リオリールとトルテのアトリエ~三つ大島の錬金術士~ 作:ジャミゴンズ
リオリールとトルテ、カスカルが次に向かう先は進路を東。
ミツフタ港である。
『みつ島』『ふた島』を繋ぐ重要な交易港であり、その活気はオワンバシ街やタータラベに比肩する、とも言われている場所だ。
「クウの準備は万全だ。 荷物も載せ忘れは無し」
「うん、もっと居たかったけど……ワカメ美味しかった」
「認定証を得る為にはふた島とひと島に行かないといけないから、我慢」
オワンバシ街はとても気風が良く、食べ物も美味しくて過ごしやすい街だった。
カスカルも名残惜しさに同意するが、目的は成人の儀の旅をきちんと終えて大人と認められることだ。
東の街道入り口で最終準備の確認を終えると、リオリールとトルテはカスカルに向けて大丈夫だとジェスチャーで示す。
「それじゃあ行くか」
「クウ、よろしくー!」
「えっと、次は軒先村峠……」
トルテが地図を確認しながら呟く。
軒先村峠。
オワンバシ街で集めた情報によるとカンカン山脈の南側の崖沿いにあり、天然の巨大な岩盤が『傘』や『軒先』のようにせり出した場所に張り付くように作られた集落だという。
カンカン山脈を迂回する形で伸びる街道がある。
ここは軒先峠道と呼ばれているらしい。
岩の上からは雪解け水が流れ落ち、常に滝のカーテンとなって村を覆っているため、昼間でも薄暗い常闇の村だとか。
「薄暗い場所にわざわざ村を作るなんて、理由があるんだろうね」
「そうだな……洗濯物とかは大変そうだ」
「トルテちゃんが作ったホットストーンが売れるかも」
「自分たちで使う分も残しておかないと」
「あ、確かに、全部売ったら旅が大変になっちゃうもんね」
そんな会話を交わしながら、一行はカンカン山脈を南から迂回する形で伸びる街道『軒先峠道』へと足を踏み入れた。
峠道に入ってしばらくした頃だった。
道端に咲く美しい花々を見ていたリオリールたちの前に、突如として魔物が現れた。
「きゃあ!? お花が動いた!?」
「アルラウネだ! リオ、トルテ、降りろ!」
「わ、判った!」
色とりどりの花弁を揺らし、根っこを足のように使って襲い掛かってくる植物の魔物、アルラウネ。 じっと獲物を待ち構えていたのか、4匹もひしめき合っている。
数は多いが、個々の力はそこまで強くない。
ツタに絡まれると身動きが取れなくなって危険になるが、それさえ気を付ければ弱点は多いモンスターだった。
初撃は咆哮と共に上空から降って来た。
「グアアアァァァ!!!」
ドラだ。
滑空してトルテに一番近いアルラウネを、その鉤爪で掴んで空へと飛び立っていく。
「ドラ……お腹壊さないようにね。 よし、それなら、これで」
「トルテちゃん! 私もやるよ!」
リオリールとトルテは、オワンバシ街で補充した自信作の攻撃アイテムを取り出した。
カスカルは妹達に近づけない様に、前に出て注意を引き付けている。
リオリールが取り出したのは『レヘルン』
トルテが取り出したのは『ブリッツコア(雷)』だ。
「えいっ!」
「死ね!」
二人は気合十分にアイテムを投擲。
したものの、リオリールは踏み出した足元の石に躓き、手元から滑り落ちた『レヘルン』が目の前で炸裂した。
パキィィン! という音と共に地面が一瞬で凍結する。
自分の目の前で凍り付いた足場に滑って転ぶリオリール。
しかもそのままアルラウネの目の前で見事にヘッドスライディング。
起き上がったところを驚いたアルラウネの振るった根っこが、バチンと顔面に当たる。
「あだぁっ! 痛いぃ~~~!」
トルテは電気を纏った『ブリッツコア』を蹴り飛ばして起爆させようとした。
だが、蹴り出したコアは手近な木の幹にカーン! と当たり、ピンボールのように木々を跳ね返りながら予測不能な軌道を描いて戻ってくる。
自分の足元に戻ってきたブリッツコアの電撃が放たれて、トルテは痺れて動けなくなった。
「あのな、もうちょっと何とかならないか?」
思わず戦闘の手を止めて、カスカルは妹達を見て呆れ声で突っ込んだ。
モンスターたちも予測不可能な攻撃方法と自爆に驚いているのか、なんだか3匹そろってひそひそ話をするように固まっていた。
二人はむぅと頬を膨らませた。
「ちゃんと真面目に戦ってるもん!」
「……痺れた。 効果的だね……」
「ああ、敵に当たったらそうなんだろうな」
結局、勝負を決めたのはクウだった。
ボォォォ、とちょっかいをかけようと足元に近づいたアルラウネに対し、鬱陶しそうに鼻を鳴らすと巨体を揺らして突進。 一撃で二匹を沈めて、アルラウネは三つ牛に恐れをなして逃げ出していった。
「ふぅ……クウは頼りになる」
「でも見て! あいつら『パルファンブーケ』落としていったよ! 素材ゲットだから勝ちだよ、勝ち!」
「やっぱりフラムで爆殺するべき」
「いや、山火事になるから止めてくれ」
三つ牛に助けられた錬金術士たちは、戦利品を拾い集めて再び歩き出す。
騒動の後、峠道は徐々に険しさを増していった。
岩肌から巨大な木の根が血管のように剥き出しになっている場所が多く見られるようになる。 道幅は決して広くはないが、谷を渡る場所にはしっかりと整備された石橋が架けられていた。
「この橋、オワンバシの橋と同じ造りだね」
「ああ、街の職人がここまで出張して整備したんだろうな」
カスカルが感心したように橋桁を叩く。
橋の上から崖下を覗き込むと、遥か下には大きな川が流れていた。
軒先村峠から流れ落ちた水が集まり、オワンバシ湾へと注ぐ大河だ。
轟々と流れる水音が、ここまで響いてくる。
そんな峠道で二度の野営を挟み、出発から三日目の昼頃。
ついに、そのカスカル達の前に軒先村の光景が姿を現した。
目の前に聳え立つのは、空を覆い隠すような巨大な岩盤の軒先……岩だ。
その軒先の岩の上からは、カンカン山脈からの豊富な雪解け水が無数の滝となって降り注ぎ、水のカーテンとなって道を塞ぐように流れている。
そのカーテンの向こう側、薄暗い岩陰に張り付くようにして淡い光を灯す集落が見えた。
あれが軒先村。
「凄い光景だな。 本当に滝の中に村を作ってるなんて」
「はえー……なんかさ、旅を始めてからずっと思うけど、どこも凄いところだよね」
「それだけ皆、必死なんだと思う」
「そうだな……それに、俺達のユウバナ村だって負けてないさ。 夕陽の華が開くしな」
「あはは、見慣れちゃったけど、あれも確かに絶景なんだよね」
「うん、それは私も保証するよ。 初めて見た時は……ちゃんと感動したから」
トルテが最初に見た世界。 ユウバナ村の景色は今でも目を瞑れば蘇ってくる。
リオリールとカスカルも、故郷を思い出しているようだ。
もうそろそろ旅を初めて一ヶ月。 1月の終わりになろうとしている。
「ま、ノスタルジーな気分に浸るのは早いよな。 行くか」
「うん、軒先村、どんなところなのかな!」
「ヒカリダケが生えてるね。 これが光源なのかな?」
太陽が出ている時間のはずなのに、そこだけが夜のように暗く幻想的なキノコの光とカンテラの明かりが、ゆらゆら揺らめいている。
リオリールとトルテ、そしてカスカルは、轟音と水飛沫に圧倒されながらクウの手綱を引いて、その常闇の村へと近づいていった。
――・
轟音と水飛沫のカーテンを抜けた先。
軒先村では最初に巨大な岩の門が出迎えてくれた。
天然の岩盤に打ち付けるように、立派な鉄製の大きな門が開かれている。
ここが村の入り口のようだ。
「うひゃ~、湿気がすごいや」
「濡れると乾かすのが大変そうだね」
トルテが答えながら門を潜り、薄暗い村の中へと足を踏み入れた時だった。
門から続く岩場に、一人の女性がぐでぇーっと仰向けで倒れ込み腕をおでこに乗せて動かなくなっていた。 あまりに無防備で、そして生気を感じさせない脱力ぶりだ。
「あれ、あの子大丈夫かな?」
「調子でも悪いのか?」
トルテの声に、カスカルも気づいて顔を見合わせる。 行き倒れだろうか。
放って置くのも薄情だろう。
カスカルがクウを止めて近づくと、気配に気づいたのかのっそりと少女は上半身を起こした。
背負った大きな皮リュックが重そうだ。
青白い髪は肩口まで伸び、左右に尻尾のような二房がピンと生えている。
唇がぷっくりと膨らんでいるのが特徴的で、丈の広い袖口の不思議な衣服に身を包んでいた。
そして何より目を引いたのは、その胸元だ。
リオリールたちが持っている『三』の木札ではなく、『二』の木札がぶら下がっている。
同期の旅人……それも今のリオリール達の旅の目的地である『ふた島』出身のようだ。
「……なに? あんたたち」
少し儚げに見える容姿からは程遠い、気怠そうな低い声が飛んできた。
「いや、倒れていたと思って、声をかけたんだ。 でも、大丈夫そうなら良いんだ」 「ふぅん。 ああ、同い年なんだね。 だからか」
ふあぁ、と少女は興味なさげに欠伸を一つ噛み殺した。
リオリールたちに興味がないのか、それとも単に疲れているのか、視線はすぐに虚空へと戻ろうとする。
「ねぇ、せっかく会えたんだし、少しお話しませんか?」
リオリールが屈託なくそう言うと、じろりと少女は睨むような視線をリオリールとトルテに向けた。
「三人で成人の儀の旅か。 それってちゃんと自立できるわけ?」
棘のある言葉だった。
面食らったカスカルとトルテだが、リオリールは何も感じていない様で、あっけらかんと逆に尋ねた。
「うん! そうなんだよ。 私はリオリール。 こっちがお兄ちゃんのカスカル。 お友達のトルテちゃん!」
「……」
「あなたは一人ぼっちなんだね、凄いなぁ~」
「ぼっち? ……あのね、別に私も一緒に行く人は居たけど、断っただけだから」
ムッとしたように少女が言い返す。
「そうなんだ? なんで一人で旅をしようと思ったんだろう? 私はお兄ちゃんやトルテちゃんが居ないと、とても出来そうにないよ~」
「だから、それじゃ自立できないって言ってるんだけど……まぁいいや」
「名前くらい、聞かせて貰っても良いんじゃないか?」
カスカルの声に、少女はため息のような物を吐き出した。 面倒……というよりは呆れのようなものが混じっている。
構わなくて良いから放っておいてくれ、と全身で表現しているような感じだが、リオリールはそんな空気を読まない。
いや、読んだ上で構わずに話を続けてくる。
トルテはこの光景に見覚えがあった。 初めてリオリールと出会った時だ。
あーだこーだ、何がどうで、こういう話が……なんて、こっちが興味があろうとなかろうと一方的に話しかけてくるのだ。
今でこそトルテは慣れた物だが、当時はそんなリオリールにイライラしたことがあるのも覚えている。 いや、今でも時折うざいと思う事もある。
トルテは珍しく共感を覚えていた。
感慨深げにトルテは少女を見て、心の中で『頑張れ』と頷いていた。
「えっとね、それでね、ここに来る前にオワンバシ街でね――」
「ああ、もう! うるさいなぁ! ディントリ・ウィッシュ! 私はウィッシュよ! なんでこんなに察しが悪いのこの子は!」
「あはは、ウィッシュさん、よろしくね!」
「……ええ、今日限りね」
根負けしたウィッシュは、半ばヤケクソ気味にリオリールへと自分の事を話しだした。
ふた島出身のウィッシュは、この成人の儀の旅を初めて半年が経とうとしている先輩だった。 ふた島とひと島で認定証を取り終えて、最後にここ、みつ島に来ているらしい。
旅も終盤戦ということだ。
「はぁ……本当、嫌になるわ」
ウィッシュはこの認定証を得る旅のシステムそのものに不満があるようだった。
ひと島は良い。 地形が単純で、反時計回りに順々と辿れば認定証を得る旅はスムーズだ。
みつ島もそうだ。 リオリール達のように、時計回りに巡ると素直に集まるだろう。
だけど、彼女の故郷である『ふた島』だけは違う。
ひと島、みつ島……どちらに最初に向かっても行って戻ってを繰り返さなければならない。 非効率的だ。 とってもずるい。
「旅をして感動できたのなんて、最初の一ヶ月くらいなんだよ」
路銀を稼ぐ苦労、モンスターの襲撃、野宿の不便さ、そしてトイレの問題。 半年間の一人旅で蓄積した疲労が、彼女の言葉の端々に滲み出ている。
「疲れてきたんだよ。 そのうちあんた達もそう思うって」
「そうか……」
カスカルは安易に慰めることはしなかった。 苦労はしてきたんだろう。
それは分かるし共感できるかもしれない。
でも、今の彼女はそんな上辺だけの言葉は求めていない。
本音で話してくれてるのも分かるが、ウィッシュの目はそれだけではない物を語っている。
彼女は口では突き放しているが、根っこの部分で成人の儀の旅を真摯に受け止めてる事にカスカルは気付いていた。
そうじゃなきゃ、自立するための旅で甘えるななんて最初に声を出したりしない。
「ウィッシュさんは、大人になりたくないの?」
「なりたいよ。 自分の村の為にも」
ウィッシュは視線を少し遠くへ向けた。
ふた島にある高壁山脈。 そこの麓にある『星読み村』が彼女の故郷だという。
「成人の儀の旅を始める前くらいかな。 ……キノコの騒ぎがあったでしょ?」
「あ、あの時のロイヤルクラウンの騒ぎだよね?」
リオリールもよく覚えている。
旅立つ直前、世界中のロイヤルクラウンが毒を持つ『イビルズキノコ』に変貌した事件だ。 ユウバナ村、リオリールの周りでも多少の混乱はあったが、幸い大きな被害は出なかった。
だが、ウィッシュの表情は暗く沈んだ。
「そう。 毒キノコに変わったやつ。 私の村はひどい被害にあったんだよね」
たまたま村の祭りの最中だったらしい。
ご馳走として振る舞われた料理に使われていたキノコが、突如として変異した。
大勢の村人が猛毒に侵された。
道端には嘔吐の池が出来て、大人や子供がのたうち回る地獄絵図となってしまったという。
錯乱して自殺未遂を図る者まで現れて、てんやわんやの大騒ぎだったそうだ。
ウィッシュは幸いにも、ロイヤルクラウンを口にすることはなかった。 星読み村でただ一人、健常のまま過ごせた。
だが、そのせいでもある。
一人で成人の儀の旅を始める背景は、これが原因。
「幻覚症状に幻聴、悪夢……私が原因だって、責められた。 病気だから気にしない事にしてたけど……トラウマなの」
「そんな、ことが……」
もちろん、心無い人ばかりではない。 すぐに謝罪もされたが、割り切れなかった。
「そのせいで、キノコを見ると気持ち悪くて。 分かるでしょ? はぁ……」
ウィッシュは身を震わせて、自分の前方に広がる光景を指さした。
そこは軒先村の入り口。
薄暗い村内を照らしているのは、巨大な発光キノコたちだ。
建物の影、岩の隙間、いたるところに大小さまざまなキノコが生い茂っている。
この村にとっては貴重な光源であり特産品だが、ウィッシュにとっては地獄そのものだった。
お陰様で、足がすくんで体調は悪くなり、通り抜けるということも出来ない。
「そんな話聞いたら、なおさら放って置けないよ。 ね、お兄ちゃん」
「……まぁ、そうだな。 流石に可哀そうだ」
「ちょっと! 同情はよして。 その為に話をした訳じゃない」
もう、放って置いていいよ、と言いながらまた身体を倒して寝転んでしまう。
そんなウィッシュの頭の方へ、トルテは歩み寄って屈みこむとコロコロとポーチの中から『ロイヤルクラウンの解毒剤』を転がした。
一体何を、と目で追うウィッシュに、トルテは言った。
「これ、あげる。 元気出して」
「……これ……ちょっと、これロイヤルクラウンの解毒剤じゃない」
「うん、効果は保証するよ。 私が創ったから」
「はぁ!?」
ウィッシュは驚いて立ち上がった。
成人の儀の旅を始める直前、毒に侵される故郷にロイヤルクラウンの解毒剤が届いて全員が結果的に助かったのだ。
中毒ではなかったウィッシュが、看病していた村人たちに配ったのも覚えてる。
「ちょっと、ちょっと待って。 作ったって言ったの? あんたたちが?」
「うん、私とトルテちゃんは、錬金術士なんだ。 色んな便利な道具を作っているんだよ」
「まさか……」
ウィッシュは頬に手を当てて、気まずそうに顔を伏せた。
「こんな事ってあるんだ。 私は大人になったらロイヤルクラウンの解毒剤を作ってくれた人に、村を救ってくれてありがとう、ってお礼を言おうと思ってたの……」
ウィッシュは顔を真っ赤にして、深々と頭を下げた。
「ごめんなさい! 恩人になんて態度を……! 本当に、本当に失礼なことを言っちゃって……でもこんな所で会うなんて分かる訳ないじゃないの!」
謝罪と困惑を吐き出す少女に、リオリールはきょとんとして首を傾げた。
「え? なんか失礼なこと言われたっけ?」
「……リオ、そういうとこ」
「ええ? あ、いやわかるよ? うんうん、そうだね」
「わかってない」
本気で分かっていない様子のリオリールに、ウィッシュは呆気に取られ。
それから少しだけ肩の力が抜けたように小さく笑った。
そうだ、と彼女はゴソゴソとリュックを探ると、一枚の羊皮紙を取り出して差し出してくる。
「これ、お礼に受け取って。 ふた島の地図よ」
「えっ、いいの!?」
「うん。 ふた島のことはもう知っているしね。 『ミツフタ港』から、ふた島の玄関口である『ハチヤド』周辺の地理が詳しく載ってるわ。 これがあれば、ふた島についても迷わないはずよ」
それは、これから向かうリオリールたちにとって喉から手が出るほど欲しい情報だった。 受け取ったカスカルが内容を確認し、その価値の高さに唸る。
「ウィッシュ、ありがとう。 対価として提案があるんだけど、俺がクウに乗せてあんたをオワンバシ街まで送っていくよ」
「えっ? いいのかしら」
「この先はこの村を通り抜けないといけないが、あんたはキノコが駄目なんだろ? なら、引き返してオワンバシ街に行けばいい。 そこで認定証も貰えると思う」
三枚の認定証を集めるのが条件なら、必ずしもミツフタ港へ行く必要はない。
オワンバシ街に戻って最後の一枚を受け取れば、そのまま船で中央島を目指せる。 ウィッシュにとって、それが最も安全で確実なルートだ。
そもそも、カスカルはウィッシュがくれた地図の価値がとても高すぎて申し訳ない気持ちの方が積もっている。
「良いだろ?」
「っふふ、まったく、叶わないわね。 オッケー、それでいいわ」
カスカルの頼もしい言葉に、ウィッシュは瞳を潤ませてコクリと頷いた。
そうと決まれば行動は早い方が良い。
ウィッシュもこの村には良い思いがしないだろう。
リオリールとトルテは軒先村に滞在し、カスカルはウィッシュをオワンバシに送り届ける。
カスカルが手を貸し、ウィッシュが三つ牛の背中へと乗り込む。
高い視点から、ウィッシュは地上にいる二人を見下ろした。
出会った時の不機嫌そうな顔はもうない。
どこか照れくさそうで、でも、確かな感謝の色を宿した瞳で。
「あの……また会おうね。 リオ、トルテ」
「うん! 中央島で!」
「またね」
ふりふりとトルテが手を左右に振って、リオリールが両手を上げて別れを惜しむ。
カスカルが手綱を操り、クウがゆっくりと歩き出す。
遠ざかっていく三つ牛の背中と揺れる二房の尻尾を見送りながら、リオリールとトルテは並んで立った。
「……ねぇ、トルテちゃん」
「ん?」
「私たちの作った道具が、知らないところで誰かを助けてたんだね」
「……」
それは、アトリエで依頼を受けて『ありがとう』と言われるのとは、また少し違う感覚だった。
自分たちの知らない場所で、自分たちの技術が誰かの命や心を救っていた。
その事実は、リオリールの胸に静かで温かい誇りとなって沁み込んでいく。
「錬金術って、やっぱりすごい! もう、道具を作りたくなってきちゃったよ!」
「宿を取ってから、考えようか。 何日か滞在することになったし」
「うん、お兄ちゃんが帰って来るまで色々やってみようよ! 新しい道具作りに、ここで商売したりとか。 あーもう、元気出てきたなぁ!」
リオリールは元気よく空気を吸い込むと、湿気と水の瀑布の轟音。
そして幻想的な光に満ちた軒先村の奥へと足を向けた。
その足取りは、ここに来た時よりも少しだけ、自信に満ちているように見えた。 そんな背中にトルテは着いていく。
二人の笑顔と意気は、しかし、すぐに曇る事になった。
宿について、掲示板に張られた『イッチの手配書』を見てしまったから……
| ●レヘルン | 作成者:リオリール |
|---|
フラムのような爆発物よりも安心して使えそうという想いから、トルテに教わりながら作った、氷爆弾。
ただ戦闘中だと慌てて落としてしまうことが多く、足下が凍って滑りやすくなって自爆する姿がよく見られるようになる。
| レシピ: 万年霧氷・水・中和剤(青)・熱樹液・コバルト草 | |
| ● 効果 | ● 特性 |
|---|---|
| ・氷ダメージ中 | ・品質上昇++ |
| ・凍結 | ・破壊力増加+ |
| ・凍傷ダメージ小 | ・効果安定++ |
| ・貫通力++ | |
リオリール「バキバキ凍ってく爆弾! 遠くに投げても冷気を感じる凄い奴だよ!」
カスカル「お、おう」
トルテ「足下に放り投げたのは?」
リオリール「うん……」
トルテ「ん」
リオ「でも、ちゃんと効果はあったから……今度はちゃんと投げれば良いから……」
カスカル「今度は鼻の頭が赤くならないようにな」
| ●ブリッツコア(雷) | 作成者:トルテ |
|---|
鉱石から削った石の中に雷の力を込めたもの。
蹴飛ばして相手に当たると放電し、対象を雷の力で痺れさせる。
丸い石のような形をしており、蹴飛ばしやすいように形が整えられているのがポイント。
遠くまで届くように、軽くしてあるのがこだわりの工夫である。
| レシピ:ライデン鉱・緑紋石・中和剤(赤)・玉鋼石 | |
| ● 効果 | ● 特性 |
|---|---|
| ・雷ダメージ中 | ・鉄板の効果 |
| ・しびれる | ・ソニックスロー |
| ・とても軽い | ・クサイ |
| ・すごくクサイ | |
トルテ「すこし蹴るだけで凄く飛ぶ、遠距離用の爆弾だよ」
カスカル「ああ……」
リオリール「うん……あの、どうしてトルテちゃんは痺れてたの?」
トルテ「理論はたまに論理的な処理ができない時があるから仕方ないの」
リオリール「そっか……」
トルテ「ん」
カスカル「……次は計算をミスらないようにな……」