平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話   作:浅学寺のえる

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#12 令和の叡智/時間停止回 ②

 時間停止という非日常。

 そんな中で、たまたま出会えた日常の顔ぶれ(クラスメイト)

 本来ならば情報共有を優先するべきだろう。各々がここへ至るまでの経緯を明かし、現状を打破する為に力を合わせるべき場面なのだ。

 

 しかし、男子が二人。女子も二人。何も起こらない訳も無く──

 

 

 「(わたくし)、変態の方と会話をする口は持ち合わせておりませんの」

 

 

 早くも、男子1。女子2+男子1のグループに別れてしまった……。

 シーナさんが、ワッカとの会話を完全に拒んでしまったのだ。どうやら、まことに狼藉を働いた件で相当ご立腹らしい。その光景を直接目にしたA子も、ワッカに対して当たりが強い。

 僕とて、彼を庇う気はない。『ラッキースケベ』だったと弁明されて、納得できるものか。

 よくよく考えると、羽吹道場への現れ方も怪しい。僕らの家の立地上、途中の道で出会わない筈がないのだ。

 そうか! 僕が道場へ寄ったあの時、何処かにワッカが隠れていたんだ。

 

 

 「ちげーよ!? 学校の方で何か光ったから、そっちを先に見に行ったんだ! 全部誤解なんだって。俺が、まことちゃんに酷い事するワケないだろぉ‼︎」

 

 「さあ、行きますわよディエゴ。その『()()』は、我が校を示しているのでしょう?」

 

 

 ワッカの弁明に耳を貸さず、シーナさんが先導する形で外へと出て行く。玄関の扉も、履き直した靴も、当然の様に()()。どうにも固定された物体と、されていない物体の境界線が曖昧なのだが……その理由も学校へ行けば判明するだろう。

 

 外は変わらず、紫色の空。後方から離れて着いて来るワッカの顔が朧げとなっている。

 まさに黄昏時──そして『逢魔時(おうまがとき)』でもある。

 仄暗く、妖しい色彩を放つ空は怪異魔物を連想させる。そう言った存在と遭遇する時刻を指す呼び名だ。

 まあ僕もA子も『魔』に近い存在なので、主観からすると『逢人時(ほうじんどき)』とでも呼ぶべきか。これから、ある人物の元へ向かうのだから強ち間違ってもいないだろう。

 

 

 「むー、暗号の意味わからない。D、どうして『4→2』で、学校?」

 

 暗号の書かれたCDケースを手にしたまま、悩み続けているA子。あれは、僕の自宅に残されていた物だ。

 そもそも僕は、忘れ物を回収しに一度帰宅した。そこで偶然にも友人らと合流できたのだが──当初の目的であるバングルがどこにも見当たらなかったのだ。

 代わりに収納していた筈のCDがテーブルの上に置かれており、ケースの表面には暗号の様なものが記されていた。

 内容は至ってシンプル。赤い文字で『4→2』と書いてあるのみ。

 

 

 「この文字は、口紅で書かれていますのね。くちべに……学校……あ! 私も閃きましたわ。口紅は音読みで『口紅(こうこう)』、つまり『高校』という意味ですのね‼︎」

 

 「さすが、しいな様。かしこい」

 

 いや、それだと『4→2』の意味が不明だけど……答えは合ってる。流石、シーナさんだ。

 

 おそらく、口紅を使用したのは『血』を連想させる目的だろう。この暗号は、本来ならば僕にだけ解ける形で残されたメッセージ。彼女らが、文字の示す意味を理解できないのは当然なのだ。

 しかし、暗号の発見で『第三者が存在する』という事実が共通認識となってしまった。最早、僕一人で会いに行く事は不可能だろう。

 

 ()()が待つ学校──さらに言えば、2年C組の教室へは全員で向かう事となる。

 

 

─────────

──────

───

 

 

 「これは……! ジーナの愛車ですわね。ですが、どうしてこの様な場所に?」

 

 

 僕の家から5分ほど歩けば、萬宮寿家の私道へと出る。学校への直線道路。私有地だが、笛壱に通う生徒ならば登下校時の利用を許可されている。

 その道路に、最早お馴染みとなった『フィアット500』が停車している。()()、中に人は居ない。ドアも施錠されておらず、普通に開く。どうやらこの車も、時間停止の影響を受けていない様だ。

 

 

 「ワタシがお屋敷から乗ってきた。がんばって運転した」

 

 「また貴女は勝手に……ですが、私有地ならば問題ありませんわね。むしろ移動手段の確保はお手柄でしてよ、詠。わざわざ屋敷まで戻ってもらった甲斐が──そうでしたわ!? 私とした事が、すっかり報告を聞きそびれておりました。屋敷の……美衣の状況はどうでしたの?」

 

 「全員、停止してた。美衣も──」

 

 

 どうやらA子は、一人で萬宮寿邸の様子を見に行っていた様だ。本来、シーナさんと合流した際に報告すべき事柄だが、ワッカの件があったので仕方ない。

 僕が場にいる事で、彼女らは『オメイラガ』の案件を伏せて会話している。しかし、シグマ博士の表の顔『オメガIII財団』にとっては僕も関係者。そんな僕に対して、彼女らは言葉を選びながら()()()()の失敗を教えてくれたのだ。

 

 やはり、今回の事件は『オペレーションβ』による影響だった。僕の読み通り、危機への対抗策として『停止』に特化した能力を試した所、世界の時間が停止してしまったという話だ。

 細部はボカされたものの、精霊回帰としてB子さんが関与した件と、計画主導者のシグマ博士が停止に巻き込まれた件を教えてもらえた。裏の事情も一部知っている僕ならば、足りない部分を補足できそうだ。

 

 

 流れとしては、おそらくこうなる。

 今回は『統合精霊』の能力と大きく異なっているので、お馴染みの『合精霊』が作戦の要。

 動物と、B子さん、停止に関する道具の三位一体。こうして生まれた合精霊の能力が、予想を遥かに超える出力を持っていた。

 そして事が起こり、計画の失敗に気付いたシーナさん、A子、B子さんの三人。シグマ博士に知恵を借りられない状況で、彼女らが取れる手段は少ない。能力の解除を試み『自爆』を選んだのだろう。ワッカが目撃したという学校方面から南へ向かった光こそ、B子さんの魂なのだ。

 

 だがB子さんの決断も虚しく、事態は解決せず時間は止まったままだった。

 残された二人は、手分けして調査を開始。A子は屋敷へと戻り、シーナさんは僕の家へ。その後、A子は車を確保し、羽吹道場でワッカを発見し、そのまま彼を僕の家へと引きずって来たのだ……あれ? A子だけ移動時間と距離がおかしくないか!?

 ワッカが光を目撃したタイミング。シーナさんの徒歩移動。諸々考えると、A子は学校近辺から萬宮寿邸へ向かった事になる。やっぱり、移動時間が早すぎる。たとえ最初から車を利用したとしても、間に合わない計算だ。

 瞬間移動? あるいは、時空間の乱れ? うん、時間停止した世界だ。十分あり得る。

 

 

 「ぷぷっ。時空間の乱れって……D、子供みたいな発想。屋敷へは『リニアモーターカー』で帰っただけ。あれは速い──」

 

 いや、事実の方がよほど信じ難いけれど!?

 まさか、この一本道の地下にリニアが走っていたとは……! てっきり、無駄に長いリムジンの為の道だと勘違いしていた。巧妙なカモフラージュだ!

 ん? そうまでして秘匿している事実を、ここで話してしまって大丈夫なのだろうか? まだワッカは車外だけど、僕が知っていい情報とも思えないぞ。

 

 

 「ディエゴならば構いませんわ。オペレーションβが失敗した以上、残された手立てはオペレーションαだけですもの。その時が来れば、あなたに()()をお伝えするのですから」

 

 全て。そう発言した時、シーナさんは覚悟と不安が入り混じった表情をした。

 彼女の不安は、この場で僕が事情を明かせば簡単に解消できるだろう。ミーア・クシロンという裏の顔を知った上で、僕は彼女の力になりたいと思っているのだから。

 しかし、今はそれが叶わない。

 

 なぜなら──

 

 

 「ぜぇ、はぁ。やっと追いついたぞ‼︎ 俺も乗せてくれっ、4人乗りの車だろー‼︎ スネ夫みたいなイジワルするなよぉ!」

 

 屋根(ルーフ)によじ登ったワッカが、天井窓(サンルーフ)を叩いてくる。

 初めから置いていく気などなく、彼が来るまで発進せず待っていたのに散々な言われようだ。

 それに助手席を空けてあるのだから、普通にドアから入ってくればいい。上から入っていいのは、十三代目 石川五ェ門だけ……って、言ってるそばから無茶をするな! ワッカが無理やりサンルーフから侵入し、前方の座席にいる僕へのしかかって来た‼︎

 

 やめろ! 無理に動かれると、僕のシャツがはだけて──

 

 

 「うおっ、おい暴れるな! 狭いから、変な体勢に……‼︎ んぐっ、むぐー!?」

 

 ひぁっ!? シャツの中に頭を突っ込まないでくれっ!?

 僕に対して『ラッキースケベ』を発動させるんじゃない‼︎ 需要がないだろう、ごく一部にしかっ! まったく、レイワさんは惜しい事をしたなっ!

 

 「ディエゴ。混乱する気持ちも分かりますが、ドアを開けてスペースを確保すれば良いだけですわよ? ──はぁ、今の光景を見て火鬼崎ワッカの証言に信憑性が生まれてしまいましたわ」

 

 

 思わぬ形で、まことの件での誤解が解けた。僕も大きな犠牲を払った甲斐があると言うものだ。いや、やっぱり代償がデカ過ぎる。混乱するワッカに、ヘソまで舐められたんだぞ!?

 あとワッカはいい加減、恥ずかしがるのを止めてくれ! 顔を赤らめるんじゃない。男子相手に、そこまで照れる必要はないだろ。

 

 「いや、その……お前ってさ、お前のねーちゃんにソックリじゃん? なんつーか、背徳感が……」

 

 「D、いいから発進して。それとも、運転できるって話はウソ?」

 

 いきなり『エンスト』をしたA子よりも上手いと断言できる。沖縄で父から運転の仕方は教わっているんだ。私有地で車を乗り回した経験だって、A子より多いだろう。

 うん。ギアチェンジも問題ない。あとは、歩行者の居ない直線道路を進むだけの快適なドライブだ。ワッカのせいで、後部座席の女子二人が微妙な雰囲気を醸し出しているが……快適なドライブだ。

 

 車内の気まずさに反して運転は順調。まもなく私立笛壱高等学校へと辿り着く頃合いとなる。

 

 

─────────

──────

───

 

 

 

 「やあ、早かったね名探偵クン。あの程度の暗号では、物足りなかったかな?」

 

 

 2年C組の教室。教卓に腰掛けた女性が、僕らへと語り掛けてくる。

 なんとも演技がかった言い回しをするスーツ姿の女性は、見たところ20代前半。

 セミロングの茶髪を束ね、短いポニーテールを作っている。服装はともかく、化粧と髪型は平成のトレンドではない。まるで時代から切り離されたような、どこか浮世離れした印象を僕へ与えてくる。

 

 「おや、熱い視線だ。お探しの物は()()かい? ふふ、そう焦らずとも全て説明してあげるよ」

 

 

 意味深な笑みを浮かべ、板状になったバングルを指先で回す女性。やはり、彼女は──

 

 

 「なんですの、この方は! ディエゴとは、どのような関係でして!?」

 

 「不法侵入。笛壱高校は、萬宮寿家の管理下。ワタシが排除していい?」

 

 「お前、大人のお姉さんにまで手を出してたのかよ!?」

 

 シーナさん、A子、ワッカが好き勝手な事を言う。

 ああ、女性が黙ってしまった。複数人でやって来る事を想定していなかったのだろう。

 先程も、僕が一人で来る事を前提にした物言いだった。きっと、予めセリフを用意していたのだ。

 それ故に、アドリブが効かない。

 顔を赤らめた女性は、肩を振るわせ……ついに本性を現した。

 

 

 「あーもうっ! なんで『同行(アカンパニー)』で来ちゃうかな!? ちゃんと『磁力(マグネティックフォース)』で来るように、D君専用の暗号まで作ったのにぃ! 折角の『謎のお姉さんムーブ』が台無しだよ‼︎」

 

 

 この残念さ。間違いなく()()()()()だ。

 彼女の言い回しに倣うのなら『受肉した』レイワさんと言った所か。

 まあ、例の暗号でとっくに正体は判っていたのだ。あれは、レイワさんと僕の間でのみ通じる内容なのだから──

 

 

 CDケースに書かれた『4→2』

 数字の意味は、僕が鼻血を出した回数だ。正確には、レイワさんの知識を大量に流され、脳が負荷に耐え切れず鼻血を出した回数。

 一度目は、叡智の書へ触れた瞬間。

 二度目は、この教室で柴犬怪人を見た瞬間。

 三度目は、CDショップでアルバムへ触れた瞬間。

 そして四度目が、自宅でCDへと触れた瞬間だ。

 

 その時のCDに赤い文字で『4』と書かれていれば簡単に想像が付く。CDの置かれた自宅が4を示す場所。そこから『2』へ移動しろというメッセージだ。

 

 

 「あ、チョット待って! 怪しい人じゃないからっ!? 黄胡蝶流はやめて〜っ!」

 

 ともかく、このままでは埒が明かない。全てを話してもらうにしても、主人公と悪の女幹部が共にいては難しいだろう。

 

 A子に排除されかけている彼女を助け、一先ずこの場から退散しよう。

 

 

─────────

──────

───

 

 

 空き教室。

 わざわざ、ここまでやって来たんだ。さあ、詳しく話してくれ。

 

 

 「ふふ、良かったのかい? 彼女達を置いてきてしまって。お姉さんと二人きりになるなんて、少し危機感が足り──ああっ、待って待って! 謎のお姉さんムーブはもう止めるから! 白い目で見ないでぇ〜」

 

 シーナさん達へは、僕が事情聴取するので待っていてくれと伝えてある。とは言え、彼女らも不満な表情だったのだ。時間停止中といえど、時間がない。手短に要点だけを教えてほしい!

 

 

 「もう。だから一人で来て欲しかったのに。面と向かって会話できる折角の機会だもの、大事にしたいでしょ? 君には色々と伝えたい事もあるから……」

 

 急にしおらしくされても困る。僕だって会話の機会は大事だと思ってるんだ。

 できるだけ要点を押さえて、何が起きているのか順序立てて話して欲しい。この際、時間は気にしなくていいから。シーナさん達への言い訳は考えておく。

 

 「君って根は優しいよね。特に私が分離してる今は、元の『純粋』な性格に戻ってるんじゃないかな? まあ、私がこうして存在してる事が()()()()()に繋がってるんだけど……えーと、順を追って話そうか──」

 

 

 レイワさんが語る。

 まず彼女は、僕がバングルを外した瞬間に自宅の浴槽で『受肉』していたそうだ。なぜその場ですぐに合流しなかったかと問えば──

 

 「女子には身だしなみとか、色々あるの! 私だってどうせなら『バ美肉』にして欲しかったよ」

 

 と返された。どうやら彼女の姿は、令和時代で生きていた頃の外見そのままらしい。彼女は、僕の家で母さんの化粧品やら服やらで身だしなみを整え──なるほど、どこか見覚えのあるレディーススーツは、母さんの私物だったのか。

 あと、勝手に拝借しておいて『肩パッド』が広過ぎるなどと文句をつけるのは止めてくれ。

 

 「服装は古くさいし、お化粧も自分の『デッキ』じゃないからイマイチだし……せめて演出だけはこだわろうと思ったの。放課後の教室に謎のお姉さんってシチュ、良くない?」

 

 この非常時に、そんな発想ができる『おもしれー女』は、ある意味で謎のお姉さんだよ。

 まあ、自宅にメッセージを残した理由は判った。判りたくない理由だけど、レイワさんの人となりを知っている僕ならば理解できる内容だった。

 

 

 そして、ここからが本題だ。時間停止の解決策を教えて欲しい。この件に関して、原作知識を思い出しているのだろう?

 

 「原作に関しては重要事項もあるんだけど……まずは、今回の怪人について話すね。コアラ怪人『コアランβ』──」

 

 やはり僕の読み通り、合精霊だった。コアラというのも納得だ。

 先程、昇降口にコアラが居た。動きが停止していたけれど、やはりあれは剥製ではなく本物。B子さんの魂が抜けた事で、元の動物へと戻ったコアラだ。まあ、発見した時にシーナさんが挙動不審だったのでおおよそ予測はできていた。

 

 そんなコアラと、シグマ博士の発明品は頗る相性が良かったらしい。

 今回の発明品は、対象を止める効果のある『通せん棒』というアイテム……そのネーミングは、ドラえもんのひみつ道具から着想を得たのだろうか?

 

 

 「合精霊には相性が大事。今回のケースは、コアラに由来した概念のせいで起こったトラブルなんだって。あ、原作だとそこまで詳しく語られてない内容なんだけど……これは掲示板でファンの人が考察したもので──」

 

 コアラの生息するオーストラリア。その地の住民アボリジニに伝わる神話。

 その神話とコアラには、密接な関係があるそうだ。そして、アボリジニには生活のサイクルや人生観に『時間』の『概念』が無いらしい。

 なるほど、その事が『止める』という発明品の効果と結び付き、B子さんの存在も相まって『時間停止』能力という超常現象へと──

 

 

 「待った! そもそも、それが間違いなの。結果的に、時間停止()の事が起きているけれど……実際には少し違うの。ほら、扉を開ける事ができたり部分的に矛盾してる点があるでしょ? そもそも、本当に時間が停止してたら目に光が届かないし、呼吸だって出来ない筈」

 

 確かにそうだ。それに、矛盾点は他にもあった。

 最近、雨が続いている。今日だって例外ではないのだ。妹はレインコートを着ていたのだし、停止現象が起きた段階で雨は降っていたのだろう。

 しかし、そうすると空中に雨粒が固定されていなければ辻褄が合わない。そんな状況ならば、外出は不可能だ。小さな玉だろうと動かす事のできない物体が四方に浮かんでいるのだから。

 

 

 「この現象について掲示板だと『メタバース』で例えてたけど……D君にはオンラインゲームの仕様なら教えた事あったよね。えーと、世界をサーバーとするなら、君たちがプレイヤーだと考えてみてね。今の状態はそのサーバーがダウンしている中で、オフラインの4人だけが動けてる状況……なのかな? 原作と違って、D君とA子ちゃんまで何故か動けてるけどね──」

 

 サーバーダウン。通信が行えず、データの同期ができない状況って事だろうか。世界の情報が更新されないから、僕らの主観では時間が止まった様に感じている。辻褄は……まあ合っているのか。

 

 今は理屈よりも、原作での解決策を知る方が優先だ。

 どうやら本来の流れでは、リングリットとミーア・クシロンの二人だけが世界から取り残される内容らしい。そして正義と悪の垣根を越え、一時的に協力関係を結ぶ二人。

 試行錯誤を繰り返す過程で、悪の女幹部が正義の味方に絆されて行き……いい雰囲気になるそうだ。

 

 だが、万策尽きてしまう。どうやっても時間が動かないのだと二人は判断する。

 軽い虚無感に襲われるが、一人ではないという希望が残されている。二人でなら、時の止まった世界でも生きていけるかもしれない。

 気持ちの通じ合った二人が互いに顔を近づけると、バイザーとヘルメットがぶつかってしまい──

 

 

 「微笑み合い、お互いに正体を明かす事にするの。そして、二人の顔が見える瞬間の場面で──()()()()()。そう、ここは夢の世界なの。だから、意識だけの私が肉体を持って動けてるんだと思う。あはは、時代が時代なら『夢オチなんてサイテー』って叩かれる話数だね!」

 

 

 それはこの時代でも共通認識だよ。夢オチは、漫画の神様が『禁じ手』にしているのだから。

 

 

─────────

──────

───

 

 

 掲示板の考察をまとめると、コアランβの本当の能力は『対象に夢を見せる力』となる。

 

 その対象は世界。スケールの大きな話だが、夢を見ているのは世界なのだ。生物の停滞を夢見ている世界なんて、実にロマンチックで皮肉が効いている。考察者の見解では、アボリジニの『ドリーミング』という思想が反映されているとの事だ。但しどういった思想なのかまでは、詳細不明。レイワさん自身が、掲示板を流し見した程度の知識しか無いので仕方がない。

 考察はともかく、散々『時間停止』と思わせておいて『夢オチ』とはヒドい原作だな……

 

 「時間停止かと思ったら夢でしたw なんて話は、80年代〜90年代初頭のアニメでは良くある『エセ文学エピソード』だから、無理に理由をこじつけなくてもいいぞw あ、これは私の言葉じゃなくて。掲示板で考察してた人についたレスね」

 

 元も子もない事を言うなぁ。まあ言わんとする事も判る。僕が観てきたアニメでも、似たようなエピソードが幾つか思い当たるのだから。神話になぞらえて迷走したり、視聴者を置いてけぼりにする内容は確かにある。特に4クール以上のアニメの中盤に多い印象だ。『斬新な意欲作』であり『奇抜な問題作』でもある、そんな話。

 

 

 「だから、深く考えずに『時間停止した夢』を皆が見てるって認識でオーケーだよ。D君に伝えたい事は沢山あるから、先へ進むよ? この機会を逃したら、きっと後悔するから──」

 

 

 話は、僕らだけが停止していない件へと移る。

 

 ワッカは、特殊能力を無効化させる体質の為。

 シーナさんは、オメガバイザーの改良で無効化範囲が増えた為。

 そしてA子と僕は、一時的にワッカと同じ状態になっていた為、らしい。

 

 先日、新担任として赴任してきた山原(やまはら)先生。僕とA子は、ふとした事で赴任前の彼女と接触していた。その際に、彼女から戴いた『飴玉』──その効果は、なめる事で一度だけ特殊能力を無効化するという優れモノだったようだ。

 現在バイザーを着用していないシーナさんにも言える事だが、現象が起きた瞬間に『無効化』に成功した者はそれ以降も活動できるのだろう。

 

 問題は……破格のアイテムを、効果の説明もせず、無償で提供してくれた先生。本来であれば、彼女は原作中盤から登場する人物。敵か味方か、不明なポジションのキャラクターらしい。

 

 そういった事実は早めに教えてもらいたかったのだが!

 

 

 「教えようとしたけど、君がバングルを外してくれなかったの! 普段の私は、君の思考に沿った形でしか発言できない仕様だからね。一応言っておくけど、私は『bot』じゃないから。あ、でも『私はロボットではありません』のテストは面倒くさいからパスで!」

 

 そんな脱線ばかりして話の主軸がブレブレだから、botと勘違いされるんだ。

 

 話を戻すと。B子さんが自爆した現在、特殊能力を維持しているのはシーナさんとなる。もちろん制御できる類いではない。呪詛返しによる擬似的な能力の遷移だ。それが今回のケースでは、致命的な問題となっている。

 通常ならば108時間の経過で無効化される呪詛返し。しかし『時の概念』が存在しない状況では、幾ら待てども解呪される事はない。

 

 なるほど、原作でシーナさん達が諦めるのも判る。鍵をかけた箱の中に、鍵が入っているような状況。つまり、手詰まりだ。

 

 

 「元々、夢の中での時間経過なんて、あって無いようなものだし。まあ、夢だからこそ切っ掛けがあれば簡単に目が醒めるんだけどね! 君も大好きなドラえもんのあの映画のオチと一緒。結局、夢っていうのは──」

 

 待ったぁ‼︎ その映画、僕が知らないヤツだ!

 何となくだけど、来年辺りに公開しそうな雰囲気を感じる。ネタバレ禁止‼︎ 今のレイワさんは、おしゃべり解禁モードなんだから特に気を付けてくれ。

 

 「ふふ、ごめんね。私が生まれる前の事だから、映画の公開時期までは知らなかったの。そうだね、この現象の解決方法は簡単だから、原作とこの世界と……私のいた世界について話そうか。まず原作の重要事項なんだけどね、実はみんな『小学生』の設定だったの!」

 

 

 え? それはレイワさんの願望とかではなく?

 夢の世界だからって、理想と現実の区別くらいはきちんと──

 

 「失礼なっ! 私が中々気付けなかったのは、D君の見た目がほぼ原作通りだったせいもあるからね? しいなちゃんとB子さんが原作でも発育がいいって事実も大きいけれど! 一番の原因は……私が原作イッキ見した『にわか勢』って事かなー? あはは、徹夜で連続視聴したのもあって記憶が所々抜けてるんだよね。ごめん‼︎」

 

 

 色々と飲み込めない事も多いけど、にわかと言う程でもないのでは?

 掲示板の考察なんて、相当の熱量が無いと読まない筈だ。まだ僕の時代にはネット掲示板が無いので、あくまで想像の範疇だけど。

 

 「それは、原作の欠番回について調べていて……まあ、この件はいいや。私が言いたいのは、この世界は根幹からして原作とズレてるって話。似たような事が起きるけれど、原作そのままの展開にはならない。たぶん、アニメのリメイク世界とかかな? まあ、私の存在で流れが変わった展開もあると思うけど。原作だと4クール目で、D君が精霊回帰(ジン・バック)に覚醒する流れだからね」

 

 

 どちらにせよ、大筋は変わらないという事だろうか。

 僕としては、早めに真実を知る事ができて良かったと思う。何も知らずに巻き込まれるより余程いい。レイワさんには感謝してるよ。

 だから、次はレイワさんの世界について聞かせて欲しい。思えば、この世界と同じ漫画や映画が存在しているけれど厳密には別の世界と言えるだろう。

 少なくとも、僕の世界に『光速真芯リングリットX』は存在していないのだから。

 

 

 「そうだね。だから、この時代が約30年後に『令和』へ到達する確証はないの。私の知識や価値観は、今後の君にとって意味のない物に変わるかもしれない。ううん、むしろその場合は邪魔になる可能性が高いね。平成初期と令和だと、違いが多過ぎるから。私にとって、この時代は『異世界』と呼べるくらい文化や思想が違うもの……」

 

 悲しそうな顔を見せるレイワさん。だけど、僕からすれば『二つの世界』にそんなに違いがあるとは思えない。昭和の価値観の延長線上に、平成の価値観があるように。きっと、令和の価値観だって同じ筈だ。

 人々が築き上げた歴史の土台は、きっとどこかに残っている。人々が『ドラえもん』を楽しいと感じる心は同じなんだから。

 だから一刻も早く、この現象を終わらせて僕はアニメを観るんだ!

 

 

 「ふふっ、君は相変わらず可愛いね──今回の件が終わっても、バングルを外す機会の減った君は徐々に『純粋』な性格に戻っていくと思う。私は、それが心配。君は人の言動を信じ過ぎるからね。今だって私が君に心配される為に、わざと落ち込んだフリをした可能性もあるんだよ?」

 

 

 確かに僕の考え方は、甘いかもしれない。人の善意を信じ過ぎて、悪意には少し疎い。

 だけど、レイワさんに関しては熟知してるんだ。表情が見える今ならば、尚更わかり易い。

 本当に僕を騙すつもりなら、もう少し『欲望』を曝け出すのがレイワさんだろう? ショタを吸わないと存在が消えるとか適当な事を言って、僕に手を出す筈だ!

 

 「信頼が……! おかしな方向への信頼が厚い!? あのね、欲望って表現されちゃうと事案に直行するけど、そういった願望なら誰しも多少はあるでしょ? 原作のワッカだって時間停止シチュをいい事に、まことちゃんのスカートの中を覗いたりしてたし‼︎」

 

 

 ああ、やっぱり。こちらでも似た様な事をしていたよ。その件に関しては、僕だってワッカの言い分を鵜呑みにはしなかった。まあ、シーナさんに同調したって所が大きいのかもしれないけど。

 そうそう、結局ワッカは僕にまで『ラッキースケベ』を発動させた事で誤解が──

 

 「何ソレ、詳しく‼︎ ……くっ、そうじゃなくてね! 私が言いたいのは、君が騙されやすいって話。ほら、前にJKが『ワッカは、D君の3000倍エッチ』って言ってたのも真に受けてたでしょ? あれは冗談だからね。非常に分かりにくいけれども」

 

 

 あれが、冗談!? なんて紛らわしいジョークなんだ。

 

 「他にも、まことちゃんの趣味がカラオケっていうのも君の勘違い。向こうはきっと、君の趣味がカラオケだと思って付き合ってたんだよ。その証拠に、週一で道場へ顔を出すようになってからはカラオケに誘われてないでしょ?」

 

 

 た、確かに……! 僕は人の心が解らない存在になってしまったのか。

 精霊は純粋ゆえに、染められ易い。どうやら僕も、その例に漏れないみたいだ。自覚は薄いけれど、僕の性分は以前まことが言っていた様に『純情』なのだろう。

 

 

 「小学生の頃の君と比べれば、少しだけスレてるけどね。だけど、素直な性格は同じ。私の思考が混じらなければ、滅多に人を疑う事がないくらい『純情』だと思うよ。お姉さん的には、世の中へ出すにはちょっと心配なレベル。現に、原作2クール目の『ボスキャラ』ジーナにコロッと騙されたり、『OZ/born(オズボーン)』に所属するヒコボシの口車に乗せられたり……困った事が沢山あったよね。君が思うよりも、世の中には悪い人が多いんだよ? ふふっ、だから私から()()()()()があるんだけど──」

 

 

 

 

──もうこの世界で、私とずっと一緒に過ごさない?

  夢が醒めないように工夫すれば、きっと可能だと思うの。

  その方が、君にとって幸せだから……ね?

 

 

 突然、ヤンデレの様な事を言い出したレイワさん。

 はじめは冗談だと思ったけれど、目が本気だ。人の心をきちんと理解できない僕でも、彼女に関しては別である。これは、彼女の紛れもない本音。

 適当な返事はできない。純粋に、僕の事を心配しての発言なのだから。

 

 

 迷っていると、いつの間にかそっと抱き寄せられていた。

 抱擁と呼ぶには弱々しく、僕が少し動けば簡単に抜け出せるだろう。

 けれど……彼女を振り払うのは何か違う気がする。

 『bot』だなんて言って誤魔化していたけれど、彼女に自我がある事は判っていたんだ。自由に動けず、僕の脳内に封じられてしまった彼女を認める事がただ怖かった。一方的に呟くだけの存在だと思い込めば、不満を言われても耐えられると思っていたんだ。

 

 だけど、彼女は一度もその事で僕へ不満を漏らさなかった。

 僕はずっとその優しさに甘えていたんだ。

 

 この細い腰を抱き返せば、了承の返事になるだろう。

 きっと彼女の気持ちに応える事が、僕の──

 

 

 

 「早まってはダメですのディエゴ! それはハニートラップですわ! 先程、『オメガIII財団』の敵対組織『OZ/born(オズボーン)』の名を口にしていましたもの! 連中は、非道な事を平気で行う悪の団体ですのよ‼︎」

 

 

 ……シーナさんの乱入で、僕は決断から逃れる事ができた。

 どうやら彼女は、C組の教室へ戻らない僕らを待ちかねて、手分けして探し回っていたようだ。

 ハニートラップという誤解を受けて、必死に弁明をするレイワさん。もう彼女も、いつもの雰囲気へと戻っている。これで、良かったのだろうか?

 

 不安が渦巻く胸中だけど、一つだけ文句を言いたい。

 ヒコボシの所属している組織って、正義の味方じゃなかったのか!?

 

 

 もう僕は、何を信じればいいのか解らない……っ!

 

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