リオリールとトルテのアトリエ~三つ大島の錬金術士~ 作:ジャミゴンズ
一夜明け、ミミガーデン村は重苦しい空気に包まれていた。
爽やかな朝の陽光とは裏腹に、村の裏手にある採掘場にはアウディを中心とした村人たち……そしてリオリールたち一行が集結していた。
ざわざわと騒がしい声の中に、混じっているのは『錬金術』と言う言葉だ。
リオリールとトルテには直接的な関係は一切ないが、漏れ聞こえてくる声には嫌悪の色が混ざっている様に感じた。
実際に彼らは錬金術について無知だ。
だが、暮らしを脅かすという脅威を目の当たりにすれば、良い印象を抱く事はないだろう。
リオリールはミミガーデン村の大人たちが、厳しい顔つきで相談している様子に何故だか悔しい思いを抱いた。
目の前にあるのは、美しい緑紋石の鉱脈。
しかし、その中に満月を模したような、円形に急須の口が付いた道具がある。
口から滴り落ちる液体がポタリ、とおおよそ一分に一回。
目薬の一滴のような小さな雫を落とし、確実に鉱脈をクズ石へと変えている。
この鉱石は村の産業そのものであり、生命線。
黒く浸透する速度は1cmにも満たないが、一つボタっと雫を落とすごとに、確実に下部へとその脅威を伸ばしていた。
「さぁ、やろうか。 まずは物理的に排除できないか試してみよう。 アルソーニ!」
アウディの号令と共に、腕に覚えのある村人がツルハシやスコップを持って慎重に近づく。
錬金術の道具とはいえ、岩に埋まっているなら掘り出せばいい。単純だが確実な方法に思えたが、どれだけガツンと表面を叩いても黒い鉱石の中にある『満月の急須』にはまったく届かない。
そもそも、黒く変質した鉱石が硬すぎる。
「村長、とても無理だ。 硬すぎる」
「そ、そうか……」
「アルソーニさん、ここから亀裂があって、体半分くらいなら入れそうですよ」
確かに黒い鉱石に守られている満月の急須は、亀裂が走っている空間が開いていた。
小柄な男性が器用に体を滑らせ、亀裂の中に手を伸ばす。
その手が、ちょうど急須の口から滴り落ちた黒い雫に触れてしまった。
「うっ、ぐ、あっ!!」
獣の皮で作られた手袋を貫通し、青年の手の指の一部を焼く。
「大丈夫か!?」
「い、いてぇ。 か、皮手袋が殆ど防いでくれたけど、と、溶けているぞ……!」
「ウォルフ皮の手袋なのに、こんな簡単にか!」
慌てて若者を引き戻すが、その指先は赤くただれていた。
ただの毒ではない。触れるもの全てを溶かし、変質させる劇薬だ。
一方で満月の急須のある下の方では、鉱石を這う血管そのものを砕く試みが行われていた。 ミミガーデン村の人と一緒に暮らす、ケモノたちだ。
彼らにとっても、ここは自分たちの縄張りであり仕事場。
侵入者である赤黒い管に対し、敵意をむき出しにして飛び掛かる。
ケモノが生来持つ鋭い爪こそが、彼らにとっての採掘道具。
鉱石を這うように表面に浮かぶ管を、硬質な音と共に引き裂いた。
ドクリ、ゴボゴボと血管が傷ついて噴き出るように、赤黒い液体が中から噴出する。
切断面から赤黒い液体が生き血のように噴き出し、周囲に撒き散らされたのだ。
「危ないぞ、離れろ!」
「キュゥ」
村人たちが囲むように見ている中、騒然と声を上げて驚いたようにケモノたちも俊敏な動きで逃げ出す。
地面に落ちた液体は雪と岩を瞬時に溶かして煙を上げる。
さらに恐ろしい光景が続いた。
引き裂かれたはずの管が、まるで生き物のようにうねり、ミミズのように伸びて互いの切断面を求めたのだ。
粘着質な音と共に、管は砕かれていない表面を走り、再び繋がって何事も無かったかのように脈動を始めたのである。
「再生するのかよ……」
「くそ、どういう原理だよこれは!」
様子をじっと見守る事しか出来ないリオリールとトルテは顔を見合わせ、その異様さに戦慄した。
排除しようとすれば中身をぶちまけ、壊しても即座に修復する。
「アウディ! あの鉱石丸ごとやっても良いなら、俺の牛を使ってみたらどうだ!?」
「クラウス……そうだな、三つ牛の力なら、まるごと破壊できるかもしれない。 頼んでもいいか!」
「ああ、任せな!」
細工がダメなら力業だ。
三つ牛サンとクウを連れ出し、一番太いロープを急須が埋まっている鉱石に、ミミガーデン村の人に頼んで強引に巻き付けてもらう。
「わりいな、目一杯頼むぜ」
その間、クラウスは牛の準備を進めると、サンとクウに一声かけてから大声で周囲に伝えた。
「これから三つ牛の力で引っ張るぞ! もっと離れていてくれ!」
周囲の安全を確保し、クラウスは一息入れてから、腕を大きく振り上げた。
「いくぜ! 引っ張れぇ!」
「ボォオオォ────!」
突進のハンドサインに、二頭の巨獣が大地を踏みしめ、剛力を発揮する。
ギリギリとロープが軋み、急須が埋まった岩盤ごと悲鳴を上げているようである。
何度も突進を繰り返し、その都度、岩を締め上げるような異様な音が周囲を震わせていく。
そして、一際大きい バチンッ、という何かが跳ねる音がなった。
摩擦を失ったロープが勢いよく滑って外れた。
行き場を失った極太のロープが、反動で鞭のように甲高い音を立てながら虚空を薙ぎ払っていく。
「きゃあぁっ!」
「わぁ!」
リオリールの目の前の地面が爆ぜた。
腰を抜かして尻もちをつく、リオリールとトルテ。 カスカルが少し遅れて彼女たちの前に立つ。
「大丈夫か? 怪我は……無さそうだな」
最後に地面に当たったのか。 カァーン! と甲高い音を残して騒ぎは収まった。
三つ牛でもダメなのか。
甲高い音は、絶望の音として響いていた。
「鉱石の表面を滑ってロープが外れたみたいだな……それにしても、三つ牛の力でも罅すら入らないとは」
「すまねぇ、無理だった。 頭数が増えれば別かもしれねぇが、この立地じゃ二頭くらいしか……安全を考えるとできねぇよ」
「そうだな」
クラウスが舌打ちをして興奮し足を踏み鳴らす牛達をなだめる一方、アウディは別の方法として液体そのものを堰き止めることを考えた。
赤黒い液体は『溶解』する性質を持つようだ。
それなら、簡単に溶解できないほど物質を敷き詰め捲った桶を大量に用意して、侵攻を遅らせることが出来ないかと思ったのだ。
数十分、桶にいらない物や砂利や砂、鉄、石などを放り込み、ミミガーデン村の総出で桶を作っていく。
そして急須の口から滴り落ちる場所に桶を設置するのだ。
「時間稼ぎかもしれないが、村の産業の鉱脈を守らねば……」
だが、無情にも液体が桶の中に触れた瞬間、何ら抵抗を感じさせることなく貫通した。 数分と持たず底が抜け、液体はそのまま地面へと吸い込まれていく。
これでは桶を作る労力と、物資の方が先に尽きてしまう。
「くそっ! なんなんだよ、これは!」
村長として、常に理性的であろうとしたアウディは、たまらず黒い鉱石に拳を降ろして悪態をついた。 擦り向けた指から、血を滲ませて。
クラウスを含め、誰もが満月の急須の雫が落ちていくのを見ていることしか出来ない。
ポタリ。
ボタリ、という音を聞く事しかできなかった。
それが、この道具に対する事態のどうしようもなさを決定づけていた。
物理的な破壊も、受け止めることもできない。
万策尽きた重苦しい空気が、ミミガーデン村を暗く覆ってしまったのである。
現状、手出しができないことが分かった以上、村人たちは立ち止まっているわけにはいかない。
厳しい冬の山頂での生活だ。薪を割り、雪かきをし、鉱石を集める。
彼らは不安を胸に抱えながらも、それぞれの生活と仕事へ戻っていった。
アウディは少し一人で考えたい、と言い残して奥にある自室へと入って行ってから一度も出てきていない。 昼食も取らないなんて、よっぽどショックだったのだろう。
実際、クラウスは彼の考えを尊重していた。
村の運命を背負っている。 それも自分と同年代の男がだ。
「兄さん、アウディさんは、どうしてあの若さで村長をしているの?」
「ああ、それか。 とりあえず、座りながら話すか」
テーブルにはパンとスープが用意されていた。
この大きな講堂は多目的ホールでもある。 昼食を取って話をしている人たちも散見された。
用意されているテーブルについて、リオリールとトルテ、カスカルとクラウスは思い思いに昼食へと手を伸ばした。
「アウディはもともと、村長の息子だった。 アイツには双子の兄貴もいたが……とある事情で今はタータラベに住んでいる。 アウディの親父さん4年前に亡くなってな」
7年前、ガーデン村は存続の危機にあった。
ミミガーデン村として新たな出発をする機会を設けたのが、アウディとその兄である。
そこにはケモノの存在が深く関わっているのだ。
まず、ケモノはモンスターである。
これは三つ大島全体の認識でも間違っておらず、本来は一緒に人間と生きることなんてしない動物だった。
だが、ケモノは人間と同じく社会性に富む動物であり、女王を起点として上下関係が厳しい生体を持っていたのだ。
「他のケモノより大きく、美しい青い毛並みの奴が女王だったのさ。 そしてアウディは偶然にも怪我だらけで遭難している女王を救った。 これが切っ掛けだ」
この山頂の鉱石を削って『住まい』にしているケモノの女王は、アウディに恩を感じたのか、案内をしたのだ。
今まで段々構造を登ってまで、カンカン山の山頂に行く人間なんて居なかった。
「麓の村を捨てて、あんな断崖絶壁の上に村ごと引っ越すなんて狂気の沙汰だ。 親父さんにも反対されてた。 だが、アウディは親父の村長と村人を説得し、ケモノや三つ牛と協力して資材を運んで、この『ミミガーデン村』を作り上げたんだよ」
「……なんで、納得できたんだろう」
トルテの声に、クラウスは予測だが、と言ってから続けた。
「今と同じか、それ以上に絶望的に未来が暗かったってことだろうな」
「もしかして、兄さんはその時に此処に来たの?」
「ああ、丁度、俺が成人の儀を受ける為に最初に来たのがガーデン村だったんだ」
クラウスは水を飲みながら、ゆっくりと頷く。
そんなクラウスの声に、リオリールとトルテの背から少し年配の男の声が降りかかる。
「あの時はな。 飯がなくなったんだ」
「え?」
「外貨を得る手段が尽きて金が無かった。 夏場を凌ぐ食料くらいしか……カンカン山の山頂、つまりここの鉱石を試しにタータラベへ持って行ったら、見た事もない大金が手に入った。 そういうことさ」
カンカン山で獲れる山の恵みだけでは自足できなかったのだろう。
実際、この山頂に築かれた村の規模も、ユウバナ村と殆ど人口も広さも変わらない。
100人ほどは存在しているはずだ。
ユウバナ村は漁師の村であり、飢えるようなことは不漁続きでなければ想像できない事でもある。
「村長はここの鉱脈は金蔓というわけではない、と言っていた。 ケモノの女王と交わした共存の証。 そう言ってね。 だからこそ守りたいんだと思っているよ」
年配の男性は、もちろん私も。 と続けて席を立ち、シンク台へと食器を持ち運んで離れて行った。
その背を見つめるリオリールの隣で、トルテはスープにスプーンを入れてくるくると中身をかき混ぜながら。
「あの道具、悪意がある」
「……トルテちゃん。 うん、私も許せないよ」
「物理的に取り出せないなら、あの黒い液体を何とかしないといけない」
スプーンを動かす手を止めて、リオリールが重い口を開く。
「アウディさんが考えた、桶で受け止めるっていう考えは現実的だと思うの。 ただ、溶けちゃうのが……」
「受け皿を作っても貫通する……そもそも、溶ける成分が何かをどうやって突き止めれば良いのかが分からないと駄目」
「そうだよね。 石も鉄も溶けちゃうから、液体そのものも触れないし、保管も調べることも出来ないから……」
「あれじゃ、物理的に取り除く以外に方法が思い浮かばねぇな」
クラウスも渋い顔で同意した。
錬金術で何か道具を作るにしても、その道具自体が物理的に存在できないのでは意味がない。
使う、使わない以前に、土俵にすら立てていない状態だ。
まず最初の溶けてしまう滴の正体を突き止める……しかないのだが、対応策が現状は思い浮かばないのだ。
リオリールが最初に思いついたのはホースのような物を急須の口から吸い上げる方法だが、吸い上げる口も溶けるだろうし、吸い上げた先に液体をどうするのかという問題も検討がつかない。
まるで手詰まりだった。
そっとトルテの方を見ても、彼女も両手で頭を抱えたまま、空の食器を見つめたまま動かない。
そんな二人の様子を、カスカルは黙ってスープを口に運んで見つめていた。 が、考えている事は満月の急須のことではなかった。
──似ているな。
ふと、そんな感想がカスカルの脳裏をよぎったのだ。
ミミガーデン村の生命線である鉱脈を、ピンポイントで破壊しに来た悪意の道具。 村の誰もが知らず、気が付けば窮地に陥る。
それは、自分たちの故郷・ユウバナ村を襲った悲劇と重なって見えた。
あの大嵐の日。
ユウバナ村の基幹産業である漁の為に使う船は、一隻残らず全て破壊されたこと。
当時は、運が悪かったとか未曽有の災害だと納得させていたが、よくよく考えれば不自然な点はある。
過去の歴史を振り返っても、嵐で船が壊れることはあっても、港に停泊していた船が全滅するなんてことは聞いたことがない。 それはユウバナ村の大人たちも言っていた事だ。
もしかしたら。
今のこの村のように、誰かの悪意が忍び寄っていたのではないか。
災害に見せかけた、意図的な破壊工作。
(いや……何を考えてるんだ、俺)
カスカルは小さくかぶりを振り、湧き上がった暗い疑念を思考の隅へと追いやった。
証拠は何もない。
それに、目の前の問題とは関係がない話だ。 頭を悩ませているリオリールやトルテに、根拠のない不安を植え付けるべきではない。
それは余計な考えだ。
カスカルは口の中に残ったパンと共にその疑念を飲みこんだ。
そんな重苦しい空気が広がる中で、一人の少女が彼らのテーブルの前にいつの間にやら現れた。 ヒマワリモドキの耳(?)をパタパタと揺らして、長い紫色の髪を垂らしている。
黄色い花の弁を模した耳が歩くたびにゆらゆら揺れて。
どうも一目ではどこかのお嬢様のようにしか見えない、清楚な雰囲気だった。
「みなさん、こちらのジュースは如何ですか」
「え?」
「うん、君は?」
「フラーラ・クラウドメイデスって言います。 アウディ叔父さんの家でお世話になってるんですけど、今は講堂で給仕の真似事をしてまして……あはは」
彼女の肩には寄り添うように、キュイキュイと鼻を鳴らすケモノがいた。
「もしかして、アウディのお兄さんの子供かな?」
「あ、はい、そうなんです。 私、13歳になるんですけど、勉強の為にって夏からミミガーデン村で、アウディ村長のお宅でお世話になっているんです」
「そ、そうなんだ?」
「で、俺達に何か用なのか?」
困惑を顔に出しながら応対するリオリールに、カスカルが単刀直入に訊くと、どうやら成人の儀に関してとても興味があると話してくれた。
13歳と言えば、エルオネと同い年だ。
リオリールもカスカルもそうだったが、成人の儀は三つ大島に住む子供なら誰もが興味を持つ時期がある。
実際、14歳となって間近に迫ってからは、カスカルも一日中、どういう物なのかと答えの出ない考察を続けたこともあった。
フラーラは両の手を合わせ、お願いするように可愛らしい顔をリオリールたちに向けた。
「あの、ですから。 皆様の旅のお話とかを、ぜひ聞かせて頂ければ、と思いまして……」
丁寧に頭を下げて、ついでに一緒に居るケモノまで同じ様に頭を下げる。
その時、リオリールとカスカルが思ったのは、エルオネと比べてしまうことだった。
「すごいな、こんな丁寧な……とても妹と同い年とは思えない」
「お、お兄ちゃん、エルオネに失礼だよ。 でも、私たちも少ししか旅してないけど、それでも良いならお話するよ!」
「わぁ、ありがとうございます! 少しで良いので、聴かせてください!」
ワイワイとフラーラの声が切っ掛けで、場の空気が払拭されていた。
クラウスは彼女から頂いたジュースに口をつけながら、いつの時代も困った大人を明るくさせるのは、子供なんだよな。
そんな風に思いながら、優し気にリオリールたちを見守って笑みを浮かべたのである。
ミミガーデン村に来て初めて見る、同年代──それも年下の少女、フラーラとの会話は、リオリールたちにとって一時の清涼剤となっていた。
「へぇ、海ってそんなに大きいんですか! 私、タータラベから直接ここまでしか来た事がないので、あまり見ないんですよね」
「うん、すっごく広いよ! 向こう岸なんて見えないし、水がしょっぱいんだ」
「しょっぱい水……お料理に使いたい放題ですね!」
「あはは、確かにそうかも。 でもそのままじゃ飲めないから、ちょっと大変なんだけどね」
「海の水は熱で蒸発させただけで出来る塩だと、不純物が多いんだ」
「ふむふむ、勉強になります」
フラーラのヒマワリモドキの耳が、驚くたびにパタパタと揺れる。
その仕草が愛らしくて、リオリールもトルテも自然と笑顔になっていた。
その横でリオリールが的外れな事を言うたびに突っ込むカスカルに、フラーラは屈託ない笑顔を振りまいている。
そんな穏やかな時間が少しだけ続いて、やがて奥の部屋からギィっと音を立ててアウディの姿が現れた。クラウスが椅子から立ち上がり、歩み寄って声をかけた。
「アウディ」
「ああ……大丈夫だ。 心配はいらない」
「随分と考え込んでたな。 腹が減ったろ? 飯でも食うか?」
「いや。 まず確認をしないといけないことがあるんだ。 あの『満月の急須』から落ちる毒液は、どこまで侵食しているのかを確認したいんだよ」
アウディはそう言って、手に持っている資料を覗く。
「表面の鉱脈がダメになるだけなら、まだいい。 だが、あの裂け目の下には、さらに巨大な主鉱脈が走ってるんだ」
アウディはそのまま指先を地面に落とし、クラウスも納得した。
「なるほどな。 被害の底が見えなきゃ、対策の規模も決まらねぇってことか」
「ああ、だから今から秘密の坑道を使って下に降りるつもりだ」
「縦の坑道って、何ですか?」
「カスカル君だったね、秘密の坑道というのはもともとはケモノが使っていた道なんだよ」
そういって、棚の上に置いてある籠一杯に敷き詰められている鉱石の欠片を、アウディは手に取って見せた。
「ミミガーデン村設立から、せっせと掘り進めてくれて、今では人が一人くらいなら入れる大きさになっているんだ。 ゆくゆくは三つ牛を使わなくても村人が麓に降りれる道を……っと、それはいいか」
アウディはんんっ、と咳払いしてから続けた。
「とにかく、そこから大地の下の鉱石が確認できる場所がある」
その言葉を聞いて、リオリールとトルテは顔を見合わせた。
二人の考えは同じだった。
「あの、アウディさん! 私たちも連れて行ってください!」
「見たい」
リオリールが身を乗り出して懇願する。
現場を見れば、何か錬金術で解決する方法を思いつくかもしれない。
そんな思いに突き動かされ、豹変した二人の姿に、今まで朗らかな会話に終始していたフラーラは目を丸くしてリオリールたちを後ろで眺めていた。
アウディは一瞬悩んだ。
本来は部外者の子供をミミガーデン村の生命線である坑道へ連れていくわけにはいかない。
そもそも、この坑道は『村の人間』以外に通行を許した事は無いからだ。
だが、相手は錬金術士だという。
あの満月の急須も錬金術で作られたらしい、という噂も当然知っていた。
自分たちにはない知識と発想を持っているかもしれない。
今のミミガーデン村に必要なのは、その可能性だった。
「……わかった。 ただし、私の指示には絶対に従うこと。 いいかい?」
「はい!」
「ありがとう、アウディさん」
装備を整え、一行は講堂を後にした。
リオリールたちはアウディの先導で、村の裏手にある一般の人間は立ち入らない場所へと足を踏み入れることになったのである。