平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話 作:浅学寺のえる
白銀童子
銀山の鉱夫たちに伝わる儚い幻想。それが『
江戸時代初頭。日本にとって『銀』は大きな役割を持っていた。
当時の中国『明』をはじめ、ポルトガルなどとの海外貿易で銀を大量に輸出した記録が残されている。幕府にとって銀は交易の要。そう言っても過言ではない時代だった。
当然の流れとして、各地で銀山開発が行われる。急速な需要の高まりは、迅速な供給を迫られる事と同義。必然的に、鉱夫としての働き手も国から求められていた。
人力での鉱山採掘作業は、過酷な労働環境。鉱夫の賃金も手厚かったと言われている。
しかし、厚生という観点においては大きな問題があった。
採掘時の粉塵や、坑道を照らす灯の煤は肺を患う原因となり、鉛による中毒の危険なども含め多くのリスクが存在していた。
そういった環境ゆえ、当時の鉱夫は30歳を迎えれば『長寿』とされるほど短命な職業だった。
太く短い人生で家族に財を残せた者は、まだ報われる。
中には一攫千金を夢見るも、財を成す前に寿命が訪れる者達もいる。彼らが残した無念は鉱山へと染み付いて行き、やがて寄り集まった『念』が山に棲む精霊と結びつく。
そうして精霊は『幼子』の姿を得た。
寿命を前にした鉱夫が思い描く存在しない幸福。儚い幻想がもたらす、最期の救い。
幻影の我が子。透き通る銀髪の白銀童子。
それを目にした鉱夫は、安らかな笑みを浮かべ眠りについたと云う──
と、ここまでが伝承における白銀童子の概要。
しかし、ワタシという存在がいる以上は美談のまま済む話ではない。
なぜなら、ワタシは白銀童子の血を引く人間なのだから。従って、どこかの時代で幼子に手を出した者が存在する事となる。
白銀童子は理想の子供。その姿もまた、髪色以外は人の願望に左右される。可憐な少女の時もあれば、無邪気な少年の時もある。場合によっては、幼い日に憧れた少女と瓜二つの姿で現れる事まである。つまり、それが答え。
想い人との間に子を成せなかった者が、その似姿に劣情を抱いた。おそらくは、そんな所だ。
この出来事に救いを見出すならば、幼子が『容姿だけの幼子』だったと仮定するしかない。最近おかしな言動の多いワタシの友人は『合法ロリ』などと表現していた。彼の頭が心配になる。
しかし、現実にワタシの母が『合法ロリ』な以上、一概に否定できないのも事実。
母・
彼の言い回しに倣うのなら、非合法ロリのA子さん(仮)とでも名乗るべきか。
……もし、本当にそう呼ぶ奴がいたらブチ転がすけど。
私立九重女学院
中学までのワタシの母校となる
創立は高度経済成長期の中頃。九重財閥が、元々あった市立の小学校とその周辺の土地を買い上げる形で誕生した。小・中・高の一貫校で附属大学も存在する。特殊な成り立ちゆえに、元の小学校の学区内に住む『女児』に限り公立校と同じ条件で通う特例制度も設けられている。
但し、その枠で入学した者達は、通称『市民クラス』と呼ばれるF組に纏められる。笛市の頭文字で『F』らしい。ちなみに、他のクラスは数字で表記されている。
ワタシと、友人のMは六年間をF組で過ごしたが、途中で転校した者も大勢いた。お嬢様学校の洗礼を受け、市民が打てる手は『逃走』か『服従』のみ。ここで『闘争』を選んだのは、ワタシとMくらいだろう。
ワタシとMは、家が隣同士だった。
幼稚園も同じ所へ通い、Mの家が経営している格闘道場で共に学んだ間柄でもある。物心が付いた時には、常に一緒だったと言ってもいい。二人で遊び、二人で修行し、食事も睡眠も殆ど一緒の毎日。幼い世界は、二人だけで完結する程に狭かった。
そんなワタシ達の関係に、一人の少年が転機をもたらす。
彼は元々、別の道場で学んでいた男の子。Mの道場『羽吹流』とは逆の理念を持つ『萬宮寿流』の道場から来た少年D。武器格闘術の萬宮寿流において『武器が嫌い』だと明言し、齢五つにして破門されたあまのじゃく。
ワタシとMは、武器を嫌う彼といつの間にか仲良くなっていた。彼も同じ幼稚園へ通っていたので、常時一緒に行動する仲間が一人増えた結果となる。世界が広がり、ワタシ達は少しだけ成長する事ができた。
人生にハイライトがあるとすれば、この時期が間違いなく含まれる。
そう断言できる位、幸せな時間だった──
しかし、別れは突然やって来る。
卒園を前にして、Dだけが公立の小学校へ通うのだと気付かされた。九重女学院の門は、男児に対して開かれはしない。女児と男児の差が、明確にワタシ達の進路を分けてしまった。
子供に襲いかかる理不尽な大人の都合に、ワタシとMは不満を口にする事しかできなかった。それで解決するほど甘くないと判りつつも、幼い子供には他にできる事など何もない。
そう思っていた。
「なら、こうしよう。小学校は別々だけど、中学校は3人で同じところへ行こうよ!」
Dの提案は、当時のワタシ達からすれば気が遠くなるほど
卒園式で涙の別れを済まし、ワタシ達は6年後に再会する事を誓いあった。
そして、翌日。
三人は道場で顔を合わせる事となる。
別々なのは学校だけ。そんな簡単な事実を失念する程に、みんな幼かった遠い日の思い出。
6年後。
約束は果たされなかった。Dが両親の都合で、引っ越す事になったからだ。
必然的に道場も辞める形となり、Mは大いに荒れた。彼女が先に激怒したお陰で、ワタシは冷静に流れを見守る事ができたのかも知れない。
俯瞰して見ていたワタシには、良く分かる。理不尽な別れは、まるで幼い日の焼き直し。先送りにした因果が、時を跨いでやって来たのだと。
これから中学生になるとは言え、まだワタシたちは大人の決定に逆らえる歳ではない。どうしようもない現実を受け入れるしかなかった。
悲痛な表情を浮かべたDは、押し黙ったまま何も語らなかった。彼の口から、未来へ向けた希望はもう出て来ない。責任感の強い彼は、自身の発言が『嘘』になる事を恐れていたのだろう。
だけど、嘘でも良かった。
高校での再会を口にしてくれれば、Mもワタシも笑って彼を見送れた筈なのに……。
精霊泡沫現象
公立の中学校へ入学してすぐ、両親が失踪した。
なんの前触れもなく、ある日突然ワタシを置いて姿を消した二人。現状を正確に受け入れられないまま、ワタシは警察の質問に機械的に答え、気付けばどこかの施設へと送られていた。
そこが孤児院だったのなら、ワタシは何も知らずに人生を過ごせたのかもしれない。
もちろん沢山の苦労はあるだろう。それでも数年後には、身長が低くとも大人の仲間入りを果たす。疑う人間には身分証を提示する事で、密かな優越感が得られるかもしれない。そんな合法ロリとしての未来。恋人ができて、結婚するかもしれない夢のある未来。
そして何も知らずに、30歳を迎え──両親と同様、泡のように消えるのだろう。
『
世間的には、神隠しとされるモノの正体。何かの切っ掛けで、精霊の世界へ招かれた事を指す言葉。異界の門、虹の橋、深い霧、底なしの穴……あちらの世界へ繋がるモノは数多く存在する。
ワタシ達の世界で実像を得る前の精霊も、逆のプロセスでこちらへ迷い込んでいるそうだ。切っ掛けは多種多様。未だに解明される事がない世界の神秘。つまり、詳細不明という事。
これが、最初に施設で教わった内容。
ワタシが送られた施設は『精霊研究所』
そこを管理するのは『オメガIII財団』
組織のトップは『萬宮寿
九重女学院の初等部で、ワタシとMにとって不倶戴天の敵だった『萬宮寿 しいな』
彼女の祖父が運営する施設で、ワタシの人生は大きな転機を迎えたのだった。
白銀童子の説明を受け、自身のルーツを知ったワタシ。事前知識を得た事で、漸く両親の失踪に関する士熊氏の仮説を聞ける段階となった──
精霊は人の想念と結びつく存在。白銀童子の物語にも、当てはまる例が数多くある。
1)死にゆく鉱夫の元へ現れる精霊。
2)見た者は幸福な最期を迎えられる。
3)鉱夫の寿命は30歳で長寿とされ、祝いが開かれる事すらあった。
これらを組み合わせると、答えが見えてくる。
儚く散る事を定められた鉱夫達は、己の最期に希望を見出した。次第に鉱夫達の間で『寿命を迎えた時に幸福が訪れる』とまことしやかに囁かれる。それはやがて『30歳の長寿祝い』と混同する事で、本来とは違った物語へと変じてしまう。
「すなわち……働き手が30歳を迎える時、理想の姿をした精霊が現れ、共に幸福の地へと旅立てる。と言った具合だゾイ。街談巷説が都合のいい様に変えられてしまうのは、今も昔も一緒という事ゾイ」
士熊氏は研究者としても名高い人物。そんな彼が、中学生になりたてのワタシへ判りやすく教えてくれた。精霊の血を色濃く引いていたのは母。30歳を迎えたのは父。
両親は幼馴染で同い年だけど、誕生日が4月なのは父の方。失踪した日も、父の誕生日。バースデーケーキを残して、二人は忽然と消えてしまったのだから。
両親は、過去の人々が勝手に流した噂によってこの世から消えてしまった。
そんな残酷な事実を語る士熊氏の前に、抗議する者が現れた……現れてくれた。
「お祖父様の人でなしっ! たとえ真実でも、伝え方は考えるべきですわ‼︎ マッドサイエンティストも程々にして下さいませ。でないと、お祖母様に次いで
「か、勘弁ゾイ。すまんかった黄胡蝶の娘よ。儂の配慮が足らんかったゾイ」
やりどころのない感情に飲まれていたワタシも、つい吹き出してしまう程のギャップだった。そこにはもう、淡々と事実を語っていた研究者はおらず、単に孫娘から嫌われたくないだけの祖父が居たのだから。
「黄胡蝶さん……貴女とも色々と御座いましたが、ひとまず休戦と致しましょう。さあ、屋敷で食事を用意しておりますの。お話は全てそのあとですわ! 行きますわよ」
学校での姿が嘘だったかのように、彼女は優しく接してくれた。
思えば、市民クラスを冷遇していたのは彼女の取り巻き達であり、本人から直接何かをされた経験など無かった。友人Mと、萬宮寿 しいなが事あるごとに口論していたので誤認していた事実。
久しぶりの温かい食事を口にしながら、ワタシは漸くその勘違いに気付けたのだった。
そして、食事が終わると彼女の私室へと招待された。
ここに居るのはワタシと彼女だけ。途中まで一緒だった一つ年上の金髪メイドも部屋の外。
小学生の頃ならば、きっと警戒していただろう。
けれど、もう彼女は不倶戴天の敵などではない。Mには申し訳ないけど、ワタシには彼女と対立する理由など無かったのだから。
最初に語られたのは彼女の生い立ちについて。
両親が失踪したという点はワタシと同じ。だけど彼女は、物心ついた時から既に両親がいなかったと言う。祖父と祖母に育てられ、今に至ったのだと教えてくれた。
その祖母も現在は別居中。同じ敷地内にある別の屋敷で暮らしているそうだ。彼女の祖母は九重女学院の学院長・萬宮寿イグナ。その旧姓は九重。今暮らしている別邸も、元は九重邸との事。中学生のワタシでは理解しきれない複雑な事情がそこにはあった。
「あら、つい脱線してしまいましたわ。本題へ移りましょう。黄胡蝶さん……いえ、詠と名前で呼ばせて頂きますわ。貴女はこれから、私の盟友になるのですから! あ、ごめんなさい。つい先走ってしまいましたわ。まずは『同盟』を結ぶお話から──」
両親を探す同盟。
特異な現象によって両親と離別した経緯は、ワタシも彼女も同一。萬宮寿の研究に協力する事で、いつか向こうの世界へ自由に行き来できる可能性を示された。しかも、衣食住まで保証してくれるという話だ。中学生の身で天涯孤独となったワタシにとって、これ以上の話はないだろう。
だけど、決め手になったのは次の話。先程の同盟内容は、あくまで表向きの物だった。オメガIII財団への建前とも言える。財団や萬宮寿家において、ワタシの立場を明確にする為の措置に過ぎなかった。
ワタシの心を動かしたのは、そんな綺麗事ではなく。大いに打算が含まれた内容だった。
「18年後までに、もし研究が上手くいかなかった時は……詠と一緒に、私も
それは、ある意味でプロポーズにも近い言葉。
この時ワタシは、心から救われたのだろう。
彼女だけは、ずっと側に居てくれる。理不尽な現象が起ころうとも、ワタシと離れずに居てくれる。ただの口約束などではない強い意志と、それを可能にする力を持っている。
萬宮寿 しいな。しいな様こそ、ワタシが生涯を捧げる相手。
瞬く間に様々な手続きが済まされ、ワタシは再び九重女学院へと舞い戻って来た。
中等部からは『市民クラス』も存在しない。かつての敵を従えて、しいな様の護衛を務めるワタシは実質的なNo.2。今のワタシを見れば、Mは軽蔑するかもしれない。
実際に、萬宮寿家のメイドになると伝えた時は『裏切り者』と罵られた。その時の流れで、道場まで辞める事になってしまった。羽吹流は、裏切り者を決して許さない。口下手なワタシには、もうMと和解する道はないだろう。
だけど、今の彼女は一人じゃない。Dの小学校時代の友人らが側にいるし、Dの妹まで道場へ通い始めたのだから。不器用な彼なりに、裏で手を回してくれたのだろう。
とはいえ、あの男子二人はスケベ過ぎる。それだけが唯一の心配。
陽だまりに潜む暗影
市立笛壱高等学校。この学校の地下には、過去の遺物が眠っていた。
発見したのは先輩メイドの美衣。彼女は九重女学院の高等部へは進学せず、なぜか笛壱高校へと通っていた。その理由は不明なまま。しかし、彼女が偶然見つけた『リアクター』はオメガIII財団に大きな転機をもたらす事となった。
話は急速に進み、来年度からはワタシとしいな様も入学する事に決定した。学校自体も、既に萬宮寿家が買い上げている。かつての九重財閥が行った事と同じ手法を『平成』の時代でやってのけるのだから、やはり萬宮寿家の力は凄まじい。
萬宮寿邸と学校を繋ぐ直線道路まで作り出し、その地下にはパイプラインとリニアモーターカー用の線路が敷いてある。これで、リアクターと屋敷間のエネルギー供給も問題なく行える。
調整ののち
悪の秘密結社『オメイラガ』の完全復活。その日は、目前まで迫っている。
しかし、今はまだ雌伏の時。
シグマ総帥はヒーローを強く警戒している。以前、高速の戦士・リングリットによって、組織を潰された苦い記憶が残っているからだ。
本格始動は約1年後──ワタシ達が高校2年生となるその時。
しいな様が、巫女の修行を終える時。世界は震撼する事となるだろう。
そうして迎えた入学式。
1年C組の教室で、ワタシとMとDが再会する。
なんの因果か、いつかの約束が形を変えて実現してしまった。けれど、もうあの頃の関係ではいられない。ワタシは悪の女怪人。平和な世界の住人とは相容れない存在なのだから。
「久しぶり。あはは……そう睨まなくても判ってるって。あの時の事を水に流せだなんて、調子のいい事は言わないよ。でも、僕にとって君が友達なのは変わらないんだ。だから友人として同じ学校へ通える事が、素直に嬉しいよ」
Dは変わらず善良で、子供らしい外見もそのままだった。でも確かに成長している。彼は前よりも、考え方が大人になっていた。一般人としての尺度を手に入れた少年。
ワタシにとって、彼は憧れであり、目の毒でもある。
おそらく精霊回帰のワタシには、彼のように内面を成長させる事すら出来ないのだから。
「ちょっと! ボクを裏切ったくせに、彼と馴れ馴れしくしないでよね。君は
Mも変わらず我儘で、子供らしい発言もそのままだった。彼女に至っては、中身も然程成長していない。しいな様を見ればケンカを売り、口喧嘩で負かされてギャンギャンと泣く。小学生の頃は互角に言い合いができていたのに、もはやその影すら見当たらない。
彼女を見ていると安心する。特に、厚みの無い胸元を見ると優越感すら湧いてくる。
ワタシの方が大きい。せめてこの部分だけは、Mに抜かれないよう頑張ろう。
季節は流れ、秋も深まる今日この頃。
中学校時代とは打って変わって、高校での生活は和気藹々としたものだった。
しいな様とMの口論も殺伐とした雰囲気などなく、最早じゃれ合いに近い。Dが上手い具合に仲裁してしまうからだ。もし九重女子にDが居たならば、あらゆる問題が解決していた筈。どうして彼は、男子なのだろう……。
ちなみに、彼の姉は公立の小学校を卒業している。当時、九重の大学生だったDの叔母が、姪を初等部へ入れる事に猛反対したそうだ。実際、リサーチ力の高い親は『市民クラス』での入学を選ばないので、Dの叔母の判断は大正解。
そして現在。Dの姉も、笛壱高校へと通っている。文化祭の劇では『ゲゲゲの鬼太郎』の主演を務める程に、青春を謳歌している彼女。茶色い髪と、片目を隠したヘアースタイルが見事に活かされている。いい配役だ。少なくとも、ぬりかべ役の美衣より余程いい。
「ねぇ、詠。どうして二年生のお芝居に、彼が出ているのでしょう……?」
しいな様が勘違いする程に、彼と姉はよく似ている。男の子役を演じられては余計に混乱してしまうだろう。だけど、ワタシはDがパソコン部の展示で忙しい事を知っているので、あの鬼太郎が姉だと判別できる。
しいな様には、敢えて教えない。混乱している姿が可愛いからだ。仕方ない。
冬が到来しても、高校生活は未だに順風満帆。
もうオメイラガの本格始動まで、平和な時間が続くかと思われた。
しかし、年が明けた一月の中頃に事件は起こる。
シグマ総帥の合精霊化。
その経緯は、極めて不明瞭。気絶させられたシグマ総帥、白熊、超冷凍庫『氷河機』。監視カメラに映っていたのは、それだけだった。何かに誘導されるように、シグマ総帥と冷凍庫を背に乗せ、白熊が『リアクター』へと入っていき……作動ボタンが一人でに押された。
程なくして、白熊怪人がリアクターから出現する。これが最大の謎。シグマ総帥は、
長い人類史を考えれば、現行人類のほぼ全員に僅かな精霊因子が含まれているのは確かな事。その中で、明確に精霊の特徴が現れているワタシや美衣は、稀有なケースとなる。
オメガIII財団では、ワタシ達のような存在を覚醒率100%の精霊回帰とし、その比較で一般人の覚醒率も導き出している。おおよそ、3〜10%の範囲に収まるパターンが多く、シグマ総帥もその域を出ていない。
それなのに、彼は合精霊と化してしまった。本来であれば、魂が適合される筈もないのに。
しかも深夜に事件が起きたので、白熊怪人は巫女と『契約』されないまま暴走した。幸い、空になったシグマ総帥の肉体は無事だったものの、計画の為に準備していた多くの発明品が壊されてしまった。
本邸へ戻って来ていたイグナ様の判断で、麻酔銃を撃ち込み捕獲には成功。
その後、建設中の屋内スキー場の地下へと移送し檻の中へ収容する流れとなった。怪人からは常に冷気が発生している上、迂闊に『爪』へ触ると『アイス』にされてしまうので仕方のない措置だ。
イグナ様と共に本邸へやって来たジーナというメイドが、たまご型のゴム容器アイスにされてしまった。溶けてしまわないよう、彼女は屋敷の冷凍庫で保管されている。しいな様が「食べたらダメですわよ」と言っていたので、ワタシが冷凍庫を鎖でグルグル巻きにしておいた。
シグマ総帥の件が解決しないまま、ワタシ達は高校二年生へと進級する。
美衣が敢えて留年する事で、今年度からはしいな様のサポートも二人体制。オメイラガの作戦が上手く行けば必要のない処置とは言え、計画を引き継いだイグナ様は用心深く指揮を執っている。見えない敵が居る以上、仕方ないのだろう。でも、しいな様を学校で独り占めできないのは残念。
そうして行われた最初の作戦。栄えある実戦での
ヒーローに敗北した第1号も……ワタシ。詳細はレポートに書いたのでここでは触れない。取り敢えず、特殊能力が一切効かないヒーローはズルいとだけ記しておく。だいたいの特殊効果に弱い『鬼太郎』を少しは見習って欲しい。
翌週。
美衣が猫怪人となり、人類を『猫』へ変えるというトンチキな作戦が決行された。
発明品の大多数が破損した弊害だ。シグマ総帥の発明品は、どれも一からの再現が不可能。なので破損状況が軽微な物から優先し、設計図通りに復元した結果……人類猫化作戦が選ばれた。
今回のアイテムは『猫化ネコ缶』というネコ科の動物ならライオンでもチーターでも、ただの猫に変身させてしまう発明品。
合精霊になる事で進化した特殊能力は、舐めた人間を『猫』へ変化させるというもの。ニャンニャンβのザラザラした舌に舐められ、DとMも一時は猫になっていた。あのまま上手く行けば、ワタシが二人を飼ってあげたのに……またしてもヒーロー・リングリットに邪魔されてしまった。
しいな様まで、呪詛返しで『完全な猫』になってしまい捜索に二日もかかった。街に逃げ出していた彼女は、時間経過で呪いが弱まり『猫耳半裸状態』で草むらに隠れていた。自我も取り戻していたので、恥ずかしがる姿は眼福だった。カメラを用意しなかった事が悔やまれる。
そして、犬、象と作戦が失敗して行き……ついに利用可能な発明品が底を突いてしまう。
しいな様とイグナ様の話し合いにより、ここで作戦の凍結が決定した。
たった、ひと月で終わった悪の組織。
目的は果たせなかったけれど、これで良かったのかもしれない。
呪詛返しで間も無く全身が石化してしまう彼女。こんな辛い姿を目にするのも、これで最後になると思えば──
「そうですわ詠! 次の木曜日は祝日。
途中で完全に石化してしまったけれど、しいな様の意向は伝わった。
先日、ふとした事でDの毛髪を検査する流れとなり、彼も『
つまり、彼を詳しく調べればシグマ総帥の身に起きた謎も解き明かせる可能性がある。短い言葉で、しいな様はワタシにそう伝えたかったんだ。
彼女がまだ諦めていない以上、ワタシも協力は惜しまない。それが同盟だから。
結果的に、Dをスキー場へ連れて行く事でシグマ総帥の件は呆気なく解決した。
彼が所持していた不思議な腕輪。その効果で、総帥が理性を取り戻し『自爆』を決断したからだ。総帥の魂は元の肉体へと戻り、無事に復活。三ヶ月間も昏睡状態だったけれど、筋力の衰えは軽微。イグナ様の献身による賜物だろう。
冷凍庫のジーナも人間へ戻っており、これにて万事解決。
(※以下、6月15日に追記)
しかし、ワタシ達は総帥の身に『呪詛』が返って来ない事実を、もう少し検証するべきだった。
108日間の暴走自体が既に十分な『罰』だった事もあり、呪詛の行方など誰も考えはしなかった。今になって、それが悔やまれる。
この時期に『世界』へと還った呪詛は、冷気となり世界各地を不規則に彷徨っていた。時に暴風として災害を起こし、時に竜巻や落雷という形で人的被害を多数生み出す予測不能な天災。徐々に人々から畏れられ、ついには精霊として実体を得るまでに至った。
衛星画像では渦を巻く雲。それを見て、超大型の台風と断定する有識者。
実際の被害映像を確認し、スーパーセルと仮定する気象学者。
テレビでは連日、そういった論争が繰り広げられているが、実際はどれでもない。雲はただ、精霊の動きに合わせて形を変えているだけなのだから。
意志ある天災『
それこそが、あと僅かで日本へと到来する未曾有の危機の正体だ。