平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話   作:浅学寺のえる

17 / 43
#10 過ぎ去りし時/年齢退行回

 ──あれ? なんだか記憶があやふやだ。

 

 ここは、学校なのかな? だけど、僕の通っている()()()とは少し雰囲気が違う。

 他所の学校……いや、そんな事よりも周囲の状況の方が問題だ!

 

 周りには、泣いている大勢の子供。

 幼児、童児、乳幼児……年齢はバラバラ。

 不思議な事に、みんなサイズの合わない服を着ている。確かあのブレザーは、近所の高校の制服だったはず。あ、僕もその制服を着てるみたいだ。

 袖が少し長いし、ズボンの裾も床へ付きそうになって──そうか、分かったぞ!

 この状況はきっと()()なんだ。

 

 

 謎の能力(チカラ)で、高校生が子供にされてしまったんだ‼︎

 

 

 【自力で答えに辿りついた!?】

 

 え……? なんだろう。頭の中に言葉が浮かんだような?

 テレパシーとかかな? 【ほぼ正解!】

 合ってたみたいだ。誰かが、僕に話しかけているんだ。えーと、あなたは誰ですか?

 

 【……私は、君のオペレーターです】

 【コードネーム『令和の叡智』】【君はレイワさんと呼んでいました】

 

 オペレーター!? なるほど、そういう事か!

 僕は本当は高校生で、ヒーロー的な活動をしているんだ! この事態は、敵の組織が巻き起こした『大人を子供にする』展開。きっと、僕も巻き込まれてしまったんだろう。

 レイワさん、合ってるかな?

 

 【はい、100点満点の回答です】

 【君はヒーロー『ショタライド(エス)』として悪の組織と戦っています】

 

 ショタライドS! それが僕のヒーローとしての名前か。格好いい!

 きっと『S』は、スーパーの略。だからパワーアップ済みのヒーローなんだ。やった!

 でも、どうやって変身するんだろう? 変身ベルトとかは無いけど……あ。金属の板がポケットに入ってる。これが変身アイテムかな。

 

 【い、いえ! 今は、それを使ってはいけません】

 

 そっか。大人の身体じゃないとダメなんだ。お姉ちゃんの好きなヒーロー番組で、見たことある展開だ……。子供にされてしまった僕は、変身を封じられてしまった。大ピンチだ!

 おのれ、ゴルゴムめ。卑怯な手を……っ!

 

 【敵は護流五無(ゴルゴム)ではありません】

 【それと、ヒーローはもう一人いるから安心して下さい】

 【君はリングリットが到着するまで、時間稼ぎをお願いします】

 

 分かったよレイワさん! たとえ子供になっても、僕はヒーローとして頑張るよ‼︎

 きっと、教室のすみにいる動物みたいなヤツが敵だな。シマシマ尻尾のサル──女の子みたいな見た目だけど、あの特徴は『ワオキツネザル』だ。つまり、ワオキツネザル怪人!

 背の高さは僕と同じ位か……よし、闘える‼︎

 

 【待って、待って!?】【子供の姿で戦うのは無理です】

 【あ。ちなみに、いま何歳?】

 

 10歳。小学五年生だけど──【ストラーイク‼︎ バッターアウッ!】

 わっ!? 急に叫ばないでよレイワさん。

 もしかして、野球中継を見ながらオペレーターしてる? 僕は野球中継って、アニメが潰れるから嫌いだなぁ。

 

 レイワさんって、おねーさんだと思ってましたけど『おじさん』だったんですね。ちょっとショックです……。

 

 【おねーさんですっ! 敬語もやめて!?】

 【こほん! いいですかD君。現在、サル怪人に敵意はありません。そして──】

 

 

─────────

──────

───

 

 

 ふむふむ。

 教室の中に漂ってる甘い香りは、サル怪人から出てる匂いだったのか。

 そして、匂いを嗅いだ人間を『子供時代に戻す』のが怪人の特殊能力。

 身体だけじゃなく、記憶まで当時のものになってしまうみたいだ。

 

 レイワさんの解析によれば、自分が一番子供らしかったと思う時代に戻ってしまうらしい。だから年齢がバラバラなのか。

 5歳前後になってしまった子が多いみたいだ。小学生が数人いるものの、みんな低学年。だから10歳の僕が一番年上で、一番下は……1歳くらいなのかな?

 

 赤ちゃんが一人だけいるんだ。金髪だから外国の子かもしれない。

 その赤ちゃんの面倒を見ているのが、サル怪人。赤ちゃんを布でくるんで、抱っこしながらあやしている。良かった、あの子は人質じゃなかったんだ。

 ひょっとして子供好きな怪人なのかな? テレビ番組でたまに見かける『優しい怪人』なのかもしれない。

 

 【D君。今は怪人を刺激せず、ショタとロリ──子供達を守るのです】

 

 了解! 優しい怪人でも油断しないよ。あの手の怪人は、後半で悪い幹部が現れて『暴走』させられる展開が待ってるからね。お姉ちゃんのおかげで、僕は詳しいんだ。

 だから、仲間のリングリットが来てくれるまで子供達は僕が守るよ‼︎

 

 【なんて純粋なショタ……てぇてぇ】

 

 てぇ? そう言えば、さっきから気になってたんだけど……あそこにいる子供って、まことじゃないかな。幼稚園児くらいに戻ってるけど、幼馴染だから何となく判るんだ。

 それと、隣で泣いている黒髪の子。あの子も5歳くらいだけど、どこか見覚えがあるような……?

 

 

 「でぃくん!? せいちょーしてる。スゴいっ‼︎ おっきー!」

 

 「……ぐすん。まことちゃん、そのヒト誰ですの?」

 

 「でぃくんだよ。きじまd──」

 

 やっぱり、まことだった。5歳の子供にとっては、僕でも凄く大きいのか。昔から僕とまことは同じ位の身長だったから、なんだか嬉しくなる。

 泣いていた子も、そのお嬢様みたいな喋り方で思い出せた。この子は、萬宮寿流の子だ。イグナばーさんの孫。まことのライバルって聞いてるけど、幼稚園の頃は仲が良かったんだなぁ。

 

 「キジマ……あ! ディエゴですの!?」

 

 ディエゴ? 【ブランドー?】 どういう意味かは、レイワさんも知らないみたいだ。

 きっと僕の名前を間違えて覚えてるんだろう。昔から(うた)が『D』って呼ぶせいで、僕の本名をちゃんと呼んでくれる人が少ないんだ。

 もう慣れてるから、好きに呼んでいいよ。ディエゴでも、ディーゴでも──【総帥?】

 

 「わたくしの事がわかりませんの? シーナですわ! ずっと、あなたに会える日を待ってましたの!」

 

 シーナちゃんか。うん、確かにそんな名前だった──わっ!? 急に抱きついたら危ないよ。

 それに、何でシーナちゃんはブラウス一枚しか着てないんだ? 周りの子は、ブカブカだけどブレザーも着てるのに。

 

 「ふふーん。しいなちゃんが『裸んぼ』だったから、ボクの服を一枚あげたんだ!」

 

 「もー! 裸だった事はヒミツですのよ? でも、まことちゃんが居てくれて助かりましたわ。ありがとう、まことちゃん」

 

 「えへへ」

 

 

 

 【てぇてぇ……‼︎】【幼い百合カプ、推せる!】

 

 レイワさんの言葉が良くわからない。きっと、ヒーローが使う暗号なんだ。

 今の僕には分からないから、意味が分かる言葉で教えて欲しいな。

 

 【ダメです】

 【純粋なショタに、余計な知識を混ぜてはいかんのですよ】

 

 【でもショタだからこそ、百合に混ざる事を許容してあげます】

 【さあ、お兄ちゃん力を見せてあげなさい!】

 

 お兄ちゃん? 確かに、今の二人は僕の妹と同い年くらいだからあやすのは慣れてるけど…… あ、でも僕が高校生になってる時代なんだから、妹も成長してるのか。

 それに、まこともシーナちゃんも本当は僕と同級生。不思議な感覚だ。

 今が過去なのか未来なのか、分からなくなる!

 

 「うふふ。おかしな状況ですけど、やっとディエゴに会えましたの! もう離しませんわ!」

 

 「もう! しいなちゃんばっかズルいー。ボクも抱っこして、でぃくん!」

 

 まことが、僕の身体へよじ登って来る。やっぱり、この時代から身体能力が高かったんだ。

 シーナちゃんも、しがみ付いたまま離してくれない。うーん、どうしてこんなに懐かれてるのか分からないけど、素直でいい子みたいだ。前に、まことから聞いた印象とだいぶ違う。もっとワガママな子を想像してたよ。

 

 きっと仲が良いからこそ、少しの欠点が目に付くんだろう。何だかんだで同じ高校へ通ってるみたいだし、この時代でも二人の仲は言うほど悪くないのかもしれない。

 

 そう言えば、僕とまことが同じ高校へ通ってるんだ。もしかすると、この学校には詠も──

 

 

 「D。子供になっても侮れない。え……? 本当に子供になってる? 見た目、同じかも」

 

 この喋り方は、詠──じゃないっ!? 怪人だ‼︎

 よし、僕が相手だ。やってやるぞ、サル怪人めっ!

 

 

 「このケンカっ早さ、中身は子供みたい……。落ち着いて少年。赤ちゃんがいるから、今は闘わない。あと、サル怪人でもない。ワタシの名前は『モンモンα』」

 

 「まあ! あなたモンモンあるふぁって言いますのね! 可愛いですわ〜」

 

 「えー、赤ちゃんの方が可愛いよ? ボクに抱っこさせてよー!」

 

 モンモンαが困ってる。

 赤ちゃんを奪い取ろうとする、まこと。尻尾を握って離さないシーナちゃん。

 尻尾を強く握られる度に変な声をあげてるから、あれが弱点なのかもしれない。

 うーん。ここまでされても子供を襲わないのだし、もう安全なんじゃないかな? 悪の幹部も見当たらないから、暴走させられる事もなさそうだ。このまま仲間のヒーローが来るまで放って置こうか。

 

 

 「ひゃっ……シッポはダメ。たすけて、D」

 

 本当に詠みたいな喋り方だなぁ。まさか、詠が怪人に改造されてるんじゃ──

 

 

 「そこまでだ、オメイラガ‼︎  よくも皆を子供にしてくれたなっ! ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」

 

 「は、離して。ヒーローが来たから。D、赤ちゃんお願い」

 

 あ、うん。赤ちゃんは任されたけど……あれがヒーロー?

 銀色のボディは、なんだかイメージと違うなぁ。でも「許さん」ってセリフは格好いい!

 

─────────

──────

───

 

 「ぜェ、ぜェ、すばしっこい奴めっ」

 

 なんだか弱いぞ、このヒーロー。動きが素人だし、必殺技も不発だった。

 あ、まただ。ヒーローが腕を十字に組んで必殺技のポーズをとると、すかさずモンモンαが攻撃をくらわせて体勢を崩しにかかる。体勢が崩れてしまうと、必殺技を発動できないみたいだ。

 確かにモンモンαは素早い相手だけど、ヒーローが隙だらけなのが一番の問題だなぁ。どうして、あんなに弱いんだろう……あ!

 

 そうか。きっと、彼は()()ヒーローなんだ。

 すまない、リングリット。メインヒーローの僕が、子供になってしまったばっかりに……!

 今の僕には、赤ちゃんの面倒をみる事しかできないっ‼︎ すまないっ!

 

 

 「ねぇねぇ、おサルさんが使ってる武術って何流? ボクにもおしえてよ!」

 

 「ひゃっ!? まこと、シッポを握っちゃ……だめ」

 

 「……! チャンスだ。『クロスリット・ハイロゥ』‼︎」

 

 光のリングがたくさん出てきた。必殺技だ!

 そのままリングが手脚にはまって、呆気なくモンモンαは拘束されてしまった。

 サブヒーローなのに、がんばったなぁ! うん。きっと今回は、彼が活躍する展開だったんだ。普段ダメダメな人が活躍する回は、視聴率が高くなるってお姉ちゃんが言ってたから。

 

 でも、まことが怪人の尻尾を握ったおかげで、運よく勝てただけだしなぁ。

 帰ったら反省会を開いて、厳しい訓練をさせなきゃ──【おや、既にSの気配が】

 

 あとレイワさんも! オペレーターなのに途中から役立たずだったと思う。

 

 【あ、ダメ。まだSに進化しないで!】

 【進化キャンセル】【Bボタンはどこ!?】

 

 まあいいや。怪人も捕まったし、あとでヒーロー基地に戻ってから直接文句を言うよ。楽しみだなぁ、どんな基地なんだろう? リングリットの科学力は、相当な物だった。きっと、メカで溢れた基地だろうなー。宇宙にあったら最高だな!

 

 あ、怪人が何かしそうな雰囲気……きっと巨大化だ! やった!

 この流れは、合体ロボで迎撃する展開に──【自爆だよ】

 

 え?

 

 

 

 

 

 

 ──あれ? 前後の記憶が曖昧だ。

 

 今日は金曜日。水曜から開始した中間テストの最終日で、午前中に帰宅できる筈だった。

 えーと、テストが終了した後に『お馴染みの展開』があって……オメイラガが教室を占拠しきる前に、僕とまことでザコ戦闘員の包囲を破ってワッカを避難させたんだ。

 そうそう。テストで受けた鬱憤を晴らすかのように、まことが獅子奮迅の活躍を見せてくれた。おかげでクラスメイトを何人か逃がせたんだけど、えーと……それから?

 

 【教室へ戻って、怪人の特殊能力にやられた】

 【さっきまで君たちは、子供に戻ってた】

 

 子供にする能力か。僕の記憶が曖昧なのは、頭の中まで子供になっていたからだな。けれど、レイワさんのおかげで記憶の補完ができそうだ。僕とレイワさんの記憶領域が別々で良かった。

 PCに例えれば、僕が『Cドライブ』でレイワさんが『Dドライブ』なのだ。だから叡智が詰まってる。あはは。Dと呼ばれている僕がCドライブなのは、なんだか紛らわしいな!

 あとは、えーと……

 

 【そろそろ、現実を受け止めるべき】

 【もう子供じゃないんだから、フィクションと現実の区別はつくでしょ?】

 

 う……レイワさんのクセに正論を言うんじゃない。

 目の前の現実は、とても受け止め難いんだ。だから精一杯、ここまでの経緯をゆっくり確認していたと言うのに! もう無理だ。冷静さを欠いてしまった。

 

 なんで……なんでB子さんが、裸なんだ!?

 しかも、その状態で僕に抱き着いてる意味が分からないっ‼︎

 

 

 「ん、ダメっ! 動いたら隠せないでしょ〜。服の代わりに、弟くんで隠させてー!」

 

 ああ、理屈は分かったよ。気付いたら裸だったから、近くにいた僕で大事な所を隠したいんだろう? だけどせめて、向きは考えて欲しかったな!

 お互いに正面を向く必要はない筈だ。僕らの身長差だと、ちょうど顔の位置にB子さんの【たわわ】が……!

 

 「ちょっと、Dくん!? また君は美衣さんとエッチな事を……って裸ぁ!? 今回のは度が過ぎてるよ!? やっぱり、一度頭を叩いた方が……」

 

 「緊急事態なの、許してあげて〜。それに、まことちゃんだってブレザーの下は裸じゃない」

 

 「えぇ!? なんでボクまで、ブレザーしか着てないの!? 説明して、Dくんっ!」

 

 

 まことは【裸ブレザー】という特殊な格好をしている。おそらく、子供になった際に他の服を脱いでしまったんだろう。

 とりあえず、君が半裸でいる原因は僕ではないので、どうか拳を納めて欲しい!

 

 え? 僕だけ、しっかり服を着てるから怪しいだって?

 そういえば、どうして──【君は子供になっても身長変化があまり……】

 あ、うん。それ以上は説明不要だ。

 

 とにかく! まことが半裸なのも、B子さんが全裸なのも、全部オメイラガのせいなんだ!

 良く見れば、教室中が半裸パニックに陥っている。学舎にあるまじき光景だ。

 沢山のズボンとスカートが床に散らばっているが、生徒達はそれを回収できずにいる。

 なぜなら、教室を無造作に駆け回るワオキツネザルと──

 

 「こら待てっ! そのバイザーは、女幹部の物だろ!? よこせ、サルめっ!」

 

 「ウキ?」

 

 サルを追いかけ回すヒーローが、床に落ちた衣服を踏みつけている。

 今回の怪人【モンモンα】が自爆した事で、素体になっていたサルが現れたのだ。その手には【オメガバイザー】を持っている。あれ……?

 あのバイザーが残っているという事は、もしやミーア様まで? よく見れば、近くの床に水着やマントが落ちている。ああ、そうだった。僕が覚えている最後の記憶でも、ミーア様の身体が縮んでいってたんだ。

 

 【オメガバイザーは、音や光を遮断できる】

 【でも、ニオイは防げなかったみたい】

 

 なるほど、不測の事態でミーア様まで特殊能力の影響下にあったんだな。

 だけど、そのおかげで目先の窮地は脱せられそうだ。床に落ちてるミーア様セットを、B子さんに着てもらえば丸っと解決だろう!

 

 

 「イヤよー! あんな格好、恥ずかしいわ〜」

 

 「そうだよ、Dくん。変態じゃないんだから! とりあえず美衣さん、このマントで前だけは隠せるでしょ? ロッカーから体操着を見つけて来るから、Dくんを解放してあげて!」

 

 二人とも酷い言いようだなぁ。しいなさんは、あんな恥ずかしい格好を毎回していると言うのに……まあ、まことが機転を効かせてくれたから良しとするか。

 

 僕も解放されたし、教室のパニックも収まりつつある。

 リングリットは、サルを追いかけて何処かへ行ってしまったみたいだ。いつもならば、A子かB子さんが動物を回収しているけど、今回は状況が状況だからなぁ。ワッカがサルに乱暴しない事を祈ろう。

 

 あ、まことが体操着を持ってきてくれた。テスト期間で部活も休止中なのに、よく体操着を見つけられたなぁ。あれ? それ、僕のじゃないか!? そうだ、火曜日は色々と考え事してたから持ち帰るのを忘れてた!

 ダメだって、それは! 体育の授業で使ってから、3日も経ってるんだぞ!?

 

 「緊急事態だから仕方ないの! ボクだって、迷ったケドさっ! 体操着は、コレしか残ってないんだもん!」

 

 「弟くんの服……! わ、わたしに着れるかしら? くんくん」

 

 あの、ニオイを嗅がないでください。きっとサイズも合わないし、無理に着たらトンデモない事になってしまいそうだ。

 さっきからクラスメイト達の視線が痛い……。みんな自分の服を見つけ出したようで、すっかり混乱が収まっているのだ。

 

 ハッ……! そうだよ。B子さんの制服だってどこかに落ちて──

 

 

 「あの……コレですわよね? そちらのお姉様が着てらした制服」

 

 良かった。親切な子が、B子さんの服を届けてくれた。これで万事解決……じゃない!?

 

 

 この子、どう見ても幼い頃のしいなさんだ!?

 

 

─────────

──────

───

 

 

 翌日。

 何事も無かったかの様に、学校は開校している。とはいえ、今日はテスト返却がメインとなるので本格的な授業がある訳ではないのだが。

 昨日の一件を知らないEなどは、朝からテストの点数を気にしている。薄情にも、彼は襲撃から避難した際に、そのまま帰宅してしまったのだ。あの()()を知らずに登校できたのだから、ある意味羨ましい。

 令和では『異変を見つけたら引き返すゲーム』というのが流行っているらしい。できる事なら、僕も今すぐ引き返したい気分だが……

 

 「まことちゃん! 会いたかったですわ‼︎」

 

 「ちょ、しいな……ちゃん。もー、急に抱き着いたら危ないでしょ」

 

 「だって、寂しかったんですもの……抱き着いちゃダメ、ですの?」

 

 「っ‼︎ いい。いいんだよ、しいなちゃん! どんどん、ボクに抱き着いておいで!」

 

 呆気なく、まことが陥落した。『即オチ2コマ』というやつだ。まあ、あれだけ懐かれてるのだから仕方ない。二人の姿を見て、A子とB子さんも苦笑いしている。

 そう。しいなさんは、昨日から子供になったまま戻っていないのだ。今は6歳くらいだろうか? 若干、成長した気もするけれど相変わらず幼稚園児並の小ささだ。

 

 レイワさんの予想では『特殊能力を受けた状態』のまま『呪詛返し』が重なってしまった状況。

 幸い、ミーア様の正体はバレていない。クラスメイトからは、しいなさんだけが怪人の影響を受けたままという認識。なので、むしろ被害者として扱われている。代わる代わるに年上からチヤホヤされて、しいなさんも満足気だ。

 これも、ワオキツネザルが捕まらずに『オメガバイザー』を死守してくれた結果だろう。

 

 

 「ディエゴ〜! ああ、夢ではないのですね! 昨日から一日千秋の思いで、あなたと会える時を待ち望んでおりましたわ」

 

 なぜか彼女は、僕の事を『ディエゴ』と呼ぶ。そして、自分の事を『シーナ』と呼べと強制してくるのだ。まあ、こちらは発音の違いが僅かにある程度だから問題ないのだけど。

 それにしても、一日千秋なんて言葉を6歳児が使うとは驚きだ。萬宮寿家の英才教育だろうか? A子……は、なんだか機嫌が悪いみたいだから、B子さんに聞いてみるか。

 

 「うふふ。この頃のしいなちゃんは、お芝居に憧れてたから〜。きっと、それで覚えた言葉ね」

 

 「ディエゴに近付いたらダメですの! 昨日は緊急事態でしたので、仕方ないですけども。あなたは(わたくし)のメイドなのでしょう? ならば控えて下さいまし!」

 

 「あらあら〜」

 

 シーナさんの雰囲気が、少しだけ刺々しくなった。あ、A子が舌打ちしてる。メイドであることを強制するような態度に、思う所があるみたいだ。確かに普段は、傍目からでも立場を越えた『絆』が見てとれる。しかし、幼いシーナさんにとって、彼女らはメイドでしかないのだろう。

 なんだか見ていられないな。少しだけ提言してみるか。

 

 

 「大丈夫ですわ、ディエゴ。ちゃんと理由があったのですし、そのメイドと抱き合っていた位であなたを嫌ったりしませんわ!」

 

 あ、いや。そういう事を言いたい訳じゃ……

 

 「こら! 美衣さん達はメイドだけど、しいなちゃんのお友達なんだよ? きちんと名前で呼ばなきゃダメでしょ」

 

 「そうでしたの……!? いえ、まことちゃんが言うんですもの、間違いありませんわ。ごめんなさい、美衣、詠」

 

 まことには敵わないなぁ。これでA子も笑顔に……なってない。常に『ジト目』だから判りにくいけれど、どことなく怒っている雰囲気だ。

 シーナさんに対して、何か複雑な感情を抱いてるのだろう。僕には、そういった乙女心がよく解らない──バングルが震えているけど、レイワさんにも繊細な機微など理解できない筈だ。

 

 なにせレイワさんは、子供を騙す『カスの嘘を流し込むお姉さん』だったのだから。昨日、取り調べをして発覚した事実だ。

 令和のAIも、たまに適当な事をさも真実かの様に語るらしいけど……子供限定で嘘を吐いてくるレイワさんの方が悪質だ。AIの改善点は未来の人類へ託すしかないので、せめてレイワさんの手綱くらいは、僕がしっかりと握っておこう。

 

─────────

──────

───

 

 「D。しいな様が子供になったから、あの件は来週に延期」

 

 休み時間。

 不意に現れたA子が用件だけを告げ、そのまま髪を靡かせ去って行った。

 彼女の銀髪は、精霊の特徴が顕在化したもの。そして、僕の髪が明るい色をしている原因も()()にあるのだが……どうやら、もう少しだけ考える猶予ができたようだ。

 

 先日訪れた民俗学の研究施設。その実態は『精霊研究所』だった。

 そこで聞かされた件に関して、僕は()()()()を迫られている。

 中間テストが終わった現在、そちらへ思考を割く余裕が生まれた。

 改めて、要点だけを思い返してみようか──

 

 

 

精霊(ジン)

 フェアリー、モンスター、怪異……国や地域によって呼び方は様々だが、それらは共通して超自然の存在である。現代の科学では解明しきれない神秘。そういったモノを、萬宮寿の研究所では総じて『ジン』と呼称しているそうだ。

 精霊は基本的に実体を持たない。魂のような、触れる事のできない『思念体』なのだ。それ故に、変質し易いという欠点がある。純粋な思念体ほど、移ろい易く、()()()()()()

 

 だから時として、人の想像、恐れ、願望などといった強い『思念』が精霊と結び付いてしまう。そうして明確な『(かたち)』を得た精霊は、この世界への物理的な干渉が可能となるそうだ。

 

 ある時は、火を吹く怪物となって人を襲い。

 ある時は、願いを叶える存在となって、その代償に人の魂を奪い去り。

 ある時は、人と結ばれる事で後世に子孫を残した──

 

 

精霊回帰(ジン・バック)

 精霊と人が交わった系譜から稀に生まれてくる、限りなく精霊に近い特徴を持った人間。

 人としての肉体を有しているが、魂そのものは精霊と遜色のない存在。

 先祖返り、隔世遺伝……それは、生物が世代を重ねる事で起こり得る現象。精霊という超常の存在が関わっている点に目を瞑れば、精霊回帰もそれらと同じ理屈になるそうだ。

 

 

 問題は、僕もその精霊回帰であったという事実だ。

 A子に『白銀童子(しろがねわらし)』という精霊の特徴が現れているのと同様。そういった兆候が僕にも現れているらしい。それも、かなり特殊なケースで──

 

 ああ、だけど姉さんと妹は、さほど問題がない様で安心した。

 この間のスキーの時など、折を見て姉さん達からも『髪の毛』や『口内粘膜』を採取し、検査をしていたらしい。勝手に検査された事には思う所もあるのだが、結果だけを見れば感謝しかない。

 

 そして、僕にだけ精霊回帰の兆候が色濃く出ている原因も特定されていた。

 どうやら『フェチニッチ粒子』なるものを過剰に浴びてしまった事で、眠っていた精霊の因子が呼び起こされてしまったらしい……ん?

 そう言えば『フェチニッチ粒子』という単語に、どこか耳馴染みがあると思っていたんだ。

 思考を整理したおかげで、今ようやく思い出せた。

 

 以前、火鬼崎博士が言っていたあの謎粒子と同じ名称なんだ。

 博士は観測結果から、防空壕にあった結晶体こそが粒子の発生源だと述べていた。

 つまり──

 

 

 全ての原因は『叡智の書』という事だ! 申し開きを聞こうじゃないか、レイワさん!

 

 【まって!? 誤解!】

 【何らかのバイアスがかかってる!】

 

 バイアス……偏見って事か。確かに僕は、レイワさんに対して『ヤベー女』という先入観を持っているのかもしれない。きっと、入浴中に欲情された時のインパクトが強過ぎたせいだ。

 あれ? 普段のレイワさんなら『浴場だけに?』とか下らない事を言ってきそうなのに……おかしいな。

 

 【それも偏見!】

 【君は子供になった時も、偏見がひどかった】

 【ヒーロー=秘密基地がある。とか】

 【野球中継=おじさんが見る。とか】

 

 え。どっちも合って……いや、良く考えれば秘密基地は必ずしも存在する訳ではないな。そもそも、喫茶店が拠点のパターンだってあったんだ。

 そうか。ヒーローに対してのイメージが先行した結果、無意識に視野が狭くなってたんだ。反省しなければいけないな。これからは、もっと広い視野を持とう。

 

 まあ、野球中継に関してはそこまで偏見じゃないと思うけども。

 精々が、おじさんにプラスして『野球部の男子』や『少年野球の子供』が含まれる程度だろう。彼らだって成長すれば『おじさん』になるのだし、視野を広くして考えれば誤差の範囲だ。

 

 【暴論! 令和だと、女性人気もあるから!】

 【()()が流行語になる位、認知度が高いスポーツ】

 【令和5年の流行語大賞なんだから】

 

 なんだ『アレ』って──

 ふーん。兵庫県のチームが、日本一優勝を前にして、選手が緊張しないように『優勝』の事を『アレ』と言い換えていたのか。その甲斐あってか、昭和に達成して以来となる38年ぶりの日本一になったらしい。

 

 あれ? 令和5年……38年ぶり……ここから逆算すれば、西暦を割り出せるのでは!?

 今までレイワさんの断片データでは、令和という時代が何年先の未来か分からなかった。だけど、思わぬ形で答えへと辿り着けそうだ。

 この情報だけでも、昭和と令和の間が30年程度という所まで絞り込める。前回優勝した年が判れば、もっと正確に割り出せるぞ‼︎

 

 えーと、確かフライドチキン店の人形が大阪の川に投げ込まれる事件があった筈。チームが優勝した熱にあてられ、ファンが暴走したんだ。あれは西暦何年だったかな……ダメだ。子供の頃の話だから記憶が曖昧になってる。

 地道に調べるしかないか。まずは野球に詳しそうな人への聞き込みからだな!

 

 

 【途中から目的が変わってるよ?】

 

 うん。話が脱線した気もするけれど……広い視野で見れば一歩前進だ!

 




光速真芯リングリットX
 「精霊回帰(ジン・バック) 今明かされるA子の秘密」の巻
─ おしまい 来週もまた見てね! ─
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。