平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話   作:浅学寺のえる

10 / 43
二章
#06 羽吹まこと


 放課後の空き教室。そこでは、一組の男女が艶かしい声を上げている。

 山小屋での一件を想起させるような語り口となってしまったが、今回は僕ではなくワッカの話である。ワッカと謎の女子高生。その2人が、とても人に見せられないような行為に及んでいるのだ。

 

 「んっ……ばか。そこ違うし、もうチョイ上……イタッ!? はぁ〜、あのねワッくん。がっつき過ぎなんですケド。もっと優しくしなきゃMK5だかんね」

 

 「ご、ごめん! えーと、コッチかなー?」

 

 こんな状況を、声が漏れないように互いに口を塞ぎ合いながら見守っているのが僕ら二人。僕と彼女──羽吹まことである。

 ちなみに、僕らがいる場所は掃除用具入れ。つまりはロッカーの中だ。まさか僕が『女子と二人でロッカーの中に閉じ込められる』なんて、ベタなシチュエーションに遭遇するとは思いもしなかった。その上、友人の密会現場まで覗いてしまうなんて。

 

 ワッカ達の行為を目にして、まことはずっと赤面している。息苦しい箱の中に押し込まれていることで、いつにも増して顔が赤い。その為か、彼女の口を押さえている僕の右手にまで火照りが伝わってくる。

 とっさに口を塞いでしまったけれど、僕も彼女も当初よりは落ち着きを取り戻しているんだ。そろそろ、手を離しても大丈夫だろう。

 

 目配せで合図し、お互いの口元を解放する。こういった時、付き合いの長い彼女ならば言葉は不要。ロッカーの隙間から覗き見える、中々息の合わない彼らとは違うのだ。

 その二人はお互い行為に夢中なので、僕とまことが小声で話す位ならば気付かれなさそうだ。

 

 「ひゃ。ね、ねぇ! 君の腕輪、ずっと震えてるんだけど! せ、せめてボクの太ももから離して、よ!」

 

 あ。金属製のロッカーに当てたらバングルの震えが伝導すると思って、僕の太ももへ押し当てていたんだ。けれどこの狭い箱の中では、まことの身体へも触れてしまっていたのか。くすぐりが弱点の彼女。もしかしたら、顔が赤いのは僕のせいだったのかもしれない。ごめん。

 とはいえ、バングルを身体から離せばロッカーの内壁にぶつかってしまう。仕方ない、レイワさんが五月蝿いだろうけど現状では外すしかないな──

 

 「ま、待って! それ、善じいちゃんの発明品でしょ。外したら、君がエッチな変態になっちゃうって聞いてるよ!?」

 

 どんな誤解の仕方だ!! 大まかには事実と合致してるのがまた腹立たしいな!

 けれど大声を出す訳にもいかないので、上手く弁明できない。今はもどかしい気持ちを堪えて、簡潔な言葉で彼女を安心させるしかないな。

 

 「うう。そんなこと言って、ホントはボクと()()()()みたいな事したいん、でしょ?」

 

 変に意識しないでくれ。僕にそんな気は一切ないし、そもそもあんな特殊な行為は僕らに不可能だろう。さっきから何度も大丈夫だと伝えているのに、どうして信用してくれないんだ?

 彼女の不安を解消するために、まずは少しだけ外してみると提案しても、今一つ信用してくれない。元はと言えば、彼女からバングルを離してくれと頼まれたのに、いつの間にか僕の方がお願いする形になってしまった。なんなんだこの状況は!

 

 

 ああ、本当に。成り行きとは言え、どうしてこんな事になってしまったんだろう──

 

 

▲▲▽▽◀︎▷◀︎▷

 

 

 地獄の様なゴールデンウィークが明けて、二日目。早くも週末がやって来た金曜日。今日僕は、一つ試してみたい事柄がある。

 

 悪の組織が襲撃を行うのは基本的に金曜日。前回は、例外中の例外だろう。

 そして今日は、帰りのホームルームにA子としいなさんが顔を出していないのだ。これは、柴犬怪人に襲われたあの日と同じ状況。つまり、再び学校内で怪人騒動の起こる可能性が極めて高いと言う事だ。

 

 そんな訳で、ホームルーム終了直後に僕は教室を飛び出した。このまま帰宅してしまえば、被害を免れる事は容易だろうが、目指す場所は一つ上の階にある空き教室。そこで怪人が現れるまで、身を潜める予定だ。

 その理由は、僕が直接『秘密結社オメイラガ』の行いをこの目で視なければならないからだ。レイワさんはポンコツ断片データなので、原作のシチュエーションを視認しなければ知識を引き出せないんだ。決して、僕が私的に『悪の女幹部』を見たいから等という低俗な理由ではないのだ。

 

 空き教室へと入り、階下へと耳を澄ませば生徒の悲鳴が聞こえてくる。どうやら読みが当たったようだ。一人だけ安全地帯に避難してしまい申し訳ないが、怪人の特殊能力が判らない以上は仕方ないんだ。もしまた洗脳系の能力だったりすると、状況を認識できず原作知識を得られないかもしれない。

 

 連休中の出来事を踏まえ、僕には一つの目標ができた。

 萬宮寿家の『真の目的』を探る。

 レイワさんの原作知識を補完する事で、きっとその答えは見えてくる。動物愛護や環境保全を謳う裏で、しいなさんが本当に目指している場所は一体何処なのか。

 その理由次第で、僕は彼女を──「あ、居たいた!」

 

 「君が急に走って行くから、つい追いかけて来ちゃったけど。こんな所で何してるの? 今日は、ボクと一緒に遊ぶ約束でしょ」

 

 

 

 羽吹まこと。この世界のヒロイン。ダークブラウンの髪色をしたショートボブが似合う少女。

 格闘道場を営む家に生まれ、自身も生粋の格闘家である彼女。そんな彼女の趣味は、意外な事にカラオケだったりする。今日の放課後は、その趣味に付き合う予定だという事をすっかり忘れていた……申し訳ない。怪人の事で頭がいっぱいだったようだ。

 

 「最近、ちょっと変だよ? もしかして、スキー場でボクが居ない間に何かあった? ほら、怪人が現れたっていうあの時──」

 

 スキー場。まことはあの時、温泉へ入る段階になって漸く手袋を無くした事に気付いたらしい。それで皆と別れ、一人で探し回っている内に怪人騒動が解決していたようだ。温泉施設をいくら探しても手袋が無かったと嘆く彼女だが、当然である。紛失したのはスキー場での事だし、手袋自体すでに僕が燃やしていた頃合いだろう。

 

 確かに彼女の事情と比べれば、僕は充分に『何かあった』と言える位に濃い経験をしていたな。

 ちなみに、怪人が去ったあと現れた白熊はしいなさんが簡単に手懐けてしまった。暴走状態で無ければ、どんな動物とでも彼女は意思疎通できるそうだ。スキー場では、彼女の事を色々と知れて僕にとって有意義な時間だったと言える。

 

 「やっぱり、萬宮寿しいなに何かされたんでしょ!? あれから君、付き合い悪いもん。ゴールデンウィークだって、一人で『キャンプ』に行っちゃうし!」

 

 その言い回しだと、さも僕が『ソロキャン』を楽しんだ様に聞こえるが、実態はまるで違う。

 家族には便宜上、キャンプと伝えられていたソレの正体は──萬宮寿流ブートキャンプ。

 

 

 経緯も不明なまま、僕は萬宮寿家へと拉致された。そして、連休の殆どを敷地内にある謎の訓練施設で過ごす事となったのだ。

 多少救いだった事は、同年代の訓練生が沢山いた事だ。その中には、学校で見知った顔もチラホラ居た。話を聞けば、彼らはA組やB組に所属する生徒達だった。

 当初は高校生の運動部が行う程度のトレーニングだった為、彼らと談笑する余裕もあったのだ。折を見て脱走する予定だった僕も、わずかとは言え親交を結んだ彼らに責任が及ぶ可能性を考え、抜け出すのを躊躇してしまった。この程度のトレーニングを4日間熟すだけで丸く収まるならば、その方が気負いせずに済むと思い直したのだ。

 しかし、時間を追う毎に訓練のレベルがインフレする。そこからが地獄の始まりである──

 

 動けなくなるまで訓練された2日目。肉体を酷使した後は、精神へまで負担を掛けてくる鬼のプログラムが待っていた。

 それを行う教官達は、屈強な肉体を無理矢理に黒い全身タイツへと包み込んだ姿である。そんな筋肉モリモリ、マッチョマンの変態達が代わる代わるに罵詈雑言を浴びせて来るのだ。

 レイワさんというノイズに慣れている僕は平気だったが、他の参加者は次第に表情が消えていった。恐らくあれは、人格を一度破壊して有能な軍隊を生み出す事が目的だったのだろう。

 

 

 そんな地獄の訓練から、僕は3日目の途中で抜け出す事ができた。

 B子さんが突然現れ、周囲の目も顧みずに僕へ抱き付きこう言ったのだ「ごめんね〜、わたしの勘違いだったみたい。お姉ちゃんを許して弟く〜ん」と。

 なんでも、スキー場でガムが役に立ったという話から勘違いが発展したとか。そして萬宮寿イグナの一存で、僕のブートキャンプ強制参加が決まったらしい。意味が分からない。

 連日の疲れと、緊張状態からの解放。何よりB子さんの抱擁に安心しきった僕は、丸一日泥の様に眠ってしまった。

 

 そして連休の最終日、僕は萬宮寿家の本宅で目を覚ました。人格に異常は無いかと、しいなさんに心配されたり。豪華すぎる持て成しを受けたり。やたらと元気なA子に絡まれたりと、色々あった筈なのだが──終始、B子さんに頭を撫でられ続けていたので鮮明には思い出せない。

 僕よりも背の高い、メイド服を着た女性から無制限に甘やかされるという状況。あれこそ『バブみを感じて、オギャりたくなる』という現象だろう。連日の疲れで羞恥心が麻痺していた僕に、アレを拒否する精神力はもはや無かった……

 

 

 「──くん! ねぇ、聞いてる? なんだか、下の階が騒がしいみたい。ちょっと様子を……っ! 誰か来る。コッチ、隠れて!」

 

 連休中のあれこれを思い返していたら、いつの間にかロッカーの中へと押し込まれていた。

 まことも続いて入って来て、扉が閉る。途端に圧迫感の増した現状に混乱していると、今度は教室のドアを開けて誰かがやって来たようだ。急展開に追いつけない僕の代わりに、まことがロッカーの隙間から外の状況を伺ってくれている。

 

 

 「なぁんだ、ワッカくんか。隠れて損しちゃったね……? あれ、けど誰かと話してない?」

 

 ワッカが誰かと会話している? 相手は声しか聞こえないが、どうやら女性のようだ。ギャルの様な口調で話すその声色はやけにワッカと親しげだが、僕もまことも聞いた事のない声。

 まさか、恋人だろうかと怪しんでいるとその女性が急に姿を現す──何も無い空間に電気が走り、ぼやけた女性の輪郭が徐々に浮き出て来たのだ。

 これはきっと、光学迷彩だ。衝撃的な光景であったが、僕らは先日立体映像(ホログラム)を見ているので、息を呑む程度のリアクションに留まった。博士の発明品を知っている僕らは、こういった未知の科学に多少耐性が付いている。

 

 

 しかし、次の光景を目にした瞬間。僕らは互いの口を掌で塞ぎ合う事となった。アレは流石に未知の科学すぎて、耐性は簡単にブチ抜かれてしまった──

 

 「じゃ、ワッくん。そろそろ、しよっか! コードよろ〜」

 

 「JK(ジェーケー)『転輪』! スーツモード」

 

 その時、不思議な事が起こった。

 端的に言えば、セーラー服を着た女子高生が()()()()のだ。

 

 まず正中線をなぞって身体が縦に割れ、次はまるで輪切りにされたかの如く横に複数の切れ込みが入る。そして背中へと向け、頭以外の輪切りにされたパーツが蒸気を上げながら裏返って行く──そう、あの女子高生はロボットだった。

 桃色をした長い髪、肌は美白と呼べるものの、化粧は少し濃い。タレ目気味の目元とは裏腹に、気の強そうな表情をしている。そんな精巧な作りの女性型アンドロイドだ。

 忠実に人体を模した表面とは逆に、躯体の内部は機械である事を全く隠さない色使いだ。メタリックシルバーを基調として、所々に黄色のアクセントが入っている。このカラーを目にし、僕とまことは当たり前のように既視感を覚える。

 

 これは、リングリットのヒーロースーツと全く同じ色合いなのだ──

 

 

△△▼▼◁▶︎◁▶︎

 

 

 回想終わり。

 

 かれこれ10分経ち、僕とまことのバングル問題は解決した。結局まことが折れなかったので、煩悩封じを行ったのだ。この方法でレイワさんを黙らせると、あとで『ドSショタ』などと揶揄されるので苦肉の策ではあるが仕方ない。

 レイワさんの犠牲で問題を解消した僕らとは別に、彼らの方は遅々として進まないでいる。恐らくは『変身シーン』だと思われる目の前の行為は、何度も失敗してはやり直しを繰り返す。まさかリングリットが毎回遅れてやって来る理由が、コレだったとは。なぜ博士は、こんなシステムにしたのだろう……?

 

 おや、漸く頭以外のパーツを装着できそうだな。

 

 「ほら見て? ちゃんと入ったでしょ? アタシの言う通り、ゆっくりやればワッくんでも上手くできるんだから。さ、あと少し!」

 

 「でも急がないとみんなが!」

 

 「んっ、急に入れんなし!? ダメ、抜いて……一旦抜け! ヘタクソ!」

 

 「ご、ごめんJK!」

 

 なんだよコレ。もう10回以上やり直してるぞ。JKと呼ばれた女子高生ロボットは、どうやら気難しい性格のようだ。特に胸部パーツを装着する際に要望が多い。ワッカが少しでも装着部位をズラしてしまえば、今の様に文句を言われている。

 ヒーロースーツに頭が上がらないヒーロー。こんな情けない姿を晒している彼だが、何度も窮地を救われた人間の目にはどう映っているのだろう?

 

 「がんばれワッカくん。あとチョットだ!」

 

 まことは小声で応援している。図らずもヒーローの正体を知ってしまった彼女だが、意外な程すんなりと受け入れてしまった。だからと言って、僕らがロッカーから出て行く事は無いけれど。流石にそれは、お互い気まずいだろう。

 

 

 「よし、入った!」

 

 「んじゃ、アタシは解析モードに入るから。あと家に帰ったら、説明書の復習だかんね」

 

 「光速真芯・リングリット!! 転・輪・完・了‼︎ 今日も光の速さで解決するぜっ!」

 

 JKの頭部が裏返り、ヘルメットへと変形する。それを装着し、誰も居ないというのにワッカがポーズを決めて口上を述べる。こういう所だけ様式美に拘るのが、いかにもワッカらしい。できれば着替えを光の速さで済まして欲しいけれど。

 教室を飛び出し、階下へと駆け出すリングリット。これで、僕らも狭い箱の中から出る事ができる。長かった。

 

 「ぷはぁ〜、えへへ。やっと出られたね! でも、君が小柄だからそんなに狭く感じなかったよ」

 

 奇遇だな! まことの胸部装甲が実装されてないお陰で、僕も圧迫感は少なかったよ。

 山小屋でしいなさんに壁ドンされた時は、もっと窮屈だったな。そして、それを凌駕するのがB子さんなのだが……あの包容力と抱擁力に慣れてしまえば、僕はきっとダメになる。その証拠として、象怪人に伸し掛かられたリングリットは、多分もうダメになっている。まことに好意を寄せる一方で、ワッカは時折B子さんやしいなさんの胸部を凝視しているのだから。

 

 「むっ。何だか失礼なコト考えてるよね!? そういう視線、女子は判るんだよ。もうっ! 純情だった君は何処かへ行っちゃったの?」

 

 おっと、目は口ほどに物を言うんだった。気を付けないと、僕までEやワッカと同列にされてしまいそうだ。

 それはそうと、急がないとリングリットが光の速さで悪の組織を片付けてしまう。そろそろ、2–Cの教室へ戻らないと!

 

 「そっか、ヒーローが現れたんだもん。下の騒ぎは、ボクらの教室に怪人が現れたって事だったんだ。でも、慌てなくても今頃ワッカくんが──あ! 君、最近しいな達と仲が良いから心配なんでしょ? 特に『お姉ちゃん』の事とか!」

 

 何言ってるんだ? 姉さんは3年生だから、教室は校舎の向こう側だ。渡り廊下を挟んでいるのだし、別段心配することもないだろう。

 

 「ちーがーう! 理珠さんじゃなくて、美衣さん。君、あの人の事たまに『お姉ちゃん』って呼んでるでしょ? え、もしかして無意識だった!?」

 

 

 ……と、とにかく! しいなさんや、お姉ちゃ──B子さんが心配だし教室へ急ごう!!

 

─────────

──────

───

 

 階段を降りると、廊下には全身黒ずくめの群れが転がっていた。

 頭は目出し帽の覆面、体はピッチリとした全身スーツ。以前、商店街が襲われた時にも数人いたオメイラガの戦闘員。いわゆる『ザコ戦闘員』だ。ついに学校へまで現れる様になったのか。

 まあリングリットが全員倒しているので、害はないのだけれど──

 

 「あ、あそこ見て! 戦闘員を救助してる生き残りが一人いるよ!」

 

 まことが物騒な事を言っているけど、恐らく全員生きてると思う。今動いてるザコ戦闘員は、仲間の回収係かな?

 ブートキャンプでも、要救助者を安全地帯まで運ぶ訓練をさせられたな。緊急時はあんな風に、後ろ側から両脇に腕を回して対象者の脚を引き摺る形で搬送するんだ。あんな姿を見ると、悪の組織とはいえ人道的な面もあるのだと思わされてしまう。

 

 「覚悟しろ、オメイラガ! やーっ!!」

 

 「ッ!?」

 

 なっ……! いくら羽吹流とは言え、普通この場面で襲い掛かるか!? 回収班の人、ビックリしてるじゃないか。

 しかし、流石は戦闘員だ。まことの飛び蹴りをしっかりと避け、体勢を立て直して武器を構えている。

 

 あれは特殊警棒だ。携帯性に優れ、咄嗟の場面で使い勝手のいい武器なのだが……羽吹流の師範代を前に『武器』を使うのは悪手と言わざるを得ない。羽吹という名は『破武器』から来ている。武器を持った相手への対応で、羽吹流の右に出る流派は存在しないのだ。

 僕の予想通り、振り払われた警棒をまことは回し受けで難なくいなす。そのまま体勢を崩した相手の懐へ潜り、背中で体当たりを喰らわせる。鉄山靠(てつざんこう)と呼ばれる八極拳の技と酷似したそれは、ザコ戦闘員の身体を大きく吹き飛ばした。警棒も手から溢れ落ち、宙を舞った後に床へと落ちる。

 

 「さってと。ふん……っ!!」

 

 まことは躊躇なく警棒を踏み潰す。どう見ても金属製だと言うのにその棒は、ひしゃげ、砕かれ、バチバチと電気を放っている。どうやらアレは『スタンロッド』と呼ばれる、金属部に電気を流せるタイプのようだ。運良くまことは金属部分を触らずに済んでいたけれど、直撃してしまえば危うかっただろう。

 

 「やっぱりね。持ち手部分が絶縁体っぽいし、スイッチも付いてたから怪しいと思ってたんだ。ふふっ、こーんな卑怯な武器を使ってるヒトが、丸腰になっちゃったら、どうなるんだろーねぇ……?」

 

 怖い怖い! 全部判った上で、金属部を避けて攻撃を受け流していたんだ。

 そして、これこそが羽吹流の本質だった──武器を持った相手から、それを取り上げ、目の前で破壊。相手を恐慌状態にした上で、得意のステゴロへと移行しタコ殴りにする。

 僕も門下生だった手前強くは否定できない身だが、敢えて言おう。羽吹流って、蛮族みたいだな!

 

 「ディ!? ディーッ!!」

 

 「なんだろ、命乞い? それとも、君を呼んでるのかな?」

 

 いや鳴き声だろう。ショッカーの戦闘員が「イーッ」って言うのと同じだと思う。

 それに僕の事を「D」と呼ぶのは現状だとA子くらいだ。幼い頃、僕の名前をきちんと発音出来なかった姉さんが「でぃくん」と言っていたせいで、まことやA子が真似をしたのが切っ掛けだった。だから基本的に、幼少期から付き合いのある人にしか……

 ああ、そう言えばブートキャンプに参加した面々は本名を伏せるルールだったから、あの時は自分から「D」と名乗ったんだっけ?

 

 「D! D!」

 

 ん……? 何だか聞いた事のある声だな。それも割と最近に。

 

 もしかして! 僕の腰にしがみついてくるザコ戦闘員って……あの時の彼なのか!?

 そうだよ、救助訓練を一緒にやったし。棒術の訓練も一緒にやったじゃないか!

 本名は知らないけど、A組の人だ。キャンプで名乗ってた名前は確か──

 

 「ア……ッ」

 

 「当身。気絶したみたいだね、それじゃ行こっか!」

 

 いや、それ花京院のヤツ。本当の当身は首チョップじゃないだろ!

 まあ何故か相手が気絶してるから、もう良いけどさ。

 

 萬宮寿流ブートキャンプの正体が『オメイラガ養成所』だった事の方が問題だ。薄々そうではないかと思っていたけれど、僕はとんでもない場所に放り込まれていたようだ。気絶した彼は、まさか洗脳でもされているのだろうか?

 気掛かりではあるけど、まことに手を引かれた僕に最早確かめる術はない。あと数秒で僕らの教室に辿り着くのだから。

 開け放たれた扉の向こうから、大勢の悲鳴が聞こえてくる。

 

 

 果たして今回の怪人は、一体どんなフェティシズムを披露しているのだろうか。

 さあ、出番だレイワさん!

 

 【この尻軽ショタ! 都合のいい時だけ、あーしを当てにして! あとね、おねショタするなら相手が違うし。とりま、あーしとしろっての!】

 

 何だか思ってた反応と違うな。JKに触発されたんだろうか? 他所は他所だぞ。ワッカと違って、僕はギャルが相手でも下手には出ないからな。

 とは言え、今回は強引な手段を取った僕に非があるから素直に謝るよ。ごめん、もうバングルで刺激を与えるような事はしないよ。

 

 【あ、それは寧ろご褒美だから止めないで】

 

 なんだ平常運転か。なら原作知識を思い出してくれれば、もう一度ご褒美をあげるから機嫌を直してくれ。

 

 【安定のドSショタぶりで、お姉さん感涙に咽び泣きそう】

 

 

 レイワさんの情緒は不安定だが、取り引き成立だ。

 よし……! たった今、すこぶる不機嫌な女幹部に見つかってしまったので──

 

 取り急ぎ、A子が変身している『サイ怪人』の特殊能力について頼む‼︎

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。