リオリールとトルテのアトリエ~三つ大島の錬金術士~   作:ジャミゴンズ

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07. 嵐と爆発1

 

 

 

 爆発による騒音と噴煙が立ち上ること22回。

爆風のもたらす衝撃波に耐え切れずに四散し、消費した錬金用の釜の数は4口。

四散した釜の破片がおでこに直撃して大きな瘤ができたこと1度。

 

日数にして14日間。

リオリールのアトリエとして使っている倉庫の入り口には 『ただいまお仕事中』 の看板が掛けられ続けている。

 

この看板だが、言葉通りの意味ではない。

 

家族やユウバナ村の人達に 『まもなくアトリエは爆発する、抵抗は無意味だ』 という感じの警告の意味が込められているのだ。

 

ユウバナ村で大火災を引き起こしたことが過去にあるリオリールである。

 

村人にとっては周知の事実であるため、この看板を立てかけている時にリオリールのアトリエに近づく村民は一人として居なかった。

今はまだ家族以外には 『錬金術士のリオリール』 ではないのだ。

煮立った釜へと異物を混入し 『村を炎上させるヤベー奴』 という認識である。

 

 そんなアトリエの中で、リオリールは作業に没頭していた。

 

蒸留石を溶かした釜の中はうっすらと黄色く輝いている。

かなりの高温にまで上がった釜の内容物を一度冷やすために、リオリールはくべていた薪をそっと取り除いた。

熱が逃げるまでの間、はぐるま草の茎を一本一本すり鉢で潰していく。

 

ここからが勝負所で、冷ました釜の中身は時間を掛けすぎると再び熱する頃には効力を失ってしまい、調合が失敗してしまう。

茎の幹から出てくる液体だけを不純物が混ざらないように慎重に、そして急いで掬い出し、予め用意していた中和剤にしっかりと混ぜこんだ。

 

ときおり、額から滴る汗を丁寧に当て布で拭い、息を吐き出す。

 

最近になって出会った同じ錬金術士であるトルテからも、何度かアドバイス受けて素材の投入順の重要性を学んだリオリール。

こうして素材の投入順をしっかりと考えて、確立したレシピで調合を行う事は14日前には想像すらしなかった作業だ。

 

錬金釜から立ち上る熱気にアトリエ全体が熱を帯び、額から流れ落ちる汗をもう一度袖で拭って、リオリールは立ち上がった。

 

「……今度こそ……!」

 

 ここまでは何度も失敗を繰り返して問題なく調合過程を進めることができるようになった。

 

薬効の効力を最大限に引き出す役目を持つ蒸留石を釜の中で溶かし、一度冷やす。

解毒に特化した薬効成分をはぐるま草から抽出。

妖精の日傘から特性を引き継いだ中和剤を、効果が失わないように混ぜ合わせる。

 

分量は等分になるようになるべく気をつける。

 

調合用の器材が足りない環境らしいので、なんとなく良い感じで半分くらい、というふわっとした要領でリオリールは慎重に混ぜ合わせていた。

最初は不慣れで数時間もかけていた作業(稀に爆発したり)であったが、今では幾分と手馴れてきた。

 

 1時間ほどかけて混ざった液体を別の容器に移し替え、温度の下がった煮立つ釜の前にリオリールは立つ。

これから再度、釜に熱を加えていかなくてはならない。

髪などが釜の中に落ちないように、頭巾をかぶって長い髪は紐を使って後ろで纏めてある。

 

緊張した面持ちで、一つ息を吐く。

 

リオリールは上唇を一つ舌で舐めて容器を釜の上に掲げた。

知れず、ふっと息が漏れる。

 

この中和剤と蒸留石の溶け込んだ内容物との調合が、最終工程になるのだが、これが最大の鬼門でもあった。

分量を多く入れてしまえば爆発反応が高くなりすぎて、何をやっても抑えこむ事が出来なくなり爆発してしまう。

逆に少なすぎれば薬効成分は殆ど消失してしまい、調合アイテム―――特に薬としては何の効果も持たない代物が出来てしまう。

 

どちらにも中途半端になってしまえば特性を十分に引き出すことが難しくなる。

ちなみに分量は、やっぱり調合機材が足らずに目分量で調整せざるを得ない。

 

これらは全て、トルテから突っ込み……という名で教えてもらった知識である。

 

何よりも、ただ釜の中で混ぜ合わせるだけでは調合アイテムは完成しない。

熱を持つ錬金釜の前では、分量の調節をしながらしっかりと、それぞれ素材の成分が混ざり合うように攪拌していなければならないのだ。

 

「やるぞ~……やるぞー……」

 

 リオリールは口の中で呟きながら、何度も息を吐き直し、そっと中和剤を入れている細長い容器を傾けた。

青と翠が混ぜ込まれた液体が、空中から滑り落ちて釜の中に投入される。

ある程度、だいたい良い感じっぽい分量を指の先で敏感に感じ取り、投入量を調節。

 

「ここ……っ!」

 

リオリールは急いで、かつ丁寧に中和剤の容器を机に置くと、予め釜の隣に用意してあった木製の小さなオールを引っつかんだ。

 

彼女は数え切れない失敗と僅かな成功体験という経験則から知っている。

これだけは物心ついた時から、繰り返してきて身体に叩き込んで得た物だ。 

 

調合している所はまだ見たことが無いが、これだけはトルテにだって負けていないとリオリールは思う。

 

錬金術にとって最も重要なのは、ここからなのだ。

確かに釜の中身を混ぜるだけでは調合アイテムは作れない。

しかし―――

 

「ぐーるーぐるー……ぐーるーぐるー……っ」

 

 そう、ぐーるーぐるーだ。

今回の解毒剤の作成に当たっての感覚。

ぐるぐるーだと早すぎて猛烈な噴煙が立ち上り、ぐーるーぐーるーだと遅すぎて爆発する。

ぐるーぐるーだと瘤ができるほどの危険な爆発をおこし、ぐーるぐーるだと釜そのものが消し飛んだ。

 

ぐーるーぐるー。

 

解毒剤を調合するのに必要な攪拌のリズム。

ぐーるぐるー。 

これが到達したリオリールの答えだった。

 

リオリールはこうして最終工程で釜の中身をぐるぐると掻き混ぜる、いわゆる攪拌作業がとても重要なことを知っていた。

 

掻き混ぜる為に使うオールを突き入れる際の突入角度とその深度。

素材が混ざり合う最良の遠心力に、熱の加え具合。

釜の中身を攪拌する速度は、素材の投入量に準じて加える回転力とオールの捻り具合が最重要。

 

素材やアイテムによって微妙に差異の出るそれは、熟達した錬金術士であっても調合失敗して可笑しくない、そんな重要な作業である。

 

理論はともかくとして、実践を繰り返して手に入れた感覚に依って、彼女はぐるぐるするリズムと、ぐるぐるを維持する時間が重要だとリオリールは知ったのだ。

 

器用にオールの角度を調節し、慎重にぐーるぐるーすること20分ほど。

うっすらと白く輝き始めた釜の中身。

やがて光が収束し、釜の中で溢れんばかりに並々と注がれていた内容物は、ゴトっと妙な音と共に消え去っていた。

 

掻き混ぜていたオールの手を止めて、額に汗を浮かべ、やや肩で息をしながら―――リオリールは釜を覗き込む。

 

液体に満ち溢れていたはずの釜の中には、平べったい陶器製の器の中に満たされたゲル状の薬が、小さな蓋で密閉されて3個ほど転がっていた。

 

数日に及ぶ研究と調合。

今では錬金術士として尊敬すら抱くトルテに改善されたレシピ。

そしてトライ&エラーの繰り返しの末に産み出された成果が、釜の底に鎮座していたのである。

 

今までにないかき混ぜ棒のオールに返ってきた抜群の手応え。

間違いない。

調合の成功だ。

 

リオリールは拳を握って、両腕を突き上げながら喜んだ。

 

「……で、でっきたーーーー! やったああぁぁっーーー!」

 

 アトリエの中に可愛らしい少女の歓喜の声が響き渡った。

 

・―――――――――――――――――――――――■

●ロイヤルクラウンの解毒剤(飲み薬) カテゴリ:液体

 

  レシピ:はぐるま草・蒸留石・妖精の日傘・中和剤 属性(水)

 

● 効果 ● 特性

 ・MP回復・中   ・いい香り

 ・つめたい  ・プロの完成度

 ・毒を治療  ・強烈な回復力

 ・キノコ特攻   ・鉄板の効果

■―――――――――――――――――――――――・

 

 

「で、これがその解毒薬か」

「うん、やっと成功したよー。 大変だったぁ、これ作るのっ」

「……」

 

 アトリエから徒歩30秒。 

納屋を出てすぐ外にリオリールの実家はある。

そこで、にこにこと笑顔で解毒剤を持ってきたリオリールから受け取ったアイテムを観察するトルテとカスカル。

遅い昼ごはんと共にティータイムを楽しむ三人の姿があった。

 

机に並べられたのは三つ島特有の茶葉を用いて作られた暖かいお茶と素朴なクッキー。

 

満足げにクッキーを口の中に放り込むリオリールとは対照的に、トルテは解毒薬を手にとって容器とその中身を眺めこんでいた。

眉根を寄せながら。

 

「感覚的なもの何だけど手応え抜群だったから、きっとこれなら毒キノコの症状も治ると思うんだけど……どうかな~トルテちゃん?」

「……」

 

 リオリールの声に答えることも忘れ、トルテは解毒剤に注視してしまっていた。

 

衝撃的だった。

 

トルテは自身の使命と好みの問題もあって、一番得意な調合アイテムは爆弾である。

錬金術士としては爆弾含めて攻撃アイテム類ばかりの調合に特化してしまっているが、他のカテゴリに対しても満遍なく対応できるほどの知識と腕はあるつもりだ。

 

だが、リオリールが持ってきた完成品の解毒剤。

 

彼女の錬金術士としての知識と経験、そしてアトリエの環境から考えると 『出来が良すぎる』

 

素材や抽出した特性を厳選したと言われても、ろくに設備も整っていないアトリエで産み出したとは思えない。

同じ錬金術士としては、ちょっとばかり納得しかねる出来合いなのだ。

 

同じアイテムを同じ素材とレシピでリオリールのアトリエで作ってみろと言われても、トルテは首を振って無理だと言ってしまうだろう。

調合を始める前に諦めるレベルである。

父であるレッドマンに与えられた自分のアトリエ―――つまり最高級の調合環境でも作る事が出来るかどうかという物だ。

品質はそれこそ『プロの完成度』と言ってもいい。

 

トルテが見たところ素材から混ざる不純物は、完全に取り除かれている様に思えた。

目的の症状に対して即座に効果が実感できそうなほど、ほぼ完璧な薬効成分も引き出せているだろう。

素材が液体中心で構成されているため、水属性が強く引き出されているのは理解できる。

だが、器を手に持つだけで氷を持った時のようにひんやりと掌に感じ取れるほど属性成分が高い事は驚きとしか言いようが無い。

 

まして、効果を劇的に飛躍させるという『触媒』という物すら使わず(トルテも触媒についてはしっかり理解しているとは言えない)にコレを成し遂げたというのであれば、それは驚嘆に値することだろう。

 

まとめると。

客観的に見て、同じ錬金術士として見ても、素晴らしい調合アイテムだと言えてしまった。

 

「何日もかけて三つしか出来ないんじゃ大変なんじゃないか?」

「う~ん、でもまぁ、一個あれば3.4回は使えるだろうし、もう油断しなければそうそう失敗はしないと思うよ。 えっへん!」

「そうならいいな」

「もうー! お兄ちゃんいっつもそうだよ! 少しくらい褒めてくれてもいいじゃん!」

「別に貶してる訳でも無い、ってかいちいち叫ぶなって! それより、実際に効果があるか試した方がいいだろ。 この解毒薬は数回分ってところらしいが、どうするんだ?」

「そうだよね、早く使って効果を確かめてみたいな……あ、そうだ!お兄ちゃん、ロイヤルクラウン食べてみてよ!」

「おいこら……」

「あ、あははー、はは~嫌だなぁ。 冗談だってば、真顔にならないで! 怖いよ!?」

「ったく、とりあえずはユウバナ村の人たちじゃ試せないよな」

「私たちの村には中毒者が居なかったからね」

「ああ、幸いなことにな」

 

 暢気に漫才を繰り広げる双子の兄妹を見やりながら、トルテは納得できなかった。

リオリールがこの解毒薬を作った事は見事だとしか言いようが無い。

無いが。

その事実を認めたくなかったのである。

 

「リオ……少し、アトリエを貸して」

「え? トルテちゃん?」

「同じレシピで私も作る」

 

 言い残し、剣呑な表情を浮かべてリオリールのアトリエに向かったトルテ。

そんなトルテの変わった様子に双子の兄妹が顔を見合わせながら見送って。

 

 

きっちり2時間後。

 

 

 

 

 リオリールのアトリエは爆発した。

 

 

 

 

―――・

 

「ちょっと……まって……ねぇ」

 

 釜が爆発の威力に勝てずに四散してしまった為、その内容物と釜の破片を拾って掃除をしていたリオリールに力の無い声がかかる。

 

リオリールと同じレシピを使って解毒薬の調合を行ったトルテだったが、蒸留石を溶かす段階で釜が爆発してしまったのである。

トルテの築き上げた理論上、在り得ない作業工程での急激な爆発反応の上昇。 

それを抑えきることが出来なかった。

 

爆発で吹っ飛ばされて床にすっ転んだトルテは、ソファーの上でぐったりと横になっていたのだが、何時の間にか身を起こして口を開いていた。

 

「どうしたの?」

「リオ、聞いていい?」

「なにー?」

「もしかしてだけど、錬金釜の中に最初から入っていた水って……」

「え? 水は水だけど……」

「そうだけど、もしかして普通の水じゃない?」

「んー? すぐそこの浜辺で汲んできた海水だよ?」

「がっでむ」

 

 トルテは拳を握りこんでソファーの肘掛を寝ている体勢のまま叩いた。

 

このリオリールのアトリエそのものを見たときから、錬金術を行うに非常識な環境であるとは思っていたが……此処までとは思わなかった。

 

錬金術を行うに当たって、煮立てている釜の内容物はできるだけ不純物の無い、真水であることが望ましいとされている(少なくとも文献ではそう記載されていた)

解毒薬という薬を調合するならそもそもの前提として、人間が飲める程度の井戸水を使うことが必要のはずなのだ。

トルテは常に純度の高い、錬金術に適した真水を潤沢に用意して(レッドマンに用意されて)から調合作業をしてきた。

 

しかし、ここでは不純物や微生物などが混入しまくっている海水を用いて錬金術を行っていると来た物だ。

そりゃ何時もの調子で素材を投入した直後、過剰に反応が跳ね上がって釜が爆発するわけである。

 

悔しさを隠さずに、無言でソファーをバンバン叩いているトルテに、リオリールは気まずそうに苦笑した。

錬金術士として、しっかりとした知識を持つ少女が憤っている理由を察してしまったから。

 

「えーと……あはは、その、普通の水は森の近くまで行って井戸から汲みに行かなくちゃいけなくて、遠くて大変だから……」

「いいの。 リオはそれで出来ているんだから……でも……私はこのままじゃダメ……」

 

 嘆いていても、リオリールはこの環境……海水でもちゃんと調合をして錬金術を成功させている。

 

彼女と同じ環境で錬金術を使おうとしても、今のままではまともに成功することは難しいだろうとトルテは結論付けた。

そうなると三ツ島に最初に上陸し、一時の住処としていた打ち捨てられていただろう、あばら家へと戻る事が難しいのだ。

森の中を突っ切るのに、そして錬金術士どもを爆殺するのにはどうしても爆弾が必要になる。

 

トルテは同じ錬金術士であるリオリールのアトリエを借りれば、爆弾の量産は容易だと勝手に考えていたのだ。

実際に彼女のアトリエの環境を見てしまった後、一抹の不安は覚えていたが素材の投入をしただけで失敗するなど考えにも登らなかった。

 

そもそも、だ。

 

考えてみれば、アトリエの調合環境が変わることになるのは、レッドマンの居城を出てしまえば普通に考えて当たり前のことだったのに彼女は今更になって気付いた。

なのに無意味な自信に溢れて驕り、自分は普段通りに調合できるなどと何故、楽観をしていたのだろうか。

なんとも言えない悔しさと情けなさがトルテの胸中に広がっていくのを、彼女は自覚して唇を噛んだ。

 

自分には錬金術しかないのだ。

 

錬金術が無ければ、レッドマンに拾われることも無く、すでにこの世に居ないはずの無価値な存在なのがトルテという少女である。

イービルズブックからそう躾けられて育ってきたトルテにとっては、存在の意義を失うプレッシャーが強烈に振りかかっていた。

 

「れ、練習しないと。 この環境で調合が上手くいくように……おとーさんとの約束は絶対守らないとダメなんだから」

「あ、トルテちゃん」

「……なに、リオ」

「意気込んでるところ悪いんだけど……その、後はもうこの釜しかないんだ」

「……んぅ? なんだかずいぶん小さいけれど」

 

 それは錬金釜というよりも日常の料理に使う鍋のようなものであった。

しかも、あまり大きくなく……いや、小さい。

トルテは渡された鍋を両手で持って、じっと見つめる。

 

どうにも何度か失敗をしたのか、鍋の淵が歪に歪んで削れていた。

不安そうな表情がありありとみて取れて、リオリールは苦笑をしながらかぶりを振った。

 

「ごめんね……もう釜がそれしかなくって。 でも実際に錬金術を試したこともあるから使えないってことはないと思うんだ」

「そ、そう……?」

「えっと、でも私はこれで成功した事はないんだけどね、あははは」

「そう……大丈夫、なんとかするから」

「トルテちゃんはどうする? 私はこれから解毒剤の効果を他の村で試しに行こうと思うんだけど」

「……これで練習する、私はここで調合できないとダメだから」

「うん判ったよ、それじゃこれから準備して出かけちゃうけど、アトリエは好きに使っていいからね」

「……ありがと。 それより、リオ」

「なに?」

「出かけるならこの機会にちゃんとした錬金釜を用意した方がいいよ」

「そうしたいんだけど、先立つものがないんだよぉ。 世知辛い世の中ですぅー」

 

 錬金釜は錬金術師にとって最も重視しなくてはならない錬金器具の一つである。

三つ大島に錬金術という物が存在している事を、広く知られたのが数年前。

大陸では普及している錬金術ではあるが、三つ大島ではまだまだ珍しいものであり、おいそれと調合用の釜が手に入る環境ではなかった。

 

そして、少なくとも今のリオリールには手が届かないほど此処では高価なものである。

だからリオリールは隣町に住む知り合いの冶金師にお願いをして、格安で大釜をいくつか用意してもらっていたというのが実情だった。

 

それだって無料という訳ではない。

兄カスカルや母ユトネ、父ウータスから出世払いで大切なコールを吐き出した結果手に入ったものなのだ。

トルテはその言葉を受けて、大きなため息と共に吐き出した。

 

「わかった、大丈夫、これで頑張るっ」

 

 トルテは小さな鍋を力強く握り、ぶんぶんと上下に振って現状を素直に受け入れた。

必ずこの環境で調合を成功させるのだ、という強い意志をリオリールはトルテの表情から敏感に感じ取っていた。

 

 

 

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