リオリールとトルテのアトリエ~三つ大島の錬金術士~ 作:ジャミゴンズ
あれから4日。 匂いも消えてクウも荷物も戻ってきて、薄情にも空の彼方へ逃亡していたドラも帰ってきた。
これですぐに出発できる状態にはなったのだが、結局オーエン牧場には5日の滞在をすることを考えていた。
その理由はカスカルが三つ牛の管理について学ぶ、かつリオリールとトルテがレシピを考える時間を欲した事による。
牧柵に寄りかかりながら、カスカルは注意事項の書かれた基本的なマニュアルを読み進めていた。
この先、旅の最中に三つ牛の管理をするのは御者であるカスカルの役目になる。
これは三人の話し合いで決まったことだ。
だけど、クラウスの大事な家族であるクウの管理を兄だけに押し付けることは良くないとリオリールは思ったし、トルテも今回の件は自責を強く感じていた。
「お兄ちゃん、私たち、ちょっと買ってくるから」
「ああ」
「待っててね」
というわけで、全滅の原因となる地獄の屁である。
あの強烈な臭さを消し去る事は不可能でも、全滅しない程度の対策はしたい。
つまり、錬金術の出番である。
幸いと言っていいのか分からないが、言いつけを破ってオーエン牧場でやらかしたおかげで、匂い消しの素材と知恵を知る事が出来たのだ。
「パルファンブーケはどのくらい必要だと思う?」
「現物を見ないと分からないけど……三つくらいは買うようかも?」
テクテクと牧柵沿いに続くあぜ道を歩く。 少し先には白い風車が回る建物が見えた。
牧場に併設された購買所に向かうと、店先には乾燥させたパルファンブーケが吊るされていた。 黄色と赤、青、緑と多色の派手な色彩。 つけられた値段はマディーの言っていたように330コールだ。
路銀から出すとなると、手持ちを5000コール切る。
それは心もとない。 旅の何処かでコールを稼ぐための時間を取る必要があるだろう。
「大きな花弁で綺麗なお花だね~」
「うん、でも成分は花弁ではなく茎の方に詰まってるみたい」
「花の方は『多色染料』に良いのかも。 わざわざ別々にお花の色を混ぜる必要がないくらい立派だよ」
「そうだね……というか、花は香りが強いね。 こんなに乾燥しちゃてるのに」
「確かに、言われてみれば。 浸けると香りが戻る性質がある?」
「かも」
商品の前でああでもないこうでもないと相談していると、背後から声をかけられた。
「なんだい、パルファンブーケを買う相談か?」
振り返ると、たまたま牧草の束を荷車で運んでいたマディーが足を止めていた。
「あ、マディーさんだ! こんにちは!」
「ああ、こんにちは。 で、何をしてるんだい?」
リオリールはすっかり打ち解けた様子で、自分たちの計画を話した。
錬金術を使って、三つ牛のガスに対抗するための新しい道具を作りたいのだ、と。
「そんなものが作れるんかい?」
「臭いを完全に消すのは、難しいと思うけど……何もできないまま倒れてしまうのは防げるようにしたい」
トルテはあの全滅した時の事を思い出しながら、そう言った。
「錬金術なら、それが出来ると思うんです!」
「ふうん? そうなのかい……」
リオリール達の話を聞いて、マディーは少しだけ考え込むような顔をした。
少し考えたと思ったら、店先のパルファンブーケを一束つかみとり、呆気にとられるリオリールたちの手にボンっと花を渡してきた。
「え……?」
「そういうことならアタシが払おうか。 受け取りな」
「で、でも……」
「三つ牛の放屁の騒ぎは毎年何件も起きている。 珍しい事じゃないんだ」
三つ牛の扱いに慣れていない人間に貸し出す場合、本来はプロの牧夫が同行する。
しかし、人件費をケチって牧夫を雇わずに旅立ち、結果として制御不能になって失敗をする利用者は後を絶たない。
オーエン牧場の経営で考えると失敗して貰った方が稼げるだろう。
だが、のんびりと草を食む牛たちに目を細めながらマディーは苦笑した。
「大事な三つ牛がストレス下におかれる環境の方が、よっぽど防ぎたいんだ。 おならが多いと三つ牛の寿命が減る、なんて言われてるからね」
それは、牛と共に生きる牧夫としての本音だった。
8年の寿命で死ぬ例外は当然ある。 病気と怪我だ。 三つ牛はとても頑丈で放置していても重病になることは滅多にないが、ストレス環境下では病気を引き起こすリスクが跳ね上がる事が分かっている。
お金を稼ぐことは大事だ。 生活に直結する問題で切実だが……牛の健康と平穏もまた大事だ。 これも生活に直結する問題といえる。
解決策が見つかるなら、安い投資だということでもある。
「リオやトルテが錬金術っていうので効果の高い道具が作れるなら、アタシ達の牧場にも欲しいね。 買い取った分はユウバナ村につけた借金から減らしても良い」
その言葉は、リオリールとトルテのやる気に火を点けるのに効果が高かった。
自分たちを助けてくれたマディーの期待に応えるため、そして牛たちのために。
今後の旅の中の自衛の対策――ついでに借金返済もできるならこの上ない条件でもある。
実を言えば成人の儀の旅で、15歳の若者が赤字にならずに旅をする事例は殆どない。
二人の知らない気遣いを、マディーは考えてくれたとも言える。
「ありがとうございます! 私たち、絶対すごいの作ってみせますから!」
「あはは、そこまで言うなら期待してあげようか。 確か、火を使うんだろう? 裏手の古い厨房なら空いてるから、好きに使いなさいな」
こうしてマディーの公認を得た二人は、俄然やる気を増してオーエン牧場の旧厨房へとパルファンブーケを抱えて走っていったのである。
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●そよ風のアロマ 作成者:リオリール・トルテ
掌に乗るくらいの器に黄色い固形の塊が入った物。
火を点けることで爽やかな花の香りが周囲に一気に広がる。
強烈な匂いも一時的に打ち消してくれるし、体力も心なしか回復できる。
さらに爽やかな強い香りが残り気絶を防いでくれる……はずである。
レシピ: パルファンブーケ・ピュアオイル・固形燃焼剤・中和剤
● 効果 ● 特性
・爽やかな香り ・使用回数+1
・HPMP小回復 ・効果範囲++
・ブレイク回避 ・薬を強化
・頭がさえる
トルテ「うん、良い感じに出来た。 でもこれ、咄嗟に出せるかな……」
リオ「あ、それじゃぶら下げる紐をつけて、首にかけておくとかどう?」
トルテ「そうしようか。 紐ある?」
リオ「えへへ、無いね。 買いにいこっか」
トルテ「ん」
リオ「でもさー、これって三つ牛のフンを素材に使ってるから、良い匂いがするのも変に感じちゃうなぁ」
トルテ「これが錬金術ってことだよ、リオ」
リオ「うーむ、深い。 二重の意味で!」
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素材が揃っていたことや、調合時間がそれほど掛からない道具だったこともあって、一日で6個も作ることが出来た。
『そよ風のアロマ』はオーエン牧場に3つ買い取ってもらい、残りの三つをそれぞれ首にぶら下げて持ち運ぶことになる。 黄色いポット型の容器から漂うのは、パルファンブーケの爽やかな香り。
翌朝、いよいよお世話になったオーエン牧場を出発。
マディーは台帳に修正を書き込みながら、ニカッと白い歯を見せて笑った。
「これが買取分の差額だよ。 このアロマ、役にたったらユウバナ村のアトリエに再発注を申し込むから、そのつもりでいてくれな」
リオリールが受け取った紙を眺めると、そよ風のアロマは単価900コールで買い取ってくれたようだ。 2700コール分を稼いだことになる。
「マディーさん!」
「喜ぶんじゃないよ。 効果が無かったら、逆に請求するからね」
「ひええ……お、お手柔らかに……」
「リオ、大丈夫。 結構自信があるから」
売り物には自信を持ちな、と握りこぶしを作ってマディーは笑った。
「もっと欲しくなるよ、きっと」
「いいね、そうこなくちゃ」
トルテに言って、笑みを深めながらマディーはクウを見た。
「よく管理されて良い子だった。 素直で手の掛からない子だ。 ボーク牧場の愛情をたっぷり受けてるのが良く分かったよ。 カスカル、しっかりやりなさい」
「はい、勉強になりました。 マディーさん、今回は何から何までありがとうございました」
「ありがとうございます!」
「ありがとう」
「じゃあ、行ってきな。 今度は屁で全滅するんじゃないよ」
あっはっは、と笑い飛ばしながら踵を返したマディーの背中を見送って、子供たちは頭を下げると、カスカルがそっとクウへとハンドサインを送って歩き出す。
オーエン牧場から貰った周辺の地図を広げて、リオリールとトルテが三つ牛の背中で話し合う。
首元から、爽やかな匂いを放つアロマをぶら下げて。
目指すはみつ島南部の最大の都市、オワンバシ街だ。
およそ24キロの道程を越えて、丘を登り切った先に見えてきたのは湾だった。
「うわぁーーー! 大きい街だぁ! オワンバシだぁーーー」
「お椀と橋……オワンバシ……なるほど」
興奮を露わに身を乗り出したリオリールに、その街の形状が名前の由来であることに気付いたトルテが納得を示す。
「波の音が聞こえる。 久しぶりだな……」
カスカルが耳をすませば、潮騒の満ち引きが奏でる音が遠くに聞こえた。
鼻孔を突く潮の匂いもここまで来ると強く漂ってくる。
それは、みつ島最北端であるユウバナ村から、みつ島最南端である場所へと辿り着いた事を意味していた。
オワンバシ。
眼下に広がるその街は、奇妙な地形をしていた。
陸地を抉るように湾曲した海岸線が、綺麗な半円を描いている。 その湾を包み込むように建物がびっしりと立ち並ぶ様は、トルテが言うように巨大なお椀の形そのものだった。
お椀の底にあたる湾の中央には小高い丘のような島がぽつんと突き出ており、そこを経由するように巨大な橋が架かっているのが見える。
北、東、西。
街の切れ目となる三方向から伸びた橋のうち特に長く平行に見える二本の橋が、上空から見ればお椀の上に置かれたお箸のように架かっている。
「あっちが東の橋……橋峠に続いてる道だ。 で、西側には道がないな」
地図と照らし合わせながら、カスカルが確認する。
オワンバシ街は、北からの物流と、東からの街道が交わる南部の心臓部だ。
「湾に沿って道みたいなのがあるね。 あれは何だろう?」
「砂浜の上にずっと続いてるけど……建物も一杯あって、すごい都会」
「上から見えるから大きさが良く分かるな。 クラウス兄さんがタータラベより小さいとは言ってたけど……」
それでも2000人ほどが住んでいるという大きな都市だ。
クウの手綱を握るカスカルは、坂道を慎重に下りながら気を引き締めた。
「よし、陽が沈む前に入るぞ」
「うん、行こう行こう!」
「ボォー」
答えた訳ではないだろうが、クウが一つ鳴き声を上げてノソノソと歩き出した。
――・
丘を下った先には整備された道路が続いており、オワンバシの入り口まで真っすぐに伸びる道路。 三つ牛を係留する為の厩舎も建てられていて、まずはそこに寄る事になった。
「リオ、トルテ。 俺は手続きを済ませてから街の中に入るから、先に宿を取っておいてくれ」
「うん、わかった」
「まって、荷物だけ先に持ってくから」
はやる気持ちを抑えて手荷物を手繰り寄せ準備を済ませると、リオリールとトルテは夕焼けの中のオワンバシの入り口を潜り抜ける。
潮風を防ぐ白い壁に沿って続く大通り。 建物の隙間を縫うように路地があって、人通りも夜になる頃だというのに多く賑わっている。
リオリールはきょろきょろと周囲を見回した。
「ふわぁ、圧倒されちゃうなぁ」
「ユウバナ村とは全然違う……」
石造りの道はしっかりと整備され、どこもかしこも清潔感がある。
しかもその石に看板替わりなのか、お店の名前なんかも刻印されていて洒落ていた。
通りに面した店にはオワンバシで獲れた特産品や海産物が並び、観光客らしき人々や地元の人々で活気に満ちていた。
特に目を引くのは、通りを行き交う様々な種類の旅人や商人たちだ。
彼らの身に着けている衣服や持ち物から、この街が交易の要衝であることが窺える。
トルテは懐から地図を取り出し、立ち止まって広げた。
「とりあえず、宿を探さないと。ここで待ってても良いけど」
「せっかくだから、ちょっとだけお散歩しない? お兄ちゃんは後から見つけてくれると思うし」
リオリールはトルテの腕を掴んで誘う。久々の大きな街の賑わいに、興奮が抑えきれない様子だ。 むぎゅっと押しつぶされながらトルテは諫めた。
「ダメだよ、リオ。まずは宿の確保。 待ち合わせ場所も決まってないし」
「えー、じゃあ、この辺で一番近い宿はどこ?」
「それは知らない」
「むう、それじゃ一番近くの人に聞いてみよう! すみませーん!」
村の入り口のタルが積まれた場所に腰かけて、鉛筆を覗いている人に声をかける。
「あのー! ちょっと聞きたいことがあるんですけどー!」
リオリールが声をかけると、タルの上の人物は視線をスケッチブックに落としたまま、左手だけをひらひらと横に振った。
「フンフフーンフン……ん~、ちょっと待ってねえ」
独特なリズムの鼻歌交じりに制止され、リオリールは素直に足を止めた。
男は一心不乱に鉛筆を走らせている。
ザラザラ、シャー、と紙の上に鉛筆を走らせて小気味の良い音を立てていた。
リオリールの背中に追いついたトルテは、首を傾げた。
「何をしてるの?」
「見て分かるだろう? 書いてるんだよ~……もうちょっと待っててくれー」
リオリールとトルテは顔を見合わせ、言われた通りに素直に待つことにした。
その間、リオリールは男の背中をじっと観察する。
年齢は自分たちと同じくらいだろうか。 黒髪をオールバックにして後ろで一つに結わえており、着ている服は白黒の太い縞々模様だ。
背中を丸めて作業に没頭しているせいか、どことなく陰気なオーラ。
けれど横顔に見える瞳は爛々としていて、口元は楽しげに弧を描いていた。
暗いのか明るいのかよく分からない印象を抱く。
「…………」
「フンフフーン……」
「……」
「うーーーーん?」
しばらく待っていたが埒が明かない。
しびれを切らしたリオリールが、もう一度口を開こうと身を乗り出す。
「あのー! 宿の場所を教えてくださーい!」
「ん~、ここまではどうしても描いておきたかったんだ。 ごめん、待たせたね!」
男は鉛筆を親指で立てて、目の前の風景を定規のように測る仕草をすると、満足げに一つ頷いてパタンとクロッキー帳を閉じた。
そして、くるりと身体ごとこちらに向き直る。
「この時間の陰影はすぐに変わっちゃうから、今しか描けないんだよ。 おかげさまでずっと完成しないんだ。 くぅー、もうちょっと時間があればなぁ」
「あ、そうなんですね。 邪魔しちゃったかな?」
「いいよいいよ、どうせ暫くここに滞在するつもりだしね。 で、なんだっけ、宿探し?」
言いながら、男の視線がリオリールとトルテの首元ではなく、腰や鞄にぶら下げられている木札に留まった。
三つ大島特有の、成人の儀の旅をしている証。
男は自分の縞々の服の胸元を指さした。 そこには同じ木札がぶら下がっている。
彼の木札に書かれている数字は『一』だ。
これはひと島出身であることを明確に示す記号である。
「あ、もしかして成人の儀の旅の途中?」
「私たちと同じ……?」
「同期みたいだねー。 私はひと島出身なんだよ」
「おぉー! オーレンジスさんと同じ島だ! 私はリオリール! こっちはトルテちゃん!」
「よろしく」
「あはは、よろしく。リオリールさん、トルテさん」
同じ目的を持つ仲間だと分かり、リオリールの警戒心が完全に解ける。 ちょうどそこへ、三つ牛の手続きを終えたカスカルが合流した。
カスカルはすぐに木札に気付いた。
「何を話してるんだ? 宿は見つかったか?」
「お兄ちゃん! うん、この人が教えてくれたよ。 あとね、この人も成人の儀の旅の途中なんだって」
「みたいだな。 俺はカスカル・フェルエクス。 よろしく」
「ああ、エーゴン・ファラノスだよ。 今は3枚目の認定証をこの島で取れればゴールなんだ」
「ってことは、もう2枚持ってるのか。 先輩だな」
「上も下もないよ~、旅が速かったかどうかの違いだけだし~」
カスカルが差し伸べた手をエーゴンは掴み返して握手。
人当たりの良い笑みを浮かべ、小脇に抱えたクロッキー帳を愛おしそうにポンポンと叩いた。
「僕は将来、大陸の美術館に行ってみたくてさ~」
エーゴンは夕日に染まるオワンバシの街並みを見上げ、うっとりと目を細めた。
その瞳は、先ほどの陰気な印象が嘘のようにキラキラと輝いている。
大陸の首都、メーテルブルクにはとっても大きな美術館があるそうなのだ。
そこに三つ大島の自然やそこに住む人々を描いた絵を、展示してもらうこと。 エーゴンは絵を描き始めてからすぐには持てなかった壮大な夢を、この旅の中で見つけることに成功したようだった。
「そんなスゴイ美術館に、自分の絵が並ぶことを想像したらゾクゾクしちゃってね」
「うわぁ、それは本当に素敵な夢だよ。 ねぇねぇ、絵を見せてほしいな!」
リオリールもつられて目を輝かせる。
夢を語る同年代の姿は、いつだって眩しいものだ。
「んふふ~、良いけど……せっかくだから似顔絵を描いてあげる」
「え、ホント! ならそれで良いよ!」
エーゴンはふと西の空を確認すると、まだ沈み切っていない夕日を見てニヤリと笑った。
「まてまて、まだ宿も取れてないんだ。 悪いけど……」
渋るカスカルをよそにリオリールは、いいじゃんいいじゃん!と兄の背中をバシバシ叩いた。
トルテも興味はあるようで、無言でちょこんと椅子代わりのタルの上に座っている。
「はぁ……仕方ない、手早く頼むぜ」
「うんうん、速筆の練習にもなるし、任せてよ」
エーゴンは再びタルの上に座り直すと、新しいページを開いた。
モデルになった三人が並ぶ。
チャカチャカと鉛筆を走らせる音がシュシュシュと響き渡る。
その速度はとても常人には出来そうにない。 ワクワクしている二人の少女とは違い、夢を明確に持った少年へカスカルは落ち着いた視線を投げている。
フンフフーンフン、と独特なリズムの鼻歌を挟みながら、おおよそ30分ほどで彼は似顔絵を描き終えた。
「出来上がり~。 さぁさどうぞ、私の絵を思う存分に見てくれ~」
エーゴンは紙を破ってそれぞれの似顔絵を手渡す。
一斉に自分の顔を確認。
リオリールは口を半開きにしてちょっとお間抜けな顔だった。
こんな顔をしていたっけ? と首を傾げるとトルテもプクっと頬を膨らませていた。
「私はこんなに目つき悪くない」
リオリールが覗き込むとトルテの顔は口をへの字に、目元の黒子とギンギンした眼付きが描かれている。 確かに、かなり目つきが強調されている。 鋭い三白眼をしており、妙な迫力がある。
「俺もこんなに悪そうな目をしているかな……?」
カスカルも首を傾げている。
リオリールは今度は兄の絵を覗き見て、カスカルの顔をじっと見つめる。
特徴はとっても良く捉えられていると思う。
少しアクが強い画風だが、似ているかどうか聞かれれば『似ている』
「うーん、似てはいる」
「まぁ、リオの間抜け顔は良く描かれてる……かな?」
「トルテちゃん!?」
「確かに、お馬鹿っぽく書けてるな」
「お兄ちゃんまで……もー、二人の眼付きの悪さよりはマシだもん!」
わいわいと自分の似顔絵を見せ合って楽しんでいる三人の様子に、エーゴンはニコニコと笑顔になった。
自分の絵が人を楽しませている事に、純粋に喜んでいるのだ。
「良かった。 気に入ってくれたかい? 代金は一人300コール、合わせて900コールだよ」
「ええ!? お金取るのー!?」
「ん~、私はこれで路銀を稼いでるからね~。 今、ちょうど100コールしか手元に無くて、宿を紹介するついでに恵んでくれないかな~と」
「なるほど……分かった、払うよ」
「やった~、ありがとね~」
「ええ、お兄ちゃん、良いの?」
「まぁ、次からはきちんと事前に説明してくれよ、エーゴン。 ほら、問題になっちゃうだろうしな」
「あはは、そうするよ~……優しいね、ありがとう」
「ったく、悪びれないな」
意外にもカスカルは文句も言わず、懐からコールを取り出してエーゴンに支払った。
兄はニコニコと笑顔のエーゴンを横目に、リオリールの耳元にそっと顔を寄せて
「これは勉強になっただろ。 後で錬金術の道具で稼ぐ方法、考えてみようぜ」
耳打ちされて、リオリールはポンと拳を掌に載せて納得した。
確かに今までは旅の中で必要だから作る道具ばっかりだった。 自分たちの旅の為だけに道具を作って来たけれど、それを旅路の中で売ることだってできるはずだ。
オワンバシの夕暮れの街並みを眺めると、人通りはまだまだ多い。
たくさんの声や音が街に響いている。
「……私たちの道具を、売る? 売れるかな? ううん、売れるよね?」
リオリールが目を輝かせれば、トルテも続く。
「リオ」
「うん、宿に着いたら、早速考えようトルテちゃん!」
リオリールは希望に満ちた笑顔で、旅の新たな目標を見つけたのだった。