平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話   作:浅学寺のえる

23 / 43
── 別視点からのみ摂取できる栄養素 V.A₂

 オメガレポート1

報告者:A子  

 

⚫︎作戦における目的

 1.国の中枢を乗っ取り、オメイラガの理念を広く浸透させる。

 2.幻覚を利用する事で、ゆくゆくは人類すべてを支配下へと置く。

 

⚫︎合精霊の詳細

 精霊:A子  動物:アズマモグラ  呪物:まぼろしゲンカ君

 上記の三要素を融合した存在が、ツチグモーαと名付けられる。

 ミーア・クシロン様との契約によって、暴走の兆候もなくA子としての自我は安定。

 鉱山に由来した精霊とモグラの相性も良く、幻を見せる能力は大幅に進化。

 鼻先から霧を発生させ、幻覚を見せる特殊能力を有する。シンプルゆえに強力な力。

 また、動物の特性として穴を掘る能力も持ち合わせている。

 

⚫︎作戦概要と失敗までの流れ

 決行日は四月二日。穴を掘る事で、地下から中枢機関へ侵入。

 幻覚を利用し、その場にいる全ての人間を支配下に置く。

 さらに幻覚の霧へ投影した映像をテレビ中継し、国民が敵愾心を抱けない状況も作りだす。

 ──ここまでは、作戦通りに行われた。

 

 しかし、法の改正を行う段階でヒーロー・リングリットが現れる。

 予め参照していた昭和のデータとは異なり、平成のリングリットは『特殊能力無効』という埒外な特性を有していた。幻覚の霧は通用せず、モグラの視力では格闘戦も難しい。

 

 そう判断し、撤退を視野に入れた所でミーア・クシロン様が救援に駆けつける。

 彼女が表の顔で、学友らと社会科見学へ来ていた事が幸いした。

 ヒーローの格闘技術は拙く、ミーア様の足元にも及ばない。こちらの優勢は覆らないと思われた。

 だがそう確信した時、またしても邪魔が入る。

 

 ミーア様の学友D。彼が余計な事を言ったせいで、ミーア様に大きな隙が生まれてしまった。

 その機に乗じて、ヒーローが必殺技を発動。

 繰り出された四本の光輪が周囲を飛び回り、ミーア様の四肢へと狙いを定めた。Dの発言で羞恥心に駆られていたミーア様は対応できず、光輪によって大の字に拘束されてしまった。

 

 正体が露見する前に、ミーア様はツチグモーαへ合精霊の強制解除を命令。総帥代理によって発案された『自爆撤退』は無事に遂行され、現場に残ったモグラも学友としてその場に居合わせたB子によって回収された。作戦は失敗したが、致命的な被害は免れたと思われる。

 

⚫︎総括

 失敗理由は大きく二つ。

 ヒーローの能力が想定外だった事と、Dの無粋な一言。

 「ミーアキャットの耳は、そんな形じゃない」

 その発言で、ミーア様は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

 補足すると、あれはミーアキャットをモチーフにして猫耳を付けていた訳ではない。無骨なオメガバイザーを少しでも可愛くしようと『猫耳』を取り付けた結果である。

 「モチーフはミーアキャットですわ」

 という彼女の発言は、そんな努力を見透かされないよう咄嗟に口から出たものだと推測できる。つまり、照れ隠し。そこへ正論をぶつけられたのだから、赤面するのも仕方がない。

 

 ミーア様は帰還後、悔し涙を流しながら猫耳を取り外していた。

 猫耳を封印した彼女に、もう隙はない。次の作戦では、ヒーローの動きに注意さえすれば失敗はないと考えられる。

 奇しくも、次回の合精霊は『猫』の予定。

 担当者であるB子が、今回の雪辱を晴らしてくれると期待している。

 

 

 

─以上─

 

 

 

 葉月エリスの選りすぐりラジオ

  「物議ぶったぎり」のコーナー係

C県笛市 R.N.:どうでもA子  

 

 

 先日、ワタシは仲の良い友人らと開業前の『屋内スキー場』へ視察に行きました。

 そこでちょっとしたトラブルがあり、ワタシの親友(女子)と、幼馴染の男子が二人きりになるという展開がありました。その時に何があったのか詳しく判りませんが、

 親友は「エチケット用にいただいたガムが役に立ちましたわ」と言っていました。

 

 これって、どういう意味なんですか? エリスさん、ぶったぎって下さい!

採用

 

 

〜〜〜

 

 

 この前、ガムのエチケットで投稿した者です。

 エリスさんは「キスは確実にしてる」と仰ってましたが、親友を問い詰めたところ『頬っぺたスリスリ』しかしてない事が判明しました。ガムは、ストーブの火を点ける時に使ったみたいです。

 例の幼馴染男子は、親友に手を出した狼藉者として『矯正施設』に送られていましたけど(笑)

 でも誤解が解けたので、幼馴染男子は親友の家で歓待を受ける事になりました。

 

 そして、また問題が起きたのです。

 

 親友の家には、胸の大きな金髪のメイドが居るのですが……幼馴染の男子は、金髪メイドにお世話されて『心ここにあらず』と言った雰囲気でした。その内に金髪メイドの事を「お姉ちゃん」などと呼ぶ始末です。

 親友も、その姿を見て大変怒ってしまい、金髪メイドにキツく当たっていました。

 

 でも、この場合って本来なら男子のほうに怒るべきじゃないですか?

 エリスさん、ぶったぎって下さい!

採用

 

 

〜〜〜

 

 

 金髪メイドの件で続報です。

 エリスさんが仰った「女の嫉妬は、女へ向く」というのは、やはり正解でした。男の子を猫可愛がりする金髪メイドに対し、親友は嫉妬している様子でした。その影響で、本来なら金髪メイドがこなす仕事をワタシがやる羽目になってしまいました。

 あ、言い忘れてましたがワタシも一応メイドなんです。ワケあって、親友の家で働かせてもらっています。家事全般が全くできませんけど(笑)

 

 今回、ワタシに回ってきた仕事は家事ではないのですが……例えるなら、サイの着ぐるみを着てヒーローと戦う仕事でしょうか。

 サイの着ぐるみは大きくて動きづらく、本来であれば体の小さいワタシよりも、金髪メイドの方がよほど向いている仕事なんです。でも、親友は意外と頑固なので取り合ってもらえません。

 

 このままでは、ワタシの身が保ちません。どうにか、金髪メイドと親友の仲を修復させる方法はありませんか!?

 エリスさん、ぶったぎって下さい!

採用

 

 

 

〜〜〜

 

 

 前回「複雑な人生相談は、別のところでやって!?」とぶったぎられた者です。

 ワタシ自身がぶったぎられるという珍事になってしまいましたが、金髪メイドと親友の仲が元通りになった報告だけしておきます。

 親友の気が済むまで『お仕置き』をさせた結果、いい具合に解決しました。元々、Sの気がある親友とMの気配があった金髪メイドは相性が良かったみたいです。

 

 ですが、さらなる問題が発生してしまいました。

 どうやら幼馴染男子の想い人は、ワタシだったみたいなのです。洒落になりません。

 後輩の女子をダシに使って、ワタシとの距離を詰めてきますし……喫茶店でもさりげなくワタシの隣へと座り、付き合ってくれたお礼だと言って勝手に会計まで済ませていました。

 

 彼の気持ちに応える気は無いのですが、アプローチの激しさに当惑しています。

 エリスさん、どうすればいいのでしょう?

 

 

 

──諸事情により「葉月エリスの選りすぐりラジオ」は終了しました。

  現在、お便りは受け付けておりません。

 

 

 

 

 

 

 

 めざめ

著:黄胡蝶 詠  

 

 

 幼馴染の少年D。ワタシは、彼に複雑な感情を抱いている。

 初めはただの友達だった。別れを惜しむくらいには純粋な友情を感じていた。

 

 そして高校生に成長した彼は、憧れでもあり嫉妬の対象でもあった。

 しいな様とも、Mとも上手く付き合える彼。どちらか一方しか選べなかったワタシへ、喧嘩を売っているとしか思えない。

 だけど、Dは単に『子供』なだけだった。

 そこに恋愛感情などないから、彼はワタシとも美衣とも分け隔てなく接する事ができる。彼にとって、あのスケベな男友達とワタシ達は同列なのだろう……それはそれでムカつくけれど。

 

 

 そんなDが精霊回帰だと判明して、ワタシの感情はさらにおかしくなる。

 子供の概念を強く持つ精霊。シンパシーを感じる一方で、ワタシとの違いも強く感じてしまう。

 

 ワタシは上手く喋る事ができないのに、彼は饒舌に話す事ができる。

 

 こうして文章を綴る事ができても、ワタシの言葉は『幼いもの』へと変換され他人の耳へと届いている。精霊の特徴がもたらす余計な効果。呪いと呼んでもいい程に厄介なチカラだ。

 周囲から子供と認識されている以上、ワタシの言葉が正確に届く事はないだろう。Mとの隔たりも、この言葉足らずによる結果だ。つくづく、Dが羨ましい……

 

 とは言え、周囲から子供と認識される呪いに関しては彼にも一部適用されている。

 通常ならば、しいな様に目をかけられ、美衣に可愛がられ、Mにまで信頼されている男子など嫉妬の対象にしかならないだろう。そんな状況において彼は、クラス全体から温かい目で見守られる立ち位置をキープしている。

 『子供だから仕方ない』と。同級生からそう思われる程、彼も子供である事を強いられている。言い換えれば、少しくらい羽目を外しても大目に見てもらえる存在。

 

 

 だから、少しだけイジワルをしてみた。

 ワタシを小学生扱いした彼が悪い。

 

 

 「あの、A子……? まさか僕にソレを着ろと? いくらなんでも、それはっ……!?」

 

 一発も殴らせてくれないDが悪い。ワタシだって一撃入れば怒りも収まった筈。だけど、彼は生意気にも『技』を駆使して全ての攻撃を逸らしてしまった。そして、暴力ではなく他の解決方法が無いかと聞いてくる始末。ならば、飄々としているDを懲らしめるにはコレしかないだろう。

 

 ワタシの体操着とブルマを着せて、彼に妹のフリをしてもらう! 拒否権はない。

 

 

 「む、無理やり服を脱がさないでくれ! ひゃっ!? 待って、くすぐりは反則……っ! 着る! 着るからぁ!」

 

 彼は、お腹をくすぐられるのが弱いらしい。良い事を知った。今度から、言う事を聞かす時の材料にしよう。今も、顔を赤らめながら大人しくワタシの体操服に着替えてくれている。なんて従順なんだろう……もっと征服したくなる。

 たまに強がって睨んでくる姿がまた良い。そんな顔をしても、根が臆病な事は知ってるから無駄なのに。さあ、早くブルマもはいて?

 

 うん。似合ってる。どこから見ても小学生。脚もツルツルだし、本当に子供みたい。

 

 

 「うぅ……周囲の目が。なんて『辱め』を思いつくんだ君は! ある意味天才だよっ‼︎ 尊厳凌辱マイスターの称号を与えようじゃないか!」

 

 また訳の分からない事を言っている。もしかして、彼の言葉も変換されているのだろうか?

 でも、まだ妄言を吐ける位に余裕があるという証拠だ。もっと先が見たい。次はどうしよう……とりあえず髪型も妹に寄せて、モノマネでもしてもらおうか。

 

 ああ、凄くいい。舌足らずにワタシを「ししょー」と呼ぶD。このまま、屋敷へ連れ帰って本当の妹にしたい位カワイイ。そう言えば、彼の体操服には『黄胡蝶』と書いてあるし、ワタシの妹で間違いないのかもしれない。なら、屋敷へ戻ったらこの子をメイド服に着替えさせないと。それで、明日からは女子の制服を着せて一緒に登校して──

 

 「ししょー? もう勘弁して。僕は妹の理奈じゃないんだ! 僕の方が、理奈より身長が5……3センチも高いんだぞ!」

 

 危うく雰囲気に呑まれる所だったけれど、Dの可哀想なエピソードで我に帰る事ができた。妹に身長を抜かされた時、彼はどんな表情を見せてくれるのだろう。とても楽しみ。

 

 

 この日、Dを精霊研究所へ招いて『精霊回帰(ジン・バック)』に関する全てを説明した。

 元々、彼に伝えるタイミングはワタシの判断に委ねられている。ワタシが彼の心境を一番理解できるからだと、しいな様は言っていた。

 ちなみに彼女は、呪詛返しで身体が膨張してしまい現在は部屋から出ることができない。パンパンに膨れた彼女も可愛いので、早く帰って抱きつきたいけれど──

 

 ワタシが真実を知った時は、しいな様が寄り添ってくれた。

 だから今回は、ワタシがDのサポートをする番だ。

 

 案の定、真実を知らされた彼はどこか上の空といった様子。このままジーナの車で送らせるのは、少し心配。しいな様のお世話は美衣に任せて、ワタシは車へ乗り込む事にした。

 この判断は正解だったのだろう。彼は無事に自宅へと戻り、姉と妹に迎えられていた。あの二人が側に居れば、きっともう大丈夫。

 

 

 「黄胡蝶。あなた、わざと邪魔立てしましたわね? (ワタクシ)だけならば、彼をオメイラガに組み込む事も容易かったでしょうに。しいな様にとって、それが一番の幸福でしょう?」

 

 ジーナ・九重・ブーゲンビリア。しいな様の母親が失踪した事で、彼女は次代の『巫女』として育てられていた。しかし、しいな様の登場でその座から追われ……早い話が、萬宮寿家に怨みを抱いてもおかしくない過去を持つ女性だ。

 現に、幼いしいな様へ余計な事を吹き込んだとして、専属メイドから外されたそうだ。イグナ様の計らいで去年から本邸へと戻ってきたが、専属の立場はワタシと美衣で埋まっている。そのせいなのか、どうにもワタシへの当たりが強くて困る。

 

 「あら、少し車内が冷えますわね。もうすぐ夏だと言うのに、私が『冷え症』なのか寒く感じてしまいますわ。以前は、こんな事など無かったのですけど……アイスになった経験からでしょうか?」

 

 ワタシもスキー場でアイスになったけど、冷え症にはなってない。

 きっと、年齢によるもの?

 

 「……っ‼︎ あ、貴女と違って、私は半年も暗い冷凍庫の中でしたので。おそらく、そのせいですわね! ああ、その節は私が溶けないよう配慮して下さって感謝しておりますわ。鎖で念入りに縛られていたお陰で、誰も扉を開けられず……ふふ、人間に戻ってからも冷凍庫で過ごすという貴重な経験をさせてもらえましたわ!」

 

 またアイスの件でお礼を言われた。これで何回目だろう?

 普段は当たりが強いのに、感謝だけは沢山伝えてくるジーナ。根は良い人なのかも知れない。しいな様へ危害を加えない限りは、ワタシも大目に見てあげよう。

 

 

 それ以降、車内での会話は無かった。

 屋敷に戻ると、ジーナは疲れが出たのか自室へと篭ってしまった。ワタシも少し微熱があるかも知れない……この疲労感は、多分しいな様と12時間近く離れているせいだ。

 早く彼女の元へ急ごう。

 

 半日ぶりに会った彼女は、朝よりも大分スマートになっていた。まだ少し輪郭はふっくらしているけど、胸とお尻以外はプクプクしてない。昨日はお腹もプクプクだったから、ちょっと残念。

 でも、あの胸を枕にすれば良い夢が見れそう。これが専属メイドの特権。呪詛返し中のしいな様とは、一緒のベッドで眠る義務があるから。

 

 「そんな義務は御座いませんわ! あなた達が勝手にベッドへ入ってくるだけでしょう!?」

 

 そう言いつつ、布団をめくってくれる彼女は優しい。美衣はもう横で寝てるし、ワタシも今日はこのまま寝てしまおう。明日になればしいな様も登校できる筈。お風呂は朝に三人で入ればいい。

 しいな様の顔を見た途端、安心して急に眠気が襲ってきた──

 

 この夜。しいな様のプクプクした胸を枕に、幸せな夢を見た気がする。

 よく思い出せないけれど、Dが登場した事は間違いない。彼がワタシの体操服を着てから、ずっと動悸を感じていた。きっとその影響だろう。

 ワタシの妹になった彼の姿が、脳裏に焼き付いているのかもしれない。

 

 

 

 翌朝。

 目が覚めても、頭がふわふわして視界がグルグルと回るような感覚が続いていた。

 

 「詠。今日は、あなたがお休みの番ですわ。厨房には生姜粥を作るように手配しておりますので、それを食べたら安静にしてますのよ?」

 

 「しいなちゃんの護衛は、わたしがするから安心してね。明日から中間テストもあるし、詠ちゃんはしっかり体調を整えてね〜」

 

 高熱を出すなんて久しぶり。萬宮寿家に来てからは初めてかもしれない。でも、これはきっと風邪ではない。昨日から、頭の中で巡っている激しい感情のせいだ。

 考えすぎによる発熱。その原因は多分D。

 あの時、暴力で解決出来ていれば──こんな事にならなかったのに。

 

 

 Dからの子供扱いに怒ったワタシは、繰り出す攻撃のことごとくを躱されてしまった。

 怒ると攻撃が単調になってしまうのは、Mとワタシに共通した弱点。自覚しているけれど、自制は難しい。当たらない攻撃にワタシの怒りは募っていき……どうせなら反撃して来いとDを挑発してしまった。我ながら未熟者だ。

 しかし、そんなワタシの不満に対し彼は平然とこう答えた。

 

 ──え? ジャイアンだって、しずかちゃんには手をあげないだろう?

   ああ、初期は別だけどね。

   しずかちゃんをバットで殴ろうとした問題のシーンは、彼の黒歴史だよ。

 

 

 あの急な告白を受けて、ワタシも変に意識してしまったのだろう。

 彼の『ヒロイン(しずちゃん)』になる気はないけれど、異性として好感を持たれている事は十分理解できたのだから、多少は困惑もする。

 その結果、感情がおかしくなって彼を無理やり女装させ……ワタシは何かに()()()てしまったんだ。ある意味では『成長』したとも言える。だからこそ、無性に悔しい。

 

 やられたら、やり返す。それがワタシの生き方。

 だから、彼を『成長(めざめ)』させるのはワタシの役目。

 

 これだけは、Mにもしいな様にも譲らない。絶対に、ワタシがDの感性を歪ませてみせる!

 

 

 

─了─

 

 

 

 天弓の女神

著:黄胡蝶 詠  

 

 月、火、水、木、金、土、日。

 普段ワタシ達が、当たり前の様に使っている曜日の概念。

 

 これは古代の天文学で定められた『七曜(しちよう)』という考えが基となっている。七つの星を表す言葉。つまり、月、火星、水星、木星、金星、土星、太陽のこと。

 その内から『月と太陽』を『陰と陽』に分類し、残った五つの星を『五行(ごぎょう)』とする説がある。簡単に言えば、万物の全てはその五つの元素で構成されている──という考え。

 

 オメガIII財団の精霊研究所では、この説を基にして『五大属性』と呼称している。

 人間も精霊も基本的には、いずれか一つの属性に分類される。その属性は生涯変わらず、別の属性が追加される事もない。生まれ持った資質と運命。後天的な努力では覆らないヒトの根源とも言える部分が『属性』の基本概念だ。

 

 しかし、例外はある。

 その一つは、精霊回帰。人間としての属性と、精霊としての属性が別々に存在する。

 ちなみにワタシは『土』と『金』だ。

 人間としての属性が土。精霊としての属性は、金に分類されている。白銀童子は鉱山に由来した精霊なので、金属と深い関係があるのだろう。

 

 そして、もう一つの例外が巫女となる。

 人間と精霊の架け橋となる巫女は、特別な修行によって二つ目の属性を手に入れる事ができる。

 しいな様は、生まれた時の属性が金。巫女の修行で手に入れた属性が土となる。

 つまり『金』と『土』……ワタシと全く同じ組み合わせ。初めて聞いた時は一緒だった事に喜んだけれど、今はそれが悔しくて仕方ない。

 

 ワタシも、しいな様と『統合精霊化(ディフュージョン)』したい!

 

 

 「巫女が持ち合わせない属性を外部から注入する事が、統合精霊化の基本ゾイ。同じ属性を入れても、なーんの意味も無いゾイ。エネルギーの無駄」

 

 やはりこの老人、人の心が無い。例の事件で『精霊回帰もどき』になった事とは関係なく、生まれついてのマッドサイエンティストなのだろう。ワタシから、しいな様と合体できるチャンスを奪うなんて鬼の所業としか思えない。

 元はと言えば、シグマ総帥の溜め込んだ『呪詛』が原因で世界に危機が訪れているのに。

 

 

 「詠。それは言わない約束ですわよ。あの件は、お祖父様も被害者ですの。ですが、危機に関しては我らの落ち度というのも事実……美衣、準備はよろしくて?」

 

 「はーい。いつでも大丈夫よ〜」

 

 美衣は『火』と『水』の属性。

 ワタシの目の前で、しいな様が美衣の魂を直接掴み取り、自分の身体へと押し込んでいる。羨ましい……合精霊化と違い、呪物を必要としない『統合精霊化』は巫女と精霊さえいれば何処でも行える。なので今回は、膨大なエネルギーが溢れる可能性を考慮して野外での合体実験。

 多くの研究員が見守る中で、しいな様が煽情的な声をあげながら美衣の魂をゆっくりと馴染ませている。萬宮寿の敷地内とはいえ、野外でこんなエッチな姿を晒すとは彼女達も想定外だった筈。

 

 

 「んんっ……! はぁ、はぁ、あと一息ですわ‼︎」

 

 しいな様が意気込んだ直後、彼女の身体から閃光が迸った。

 合精霊が自爆する際に起こる魂の輝きにも似た閃光──それが収まると、ワタシの眼前には『女神』が降臨していた。

 

 慈愛に満ちた眼差しを向ける彼女は、紛れもなく美衣と融合したしいな様だ。

 背中には翼。手には弓矢。古代ギリシャを思わせる白い衣を纏い、艶やかな金髪を靡かせる女神さま。

 顔と身長はいつものしいな様。黒髪も良いけど、金髪も似合っている。

 だけど、その胸の大きさはおかしい。二人の合算と呼べるような特大バストサイズが、これでもかとワタシの視界を埋め尽くして来る……!

 

 うん。この前使った発明品『アッシュくん』で少し圧縮するべきだ。なんなら、またワタシがサイ怪人になってもいい。

 このサイズでは弓を射る時に邪魔過ぎるだろうし、是非そうしよう。

 

 

 「くっ、凄まじいパワーが溢れています……気を抜いたら、融合が解除されそうですわ! 詠ちゃんが言うように『弓』も使えなさそうですし──直接、ぶん殴って参りますわ‼︎」

 

 女神さまの人格は、なぜか荒っぽいようだ。

 ワタシを『詠ちゃん』と呼ぶ点は、美衣の影響だろうか? しいな様の顔でそう呼ばれるのは新鮮な気分。

 翼をパタパタとはためかせ、彼女は空へと舞い上がった。だけど、危機が存在するのは遥か南の海上。あの速度では、何時間かかるか判らない。長時間の融合が難しい現状では、とても間に合わないだろう。

 

 《ジーナ! 緊急ですので、九重のお屋敷から『柱』を一本、頂戴致しますわよ‼︎》

 

 野外に設置されたモニターから、女神さまの声が流れてくる。その画面には、彼女のオメガバイザーとリンクした視界映像が映し出されている。

 こちらに居るジーナの返答を待たず、女神さまは九重邸の外観を彩る九つの石柱から一本だけを()()()()()()()

 そして、その有り余るパワーで石柱を南の空へ向かって放り投げ──次の瞬間、高速で跳躍し石柱の上へと飛び乗っていた。

 

 まさか現実で、この移動方法を目にするとは……!

 

 空を見上げれば、雲を突き抜け南へと直進している様子が判る。もはやモニターの映像よりも判り易いと言える。雷雲を通った影響かオメガバイザーからの映像は断片的で、音声も途切れ途切れになっているのだから。

 

 

 「素晴らしい……っ! 四属性で、この出力ッ‼︎ 見て下さいまし、黄胡蝶。穿たれた雲が虹色に輝いておりますわ! 先程の爆音から考えても、確実に音速を超えてますわ‼︎」

 

 「音速どころではないゾイ。物理法則を無視して、どんどんと速度を増しておる。もはやマッハ5を超え計測不能だが……わずかに拾えるバイザーの反応を見る限り、本当に危機の元まで辿り着く勢いだゾイ」

 

 ジーナは九重邸の損害など気にせず、統合精霊(ディフュージン)のパワーに感嘆の声をあげている。

 そんな彼女の感想を、シグマ総帥が補足した。生身で音速飛行する事すら通常では考えられないけれど、既に音速の五倍以上の速さを出して女神さまは空を突き進んでいるそうだ。

 物理法則の無視。精霊にのみ許された超常の力。

 

 出発から3分程で、女神さまは約3000km離れた海上へと到達した。

 

 

 摩擦で発火した石柱を『危機』へとぶつけ、その衝撃で周囲の暗雲が晴れる。

 モニターに映し出される精霊の姿は『龍』

 それは、7つの球を集める事で現れる神の龍にも似た姿。

 東洋においてのドラゴン。蛇の様に長い体を持ち、悠々とその巨体で空を駆ける神話の存在。

 

 そんな相手へ怯みもせず、女神さまは意気揚々と戦闘態勢をとっている。

 

 

 《いきますわ、よっ‼︎ レインボーアロー!》

 

 彼女は、手にした弓で直接『龍』を殴り付けた。正確には、弓を握った拳で殴ったと言った方がいいかも知れない。アローという技名を叫びながら、矢をつがえてもいない。萬宮寿流の二人が合体した姿なのに、戦い方はまるで羽吹流だ。

 そんな不意打ちに龍も驚いたのか、目を丸くし硬直してしまった。

 龍は成す術なくレインボーアローの連打を喰らい続け──ついに、その巨体が翻る。

 

 

 《トドメですわ! 最大出力のレインボーブローをぶちかまして差し上げ……えっ?》

 

 「む。いかんっ! エネルギーバランスが崩壊して、融合が解けてしまったゾイ!? しいな、急いで美衣の魂を掴めっ。そのまま、いつもの帰還手順で戻るんだゾイ‼︎」

 

 レインボーブローと名を改めた渾身の『右ストレート』は、龍へ当たる事なく不発。

 融合に限界が訪れ、しいな様と美衣の魂が別れてしまったからだ。しかし、シグマ総帥の咄嗟の判断で、最悪の事態は免れた。

 しいな様が危うく海面へと叩きつけられる所だったので、モニター越しに見ていたワタシ達にも安堵のため息が漏れる。

 そんな弛緩した雰囲気が流れる一方、モニターから流れ出るのは悍ましい声だった──

 

 《ゆ゛る゛さ゛ん゛ぞ》

 

 

 

 3時間後。

 しいな様達が戻ってきた。融合による体力の消耗と長時間の飛行で、二人とも疲労困憊といった様子。そんな状況でも登校すると聞かない彼女らと共に、ワタシもリムジンへと乗り込んだ。

 

 早朝に行われた作戦だが、既に時刻は午前9時を回っている。本日開催される体育祭には、若干の遅刻参加となるだろう。

 車内から窓越しに空を見上げ、二人は満足そうな表情を浮かべている。久々となる澄み渡った青い空。ワタシ達3人の計画が、無事に成功した証。これで、あのお人好しの気苦労も減るだろう。

 

 新担任から半ば強要される形で『体育祭の実行委員』を押し付けられてしまったD。彼の為に、今日だけでも晴天にする。それが、元々の目的だった。

 雨天中止となった場合、彼にかかる負担が大きくなってしまうからだ。しいな様は相変わらずDに甘い。とは言え、しいな様が子供に戻った時のワガママ具合と比べれば実に可愛らしいものだ。長雨の原因もオメイラガにあるので、今回はワタシと美衣も反対しなかった。

 

 その件でシグマ総帥に相談し──統合精霊化というとんでもない計画が語られ、今朝へと至る。

 

 

 オメガバイザーの解析で『龍位精霊(ドライジン)』と区分された精霊。

 あの存在から怨みを買ってしまったが、それは敵の移動経路を固定できたという事でもある。通信の最後「おぬしらを追いかけ、必ず報いを受けさせる」という怨嗟の声が記録されたのだから。

 しかし、一時的とはいえ相手の力を減衰させたのは大きな成果だ。

 気象衛星のデータによれば『渦を巻いた雲』が、南の海上でほぼ停滞した状態でいる事が確認できた。おそらくは力を蓄えているのだろう。こちら側からすれば、猶予期間が生まれたという事だ。

 

 

 「惜しかったですわ……あと一歩という所でしたのに。ですが、起きてしまった事を嘆いても仕方ありませんわね! 詠、私達の分まで体育祭での活躍を期待してますわよ」

 

 「龍位精霊の件は、シグマ様に何か案があるみたいだし。今日は、詠ちゃんの応援に専念するわね〜」

 

 座席にもたれながら、エールを送る二人。その期待には応えるつもりだ。ワタシだけ合体に参加できなかった鬱憤を晴らすいい機会だし。

 しいな様が言うように、起きてしまった事はもう後の祭り。折角の晴天なのだから、今日の祭典くらいは清々しい気分で楽しもう。

 

 だから、シグマ総帥が溢した不穏な独り言も今だけは忘れたい気分。

 

 

 ──「ふーむ……やはり『四属性』では無理があるゾイ。先程の融合では『木属性』が足らんかった。さらに、陰と陽も踏まえるならば──相手は男でないといかん。丁度良い相手がおって助かったゾイ」

 

 

 うん。しいな様に足らない三つの属性『火』『水』『木』。それらを兼ね揃え、しかも男だなんて……そんな都合のいい人物が居る筈ない。

 もし仮に、そんな存在がいるとすればワタシに喧嘩を売っているとしか思えない。

 

 そうだ。先制攻撃で去勢してしまおう。それから女装させて、催眠音声を使って自己認識を女性に書き換えて──

 

 


 

 

 「詠ちゃん? 日記も程々にして、そろそろ寝なきゃダメよ〜。明日は、弟くんが研究所へ遊びに来るんだから」

 

 日記じゃなくて、小説……あ、覗いちゃダメ! これはまだ、誰にも読ませる気がない作品だから。たとえ美衣でも、見たら許さない。

 

 「うふふ。それなら、いつか読ませてね。さ、今日はもう寝ましょう? おいで〜」

 

 そう言って、ベッドへ誘う美衣。ワタシ達のいる部屋は、しいな様の寝室の中に作られたメイド用の控え室。しいな様が呪詛返しを受けていない時は、ここで就寝するのが基本となっている。

 美衣はこうして、ワタシと仲良くする事でしいな様がやきもちを焼く様に仕向ける悪いクセがある。まあ実際に、寂しくなったしいな様がやって来た例もあるので馬鹿にはできないケド。

 

 今も壁の向こうから「べ、別に寂しくありませんわー!」と強がった声が聞こえてくる。

 これは、少し押せばやって来る流れだ。と言うワケで、ワタシも全力で美衣に甘えてみようと思う!

 

 Dには決して真似できない、同性ならではの『甘え方』を披露してあげる。

 

 「ほ、程々にね〜。わたし、詠ちゃんの事は好きだけど、心に決めたヒトがいるから……!」

 

 仕方ない。それなら、夜の体育祭『大玉転がし』は勘弁してあげる。折角Dが考案した競技なのに、ここでまで却下されるなんて可哀想。今頃、彼も哀しみで枕を濡らしているかも……

 

 

 「ディエゴの提案はただの『大玉転がし』ですわ! 却下された理由も、運動会と体育祭の違いからですわよ。それと! よ、夜の体育祭など開催されては堪りませんので、見張りを兼ねて私も一緒に寝てあげますわ」

 

 しいな様が簡単に釣れた。この部屋のベッドで三人寝るのは少し狭いけれど、今はその圧迫感が丁度いい。真ん中に入ったワタシは、二人の胸に押しつぶされそうな勢いだ。

 融合からは省かれたのだし、この感触を存分に堪能させてもらおう。

 これは、いくらDでも真似できない。ワタシだけに許された特権。

 

 もしこの場面を見れば、彼もきっと悔しがるだろう。そして、男に生まれた事を後悔して『妹になりたい』と自分から懇願して来るハズ。彼にそう言わせる事が当面の目標でもある。

 

 

 だけど、今はただ二人の温もりに包まれて眠ってしまいたい気分。

 また夢の中でワタシの妹に会える事を祈って……おやすみなさい。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。