平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話   作:浅学寺のえる

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#08 絵に描いた焼き餅/膨張回

 「ワッカくん! 今日、道場(うち)に誰も居ないの。だからさ、これから一緒にどうかな?」

 

 「行きまーっす‼︎」

 

 サイ怪人の脅威が去り、落ち着きを取り戻した校舎での一幕。

 リングリットの余りにも情けない姿を目にした為か、まことがワッカへの猛特訓を提案したのだ。そうとは気付かず、即座に承諾するワッカ。きっと僕も、強制参加させられるのだろう。

 仕方ない……ついさっきB子さんとの【おねショタ】を、まことに目撃されてしまったのだから。

 あれ以来、頗る機嫌が悪いようだ。

 僕だって遊んでいた訳じゃないのだが、あの光景を見られた以上は弁明の余地がない。

 

 話題を変える為、試しに本来予定していたカラオケの話をしたら鬼の形相で睨まれる始末。もう怖くて迂闊に口を開けない。早くも万策尽きてしまったのだ。

 

 抵抗を諦めた僕は、黙ってまこと達の帰路に徒歩で同行している。ちなみに僕は自転車通学なのだが……自転車は学校へ置いてきた。

 

 【ハッキリ言って、この戦いにはついてこれないからな】

 

 ああ、いつかレイワさんがDBを語れると言っていたのは本当だったのか!

 だけど自転車を置いてきた理由は、まことが怖くて何も言えなかったからだ。情けないけど、僕自身がこの戦いに着いて行けない状況なんだよ。まことの機嫌が直るまで、気配を潜めるだけで精一杯だ。

 

 

 「楽しみだなー、まことちゃんの家‼︎ そっか〜、誰も居ないのかぁ〜。ふへへ」

 

 ワッカは【おうちデート】に誘われたと勘違いしているようだ。呑気そうにしていられて、羨ましい限りだよ全く。

 まことの言い回しも悪かったけれど、あれは道場が休みだから門下生が居ないという意味なんだ。そもそも、僕が同行してる時点でデートではないのだが……どうやら彼の目には、手首を握り締められ強制連行されている僕の姿が見えていないらしい。

 

 まあ逆に考えれば、僕の隠形術がそれだけ上手いという事だな。

 

 【背が小さいから見えないだけでは?】

 

 身長158cmは、そこまで小さくない!

 しいなさんだって同じ位の身長だ。なぜか周囲の印象では、僕の方が小さく見えるらしいけれど……!

 

 【キャラデザの関係で、実際の身長より低く描かれてない?】

 

 そんな訳あるか!? ジョジョ4部の康一くんじゃあるまいし!

 まったく……手首が封じられてなければ、すぐにでもバングルを装備してレイワさんに()()()をあげたい所だけど、現状では丁度いい暇つぶしだ。

 レイワさんは放っておけば、僕の思考に合わせて『SNSのbot』みたいに何か適当に呟いてくれる仕様なのだ。擬似的な会話相手くらいにはなってくれるだろう。

 

 【康一くんと由花子も、おねショタ】

 

 違う。確かに見た目だけで言えば、そう分類されそうだけど。あの二人は同級生だ。

 そもそも、拉致監禁から始まる『おねショタ』なんて嫌すぎるだろ。そう言えば、令和では由花子のようなキャラを『ヤンデレ』と表現するんだっけ? もしかしたら、彼女は日本史上で最古のヤンデレキャラなのかもしれない……!

 

 【清姫の方が千年くらい古い】

 

 ああ、安珍清姫伝説か。裏切られた女性が、蛇に変身して男を延々と追いかけ回すホラー話。そしてその男は、お寺の鐘の中に逃げ込むも、最後には焼き殺されてしまうんだ。

 この話の教訓は、逃げる時は必ず退路を確保しようという──【ちがう】

 

 【成人男性が、不用意にロリへ手を出した末路】

 

 清姫って、そんなに若い設定だったのか。うん……事案だ。

 おっと、そうこうしている間に羽吹道場へ着いてしまった。

 ありがとう、恐らく()()()()のレイワさん。()()()の僕には刺激的な内容も多かったけど、いい暇つぶしになったよ!

 

 【待って! おねショタは問題ないから!】

 

 問題あるだろ。『ジェンダーレス』という考えが令和の風潮なんだろう?

 男女差別は良く無い。

 

 【せ、正論パンチは何らかのハラスメント!】

 

 うーん。ようやく手首も解放された事だし、レイワさんには約束の()()()をあげようと思っていたけど……よく考えたら、これも何らかのハラスメントになってしまうな。

 よし、辞めよう。

 

 【なん…だと…】

 【いつの間に、そんな高度な焦らしプレイを覚えt──

 

 バングルを装備するだけでもレイワさんは黙ってくれる。パブロフの犬。条件反射というやつだ。

 

 

 

 「さ、入って。あ、そうだ! ちょっと中で待っててね、君たちの道着を持ってくるから!」

 

 「君たち……? ってお前!? いつから居たんだよ!?」

 

 ずっと居たよ。ワッカは注意力が低すぎるな。

 それにしても久々の道場だ。妹の迎えに来ても、中にまでは入ってないからなぁ。壁に掛けられた名前札も何だか懐かしく感じる。

 

 「へぇ、まことちゃんは師範代なのかー。ん? どうした、何もない所を見て……あれ? ここの二箇所だけ色が違ってるな」

 

 僕とA子の札が下がってた場所だ。周囲の壁と日焼け具合が違うので、くっきりと跡が残っている。

 僕らが幼い頃は、同世代の門下生も大勢居た。しかし現在残っているのは、まこと一人だけ。彼女の才能に劣等感を抱き、次第にみな道場を去って行ったのだ。

 中学生になるまで通っていた僕と、僕よりも少しだけ長く在籍したA子の札だけが、道場の壁へ日焼け跡を残している。

 壁に浮かんだ空白は、まるで僕らの関係性を物語っているかのようだ。きっと、まことは今でも僕の事を──

 

 「お待たせー。はい! じゃあコレに着替えて。ほら早く早く!」

 

 「え、なに? どういう状況なんだ!? まことちゃん、待って、脱がさな……キャー!」

 

 可愛い悲鳴をあげるんじゃない。無理やり服を剥かれたワッカを見たせいか、バングルが震えている。レイワさんの守備範囲は広すぎて理解不能だ。

 

 おっと。このままでは僕まで剥かれそうな勢いなので、素早く着替えるとするか。

 

 

 「うん、着替え終わったね! それじゃ、ワッカくん改め、()()()()()()!」

 

 「ふぇ……えぇ!? どうして、俺がリングリットだって知って……!?」

 

 「弱いヒーローを、これから猛特訓で鍛えてあげる! 手始めに、君たち同士で闘ってみて」

 

 

 こうして、地獄の猛特訓が始まった──

 金曜日の放課後から、月曜日の早朝まで。

 学校が休みの第2土曜日と日曜日。家へ帰る事を許されなかった僕とワッカは、羽吹家で寝食を共にしたのだ。早い話が、羽吹流ブートキャンプである。

 

 ちなみに、まこと以外の羽吹家の人々は留守だった。GWを利用しての海外旅行……もとい海外遠征。世界中の武器格闘術に対して、片っ端から喧嘩を売る旅だそうだ。こんなに羨ましくない海外旅行も他にないだろう。

 蛮族の遠征を、まことは学校を理由に辞退。賢明である。他の人々は、昨日と今日の『平日』を自主的に『休日』へと変換し、都合8日に渡る海外生活。道場の経営は上手く行っているようで安心したよ。

 

 

 月曜日の朝。久しぶりに対面した羽吹狼志(ろうし)師範は、とてもいい笑顔で武勇伝を語ってくれた。けれど、ボーガンの矢を指で挟んで受け止めたと言う話は流石に冗談だと思いたい。

 

 だってソレ、もはや北斗神拳だし。

 

─────────

──────

───

 

 月曜日。しいなさん型の四角いロボットが登校して来た。

 ロボットと言い張っていたけれど、本人だったと思う。

 呪詛返しの影響で、レ◯ブロックの人形みたいな外見になってしまったのだろう。

 ロボット越しに授業を受けたという形となり、彼女は出席扱いとなったのだ。

 令和で言うところの『リモート授業』という概念だろう。

 

 火曜日。ロボットが、少し丸みを帯びた。

 レイワさん曰く、3D格闘ゲームの一作目みたいなポリゴンキャラ。

 生憎、僕の時代にはまだ存在しないゲームなので、その例えは良く判らなかった。

 

 水曜日。しいなさんが復活した。

 レイワさんの原作知識通り、呪詛返しは時間と共に弱まる仕様のようだ。

 そして、108時間──4日と12時間経過する事で完全に消滅する。

 いくら回復すると言っても、彼女は相応のリスクを背負っているのだ。

 

 なぜ、そこまでして悪の組織として活動を続けるのか?

 僕にはまだ、その理由が判らない。

 

─────────

──────

───

 

 そして再び、金曜日の放課後がやってきた。

 

 今回もまた、六時間目の授業以降しいなさん達が席を外している。そしてA子が教室に残っているのだから、怪人役はB子さんの当番なのだろう。

 B子さんは、A子と違って萬宮寿流を学んでいる人だ。彼女は、鞭や弓と言った中距離〜遠距離で戦う武器を得意としている。まあ、成長してからは上手く弓を引けなくなったと零していたので、現在は中距離をメインとした戦闘スタイルなのだろう。

 

 【たわわが邪魔で、アーチャー適性が無くなったんですね】

 

 そう言う事だ。まあどちらにせよ、過去に現れた『猫怪人』と『象怪人』のケースでは武器を扱っていない。怪人の手は武器を扱うには不向きな構造をしている場合が多いのだ。

 その為、彼女は得意の戦闘スタイルを活かせずに『特殊能力』頼りで襲撃してくる。だからこそ、その能力を無効化できるリングリットが相手の場合、苦手な近接戦闘を余儀なくされる事となる。

 

 つまり、地獄の猛特訓を潜り抜けた火鬼崎ワッカ──もといリングリットが敗ける要素など微塵も無いと言えるだろう‼︎

 

 

 「ほら急いで! 今日は3年生が襲われてるみたい。君の()()のお姉ちゃんが心配でしょ!」

 

 僕は今、まことに手を引かれ渡り廊下を駆けている。帰りのホームルーム中に、向かいの校舎で悲鳴が上がったからだ。

 ヒーローでもないのに現地へと急行している僕ら二人。リングリットが登場するまで僕らが時間を稼いで、被害を最小限に抑える──と言うのが、まことが立てた方針だ。そのプランに僕は強制参加させられている。

 しかし、当のヒーロー本人へ正確に意図が伝わっているかは謎である。まことは教室を出る際に、ワッカへウインクを送っていたが……それを受けた彼の表情は、鼻の下を伸ばした情けない顔だったのだから。

 あれだけの特訓を受けて尚、まことへ恋心を抱くとは恐れ入る。

 

 

 「おーほっほっほ!」

 

 「あ、例の高笑いが聞こえてくるよ。あの教室から……って、理珠(りず)さんのクラス?」

 

 姉さんは3年D組に所属している。

 うん。確かに、姉さんのクラスから高笑いが聞こえてくるなぁ……やだなぁ。

 身内が『特殊フェチ』な状況になってる現場に、これから突入するのかー。帰りたい。

 

 

 「そこまでだ! オメイラガ‼︎ ボクが来たからには、勝手なマネは許さないぞ!」

 

 「キーッ! 現れましたわね、羽吹まこと!」

 

 躊躇なく教室へ踏み込む主人公──ではなく、ヒロインのまこと。

 女幹部とのやり取りを含めて、もはや彼女の方が正義の味方として頼もしい存在に見える。今回は怪人を無視して、初めからミーア様と闘いだしてしまった。ミーア様も、前回の敗北は納得がいかなかったのだろう。

 双剣の柄部分を合体させた様な武器。ダブルブレードと呼ばれる珍しい武器を振り回すミーア様。まことが得意とする無刀取りを封じる戦法だろう。高速で回転するブレードに、まことは攻めあぐねている。しかし、好戦的な表情は一切変わらないのだから、何かしらの隙を狙っているのだろう。

 

 彼女達のハイレベルな闘いを観戦したいのは山々なのだが、()()()の問題を無視し続けるのも、そろそろ限界だ──

 

 「木嶋(きじま)さんが2人いる!?」

 「違うよ、あの子は理珠っちの弟くん」

 「弟も小っちゃくて可愛い〜」

 

 風船のように体が丸々と膨らんでいる先輩方が、僕を見て好き勝手な事を口にしている。異常事態だというのに、どこか落ち着いているのは僕らのクラスと一緒のようだ。

 違う点があるとすれば──頭を巨大に膨らませた担任教師が教室にいるという事実か。僕らの担任は襲撃が起こると、生徒を置き去りにして一目散に姿をくらます人だからな。

 

 「そこよ〜! がんばれ、ミーアちゃーん‼︎」

 

 ミーア様を応援しているのは、この異常事態を作り出したパンダ怪人のB子さん。そんな彼女の手には竹槍が握られている。てっきり怪人は武器を持てないと思っていたけれど、実際のパンダと同様に竹を持つ事は可能なようだ。

 

 【竹槍ストローで刺されると動けなくなる】

 【その状態で息を吹き込まれると、身体が膨らむ】

 

 あれってストローも兼ねてたのか。なるほど、二段階仕様の特殊能力だから被害にあった生徒の数も少ないんだな。おそらく担任の先生が尽力した事も手伝って、大多数の生徒は避難できたのだろう。あの先生は、巨大化した頭を利用して生徒を守るように倒れ込んでいるのだから。

 

 不運にも逃げ遅れた生徒は4人。

 先程、姉さんが二人いると勘違いした男の先輩。

 僕も面識があるギャル風の先輩。

 面識のないギャル風の先輩。

 そして、何故か背中を向けている姉さん──

 

 「ちょっと! コッチ見ないでよ、でぃ君! めっ!」

 

 幼子を叱るみたいに言うんじゃない。それに見るなと言われても、背中越しでも判る程の不自然な膨らみが嫌でも目に付くんだ。どうして姉さんだけ、上手い具合に胸だけ膨らんでるんだよ!?

 

 「知らないよー!? パンダちゃんに胸を刺されたら()()なっちゃったの……!」

 

 【巨乳化】【ロリ巨乳】【合法ロリ?】

 

 合法って表現をやめるんだレイワさん。姉さんは誕生日がまだ来てないから17歳なんだ。その基準に則れば、違法または脱法になってしまうだろ。だから『トランジスタグラマー』という表現に留めておこう。

 僕と変わらない身長で、胸囲だけがB子さんクラス。まるで軽自動車にフェラーリのエンジンを搭載するかのような所業だ。

 体型が急激に変化したせいか、姉さんは床に正座したままの体勢でいる。膝の上に【たわわ】を乗せる事で、どうにかバランスを保っているのだろう。そんな姿を見せられている僕の心のバランスは崩壊寸前なのだが……

 

 「なら見なければいいでしょ〜‼︎ わ、私だって、好きで巨乳になったワケじゃないんだからね!」

 

 ちょっとだけ嬉しそうにするんじゃない。そういったセリフに憧れがあるのは判るけれど、弟に対して言っても虚しいだけだろう。

 ほら、この教室に唯一残っている男の先輩が、気まずそうに顔を逸らしているじゃないか。胴体がパンパンに膨らんでいるせいで、首を回すのも大変そうだ。身体と一緒に服まで伸びているのが、唯一の救いといった所か。

 姉さんが着ているブレザーも、スイカを二つ詰め込んだ様な形に伸びている──【乳袋】

 そんなカテゴリーまで存在するとは、つくづく令和の凄さには頭が下がるよ。

 

 「ミーアちゃーん! 気をつけてー‼︎」

 

 おっと。姉さんに気を取られて、危うく肝心な場面を見逃す所だった。

 今は敵だけど、B子さんには感謝しないと。

 

 

 「そんなっ……ブレードが!?」

 

 「はぁ、はぁ、厄介な武器だったけど、もう見切ったぞ!」

 

 常人にはとても不可能な芸当だが、まことが取った行動自体は至ってシンプルな物だ。

 彼女はまず、回転するブレード──その剣の腹部分を横から殴った。

 その影響で余計な方向へと力が働き、ミーア様のブレード制御に一瞬の隙が生まれる。

 まことは隙を逃さずに、側面からブレードの柄部分へと打撃を加え、武器を弾き飛ばしたのだ。

 

 「破ぁッ‼︎ これで! ボクの勝ちだ!」

 

 そして今、床へ落ちた武器が踏み壊された。

 

─────────

──────

───

 

 「え、理珠さん? なに、()()……?」

 

 「ごめんね、まことちゃん。私だけ巨乳になっちゃって」

 

 姉さんが、おかしな【マウント】を取り出した。その状態は一時的なもので、B子さんが自爆したら終了する儚い夢だと言うのに。差し詰め、巨乳ならぬ虚乳と言った所だろう。【虚乳の意味は少し違うよ】

 既に存在している概念なのか……。もういいや、上手い事を言おうとした僕の負けだ。

 

 

 「キーッ、羽吹まこと! (わたくし)に背を向けて、もう勝った気でいますの!? 悔しいですわー‼︎」

 

 「あらあら、困ったわね〜。ヒーローが来る前に、ミーアちゃんが負けちゃうなんて〜」

 

 「まだ負けてませんわ!」

 

 そうは言っても。武器が壊された以上、ミーア様は事実上の敗北。

 このままB子さんが撤退を選んでくれれば、ヒーローの出番なく事件が解決するのだが──

 

 「ふーん。そうなんだ、あの怪人の能力で……ゴクリ」

 

 ゴクリじゃない。まことは姉さんの胸を羨ましそうに眺めているが、特殊能力は怪人を倒せば解除されると知ってるだろう?

 仮に戻らなかったとしても、この大きさは日常生活に支障をきたすレベルだぞ。B子さん並の高身長がなければ、釣り合いが取れない。身長163cmのまことでは、持て余す事請け合いだ。

 

 「うー。また君はそうやって……!」

 

 「よく分かりませんが、チャンスですわパンパンβ! 今の内に不意打ちで倒してしまいなさい!」

 

 「は〜い」

 

 律儀に、不意打ちを宣言するミーア様。相変わらず【ポンコツかわいい】人だ。

 怪人がパンパンβという名前だったのには驚かされたけれど、羽吹流を相手に竹槍を使うなんて折ってくれと言っているような物だ。

 それ位なら僕にだって……ああ、まことが対処してくれるのか。今日は本当に、リングリットが登場する前に事件が解決──

 

 「わー、やられちゃったー」

 

 棒読みセリフで、自ら竹槍へと刺さりに行くまこと。

 僕の忠告も虚しく、憧れを捨てきれなかった彼女の身体が息を吹き込まれる事で徐々に膨らんでいく。

 

 「よーし、もっと息を吹き込んじゃうわね〜! スゥーッ──」

 

 「え? ちょっと待って!? 違う! ()()じゃないよー‼︎」

 

 まことが刺された部分は、胸部より若干下だったようだ。胸ではなく『腹』が、見る間に膨らんでいく。あれでは、まるで……

 

 「そ、そんな……ボクのお腹が。ど、どうしよう〜! 君が責任とってくれるよね!?」

 

 おかしな言い回しをするな!

 気は乗らないけど、パンダ怪人は責任持って僕が相手するから。少し黙っててくれないか。

 もしこんな場面をワッカにでも見られたら──

 

 「そ、そんな……嘘だろ!? お、お前がヤッたのか!? ゆ゛る゛さ゛ん゛‼︎」

 

 最悪なタイミングで、着替えを終えたヒーローが駆けつけてきた。

 どうしよう。完全に僕の事を敵だと認識しているぞ。【NTRなんてするから……】してない‼︎

 うわっ、弁明も聞かずに襲いかかって来た!?

 

 【10代インシデント発生!?】

 

 緊急事態だっていうのに、ワケの分からない冗談を……! ダメだ。レイワさんは当てにならない!

 

 た、助けて! パンパンβさん!

 

 

─────────

──────

───

 

 

 ひと騒動を終え、パンパンβさんが自爆する事で全てが元に戻った。

 

 一時、僕とパンパンβさんの共闘でリングリットを追い込んだものの、クロスリット・ハイロゥを展開されてしまえば為す術が無かった。ミーア様のブレードが壊された時点で、僕らの敗北は確定していたのだ。

 しかし、まことが元の平坦な姿に戻った事で誤解は解けた。僕の拘束を早く外して欲しい。

 

 「わりぃ。てっきり、()()()に襲ったのかと思ってさ!」

 

 どの時だよ。道場に泊まり込んだ時は、僕もワッカも疲労で夜は動けなかっただろう。

 まことが常在戦場の精神で「いつでも襲ってきていいよ」なんて言うから変な誤解が生まれるんだ。あれは冗談半分で、たとえ寝込みを襲われようとも羽吹流に隙は無いという意味の発言だ。

 

 「では、さらばだ! ハーハッハッハ‼︎」

 

 悪びれる事なく高笑いを上げ去っていくヒーロー。彼に続いて、先生や先輩方も帰っていく。リングリットの高笑いには一般人を日常へと誘導する暗示効果でもあるのだろうか? この件も含めて、色々と問い質す必要がありそうだ。

 あれだけ特訓したというのに、結局は必殺技で解決したのも頂けないな。リングリットの取り柄は頑丈さなのだ。その特性を踏まえ、まことが提案したのは敵に怯まず突進して『羽交い締め』にする戦法だった。

 

 まあ今回、パンパンβさん相手に突進してきたリングリットを、足払いで阻止したのは他ならぬ僕なのだが……。

 ヒーローのヘルメットは口元が開いている構造だ。あの締まりのない【スライムみたいな口】は、邪な目的で突進して来た事の証だろう。パンダへ魂を移しただけとはいえ、パンパンβの肉体はB子さんの体型と酷似していたのだ。欲望を丸出しにしたヒーローの足元がお留守過ぎて、反射的に攻撃してしまった。

 

 

 「わぁ! パンダちゃんがゴロゴロしてるよー。かわい〜」

 

 姉さんが呑気にパンダを鑑賞している。大丈夫だろうか? B子さんの魂が抜けた今、このパンダは本物の動物なのだ。つまりは、大熊猫。もっと言えば熊だ。

 可愛い見た目とは裏腹に、気性の荒い一面もあるって話を耳にしたけれど……

 

 「なでていいかな? いいよね?」

 

 「ストップ。Dのあね。このパンダは萬宮寿家で預かる」

 

 「待ってよ、(うた)ちゃん! ちょっとだけ触らせて〜」

 

 何処からともなく現れたA子が、パンダを連れて教室を出ていく。

 ゆっくりとA子に追従して歩くパンダ。なんだかシュールな光景だ。いっそ背中に乗った方が絵になると思うけど、パンダがストレスを感じるといけないから自重したのだろう。

 

 「も〜、離してよっ!」

 

 おっと。パンダに近づくと危ないと思って、姉さんを羽交い締めにしたままだった。

 僕だって手荒な真似はしたく無かったけど、姉さんがパンダを可愛いがるなんていう女子高生ムーブを無理してかますから。本当は、変形合体する動物型ロボットにしか興味ないだろ?

 

 「失礼な! 私だって、可愛い動物は普通に好きなの。それに──」

 

 「君こそパンダが好きだったの? さっき何故か一緒に闘ってたよね? まさかボクを裏切って『オメイラガ』の一員になった訳じゃないよね? もしそうなら、君をボコボコにしないといけないのかなぁ?」

 

 姉さんの言葉を遮って、まことが責めてくる……!

 元はと言えば、まことが誤解を招くような行動をするから僕とパンパンβさんが共闘する流れになったんだ。そもそも、ミーア様を倒したあとにパンパンβさんも倒してしまえば──

 

 「ミーア()……パンパンβ()()……ねぇ、理珠さんの後ろに隠れてないで説明してよ。どうして、アイツらをそんな呼び方するの? ボクの事は呼び捨てなのに、変だよね!?」

 

 「お、落ち着いてー。まことちゃん! ほら、でぃ君。ちゃんと、ごめんなさいしなさい!」

 

 ごめんなさい、まこと様。ひぃ……! ごめん、まこと。

 えーっと、そうだ! 僕はむしろ、親しい仲だからこそ呼び捨てにしてるんだ!

 様付けなんて、他人行儀な敬称の極みだった。十年来の付き合いがある僕らは、名前で呼び合うのが相応しいと思うなっ!

 ほら、僕の事も昔みたいに名前で呼んでいいからさ。

 

 「ふぇ!? デ……Dくん。こ、これでいい?」

 

 「うん。ちゃんと仲直りできたね! それじゃ、でぃ君。そろそろ私の体を離して欲しいかな? 念のため教えとくけど、羽交い締めは他の女の子にやったらセクハラだからね?」

 

 なんだか名前の件を有耶無耶にされてしまった気がする。姉さんが『でぃ君』なんて呼ぶからだ。最近になって、B子さんが僕の事を『弟くん』と呼んでる事実を知った姉さんは、謎の対抗心を燃やしてしまったのだ。昔のように僕を『でぃ君』と呼ぶ事で、自分こそが真の姉だとアピールしてくる。

 まあ今回は、その姉ムーブに助けられた。どういう訳か、まことは昔から姉さんに強く出られない傾向があるからな。怒れるまことは、姉さんを盾にして凌ぐのが僕の流儀だ。

 

 【うわっ…、私のショタ、小物すぎ…?】

 

 仮に小物だとしてもだ。決して、レイワさんのショタでは無い。

 そうそう小物といえば、姉さんに起きていた変化も無事に元通りに……ん?

 

 「こら!? ホントにセクハラだからね!? お姉ちゃん相手でも、限度があるんだよ!?」

 

 言い訳をさせてもらえば、これは事故だ。羽交い締めを解く際に、本来なら何もない部分に僅かな膨らみがあったのだから。僕はてっきり、元通りの平原が広がっているとばかり──イタっ!? つねらなくてもいいだろ姉さん!

 

 

 「そんな……! 理珠さんの胸が少しだけ残ったままなの? ズルい!」

 

 「あのね、まことちゃん。私だって成長してるの。これは元々の自前だからっ!」

 

 (マウント)が消えたというのに、マウントを取り出した姉さん。あまりにも居た堪れないので、僕は黙って教室を後にした。

 

─────────

──────

───

 

 どんぐりの背比べを続ける二人を置き去りにして、向かう場所は『因縁の地』

 校庭の隅にひっそりと存在している防空壕跡。

 かつて『叡智の書』が安置されていたあの場所。

 僕の運命を大きく変える事となったあの場所で──

 

 2年A組の彼、オメイラガの一員でもある芦高(あしたか) 彦星(ひこぼし)が、僕を待っている。

 




光速真芯リングリットX
 「パンパン膨れて プークプク」の巻
─ おしまい 来週もまた見てね! ─
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