いろんなおはなし   作:衝動書きする人

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ケイエスミラクル

 

 ケイエスミラクルとの出会いは病院だった。その時の俺は足を派手に折ってしまって入院することになったからだ。足が折れて歩けなかったが、逆に言えばそれだけでしかないから入院生活はとてつもなく暇だった。だから俺は看護師に許可を取って車いすに座って院内をゆっくりと動き回っていた。時には外に出て、時には立ち入り禁止区域以外を散歩するように移動していたが、それもすぐにあきていた。

 あの時もあまりにも暇だったから購買でお菓子を買い、膝に乗せて病院の庭を散策していると、ベンチに薄幸の美少年が座っているのを見つけた。陽射しに弱かったのか、その時は帽子をかぶっていて耳が見えず尻尾も位置から見えなかったため、その時俺は病弱の美少年かな?と思って声をかけた。

 

「お菓子食べる?」

 

 それが俺とケイエスミラクルとの出会いだった。後からウマ娘だったことを知ってびっくりもしたのだが、まぁそれはご愛敬ということで。この時のケイエスミラクルはお菓子もかろうじて食べられるぐらいだったのだが、これでも体調がよかったらしい。ひどいときは数日間点滴生活だったこともあるぐらいに病弱だったとは初めて会った時に聞いた話だ。

 食事もままならないと聞いた時、内臓関係が悪いのかな?と思って興味半分で偶然を装ってお菓子を渡す際に手に触れて生命力の量を確認すると、今まで確認してきた人たちの半分にも満たないほどの生命力しかなかった。

 さすがにこれはやばいと思った俺は、ふざけて肩を揉んだり遊びと称して手を握ったりしてケイエスミラクルに生命力を流していた。下心があったんじゃないのか、なんて言われそうだけど、そんなことを考えられないぐらいに生命力を感じなかったことの焦りと、いくら見た目がきれいだと言っても幼い子供に対して下心を考えるような趣味はしていない。俺は腰がそれなりに細くてお尻と太ももがむっちりしたお姉さんが好みだ。

 

 と、そんなことはさておき。まぁ俺が退院した後でもお見舞いに来ては生命力を流し続けていたことが功を奏したのか、ケイエスミラクルは徐々に元気になっていった。病気になることはあっても重病化することは無くなり、外に出られる時間も増えていった。元気な時間が増えてうれしそうな表情を浮かべ、購買で買ってきたお菓子を外に出て2人で食べながらケイエスミラクルが好んで読んでいる本について聞く時間が増えていた。そして中学校に入る幾分か前になってようやく退院できたぐらいにはなった。

 とはいえ、まだ完全に人並になったわけではなく通院は続けているし、大きく体調を崩す日もまだある。俺の流している生命力がケイエスミラクルの身体を丈夫にしていると言ってもかなりの時間が必要ではある。一気に流しても体が追いつけなくなるぐらいに感覚が過敏になるだけだし、生命力が体になじんでいくのにも時間がかかる。小学6年生になった今、軽くなら走り回れるぐらいには元気になったとはいえ、まだ警戒を解くことを許さない状態だ。

 けど、ケイエスミラクルは退院することができて、しかも外で遊べるようになったことを泣くほど喜んでいるのを見るとこの力を使ってよかったなと思う。ヘタをすればあのまま衰弱して植物状態一歩手前になってもおかしくないほどだったのだから外に出歩けるぐらい元気になったのは大変喜ばしい。

 

 そうして毎日のように顔を合わせていたからか、ケイエスミラクルのご両親からも信頼を得ていた俺は今日も今日とてケイエスミラクルを誘って一緒に外でお菓子を食べ、最近ハマっている絵本について聞いていた。

 

「そうだ。面白いもの見せてあげようか?」

 

 ふと、お菓子の袋を見て思い付きでまぐまぐと焼き菓子をほうばっているケイエスミラクルに声をかける。突然の思い付きで話しかけることが多い俺だからかケイエスミラクルは特に大きな反応を見せることなく口の中に入っていたお菓子を飲み込んだ。

 

「面白い物?何か持ってきたの?」

 

 興味津々、とまではいかないけど興味があることを隠そうとせずに笑みを浮かべるケイエスミラクル。その様子を見ながら俺はペットボトルのジュースを2人で飲むために持ってきた紙コップの余りを取り出す。

 

「ここにさっき食べたお菓子の袋と何の変哲もない紙コップがあります」

 

「マジシャンの真似事?」

 

 よくテレビで見かけるマジシャンの言葉を大げさに言い、袋をくしゃくしゃ鳴らしたり紙コップをよく見えるようにケイエスミラクルの前でクルクルと回す。それをクスクスと愉快気に笑い声を上げるのを確認し、紙コップを袋を隠すようにかぶせる。

 

「このお菓子の入っていた袋を紙コップで隠して、気合を入れます」

 

 はぁああああ!とわざとらしい気合声を入れながら袋に生命力を注ぐ。それをニコニコと困ったような笑みを浮かべて見ているケイエスミラクル。中で袋が変形していき、小さな温かい存在になったことを感じた俺は気合声を止める。紙コップの中からゴソゴソと動く音がかすかに聞こえていて、ケイエスミラクルはそれに気が付いたのか驚きの目で俺と紙コップを交互に見ていた。

 

「すると紙コップの中の袋が……」

 

 それに気がついてはいたが、気が付いていないようにふるまってゆっくりと紙コップを上げる。ケイエスミラクルが紙コップの中を凝視しているのをチラ見して確認し、中が見えるか見えないかのところでちょっとの間手を止めて、そして一気に紙コップを上げる。

 

「小さな小さな白い鳥になりました」

 

 そこにはお菓子が入っていた袋ではなく、代わりに小学生の手でも包めるほど小さな白い小鳥がケイエスミラクルを見上げていた。

 

「…………」

 

 信じられないものを見た、と言わんばかりに目を見開いて小鳥を凝視するケイエスミラクル。驚きすぎて声も出せない様子だったから、小鳥にケイエスミラクルの膝に乗るように指示すると小鳥はその通りにケイエスミラクルの膝に乗った。

 

「…………」

 

 驚きでまだ声が出せていないケイエスミラクルだったけど、恐る恐ると小鳥に手を添えると小動物特有の温かさを手に感じ、その手に顔をこすりつける小鳥に驚きだった表情がふにゃりとした笑みに変えていった。

 

「温かいね……」

 

 割れ物を扱うように優しく小鳥をなでるケイエスミラクル。意識が全部小鳥に行っていることを確認した俺は、手にしていた紙コップに生命力を込めて手に乗る程度の大きさの白い鳥を生み出し、ケイエスミラクルの肩に乗るように指示する。

 

「きゃっ!?」

 

 突然肩に何かが留まったことに驚いてかわいらしい悲鳴を上げるケイエスミラクル。その時に手を一瞬上下に動かしたから小鳥は上に放り出される。とは言っても小さくても鳥は鳥、それも俺が生命力を注いで生み出された小鳥だ。羽を動かして難なくケイエスミラクルの手の中に戻って体をこすりつけている。その様子に俺は軽く笑うとケイエスミラクルはむっとした表情を浮かべて俺に視線を送る。

 

「……もう。驚かさないでよ」

 

「悪い悪い」

 

 自分の反応を見て軽く笑ったのを見て俺がやったと確信したのか、ケイエスミラクルはほほを膨らませてジト目で俺を見る。それを見て俺は笑うことをやめずに謝っても、ケイエスミラクルは拗ねてしまってほほを膨らませながら顔を俺から背ける。

 

「悪かったって。ほら、チョコあげるから」

 

「ツーン」

 

 ケイエスミラクルはわざとらしく口に出して拗ねてますよとほほを膨らませたまま視線を俺に合わせようとしない。最初に出会った頃は儚さがとんでもない子だったのに、今ではそこらの女の子と何ら変わりないように育っちゃって。お兄さんはうれしいやら寂しいやら、とわざとらしくやれやれと肩をすくめて困った表情を出していると、ケイエスミラクルはジトッとした視線をほほを膨らませたまま送ってくる。

 

「こんな風にしたのは、君のせいじゃないの?」

 

「心外だな。6年来の友人に対してその物言いはよくないんじゃないのかな?」

 

 わざとらしくむっとしながら責めてくるケイエスミラクルに、こちらもわざとらしくむっとしたような言い方で言い返す。そのままお互いににらみ合い、プイッとケイエスミラクルがほほを膨らませたまま視線を背ける。

 

「いいもん。そんなことを言うならジュースあげないもん」

 

 そういうとケイエスミラクルは空いている手で俺とケイエスミラクルの間に置いてあったジュースを取って俺の手に届かない場所に置く。

 

「そんな意地悪をするような子には、こうだ」

 

 パチン、と指を鳴らすと肩に留まっていた白い鳥はケイエスミラクルの顔に全身をこすりつけるように動き出す。顔に擦れる白い鳥の毛がくすぐったいのかケイエスミラクルは笑い声を上げる。

 

「くすぐったいよ~。やめてよ~」

 

 言葉ではそういっているが、ケイエスミラクルの表情は楽しそうな笑みを浮かべて白い鳥のやりたいようにやらせている。

 それを俺は微笑ましく思いながら見守り、ふとケイエスミラクルの両親からもしよかったら写真を撮ってきてほしいと頼まれていたことを思い出して子供携帯でケイエスミラクルを撮る。

 

「ん~。撮り慣れていないにしては上出来でしょ」

 

 撮れた写真を確認して、我ながらいい出来だと満足して頷く。いつ死ぬかもわからないと言われて希望を持たないようにしていた女の子が、こうして希望を持って元気に笑みを浮かべている様子を感じ取れる様子を写真に収められたんだから、あの時に生命力を流し続けたのは間違いじゃなかった。

 

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