リオリールとトルテのアトリエ~三つ大島の錬金術士~   作:ジャミゴンズ

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04. 贈り物と夕焼け魚雷

 

 

 ふた島の殻貝街道の乾いた風が吹き抜ける場所に、その特徴的な建物は佇んでいる。

 

 フラウセス教会。 

 

 フィンデラーント王国では広く信仰されている神に祈る場所だ。

 三つ大島でも信仰に似た概念はあるが、地域ごとにバラバラでもある。

 

 その教会の一室では、二人の人物が軟禁されていた。

 

「ふぅ……穏やかな日差しだ。 随分と長く、ここに居るように感じますよ」

「それは、申し訳ありません。 カデルエイ神父」

 

 彼の右手の親指には、一本の赤い組紐が結ばれている。

 それは床を這い、部屋の隅にある木造柱にしっかりと結ばれて繋がっていた。

 その細い糸は、錬金術士レッドが作り上げた拘束紐だ。 張力が増すごとに糸とは思えない剛性を発揮して、部屋の外に出ようとしても出れなくなっている。

 もちろん、強度も高く鉄の刃でこすりつけても、まるで切れない不思議な糸だった。

 

「しかし、何故です。 私たちに扮して、貴方たちは何をしようとしているのですか?」

「知らないでいた方が良いですよ、神父様。 その方が、きっと良いですから」

 

 腕を組んで、カデルエイと呼ばれた神父はため息を吐きだした。

 怪人一号は食器の準備を終えると、トレイに載せてテーブルの上へと零さないようにゆっくりと置いた。 湯気と共に、ミルクと野菜の甘い香りが部屋に充満していく。

 

「……貰おう。 シャイエル、ほら、こちらに来て座りなさい」

 

 食事を始める神父と子供に、怪人一号は人知れず安堵の息を吐きだした。

 彼らが暴れるような正確でなく、慎重で思慮深い人間だったことに安心していたのである。 監禁されれば、誰だって騒ぎたくなるだろう。

 だけど、カデルエイ神父はどこまでも冷静だった。

 

 彼は60歳を迎える初老の男だが、その背筋は信仰の強さを表すようにピンと伸びている。  

 毎朝、洗面器の水鏡を見ながら整える白髪は一筋の乱れもなく、髭も綺麗に剃り上げられて綺麗だ。 もちろん、その為のカミソリや整髪料を用意したのは、怪人一号なのだが。

 

「イッチさん。 貴方は、根っからの悪人には見えません」

「……」

「私たちをこうして閉じ込めていることには、何かのおっぴきならない事情がある」

「どうしてそう思うのですか?」

「その細やかな気配りや私たちに接する態度には敬意が見えます。 事情があるのならお聞かせ頂きたい」

 

 神父の眼差しは、真実を射抜こうとするように真っ直ぐだ。

 怪人一号は表情を変えない。

 ただ、少しだけ困ったように眉尻を下げただけだった。

 

「不便でしょうけど、一ヶ月くらいだけ我慢してください」

「言えない理由があるようですね」

「ええ、まぁ」

 

 一ヶ月という時間。 その言葉に含まれるのが希望なのか、それとも別の理由があるのか。 カデルエイ神父は怪人一号から読み取ることが出来なかった。 が、同じく怪人一号もカデルエイ神父に隠し通すことは難しいと、意識的に避けるように振る舞っていた。

 

 会話を打ち切るように視線を外し、部屋のもう一人の住人へと向ける。

 シャイエル・フローティエルスタリア。

 錬金術士レッドにメッセンジャーとしての役割をふられた少年が、窓辺に張り付いていた。

 彼に近づいて食事を促そうとしたが、シャイエルの指先は窓の先の後継に向かっていた。

 

 教会の出入り口、正門を開けて街道への道を進む少年の姿が見える。

 それは、目の前のシャイエルと瓜二つであり背格好も、着ている物も一緒で二人が並べば双子のように思えるだろう。

 

「僕は、何をしてるんですか?」

「大丈夫、悪い事はしていませんから……不安かもしれませんが、何も心配しなくても良いですよ」

「……」

 

 彼自身を模したホムンクルス。 錬金術士レッドによって生み出された人工生命体。

 

 怪人一号が説明しても信じられまい。

 テーブルの椅子へとシャイエルを促し、顔を俯かせながらスプーンを手に取った少年に心の中だけで謝った。

 

 そのまま外の景色を一瞥する。

 道路を挟んだ向かい側、大きな岩のてっぺんで楽器を抱えた目立つ衣装の男の姿が、怪人一号の視界には入った。

 

 ディーツハート。

 『リオリールのアトリエ』にも登場した、サブキャラクターである彼の特徴がそのまま色濃く残っている。 本来ならアカデミー入学を果たすまで登場しない存在なのだが、ここに居るということは本編とは剥離し始めているのだろう。

 少しだけ厄介だな、と思った。

 ディーツハートは記憶の中でも洞察力の鋭い人間として描かれていた。

 あまりこの教会近くに寄って欲しくない。

 

「さて、カデルエイ神父、もし何か必要な物があれば、これに書いておいてください」

 

 懐から一枚のゼッテル用紙を取り出し、カデルエイ神父に手渡した。

 それは監視役としての義務感か、それとも奇妙な罪悪感の表れか。

 彼は素直に紙を受け取り、深く頷いた。

 

「苦しんでいるのなら、吐き出すだけも違いますよ」

「お気遣いありがとう、神父様。 でも、大丈夫です……ありがとう」

 

 そう言って、部屋を出た。

 扉を閉めて、鍵が掛かる乾いた金属音を響かせて。

 

 コツ、コツ、と怪人一号の足音が、無人の礼拝堂へと続く高い天井に吸い込まれていく。

 漂う冷たい石造りの廊下を曲がり、本堂と繋がる扉を開ければ、祭壇の前に神父の服を着た男性が椅子に腰かけていた。

 カデルエイ神父に化けた、錬金術士レッドだ。

 不揃いの仮面の瞳の奥が、ギラギラとしていて恐ろしい印象を強く残す。

 

「レッド、本を読むのは良いですが、元に戻しておいてくださいね」

「本物の方はどうだ? 衰弱している様子はないか?」

「ええ、大丈夫です。 健康ですよ。 神父は気丈な方ですね。 シャイエルも、混乱はしていますが落ち着いています」

「なら良い」

 

 ここは大陸から伝来した宗教施設だが、カデルエイ神父もシャイエルも三つ大島の住人だ。 

 錬金術士レッドは投げ捨てに言いながら本のページを捲っている。

 イッチは礼拝堂の上部につけられている時計を見た。

 

「悪魔が教会に来るなんて、とんだ皮肉だな」

「ええ、そうですね」

 

 同意と共に教会の重たい正門が、軋んだ音を立てて開かれた。

 

 眩い光の中に黒い影が大きく伸びていく。

 モコモコした赤い体毛は長く、逆光の影のシルエットを大きく歪ませていた。

 迸る赤く黒々しいオーラは肉眼で把握できるほどで、顔にはふざけているとしか思えないチープな仮面が張り付いている。

 

 悪魔怪人・レッドマン。

 

 この教会に居る人間全員の、在り方を強制的に歪めた怪人一号の主だ。

 

『ケケケ、おうおう、辛気臭い顔が揃ってるじゃねぇか。 どいつもこいつも元気がねぇ。 なぁレッドマン?』

「黙っていろ、イービルズブック。 余計な茶々を入れるな」

 

 レッドマンは扉をきちんと閉めて、ゆっくりと中に入り、集会席の一つに腰をかけた。

 イッチが頭を下げ、錬金術士レッド……リードは本を閉じて立ち上がる。

 

「ふふふ、順調ようで何よりだ。 嬉しく思うぞ、グリード・エングルード・リード」

 

 そう言ったレッドマンの手の中には幾つかの書類があった。

 食い逃げ、窃盗などのあらゆる軽犯罪の罪状が綴られた手配書もその中にある。

 錬金術士レッドと怪人一号は、世界征服を目論む悪魔怪人レッドマンの指示によって『悪名』を稼いでいるのだ。

 

 その理由は単純にして明快。

 

 錬金術士レッドに与えた『錬金術が使えるガントレット』はイービルズブックの力を使用して生成しているからだ。

 彼が錬金術をガントレットで使ってくれれば使うほど、すなわち悪魔の力を削ぐ事に繋がっていく。

 それは死を願うレッドマンにとって、自分を弱体化するために必要だ。

 

「こんなくだらん事に錬金術を使う事になるとはな。 お前と出会ってから新しい出来事に触れる機会が増えて楽しいもんだ」

『ケケケ、だってよぉ? レッドマン。 はしゃいで満足してくれてるみてぇだぞ』

「そんな訳があるか、皮肉だ。 ま、この調子で道具を作って悪事を積み重ねれば良い」

 

 レッドマンが軽く手を振ると、礼拝堂に大きなバキンっという音が響く。

 リードはチッ、と舌打ちして、スルスルと手首から返ってきた鎖を掴んだ。

 今の会話の間にも錬金道具の『見えない鎖』をレッドマンやイービルズブックへと仕掛けて攻撃をしていたようだ。

 イッチは攻撃の仕掛けも、防御方法もまるで見えなかった。

 

「ふむ……奥に人が居るようだな」

「ええ、この教会の本来の管理者である神父と、子供の信徒を捕らえています」

「そうか」

 

 レッドマンはボリボリと顎の先を掻いて考えに集中した。

 ハラリと、赤い体毛の一房が礼拝堂の床に落ちていく。

 

「怪人一号、お前の手は足りるのか?」

 

 問われ、レッドマンへと身体を向けると頷いた。

 実際は神父やシャイエルの面倒を見ながら、リオリールとトルテの監視と安全確保。 錬金術士レッド役のリードとの欺瞞の師弟関係に加え、自分の雑務もしているのだ。

 死ぬほど人手は欲しいが、それ以上に自分と同じような人間を増やすわけにはいかない。

 仮に怪人一号と同じ状況の人物が増えれば、余計に先が見えなくなる。

 

 邪魔にしかならない存在が生まれる可能性も。 だから、一人で良かった。

 

「ええ、問題ありません、レッドマン」

「とはいえ、少し不安があるな。 ふた島の活動では海も利用することが多くなるだろう。 少し肉体を改造しておいてやる」

 

 言うなり、レッドマンはイービルズブックを掴むと、爪で皮膚を割って血で文字を描いていく。

 怪人一号の脚が音を立てて『壊れた』

 左右に歪み、まともに自重を支えて立つことさえ出来なくなって床にへばりつく。

 バギリ、ゴキリ、と重い音が身体の中から響き『新しい脚』が内側から生えていった。

 

 リードが珍しく、仮面の奥の眼を剥いて驚いている。

 

 痛む身体を歯を食いしばって耐え、数分でその音は鳴り止んだ。

 

「……ふむ、どうだ?」

「ぐっ……はい、変われたようです。 レッドマン」

「後で試運転として海で泳いで確認しておくと良い。 リード、これは頼まれてたものだ」

 

 投げ渡された封筒を、リードは受け取ると中身を検めてから頷く。

 

「ふん、マッチポンプもここまで来ると笑えるな」

「なんだっていいさ。 重要なのはリオリール・フェルエクスの成長と……」

 

 手配書を眺め、レッドマンはフハハっと満足そうに笑う。

 主人公であるリオリールの成長。

 そして錬金術士レッドと怪人一号を通じて、黒幕『悪魔怪人レッドマン』という世界征服を狙う巨悪に、いずれは気付けば良い。

 

 今、リオリール・フェルエクスに悪魔怪人レッドマンを報せる必要はない。

 レッドマンが彼女の明確な敵と認識され殺意を抱くのは最後でいい。

 自分を殺せる、世界で最大最強の、ただ『滅ぼすための道具』を作れるまでじっくりと待つのだ。

 

 その時こそ、レッドマンの悲願は叶う。

 

「いいか、ゆっくりと進めるのだ。 背中の影に潜むように、疑惑だけを育てながらな」

 

 レッドマンはそう言って、イービルズブックと共に完全に教会から姿を一瞬で消した。

 

 

 後には足が新しく生え変わった怪人一号と。

 

 『中央島の公式印が掘られた』公文書を手に持つリードだけが静寂の中に残された……

 

 

 

 

 木漏れ日が次第に茜色へと染まり始める街道沿いの林。

 『ぷにの楽園』の近くの小さな林道にシャイエルが立っていた。

 フタミツ港で海面上昇を叫んでいた少年と同じ顔、同じ背格好。  

 だが、今この場所に立っているシャイエルは錬金術士レッドによって生み出された『ホムンクルス』である。

 

 彼は無表情のまま、林道の端っこでじっと『待機』していた。

 その細い腕の中には、一匹の小動物が抱え込まれている。

 ふた島に生息する、鮮やかな橙色の毛並みを持つケモノだ。 俊敏で、人間になど捕まるはずのない野生のモンスターがシャイエルの腕の中で藻搔いていた。

 鉱石すら削ぎ落す鋭い爪がシャイエルの腕を引掻き、腕の袖の衣服を裂くが、シャイエルはまるで気にしていなかった。

 

 絶対に離さないように、オレンジ色の体毛のケモノの首を、少年とは思えない膂力で押さえつけているのだ。

 

 何も動じず。

 考えもせず。

 シャイエルはじっと腕の先の暴れるケモノの首を持って、ぼんやり時間を過ごす。

 

 そんな彼がふいに顔をあげた。

 三つ牛特有の重たい足音がドスドスと音を立てて近づいてくる。

 

 その背には、リオリールとトルテ、カスカルが乗っているのを彼は認めた。

 

 彼は街道へとふらりと歩み出ると同時に、腕の力をふっと抜いた。

 自由を得たケモノは、恐怖と怒りだろうか。 鳴き声をあげながら拘束していたシャイエルに向かって吠えると俊敏な動きで襲い掛かった。

 

「うわぁっ!」

 

 わざとらしく声を上げ、シャイエルは地面に倒れ込んだ。  

 橙色の影が、彼に襲い掛かるのを、カスカル達が気付いた。 そう、予定通りに。

 

「あいつ!」

「ケモノに襲われてる!?」

 

 カスカルの声に、リオリールとトルテも地図から目を離して状況に気付く。

 カスカルは手にした銛の柄で地面を強く叩き、威嚇音を立てながらシャイエルとケモノの間へと割って入る。  

 橙色のケモノは、新たな敵の出現に距離を取り、フーッと毛を逆立てて威嚇の姿勢を取った。

 

 ミミガーデン村では共生するケモノと戯れた思い出が過る。

 こんなに怒っているなんて、一体なにをしたんだ、とカスカルはシャイエルを一瞥するが今はそんなことを気にしている場合ではない。

 

「じっとしてろ。 俺の背中から離れるなよ、こいつら凄く素早いからな……!」

 

 ぐっと腰を落としてカスカルは背後にシャイエルを庇う。

 リオリールとトルテも少し距離を取って、お互いにポーチの中に手を突っ込んでいた。

 

 そのリオリールの眼は輝いていた。

 ミミガーデン村での経験から、彼女は知っている。 

 ケモノは本来、友好的で賢い生き物だと。  

 ちょっと今は興奮しているようだが、これを使えばすぐに『ふた島のケモノ』とも仲良くなれるに違いなかった。

 このアイテムには彼らの大好物である『ユウバナの実』がふんだんに使われているのだ。

 

 ミミガーデン村を出てからこっち、密かに開発していた道具の出番である。

 

「お兄ちゃん、乱暴しちゃダメだよ! きっとお腹が空いてて機嫌が悪いんだよ!」

「リオ、悠長なこと言ってる場合じゃないぞ」

「大丈夫! これなら仲良くなれるから! これが私の『ユウバナ村の贈り物』だよ!」

 

 リオリールは自信満々に、バスケットのような形をした調合品――ユウバナ村の贈り物――を、ケモノの足元へと放り投げた。

 コロコロ、とリオリールとケモノの間に転がったそれは甘い香りを漂わせる。

 

 ケモノが鼻をヒクつかせ、興味深そうに近づいた、その瞬間。

 

 まばゆい閃光と共に、バスケットがボンッと跳ねて空中へと数メートル飛び上がった。

 そのまま内蔵されていたフロジストンが反応し爆発、無数のユウバナの実の欠片が手榴弾のように四方八方へと飛び散りながら連鎖爆発を起こす。

 

 爆風と炎、そして熱せられた果実の礫がケモノに向かって降り注ぐ。

 

「あ、あれ!? なんでぇ!?」

「リオ、すごい良い爆弾。 威力も十分そうだよ」

「違うんだよぉ! 実が割れてユウバナしだれが出てくるはずだったのに!」

 

 ケモノがギャアギャアと騒ぎながら、リオリールの『攻撃』に激昂した。

 少々怪我をしたのか、少し鈍い動きにトルテが一歩前に出てポーチの中からアジを取り出す。

 鱗が日の光を反射して、キラリと煌めいた。

 

「私も、爆弾はちゃんと作ってる」

 

 リオリールが頭を抱える横で、アジを抱えながら決め台詞を放つトルテ。

 この道具もリオリールと同じように、カンカン山から下山しながら考えた攻撃アイテムだ。

 そっとアジを足下に置いて、ぐっと右足を振り上げた。

 

「えい!」

 

 トルテに蹴られてぱちん、と乾いた音が鳴ったかと思えば。

 放たれた魚雷は、組み込まれた『エアロライト』の風の力で推進力を得て、空中を一直線に疾走する。

 

 その速度は本当に一瞬だった。

 

 空気を切り裂き爆発で混乱しているケモノの鼻先へと正確に着弾すると、ライデン鉱の電気の力が放たれて、アジの口の中から礫の実がいくつも放出されていく。

 

「キュウキュゥ……!」

 

 理不尽な攻撃に晒され続けたケモノは、流石に心が折れたのか。

 まるで泣いているような声を上げて林の奥の方へと一目散に逃げて行ってしまった。

 

「当たっちゃった」

「トルテちゃん、ケモノがかわいそうだよぉ」

「アジの口から出る広範囲の雷撃が本命なんだけど……まぁ本体の物理ダメージもなかなかではあるか」

「うぅ、ケモノさんごめん……ごめんねぇ」

 

 がっくりと項垂れるリオリールと、満足げに頷くトルテ。

 その対照的な二人の姿を、シャイエルは地面に座り込んだまま、感情の読めない瞳で見つめていた。 そんなシャイエルに、カスカルはふうと息を一度吐き出してから声をかけた。

 

「怪我はないか?」

「はい、ありがとう……あ、カスカルさん」

「ああ……えっと、シャイエル……だったよな?」

「あれ、お兄ちゃん知り合い?」

 

 シャイエルは怯えた演技を完璧にこなし、ぺこりと頭を下げた。

 その腕や手首には、先ほどのケモノによる引っ掻き傷があるが衣服が破れているだけだ。

 大きな怪我がないことにカスカルは良かったな、とシャイエルの手を掴んで起こしてあげる。

 

「こんなところで何をしていたんだ? もう日が暮れるぞ」

「罠にかかっていたケモノが居たので外してあげたんですが……罠を仕掛けた人と勘違いされたのかも」

「ケモノを捕まえる罠? それにしても、不用心だろ」

「ご、ごめんなさい」

 

 カスカルの説教じみた心配に、シャイエルは申し訳なさそうに縮こまる。  

 空を見上げれば、もう完全に日は落ちかけていた。 

 地図にある次の目的地の『ハチヤド』まで行くには距離がありすぎるだろう。

 リオリールとトルテがそんな話をしているのを聴いたのか、シャイエルは砂埃を払いながら言った。

 

「あの、もしよかったら……近くに僕たちの教会があります。 お礼に、宿を提供させてください」

「シャイエル君は、いいの?」

「はい、むしろ来てくれたら嬉しいです」

「なら、お言葉に甘えるか」

 

 野営をするつもりだったが、屋根のある場所で休めるならそれに越したことはない。

 

「それじゃ、教会ってところに案内して貰っていいか?」

「ええ、こっちです。 ついてきてください」

「うん、よろしくね、シャイエル君」

 

 シャイエルはリオリールの手を握って、先頭に立って歩き出したのだった。

 

 

・――――――――――――――――――――――――――――――――●

 

●ユウバナ村の贈り物作成者:リオリール

 

 懐いてくれないミミガーデン村のケモノと仲良くなる為にせっせと密かに開発していたリオリールの虎の子の調合アイテム。

 見た目はユウバナの実を半分に割った形状であり、甘い香りが特徴的。

 地面に転がすと甘い匂いと豊潤な『ユウバナしだれ』が完成品で出てくる予定。

 実態は地面に転がすと閃光を発しながら空中へ飛び上がり、フロジストンに着火して無数のユウバナの実の破片が手りゅう弾のように爆発しながら飛び散る。

 爆弾として非常に優秀かつ、威力も申し分ないが作成目的とは大きく異なる事になった。

 

レシピ: ユウバナの実*3・甘露の枝・フロジストン・ガラクタばね
● 効果● 特性
・打撃ダメージ(強)・マルチボーナス
・炎ダメージ(中)・大きな破壊力
・あまい・シビれる味わい
・弾ける

 

トルテ「リオが作った爆弾の中で一番良いと思う」

リオ「あぅ、ありがと……でもね、違うんだよね……」

トルテ「特に見た目が本当にユウバナの実とあまり変わらないのが良い。 一見すれば食材にしか見えないから、暗殺もできそうだね。 食べようと思った所に、ドカン」

リオ「暗殺……あのね、違うんだよ? 本当はユウバナしだれが自動的に出来上がって美味しく飲めるように……」

カスカル「それがどうして爆弾になるんだ?」

トルテ「たぶん、リオは本能的に人殺しの道具を作れるんだと思う」

リオ「もぉー! 茶化さないで! たまたま失敗しちゃっただけなんだから! いつか、ちゃんとした物を作るんだからーーー!」

トルテ「なんで怒るんだろう? 褒めてるのに……」

カスカル「褒めてるからじゃないか?」

 

●――――――――――――――――――――――――――――――――・

 

 

・――――――――――――――――――――――――――――――――●

 

●夕焼け魚雷作成者:トルテ

 

 リオリールが作っていたユウバナ村の贈り物を見て、トルテも作ってみた爆弾。

 こちらは最初から爆弾想定で作られている。

 見た目はブリやアジなどの魚の形状を模している。

 対象に向かって一直線、かつ高速に飛来する。

 ライデン鉱の雷の力によって雷撃を放つと共に、魚の口からユウバナの実の破片を質量弾として吐き出します。 中心に被弾した者は大きなダメージを受けることになり、高速飛来するため逃げる事も難しい、非常に優れた爆弾だが、追尾機能が実装できなかった。

 

レシピ: ユウバナの実・エアロライト・ライデン鉱・(魚類)
● 効果● 特性
・打撃ダメージ(強)・ラストストライク
・雷ダメージ(大)・ワンタイムエンド
・高速飛来・シングルボーナス
・口から実が出る・範囲を広く+++

 

トルテ「創作レシピの中だと一番の自信作だよ」

リオ「お魚の形なんだね。 どうしてこれを選んだの?」

トルテ「殻になるのが当時無かったから」

カスカル「アジは持ってたのか?」

トルテ「なんかポーチに入ってた……」

リオ「トルテちゃんは、意外とお魚と相性が良いよね。 お肉よりも好きみたいだし」

トルテ「ユウバナ村で慣れちゃったのかな? お魚おいしい」

リオリール「なんか嬉しいなぁ。 ねぇ、トルテちゃん、更におススメがあるんだけど」

トルテ「わかめは良いや」

リオリール「な、なんでぇ!? まだ何も言ってないよ!」

 

●――――――――――――――――――――――――――――――――・

 

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