眠り姫の王子様 作:かっぽ
さくっと楽しめるスナック小説です、どうぞ。
俺はフィリップ、日本生まれ日本育ちのハーフだ。
俺は日本のアニメが好きだった。
でも俺は純粋な日本人じゃないから、あんまり小学校ではクラスに馴染めなかった。
そんな俺に、声を掛けてきた奴がいた。
「おーおまえイケメンだなー! このー! ないすとぅーみちゅー!?」
いつもハイテンションで明るくクラスの中心的存在。
俺に初めてできた友人──菜月昴だった。
◇◆◇
「あぁぁぁぁああああああぁぁぁあああ!!」
叫んだ。
心の限り叫んだ。
喉の奥の魂を掻き毟るような悲鳴を轟かせた。
絶望。失意。悲壮。
悲しみと憎しみが身体中を満たして荒れ狂う。
そうして目の前の男に突貫した。
「死ねぇぇぇぇええええええ!!!」
怒り。激情。憤怒。
怒りと憎しみが無尽蔵に湧き上がり吹き荒れる。
そうして目の前の男の首を絞めた。
「──ナツキ・スバルッッッ!!!」
「グ、エぐッ」
その男こそは俺の無二の親友。
──菜月昴に対するものだった。
何の因果だったのか。
俺がこいつの首を絞めるなんて。
冗談や何かだと思うだろうか。
友達同士の戯れだと。
ただの悪ふざけだと。
この叫びが、本当にそう聴こえるか?
「や、やめてっ……フィリップ!」
エミリアが止めに入る。
だが止まるわけにはいかない。
止まるなんて、ありえない。
「死ね! 死ね! はやく死ねぇッ!! 何、やってやがるッ! てめぇもわかってんだろ!!?」
「ぐ……あ……」
「っっ!! エル・ヒューマ!!」
止まらない俺を、エミリアが魔法で止めようとする。
全身を氷が覆う。
──ダメだ。止まってやれない。
「──メリー、フォーナ、フローラ。──俺を守れ」
「「「──」」」
俺と契約する三体の精霊が氷を弾き飛ばし、俺を囲んで守る。それぞれ火、水、風の精霊。
いつもはこんな風に命令したりはしないが、今ばかりはそんな余裕がない。
──時間がないのだ。
──今すぐに菜月昴を殺さなければならない。
「死ね。死ね。──はやく死ね」
「フィリップ……! どうして……!」
「………」
どうしてもクソもあるか。
こいつがやるべきことをしていないから俺が代わりにやってやっているだけ。
それだけだ。
しかし、エミリアには理解できないだろう。
なんの説明もできないこの凶行に、さすがに一筋の罪悪感が過る。
説明してやりたい。
でもそれはできない。なぜなら……。
──俺は一瞬、傍らに"眠る少女"を見た。
止まれない。止まるわけにはいかない。
彼女ともう一度会う為に。
──彼女を助ける為に。
──俺は。
思考の浸かった束の間の時に、俺の肩に誰かの手が触れた。
美しい緑の髪が靡く。
「フィリップ様、おやめください」
「──クルシュさん」
俺の肩を掴んだのは、クルシュだった。
この国の公爵様であり、とても偉くて、格好いい、"白鯨討伐"の時もたくさんお世話になった人。
……しかし、今は……。
どうやって俺に近づいたのかと周りを見れば、そこにはメリーローザを捕まえるエミリアと、フォーナを留めるフェリス、そして、フローラの風を物ともせず佇むクルシュがいた。
そうか。
『風見の加護』か。
フローラでは相手が悪いな。
「ぁ、ふぃり、っ……」
「──」
昴が何か言っている。
なんだその目は。
お前も分かってるんだろ。
なら疾く死ね。
「手を、離してください」
「──」
クルシュさんが、手慣れた手つきで剣を俺の首に添えた。
"記憶"を失っているはずなのに。
身体は覚えているというのだろうか。
首筋から一筋の血が流れる。
「と、止まってください……!」
「──」
「……ぁ……」
──それでも俺は止まらない。
俺の命など、さして問題ではないのだから。
──俺の命なんて。
──"彼女"に比べれば些細なものだ。
だから。
「──アル・ゴーぁ……──」
クルシュを傷つけてでも、殺しを完遂しようとして。
「はーい、おしまい」
「ッッッッ!!!!」
──瞬間、電撃が走った。
衝撃か。違う。原因不明の痛撃。
脳が揺れ、体から力が抜ける。
──フェリス、か……ッ。
お得意の水魔法で体の制御を奪われた。
触れられていないはずなのに……、遠距離でも発動できるのか……くそッ。
「気持ちはわかるけど、クルシュさまにおいたするのはフェリちゃんが許さないよ。体のマナを弄ったからしばらく大人しく……って──ちょっと!!」
「ぁ……く、ら……ッ」
陽魔法『アクラ』。
それは、身体強化の魔法。
それで抜けた力を無理やり入れる。
────殺す。
あと、少しだ。
あと、少しで。
殺せる。
──戻れる。
あと、少し、で…………。
「──失礼」
「……ッが…………く、そ……」
あと、ほんの少しのところで……俺はヴィルヘルムに打たれて、意識が途絶えた。
◇◆◇
『フィリップくん、頑張ってくださいね』
◇◆◇
「──レムッ!」
目が覚めた。
見知らぬベッドの上。
周囲を見渡せば、ここがカルステン家の一室であると分かる。
それが分かると同時、俺は失意に沈んだ。
「……レム……っ」
いない。
いないのだ。
何故って、時間が戻っていない。
昴と協力して『怠惰』を討伐し、エミリアと二人きりで話しているスバルを置いて、俺は先にレムを迎えに戻った。
──そこには白い布を被せられた人たちが大勢いた。
──そこには"名前"のない人たちが並んでいた。
死んではいない。
生きている。
生きているが、死んでいる。
『ああぁぁぁぁぁぁぁぁっぁああああああぁぁぁああああああああ!!!!!!!!!』
慟哭が、哀哭が、たまらぬ切望が胸を抉った。
どうにもならぬ現実に、喪失のトラウマに世を嘆いた。
世界を呪い、憎み、憎悪した。
レムは、眠っていた。
どれだけ揺すっても、どれだけ叫んでも。
レムは起きなかった。
「──あぶない……よ……に……」
「──俺が……だから……エミリア……」
扉の奥から二人の声が聞こえてきた。
昴とエミリアだ。
──昴。
一度は止められた。
時間が空き、冷静になった頭で考える。
殺そう
──今度は、確実に。
容赦なく殺せる。
さっきは情が湧いた。
首を絞めるなんて迂遠な手を使った。
昴は弱い。
"アクラ"で首をひねるだけで殺せるはずだ。
「ふぅ……」
──問題ない。殺せる。
そう純粋に殺意を募らせて。
「フィリップ!!」
「──」
扉を開いて入ってきた昴を認識した瞬間、俺はベッドから立ち上がり、魔法を発動して首に手を掛けようと……したところで、
「──ッ!? うぐァッ」
失敗した。
体が動かなかった。
俺は地面に無防備に落下し、顎を打った。
マナも上手く練れない。
身体がマヒしているようだった。
目線だけ扉の方へ向けると、そこには男が一人立っていた。
……親友だ。
「……よぉ、おはよう。元気そうだな」
「…………ッ、お前ッ!!! なんで生きてるッ、はやく死ね! ……いや、いい! ビビってるんだろう!? なら俺が殺してやるよ! いま、すぐに、ぐ……ァ……ッ……」
立ち上がろうとするも、できない。
「あぁ……」
なんだ、その顔は。
そんな、そんな顔……。
なんで、そんな安心したような顔をする。
なんだ、なんで、なんでお前は……ッ!
ふざけるな。……ふざけるなっ。
まさかてめぇ、レムのことを忘れて……ッ。
「お前も分かってるんだろう?」
「ッ、なにを……ッ」
何を。そんなの。──わかってる。
「俺は──」
「…………やめろ……」
言わないでくれ。お願いだ。
「俺はもう──」
「ッ、言うなッ!!」
やめてくれ。耐えられないんだ。
俺は、もう。耐えられないんだよ。
耐えられないんだ……失うのは……ッ。
「──とっくに"死に戻り"して、戻ってきてるんだ」
「ぁあ…………」
それは、絶望。
それは、希望の喪失。
レムは、戻らない。
◇◆◇
昔、まだ家族四人と暮らしていた時。
大きな地震があったんだ。
両親は妹を迎えに学校に向かった。
そして。
帰って、来なかった。
両親は事故に遭ったらしい。
妹を迎えに行き、その帰りに。
交通事故だ。
両親は頭を打って即死。
妹は……。
俺が連絡を受けて病院に行ったときには、もう……。
妹が死んだと聞いたとき。俺が、間に合わなかったのだと知ったとき。
俺は──殺してやりたいと思ったんだ。
どうしようもないクズな、
◇◆◇
「よかったのですかな。エミリア様方に付いて行かれなくて」
「…………はい。俺はあいつと別方向の手段で目的を果たすことにします。なので……」
「はい。中で主がお待ちです」
「──失礼します」
扉を潜る。
ただ一つの意志を脳裏に刻んで。
例えこれが失敗しようと、それならそれで別の道を考える。
──俺には力が要る。
あるいはすべてを捨てる決意が、目的以外のすべてを捨て去る覚悟が必要なんだ。
「あのクソ道化師が笑ってそうだな。……ああ、それでいい。俺は──レムを助ける」
それ以外の理由など、俺には必要ないのだから。
扉を潜るとその先には、緑髪の貴人が座していた。
「──それで、お話があると伺いましたが、どのようなお話なのでしょうか」
「はい」
対面の少女が礼儀正しい姿勢で問うてくる。
その横には忠臣のように侍るフェリスだ。
当然、彼女が仕えるのはこの世でただ一人だけ。
俺は"クルシュ・カルステン公爵"に交渉、というのも憚られる自分本位な頼みごとをしに来ていた。
「今日は貴方様にお願いがあって参りました」
「……聞きましょう。貴方には大恩があります」
大恩なんてありはしないのに。……貴方は覚えていないだろうに。
律儀な人だ。
だけど今はその方が都合がいい。
俺は膝をついて、首を垂れて、一心に願う。
「どうか」
どうか──。
「──怨敵、『暴食』の大罪司教を討伐する為に力を貸してください」
そう言い放った。
◇◆◇
頼みは聞いて貰えた。
「取り合えず上手くいってよかった」
その代わりに、俺はクルシュさんに仕えることとなった。
目的さえ叶うのであれば、俺の生涯くらい捧げてやる。
交渉とも呼べぬ頼みごとが聞いてもらえるかどうかは正直五分五分だった。
だが、俺の目的はあちらにとっても得がある話のはずだ。
なにせ、レムとクルシュの記憶を奪った存在は"同じ"なのだから。
──『暴食』の大罪司教。
世界を騒がす大罪人。
それを殺す為の頼みごとをした。
しかし、差し出せるのは俺の命だけ。
俺の知識。
俺の武力。
俺の、すべて。
それを捧げた。
その対価は情報だ。
公爵の力を使って『暴食』の居場所を探してもらう。
こればかりは俺一人ではどうにもならない。
力を借りる必要があった。
強さだけでは、大罪司教は殺せない。
その為の交渉。
結果は成功だった。
協力も取り付け、そしてもう一つ。
「ふむ、筋がいいですな」
「……ぐ、が……ッ」
──『剣鬼』ヴィルヘルムの稽古だ。
「しかし貴方もスバル殿ほどではありませんが、人に剣を振る事に躊躇いがある様子。──あまり見くびらないで頂きたい。今の貴方如きの剣ではたとえ真剣であったとて私は斬れませぬ」
「……はい」
分かってる。
それでも一度意識してしまえば本気では振るえないものだ。
はぁ……これじゃあいけない。
良識も、道徳も、倫理も、捨てるのを躊躇っている場合ではないのだから。
──弱さは、罪だ。
心も体も、鉄のように硬く閉ざせ。
「──ほう」
「────殺す」
剣の師であろうと、殺してみせろ。
「──舐めるな」
……ぼっこぼこにされた。
◇◆◇
三か月が経った。
あれから何も進展はなく、無為な日々が過ぎていく。
昴は、今頃どうしているだろうか。
「いや、気にしても仕方がないな。俺たちは袂を別ったんだから」
水の魔石で稼働する蛇口のような魔道具を捻って桶に水をためる。
その半ばまで溜まったところで水を止め、そこにタオルを沈めて濡らしてから汗や土で汚れた顔を拭った。
今日も今日とて師匠の稽古だ。
未だに土の一つも付けられない。
それでも、俺の体は着実に成長してきている。
もはや剣に振るわされることはなく、ほぼ思い通りに振るうことが出来る。
……それでも手も足も出ないのだから。自分の才能のなさに失望する毎日だ。
「ホント、毎日よくやるよネ」
「フェリス」
「毎日毎日、剣の稽古して飽きないの?」
「心配してくれてありがとな」
「……は?」
心外だとでも言わんばかりの顔だが、こいつなりに心配してくれているのはわかりきっている。
なぜなら。
「安心しろよ、──いざ『暴食』が見つかった時に筋肉痛で動けませんでしたー、なんて。──そんなことには絶対にしないからよ」
手を握り込み、その瞳に殺意を宿すフィリップ。
それを見てフェリスは一瞬の憐れみと、共感を覚える。
「……たく、そんなこと思ったつもりないんだけど」
「……ああ、俺の勘違いだよ」
「その何でも分かってますって面やめて。ムカつくから」
「……悪い」
「ふん、クルシュ様に仕える一人としては新人なんだからもっと頑張ってよネ。──体の施術ならいくらでもしてあげるからさ」
「ああ、助かる」
フェリスが男らしからぬ手つきで、しなやかに俺の背中に触れる。
「だから……、──ぜったい、殺してよね」
「──ああ、約束する」
「そ。頑張って、フェリちゃんも頑張るからサ」
フェリスとの関係は友達でも同僚でもなく、言うなれば協力者。
──もっと言えば"共犯者"だろう。
お互い、今は無茶をするところなのだ。
あいつも、俺も、止まれない。
──否、進めない。
あいつを殺さずして前に進めないのだ。
俺たちはいつだって、過去を見ているのだから。
◇◆◇
「フェリップくんはどうして頑張るんですか?」
「どうしてって、そりゃ…………許されたいから、かな」
「許され、たい……? フィリップくんは過去に何か、罪になることを……?」
──罪。
ああ、罪だ。
罪深い。
愚かで、最低で、許されない悪行。
俺は、おれ、は……おれ……。
「えっ……?」
「……ごめんなさい、辛いことを聞いてしまいました。」
──気づけば、レムに"抱きしめられていた"。
何故? そう思考する余裕すらなくて。
涙が、止まらなくて。
「おれ、おれは……」
「いいんです。大丈夫、だいじょうぶですから、泣かないでください」
「ちがうんだ。ちが、俺は……本当は、生きてちゃ、いけない存在なんだ……」
「……」
赦されたかった。
赦されたかった。
もっと、前に、"自由"になりたかった。
「頑張っても、頑張っても、全然ダメで……ッ、頑張ることしかできなくてッ」
「フィリップくん……」
「ずっと、ずっと前から、もう、限界だった。……一人で生きるのが、苦しかった……」
いないんだ。
いないんだよ。
家に帰っても、誰もいないの。
"ただいま"って言っても、"おかえり"って返して貰えない。
誰もいない。
俺には、誰も。
「────レムがいます」
「……は、え……?」
「ここに、今、レムがいます。──だから、大丈夫です」
何が大丈夫なのか。
……大丈夫なのだ。
だって、こんなにもレムが、今までになく強く言い切ってくれているのだから。
ああ、大丈夫だと。
俺はそう思えたんだ。
◇◆◇
「レム」
死んでない。
寝ているだけだ。
まだ、生きている。
生きているなら、未来がある。
未来があれば、可能性がある。
可能性があれば、希望がある。
──希望があれば、俺は、大丈夫だ。
あれから、一年。
俺は、水門都市プリステラを訪れていた。
ここが、俺の終点だ。
◇◆◇
「僕たちは魔女教大罪司教、『暴食』担当………
──ライ・バテンカイトス!」
小汚ねぇガキが一丁前に名乗ってやがる。
穢れた服、穢れた顔、穢れた声。
その手、その腹、その髪。
すべてに虫唾が走る。
「『愛』! 義侠心! 『憎悪』! 執念! 達成感! 長々と延々と溜め込んで溜め込んでぐっつぐつに煮込んで煮えたぎったそれが喉を通る満足感ッ! これに勝る美食がこの世に存在するかァ!? ないな、ないな、ないよ、ないさ、ないとも、ないだろうさ、ないだろうとも、ないだろうからこそ! 暴飲! 暴食! こんなにも! 僕たちの心は、俺たちの胃袋は、悦びと満腹感に震えてるんだからッ!」
耳障りだ。不愉快だ。不快だ。
鬱陶しい。煩わしい。忌まわしい。
忌々しい。クソ野郎の聞くに堪えない戯言。
「それじゃァ……、──イタダキマスッ!」
満足げに名乗りを終えた『暴食』が喜々として迫りくる。
速いな。
良い踏み込みだ。
武器は魔女教特有のナイフか?
リーチが短いな。
なるほどな。
──見えてんだよ。
ああ、ああ、喝采だ。幸福だ。今この時だ!
「たらふく喰らえよ……、こんッの──クソ野郎がァァァアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
「おぶふッ!?」
その顔面に、渾身の一撃がクリーンヒットした。
胸に湧き上がるこの感情を喜悦とするか、際限なき憎悪とするか。
まだまだ、まだまだまだまだ足りないッ!!
「メリーウェザー!」
『──ん!』
火の精霊が俺の横に体現し、その口から炎の息吹を吹き出した。
その業火が罪びとを焼く。
だが、
「はっはァ! 容赦がないなァ! いいね、いいよ、いいさ、いいとも、いいからこそ! 暴飲、ぼうしょ────おぐはッ!!?」
「黙れよ三下ァァアアア!! ──フローラ!!」
二度、暴食の顔面を殴り黙らせる。
風の精霊が入れ替わるように出現し、両腕を振るって暴風を発生させる。
積乱雲の中にいるかの如き生きとし生けるものを斬り刻む嵐が咎人を包み込む。
「おォ、あァ!? こ、れ、はァ! 効かないねッ! あー、やるなァ、やるじゃん、やるじゃないかァ……きひっ、感じるよぉ、あんたの憎悪をさァ! 俺たちを憎む奴ってのは珍しいなァ、だってだいたいの奴は忘れちゃうからさァ!」
風に斬り刻まれながら、構わずにしゃべり続け、歩いて近づいてくる『暴食』。
……ただの魔法じゃ効かないってか。
そうか。
──ああ、そうこなくちゃなぁ。
そうでなくちゃあ、俺のこのオモイは果たされないッ!
「メリー、フローラ、フォーナ……──やれ」
『──!!!』
「次は、な に 、は……?」
瞬間。
『暴食』の目が潰れた。
火。それは温度を司る力だ。
水。それは生命を司る力だ。
風。それは圧力を司る力だ。
故に、その合成魔法の極致とは。
「──調律魔法、エクスプラウド」
何の事はない、"爆発"だ。
「何が、何をし──ぐぁァアァアァアアアアアあ!!!!??」
「痛ぇだろう、苦しいだろう」
原理を説明したところでこんな学力のないカスには理解できないだろうな。
水、それは酸素と水素だ。
風、それは圧縮だ。
火、それは化学反応だ。
酸素と水素を混ぜ合わせ、圧縮し──発火する。
するとどうなるか。
「ァァァアアアあぁァァァああァァァああ!!!!!!」
何が起きてるかわからないだろうな。
分からないだろう、俺がこの時をどれだけ待ち望み、シュミレーションし、妄想してきたか。
──分からないだろう。テメェを殺す為に俺がどれだけ ない頭を捻ったか。
喜べ。
これはテメェを殺す為だけにこの世に生まれた、──テメェを殺す魔法だ。
「エクスプライドォ──!!」
「が、ア……ッバカバカ打ってんじゃねェ! アァ!!?」
「手は抜かない。本気で、全力で、──お前を甚振る」
「が、なン、でッ! あァァアアアッッッ!!!」
何もさせない。
これ以上、自由を許さない。
こいつが死んでも、死後にこいつに相応しい地獄があるかは分からない。
──だから、俺が与えるのだ。
こいつに相応しい罰を、大罪を、神罰を。
「内臓破裂させて、弾けろ!!」
「があァァァァァアアアアアアアアア!!!!!!!」
腸が破裂した。
お腹いっぱいか?
それとも腹ん中からっぽになって腹ペコか?
ああ、いくらでも喰らわせてやるさ!
「エクスップラウド!!」
「やめろォォォォォォォォォォオオオオオオ!!!!!!!」
白目を向いたボロボロの『暴食』が死に物狂いで接近してくる。
剣も持たずに無手で。
──恰好の餌だ。
「『アクラ』」
「──ばッ! あガァ!!」
その顔面を執拗にぶん殴ってやる。
顔面がへこみ、崩壊し、他者を喰らうその牙をことごとく叩き折ってやる。
テメェが死ぬまで。
俺はお前を殴るのをやめない。
◇◆◇
「フィリップ……、」
昴は絶句していた。
この光景に。
この現実に。
「すごい……」
エミリアもまた感嘆していた。
ボロボロのウェディングドレスに身を包んだ花嫁だ。
エミリアを救い出した昴に対して、それよりも前に戦い始めたフィリップが戦いを終えていない。
それは……それは、もう、途方もない時間を彼らが過ごしていることを意味している。
どれだけ。
いったいどれだけの技術を、知恵を、力を叩きこんだのか。
その身に叩き込み、覚え、今この時の為だけに一年という時を過ごした親友。
その想いは……その日々は、きっと昴の想像を絶するものだ。
理解できないとは思わない。
でも、できるとも思わない。
昴にはできない。
昴にはできなかった。
だから、
「……頑張れ」
声が出た。
「──いけ!!」
拳を握り込んだ。
「やっちまえッ!! フィリップ!!」
「ぁぁぁぁあああああああああああああああ!!! 死ねぇぇぇえええええ!!!!」
魂の叫びが、絶叫が、慟哭が、親友の口から放たれる。
「ァ……ァ……」
もはや喉の潰れた『暴食』が、潰れた蛙のような声を漏らす。
もう、すでに瀕死。死にぞこないのボロ雑巾。
故にこれは──止めだ。
「──アル・エクスプラウド」
光が、水門都市を覆った。
◇◆◇
「あ……」
目が覚めた。
ひどい悪夢を見ていた気がする。
「ぁっ……」
──聞こえた。
大切な人の声が。
泣いている、のだろうか。
なら、大丈夫って、言ってあげないと……。
あの、頑張り屋で、人一倍責任を感じやすくて、器用なのに不器用な人。
だけどとっても、優しい人。
──目を開くと、やはりその人は泣いていた。
泣き虫だなぁと思う。
男の子なのに、よく泣く人だ。
でもそれを情けないとは思わない。
惚れた弱み、という奴なのでしょうか。
だから、
「泣かないで」
「っ…………れ、む……」
「はい、レムですよ。──おはようございます、フィリップくん」
いつも通り、当たり前の"挨拶"を交わすのだ。
彼はまた泣いた。
泣いて、縋りつくようにレムを抱きしめた。
その温もりが、なんだか懐かしいような気がして、レムも彼をぎゅっと抱きしめた。
「っ……っ……」
「……どうしたんですか、そんなに泣いて……何か怖いことがあったんですか……?」
「……っ、いや、違うんだ……これは、ただ、嬉しくて……」
「嬉しい……?」
言われてみれば、彼の声音は嗚咽を含みながらもどこか耐え難い歓びが混ざっているように思う。
でも、なんで?
「レムが……生きていてくれていることが、嬉しいんだ……
……ありがとう、レム」
「はぁ」
どこか要領を得ない。
私は何かを忘れてしまっているのでしょうか。
とても長く、悪い夢を見ていたような気がする。
でも……終わったんだ。
その証拠に──。
「"おかえり"、レム」
彼は透き通るような涙でびちゃびちゃになった顔で、晴れやかに告げた。
だから、私もつられて微笑んで、答えた。
「──"ただいま"」
これは、ただ一人の少年が、ただ一人の少女の為に奮闘する……ただそれだけの物語。
眠り姫の王子様──fin──
お楽しみいただけたら幸いデス!!
……もうすぐバレンタインだね。チョコもらえなさそうな人仲良くしよ。……いや待てよ。これがスナック小説ならチョコみたいなもの!
これが俺から皆んなへのヴァレンタインだ!