リオリールとトルテのアトリエ~三つ大島の錬金術士~   作:ジャミゴンズ

47 / 47
06. 集う候補生と旅立ち

 

 

「おう、貴族の坊ちゃん! もしかして、アンタか!?」

 

 アカデミー試験である三つ大島中央島へ向かう大型船。

 その船内で一番大きな空間、乗り合い室前の倉庫区画。 クロームメックは、大量の荷物を背負って立っていた。

 そんな彼に、なんとも無遠慮な声を掛けたのは、黒い短髪で野性味の溢れる男であった。

 長大な直剣と腰のショートソード。茶色のマントにタンクトップ。腰には多くのベルトと小物やナイフ。 胸元にぶら下げてるのは銀色のネックレスを数個つけている。

 

 その中の一つ、冒険者を示す銀板を手で持って、片手をあげて笑みを浮かべていた。

 顎鬚だけは残しているのか、爽やかなような暑苦しいような絶妙な顔立ちである。

 

「見ての通り僕は貴族だが、貴方は?」

「俺の名はガパラゴス。 フェントルスタンって貴族さんの依頼を請けるつもりでな。 あんただろ?」

「そうか。 察しの通り、フェントルスタン・クロームメックは僕の名前だ」

「おお、やっぱりそうか! よろしくな! いや、依頼を見てたまげたぜ。 月々2万5千コール。 しかも行き先は一般渡航がまだ許されていない三つ大島ときた。 ハッハッハ、俺はついてるぜ、誰よりも先んじて未踏の島々に合法的に乗り込めるなんてよ!」

 

 随分と騒がしい男が来たようだ。

 クロームメックは眉を顰めつつ、指を立てて決めていた事を告げる。

 

「……この依頼は三つ大島での護衛。それに僕の試験中は待機。そして、三つ大島に居る間の全期間に渡って、僕の護衛を請け負ってもらうための契約金だよ。 三つ大島は王国にとっても未だ未開の地だから、君の身の安全は確保できない。 だから金を多く出す」

「はははっ、シンプルだ、いいねぇ。 だがよ、アンタの依頼はそれだけじゃねぇだろ?」

 

 ガパラゴスは、クロームメックの背中の荷物を指さしてニヤリと笑った。

 クロームメックの荷物は、貴族の子弟のそれとは思えないほど多すぎる。

 もちろん、貴族らしい身の回りの世話をするためのメイドや執事がいないというのもあるが、それにしても多すぎる。

 

「フェントルスタン家っていやぁ新式だもんな! こいつを持ち運ぶのが一番の理由じゃないか?」

「まぁ、そうだけど……うるさい奴だな」

 

 付き合っていると疲れそうだ。 

 とんだハズレを引いたな、と考えながらクロームメックは荷物を持ってもらうよう指示を出してから、普段はたくさんの物資を積むための大きな倉庫の方へ向かう。

 

「あらら、お冷たい。 ま、これから長い付き合いだ。 ゆっくり行くか」

 

 ガパラゴスはウキウキしている気持ちを隠さず、急いで荷物を背負ってクロームメックの背中を追いかけた。

 冒険者らしい、子供のような好奇心がそこにはあった。

 

「三つ大島という場所は、僕たちアカデミーの人間にとっても未知の領域だが、怖くは無いのか」

「へへっ、冒険者だぜ。 俺はよ。 むしろワクワクしてるね。 アンタはアカデミー試験を受けられて、俺は金も稼げて未踏の土地を歩ける! 最高じゃねぇか!」

 

 クロームメックは、そのあまりのポジティブさに、思わずため息を吐いた。 性格的に本当に合いそうにない。 やっぱりハズレを引いてしまったようだが、雇い直す暇もない。

 

 大型船であるこの倉庫は一時的にアカデミーが貸し切って、三つ大島でアカデミー試験を受けるための者たちが集まっている。 

 勘違いしてはいけないのは、これは錬金術士志望だけではないということだ。 

 

 そもそもアカデミーというのはフィンデラーント王国主導の超巨大な教育機関であり、錬金術士はあくまで職業の内の一つにすぎない。

 職人、学士、研究者、詩や踊り、芸術、法務部に騎士志望。

 かつてはそれぞれの道の専用機関があった。

 

 例外は目の前の冒険者とそのギルド。 そして遺跡調査組織くらいと言ったところである。

 

 クロームメックを含め、船内に集う若者たちは、それぞれの夢と希望を胸にざわめきながら案内を待っている。 中には、試験に対する不安や緊張を隠しきれない者もいれば、クロームメックのように冷静に周囲を観察している者もいる。

 ガパラゴスのような冒険者や傭兵らしき人物も散見され、彼らは試験官や他の受験生の護衛、あるいは荷物運びとして雇われているようだった。

 

 やや喧騒が残る中、倉庫の中央やや左側に用意された台に、一人の男が足をかけて壇上に登ると、緊迫感の無い緩い声で人々に呼び掛けた。

 

『は~い、錬金術士で志望のみなさんはこちらに集まってください~』

 

 気怠そうに声を掛けるその人物の声は、喧騒の中でも嫌に大きく響いた。 

 恐らく、発声を補助するような道具を使っているのだろう。

 クロームメックとガパラゴスは、一度だけ顔を見合わせて監督者と思われる男の下へと足を進めた。

 

『あ~。 集まったのかな。 はい、どうも。 アカデミー特別入学試験 97期・冬季試験を担当するココナツだよー、顔を覚えてね、よろしくね』

 

 受付の願書をまとめたファイルだろうか。

 ココナツは手に抱えているファイルをペラペラとめくりながら、周囲に集まった候補生を眺めて顔を確認するように、一人一人を眺めて行く。

 

 釣られた訳ではないが、その様子にクロームメックもここに集まった候補生達を見回してしまった。

 これから始まる試験、そして未来の同期やライバルになるかもしれない相手であり、どうしても気になってしまう。

 

 ひときわ目立つのは、深紅のドレスに金糸で刺繍された上等なケープを着て堂々たる態度で最前線に立つ女。 取り巻きも多く、7~8人ほどの集団でまとまっている。

 間違いなく、クロームメックと同じような貴族であり、態度も一番でかかった。

 実力は分からないが、関わると面倒そうなことだけは分かる。

 

 その近くの柱で腕を組み、不機嫌さを振りまくように周囲を睨んでいる男。

 緑色の髪。 頭の側面を刈り込み、奇抜な模様を入れたヘアスタイル。 衣服の端々には、ペンキのような汚れがこびりついている。 錬金術士というよりは、ガラの悪い現場職人といった風情。

 あくまで貴族であるクロームメックには縁のない、王国でも数少ないスラムに居てもおかしくない出で立ちだった。

 

 別の柱の陰に隠れるように、青い髪を長く伸ばして片目を隠し、やたら目立つ胸と分厚い眼鏡をかけている女も候補生のようだ。  

 見た目からして陰気で、オドオドと周囲を警戒しているようだが……問題はそこじゃない。彼女の肩にはシマリス、足元にはポメラニアン? 

 動物に好かれる性質なのか、それとも違うのか。

 ともかく、あそこだけまるで動物園のようだった。

 

 そして、クロームメックの後ろでボロン、ボロンと耳障りな楽器を弾いている男。

 糸目の優男で、年齢は僕たちより一回り上に見える。20代後半くらいか? 

 鍔の広い帽子に、時折口笛を吹く……とても錬金術士の試験に臨むような恰好と態度ではなかった。 

 もしかしたら、吟遊詩人の願書と間違えたのではないかと思うくらい場違いだが、どうやらちゃんと候補生のようである。

 

 クロームメックは頭を抱えそうになった。

 なにより、自分の隣に立っている奴が一番目ざわりだったからだ。

 

 黒いマントに眼帯、手には明らかに作り物と分かるお手製のドクロ……見ていて痛々しい。

 

「ククク……闇が……」

 

 などと独り言を呟いているのが隣にいるので嫌でも聞こえてくる。

 あの眼帯もドクロも、何かの儀式用なのか、それともただのファッションなのか。  

 雰囲気作りには余念がないようだが、よく見ればコートの袖口は擦り切れ靴も古い。  ミステリアスを気取っているが、生活感が見え隠れしているのが何とも言えない哀愁を誘う姿であった。

 

 その他にも数人。

 候補生だけでいえば、ここに集まった13人が『錬金術士』としてアカデミーの冬季入学試験に挑む者たちの様である。

 

「はは、流石に個性的なのが集まるもんなんだな、錬金術士ってのは」

「同意するよ。 変人だらけだな」

「おっと、お前さんも含まれるだろ」

 

 ガパラゴスが肩を竦めて呆れるようにそう言った。

 なんて無礼な奴だろうか、と思うと同時に、確かにクロームメックも周囲の視線を集めている。 その原因は持ち込んだ新式錬金の道具を一式で取り揃えて持ってきたからだろう。

 高価かつ大型の荷物をしこたま持ち込んでいるのだから、目立つことは覚悟の上ではあったが、クロームメックの予想以上に存在感が出てしまっているようだった。

 

 ガパラゴスを心配したのは、これらの器材を守る為でもあるのだが……もう心配はないだろう。 というか、心配するのがアホらしい性格の男だった。

 

「僕は万全を期しているだけだ。 一緒にするなよ」

 

 ガパラゴスは片手を挙げるだけで、あえて言葉にはしなかった。

 クロームメックはしばし笑顔の彼を睨むように口をすぼめたが、ココナツの手を叩く音で意識が戻る。

 

『はーい、全員確認完了です、お待たせしましたー。 欠席者は1名、後は全員いますねぇ。 それじゃ、説明を始めますよ』

 

 ボロン、ボロン。

 居住まいを正す者たちの中、耳障りな楽器を弾く詩人くずれの音が響きながら、ココナツの説明が始まった。

 

 注意しろよ。

 

 クロームメック以外の全員の内心が一つにまとまった瞬間である。

 

 

 

 

 

 いよいよ試験の説明が行われるかと身構えた一同だが、ココナツは期待されたような長広舌を振るうことはなかった。  

 ただ無造作に、刷りたてのインクの匂いが残る一枚の羊皮紙を、候補生たちへ配らせただけだった。

 

『えー、それじゃ一言だけ。 この冬季試験はアカデミーの方でも初めての試みになるから、あまり三つ大島で騒ぎを起こさないよーに。 てことで今から配るこれ読んでね~。 おっけーだったらサインね』

 

 手渡された紙面に視線を落としたクロームメックは、そこに羅列された文字を目で追った。  

 そこには、例年とは全く異なる特殊な試験形式が書かれている。

 


【王立アカデミー 第97期 冬季特別入学試験 実施要項】


 ■試験期間と合否  

 

 1:期間は本日から起算して1年間とする

 2:本試験期間中、4月、8月、12月の計3回、入学試験への受験機会を設ける。  

 3:各試験の合格者は、その時点で本試験終了となり、大陸へ帰還する。 棄権する場合は担当官ココナツへ申告し、4・8・12月の定期船にて帰還すること。

 4:候補生の宿泊施設は「中央自治区」に用意する、清潔に利用しましょう。

 5:他島への移動・調査は自由だが、行程管理は自己責任とする。

 6:本試験は三つ大島の文化「成人の儀」に倣い、各島で発行される【認定証】の収集を推奨する。  

 7:収集は任意、未収集によるペナルティは発生しない。  

 8:ただし、認定証を収集し、レポートを提出した者には本試験への加点を考慮する。

 

 ■機材貸与  

 

 認定証収集を希望する者には、申請により最新鋭携帯錬金器材『ミックスフィールド』を無償貸与する。

 貸与を希望する場合は、担当官ココナツへ都度申請すること。

 

 以上、サインを以て本試験への承服の証とする。

 

 name___________________

 


 

 

「長期滞在型の実地試験……か。 前々から通知されて知ってはいたけど」

「にええええ!!」

「……?」

 

 隣の胡散臭いドクロ女が奇声をあげる。 

 彼女に周囲からの視線が集まるが、じっと両手で紙面を見つめており、固まっているだけだった。

 

「な、なんだ……アイツ、いきなり」

「ははは、書いてあることに面食らったんじゃねぇか」

「別に大したことは書いてないだろ。 事前にアカデミー側から通達された物と殆ど同じだ」

 

 クロームメックは眉を顰めて何度か読み返したが、気になるところを敢えて挙げるとすれば、ミックスフィールドの貸し出しくらいだろう。

 

「なぁ旦那。 他島への移動は自由だってよ。 認定証ってのを集めると有利らしいぜ」

「なんだ、ガパラゴスは移動したいのか?」

「え、しないのか?」

 

 途端に情けない顔をして狼狽するガパラゴス。 

 彼は冒険者らしい冒険者を目指しているのだろうか。 

 偏見かもしれないが、彼はとても好奇心には負けそうな性格をしていそうだ。

 

「認定証集めというのは加点を考慮しているだけだろ。 そんなものに頼らなくても、僕は試験を突破できる自信がある」

「そうか……それは……残念だ」

 

 ガパラゴスは眉を下げてがっくりと肩を落とした。

 クロームメックは大袈裟な態度に苦笑してしまう。

 口を曲げて三つ大島を冒険したいと全身で表す彼に、呆れつつもクロームメックは言った。

 

「だが、一つ気になっている事はある。 シーバーシー大講師を知っているか?」

「ああ、名前はな。 グランドキノコ展を開いたのは有名だよな」

「それは知らないが……三つ大島には錬金術士がいるらしい。 シーバーシー大講師ほどの大物が、わざわざスカウトした奴だって」

 

 これは既にアカデミーに入学している友人、トナトールから聞いた噂話である。

 

「リオリール・フェルエクス。 独学で錬金術に辿り着いた天才だそうだ」

 

 ヒュウ、と口笛を吹いてガパラゴスは笑った。

 

「会いに行くのは面白そうだろ?」

「良いね、そうこなくちゃな」

「どんな物を作っているのか、興味があるんだ」

 

 ガパラゴスは掌に拳を当てて、へぇ、スゲェ物を作ってるかもな! と同意する。

 クロームメックはそんな彼に肩を一つ竦め、サインを認めるとココナツへと提出した。

 

 こうして約1週間の航跡を経て、メーテルブルクから出発した候補生を載せた大型船は、三つ大島の中央島へ無事に到着したのである。

 

 ……

 ……

 

 

 

 ──三つ大島・ユウバナ村。

 

 リオリールとトルテのアトリエの前。

 柵を跨いだ庭先だ。

 

「さて、準備は良いか」

 

 カスカルはそう言って、背中に大きなリュックを背負い込んで振り返った。

 同じ様に旅支度を終えたリオリールとトルテが、カスカルの目を見返してこっくりと頷く。

 

 大人になる為の旅立ちが、いよいよ今日、この日から始まる。

 まずは案内人であるクラウスと合流するため、ボーク牧場に足を伸ばす段取りだ。

 

 すぅー、と大きく息を吐いて、リオリールは吐き出した。

 

「……緊張するぅ」

 

 結局、アトリエテントを作成することは叶わなかった。

 発想は良い物だったが、どうしても人が自由に動ける空間の拡張が出来なかったのだ。

 トルテと顔を突き合わせ、一週間頑張ったが、成功には至らないまま終わっている。

 

 いつか創ってやるぞリストに無事に入り、アトリエテントはお蔵入りすることになったのだ。

 

 カスカルは肩の力を抜いて笑う。

 

「気合入れすぎても持たないぞ、お前ら」

「でも、最初の一歩から躓けないから」

 

 トルテはコンパクトにした杖状の『とつげきうお(ブリ)』の柄を握りしめ、胸元に寄せて言った。 カスカルは小さく頷く。

 

 15歳の少年少女が、顔を見合わせてお互いに少しの時間だけ、見つめ合った。

 

「そうだな……それじゃ、行くか?」

「うん」

「行こう」

 

 それぞれ手提げの荷物と大型のリュックを背負い、3人の子供が歩き出す。

 

 

 まだ少しだけ残る雪道を、踏みしめて。

 

 

 

 

 

 

 ユウバナの丘を越えると、人影が現れた。

 お腹を大きくしたユトネ。 そして、エルオネとミルミスだ。

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん、頑張ってね」

「ふた島とひと島のお土産、買ってきてよねー! 早く帰って来てよね!」

 

 カスカルとリオリールに向けて、少し距離の離れた場所から妹達の応援が飛んでくる。

 少しだけ顔を見合わせて、リオリールはエルオネ達に手を振った。

 

「行ってくる!」

 

 カスカルが代表して声を上げると、母のユトネはお腹を片手で抑えながら、小さく手を上げてゆっくりと振り返す。

 

「行ってらっしゃい、カスカル、リオリール。 怪我しないようにね。 さぁ、エルオネ、海に出ているお父さんの分も応援してあげて」

「うん! お父さんとお母さん怪我するなってー! 気を付けてねー!」

 

 エルオネが元気よくがんばってー! と、両手を上げて飛び跳ねた。 ミルミスも真似して、万歳していた。 妹達に見送られ、カスカルは鼻の頭を擦った。

 

「……はは、気を付けないとな」

「うん! みんなー! またねーーー!」

 

 リオリールはオールを頭上で振って、頭のブリ人形を跳ねさせた。

 

 

 

 その少し先にはアムースコ村長とヘーゲが同じ様に腕を組んでいた。

 リオリール達に気付くと、彼らはしっかりと近づいてきた。

 アムースコ村長が握手を求め、リオリールたちが応じると、最後に柔らかい口調で背中を押した。

 

「道中、よく学んで来なさい。 気をつけて行くように」

「アムースコ村長、ありがとうございます」

「私たち、頑張ってきます」

「……アトリエのこと、お願いします」

 

 トルテの声に任してくれと力強い返事を返すと、ヘーゲがカスカルへと何かを渡していた。

 

「ま、これも勉強だと思ってな。 『ハチヤド』に行ったら試してみな」

「これ何のチケット?」

「行きゃわかる。 へへ、良い経験になるぜ」

「よく分からないけど、ありがとう。 ヘーゲ兄さん」

「何貰ったの? お兄ちゃん」

「分からない、何かのチケットみたいだ」

 

 そんなやり取りを尻目に、カスカルは懐のポケットの中にチケットを入れ再び前を向く。

 トルテが遅れて通り過ぎた頃、ヘーゲから大きな声が響いた。

 

「おい!」

 

 3人揃って振り向けば、彼はグッと力こぶを作った。

 何かを言うことなく、そのまま親指を立てる。

 

 リオリールも、トルテも、そしてカスカルも。

 

 言葉を返すことなく、同じ様に腕を伸ばして親指を立て返す。

 

「行ってきます!」

 

 トルテが声をあげ、アムースコ村長とヘーゲに見送られた。

 

 

 その先にはイモールさん、ロモイ婆さんに連れ添ってまだ成人していない子供たちが。

 右に左に、アサユウ街道までの道の端で、成人の儀への旅立ちを見送ってくれた。

 

 そして、最後に見送ってくれたのはオーレンジスとアデーレだった。

 

「いよいよ成人の儀だねぇ。 晴れて良かった。 気を付けてね」

「お努め、頑張ってください。 リオリール、トルテ、カスカル」

「うん、アデーレもまたね!」

「ひと島に行った時に機会があれば、僕の故郷にぜひ立ち寄ってくれたまえ」

「オーレンジスさんの故郷に? 分かりました、覚えておきます!」

 

 リオリールの元気な声に、カスカルも隣で頷き、オーレンジスと短く握手を交わした。

 

「故郷の名前は、なんですか?」

「一つ樹村っていうんだ。 潮流トロッコからなら、それなりに近いんだよ」

「へぇー、トロッコ? 乗り物かな?」

「楽しそうな響きだな」

「あはは、楽しいかは人によるかもね」

 

 オーレンジスは苦笑のような物を浮かべながら、咳ばらいを一つ。

 

「それじゃあ、長らく引き留めるのも悪いからね。 行ってらっしゃい」

「はい、行ってきます!」

 

 軽い調子で片手を挙げて、気さくに見送るオーレンジス。

 アデーレは対照的に、深くお辞儀をして頭の螺子をクルクルと回していた。

 

「ヘーゲ兄さんも言っていたけど、送られる側になると照れるな」

「えへへ、本当にね。 でも嬉しいよ」

「なんというか」

「どうしたのトルテちゃん?」

「イッチがいないの寂しい、かな?」

「……うん、そうだね」

 

 言葉を重ねながら歩く。 イッチは『錬金術士レッド』が見つかったことで、一足先に別れている。

 アサユウ街道の入口まで着くと、ゆっくりと遠ざかるユウバナ村を、リオリールは少しだけ振り返って、立ち止まった。

 街道の入り口からは、オーレンジスの後姿が坂の境界線に消えるところだった。

 冬の日差しと風を大きく吸い込んで。

 

 リオリールはしばし見つめる。

 もう人影もない、自分たちの愛おしい故郷・ユウバナ村。

 

 大きく吸って……息を吐く。

 

「行ってきます、みんな……よぉーし、立派な大人になって帰ってくるぞぉ──ー! 」

 

 オールを握り直して、走り出す。

 

 少しだけ先に行ったカスカルとトルテにリオリールは追いついた。

 

 

 

 

 成人の儀の旅の始まりだ。

 

 

 

 




間章1 旅のお供のアトリエテント

  完


やっと旅に出れました(´;ω;`)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。