速さ×速さ=パワー   作:軋島枷臣

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プロローグ

「久しぶり日本」

 

 

混雑した空港の中、スーツケースをターンテーブルから取り上げながら独り言ちる。そこら中に散見される日本語が、自身が日本に戻ってきたことをより強く意識させた。

 

 

「お、堅!」

 

 

ケースをコロコロと転がしながら、待ち合わせていた人物に声を掛ける。

 

 

「久しぶりだな」

 

「久しぶり。アメリカ行ってた間に随分ゴツくなったね」

 

 

向こうもこちらに気づいて手を振ってくれた。

 

 

「あっちにはゴリラいるから」

 

「ゴリラ?」

 

 

軽く雑談をしながら空港発のバスに乗り込む。

 

 

「生憎今は車を車検に出しててね。車で送ってやれなくてごめんよ」

 

「いや全然良いよ。むしろ迎え来てくれてることに対してお礼言わねぇと」

 

「アメリカはどうだった?」

 

「お前絶対ビビるぜ?あの―――」

 

 

2人で旧情を温めながらバスに揺られること20分。

 

 

「ここで乗り継いで...」

 

「ひったくりだー!」

 

 

その声が聞こえた瞬間、一人の男がビルの壁を駆け上がって(・・・・・・)行く。

 

 

「へっ、盗られるヤツが悪ぃーんだよ!」

 

 

どうやらその男は自身にかかる重力を操作できるようで、軽快な動きでビルの上を飛んで逃げていく。

 

 

「はぁ、空港出た後すぐこれだよ。やっぱ飛行機は不吉だな」

 

 

手に持ったキャリーケースを置き、上着を脱ぐ。

 

 

「堅。この荷物頼んだ」

 

「分かった。11年ぶりの日本でのヒーロー活動か」

 

 

持ち物を渡して、屈伸を始める。

 

 

「ふぅ...“駆動(イグニッション)”」

 

 

準備運動を終えると個性を発動し、走り出す。体を慣らすように徐々にスピードを上げていく。

 

 

タッ、タッ、タッ、タッタッタッタッタッタタタタ

 

 

「ふっ!」

 

 

速度を十分につけたと判断し大きく前に跳躍すると、さっきの男はもう目の前だ。

 

 

「人様のものは盗るもんじゃないぜ!」

 

「何!?」

 

 

急に後ろに人が出現してびっくりしたのか、大きな声を出す男。

 

 

「ちっ、俺について来るんじゃねぇ!」

 

 

すると男は、半ばヤケクソに腕を振るう。腕が振るわれると同時に、右腕についていたアーマーが火を後方に噴出しながら飛んでくる。

 

 

「遅い!」

 

 

俺はそう言うと、腕を加速させアーマーを殴り砕いた(・・・)

 

 

「はぁ!?」

 

 

思わず足を止める男。そいつに、気絶する程度に拳を叩き込む。

 

 

「“瞬撃(マッハブロー)”!」

 

「へぶっ!」

 

 

当たる前に瞬間加速させた拳に、男は意識を手放しその場に(くずお)れた。

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

「ありがとうございます!」

 

「いえいえ、困っている人を助けるのがヒーローですので」

 

 

ヴィランを警察に引き渡し、荷物を持ち主のもとに返す。

 

 

「あの、ヒーロー名は何と言うのでしょうか?」

 

「あぁ、俺のヒーロー名は―――」

 

 

ニコッと白い歯を見せながら笑い、言う。

 

 

「トランスです」

 

 

俺のヒーロー人生は、ここでもう一度始まる。

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