平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話   作:浅学寺のえる

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#19 魂の帰還/入れ替わり回 ⑤

 「──さあ! 行きますわよ、Dくん。『作戦』の要は、如何に上手く敵を誘い込めるかですわ。つまり、ボク達の働きが成否を左右しますのよ‼︎」

 

 

 まことが、囮役の重要性を語る。

 ちなみに現在の彼女は『しいなさん成分80%配合』といった具合だ。時間経過によって、肉体と魂が馴染んでしまった結果である。

 斯く言う僕も、B子さんの身体に馴染んでしまった。あれだけ体幹のバランスを乱していた『たわわ』とも、既に違和感なく付き合えている。何度も転びかけていた僕が、今では走る事すら可能なのだ。

 まあ、あまりスピードを出せないのが難点ではあるが。

 

 「全力疾走は、敵から逃げる時だけですわ。先程、理珠さんに忠告されましたでしょう?」

 

 そう。姉さんが『靭帯』『損傷』『垂れる』という怖いワードを並べて来たのだ。

 そしてトドメに「もし美衣の胸が垂れたら、罰として『でぃ君ボディ』からも()()ね〜」と脅されている。恐ろしくて「どの部位を?」とは聞けなかった。

 姉さんは、やる時はやる人なのだから……!

 

 「うふふ。だからこそ、理珠さんに『リングリット』という大役を任せられますのよ! 彼女の準備は万端。ボク達も負けていられませんわ!」

 

 

 既に、姉さん扮するリングリットは罠を張って待機中。

 まことが作戦を立ててから、5分。僕らは迅速に行動できている。

 ひとえに、ヒーローの変身シーン(きがえ)が光の速さで済んだ事に起因しているだろう。姉さんの背丈は、本来の僕と同じ身長158㎝。胸部を含め細身なその身体で、裏返ったJKをいとも簡単に装着してしまったのだ。

 

 これだけを聞くと、主人公交代案件なのだが──

 

 

▲▲▽▽◀︎▷◀︎▷

 

 

 ──5分前。

 

 「いーい? 理珠っちが小っちゃいお陰で、なんなくアタシを着れたケド! ワッくんと違って特殊攻撃を食らったらアウトだかんね?」

 

 あらゆる特殊攻撃を無効化するという特性。いわゆる『チート耐性』は、リングリット固有の能力ではなく、ワッカ自身が生まれながらに授かったものなのだ。

 変身する事で、JKもその恩恵に与れるのだと聞いている。なので姉さんがヒーローとなる場合、敵と対峙する訳にはいかない。

 もし、敵の能力でJKと誰かが入れ替わってしまえば、成す術が無くなるんだ。

 

 「そーゆーコト。『精霊機巧(ジンノイド)』のアタシだって『魂』は同じだかんね。さすがの理珠っちでも、いきなりこの機巧(カラダ)に入れ替えられたら、制御するのは無理っしょ? 特にスーツモードなんて、全部の感覚が裏返ってるカンジだし!」

 

 「う〜ん、どうだろ? 機械のカラダかぁ。それもイイなぁ〜」

 

 良くない!

 そもそも、自分の運動神経を考えて欲しい。姉さんに格闘戦は絶対に無理だ。

 ここは大人しく、まことが立てた作戦で行くべきだろう。

 

 「そうですわ。理珠さんは元々、争い事が苦手でしょう? 必殺技の『罠』を仕掛けて下されば、あとはボクとDくんで敵を誘導致しますわ!」

 

 「ちょっと〜! それだと私、何もやる事ないんだよ!? 必殺技は、けいが制御するんだし! 私にも活躍させ──ふぇ?」

 

 姉さんの文句を遮る形で、JKの頭部がヘルメットに変形してしまった。

 これで完全に『リングリット』への変身完了だ。確か、決めセリフは──

 

 

 「光速真芯・リングリット!! 転・輪・完・了‼︎ 今日も光の速さで解決するぜ〜っ! あはは、スゴーい! セリフの字幕がモニターに表示される仕組みなんだ〜」

 

 《んー、理珠っちとのシンクロ率だと……出力はワッくんの1割程度ってカンジ?》

 

 未知の科学力に喜ぶ姉さんを無視して、JKが冷静な分析を告げてくる。

 どうやら、ヒーロースーツの出力は装着者によって変化するらしい。

 中身が姉さんの状態では、必殺技『クロスリット・ハイロゥ』の展開数もワッカの1割。

 つまり、3本が限界となってしまうそうだ。

 この数字は、罠を張れる最大数でもある。そう考えると、少し心許ないなぁ。

 

 

 《ま、アタシ的には制御する数が少なくて逆に助かるし!》

 

 「ええ。どの道、罠は一度失敗すれば次が御座いませんもの。三箇所だけでも充分ですわ」

 

 「そうだよー、でぃ君。自分がヒーローに変身できないからって、ワガママ言わないの。めっ!」

 

 最初にワガママを言ったのは姉さんだろう!?

 どうして僕が責められてるんだ……!

 

─────────

──────

───

 

 中庭。

 

 職員玄関にワッカを置き去りにして、ピロティへとやって来た僕ら。

 北校舎と南校舎の間にある中庭は、渡り廊下を挟んで東西に別れている構造だ。『コの字型』の庭が、二つあると表現してもいい。

 四方が囲まれている訳ではないので、西側はプール場や体育館と地続きになっている。現在リングリットが走っている動線こそ、()()()()()()プール場へまで繋がっている細い遊歩道なのだ。

 

 草木が生い茂り、かつての道はもはや見当たらない。

 5月上旬には綺麗だった中庭も、天候と学校行事と業者のスケジュールが絶妙に噛み合わなかった為に『小規模なジャングル』と化しているのだ。

 萬宮寿イグナの管理下に於いて、この庭の惨状はあるまじき光景なのだが……むしろ今回は、手入れの施されていない状態で良かったと言える。

 

 酷い所では、膝の高さ。道が存在していた場所でさえ、足首の高さ。

 これだけ草が伸びていれば『罠』を仕掛ける事も容易だ。

 

 

 「うひゃあ! む、虫が居るよ〜。どうしよー、けい!?」

 

 《理珠っち、いいから隠れるし! アタシを着てんだから、虫くらいヘーキっしょ!》

 

 中庭で一番大きな『しだれ桜』から、姉さんとJKの声が聞こえてくる。

 花の時期は人の目を惹く大木も、この時期ではただの一般樹木。枝垂れという特性もあって、一部の伸びた枝が地面に着いてしまっている。

 その枝に、蔓状の雑草がグルグルと巻きつく事で『天然のドーム』を形成しているのだ。

 密集した蔓で作られた植物のドームなので、虫の十匹や二十匹は居て当然だろう。

 

 しかし、身を隠す上でこれ以上無い程に適した場所。

 虫嫌いの姉さんには酷な話だけど、我慢して気配を潜めて欲しい所だ。

 

 

 「ホントに、この中に隠れるしかないの〜!? もっと科学的な何か……ホラ! 光学迷彩とかは!?」

 

 《あるケド、今はムリ! ハイロゥ出してんだから、他の機能まで処理できないっての!》

 

 えーと……JKに積まれたCPUでは『マルチタスク』が不可能という事か。

 作戦に於いて最重要となるハイロゥを、既に三つとも草むらの中へ展開している。従って、光学迷彩を使う余裕なんて無いのだ。

 

 だから諦めて、虫が蠢くドームの中で待機しててくれ、姉さん!

 

 

△△▼▼◁▶︎◁▶︎

 

 

 回想終わり。

 

 罠の位置を確認した僕たちは、昇降口から出てプール場を目指している。

 こちらの方が、草むらを掻き分けて進むより余程早いのだ。

 

 「ええ。それに草むらに立ち入った形跡が多いと、敵に警戒されてしまいますわ。あくまで自然な形で、中庭へと()()()()()()()。それがボクらの役目でしてよ!」

 

 もはや『ボク』という一人称以外、まこと成分が残っていない彼女。軍師として頼もしい事この上ないが、少し寂しい気分だ。

 だけどそれは、お互い様なのかも知れない。自覚は薄いけれど、僕のB子さん化も相当進行している筈。腕時計が示す現在の時刻は13時40分──この身体になってから、既に50分も経過しているのだ。きっと僕が発する言葉も『ゆるふわお姉さん』口調へ変換されているに違いない……!

 

 

 「ふふっ、そう言った言葉選びはDくんのままですわよ? ですが、急ぐ理由が一つ増えましたわね! カラオケの予約は14時。あと10分で事件を解決すれば、ギリギリ間に合う計算ですわ‼︎」

 

 あ。完全に忘れていた。

 

 「しっかりなさって。カラオケは、Dくんの趣味でしょう? いえ、付き合う内にボクの趣味にもなってましたわね……えへへ、楽しみですわ。さ、プール場は目の前! ボクが先行しますので、ゆっくりと慎重に着いて来て下さいまし」

 

 

 まことは しいなさんボディを使い熟し、足音を消しながら素早くプール場へと入って行く。

 そんな彼女の背中を、ゆっくりと、胸を揺らさず、丁寧な歩みで、僕は追いかける。

 

 まことの『芯』は変わっていなかった。

 カラオケが楽しみだと言った彼女は、いつもと同じ表情(かお)を見せてくれた。あの笑顔は、昔から僕の些細な悩みを吹き飛ばしてくれる。

 子供の頃からずっと、真っ直ぐ突き進み続ける彼女。

 そんな彼女だからこそ、安心して追う事ができるのだ。

 

 いつか追い付きたいその背中は、未だ遠いけれど……けれど……あれ? 近付いてきてる? 精神的な意味じゃなくて、物理的に背中が近付いて来る!?

 彼女が後ろ向きのまま、屋外にいる僕の元まで戻って来たんだ!

 

 そして、彼女に続く形で姿を見せた人物は──

 

 

 「オーッホッホッホ! 飛んで火に入る夏の虫とは、あなた達の事ですわ。さあ、大人しく縛につきなさい? そ・れ・と・も、(ワタクシ)の鞭で痛め付けられたいのかしらぁ〜?」

 

 「く、マズイですわ。女幹部の存在を失念するなんて……ボクとしたことがっ! ですわ!」

 

 まことのキャラが錯綜してるのは、もう流すとして!

 問題となるのは、あのミーア・クシロン。

 シマリス怪人を侍らせ、プール場の入り口から出てきた悪の女幹部だ。

 

 鞭を振るい、プラチナブロンドの髪を靡かせる彼女の正体はおそらく『ジーナ・九重・ブーゲンビリア』その人だろう。

 だけど、あの姿は一体? 確かに『オメガバイザー』は装着しているものの、服装は何故かラバースーツ。ボディラインが一目で分かる程にピッチリと身体に張り付き、妖しげな黒い光沢を放つラテックスの全身タイツ。

 そんな異様な姿だというのに、まことの目にはアレが本物のミーア様として映っているようだ。

 

 僕からすれば、痴女とエンカウントした気分なのだが……。

 あ。どうして僕は、B子さんの身体でも認識阻害をすり抜けているのだろう。

 千里眼の影響? そうだ、この眼ならばバイザーの下の素顔を確認できるかも知れない。苦手な相手とはいえ、まだブーゲンビリアさんと確定し切れていない段階なのだ。

 

 きっちりと『本人確認』をしてから、あの人を痴女だと認定してあげよう──

 

 

 「あらぁ〜、無駄ですわよ()()? オメイラガの科学力によって生み出された『バイザー』と『スーツ』は透過不可能! 千里眼対策はバッチリでしてよ!」

 

 確かに『透過』はできないようだ……まあ、これで素顔を見れるのならば、既にB子さんがヒーローの正体を看破しているか。

 女幹部の煽りは鼻につくけど、一先ず認識阻害に関する考察は後回しだ。

 

 既に戦闘は始まっている。今は目の前の敵に集中しないと!

 

 

 「もう少し離れてDくん! 君のおっぱいが、鞭の間合いに入ってますわよ‼︎」

 

 「オーッホッホッホ! その身体で調教がお望みかしら、坊や? でしたら、従順なメス犬にして差し上げましてよ‼︎」

 

 痴女の振るった鞭は、僕の胸元を狙ったようだが紙一重で当たらなかった。まことの助言で『たわわ』分の間合いを調整できたお陰だ。ありがとう。

 

 それはそうと! あの偽物のクオリティが低すぎるせいで、戦闘に集中し切れない!

 

 本物のミーア様と比べて品も無ければ、華も無い。セリフ回しも、どことなく小物臭が漂っているし。鞭という武器も、オーソドックスすぎて意外性に欠ける。古臭い女幹部のイメージを凝り固めたようで、今の時代に全く『アジャスト』できていない。もっと本物を見習って欲しいものだ。

 ああ、そもそもコスチュームからして論外だった。

 だってソレ、完全に不審者だし。

 

 

 「キーッ‼︎ 予定変更ですわ! シマリズーα、あの坊やを痛め付けなさいッ‼︎」

 

 「リーズー!」

 

 わっ!? 静観してた怪人を、急にけしかけて来た! 鞭で叩いて怪人を誘導するなんて、ヒドい幹部だ。ミーア様は怪人を無碍に扱ったりしない人だぞ。まったく、これだからニセモノは困る。

 だけど、たわわ分の間合いをアジャストした僕に死角は無い‼︎

 

 「Dくん……! 女幹部はボクが引き受けますわ。君は、一先ず怪人から()()()下さいまし!」

 

 合図だ。

 まことが上手くニセモノを誘導し、校舎側で闘い始めてくれた。これならば、中庭方面へ逃げても不自然では無いだろう。

 ニセモノの登場は想定外だったものの、怪人の注意は都合よくコチラへ向いているんだ。

 よし……ここからは僕も全力疾走で行く。

 

 もってくれよ、胸の靭帯ッ‼︎

 

 

─────────

──────

───

 

 

 「リズーッ‼︎」

 

 危ないっ! 距離感を掴んだとは言え、胸へ突進されると肝が冷える。

 だけど、どうにか躱せている。B子さんボディも運動能力はかなり高いんだ。近接戦闘こそ向いていないが、逃げに徹すれば『シマリズーα』のタックルだって辛うじて回避できる!

 

 「リ〜ズ……!」

 

 避けられ続けて悔しいのか、地団駄を踏む怪人。

 と言うか、さっきから彼女は人間の言語を発していないな。

 まるで鳴き声かのように「リズー、リズー!」と叫んでいるのだ。攻撃の度に、姉の名を連呼される僕の気持ちも考えて欲しい。プールに居た時は普通に喋っていたのに、どうして急に……

 まさか! 以前のシグマ氏のように『暴走』しているのだろうか!? 

 

 

 「シ〜マ〜……リズーッ‼︎」

 

 っ! 今度は電撃を纏いながら突進してきた!?

 直撃は回避できたものの、電撃を浴びてしまった──

 ああ、だけど胸の重量感は変わっていない。良かった、僕はB子さんのままだ。

 

 おそらく『二人以上』が電気を浴びない限り、入れ替わりは起こらないのだろう。能力の対象も『人間』或いは『動物』のみという可能性が高い。

 

 僕らは既に、草むらまで来ているのだ。

 もし対象が『生き物』全般ならば、僕はその辺の『虫』と入れ替わっていた事だろう。姉さんと違って僕は虫嫌いではないが、流石に自分が虫になるのは嫌だ。

 

 おっと。そうこうしている間に、枝垂れ桜が見えて来た!

 足元の悪い草むらで、これ以上回避し続けるのは辛い。早く怪人を誘導しなければっ!

 

 

 ここから一番近い罠は、遊歩道の交差点に存在する『二宮金次郎』像の真下だ。

 令和では諸事情で撤去されている像も、僕の時代では現役。レイワさんは、あの像の勤勉な姿を見て『歩きスマホを助長する』などと言っていたな。いつの時代も、足元注意という事だろう。

 

 現に僕だって足元へ細心の注意を払っている。

 逃走を続ける為には、遊歩道の形跡を辿る必要があるのだ──

 

 中庭の中央に高植えされた枝垂れ桜を囲むように敷かれた、円形の歩道。

 その道と一点で合流するのが、体育館側から伸びた道と、このプール場側から伸びた道だ。

   ※図解

【挿絵表示】

 

 最早どの道も草で覆われているが、他の部分よりも草が短く、地面も少し固くなっている。だからこそ、どうにか体重移動を駆使して怪人の攻撃を躱わせているのだ。足元から伝わる遊歩道の名残りが、僕の生命線と言っても過言ではない。

 

 

 「リズ、シマァ〜!」

 

 執拗に胸を狙ってくる怪人から逃げ延び、三叉路へと辿り着いた!

 銅像は目の前。誰にも踏まれる事のない台座の周辺は、背の高い草で覆われており、その茂みに『ハイロゥ』が隠されている。

 僕が銅像によじ登れば、追いかけてきた怪人は罠の真上へとやってくる!

 あとは、姉さん達の出番だ。頼む──‼︎

 

 

 「いくよ! クロスリット・ハイロゥ‼︎」

 

 「……! リ〜ズ〜?」

 

 「ウソっ!? 避けられちゃった! どうしよう!?」

 

 そりゃ避けられるよ!? なんで不意打ちなのに、技名を叫ぶんだ!

 これで完全に作戦が水の泡だ……「どうしよう」というセリフは僕が言いたい位だよ。この惨状を見てくれ!

 

 慌てて金次郎像にしがみ付いたせいで、スカートが捲れて像の顔面に金ビキニを押し付けてるんだぞ!?

 これじゃあ、完全に痴女じゃないかっ! まさかの金と金のゴールデンコラボだよ!

 銅像とT Sっ娘の『おねショタ』なんて、斬新過ぎて令和にも存在しないだろうなぁ‼︎

 

 

 「お、落ち着いて! まずはスカートを直して〜! もっとその身体を大事にしてねっ!?」

 

 どの口が言ってるんだ。僕達の進退が懸った場面での大失態……もう僕は、山丹 美衣として生きていく覚悟を半分決めたよ。身体の扱いに多少は慣れた事が唯一の救いか。

 あはは、こんな時レイワさんなら『まさに身体(しんたい)極まったね!』なんて下らない駄洒落を言ってくれるのかなぁ。

 今となっては……何もかも、みな懐かしい。

 

 「遠い目をしないでー!? ヒーローは不撓不屈、諦めちゃダメ! ほらほら、罠はまだ2つあるんだし!」

 

 「リッズッズ。リーズゥ〜?」

 

 自ら罠の残り数を暴露して、怪人に笑われている姉さん(リーズゥ)

 僕はもっと、あの人の『特撮オタク』度合いを考慮するべきだった。

 姉さんはヒーローが関わると()()()()人なのだと、もっと強く心に刻みつけておくべきだったのだ。

 僕が小5の冬、姉さんはヒーローごっこの度が過ぎて自転車で大怪我をしていたと言うのに──

 

 

 当時のライダー。彼の二台目となるバイクは、高速で走る事で屋根が展開される画期的な仕様だった。その新マシンに憧れ、必死に前傾姿勢で自転車を漕いでいたのが姉さんだ。

 結果、前方不注意で壁に激突し、全治二ヶ月の右腕骨折。

 うん。あまりにも酷いエピソードだから、記憶から抹消してたよ!

 

 姉さんは、あの件がトラウマとなって自転車に乗れなくなった。

 もちろん僕にとっても、あの光景はトラウマだ。普段は頭脳明晰で頼れる姉が、我武者羅に自転車を漕ぎ、電光石火の如く壁へと激突──僕はきっと、心を守る為に敢えて忘れていたのだろう。

 吸い込まれるように壁へ向かっていく姉の姿は、それ程までに脳へ強烈な影響を……あ。

 

 「リッズー♪」

 

 「こ、このぉ! こうなったら直接捕まえてあげるんだからー!」

 

 全ての罠を看破されても、不撓不屈の精神でシマリズーαへと挑むキジマリズー。

 へっぴり腰で情けない姿のヒーローだけど、その精神性だけは見習う余地が残っていた。羽吹流の老師も『死中に活あり』と教えてくれたんだ。

 

 まだ諦めるのは早かった……!

 

 リングリット! 今から僕が言うポイントに、3つのハイロゥを並べてくれ!

 それが、怪人を捕縛するラストチャンスだ‼︎

 

 

─────────

──────

───

 

 

 「しまっ!? リッズ〜ッ‼︎」

 

 我ながら、怖いくらいに上手くいった。

 何より幸運だったのは、怪人が電撃を放たなかった事だ。もし再び『入れ替わり』が起きていれば、JKになるのは僕か姉さん。そうなれば、ハイロゥを制御出来ずに積んでいたことだろう。

 

 だが、そうはならなかった。ヒーローが情けない姿を晒した為、怪人が慢心していたからだ。この件に関しては、僕も怪人側の気持ちが良く分かる……。

 とは言え、油断大敵だ。あれだけヒーローを苦戦させたシマリス怪人が、今は光輪に拘束され宙に浮いているのだから。

 

 

 「むぅー! 卑怯な手を使われたリズゥ〜」

 

 「この怪人、喋れたの!? あんまし、リズリズ言わないでよ!」

 

 ああ、やっぱり正気を失ったフリだったのか。

 最悪の場合、バングルを使って正気に戻す必要があると思っていたので助かった。

 まあ、さっき僕らを「リッズッズ」と嘲笑っていたので、おおよそ予想はしてたけども。

 

 何はともあれ『シマリズーα』に自我が残っているのならば、話が早い。

 それじゃあ、さっそく自爆してくれないかな?

 

 

 「ズルいリズ。そのおっぱいは反則リズ」

 

 光輪に胴体を拘束され、手も足も出ない怪人が文句を口にする。

 そのクレームは、僕ではなくB子さん本人に言って欲しいものだ。いつも彼女がしている行為を、僕は真似ただけなのだから。

 中身が僕の状態でも、吸引力が変わらないB子さんボディ。恐ろしいカラダだ……!

 

 このカラダが腕を広げ、一言「おいで〜」と発すれば、抗える者は誰も居ない‼︎

 

 例え胸元に『(ハイロゥ)』が展開されていようとも、自分の意思に反して飛び込んでしまうのだ。素早い怪人と言えど、真っ直ぐ目標へ向かって来るのならば捕捉は可能。それでも二本の輪は突破されてしまったが、三本目の光輪がしっかりとタイミングを合わせてくれた。

 これが僕の発案したヒーローとB子さんによるユニゾン攻撃。

 

 名付けて『抗えぬ双丘への誘惑(バストラップ)』だ‼︎

 

 

 

 「──バストラップ? えーと、今の君は中身も『Dくん』だよね……大丈夫? 頭叩こうか?」

 

 白い閃光に包まれたかと思えば、次の瞬間『まこと』が目の前に現れた。

 正真正銘の羽吹まこと。まことボディのまこと。令和風に言えば『シン・まこと』……あ、イタッ!? 叩かなくてもいいだろう。

 

 「ごめん。君が美衣さんの時に我慢してた分が、勝手に……えへへ、でも上手く行ったんだね! ありがとう、Dくん。ボクがボクに戻れたのは、君が頑張ってくれたおかげだよ」

 

 それはお互い様だよ。まことが女幹部を足止めしてくれたから、怪人を捕まえる事ができたんだ。それに、羽吹流の教えにも助けられた。死中に活あり。一度はピンチに陥ったけれど、咄嗟に合体技を思いつけたのは老師のお陰だよ。

 

 「そっか! シチューにカツありって、そういう意味だったんだね。意外な組み合わせが、物凄い力を発揮する……深い言葉だなぁ」

 

 あ、うん。師範代の君が言うのだから、その解釈でも合ってるんじゃないかな。

 ところで、そろそろ今の状況を整理しておこうか。ここが空き教室なのは理解できるんだけど……なぜ僕は、君に膝枕されているのだろう?

 

 

 「うーん、しいなが美衣さんを寝かせてたのかな。ほら、寝不足みたいだったし。もー、推理するのは君の方が得意でしょ?」

 

 そうか、僕の身体も寝不足気味だった。姉さんとの一件で、安心したB子さんが眠ってしまうのも仕方ないか。千里眼を持たない僕の身体ならば、彼女にとって貴重な体験『昼寝』も可能という訳だ。

 思えば僕も、彼女の身体で数多くの貴重な体験をしたなぁ。

 

 おっと。あまり悠長にしている時間は無かった。この後は、お楽しみのカラオケが待ってるんだ。膝枕されたまま、自然な流れで頭を撫でられている場合ではなかった。

 そろそろ起き上がらないと!

 

 

 「待って、Dくん!? 君は大事なことを──!」

 

 話は移動しながら聞くから、さあ急いで!

 まことだって、カラオケを楽しみにしてたじゃないか。

 えーと、今の時刻は……ああ、またしても腕時計はB子さんの手元なのか。空き教室には壁掛け時計もないから正確な時間は不明。だけど、体感時間だと14時までもう10分も無い筈。カラオケ店は学校から徒歩で10分の距離。走れば、ギリギリ3分で着ける。

 よし! まずは、点在しているみんなと合流しなければ!

 

 魂が元の身体に戻ったのだから、B子さんはさっきまで僕が居た中庭。姉さんも一緒の筈だ。JKは、いつもの流れだと光学迷彩で姿を消している頃合いか。

 そして、しいなさんはプール場付近。校舎内には、気絶したワッカとE……あ、良かった! その二人が目を覚まして、階段の踊り場で合流してる。これは幸先がいいぞ!

 

 「ん? 理珠ねー……じゃない!? おまえかよっ!?」

 

 「前々からアヤシイとは思ってたけどよ! やっぱり、そーいう趣味だったのか。いや、別に否定はしねーケドなっ。結構似合ってるぜ! なあ、ワッカ?」

 

 「お、おう! そーだなっ!」

 

 

 ────‼︎

 

 そうだった……僕の身体、女装してたんだ……。

 

 

─────────

──────

───

 

 

 現実逃避すること10分。まことが僕の制服を持ってきてくれた。

 その間に、姉さんとB子さんも合流して職員玄関には6人が集まっている状態だ。途中、母さんが此方を覗いていた気がするけれど……多分、気のせいだ。気のせいであって欲しい。

 

 「そのリス、すっかり美衣に懐いてるね〜。カワイイ」

 

 B子さんの胸の上には、現在シマリスが乗っている。球体面で上手くバランスを取る姿は、姉さんが言う通り愛らしさがある。だけど、そんなセリフもB子さんにとっては嫉妬の対象らしい。

 少し怒ったように「理珠の方がカワイイわぁ」と言っている彼女は、今回の一件で気持ちを隠す事を止めたようだ。

 

 「腕時計、また義弟(おとうと)くんに返すわね〜。今日は、わたしのせいで……色々ごめんね。それと、こんなわたしを庇ってくれてありがとう。理珠に正直な気持ちを伝えられたのは、義弟くんのお陰よ〜」

 

 あれ? なんだか、僕への呼称が変わったような気が……?

 まあ、こうして元に戻れたのだし。お互い今回の件を掘り返すのは、ここまでにしよう。

 

 

 「──んじゃ、今日は解散だな。打ち上げはまた今度な!」

 

 あっさりと日常へと帰還し、そのままの流れで下校するE。羨ましい順応性だ。

 先程B子さんのポケベルに着信が入り、カラオケは中止となったのだ。しいなさんとA子に急用ができたという旨を伝えられ、ようやく僕の頭も働き出した。

 A子は萬宮寿邸にある自分の身体へ戻り、しいなさんは呪詛返しに遭っている頃合い。カラオケどころでは無いのだ。

 

 「にしても、プールで入れ替わってた連中が代わりにカラオケに行ってくれて良かったなー。予約してたんだし、店に迷惑かけるトコだった」

 

 「ワッカくんって、そういう所マジメだよね! うんうん、プールの男子よりずっと好感持てるよ」

 

 まことに褒められて、ワッカが照れている。

 彼と比較されたプールの男子──妖怪役の先輩達は、カラオケに参加できずトボトボと帰宅したそうだ。まあ、当然だ。彼らが信頼を取り戻すのは大変だろう。

 そんなスケベな男子を共通の敵とした女子達──ギャル四人と生徒会役員の四人が、僕らの代わりにカラオケ店へと向かってくれたのだ。

 

 どうやら入れ替わりの一件で、彼女らに深い絆が生まれたらしい。

 驚いた事に、彼女らは協力し合い()()()自分達の身体を取り戻していたと言うのだ。ギャル同士、生徒会同士、或いは女性同士しか知らない事実で本人確認をしていき、元の身体へ戻れた順にプールから上がって行く……内容自体はシンプルだけど、相当の信頼関係がなければ成立しない方法だろう。

 道理で僕らがニセ女幹部と対峙した際に、プールが静かだった訳だ。

 あの段階で女子8人は、見事に自分の身体を取り戻していたのだ。

 

 そう。女子()()は──

 

 「パイセンが女装してるって話はマジだったんスねー! うへへ、かわいいッスよー! このこの〜……って、なんスか!? いつもニコニコしてる『おっぱい先輩』がメッチャ睨んでくるんスけどー!?」

 

 校舎の外に居たタカハシが、姉さんを僕だと勘違いして酷い事になっている。

 いや、B子さんを『おっぱい先輩』などと呼ぶ彼女の方が余程ヒドい奴だけども。

 

 最後までプールに取り残され、男子の身体を渡り歩いた彼女の思考は、すっかり『男性』に染まってしまったのだろう。まったく、あれで原作ネームドキャラだと言うのだから困りものだ。

 そもそも、今回の事件は彼女の登場回じゃないと聞いている。だから、僕も油断して怪人の特殊攻撃を受けてしまったのだ。

 つまり諸悪の根源はタカハシと……レイワさんだ。

 

 幸い、僕を取り残して周囲はそれぞれの世界に没入している。さらっと詠唱すれば誰にも聞かれずバングルを外せるだろう──

 

 

 【お゛か゛え゛り゛〜 ぃ‼︎】

 

 わっ。思ってた反応と違う。

 素直に喜ばれると逆に気恥ずかしいな……。ほら、レイワさんだって間近で濃厚な百合を観察できたんじゃないか? バングルを装着してても、外の様子は把握できるって言ってたじゃないか。

 B子さんの行動はだいぶアレだったけど、百合も守備範囲のレイワさん的には──

 

 【あれは百合じゃないっ!】

 【クレイジーサイコレズは、ギリで私の守備範囲外!】

 

 成程。境界線がギリギリの所にあるから、自分の嗜好が染められないよう頑張っていたのか。

 だけど、今更踏みとどまった所で大した意味は無いから大丈夫だよ。

 

 

 レイワさんだって、立派な『クレイジーサイコショタコン』じゃないか!

 




光速真芯リングリットX
 「嘘かまことか なんだかとっても おかしいな」の巻
─ おしまい 来週もまた見てね! ─
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