」

『良いだろう。不審な行動を控えて、リオリールの信頼を勝ち取るんだ』

「はい」

 

 通信が切れると同時、イッチは眼の奥に熱を感じた。

痛みは無いが、強烈な違和感。

三半規管にあたるような物が存在するのかは分からないが、激烈な眩暈に襲われた時の様に、ぐるぐると視界が廻る。

体が人間の物であれば、とっくに嘔吐していそうな程、上下左右が揺らいでいた。

 

思わず両手で瞼を抑え、蹲る。

殆ど同時に、何かが額に当たった感触と、硬質な音が響いた。

 

 何も見えない周囲で、何かに取り囲まれている事を敏感に察知して足に力を入れて飛びのく。

破壊され開けられた遺跡内部の暗闇から、飛び出してきたのは兎型の獣と何かの機械生物だ。

額から角が生えており、一般に角ウサギと呼ばれる猛獣。

殆どが石のような物で構成された、スラグとも呼ばれる機械生命たちが内部から飛び出してきていた。

 

 ようやく造り替えられた瞳が開き、状況を確認できる状態になると、イッチの周辺には5体ほどの敵が囲むようにして動き回っていた。

 

「角が青白い。ダイアラビット? スラグの方は、随分と大型な……」

 

 襲ってきた相手を確認していると、横合いから鋭い空気を裂く風切り音が響いて一体の兎を貫いた。

大きな獣の骨で造られたような、長弓を構え、高所から撃ちはなっているのはナハトバッハだった。

イッチは冷静に、そういえば彼は弓も装備することが出来たな、と感心していた。

 

 90メートルほど離れた場所から正確にモンスターを貫いた腕は、ゲーム内と同じく本物だろう。

 

「何をしてるんだ!」

「大丈夫かイッチさん、戻れ!」

 

 弓矢を構えたナハトバッハの援護を背に、カスカルとゼルマが雪崩れ込むようにイッチの前へと滑り出て、そのままウサギ達へと突撃する。

流石に人数が多く、不利を悟ったのかウサギ達やスラグは瞬く間に散会して森の奥へと一目散に逃げ込んで行ってしまった。

 

「居ないと思ったら、こんな場所で遊んでるとはね。にしても何てガタイの大きいモンスターだ。 逃げてくれて良かったわねアンタ」

 

 ゼルマに同意するように、カスカルも追随した。

 

「俺も一発当てたのに、まるで効いてなかったですよ。 アイツら、ただのウサギじゃなかったな……」

「あれはダイアラビット……の多分ですけど、亜種だと思います。角が硬質化していて、素早く、群れで行動する習性があります。石みたいなやつはスラグと呼ばれているのを機いことがあります。 恐らく、戦闘に慣れてる人でも苦戦するようなモンスターだったでしょう」

「いや、冷静に解説してくれてるけど、それめちゃくちゃ危なかったって事だぞ、イッチさん」

「それは……申し訳ありません。 ですけど、ここに遺跡の中に入れそうな穴を見つけて調べようと思ったんです」

 

 イッチの言葉に、カスカルとゼルマはお互いに顔を合わせて、建物と思わしきものが露出している場所を覗くと、確かにイッチの言う通りに穴が開いていた。

すごい、お手柄だ、と喜ぶカスカルに、ゼルマは冷ややかな視線をイッチへとぶつけた。

構造上、自然に作り出されるような穴ではなく、周囲には掘削の後が見られる掘られたばかりの土の山が残っている。

入口の近くに散乱している『ガラ』は明らかに遺跡の入口を作る為に、破壊された形跡が残っていた。

 

 一見すると、自然に出来た穴のように思えるが、ゼルマにはすぐにイッチが開けた穴であることが理解できたのである。

 どの建物も破壊が不可能で謎に包まれた遺跡。

 過去、大勢の調査に入った人たちが見つけられなかった入口。

 偶然、穴が空いたのを発見出来たなどとは信じられない。

 

「……まぁいいさね。救助が先だ。 入口が出来たなら、準備をして中に入ろうか」

「そうですね! よし、ナハトバッハさんも呼んでこよう」

「あ、ボクが呼んで来ますよ。 準備を進めて置いてください」

「ああ、ゼルマさん、カンテラの火種は足りてますか?」

 

 イッチはゼルマから突き刺さる視線から逃げるようにして、ナハトバッハを呼ぶ役を志願した。

多少強引だったが、突破口は開いた。

この遺跡の内部はゲームの中でも結構複雑だったが、モンスターの数はそう多く無かったはずである。

 

そもそも、ちらっと覗いた遺跡内部は真っ暗闇。

光源を持っていないリオリールが遺跡の中で動き回る事は、そうは無いだろう。

急いで合流すれば、モンスターの脅威に晒されることなく、保護することが出来るに違いない。

 

イッチは内心の焦燥を必死に抑えつつ、リオリールの無事を祈りながらナハトバッハの下へと急いだ。

 

 

 

「あれー!?同じところの柱に戻っちゃった!?」

「だからさっきの道は、見たことあるって言ったのに。リオ、あんた方向音痴なんだね」

「さっきマルグレートさんの案内に従ったら、3回も同じこの場所に戻って来ちゃったじゃないですか! そりゃ私も……よく方向音痴って言われるけど、マルグレートさんだってそうじゃん!」

「そうなんだよ!こいつぁまずいぜリオちゃん! こういうのは無限ループってやつだ!」

「無限ループ?」

「そう!永遠に同じところを彷徨ってしまう、構造上トラップにアタシ達はどっぷりと嵌り込んだってことさ! もう生きて戻る事はできねぇかも知れねぇ……」

「そ、そんな!? マルグレートさん!どうすればいいんですか!?」

「知らん!でもこういう時は、前に進めば何とかなるさ。行くぞーーー!」

「ま、待ってくださいよ! もう少しちゃんと考えてから行きませんか?」

「うひひひひ、考えても無駄だってば! 活路を開くには前進あるのみ! 何のために目は前に付いてるんだ? 前に進むからさ! さぁ、元気出して行こーー!」

 

 再び、およそ30分ほどの時間をかけ、びくびくとモンスターが出したと思われる物音に怯えながら。

リオリールとマルグレートはぐるりと一周するような形で再び同じ場所に戻ってきていた。

その衝撃の光景に、リオリールはついに心が折れるようにして地面に尻もちをついた。

 

「やだー! また見覚えのある出発地点の柱があるーーー!」

「アッハッハッハ、参ったな―こりゃ! やっぱり無限ループに嵌ってるね!」

「うう、お腹もすいてきたし、誰も助けに来てくれないし……どうなっちゃうんだろう」

「リオ、安心して。アタシがついてるよ」

「マルグレートさん……」

「アタシはこれでも遺跡調査のプロフェッショナル(になる予定)大丈夫だってば!」

 

 ニカっと笑うマルグレートの表情はまるで陰ることなく、リオリールを励ました。

もともと性格的に前向きな、立ち直ることも早いリオリールは、マルグレートの言葉に微笑み、そうですよね!と気を取り直す。

 

「無限ループに嵌った時、対処法があるの」

「そうなんですね! も~、それを早く行ってくださいよぉ! プロが居て良かったぁ~~……それで、その対処法って何ですか?」

「前進する!」

「え?えっと……?」

「とにかく歩き続ければ、何時の間にか知らん場所に着いてる事があるのさ! かのアマシンダ・モードレット氏も無限ループに嵌った時、ひたすらに前へと歩いたという自伝を出しているわ! さぁ、分かったら立って立って! 新たな未知の世界を求めてレッツラゴーよ!」

「あ、アマシ……誰ぇ!? な、何にも解決になってないよー! やだーーーー! 誰か助けてぇぇぇーーー!」

 

 この流れはトルテが調合を終えて扉を開くまで続くことになるのだが、幸いなことにイッチの不安の種であるモンスターとの遭遇は、避けれているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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