平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話   作:浅学寺のえる

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── Could you take my picture?

 「あら、おはようございます! 今日はプール清掃に適した良いお天気ですわね」

 

 金曜日の朝。最近では珍しい程の快晴。

 清々しい空の下で、しいなさん達と出会った。もはや登校中に彼女達と出会うのは恒例となってしまったが、今日は少しだけ事情が違う。

 彼女達が、極めて一般的な通学方法──つまり『徒歩』で登校しているのだ。

 

 聞けば、長引く悪天候のせいで遂にリムジンのソーラー充電が切れてしまったらしい。

 他の車は使わずに、今日はあえて電車を利用したそうだ。そして学校の最寄り駅で降り、歩いてきた所で僕と遭遇し、今へと至る。

 久しぶりに電車に乗ったからなのか、しいなさんのテンションがやたらと高い。朝の満員電車を経験したとは思えない溌剌さだ。

 

 

 「たまには歩くのもいいですわね! こうして、あなたと沢山お話しできますもの」

 

 「ワタシはめんどくさい。美衣、おんぶして?」

 

 「ふぁ〜……ゴメンねぇ、詠ちゃん。お姉ちゃん、寝不足だからおんぶはムリなの〜。このお天気でソーラーリムジンも充電される筈だし、今日だけ頑張りましょう?」

 

 眠たそうに欠伸をするB子さん。そんな彼女へ、A子は「じゃあ抱っこして」などと無理難題を吹っかけている。どうにもA子は、僕に対して『甘えん坊マウント』を取りたいらしい。

 そう心配せずとも、大丈夫だ。こんな公衆の面前で僕は甘えたりしないから。

 ……別に、堂々と甘える事ができるA子が羨ましくて強がってる訳じゃないぞ。ジト目でニヤニヤするんじゃない!

 

 ダメだ。余計にA子を喜ばせる結果となってしまった。足取りがふらついているB子さんへ寄り添うように密着し、A子が得意気な視線を送ってくる。腹立たしいけれど、地味に車道側をキープしてB子さんを守っている点だけは評価しておこう。ここはまだ一般道なので、実に紳士的な対応だ。

 

 

 「詠。美衣の事をよろしくお願いしますわね? では、(わたくし)達も参りましょうか。ディ──いえ、えーと……あら? その腕時計、身に着けて下さいましたのね!」

 

 ディエゴと呼ぼうとして、しいなさんは咄嗟に誤魔化した。仕方ない。僕の苗字は、彼女にとって少し呼びにくいものだから……いや、別に下ネタとかではないけれど!

 ああ、僕は誰に言い訳しているのだろう? これも、レイワさんとの会話を就寝前だけに制限した弊害だろう。無意識に脳内からのボケとツッコミを期待しているのかも知れない。

 

 昨日は特に、原作知識という真面目な会話しかしていないので『おもしれー女』成分が欠乏気味に……いや、良く考えたらそうでもなかった。

 この()()()に関しては色々と妄言を吐いていたのだし。

 

 

 「その時計、実は『秘密の仕掛け』が御座いますのよ。ふふっ、殿方はそういうのがお好きでしょう? 詳細は、危機を乗り越えた時に教えて差し上げますわね! お楽しみに♪」

 

 それは死亡フラグ。

 だけどレイワさんの影響でフラグは折れているので安心だ。

 なにせ昨晩、腕時計のギミックを見つけてしまったのだから……!

 

 それもこれも、レイワさんが──腕時計型の麻酔銃かもしれない! 詳しく調べて‼︎──などと言ったせいだ。おかげで色々と台無しである。

 しいなさんが腕時計を贈ってきた真意まで、詳らかになってしまった。罪悪感が凄まじい……。

 

 今も嬉しそうに話している彼女に、まさか仕掛けを解除したとは言い出せない。昨日レイワさんから、正直に話す事は美徳だけど『嘘も方便』だと教えられたのだし。

 雄弁は銀。沈黙は金。時計の仕掛けには、気付いていないフリを続けよう。

 

 

 「ところで、あなたは女性ボーカルの楽曲は歌えまして? あの時頂いたCDにも、一曲だけ女性のコーラスが収録されてましたけれど──」

 

 あの曲は、女性歌手への楽曲提供から始まっているんだ。そちらの方が有名だし、まこともカラオケで毎回歌っているよ。

 あ、ああごめん! 僕が歌えるかどうかの話だった。

 もちろん歌える。自慢じゃないけど、僕の特技は『姉さんのモノマネ』なんだ。歌声だって真似できる。だから……んんっ。

 

 ──今日はカラオケ楽しみだね! シーナちゃんと遊べるの、私も嬉しいな〜。

 

 「なっ、なんですのその完成度の高さは!? うぅ、色々と感情がおかしくなってしまうので、安易な真似はなさらないで下さいまし」

 

 

 ──そんなイジワルなこと言わないでよー。私の数少ない特技なんだからー。

 

 「っ……! さては、私の()()()に巻き込んでしまった事への意趣返しですわね!? あ、あなたの方が、よっぽどイジワルですわ!」

 

 少し、からかい過ぎてしまった。僕も放課後が楽しみで、テンションが上がっているのかも知れない。

 奇しくもスキー場の時と同じメンバーでのカラオケ。以前よりも、しいなさんとワッカ達の仲が良好になっているので諍いも少ないだろう。

 彼女が子供に戻った影響で、周囲との関係性が微妙に変化した結果だ。

 

 恒例のハブとマングースの口喧嘩も、最近ではただのじゃれ合いに近い。

 それもその筈だ。聞けば彼女達は、仲違い後もお互いの誕生日にはプレゼントを贈りあっていると言うのだから。素直になった中学生しいなさんの口から発覚した衝撃の事実である。

 犬猿の仲とは一体……。

 

 

 「また、まことの話を……! 誕生日プレゼントは習慣になっていたので、仕方なくですわ! 向こうが送って来るのですから、私が止めたら『敗け』になりますでしょう!?」

 

 しいなさんは4月17日生まれ。まことは5月10日生まれ。

 確かに、まことの方が先にプレゼントを贈る形となる。ちなみに今年の5月10日は、僕とワッカが羽吹流ブートキャンプを終えた日でもある。当然プレゼントを用意する時間も無かったので、僕が少し豪華な朝食を作り、ワッカがその材料費を出すという形で細やかなお祝いをしたのだ。

 

 あの日、早朝に届いた小包が しいなさんからの誕生日プレゼントだったのだろう。まことは、憎まれ口を叩きながらも嬉しそうな表情を浮かべていたのだから。

 最早ここまで来ると、彼女達は敢えて仲が悪いフリをしているとしか思えない。

 

 差し詰め『()百合営業』とでも言ったところか。

 

 

 「あなたは時々、おかしな事を口走りますわね……まあ、カラオケが楽しみなのは解りますけども、まずはプール清掃が御座いますのよ? さあ、急いで片付けますわよ!」

 

 そう言って、走り出すしいなさん。プール掃除へ向けてやる気十分と言った雰囲気だ。

 でもひょっとして、掃除の前に授業がある事を忘れているのでは?

 

 今日は短縮授業と言っても、三時間目までは普通にあるんだけど……!

 

─────────

──────

───

 

 4時間後。

 

 

 「各班、整列! 手際良く終わらせますわよ。デッキブラシの用意はよろしくて!?」

 

 プールサイドに十数名の生徒を整列させ、しいなさんが号令をかける。

 今日は笛教研の為、半日授業。

 もう学校に教師は残っておらず、今から始まる清掃に関しても『生徒会』が監督する事となっている……のだが。何故か、しいなさんが指揮を執っている。

 

 しかも、彼女は全体の指揮を執りながら まことと掃除勝負までしているのだ。

 勝負方法は、どちらがより広くデッキブラシでプール槽を磨けるかの競い合い。僕らが床面を磨く一方で、彼女らが壁面を両サイドから磨き上げている。

 指揮を執る しいなさんと、道具を使うのが苦手な まこと。いい具合に勝負が拮抗しているようだ。

 

 

 「皆さん、順調ですわね! 特に生徒会班の団結力は見事ですわ‼︎」

 

 本来、監督役である生徒会の面々が率先して掃除に参加している。

 生徒会長、以下3名。彼女らは皆、去年しいなさんを追って『九重女学院』から転校してきた2年生で、A組に所属している──

 

 しいなさんに褒められ犬の様に喜んでいる『黒髪ツインドリル』の生徒会長。

 黒髪カチューシャでおっとりとした雰囲気を纏う『糸目キャラ』の副会長。

 日本人形のようなおかっぱ頭で、背が低く寡黙な『ロリキャラ』の書記。

 スラリとした長身で、黒髪ポニーテールが似合う『武人キャラ』の会計。

 

 なんというか……コンパチキャラの様な皆さんだ。いや寧ろ、しいなさん達よりも悪役レベルは上かもしれない。普段から会長は、高笑いを上げて廊下を闊歩しているのだし。

 生徒達の間では「ミーア・クシロンの正体では?」と噂される程だ。僕に言わせてもらえば、ミーア様の高笑いにはもっと品があるのだが……この違いが素人には理解できないようだ。

 

 

 「遅刻班、少し遅れておりますわよ! 他の班と足並みを合わせて下さいまし」

 

 遅刻班と呼ばれた5人のグループ。

 彼らは、僕らと同じくペナルティで参加を強要された人達だ。

 男子が4人に、女子が1人。みな遅刻回数の多さや、素行不良などでこの場へ送り込まれている。

 

 青白い肌をした長身痩躯な男子。

 無精髭を生やしているネズミ顔の男子。

 早くも汗だくになっている小太り気味な男子。

 強面(こわもて)で屈強な体格をした男子。

 

 強面の人以外は、どこかで見たような気もするが……取り敢えず、みんな三年生のようだ。

 うん。流石は、公立から私立への変遷を潜り抜けて来た人達だ。面構えが違う。有り体に言えば、純粋にキャラが濃い。

 

 

 そんな先輩達に混じり、紅一点となっている女子は一年生。

 健康的な日焼け肌。ショートカットが似合い、いかにもスポーツが得意そうな見た目。だが、その実まったく運動ができない彼女は……僕の後輩でもあるタカハシだ。

 どうやら、コンピューター室の冷房を極限まで下げて利用していた件がバレたらしい。顧問不在のパソコン部だからと言って、羽目を外しすぎた結果だ。自業自得だろう。

 

 

 「さあ、あと半分ですわ! 掃除が終われば、プールの利用を許可されていますので頑張りますわよ! ボランティア班も、引き続きお願い致しますわ」

 

 ボランティア班は、自主的に協力を申し出た生徒達。

 先程の遅刻班と生徒会、それと神隠しに遭っていた僕ら4人を除いた残りの参加者がボランティア班となる。まこととB子さんも、この枠で手伝ってくれている。

 ちなみにEは、カラオケ店を予約するという口実で下校済みだ。相変わらず、要領がいい。

 

 そんな彼とは裏腹に、要領が悪い生徒もいた。

 プール掃除の開始直前に、テレビ番組の録画予約を忘れていた事を思い出して帰宅した人がいるのだ。まあ、僕の姉さんなのだが。

 今日は金曜日。夕方には戦隊ヒーローの特撮番組が放送される日。姉さんは、予約を済ませたらこちらへ戻って来ると言っていたけれど──どうやら、その前に終了しそうな勢いだ。

 

 これも、姉さんとB子さんが呼んでくれた『ギャル軍団』のおかげだろう。

 

 

 「弟〜、終わったらウチらとプールで遊ぶんだから頑張んなよー」

 「ホント、理珠っちと似てんよねぇ。マジで男の子?」

 「あっははー。この後、水着になればわかんじゃね?」

 「もーアンタら、あんましイジメてやんなし。弟クンが困ってんだろ」

 

 最初の二人は『金髪キレイ系ギャル』と『青髪パンク系ギャル』

 姉さんのクラスにパンダ怪人が現れた際に『膨張』していた先輩達だ。

 

 あとの二人が『銀髪黒ギャル』と『黒髪姉御ギャル』

 彼女らも、何度か家に遊びに来ていたので面識がある。だけど黒ギャルの女子は、この前まで白ギャルだった筈だけど……まさか、ハカセが裏で糸を引いているのだろうか? JKの認識阻害を悪用して、空前の黒ギャルブームを巻き起こそうと画策しているのでは!?

 

 「んなワケねーだろっ! じっちゃんは一応、正義の博士だぞ!? って言うか、あの人達ってJKの友達じゃん。ほら、前に教えただろ。JKにはギャル仲間がいるって」

 

 ああ、そう言えば聞いた事があった。まさか、こんな身近に居るとは思いもしなかったけど。

 ギャル先輩たちも、ワッカに気付いたようだ。どうやら、JKの義理の弟という事になっているらしい。また妙な設定にしたものだけど……ギャルの標的がワッカへ移動してくれたので文句はない。

 

 あのギャル達に、ロボットギャルのJKと、ゆるふわ系のB子さん、ちびっ子マスコット系の姉さんを足して『七人のパリピギャル軍団』となるのだろう。

 

 

 「私が先ですわ!」「ボクの方が早かったよ!」

 

 ハブとマングースの闘いが終わったようだ。

 結果は引き分け。どちらも同時に掃除を完了させ、壁面の輝き具合まで全く同じだ。もはや仲良しアピールとしか思えない。その証拠に、A子が二人へ嫉妬の視線を送っている。

 

 程なくして、床面の掃除も終了した。

 4人のギャル班。5人の遅刻班。4人の生徒会班。ここに僕ら6人を合わせて、計19名。

 少人数ながらも、わずか30分足らずで掃除を完了させてしまったのだ。

 

 

 「この早さは、全員の協力があってこそですわ。そしてプール槽の輝きも、誰一人として手を抜かずに清掃へ当たった証拠──この場に居る少数精鋭を、我が校の誇りとして私が讃えますわ‼︎」

 

 しいなさんの演説を聞き、生徒会、遅刻班、ギャル軍団から歓声が上がる。

 あれ? 彼女の統率力、高すぎない……?

 

 生徒会長に至っては、狂喜乱舞してツインドリルが高速回転してる。ナニコレ?

 

 

─────────

──────

───

 

 

 「しいな様。ワタシと美衣で、注水の操作をするから」

 

 「そうよ〜。しいなちゃんは機械が苦手なんだし、先に着替えてていいわよー」

 

 

 しいなさんが赤面している。

 大勢の前で『機械オンチ』という弱点がバレてしまい、得意の精神統一も間に合わなかったのだろう。おかげで場に漂っていた熱気が収まりつつある。

 あれだけ得意気に「さあ、注水しますわよ!」と言っておいて、操作方法が判らなかった彼女はポンコツ可愛い。

 

 だけど……その姿を見て、ゲラゲラと笑っていたタカハシは可愛くないので叱っておこう。

 

 

 「ひでぇっス。パイセン、あたしにだけ厳しくねーっスか!? なんなんスかもうっ! 好きの裏返しで意地悪したくなっちゃう小学生男子っスか!? そういう態度、女子には逆効果っスよ」

 

 この後輩、まったく懲りてないな。よりにもよって、僕を小学生扱いするとはいい度胸だ!

 令和ではパワハラになる事を警戒して、後輩には優しく接する傾向らしいけど。生憎とここは『平成』だ。きっちりと教育的指導を──

 

 「わーっ!? パイセンの説教はヘタに正論だから聞いててツラいんスよぉ! そーだ! あたしの水着姿を見て怒りを鎮めて欲しいっス! こんな事もあろうかと、服の下に着てたんスよ‼︎」

 

 体操服を脱ぎ捨て、スクール水着になったタカハシ。あらかじめ服の下に水着を着てくるなんて、まるで小学生だ。もう呆れて説教する気も失せてしまった。

 そもそも、君は泳げなかっただろう……水着を着てる意味が判らない。

 ああ、あと脱ぎ散らかした服はきちんと纏めておきなさい。

 

 「だから説教はカンベンっス……。って言うか、なんなんスかっ!? 女子の水着を見た感想がそれって、パイセンこそ説教されるべきっス‼︎」

 

 「後輩がスクール水着なんて着てるせい。ワタシは大人なビキニ。どう?」

 

 更衣室から出てきたA子が、フリルの付いた水着姿でポーズを決めている。

 でもそれって、子供用の水着なのでは……わっ!? 無言でお腹をくすぐらないでくれ!

 

 

 「詠。プールサイドで暴れては危ないですわよ? 注水も済みましたし、遊ぶのならプールでなさいな。カラオケ店の予約は14時と伺っておりますので、まだ十分遊べますもの」

 

 気付けば、しいなさん達も水着に着替えていた。

 なんというか、彼女が布面積の多い水着姿なのは新鮮だ。ミーア・クシロンの格好よりも、今着ている競泳水着の方が露出面積は余程少ない。

 これがレイワさんの言っていた『ソシャゲの水着キャラが、普段着より露出の減るパターン』なのか。デフォルトが半裸に近いキャラだと、そういったケースもあるらしい。

 

 だけど、際どいコスチュームのミーア様より……健全な水着姿のしいなさんの方が、なんというか魅力的に見える。髪を一つに纏めた姿も似合っていて、つい見惚れてしまいそうだ。

 

 

 「ちょっとDくん。しいなばっか見過ぎ! ボク達も着替えたんだけど!?」

 

 「あらあら〜。しいなちゃんが真っ赤になってプールに飛び込んじゃったわー。うふふ、弟くんも着替えて、一緒に遊びましょう?」

 

 まことは白いビキニ姿。B子さんは薄手のパーカーを着て、腰にパレオを巻いている。

 いや、それよりも──25メートルプールを、注水開始からたった10分で泳げる状態にするなんて、シグマ博士のシステムは凄まじいな。満水までの早さも勿論だけど、水温と水質の管理までしているとは驚きだ。

 ここまでの設備にするならば、野外へ設置せずに屋内プールでも良かったのではと疑問に思う。そうすれば、清掃の手間も大きく省けただろうに。

 

 「できるだけ元の校舎と同じ形に建て替えたからよ〜。わたしや理珠が一年生の頃と、校舎の作り自体は変わってないの。違うのは、大きな図書室ができた事くらいねぇ」

 

 「Dくん。女の子の水着を見た時の反応おかしくない? 大丈夫? 一回、頭を叩いておく?」

 

 わ、わぁ。凄く似合ってるよ、まこと。

 輝く太陽の下で、純白の水着を纏う君はまるで……えーと、まるで……ダメだ。いい例えが出てこない! 火照って若干の赤みを帯びた肌のせいで、余計な物を連想してしまう!

 

 まるで天日干しされた『スルメイカ』だなんて正直に言えば、確実に殴られるぞ!? かといって、沈黙が許される場面でもない。一体、どうすれば──

 

 

 「あーら、()()()さんではございませんの! また懲りずに揉め事を起こしてますのね〜。危なっかしくて、しいな様の近くには相応しくありません事よ。ふふっ、いい加減『分』をわきまえて下さらない?」

 

 丁度いい所で、生徒会長が現れてくれた。しいなさんを崇拝している彼女は、何かと僕らへ因縁を付けてくる。まことに至っては、九重女学院の初等部時代から険悪な関係が続いているらしい。

 よし……沈黙も雄弁もダメな時は、行動こそが解決の鍵だ。少し姑息な手段だけど、僕もレイワさんに倣って『方便』を使おう!

 

 見てごらん、まこと。会長の水着は黒ビキニ。後ろに控えている生徒会役員の3人も、黒ビキニで統一されているだろう?

 きっとあれは、白ビキニへの宣戦布告だ。

 

 「……はい?」

 

 ほら! 会長も「はい」って返事をした。

 もはや『白 vs 黒』の水泳対決をする以外に道はないだろう!

 勝負方法は、25mを『バタフライ→背泳ぎ→平泳ぎ→自由形』で先に泳ぎ切ったチームの勝利とする! 生徒会は四人いるので、リレー形式。まことは個人メドレー形式での参加ッ‼︎

 

 まこと。君なら勝てる! あの四人を打ち負かして白ビキニの強さを証明するんだ。応援してるよ‼︎

 

 「任せてDくん! ボクが全員倒してやるんだから‼︎」

 

 「ちょっと!? なんですのソレ! ワタクシは一言も、勝負をするなんて──ああもうっ!」

 

 まことがプールへ飛び込んでしまえば、会長も自動的に勝負へ参加する事となる。

 負けず嫌いの会長がバタフライで まことを追いかけ、プールサイドの向こうでは、既に副会長と会計の人が待機中だ。こちらに残った書記の子から、鋭い視線が送られてくるけど……概ね計画通りだ。

 

 「こーら、弟くん! あとで、あの子達にきちんと謝るのよ〜? ごめんね、六実(むつみ)ちゃん。わたしの弟が勝手なことしちゃって」

 

 「……べつに、いい。です

 

 B子さんの弟では無いけれど、彼女のお陰でこの場は丸く収まりそうだ。書記の六実さんも、今は準備運動を始めている。ちなみに六実というのは下の名前ではなく、苗字である。

 

 生徒会長の『八柱(やばしら)』さん。

 副会長の『七畝割(ななせわり)』さん。

 書記の『六実』さん。

 会計の『五香(ごこう)』さん。

 

 彼女達は皆、苗字に漢数字が入っているのだ。つくづく、キャラが立ってるなぁ。

 だけど、レイワさん曰く『原作キャラじゃない』そうだ。この世界の基準が判らない……!

 

 それと言うのも、後輩のタカハシは原作に登場するキャラクターらしいのだ。

 今もギャルに話しかけられ、おどおどとしている彼女はアニメ中盤に一度だけ登場するゲストキャラ。原作では全員小学生の設定だけど、僕の後輩である事は変わらないようだ。

 

 レイワさんの情報によると、自作ノートPCの出来で僕と勝負する展開なんだとか。どうやら原作中盤の僕は、自作したノートPCを首から下げてリングリットのサポートをする役回りらしい。

 『クラスメイトD』なんて役名のまま、ヒーローの相棒ポジションへと収まる原作の僕。この件は、快挙と言ってもいいだろう。

 

 だけど……!

 タカハシに『髙橋うるち』というフルネームが設定されている事だけは納得できない‼︎

 

 

 「パイセ〜ン。向こうでギャル達が……って、なんスか怖い顔して!? あたし、何かやっちゃいました!? 思い当たるフシがねぇんスけど!? だって、パイセンが泳げねー事はちゃんと秘密に──」

 

 「おいタカハシ。今バラしてるぞ……はぁ〜、弟クンもコイツには苦労してんだな。けどさ、今は向こうの連中の相手してやってくんない? なんか『鬼太郎ファミリー』で集合写真を撮るんだってさ」

 

 タカハシと一緒に、黒髪の姉御ギャルがやって来た。

 なるほど、鬼太郎ファミリーか。道理で見覚えがあった訳だ。あの男子の先輩達、

 『一反木綿』と『ねずみ男』と『小泣き翁』役で劇に出演した人達だった。

 

 ちなみに青髪ギャルのアイさんが『猫娘』役。

 金髪ギャルのマイさんが、当時は黒髪に染め直しての『ユメコちゃん』役。

 銀髪の現・黒ギャルのユウさんが『砂かけ婆』役となる。

 

 この場には、見事にファミリーが揃っていたのだ。

 まあ、肝心の主人公が不在なのだが。僕が呼ばれているという事はおそらく──

 

 

 「そ。リズの代わりだってさ。ミィも『ぬりかべ』役だったんだろ? 悪いけど、付き合ってあげてくれ。にしても、去年は面白い事やってたんだな。あーしも文化祭見学しとくんだったなァ」

 

 黒髪姉御ギャル。ユアと呼ばれている彼女がおかしな事を言う。

 文化祭見学? 学外の人間でもないのに、どうしてそんな言い回しをするのだろう?

 

 「あー、パイセン。ユアはあたしのクラスメイトっス。姉御肌だけど、まだ15歳なんスよ!」

 

 そう言うことか。落ち着いた雰囲気だし、てっきり姉さんと同い年かと思ってたよ……あれ?

 じゃあ僕は、年下から『弟クン』って呼ばれてる事になるけれど!? なんで!?

 

 

 「もー、弟くん? みんなが呼んでるわよ〜。主役がいないと写真が撮れないでしょ〜?」

 

 B子さんに手を引かれ、三年生の輪の中心へと連れて来られてしまった。

 どうにも居心地が悪い。鬼太郎ファミリーなんて触れ込みだったのに、女性陣はギャルしか居ないのだ。

 特に、金色のビキニを着た銀髪褐色肌の『砂かけ婆』には違和感しかない! ダークエルフって紹介した方が、よっぽど納得できる‼︎

 

 そんな女性陣とは打って変わって、男性陣は()()()()()いる。

 元々の人選から寄せに行ったのだろうけど、色白で長身痩躯な『一反木綿』と、小太りでタレ目な『小泣き爺』と、無精髭とネズミ顔の『ねずみ男』

 まあ、この三人だけなら別に鬼太郎ファミリーには見えないのだろうけど──茶髪で左メカクレの人間が近くに居る事で、自動的に彼らを妖怪へと昇華させてしまう……申し訳ない。

 

 

 「んじゃ、撮りまーす。鬼太郎は真ん中で……って、おまえ! ハーレム気取りかよ!?」

 

 何故かカメラを構えているワッカが、僕に文句を言ってくる。僕だって、姉さんの代理で仕方なくここに居るんだ!

 右手に金髪ギャル。左手に青髪ギャル。そしてB子さんが背中から抱き締めてくる形となっている。あの劇中では、ぬりかべが正ヒロインなので仕方ないんだ。別に役得とか思ってないから!

 

 「ズリぃぞ! 雑誌の最後に載ってるパワーストーンの広告かよっ‼︎」

 

 的確なツッコミを入れてくるワッカ。いいから早く撮って欲しい。

 と言うか、カメラマンは強面の先輩がやるのかと思っていた。彼も集合写真に入るみたいだけど、劇には居なかった筈。そうか、大道具や照明……いや、脚本を担当した可能性も──

 

 「あ、彼は『目玉のおやじ』役よ〜。声だけの出演ね」

 

 「……わしの事が判らんとはっ、鬼太郎〜‼︎ うぅ……っ」

 

 と、父さん!? 声真似のクオリティが高すぎる! 定番の『オイ! 鬼太郎』をチョイスしないなんて、この人はガチの演技派だ。演技に対する熱意が凄い。

 そう言えば劇の時も、この人のアドリブで幕を閉じていた。

 

 ──「人間も妖怪も、お互いを尊重し合えるのなら、そこに種族の違いなどありはせんのだ。鬼太郎よ……ぬりかべと、いやさB子さんと幸せになるんじゃぞォ」

 

 

 咄嗟のセリフとしては、含蓄のある言葉だった。

 妖怪の部分を精霊(ジン)に置き換える事で、僕自身もその言葉に救われているのだから。

 

 

─────────

──────

───

 

 

 写真撮影が終わり、ようやく僕にも自由時間が訪れた。

 

 まこと達はまだ勝負中。どうやら負けを認めない生徒会長が再戦を申し込み、勝負は既に3戦目へと縺れ込んでいるようだ。今はワッカが、僕の代わりに応援してくれている。

 まことの体力には驚かされるけど、全員楽しそうなので一先ずは良かった。

 

 別のレーンでは、姉御ギャルがタカハシに泳ぎを教えており。

 そこから少し離れた場所で、三年生グループがビーチボールで遊んでいる。

 各所で思い思いにプールを楽しんでいるようだ。

 

 

 あれ? しいなさんとA子の姿が何処にも見当たらないな。まさか合精霊化(コンフュージョン)の為に抜け出し──

 

 いや、昨晩レイワさんは今回の怪人役がB子さんだと言っていた。

 彼女は現在、僕の近くで準備体操中。だから先程の考えは杞憂なのだ。

 ちなみにプール回に現れる敵は『ジュゴン怪人』で、特殊能力は『強制愛』らしい。

 ジュゴンの放つ水鉄砲を食らうと、無条件にミーア・クシロンを愛してしまうという中々に強力な能力だけど……僕には効かないと思うので、今日はそれほど警戒していない。

 

 さらに言えば、原作プール回に『タカハシ』は登場しないのだ。ゲストキャラの彼女は、パッと転入して来てパッと転校して行く役回り。再登場フラグを残したまま、原作終了まで出てこない天才少女。それがタカハシだ。

 そんな彼女がこの場に居るのだから、怪人が現れる可能性は極めて低いと言える。

 

 『タカハシが該当エピソード以外で近くに居る』=『原作展開ではない』という図式だ。

 

 なんて分かり易い指標だろう。まるで『妖怪アンテナ』のようだ。

 僕と姉さんと妹の『アホ毛』は常時立ったままなので、アンテナの役割は果たさないというのに。

 僕らは『つむじ』が絶妙な位置にあるせいで、少量の髪の束が頭頂部でピョンと跳ねてしまうのだ。水に濡らせば、乾くまでは大丈夫なんだけれど……

 

 

 「弟くんもせっかく着替えたんだから、お姉ちゃんが泳ぎ方を教えてあげるわよ〜? ほらぁ、怖くないからおいで〜」

 

 う! B子さんに呼ばれると身体が勝手に動いてしまいそうだ……!

 でも僕は別に、泳げない訳じゃないんだ。息継ぎができないだけで、素潜りや犬かきなら問題なく行える。沖縄の海でも、これで乗り切ったんだ。完全にカナヅチのタカハシとは違う。

 それよりもB子さん。しいなさん達が見当たらないけど、一体どこへ──

 

 「ここですわ。あなたも水着に着替えましたのね! 泳ぎが不得手と聞こえましたが、練習は少し待って下さいな。そうですわね……向こうのベンチまで参りましょうか。さあ、行きますわよ!」

 

 しいなさんが、競泳水着に白いパーカーを羽織った姿で現れた。そのまま流れるように僕の腕を引いて、プールサイドの端にあるベンチへ連れて行こうとする。

 彼女がここまで強引なのは珍しい。どこか焦った様子の彼女は、僕を心配するB子さんの声に応じる気配すらない。一体、何を急いでいるのだろう?

 

 

 「こらー! しいなっ‼︎ Dくんを何処へ連れて行く気!?」

 

 「まことには関係ないですわ! 美衣、あの娘の相手をして下さいな」

 

 「ごめんねぇ。お姉ちゃん、寝不足だから……まことちゃんの相手はムリかも〜」

 

 生徒会との勝負を投げ出し、水面から飛び出してきた まこと。

 B子さんが応戦を断ったので、再びハブとマングースの闘いが始まりそうな勢いだ。だけど、しいなさんの様子が何処かおかしい。先程から壁に取り付けられた時計を、しきりに気にしている。

 

 只今の時刻は、12時49分。腕時計は完全防水なので、着替えた今も身に付けている。

 今朝、時報に合わせて秒針も調整済みだ。12時50分まで、あと5、4、3、2──

 

 

 「弟くん。ごめんね……っ!」

 

 急にB子さんに抱き締められ、目の前が暗くなる。

 次の瞬間、身体に電気が走ったような感覚が訪れた。

 

 

 何が起きたんだ?

 急に視界が開けて、全てが明るく見えている。

 プールサイドを忙しなく走り回る小さな影も良く見える。なるほど、あのリスの様な体長1mにも満たない怪人が電気を放った犯人だろう。どうやらタカハシは、不良品の妖怪アンテナだったようだ。

 これは、レイワさんから聞いていた流れと全く違う展開だ。昨日、彼女から詳細を聞き出したせいで僕も寝不足だというのに……ふぁ〜、想定外の事が起きている今ですらあくびが出てくる。

 

 ダメだ。今は眠気を堪えて、頭を働かせないと!

 

 まずは──僕の胸元に顔を埋めている()()()()について考えなければ。

 茶色い髪に、小さな身長。()()を縫って見上げてくる顔は、まるで姉さんとソックリだ。

 だけど姉さんとは髪の分け目が逆。左メカクレ……実写版の鬼太郎? その少年が、僕の膨らんだ胸元へ熱い吐息をかけてくるので、どうにもこそばゆい。

 

 

 いや……なんで僕の身体に『双丘(たわわ)』が付いてるんだっ!?

 

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