平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話   作:浅学寺のえる

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── Detective & Assistant and more …

 「Dくん、あのね……ボク見ちゃったかもしれない。女幹部の身体が縮んでいった、あの時!」

 

 まことが急にとんでもない相談をしてきた。

 これは、呑気にプロ野球チームの優勝履歴を調べてる場合ではなさそうだ。

 まさかミーア・クシロンの正体が、こんな所で露見してしまうとは。きっと、身体が縮む過程で服と一緒に『オメガバイザー』も外れて素顔が……

 

 「え? 違う違う。あの幹部の顔も見えそうだったケド、もっと衝撃的なモノを見ちゃったの! ほらあの時、珍しく先生も教室に残ってたでしょ? その先生がさぁ──」

 

 

 安心したのも束の間。小声で耳打ちされた内容は、信じ難いものだった。

 まこと曰く、担任のサトウ先生が爬虫類型の怪人に変身していたそうだ。

 しかし、僕らが子供へと戻って行く中で、彼だけが異形への変化と言うのは……どうにも腑に落ちない。

 

 サル怪人の能力は『子供時代へ戻す』というものだ。その理屈で言えば、サトウ先生の子供時代が爬虫類怪人という事になってしまう。

 さらに言えば『合精霊』の条件とも合致していない。A子達は、動物の体へ魂を移しているだけで、自身の肉体が変化しているわけでは無いのだから。

 人間体から直接変化したとなると、それは──

 

 

 「あ、そんな本気で悩まないで! ボクの言葉を信じてくれるのは嬉しいケドさ……もしかしたら、夢で見た光景かもしれないんだ。あの先生、カメレオンみたいに目がギョロっとしてるでしょ? だからそのイメージが強くて、夢に出てきたのかも」

 

 

 それはそれで失礼な話だ……。

 だけど、先程聞いた怪人の外見もカメレオンの特徴と一致していたな。

 緑色の身体に、ギョロリとした大きな目。舌は長く、頭部には突起のような膨らみ。

 推定カメレオン怪人としておこう。

 フィクションの知識に頼るのは癪だけど、そういった怪人ならば『透明化』できる能力があってもおかしくないな。思い返せば担任は、いつの間にか姿を消している事が多かった。あれは、周囲の風景に擬態していたのかもしれない……だとすれば、まさに今も?

 

 「うーん、気配は感じないよ? 仮に『透明人間』がいたとしても、ボクが感知できないワケないもん。あはは、人造人間はムリだけど!」

 

 これが冗談ではないのだから、恐ろしい。だけど、まことが気配を感じないのならば、先程の考察は的外れだったかもしれない。今日はサトウ先生が体調不良で欠勤しているのもあって、下手に邪推してしまったな。

 

 彼が欠勤した事で、偶然にも手の空いていた理事長が『数学』のテスト()返却してくれたのだ。おかげで一時間目の『世界史』から継続して、萬宮寿イグナが教室に居座る形となってしまった。大方、子供になったシーナさんの事が心配だったのだろう。

 孫には甘いが、僕には厳しい理事長。それなりの点数だったにもかかわらず、僕は二回も小言を食らう羽目となった。

 

 きっと、その時の怨みが無意識にサトウ先生へ向いてしまったのだろう。我ながら『迷推理』をしたものだ。

 うん。カメレオン怪人の件は、まことの勘違いという事で一先ず置いておいて。

 

 そもそも、最初の話題は──

 

 

 「そうそう、野球の話だったね。さっきも言ったケド、ボクらの世代だと子供の頃すぎて正確には分からないんじゃないかな? それで、サトウ先生なら知ってるかもって思って……カメレオンを思い出しちゃったんだ」

 

 そういう経緯だったのか。でも本当に怪人を目撃していたのなら、とても忘れられない光景だと思う。やっぱり、白昼夢の類なんじゃないかな? きっと、テストの疲れが溜まってたんだろう。

 

 

 「忘れてた理由? それはね……子供になる直前に見た光景よりも、元に戻った直後に見た光景の方がよっぽど衝撃的だったからだよ。まさか君が、裸の美衣さんと──」

 

 おっと! ヤブヘビだった。

 

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 放課後。

 土曜日なので、まだ正午前。

 

 まことはシーナさんと一緒に子供服を買いに行くそうで、足早に教室を去っていった。

 僕も誘われたのだが、丁重にお断りした。移動の際の運転手が、現状で最も会いたくない人物なのだから仕方ない。

 ジーナ・九重(ここのえ)・ブーゲンビリアという女性には、謎の『スゴ()』がある。油断したらやられる。僕はこの感覚に既視感があるのだ。そう! これはまるで、萬宮寿イグナに感じている苦手意識のような──

 

 「D、するどい。イグナ様の旧姓も九重。ジーナとは、歳の離れた従姉妹(いとこ)のような……ナニカ複雑な血縁関係」

 

 A子が、あやふやな情報を語ってくれた。

 なんでも、何代か前の『九重家当主』が息子へ家督を譲った後、隠居した先で後妻を娶り新しい家系を築いたそうだ。そういった経緯で、ただの分家とも呼べない微妙な位置付けとなったのがブーゲンビリアさんの家系。紆余曲折あって、現在は一族みなで萬宮寿家に仕えているのだとか。

 

 ん? そう言えば、どうしてA子がここに?

 シーナさん達は、もうリムジンに乗って買い物へ行ったんじゃないのか?

 

 

 「ワタシは、Dの調査を手伝うよう命令された。野球とか、カメレオン怪人とか」

 

 なるほど。シーナさんのお誘いを断った時の口実が、A子を巻き込む要因となってしまったのか……ごめん。一緒に買い物へ行きたかっただろうに。

 

 「別にいい。子供のしいな様、ちょっと苦手。怪人の調査の方がいい。ワタシも気になる」

 

 その件は、まことの勘違いという線が濃厚だけど……レイワさんは、『フラグかもしれない』と言っていた。まあ、原作にサトウ先生が登場したかどうかも、定かでないらしいのだが。

 今回はレイワさんの記憶力がポンコツというより、影が薄すぎて登場シーンがカットされている可能性が高いそうだ。もしそうだとすれば、なんとも不遇な役回りと言える。

 

 A子が調査に乗り気なのだし、念のため野球の件と並行して調べておこうか。その結果、怪人ではないと証明されれば、A子の顔も立つだろう。

 裏付け捜査のようなものだ。オメイラガに属するA子が関知していない時点で、怪人の線はほぼ消えているのだから。

 

 

 「先生を調べるなら、理事長室? あ。イグナ様、留守だった。入れない」

 

 知ってるよ。シーナさんの買い物へ付き合ってるんだろう。相変わらず、孫には甘い。

 しかし好都合。理事長室は、極力足を運びたく無い場所だ。あそこには、嫌な思い出しかない。

 

 「怒られたの思い出した? 美衣に、なでなでされたんでしょ?」

 

 そうだよ! その時に、僕の髪の毛を採取して、検査してくれたんだろう。どうもありがとう!

 おかげで僕のルーツを知ることができたよ。そうそう、嫌いだった牛乳も、無理して飲む必要が無くなって助かったなー。良いこと尽くめだ!

 

 「そう、よかった──? もしかして、イヤミを言ってた? Dは、精霊回帰(ジン・バック)の割に人間らしい。ワタシにも、一般人のコツを教えて」

 

 ごめん……A子に当たっても仕方の無い事だったよ。

 前にA子は、僕を指して『一般人の見本』と言っていたけれど──それは、レイワさんのおかげなんだ。善意と悪意、好意と嫌悪、怒りと哀しみ、喜びと……。人間には表裏一体の感情があると身を以て理解できたから、僕は『純粋』でいる事を辞められたんだ。

 

 だけどそれは──

 『子供』という特徴が顕在化した僕らにとって、幸せな事かどうかは判らない。

 

 

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───

 

 

調査①──職員室

 

 放課後の職員室は、テストの採点中につき生徒の入室が禁じられていた。

 しかし、偶然廊下で出会った姉さんのクラス担任、タナカ先生から話を聞く事ができた。彼女の担当教科は『体育』なので、今回の採点には関わりがないそうだ。

 

 話を聞いた所、どうやらサトウ先生は昨日の放課後から音信不通となっていたようだ。

 本日返却されたテストも、急遽別の先生達が採点を行ったものらしい。その皺寄せで、現在の職員室にピリピリとした空気が漂っているのだとか。

 

 担当する教科も学年も違うタナカ先生からは、これ以上の情報は出てこないだろう。最後に、野球の件を聞いて別の場所へ移動しよう──

 

 「木嶋の弟、よく覚えておきなさい。大人の世界には暗黙のルールがあるんだ。『宗教』と『政治』と『野球』の話を、職場に持ち込んではいかん! 何が火種になって、争いが起こるか判らんからなぁ」

 

 恐ろしいなぁ、大人の世界って……。

 

 

 

調査②──校長室

 

 市立から私立となった我が校には、理事長と校長が別々に存在している。

 現在も市立時代と同じ人物が、校長を務めている。彼は萬宮寿家に引き抜かれた最初の教員らしい。

 

 真っ先に鞍替えをした校長は、他の教員への交渉を一任されたそうだ。そして、サトウ先生を含め多くの教員が私立へと引き継がれる流れとなった。

 校長はその時の貢献を買われ、再来年度──つまり僕らが卒業した後に、理事長職を引き継ぐ事が内定しているそうだ。A子が、そんな裏話を教えてくれた。これも大人の世界の恐ろしい部分だろう。

 

 それ故に、A子が萬宮寿家の権力を仄めかす事で、スズキ校長から円滑に話を聞く事ができた。

 

 

 最初に驚いたのは、サトウ先生が、()()()先生では無かったという事実。

 本名は(ひだり)藤夫(ふじお)

 先程、無断欠勤に関して校長が直々に問い合わせた所、電話に出た借家の大家さんの口から本名が発覚したそうだ。

 だけど、単純な登録間違えという話でもないらしい。教員免許にはしっかりと、左藤(さとう)(ひこじ)という名義で記されていたのだから。

 

 そして、校長が教育委員会へ問い合わせた所……ヒダリでもサトウでも、そんな人物は登録されていないと返答があったそうだ。

 

 

 「免許偽造。これは由々しき事態。イグナ様に報告──」

 

 「待っとくれー! それだけは……! わしの老後ウハウハ計画がっ‼︎」

 

 なんとも世知辛い場面だ……。A子が『萬』と彫られた『印籠(いんろう)』を掲げることで、口の軽くなった校長。そのせいで口が滑り、今度は印籠に平伏する羽目となっている。まるで時代劇のようだ。

 だけど知らなかったとは言え、免許を持たない教員を雇用していたという事実は問題だろう。私立の教員でも、確か免許は必要だった筈。

 

 「す、既に手は打ってあるっ! ほれ、この貼り紙を見なさい」

 

 校長の手には『求ム、教員。緊急募集‼︎』と書かれたポスター。手書きで作ったとても雑な物だが、それが逆に緊急性を如実に訴えている。まあ、だからといって直ぐに応募してくる人間は居ないと思うけど。現在、教頭先生が街中にポスターを貼り回っているそうだが、無駄足だろう。

 

 「いや、実はもう連絡がきとってな。そろそろ面談の時間が──おお、来たぞ」

 

 驚いた。あのポスターで本当に人が来るなんて。

 20代中盤の女性がやって来た事で、僕らは退室を余儀なくされてしまった。その際に、小学生の学校見学と間違えられた僕らは怒っても良かったのだろう。だけど、勢いに押されて飴玉をもらってしまったので何も言えなかった……。

 あの人が雇用された場合、僕らの担任も引き継いでくれるかもしれない。小学生という誤解は、その時に解けばいいだろう。

 

 「この飴おいしい。それに、ぜんぶ解決してよかった」

 

 うん。全部解決……って、たとえ新任教師が決まったとしても、無免許の教員が授業をしていた事実は変わらないのでは?

 

 そもそも、僕らの目的はカメレオン怪人の正体を暴く事だった筈‼︎

 

 

 

調査③──コンピューター室

 

 調査を継続してやって来たのは、僕の古巣でもあるパソコン部の部室。

 サトウ先生もとい、左氏はこの部の顧問でもあったのだ。滅多に姿を現さない顧問だったが、何かしらの痕跡が残っているかもしれない。

 部室の鍵は空いている。テストが明けたばかりなのに、既に活動しているようだ。う、いざとなったら入りにくいな……。知っている顔がいても、知らない顔がいても気まずいぞ。

 

 あ、A子! 扉を開けるのは待ってくれ‼︎ まだ心の準備が……!

 

 

 「誰かいる? Dがやってきた。話を聞かせて」

 

 「なんスか藪から棒に……ってパイセン!? あたしを捨てたパイセンじゃねーっスか‼︎」

 

 うわぁ。一番面倒なヤツが居た。

 中学時代から続く唯一の後輩、タカハシ。相変わらず騒々しい。部室には僕ら3人しか居ないと言うのに、どうしてこんなに喧しいのか──あれ? そう言えば、他の部員は?

 

 「みーんな幽霊部員っスよ。パイセンが辞めたせいで、PCを教えられる人間が皆無っスからね! もはやここは、あたし専用ルームと化したっス」

 

 いや、その理屈はおかしい。僕よりも、タカハシの方がPCに詳しいだろう。確かに、後輩を残して辞めた僕にも落ち度はあれど、教えられる人間が誰も居ないとは言い過ぎだ。

 

 「はぁ〜、これだから無自覚系は。いいっスか? 元々、二年と三年は幽霊部員しか居なかったっスよね? んで、一年はあたし含めて10人程居たっスけど……なんと、全員がパイセン目当てで入部してたんスよ‼︎ それがなんスか、幼女を連れてあたしに会いにくるなんて。ヒドい当て付けにも程があるっス!」

 

 僕の教え方は、そんなに好評だったのか……。

 だけど、僕は次世代機が販売されるまでPCから離れる事に決めたんだ。

 この部屋に並んでいるPCに未来は無い。インターネットの普及に伴い、旧型として歴史に埋もれて行く運命なんだ。僕も愛着のある機種だから、とても哀しいけれど……未来で発展する新技術が楽しみでもある。

 そう言った観点からも、令和時代が何年後にやってくるのかを正確にしておきたい所だ。

 

 あと君たち、良い加減ケンカをやめなさい。A子も年上なんだから、少しは後輩を大目に見てあげてくれ。

 

 

 「……わかった。見た目の割に弱かったから、許してあげる」

 

 「なんスかそれー! って言うか、幼女さん先輩だったんスか!? でも、偏見っスよー! あたしを見た目で判断するなんて‼︎」

 

 それはお互い様だろう。タカハシは、健康的な日焼け肌。髪型は快活な印象を与えるショートカットで、手脚もすらりと長い。見た目だけなら、いかにもスポーツが得意そうな女子だ。

 だが、実際は運動が全くできない。典型的なインドア趣味で、スキーをやった事も無ければ、泳ぐ事もままならないのだ。

 

 「それはパイセンも一緒っス。()()()の時も、()()の時も、あたしと一緒でパソコンばっか触ってたんスから!」

 

 「その言い方。中学生の頃も、Dの後輩?」

 

 「そうっスよ! あたし達は転校する先々で運命の出会いをして来たんス! いわゆる『昔のオンナ』枠。それがあたしっスね! 新参者の幼女先輩より、ずーっと長い時を共にしてきた仲なんスよぉ!」

 

 ああ、A子は僕と幼稚園からの付き合いだから。

 そんな事より、本題へ入ろう。顧問のサトウ先生について、最近変わった事が無かったか知りたいんだ。

 

 「……相変わらずドライっス。滅多に顔を見せない顧問よりドライっス。そういや、パイセンが辞めてから顧問は一度も見てねーっスね? かれこれ1ヶ月も放置っスよ。そのおかげで、あたしの天下なんスけどね〜!」

 

 嘘だろ……これだけ精神的に疲労したというのに、収穫ゼロなのか。

 

 

─────────

──────

───

 

 

 A子からの提案で、左氏の住居を訪ねてみる事にした僕ら三人。

 いつの間にかタカハシも同行する流れとなり、学校から程近い場所にある借家へと赴いた。だがそこは、半ば予想していた通り『もぬけの殻』だった。

 調査に行き詰まった僕らは、近くの喫茶店で少し遅めの昼食をとる事としたのだ。

 

 

 そして、ここでの何気ない雑談が、もう一方の調査に進展をもたらした。

 切っ掛けは、タカハシが幼い頃から日本各地へ転校を繰り返していたという話題から。

 彼女が関西で暮らしていた事もあると判明し、詳しく聞いてみると……その時期は、丁度例のチームが優勝した年だった。幼いながらも、スーパーマリオブラザーズが発売された時期と重なるのでよく覚えていたそうだ。

 つまり昭和60年。西暦にすれば、1985年。

 

 この情報を得られただけで、喧しい後輩の話に我慢して付き合った甲斐もあったと言える。まさに玉石混交。掃き溜めだろうと、待っていれば鶴がやって来る事もある。

 

 

 「それって、褒めてんスか? まー、こうやってメシ奢ってくれたから文句はねーっスけど!」

 

 「むー。カメレオンは謎のまま。報告できない」

 

 そちらは仕方ない。これ以上は、僕らの手に余る一件だ。

 怪人かどうかを見極めたいのに、本人が失踪してしまったのだから確かめようがない。

 姿を消すという点だけは、まさにカメレオンの様な人だった──と、報告すればいいだろう。

 

 「そんなトンチじゃ、しいな様は納得しない。でも『ディエゴ』の報告なら、納得するかも」

 

 「なんスか、ディエゴって。パイセンの昔のあだ名っスか!?」

 

 タカハシが詰め寄って来る。昼食くらいは、静かに食べて欲しいものだ。

 待て、僕の中学時代のあだ名をバラすんじゃない。その『昔のオンナ』マウントを今すぐ止めるんだ。どうやってもA子の方が付き合いが古いのだし、虚しいだけだろう。

 タカハシは精々、『おもしれー女』枠だよ。あ、この枠も埋まってたからやっぱり無しで。

 

 「他にもオンナの気配がっ!? あたしより、おもしれー女はいねーっスよ!? おもしろエピソード、語っちゃいますよ? パイセンの過去話、ここで語ってもいーんスかっ!?」

 

 「D。しいな様へ報告、頼める?」

 

 「ちょ!? 無視しねーでほしいっス!」

 

 ああ、僕から報告するのは構わない。あとで電話して──え? 直接会わないと納得しない?

 困ったな……現在のシーナさんの周囲には、鉢合わせしたく無い人物が二人も居るのだけど。

 月曜日に学校でという事には、できないだろうか?

 

 「無理。今のしいな様はワガママ──でも、いい目眩しを見つけたかも」

 

 「ふぇ? なんで幼女先輩、あたしを見てるんスか?」

 

 

 A子が思いついた代替え案とは、僕の過去話だそうだ。

 タカハシがベラベラと喋った内容をシーナさんへ報告すれば、カメレオン怪人の件など忘れ去ってしまうとの見立てらしい。どうにもA子は、子供になったシーナさんに対して悪感情を抱いているようだ。

 まあ今回は僕のワガママが原因なのだし、それでA子が咎められずに済むのなら構わない。

 タカハシが脚色をしたら、その都度修正を入れるので存分に聞き出してくれ。

 

 

 「おやおやぁ? これは同意と見てよろしいっスね!? では、古きよき時の話を語りましょー。Long Long a(むかし むかし)go ……まだアタシがパイセンより背の低かった時代──」

 

 わずか3年前の出来事を誇張表現し、タカハシ──髙橋うるちが語り出す。

 

 

 僕が中学生の頃、北海道で暮らしていた話。

 ん? スキー経験が無かった事が意外?

 別に北海道在住だからと言って、誰しもがスキーを習熟してるワケでも無いんだ。僕が二年間通っていた中学校は、それほど雪の積もらない地帯だからスキー授業など無かったのだし。

 母さんの実家も平地にあったので、祖父と祖母もスキーをやった事が無いと言っていた位だ。だから妹が瞬時に『白銀・胡蝶乱舞』をものにした時は驚いたよ。あれは血筋など関係なく、ただ妹に才能があっただけなんだ。

 

 「なんスか、白銀・胡蝶乱舞って!? カッケーっス! それにパイセン、妹がいるんスか!? おねーさんがいるとは聞いてたっスけど。まさか妹までいたとは……! チッ、あたしがその枠狙ってたのにっ」

 

 君のような喧しい妹は御免だ。それより、話を先へ進めてくれ。

 僕が中学三年の頃、沖縄で暮らしていた話へ。

 

 え? その前の三月に、いったん地元へ戻った時に見た『姉さんの悲惨な場面』はいいのかって? それは僕の話じゃないだろう。それにしても、姉さんが巨大ロボで大損した話なんて、よく覚えていたなぁ。

 

 「パイセンが笑い話として、沖縄で話しまくってたんスよ? 島中、みんな知ってんじゃねーっスか? きっと、おねーさんが沖縄へ行ったら大変っスよ!?」

 

 

 補足すると、姉さんと妹はずっとこの土地で暮らしている。両親の都合で、僕だけが中学の三年間を北の大地と南の島で過ごしたのだ。

 とは言え、長期休暇の際は地元へ帰って来てもいた。それで中学二年の冬休み、姉さんが大枚を叩いて買った『DXな巨大ロボ』を自慢され……春休みに帰省した際、極端な値崩れを前に放心している姿を目撃する羽目となった。

 

 そして新年度からは、父親の実家へ。沖縄の小さな島で一年間過ごす事となる。

 

 最初に驚いたのは、北海道での後輩タカハシが、沖縄でまで後輩だった事だ。その上、今年から高校まで一緒なのだから恐ろしい。早く『ストーカー』という概念を、世の中へ定着させて欲しいものだ。

 

 「パイセンと運命的な再会を果たし、あたしはクーラーの効いた部室でPCライフに浸ってたんス。コバルトの海になど一切目もくれず! パイセンと一緒に、冷えきった部屋で肌をこすり合わせながらプログラミングしてたんスよぉ!」

 

 「D。えっち。異常せーへき!」

 

 ち、違う! 馬鹿な後輩が、冷房を極限まで下げて低体温症になりかけてたから、人命救助で肌を摩擦しただけだ。その状態でもプログラミングを止めなかった方が、よっぽど異常者だ!

 そんな事件があったせいで、僕らは半年間の部活動停止となったのだ。あの離島で唯一の文化的空間を取り上げられ、タカハシは自作のパソコンを作るなどと言い出した。暑さで、脳が溶けていたのだろう。

 

 僕はそんな後輩を無視し、父方の祖父から『ティンベー・ローチン』を教わったりしていた。琉球古武道の一つだよ。幼い頃に萬宮寿流を少しだけかじっていたおかげで、盾と棒の扱いには心得があったんだ。僅かな期間だったけれど、多少はものにできた筈だ。

 あ、まことには内緒にしておいてくれ。羽吹流の人間に武器を使った事がバレたら、とんでもない目に合わされてしまう。

 

 あとは……おおよそA子も知ってる流れだと思う。笛壱にパソコン部がある事を知って受験を決め──

 

 

 「だいたい分かった……よし、っと」

 

 「字ぃ綺麗っスね、幼女先輩。パイセンの歴史をノートに書いて発表するんスか?」

 

 「そう。ワタシは読むの下手だから、美衣に朗読させる」

 

 A子が書き上げた文章は報告書の形を保ちつつ、要所々々で物語性を感じさせる代物となっていた。軽い気持ちで色々と喋ってしまったけれど、これをシーナさん達に知られるのは……少し気恥ずかしいな。

 

 取り敢えず、タカハシと冷房のくだりだけは添削しておこう。

 

 

─────────

──────

───

 

 

 昼下がり。A子を駅まで送って解散となった。

 

 僕はこのまま自転車での帰宅。タカハシは家が近所にあるらしい。

 この春から一人暮らしを始めた彼女は、ようやく転校の心配なく学生生活を過ごせている。僕も少しだけだが気持ちは分かる。家庭の事情は人それぞれだ。タカハシの事情や、九重家の複雑な事情と比べれば、僕のケースもそう特殊な事ではないのだろう。

 

 

 「さて! 今日こそ、あたしの部屋へパイセンを連れ込むっスよ。あーっ! 自転車で逃げるのは卑怯っスよー! 話だけでも聞いてー! 自作PCが、ついに完成したんスよー!?」

 

 自作PCと聞いてしまった以上、確かめずにはいられない。ジャンクパーツを買い漁って組み立てているのは知っていたけれど、まさか本当に完成させてしまうとは!

 

 

 

 そのままアパートの一室へと招待され、実物を目にする。

 だが、不恰好な上に巨大すぎるPCを前にして、僕は思わず息を呑んだ。

 狭い部屋の三分の一が、ジャンクPCに占領されてしまっているのだ。排熱用のファンなんて、昭和の扇風機を流用している。これでは場所を取りすぎだろう。

 

 「そうなんスよー。あたしの『オペレーティング・システム』をジャンクパーツで動かそうと色々積んで組み立ててたら、こんな事にぃ。そこで相談なんスけど──」

 

 

 なるほど、そういう魂胆だったのか。

 

 A子との会話から僕とシーナさんの関係性を知ったタカハシは、どうやら萬宮寿家に渡りを付けてもらいたいらしい。金銭目的というわけではなく、研究者としても名高い『萬宮寿シグマ』氏から知見を得たいそうなのだが──いくらなんでも無理難題だ。

 自信があると言った『OS』は、確かに凄い可能性を感じさせる代物だった。しかし、ただの高校生が日本トップ企業の総帥と、いきなり対面するというのは──

 

 「そこを何とか! パイセンお得意のジゴロテクで、お嬢様をたらしこんで……あーっ! 冗談っスよー! だから無言で帰るのやめてほしいっス! あたしにはパイセンだけが頼りなんスよ。それに、言うこと聞いてくれないなら──噂の()()()先輩に、沖縄でのことバラすっスよ?」

 

 どうやら、僕はスズキ校長と同じ轍を踏んでしまったようだ。口は災いの元。まさか可愛がっていた後輩に、弱みを握られ脅迫されてしまうとは……!

 

 「嘘っス! あたしがパイセンの身長を抜いた中二の夏から、可愛がられた記憶がねーっスから! さあ、覚悟を決めるっス。あたしに、シグマ博士とのコネを作るか……この場であたしに襲われるか……二つに一つっス!」

 

 急に選択肢を替えるんじゃない。

 だけど、おかげでいい手を思い付けた。気に入らない選択肢しか無いのならば、横紙破りをしてしまおう。都合よくタカハシの希望に沿った上で、僕にも可能な手立てがあるのだから。

 明日は、バングルのメンテナンスで呼ばれているんだ。博士は博士でも、火鬼崎博士を紹介してあげようじゃないか!

 

 「……マジっスか? シグマ博士が『Dr.ワイリー』なら、火鬼崎博士は『Dr.ライト』っスよ!? パイセンのコネクション凄すぎなんスけどー!?」

 

 分かりやすい例えだなぁ。世間的にもライバル関係を公表している二人は、まさにロックマンシリーズの両ハカセに例える事ができる。

 まあ、火鬼崎博士の実態は『エロジジイ』なのでライト博士とは程遠い人物なのだが。タカハシも女の子だから喜ばれるだろう。ギャル風な服装で行けば、尚良しだ。

 

 

 

─────────

──────

───

 

 

 

 メンテナンスも終了し、今は週が明けた月曜日の朝。

 呪詛返しから、70時間ほど経過した現在。

 果たして、シーナさんはどうなっているのやら──

 

 

 「馴れ馴れしいですわね、羽吹まこと。周りの方から、貴女とお友達だと思われたら恥ずかしいですわ。どこか目に付かない所まで離れてくださらない?」

 

 「なっ、なっ……!? あの可愛かった『しいなちゃん』が! どうして、こんな生意気な子供に!?」

 

 10歳程度まで成長したシーナさんが、私立小学校の制服を着て登校してきた。黙ってさえいれば、気品あふるるお嬢様といった佇まいだ。

 そんな彼女が、まことへ辛辣な言葉を浴びせ、狼狽えた姿を眺めながら高笑いを上げている。なるほど、ミーア様の性格はこの時代に形作られたのか。

 小学生の頃はワガママだったと聞いていたけれど、これは想像以上だ。A子とB子さんも、だいぶ疲れた顔をしている……僕も身構えていた方が良さそうだな。

 

 

 「ディエゴ〜! ようやく会えましたわね‼︎ 昨日は、何度もあなたのお家へ出向こうとしましたのに……美衣と詠が邪魔をするんですのよ!? それに今朝など(わたくし)の代わりにジーナが登校するなんて、意地悪なことを言ってきましたの。信じられませんでしょう!? ですので『私はそんなオバサンじゃありませんわ』と言ってやりましたの! うふふ、あのジーナがショックを受けていて面白かったですわー」

 

 そ、それはまた難儀な事で……とりあえず、20代中盤の女性を『オバサン』と呼ぶのは止めた方がいいよ。

 さっきから、バングルが今までにない震え方をしている。レイワさんも動揺してるのだろう。この事実から、ある程度レイワさんの年齢も割り出せそうだが──止めておこう。武士の情けだ。

 

 

 「きゃあ!? ディエゴー、助けて下さいまし! 羽吹()()()がイジメるんですのー‼︎」

 

 「むきーっ! もう許さないぞ、()()め‼︎ Dくん、どいて!」

 

 ちょっと目を離した隙にトラブルを巻き起こす子だなぁ。

 ほら落ち着いてくれ、まこと。子供相手にそんな本気で怒らなくても……って、激昂し過ぎて話が通じないっ!?

 一体、何をしたんだシーナさん!?

 

 「何もしてませんわ! とまこより、私の方が発育がいいと……親切に事実を教えてあげただけですのよ?」

 

 それが親切だって? 火を見るより明らかな非があるだろう。

 嗚呼もう。どうしてこの子は『地雷原でタップダンス』を踊るようなマネを……‼︎

 

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