昔から、頭より先に体が動く性分だった。
困っている人がいたら助けたくなった。悲しんでいる人がいたら慰めたくなった。苦しんでいる人がいたら癒したくなった。
それを為せるよう努力した。誰よりも
戦いまくった体育祭、しごかれまくった職場体験、ロボットと戦わされた期末試験、個性を鍛えると称して教師陣にパワハラされた――肝試しもあるよ!――林間合宿、疲労困憊なんてレベルじゃなかったヒーローインターン、クラス対抗でライバルたちと戦った合同訓練、ただひたすらに戦った仮免試験...そういや戦ってばっかだったな。
まあ、とにかく俺は学び舎で仲間たちと共に学び、共に戦った。3年間通った母校の門は、今でも忘れられない。
―――そして今日俺は、その学び舎の門を教師としてくぐる。
◆ ◇ ◆ ◇
「11年ぶりか」
そう言いながら、門を見上げる。UにAを象ったマークが上部にある正門。どの方向から見てもHに見える校舎。俺が通っていたころと何ら変わりのない校舎を見て、強い哀愁を感じる。
懐かしいな。いつもこの門は、あいつと一緒に通ってた。
「校舎の中も変わんねぇな」
広い廊下に生徒たちが行き交っている。今は丁度一時限目が終わったぐらいだろう。
「おはようございます!」
「おはよう」
歩いていると、金髪の体格のいい少年に元気よく声を掛けられる。うん、こういう子っていいよね。こんな子がヒーローとして必要とされてると思うわ。
キョロキョロと周りを見ながら歩くこと数分。校長室の前までやって来る。個人的に上司とのファーストコンタクトは仕事ではとても大切なものだと思っているので、念入りに服装を確かめ、コンコン、とノックをしてドアをスライドさせる。
「失礼します」
「待っていたところさ」
椅子に乗ってこちらを振り返る小さな影。彼は根津校長。ただの小動物に見えて、個性道徳教育に多大な貢献をした超ハイスペックな小動物だ。
「本日付けで雄英高校に教師として赴任する
「うん、よろしくお願いするのさ」
お互いに手を差し出し握手をする。握手と言っても身長85㎝と198㎝という体格差のため、指を握られるようなものだが。
「あの、一つ、聞きたいことがありまして」
「なんだい?」
「なぜ私が雄英教師になることを認めてくださったのですか?」
長らく疑問に思っていたことを口に出す。
「私には教師経験はありませんが...」
「それはもちろん!」
そう言いながら腕をバッと広げる。
「アメリカにいた延べ11年間で3000人ものヴィランを確保した君なら全く問題ないと判断したからさ」
「私一人だけではありません。多くの力が連なり、得た功績です」
「謙虚なのはいいことさ。それに...」
そう言って遠い目で窓を見る根津校長。
「あのオールマイトの推薦だからね」
「...あの人には感謝しかありません」
「彼はいつだって誰もの光だからね」
思い浮かべるは平和の象徴。アメリカでもその名はよく耳にした。主にゴリラから。
「そうだ。彼と言えば、同じ職場で働くにあたって言わなければならない秘密があるのさ。受け入れられないかもしれないが―――」
「活動限界、ですよね」
「...どうして知っているのさ」
余程衝撃だったのか、校長のつぶらな目が大きく開かれている。どうやら俺がこのことについて知っているとオールマイトは言ってなかったらしい。
「2年間のインターン経験は彼のところで積ませていただきました。根津校長は彼の巨悪についても存じていると聞いています」
「まさか...11年前と言えば」
流石校長。ハイスペックの名は伊達ではない。
「はい。私が高3の時、オール・フォー・ワンとの戦いが起きました」
「君がアメリカに留学したのも巨悪の勢力から逃れるためかい?」
その言葉に小さく頷きながら、言葉を紡ぐ。
「それもありましたが、より経験を積むという意図の方が大きかったです。...アメリカは自由の国。人々達も往々にして自由なものでした」
「...たくさん経験を積んだようだね」
本当に苦労した。主にゴリラのせいで。
俺の疲れた顔で察してくれたのか、ねぎらいの言葉をかけてくれた。会ったばかりだが、この人と働きたいと思える素晴らしい人だと感じる。
「そのアメリカであったことについて話してはくれないかい?」
「分かりました。アメリカと言ったらやはり―――」
...因みにこの後4時間ぐらい話をされた。やはり素晴らしい上司だった、話が長いところを除けば。
◆ ◇ ◆ ◇
「というわけで、今日から一緒に働く仲間を紹介しよう」
「疾翔迅、担当科目はヒーロー基礎学です。よろしくお願いします」
長話の後に連れてこられたのは職員室。ちょうど昼休みの時間帯で多くの先生がいる。
「ヘイヘイ疾翔久しぶりィ!」
「久しぶりです山田先輩」
異様に高いテンションで話しかけてきたのは雄英時代の先輩、山田ひさしだ。逆立った髪は学生時代から変わってない。
「おいおい山田はやめてくれよ。今はボイスヒーロー【プレゼント・マイク】だぜ?」
「あの先輩が立派にヒーローを...俺嬉しいッス」
「ホワァツ!?俺はいつでもしっかりしてるゼ!」
「相澤先輩もお久しぶりです」
「聞けや!」
誰が望んで騒音の隣に立つというのか。
「久しぶりだな」
「なんか...The不健康って感じしますけど大丈夫ですか?」
「これは合理性を突き詰めた結果だ。あと生徒の前では先輩はやめろよ」
「了解です」
こっちも学生時代の先輩、相澤消太だ。刺すような眼光の三白眼に、やはり学生時代からの差異は見受けられない。
「久しぶり、迅」
「堅」
続けざまに話しかけてきたのは
「お前は帰国してからすぐ会っただろうが」
「ハハッ、君も多忙だね」
こいつとはなんだかんだで縁がある。付き合い二番目くらいに長いんじゃないかな。
その後も他の先生たちとナイストゥーミーチュしたが、やっぱり雄英卒業生率が高い。流石天下の雄英だ。
そして最後の挨拶をするためにラストワンのヒーローの机に向かう。
「えーと13、号先生。これからよろしくお願いします」
「...うん」
声を掛けてみたが、心なしか反応が悪い。
この声...コスチュームでくぐもってはいるがどこかで聞いたことがあるような気が...
「ちょっとこっちに来て」
「お?おお」
と思ったら腕を引かれて職員室から連れ出された。やべぇなんか気に障るようなことしたかな...
「えっと、どこに行ってるんですか?」
「...ふう」
やってきたのは中庭。もう昼休みも終わっており、校庭に授業中の学生たちが散在している。
「すみません。どういう意図があって...?」
俺がそう尋ねようとすると、ヘルメットを脱ぐ13号先生。その素顔は...
「久しぶりだね、迅」
「...亜南」
約11年前、何も言わずに隣を離れた幼馴染だった。
オールマイトがオール・フォー・ワンと戦った時期を6年前から11年前に変更しています