日本魔法史序説   作:沖田十三郎

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本稿においては日本における魔法族について述べる。
第一節 日本の風土
第二節 純血主義と家制度
第三節 魔法族の分布状況
第四節 文化的・地理的背景から見る性質



第二章 日本における魔法族

日本の風土

 さて、日本における魔法族と非魔法族の現状に触れる前に日本における風土から魔法族と非魔法族がどのように関係してきたのかについて触れたい。

 

 まず、言うまでもなく日本という国は島国である。

 大陸の魔法族は比較的浅い時代に頻繁な交流の歴史が残っているが、残念ながら日本における大陸との本格的な交流は六〇〇年代(古墳時代)の遣隋使まで待つ必要がある。さらに言えば、この時魔法族同士の交流があったかといえば、その可能性は低いと言った方がいいだろう。

 少なくとも、この時にラテン語を主体とした『魔法』の伝来は確認できない。それが辛うじて記録として登場するのは平安時代まで待つ必要がある。

 

 では、それまでの日本における魔法族の動きとはいかなるものであったのか。

 端的に言えば魔法族と非魔法族との間に差というものはさしてなかったものと考えられる。日本国における魔法族は旧石器時代を含めれば約五万六〇〇年という長い月日を他の魔法文化体系に生きる魔法族と関わることなく存在していた。その為、現在の魔法界で通常使用されるラテン語による技術体系が日本では強く浸透しきることがなかった。(これに関しては第三章に詳しい)

 

 その長い期間の中には魔法族と非魔法族双方の歴史に名を残した者もある。有名どころでは卑弥呼という名の女王や陰陽師として名を馳せた安倍晴明(あべのはるあきら)などが分かりやすいだろうか。

 国の末端たる一般の国民は言うに及ばず、王族や皇族やそれに近い役職者に至るまで広く魔法族の分布が見られた例である。つまり、古代日本におけるは魔法族と非魔法族は隣接や共存ではなく融和していたというのが現在の有力説となる。

 欧州ではあまり見られないこの関係性は大陸プレートと太平洋プレートの結節点に出来た国である事が最大要因と言われている。すなわち、頻繁(ひんぱん)な地震の発生やそれに伴う火山活動、一年の間で大きく変わる気候などの厳しい自然環境が互いの違いを諍いへと転じることを許さなかったと思われる。

 

 もう一つ、現代の研究において定説とされている事例を紹介したい。

 それは、日本における原始の祭が『神へ悦びを奉納する』とされていることである。

 これは端的に言えば性的快感を得るための乱交のことを示している。娯楽に富んだ現代においては顰蹙(ひんしゅく)もあろうが、古代における娯楽の中に性交渉が含まれていた事は疑う余地がない。

 日本の自然環境の厳しさについては前述した通りであり、その時点で魔法族と非魔法族が手を取り合い状況の打破に勤しんだこともまた想像に難くない。となれば、当然ながら祭にも参加したことであろう。

 今日(こんにち)の日本における血統分布上、純粋な非魔法族の数が異様に少ないのはここに端を発していると考えられる。

 また、日本人の性に対する寛容さ…奔放さは外来の価値観が席巻するまでは比較的緩かったことが分かっている。そもそも、大衆浴場における男女の浴場の区分けですら一八六八年(明治時代)に入るまでは基本的には混浴だったのである。

 山間部等の集落においてはその土着文化たるや、である。

 これらの混血文化とでも呼ぶべき状況は、土地ごとの特色と言ってしまえばそれまでだが長く日本に横たわってきた。

 島国という閉じた土地の環境が非魔法族は言うまでもなく、魔法族においても大きく大陸文化との差を生むこととなった。

 

純血主義と家制度

 さて、前項で述べた通り日本における魔法族と非魔法族の関わりは初期段階において何ら分断を持つものではなかった。また、大陸における国家であれば嗜好毎に集落が分かれることもあり得たが、そもそも平野部の少ない土地柄も相まって日本においては驚くほどそれがなかった。

 加えて、性に寛容な土着文化体系を元に発展を遂げた事で、欧州における純血主義的な思考はその思想が流入した後であれ日本においては流行らなかった。少なくとも、日本国内に限定する限り純血主義は「日本の主食は米だけれど、海外ではパンが主流なようですね」程度の扱いでしかない。

 

 では、そんな日本において重視されたのは何かといえば、それは「家」である。

 血と家ではほとんど同じようなものだという意見もあるだろう。しかし、明確に異なる点がある。それは、血を残すのではなく家を残すことに意義を見出す以上非魔法族からの嫁入りだろうと、家格さえ合えば魔法族であるかどうかでさえ些末な差でしかないという価値観に基づいているという点である。

 古来より日本における構成単位は村であり、家であった。それは群れである村を生かすために何を背負い何を為し、もって群れにどのような貢献を果たすのか、という事である。

 無論、魔法の有無で出来る事の種類は変わる。個としての周囲へ(もたら)す影響が変わるからだ。

 しかし、個で出来る事には限界がある。自然環境の厳しい条件下において最も重要視されるのは単一個体による影響力の行使ではなく群体としての生存率の向上だった。よって、(たぐい)(まれ)なるその力は群れを護るために働くこととなった。これが、後に武士と呼ばれることとなる者たちの祖先である。

 また、狩猟文化を中止とした旧石器時代から稲作文化の広まった弥生時代にかけて魔法族の伝播は広まったが、その絶対数の違いは歴然であった。

 そのことから日本では広く魔法族と非魔法族という区分ではなく魔法を使う事が出来る者と魔法を使う事が出来ぬ者と区別し、以下のように呼称してきた。

・魔法族

  稀族(きぞく)  魔法を使える

・非魔法族

  倭族(わぞく)  魔法を使えない

 読んで字のごとく、単純に魔法を使用する事が出来るか否かであり、殊更にそこに重点はなかった。無論、多くの魔法族を有した家柄ともなれば生まれてくる子供に魔法の才を望むのは必定であったが、そもそも魔法が使えなくては就く事が出来ない役職は限られており、それは別に蔑みの対象となる事ではなかったからである。

 

 さて、家制度に根差した社会構造が基礎となっていた日本だがその最も象徴的な部分として血の繋がりのない子供であっても場合によっては頭首に据え、家ごとに事情は異なるが実子と変わらぬ扱いをする場合も少なくはなかった。

 ここにもまた自然環境の厳しさが要因となる部分と重なるのだが、子は群れで育てるものであり、個で育てる物ではないという風習が近年まで残っていたが故の俗習であろうかと思う。

 

魔法族の分布状況

 日本では旧石器時代以降急速に混血が進み、初期段階においては近親相姦も多く繰り返されたと考えられている。それは魔法族も非魔法族も関係なく、また例外もなかった。そのため、現在において日本人の大半はスクイブ(日本での扱いは倭族)であり、また自身がスクイブであるという自覚もない可能性が非常に高い。つまり、濃淡の差はあれど魔法族の血が流れているということだ。

 

 そのため日本においては幽霊の露見騒動が絶えないが、これは魔法族による意図的なリークでもなければ倭族の勘違いでもなく、事実として幽霊を見ているのである。

 他国においてもこのような事例は存在する。だがしかし、その数が日本では比較にならないほど多く、加えてそれを見た人間が絵に起こし、文章を綴り、印刷し、出回ってしまった。否、出回ってしまったという言い方は正確性に欠けるだろう。それは、日本という国に住まう魔法族が大陸の、他国の魔法族と接触する遥か以前より濃厚に続いてきたのだ。今更、外圧に屈しようと内実が変わるものではなかった。これこそが、日本という国が抱える純粋な非魔法族の人間の数が圧倒的に少ない、単なる事実をもって国を表現するならば魔法大国とも魔法国家とも魔法族国家とすら呼ぶことが可能な国の実情だった。(詳述は第三章に譲る)

 

文化的・地理的背景から見る性質

 日本において稀なる力持つ者を排除する風習が薄かった。少なくとも国家としての成熟を迎える以前の段階のおいてはその傾向が強かったと言えるだろう。

 これは、既に述べてきた要因によるところが大きいが、同時に自らと異なるモノでも妥協の上で容認し、同列化させ、並列化し、最後は取り込んでしまう。それが、日本の風土とでも呼ぶべき文化背景である。

 この性質は後の時代になるにつれ薄れていき、現代となっては異なるモノを廃する、所謂村文化とでも言うべきそれに変じたが、元々の気質としては前述したとおりであった。

 これは八百万信仰が未だに根を張っていることからも窺える。

 端的に言えば、日本における魔法の隠蔽とは核となる部分のみを隠し、余波になる部分に関してはむしろ露呈露出を広げる事により、より広範に隠さねばならぬ事をそれらの中に隠す事が閉じた輪の中における最良の隠蔽とされたからである。

 木を隠すなら森の中、ということになる。

 

 また、南北に長く伸びた弓状列島である日本はそれぞれの地方ごとの特色が色濃く分かれている。北海道(蝦夷・アイヌ文化)沖縄(琉球王国)はもとより、四国、九州、日本海側、太平洋側、果ては関東、関西、京都においても非常に強い隔たりがある。

 内実については第三章以降に詳述するが、端的に言えば昨今日本が揶揄されている表象が完璧に的を付いていると筆者は考える。

 すなわち、ガラパゴス・ジャパンである。

 

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