平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話 作:浅学寺のえる
葉月 エリス(年齢非公開)
16歳の時にアイドル歌手としてデビュー。
だが多くのライバルに埋もれ、19歳でアイドルを引退。
その後は、マルチタレントとして活動。主にローカル局のバラエティ番組へと出演する。
細々とした活動が実を結び、ついにはラジオ番組を持つまでに至った。
そんな折、不意の体調不良に見舞われ、敢え無く芸能活動を休止する事になる。
生まれ故郷の北海道で二年間の療養を終え、活動再開を果たすが……仕事は泣かず飛ばず。
唯一残っていた冠番組『葉月エリスの選りすぐりラジオ』も打ち切られ、とうとう出演番組がゼロとなる。
と、ここまでが一般公開されている情報……おっと、年齢はファンならば把握していてもおかしくないか。そもそもアイドル時代に公表していた年齢を、あとから隠した所で意味がないのだ。
現在、37歳。そして──
本名、
息子が一人。別れた夫の元に、娘が二人。
現在は、別れた夫の持ち家だった『木嶋家』に居候中。ちなみに、木嶋家の今の家主は『木嶋 みさき』──別れた夫『木嶋
木嶋 柾。41歳、独身。
故郷沖縄を飛び出し、映像分野のプログラマーを目指す。そんな折、番組制作の現場でアイドル葉月エリスと運命的な出会いを果たした。そして、23歳で結婚。翌年に長女『理珠』が誕生。
落ち目とはいえ、アイドルとの結婚。可愛い娘を授かり、念願の職種にまで付くという大金星を挙げた。
しかしながら、仕事に関しては全く羨ましく思えない環境だ。
当時はテレビ業界と言えどパソコンの数が少なく、プログラミングは手書きだったと聞いている。専用の用紙にプログラムを書き込み、それを読み取る機械があったそうだ。
次女『理奈』が誕生した頃になって、ようやくパソコンでプログラミングできる様になったと溢していた。
丁度その頃、こちらの大学へ通うため妹の『みさき』が同居する事となる。
家を飛び出した長男だが、実家との仲は良好。
その反面、妻の実家からは蛇蝎の如く嫌われていた。
アイドルになる事すら反対していた北海道の義父は、娘の結婚式にすら出席しない頑固者だったのだ。
転機が訪れたのは、今から四年前。
葉月エリスが、33歳の厄年を迎える年だった──
医者ですら匙を投げた症状。そんな中、みさきさんが「故郷へ帰れば、きっと良くなる」と道を示してくれた。彼女の勘は不思議と良く当たる。何より、他に試せる手段もなく……
両親は、葉蕗家との和解を試みたのだった。
電話口で祖父が出した帰郷の条件は『離婚』か『引退』。どちらかを果たせば、帰郷を許すと言われ──父と母は呆気なく『離婚』を選択した。
体調が戻ったら再婚すればいいと。実に簡単に物事を考えていたのである。
それに巻き込まれ『ハブキ姓』となった息子が、羽吹姓の幼馴染からとんでもない勘違いをされていたとも知らずに……
──「ヒドいよDくん! 勝手にボクと結婚するなんて‼︎ この裏切り者! 君とはもう離婚するんだから‼︎ 北海道でもどこでも行っちゃえ!」
──「D。まことの勘違いは、ワタシがどうにかする。でも『約束』の件は納得しないと思う。ワタシだって、そうだから……」
同じ中学校へ行く約束を果たせなかった僕は『裏切り者』に変わり無い。彼女達に返す言葉はなかったのだ。僕は結局、母さんに着いて行くと決めたのだから。
かくして。親子ともども『離婚』を済ませ、僕と母さんは北海道へと向かった。
冷遇されるかと覚悟していた僕らは、驚くほど好意的に迎え入れられた。祖父母も、ずっと和解する機会を望んでいたのだろう。具合の悪い娘を前にすれば、そこに貫き通す『意地』など存在しなかったのだ。
呆気ないほど簡単に、母さんは生家で療養する事を許されたのだった。
父から仲裁役を任されていた僕としては、とんだ肩透かしを喰らった気分。これでは、幼馴染を裏切って北海道までやってきた意味がない。
なので僕は、父と祖父の間にある蟠りを解消する事にしたのだ。
ノリが軽い父と、厳格な祖父。一見すると相反する二人だったが、意外な事に共通点は多かった。どちらも趣味は歌唱。タバコとギャンブルは嫌うが、酒は大好物。
そして何より、二人とも母さんの事を愛している。
強引に二人を会わせ、僕が間を取り以てば、あとは勝手に仲良くなったのだった。
母さんは二年間の療養を終え、完全に快復。
再婚も許され、順風満帆で笛市へ戻れるかと思われた。
しかし、離婚の弊害が新たな問題を生み出してしまったのだ。
沖縄の風習。後継者問題。それらが発端で、再婚は先送りとなる。母さんは居候として、義妹の名義となった木嶋家で暮らす事となった。
そして、僕は父と共に今度は沖縄へ旅立って──と。
ここまで話せば、さすがに判ってくれたかな?
「うん。信じ難いけど……美衣の中身は『でぃ君』って事なんだよね?」
ようやく、信じてもらえた様だ。
思った以上に、僕が『僕』である事を証明するのは大変だった……。
それもこれも全て、母さんの間の悪さに起因している!
姉さんが想定よりも早く学校へ戻って来れたのは、家で暇していた母さんが車を出してくれたからなのだ。今日はアイドル時代のコネを頼って、番組制作会社を訪ねる予定だと言っていたのに……大方、袖にされて蜻蛉返りしたのだろう。
おかげで、姉さんがこの場へと鉢合わせる羽目になってしまったのだ。
「あー! でも、どうしよう!? お母さん、外で待ってるんだった! 息子が変態じゃなかったって知らせたいけど、『真実』の方がよっぽど衝撃的だよねっ!?」
息子が、娘の親友の女の子になりました──うん。卒倒してしまうな。
だけど困った。そうなると、僕に対する誤解を晴らせない。
笛壱高校の職員玄関は、校門から直線上に位置している。中二階という程よい高低差もあって、校門横にある駐車場から中が
おそらく母さんは、未だに鏡へチュッチュしている『僕』を車内から観察しているのだろう。
ああ、しかも僕の体は『女装』までしてるんだった。
これは既に卒倒していても不思議じゃないな……。
「あはは。お母さんへの報告は、一先ず置いておいて──私の見立てだと『集団入れ替わり』が発生してると思うんだけど、合ってるー?」
さすが姉さん。冷静になれば、簡単に答えへと辿り着いてしまう。
姉さんの読み通り、プールに現れた怪人の能力でみんな入れ替わってしまったんだ。ギャルも、生徒会も、妖怪の先輩達も、バラバラに入れ替わり続けてる。
当然、僕達も同様に入れ替わってる。この場にいる四人は──
「ストップ! もう全部判ったから大丈夫だよー。つまり、『シーナちゃん』と『まことちゃん』も中身は別人。ふふふ、私の観察眼は誤魔化せないよ〜……ズバリ! 今の二人はワッカくんと、井伊くんでしょ‼︎」
「なっ……!」「ちょ……!」
迷推理を披露しないでくれ! 二人が絶句してるじゃないか。
大方、僕の胸を揉んでる姿を見てワッカとEを連想したのだろうけど、彼女達はお互いで入れ替わっている状態だよ。
僕ら四人は早めに避難できたから、複雑な入れ替わり方はしてないんだ。
「ふ、二人ともゴメンね!? あれ……でも、ミィ君。それだと、鏡にチュッチュしてる『でぃ君』の中身も『美衣』って事になるんだけど……?」
誰が『ミィ君』だ! ネコみたいな渾名を付けないでくれ。
……姉さんが信じ難いのも解るけれど、そこにいる『僕』の中身はB子さんなんだ。
彼女は今、鏡に映った姿に魅了されている。一種の催眠状態と言えるだろう。
僕らの声も届かないし、正常な判断ができているかも怪しい。だから、常識はずれな行動にも少し目をつぶってあげて欲しい。
きっと、彼女に悪気はないんだ。
「そっか……美衣が、でぃ君を。う〜ん、複雑だなぁ。弟がモテすぎて、ちょっと怖いまであるね! 私はてっきり、そこの二人か詠ちゃんが将来の義妹になると思ってたんだけど──」
「「ふぇ!?」」
今度は綺麗にハモった二人。そして、またしても絶句してしまった。
姉さんも、そういう冗談は程々にして欲しいものだ。まことがまた勘違いして、僕と『離婚』するなんて言い出したらどうするんだ。僕は16歳にしてバツ2になってしまうだろう。
それと、B子さんに関しては物凄い誤解があるんだけど……説明し辛いなぁ。
一人芝居・第三幕が『人魚姫』をモチーフにしているせいで、余計に紛らわしいのだ。
内容は、声を失ったB子さんと、王子様の恋物語。王子様は勿論『姉さん』となる。
「……」
「安心するんだ、B子。
「……」
「海の魔女がやって来ても、必ず守り抜いてみせる!」
「……!」
「B子っ、B子……んっ」
またしてもキスシーンに突入してしまった……一人称『僕』で、僕の身体なんだから、それはもう僕だ‼︎ 女子の制服を着た自称王子様の僕だよ!
あまりにも性癖が錯綜しすぎて、流石の姉さんでも理解不能だろう!?
「海の魔女……一人二役なのに、片方は無声演技……『人魚姫』? でも、相手役はでぃ君じゃないよね……美衣の事を『B子』って呼んでいるし──そっか、鬼太郎だ‼︎ 去年の文化祭の鬼太郎をベースにして、オリジナルエピソードを演じてるんだ」
えっ、そうなの?
確かに僕は、彼女を呼ぶ時は『美衣さん』または『お姉ちゃん』って呼んでるけど……ああ、睨まないでくれ姉さん! これも、一種の不思議な力のせいなんだ。きっと。
ともかく、王子様もとい鬼太郎は僕じゃないんだ。彼女の想い人も、僕じゃない。
僕に推理のいろはを教えてくれた姉さんならば、もう答えは解っているだろう?
ありえない事を除外して行き、最後に残ったものが真実なのだから。
「今回は、それとは逆かな。初めに直感で答えに辿り着いてたからねー。でも、美衣の想い人がでぃ君って考えた方が世間的にはしっくりくるから……つい、逃げちゃってた。よし──」
覚悟を決めた姉さんが、芝居へと参入する。
第四幕はノンフィクション。姉さんとB子さんだけの二人芝居。
おそらく、B子さんの『魅了』はもう解けている……本物を前にして、鏡写しの偽物が敵う訳もないのだ。
僕も、まことも、しいなさんも、二人の
声を奪うのは、海の魔女だけでは無かった。
心を奪うのも、精霊の力だけでは無かった。
『尊い』と思う感情。
ただそれだけで、人は目を奪われてしまうのだから──
「美衣さん……泣いてたケド、大丈夫かな?」
静寂が訪れた階段の踊り場で、まことが問いかけてくる。
現在この場に残っているのは、僕と彼女のみ。肉体で言えば、B子さんと しいなさんとなる。
僕らの身体──彼女達は、姉さんと一緒に2階の空き教室へと移動した。
B子さんは別れ際、僕に「ごめんね」と謝ってくれた。
だけど僕には、泣いている彼女へ返す言葉が何も思い付かなかった。彼女が返してくれた腕時計を、黙って受け取る事しかできなかったのだ。
そんな不甲斐ない僕と違って、あの二人ならばB子さんも安心だろう。
きっと、悪いようにはならない筈だ。
「そっか……ところで、Dくん。君のお母さんの体調不良って、もしかして『
あ、言われてみれば確かに!
母さんだって、コロポックルの子孫なんだ。何かしらの影響を受けていても不思議じゃない。
長く故郷を離れた事による弊害? そう考えると腑に落ちる。
実際、みさきさんの言葉通り、北海道で過ごす内にみるみる体調が良くなったのだから。祖父が寂しがるので二年も滞在したけれど、半年程度で芸能活動を再開できるコンディションにまで回復していたのだ。
「精霊の子孫『
まさに、その通りなんだけど……まことが鋭過ぎないか!?
戦闘時の頭のキレは瞠目に値するけれど、この推理力は流石に異常だ。そもそも、彼女の脳内にアイヌ語なんて皆無の筈。
アイヌ式格闘術でもあれば話は別だけど、あいにくそう言った武術に心当たりはない。なのでアイヌ語は、まことが興味をもって学習する対象ではないのだ。
「たぶん、しいなの知識だと思う。なんだか、時間が経つほどに『ボク』と『
完全に無意識だった。
今の時刻は13時31分。既に『入れ替わり』から40分以上経過している。
その時間で、僕らはゆっくりと
えっと、パソコンで上手く例えられそうなんだけど……
僕というユーザーが、B子さんのPCにアクセスしてる状態だろうか?
当然、CPUもHDDもB子さんの物だ。
おそらく『魂』が外付け記憶装置の役割を果たしているので、僕の記憶は維持されている。
だけど、時間が経つにつれて徐々に読み込みが遅くなっていく印象だ。こういったパソコンの知識も、思い出し辛くなっている。
既に僕が、B子さんの脳で思考する事に馴染んでしまった証拠なのだろう。
これは、本格的に急がないとマズい! 取り返しが付かない事になってしまう!
「だね。君達だけでも戻せれば良かったケド、しいなの『裏技』が不発だった以上は基本に立ち返ろう! つまり怪人を倒すのが一番ってコトですわ‼︎」
まことが『ですわ』って言った……だけど、当の本人は気付いていない?
無意識という事か。だとすると、僕も知らずに『そうねぇ〜』とか『あらあら〜』とか口走っていそうで怖い! 早くシマリス怪人を倒さねば!
とは言え、今の僕に肉弾戦は無理だ。いくらB子さんの身体に馴染もうとも、この肉体自体が徒手空拳に向いていない。胸の重さに違和感が無くなっても、普段の僕のような動きは不可能なのだ。
さて、どうしたものか……
「むむっ! 何か近づいてる気配っ‼︎ 職員玄関の正面ですわ……!? 伏せて、Dくん!」
突然まことに腕を引かれ、床へ組み敷かれてしまった。
そのまま彼女は、僕の胸へと顔を埋めて少しでも姿勢を低くするよう努めている。ふざけている様な行動だが、まとう雰囲気は至って真面目──
一呼吸置いたのち、職員玄関のガラス扉が盛大に砕け散った。
現れたのはリングリット。
勢いよく床を転げ回り、僕らのいる『踊り場』までヒーローがやって来たのだ。
「はぁ、はぁ、もームリ! ワッくん、変身解除すっからねっ‼︎」
ヒーローのヘルメットから発せられるのは、JKの声。
どうやら、床へと寝転んだまま変身を解除する気らしい。蒸気を噴き上げ、スーツに亀裂が入ったかと思えば……次の瞬間、その場には倒れたワッカとJKが居た。
あれだけ時間のかかる変身が、解除の際はこうもあっさりと行くものなのか。
だけど、彼らが変身を解いたというのに『入れ替わり』は解除されていない。
僕の胸元には未だに双丘が聳え立っているのだから‼︎
まさか、敵前逃亡してきたのだろうか!? 幕末の羽吹流ならば、士道不覚悟で『切腹』案件だぞ! 呑気に寝てないで、何か答えてくれワッカ!
「ちょ、ワッくん限界なんだし、勘弁したげて──って、ミィ!? うげっ」
JKが僕を見て、苦虫を噛んだような顔をする。少しショックだ……。
姉さんを含め、ギャル軍団の一員であるB子さんとJK。二人は友達の筈なんだけど。
「あ、JKと美衣さん達って友達なんだっけ? 安心して、ヒーローの正体がバレた訳じゃないよ。今の美衣さんの中身はDくんだから。ちなみにボクは、まことですわ」
「そっか『入れ替わり』! 戦闘で疲れすぎて、完全に忘れてたし!? ケド、D坊とマコマコなら記憶消す必要ないから助かるー。てか、D坊の口調なんなん? 『あらあら〜、士道不覚悟で切腹よぉ』って、マジでミィみたいでウケるんですけど‼︎」
うげっ。僕はそんな事を口走っていたのか!?
B子さんの姿で『丁寧口調ドSキャラお姉さん』を再現していたとは! もっと気を付けて発言しないと、彼女のイメージを損ねてしまうな。
「ん〜? ケドさ、あの子って割とそんなカンジっしょ。ほら、アタシとD坊が精霊研究所に行った時、ミィはアタシと初対面のフリしてたじゃん? なんかさー、アタシってあの子に嫌われてるんだよねぇ。あ、D坊。女子のグループだと良くある事だし、あんま気にすんなって!」
「うんうん。ボクも判るよ! グループのみんなが仲良しって訳じゃないんですの。ボクなんか『羽吹さんは、ハブキくんとか、助平コンビと居る方がいいんじゃない?』って遠巻きにされてますもの!」
助平トリオと括られてない件は朗報だったけど、まことのケースは少し違う気がする……。
だけど、あのB子さんがJKを嫌っている?
他のギャル達とは仲が良い雰囲気だったのに。彼女達の渾名にも、上手い事馴染んでいるし。
『アイ』『マイ』『ミィ』『ユウ』『ユア』と、まるで人称代名詞の変化を思わせる渾名。
姉さんの名前が『リズ』ではなく『ユアーズ』だったら、さらに馴染んだだろうに。そう考えると、『JK』という名前は物凄く浮いているような気が……?
「あー、アタシ一応『
原因はそれだ!
B子さんは、令和で言うところの『クソデカ感情』を姉さんへ向けている。彼女からすれば、JKは恋敵に見えていたのだろう。悪感情を抱いても不思議じゃない。
うん。疑問解消……って、呑気に姉さんの話をしてる場合じゃなかった!?
「そーだった! D坊、その理珠っちが大変なんだし!? いーい? 落ち着いて聞いて……実は今回の怪人、理珠っちかもしんないのっ!」
え……?
「混乱はあと! ちゃんと理由を説明すっから……えーと、まず小ちゃくてカワイイでしょ? それに『シマリズーα』って名乗ったんだし!」
り、理由が弱いっ……!
シマリス怪人だからシマリズー? また随分と安直なネーミングだなぁ。
『リス』でなく『リズ』なのは、確かに『木嶋 理珠』から名前をもじっていそうだ。それこそ、小さい繋がりで連想したのだろうか?
まあ、何にせよ──
「それはJKの勘違いですわ。ボクとDくんは、さっきまで理珠さんと一緒にいたんですもの」
「そーなん!? じゃあ、ワッくんが悩んでたの完全に無駄だったじゃん!?」
まことが言う様に、シマリズーαが姉さんでない事は判明している。
何やら葛藤していたらしいワッカには、申し訳ない限りだ。
そんな彼は、未だに目覚める気配がない……きっと激戦を繰り広げたのだろう。
JK。まずは、ここまでの経緯を教えてほしい──
「──ってカンジ。どしたD坊? 溜め息なんか吐いちゃって!」
想像以上にヒドい内容だった。
簡単にまとめると──
ワッカは、逃げ回る怪人に向けて『クロスリット・ハイロゥ』を展開するも、小さくて素早い敵を捕える事はできなかった。追いかけっこに辟易した彼は『説得』を試みる。シマリズーαを姉さんだと勘違いしていた為の行動だ。
なので当然、敵は説得に応じる事などなく……逆にヒーローを煽ってきたそうだ。
──「正義の味方のクセに、こんな小さな怪人にも勝てないの? ププッ、ザコすぎ」
その一言で、ワッカは逆上。
逆上して『フォームチェンジ』したのだ。
JKに拡張された新機能を、敵の挑発に乗って初披露してしまったのだ……。
黒のメタリックボディ『リングリット・
太陽を背に受け、ソーラーエネルギーを自身の腕力へと転換する
そう。完全に使う場面を間違えているのである。
哀れヒーローは、有り余るパワーを全く活かせずに『フォームチェンジ』の時間切れが迫る。
そして、破れかぶれとなり──新必殺技を発動したのだ。
──「
Eフォーム最大の特徴『ダイヤモンドリング』
それは太陽エネルギーを吸収できる直径1mの大きなリングであり、
明らかな設計ミス。
敵に背中を見せての光線技とか、格好悪いにも程がある!
ただでさえ敵を捕捉できない状態で、後ろ向きにビームを放っても当たる訳がない‼︎
問題点が多過ぎて、もう僕は溜め息しか出てこないよ……。
「んー、グリットシャインは初めて使ったかんねー。ほら、最近雨ばっかだったし」
試す機会がないままの実戦投入……まあ、理由が天候のせいならば仕方ないか。
久しぶりの晴天となる今日は、初お披露目には絶好の機会だったのだろう。
でも、敵との相性は考えるべきだ!
初登場で活躍できない『フォームチェンジ』なんて、視聴者の子供をガッカリさせるだけじゃないか! 僕だってガッカリだよ! ヒーローって言うのは、もっとこう、カッコいい存在じゃないとダメなんだ‼︎
「あっはっはー。身体は美衣でも、心はちゃんと『男の子』じゃーん。ならD坊も、早く新機能を試したくてウズウズしてたワッくんの気持ちが分かるっしょ?」
う……それを言われると、ぐうの音も出ない。
「Dくんが黙ってしまいましたわ。ところでJK、ワッカくんは怪人を理珠さんだと勘違いしてましたのよね? だけど今の話だと、途中から理珠さんに対して酷い仕打ちでしてよ? 必殺技が外れたから良かったケド、もし当たっていたら……」
「あー、ヘーキヘーキ。ビームが当たっても、元の動物と『魂』が分離するだけだし。アイツらって、ダメージが限界を超えっと、そーなる仕組みなの」
自爆と同じ原理か。元の動物はいつも無傷だし、魂も無事に逃げ仰せている。
ビームが当たりさえすれば、事件は解決していたという事だ。
しかしそれは叶わず、ワッカは慣れない必殺技で体力を使い果たし……こうして今も眠り続けているのだ。
「もう一つ疑問が残ってますわ。力を使い果たした状態で、どうやって此処まで逃げてこられましたの?」
「えーと、まずワッくんが気絶するっしょ? けど、ソーラーエネルギーの方はまだ残ってる。あっはっは……そんな状態で背中からビームが出たままだと、どーなると思う?」
脚の力が抜け、踏み込みが効かず……背中から噴射する力に身を任せることになる。
制御不能な状態で校舎まで吹き飛び、現在に至るという訳か。
踏んだり蹴ったりの『フォームチェンジ』だなぁ。
トリモチを出す『グリットライム・ドーナッツ』の方が、初回で活躍した分まだマシだよ。
あれ? そう言えば、JKには新機能を搭載できる程の『メモリ』が残っていなかった筈。どうやってバージョンアップしたのだろうか?
「それはD坊が連れてきたあの子が……ってアタシの仕様よりも、今は敵の攻略が先っしょ! ワッくんは起きる気配ゼロだし、ハカセとの通信は戦闘の途中から妨害電波で邪魔されてるし! あとはもう、D坊とマコマコだけが頼りなんだから‼︎」
一般人への信頼が厚いっ!
いつの間にか、僕らは都合のいい『お助けキャラ』ポジションに据えられていた様だ。
確かに何度か まことが闘う事で解決したパターンもあるけれど、今回は事情が違う。
シマリス怪人は素早く、体躯も小さい。ただでさえ闘いづらい相手だというのに、僕らは他人の身体になっているのだ。流石のまことでも、格闘戦で怪人を倒し切るのは不可能だろう。
「Dくんの言う通り、今のボクじゃ怪人の速さに対応できませんわ。ですが、何も闘って倒す事だけが勝負では御座いませんのよ? 今回は、
トントンと頭を指差し、高笑いを上げる まこと……まこと?
もうキャラがブレ過ぎて、本当に彼女なのか怪しく思えてきた。
「いかがかしら、Dくん。ボクの立てた作戦は完璧では御座いませんこと?」
クロスリット・ハイロゥを地面に忍ばせ、その上を通った怪人を捕える、か。
敵の素早さと真っ向勝負せず『罠』で迎え撃つ作戦。彼女らしからぬ発想だけど、確かに理に適っている。ハカセとの通信が途絶えているので、ハイロゥの制御はJK頼みになるものの……僕らが囮になって敵を上手く誘導すれば、JKの負担も大幅に減らせるだろう。
だけど問題は、肝心要のリングリットが未だに気絶中だという点。
「あ、Dくん。彼の頭が重いのでしたらボクが代わりますわよ?」
いや大丈夫。しいなさんボディにワッカを『膝枕』させる位ならば、まだ僕がした方がいい。それにしても、一向に起きる気配がないなぁ。いや、僕の視点では胸が邪魔で彼の顔は見えないけど、この状況で起きていれば邪な気配を発するのがワッカだ。狸寝入りの可能性はゼロだろう。
しかし、彼が目覚めない事には妙案が出た所で何も始まらない。
リングリットに変身できるのは、ワッカだけなのだから──
「D坊、リングリットは別にワッくん意外でも変身できっけど? ワッくんが負けた時点で、アタシはD坊かマコマコに着てもらう予定だったし。それでどうにかビームの噴出角度を制御して、人の熱源反応があったここに飛んで来たってワケ!」
……!! それじゃあ、僕がヒーローに変身して闘うよ!
「はぁ!? んな、デッカいおっぱいでアタシを着れるワケねーだろ‼︎ ふざけんなし! しいなチャンですら無理だかんね!?」
ひどい。JKが期待させる様な事を言った癖に、マジギレされた……。
さっきのは、元の僕らの身体ならばという話だったのか。くっ、どうして千載一遇のチャンスで僕はB子さんになってるんだ!
入れ替わって、そろそろ一時間。今ほど自分の身体を恋しく思った瞬間はない‼︎
「ボクでもダメなんですのね……そうですわ! 二階に居る『しいな』か『美衣さん』に事情を話して──」
「待って、まことちゃん。美衣は大分落ち着いたけど、シーナちゃんと二人きりで何か話したいみたいなの。今は、そっとしておいてあげたいんだ」
まことの発案を遮るように、二階から現れたのは──まさかの姉さんだ。
僕らの会話を聞いていたのだろうか? 神妙な面持ちで、階段を降りてくる。
「ケイがロボットなのは薄々気付いてたけど、まさかヒーロースーツだとは思わなかったよ。でも、話を聴いちゃった以上は放って置けない! 私が『リングリット』になるよ‼︎」
そう宣言した姉さんの口元は、どこか嬉しそうだった。