平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話   作:浅学寺のえる

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#07 犀は角を惜しむ/形状変化回

 2年C組の教室。

 ほんの15分前までは、クラスメイト達が談笑していた平和な空間だった。

 しかし、現在ここは阿鼻叫喚の地獄絵図と化している。

 生徒達が廊下側の壁際に()()()、悲鳴を上げ泣き叫んでいるのだ。

 

 「クソー! 元に戻しやがれ!」

 

 一際大きな声で悪の組織へ抗議しているのは、僕の友人Eだ。

 彼の身体も、他のクラスメイト同様に『正六面体(キューブ)』と化している。

 まるで透明な箱に、人間を無理矢理押し込んだかのような惨状。手足は折り畳まれ、あれでは文字通り手も足も出ない。

 しかし、正面を向く一面が『顔面』となっているので声だけは上げられる。一つの面を贅沢に使い、目一杯に引き伸ばされた平坦な顔面。その巨大化した顔面が、10列3段に整頓され壁際に並べられているのだ。

 

 「クソー! せめて、オレを女子のキューブに乗っけてくれー!」

 

 一人だけ教卓の前に転がされているEが泣き叫ぶ。

 こんな状況でも性欲を優先するとは流石だ。彼の不埒な願望を聞いて、キューブになった女子達から先程までとは違った悲鳴が上がる。

 しかし、Eが女子から非難されるのはもはや日常のやり取りなので、声だけを聴いていれば普段の教室と変わらない光景が頭へと浮かぶ。こんな異常事態だと言うのに、皆どこか肝が据わっているようだ。

 

 奇しくもこの場には、クラスメイトが全員揃っている。

 C組に在籍する生徒は37名。

 ここから、僕とまこと。しいなさんとA子。そしてワッカの5人を引いた、32名。

 その全員がキューブとなっている。壁際に整頓された30人と、その一団からは溢れた2人。言うまでもなく、1人はEだ。

 

 しかしまさか、B子さんまでキューブ化しているとは思わなかった。

 立方体になってしまった彼女は、現在ミーア・クシロンの椅子と化している。

 

 

 「おーほっほっほ! ふかふかで座り心地がいいですわ。これで、じっくりと観戦できますわね!」

 

 「ん〜っ……! せめて()()()に座って〜‼︎ おねが〜い!」

 

 「ダメですわ。それでは、お仕置きになりませんもの」

 

 逆さまに置かれたB子さんが懇願するも、女幹部はその要求を受け入れない。

 彼女が座っている面は、クッション性に優れ、体重に合わせてゆっくりと沈む低反発仕様。それでいて弾力もあるようだ。いたずらに跳ねるミーア・クシロンのお尻を勢いよく弾ませている。

 あの面は、胴体にあたる部分。B子さんのキューブに至っては、その比率故にほぼ胸部が一面を占めているのだ。

 

 耐久テストをするかの如く、キューブの上で何度も跳ねる女幹部は大変ご満悦な様子だ。

 それもそうだろう、だってあの椅子は『バランスボール』の弾力性を持ち、『ビーズクッション』の触り心地で、人肌と同じ温かさで思わず『オギャり』たくなる至高の──

 

 「ちょっと!? そんなに覗き込んだら見つかっちゃうよ!」

 

 「あら? どうやら逃げていた生徒が……ッ!? あなた達、一体どこで何をしてましたの!?」

 

 

 あ。廊下からこっそりと覗いていたのに、まことが大声を上げたせいで見つかってしまった。

 

 「君のせいだよ!? あんな食い入る様に見てるからでしょ!」

 

─────────

──────

───

 

 女幹部が、僕らへ険しい表情を向けてくる。

 目元は見えないが、バイザーに表示されているモノアイが真っ赤に染まり、怒りの強さを表しているのだ。何故か不機嫌な彼女が、僕らへと迫って来ている!

 よし、ちょうど脳内でレイワさんの懐柔が済んだ。

 これで大丈夫。慌てなくても、大丈夫……だ。

 既にリングリットが、サイの怪人を前にして敗戦濃厚ではあるが──

 

 う、ホントに大丈夫なのかこの状況!?

 教室の床には、斬り刻まれた『光輪』の残骸が散らばっている。前回、萬宮寿イグナ扮する()()ミーアが『クロスリット・ハイロゥ』を攻略した事で、あのリングが斬撃に弱いという事実が露呈してしまった。

 おそらく、表面がやたらと鋭いサイ怪人の角や、ミーア・クシロンが手にしている『七支刀(しちしとう)』で無数に展開されていたリングを悉く斬り捨てたのだろう。残骸を見るに、斬られたリングの数は30を越えている。リングリットが新たな光輪を出さない現状を考えると、どうやら無制限に出せる『チート』技という訳ではなかったらしい。

 頼みの必殺技が打ち止めとなり進退窮まったヒーロー。そして、そんな彼と同様に僕らも未曾有の窮地に追い込まれている──

 

 

 「なぜ、二人とも衣服が乱れていますの? どうして手を繋いでいますの? 詳しく、説明して下さいな」

 

 【今わたくしは、冷静さを欠こうとしております】

 

 やめろレイワさん!? そんな冗談かましてる暇があるなら、打開策になりそうな原作知識を思い出してくれ!

 

 「ボ、ボクらが何してようと、あんたには関係ないでしょ!」

 

 「お黙りなさいっ‼︎」

 

 「ひぃ!?」

 

 まことが抗議するも、女幹部が放つ鬼気迫る雰囲気に呑まれ竦み上がってしまった。その気持ちは良く分かるよ、僕だって滅茶苦茶コワイ……!

 されど、ヒーローにも令和の叡智にも期待できない。この窮地は自力で乗り切るしかないんだ!

 目の前の女幹部は、少しポンコツな所もあるが根は真面目で聡明な人だ。だからこそ、神聖な学び舎で僕らが如何わしい事をしていたと勘違いし、激怒しているのだろう。誠意を尽くして弁明すれば、きっと誤解も解ける筈だっ!

 

 そもそも、何もやましい事はない。僕とまことの服が乱れているのは、狭いロッカーに閉じ込められていた影響だ。

 まことが手を繋いできたのも、迂闊に教室を覗き込んだ僕を引き戻す為だったのだろう。今もお互いに強く握り合っている理由は恐怖からだ。何に怯えているのかは、敢えて語らないが……

 

 

 「ロッカー? 何故その様な所に……いえ、鍵が壊れるなどの理由で扉が開きませんでしたのね。そういう事なら──え、壊れていない? では、なぜ! そんなに服が乱れるまで! 狭いロッカーの中に! 二人っきりで! くっついていましたのっ!?」

 

 怖い怖い! ワッカが居たせいで、ロッカーから出られなかったのだと叫びたい!

 けれど、まことが喋らない以上、僕からヒーローの正体をバラすのは筋違いだ。だからと言って、適当な言い訳で誤魔化すのも気が引けるし……!

 もう万事休すだ! 助けて、レイワさんっ!!

 

 【Sの人って、攻められると弱いよね】

 【サイ怪人は人間をサイコロみたいにする特殊能力】

 

 それは知ってる! 僕が知りたいのは能力の発動条件で──

 

 

 「うわぁぁ!? う、動けねー!」

 

 「あら、リングリットを倒しましたのね『ライノーα』」

 

 「うん。動きの遅い『モチモチ・リング』を利用してみた」

 

 リングリットが、自身の必殺技『グリットライム・ドーナッツ』にやられている……。

 A子が言うように粘着性のあるトリモチの様なリングは、動きが遅い。その用途は、わざと敵に攻撃させる事を目的としたトラップなのだから仕方ない。

 既に手の内がバレているというのに、なんの工夫もなく技を放てば()()()()のは目に見えているだろう。光の速さで解決すると宣言したヒーローが、自分の技で雪だるまにされて手も足も出ないなんて酷すぎる……。

 でも、ミーア・クシロンの気を引いてくれた事にだけは感謝するよ。ありがとう!

 

 「おーほっほっほ! 先程の続きは、連れ帰ったあとでじっくりと聞かせてもらいますわ! では、ライノーα。そこの二人も、サイコロにしておしまいなさいっ! それで完全勝利ですわ‼︎」

 

 「わかった。いくよ……『犀転換(リノベーション)』!」

 

 【角で突かれるとサイコロになっちゃう】

 

 まずい!? このまま突進されたら二人揃って串刺しだ! せめて、まことだけでも……!

 

 「わっ!?」

 

─────────

──────

───

 

 サイ怪人の角。表面は日本刀の様に鋭い。その角が、僕の身体へと深く食い込んだ。

 しかし、出血も怪我の痛みも全くない。直前でレイワさんが教えてくれた様に、これは猫怪人や熊怪人の爪と同じく──肉体を変質させる前段階の攻撃なのだ。

 角を抜かれると同時に、僕の身体からも力が抜け、床へと崩れ落ちる。膝をつき正座の形となり、上半身も支えられず自動的に蹲る体勢となる。

 しかし、何故か顔だけが正面を向いた状態で固定された。手脚は動かせないが、口だけは動かせるという奇妙な感覚。この事実によって、僕の肉体もクラスメイト同様に『キューブ』と化してしまったのだと思い知らされる。

 

 

 「よくも……っ! 許さないぞ、サイ怪人‼︎」

 

 僕が体当たりをした事で、まことだけはキューブ化を免れた。

 現在、果敢にも彼女がサイ怪人と闘ってくれている。こと格闘技術に関して、彼女はリングリットの数倍は強い。並ならぬ膂力を持つ怪人相手に格闘戦を成立させているのだから、それだけでも彼女の技量の高さが窺い知れる。

 まことはサイ怪人の武器である鋭い角を、躱したり、時には両手で挟み込む事で特殊攻撃に対処しているのだ。

 あれは『無刀取り』と呼ばれる技術。本来は刀を持った相手に、素手で挑む際に用いる技だ。

 サイ怪人は鼻先の刀で攻撃する為、必然的に『振りかぶり』や『突進』といった動きの読みやすい予備動作が生じる。僕ですら咄嗟に反応できたのだから、平静を取り戻した今のまことならば容易に見切れる攻撃だ。

 

 そして、何よりの幸運はA子が『くすぐり』攻撃を使えない事だ。

 普段のA子ならばとっくに痺れを切らし、まこと相手の特効攻撃へ移っている頃合いだろう。しかし、サイ怪人の指は太くゴツゴツとしており繊細な動きには向いていないのだ。

 

 だからこそ、一般人の格闘少女が悪の組織の怪人を追い込めている!

 雪だるまヒーローの百倍頼もしい存在だ!

 

 

 「厳しそうですわね、ライノーα」

 

 「もんだい、ないっ! ミーアさまは、そこの四角い小学生で遊んでて、いい!」

 

 誰が小学生だ! サイ怪人になって身長が2メートル位あるからって、僕を馬鹿にするな!

 普段と視点が違うせいで、苦戦してるじゃないか。サイ怪人のボディが鎧みたいに硬いおかげで何とか凌げてるけど、A子本来の『速さ』を活かした戦闘が全くできてないぞ。

 

 【ロリにはロリ】【ショタにはショタ】

 

 そんな格言は無い。

 けれどレイワさんは多分、適材適所と言いたいのだろう。言葉の意味は判らないが、ニュアンスだけは伝わった。A子にはA子に向いた戦い方があるように、僕にも僕にしかできない役割があるんだ。

 キューブにされた僕にできる事。

 それは、まことが怪人と一対一で闘える様にミーア・クシロンの気を引く事だ。

 彼女は再びB子さんへと座り直し、僕の頭の上に脚を乗せているのだから!

 そう。僕はB子さんキューブの対面へと置かれてしまったのだ。逆さまに置かれているB子さんが、時折クッション部分を撫でられて艶かしい声を上げている。

 

 

 「うふふ。脚置きの気分はいかが? 念のため言っておきますが……あなたが、どうしてもと頼むから、(わたくし)も仕方なく付き合っていますのよ?」

 

 その言い回しだと、僕が懇願して頭の上に脚を置かせている変態みたいじゃないか。

 これは折衷案なんだ!

 キューブにされた直後、怒りの収まらないミーア様が僕を持ち上げてこう言ったんだ「さて、お仕置きとして……向こうで転がっているお友達の男子とくっつけてあげますわ。うふふ、もちろん顔面同士ですわよ?」と。

 そんなレイワさん大歓喜イベントを回避する為、椅子でも脚置きでも何でもするから()()だけは勘弁してくれと懇願したのだ。無事に『脚置き』案が可決され、横目に見えたEもホッとした表情を浮かべていた。

 

 だから、まこと! 僕が全力でミーア様の気を引いておくから、その隙にサイ怪人を撃退するんだっ……イタっ!?

 

 「あ、大丈夫でして!? ブーツの先端が尖っている事を忘れていましたわ! やっぱり、脚置きは危険でしてよ」

 

 頭に少しだけ痛みを感じたものの大した事はない。

 ミーア様が咄嗟に脚を上げた事で、スカートの中身が見えてしまった事の方が大問題だ。

 

 【中は水着だからセーフ】

 

 良かったセーフだ。一瞬だけ僕の視線が釘付けとなってしまった場面を、B子さんに見られてしまった気がしないでもないが……セーフだ。

 B子さんは【糸目キャラ】な上に、今は上下逆さまなので判別がとても難しいのだ。けれど、だからこそ観測されていないという希望が生まれる。

 今の僕は、スカートの中を覗いた変態であると同時に、何も目にしていない純情な【ショタ】でもあるのだ。相反する二つの事実は、B子さんが口を噤む限り決して世に出る事は──

 

 

 「ミーアちゃん、スカートのなか覗かれちゃったみたいよ〜」

 

 「えッ!?」

 

 わー! 誤解なんだ。不可抗力なんだ。ほらこの通り、僕は身動きできないのだし!

 

 「大丈夫よ〜、弟くん。男の子はそういうモノだって、お姉ちゃん知ってるから〜」

 

 お姉ちゃん……そこまで理解があるのなら、黙っていて欲しかった。

 壁際のクラスメイト30名からの視線が痛い。そんな針の筵に座らされた僕を、B子さんが「よしよし」と言葉で慰めてくれている。つらい。

 

 

 「ッ! また貴女は、そうやって甘やかすんですのね! いいですわ、どこまで余裕でいられるか試して差し上げますわ」

 

 僕の身体が再びミーア様に持ち上げられ、B子さんの上へと乗せられてしまった。

 どうしてこうなった? 状況が全く理解できない!

 僕の胴体面と、B子さんの胴体面が密着する──ああ、一つだけ理解できた。

 これこそが、令和に存在するアイテム『人間をダメにするクッション』なのだ。【ちがうよ】

 

 「うふふ。まだ余裕そうですわね? でしたら──」

 

 そう言い放ち、僕の上へと座るミーア様。彼女と僕の体重が合わさり、B子さんのクッションがより深く沈み込む。

 なんなんだコレは……!

 僕の下では、B子さんが重さに堪えるためなのか、どこか艶っぽい声を上げている。

 僕の上では、ミーア様が自分で発案したにもかかわらず、恥ずかしそうにモジモジと動いている。居た堪れなくなるのなら、最初からやらないでくれ!

 

 

 そもそも、どうして悪の組織サイドにいるB子さんがキューブにされているんだ?

 一周回って冷静になった頭で少し思い返してみる。

 最初に教室を覗いた時、ミーア様は『お仕置き』と言っていた。つまり、B子さんが何か粗相をしたという事だ。しかし、それが萬宮寿しいなへの粗相か、ミーア・クシロンへの粗相なのかが判然としない。しいなさんは正体がバレかねない発言を平気でするからなぁ……一体、B子さんは何の罰を受けているんだ?

 

 【ショタを甘やかした罰】

 

 それって、つまり。僕を甘やかした事で、しいなさんの逆鱗に触れてB子さんがこんな目に遭っているってコトなのか!?

 確かにブートキャンプから解放された連休最終日は、しいなさんが見ている前でこれでもかって位に甘やかされた。それに、さっきのスカート覗きの件でも彼女の目の前で甘やかされたんだ。

 確かに辻褄が合う……!

 

 そうか。しいなさんは、嫉妬したんだ。

 

 普段からB子さんは、しいなさんを妹の様に可愛がっている。そのポジションを、弟扱いされている僕に奪われたと勘違いしているんだ。それでB子さんに構って欲しい感情が裏返って、こんな仕打ちを……!

 考えてみれば当然の反応だ。僕だって、妹の理奈が降って湧いた見知らぬ男を『お兄ぃ』などと呼んでいようものなら腑が煮え繰り返る事だろう。

 これは反省しないといけない。ついB子さんの包容力に身を任せてしまったけれど、しいなさんの心情を全く考えていなかった。【それは本当にそう】

 

 「あ……ダメ! 弟くんと、くっついちゃう! 合体しちゃう! 合精霊(コンフュージン)になっちゃう〜‼︎」

 

 「こんな事で合精霊にはなりませんわよ。まったく、貴女相手だと何をやってもお仕置きになりませんわね」

 

 僕の上でミーア様が小刻みに跳ねて、重みを加えてくる。それに耐えかねてB子さんが色々と口走っているのだけど……コンフュージン? なんの事だろう、初めて聞く単語だ。

 

 【怪人のこと】【動物と発明品と精霊が──】

 

 

 ようやく原作知識を思い出したレイワさん。

 どうやら僕らが怪人と呼んでいたモノは、正式には『合精霊』という存在のようだ。

 動物を素体とし、特殊能力の元となる発明品を組み込み、それを制御する為に精霊の魂を宿す。

 そうする事で、動物の膂力を維持したまま人型へと変身し、強力なものへと昇華した発明品の特殊効果を自在に操れる存在となる。

 そして驚いた事にA子とB子さんは、精霊の末裔らしい。彼女らの魂を抜き出し、動物の肉体へ宿したものが怪人の正体だ。

 他にも、しいなさんが魂を掴める巫女だとか。その能力を利用して屋敷へ帰還しているなどの情報も得られたが──今の問題は別にある。

 

 ポンコツ気味なお嬢様と違って、B子さんは仕事に徹すればメイドとして完璧に振る舞えるヒトだ。そんな彼女が機密である合精霊というワードを漏らすなんて、本来ならばあり得ないのだ。

 おっとりとした口調のせいで緊張感が伝わらないが、この『お仕置き』は想像以上にB子さんを混乱させているのだろう。

 冷静に考えれば、二人の人間に乗られて胸部を圧迫されている状態なんだ。早く解放してあげないと、呼吸するのもツラいかもしれない!

 

 そんな訳でミーア様、一刻も早く僕の上から──と思った矢先に、彼女の方から降りてくれた。

 

 「ライノーα、敗けてしまいましたの!?」

 

 

 どうやら僕は無事に役割を果たせたようだ。

 

─────────

──────

───

 

 「ごめんミーアさま。モチモチを逆に利用されちゃった……」

 

 「そんなっ……! 私が観ていない間に一体何がありましたの!?」

 

 「ボクの友達にカウンターが得意な子がいるの。あの子の『奥義』を真似して、突進してくるチカラの流れをモチモチの方へ逸らしたんだ!」

 

 右手の人差し指を立て、まことが自慢をする。

 彼女は指一本で、サイ怪人の突進方向を変え、リングリット雪だるまへと突っ込ませたらしい。未だに粘着力が残るトリモチは、サイ怪人を捕らえて逃さない。

 そのサイ怪人──A子はと言えば、思わぬ形で『友達』だと言われた為に珍しく赤面している。

 先程のカウンターが得意な子とはA子の事。そして、彼女の奥義は僕もお世話になった『胡蝶の舞』だ。もしかしたら、顔が赤いのは自分の奥義で敗れたせいかもしれないな。

 

 まあ、まことが使った技は正確には『くすぐり奥義』などではなく、合気道に通ずる術理を基とした高等技術。

 羽吹流奥義『落花柳垂(らっかりゅうすい)』──枝垂れる柳の如く相手の力を受け流し、花を散らせる程の軽い力を加えて敵を制圧するカウンター奥義だ。人差し指を使った点のみ、胡蝶の舞からヒントを得たのだろう。

 

 

 「さあ、覚悟しろオメイラガの変態女!」

 

 「キーッ! いいですわ、私が直々に叩きのめして差し上げましてよ!」

 

 もうこの展開は、まことが主人公と言えるだろう。

 リングリットはポカーンと口を開けて、少女同士の激しい闘いを見守っている。

 そのヒーローの必殺技を破ったと思われる『七支刀』──剣の左右に3本づつ枝が伸びるように小さな刀が付いている特殊な構造をした直剣。ミーア・クシロンが扱うその武器は、だいぶ古風な物だ。もはや現代に於いては、武器としてではなく儀式の場で用いるのみの祭具だろう。

 しかし、そんな武器でミーア・クシロンは羽吹流を前にして互角に渡り合っている。

 

 彼女が変則的な武器を使うのにも理由がある。

 オーソドックスな武器。例えば刀や槍などは、幼少期のまことに攻略されてしまったそうだ。

 古来より萬宮寿流は、羽吹流に武器を攻略されては手を変え品を変え研鑽を積んでいった流派。しいなさんは、幼い頃の苦い思い出を糧にして様々な武器の心得を身に付けてきたのだ。

 果たして、七支刀でどのような闘いを見せてくれるのだろうか。おおっ! 柄を捻って小さな支刀を回転させる事で、まことの接近を許さず上手く立ち回っている。この闘いは目を離せないぞ!

 

 「ひゃん! 弟くん、興奮しないで〜。んっ、わたしの胸にまで心臓の音が伝わって、あっ。変な気分に、なっちゃう〜」

 

 キューブにされて動けない僕らだけど、心臓の鼓動だけは変わらないんだ。

 けれどこんな激しい闘いを目にして、興奮するなと言われても困る!

 僕の方にも、B子さんの心臓が激しく脈を打ってる音が伝わって来るのだから、お互い様という事で勘弁して欲しい。

 

 「ダメ……お姉ちゃんと弟なんだから! こんな関係、ダメよぉ。理珠に怒られちゃうわ〜」

 

 ああ、もう! ただでさえ、顔の角度が固定されてるから観戦し辛いのに!

 B子さんのせいで集中できない……。

 さっきから彼女が言っている事も支離滅裂だ。姉さんに怒られる心配よりも、しいなさんに嫉妬されないかを気にするべきだと思う。【それは本当にそう】

 どうやらレイワさんも嫉妬してるみたいだ。教室へ入る前、『おねショタ』をするなら自分としろと言っていたからな。こんな立方体同士で『おねショタ』も何も無いと思うけれど。【形状変化おねショタとか叡智すぎる】

 そんな変なカテゴリーが本当にあるのか? 相変わらず凄いな令和。

 

 

 「そんな変な武器を使うなんて、まるでボクのライバルみたい、だ!」

 

 「……ふふっ、いい趣味のライバルがいるんですの、ね‼︎」

 

 「そうだよ。それに、昔っから陰で努力してる()()()の方が、アンタよりずっとずっと凄いんだから! だから、ボクもこんな所で負けてられないん、だっ‼︎」

 

 「ッ〜〜!?」

 

 赤面して固まってしまったミーア様が、呆気なく懐に潜りこまれ強烈な一撃を食らう。リングリットのスーツと違い、ミーア・クシロンのコスチュームは水着。防御力など皆無なのだろう。

 女幹部は武器を取りこぼし、ここに勝敗は決した。

 ああ……B子さんとレイワさんに気を取られて、殆ど観戦できなかった。

 とは言え、決め手となったポイントだけは判る。意図せずまことは、相手の羞恥心を刺激して大きな隙を生み出したのだ。

 まことが溢した真っ直ぐな思いは、事情を知っている僕まで恥ずかしくなってしまう程だった。

 

 【さっきのは、もはや告白】【仲が悪いのは百合だから!】

 

 正に正論だ。

 きっとしいなさんは、家に帰ったあとベットに顔を埋めて脚をバタバタさせるのだろう。

 まことに至っては、クラスメイトが聞いている中で恥ずかしい事を言ってしまったと気付き、現在すでに居た堪れない状態になっているのだから。今日だけで何度、彼女が赤面した姿を目にしたか分からない。

 

 「て、撤退ですわ。ライノーα!」

 

 「むー。しかたない」

 

 武器を無くしたミーア様が、覚束ない足取りで立ち上がりライノーαへと帰還を促す。

 A子も形勢不利を悟ったのか、むくれながらも自爆を選択した。例によって、教室に閃光が迸る。この現象こそが、合精霊の合体解除だ。

 魂となったA子は、いわば高純度のエネルギー体。その状態のA子を掴み、しいなさんが撤退する。以前と同様に窓側の壁を貫いて、萬宮寿邸へと帰ったのだろう。学校と萬宮寿邸は直線道路で結ばれている。3階に位置するこの教室から飛び出れば、もう遮るものは何もない。

 今回、エネルギー体が消し去った障害物は教室の壁と──リングリットの『グリットライム・ドーナッツ』だけだ。

 ようやく雪だるま状態から解放されたヒーローであるが、流石にいつもの高笑いは上げられず、恥ずかしそうにそそくさと教室から去って行くだけだった。

 

 

 そして怪人の特殊能力が解除され、ようやく僕らも元の姿に戻ったのだが──

 

 

 「怖かったね〜、でも泣かないで偉かったわぁ! うふふ、がんばった弟くんをお姉ちゃんが褒めてあげる〜。いい子、いい子。よしよ〜し」

 

 キューブ化が解除された30名のクラスメイト。

 その辺の床に転がっていたE。

 いつの間にか羞恥心が収まって、冷静になっているまこと。

 つぶらな瞳で、こちらを見ている大人しいサイ。

 

 B子さんの胸元へ強く抱き寄せられ、抜け出せなくなった僕に複数の視線が突き刺さる。

 やめてくれ! そんな生暖かい目で見守らないでくれ‼︎ 不可抗力なんだ!

 




光速真芯リングリットX
 「まこと目撃! ワッカとJKのショータイム」の巻
─ おしまい 来週もまた見てね! ─
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