平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話   作:浅学寺のえる

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#24 萬宮寿しいなΔ

 さて、龍退治には古式ゆかしい作法が御座いましてよ。

 美衣と融合した際にも、()()を用いて龍位精霊の力を大きく減衰させましたの。

 あの時は緊急でしたので、そのまま『柱』を投擲して武器としましたが……

 

 【僕もA子から聞いてるよ】

 【なんでも、柱へ乗って遥か彼方の海上まで跳んだとか】

 

 ええ。実に理に適った移動方法でしょう?

 ふふっ、あくまで物理法則を無視できる『精霊』にとっては、ですけれど。

 話を戻しますわ。

 その時に(わたくし)が乗った、九重邸を装飾する飾り柱。あれは、ただの石柱ではありませんの──

 

 

 歴代の巫女達が力を注いできた特別な柱。

 高さ10m、直径2m。その巨大な柱を神通力で満たすには、巫女が八代にわたって力を込める必要があるんですの。

 全ては、未来に訪れるであろう危機の為に。

 その想いを託された柱が、8本ほど現存しております。

 大昔の予言では、巫女八代ごとに未曾有の危機が訪れるなどと言われてましたのに……使われた機会は、平安時代に一度、昭和に一度、そして先日に一度のみ。

 八代(やしろ)(おり)と言われた危機が、ここ数十年で二度も起こるなんて困ってしまいますわね。

 

 【やしろおり……まさか、八塩折(やしおおり)!?】

 【ヤマタノオロチを退治した時の酒だ!】

 【古事記にもそう書かれている】

 

 ディエゴの仰る通り、古事記にも記されておりますわ。ただし、酒という部分は比喩ですの。

 精霊を酩酊させる神通力。その効果を判りやすく『酒』と表現したのでしょう。

 原理としては……そうですわね、奇しくもカクテルで例えられますわ。

 

 比重の違う液体同士が混ざりにくい事は、あなたもご存知でしょう? なのでバーテンダーは、混合する為にシェーカーなどで攪拌してますわね。

 そして、精霊と巫女の神通力も、比重の違う力なんですの。液体の例と同様、混ざりにくい性質が御座いますわ……ですが、勢いよくぶつければ話は別となります。

 その場合、内部で力が攪拌され『精霊』は酩酊状態に陥りますのよ。

 

 【脳がシェイクされるみたいな感じ?】

 【それで、フラフラになった相手へとどめを刺す、と】

 

 その通りですわ。

 つまり、古式に則った龍退治の方法とは──酔わせて、ぶった斬る! ですの‼︎

 

 

 【なるほど……】

 【それが、イグナばーさんが待つ『九重その2』へ向かってる理由?】

 

 柱の管理は、代々九重の家系が担っておりますの。

 元々は、本家に使用許可を出す権限があったのですが……昭和の中頃、その実権が柱ごとジーナの家へ渡ったという話ですわ。お祖母様は、危機に乗じて強引に委譲させられたと嘆いてましたわね。

 そう考えますと、当時の鬱憤が今回の()()()を迅速に済ませた一因となっているのでしょう。

 

 【あれ? おかしいな】

 【僕の耳には、お話しという名の……殲滅に聞こえたけど】

 【まさか、融合に不具合が生じてる?】

 

 うふふ。すこぶる好調で、一切の不具合も御座いませんわ。それに『統合精霊』としての姿も気に入っておりますのよ!

 燃える様に赤い髪は、デイゴの花を思わせる鮮やかな色彩。

 服装は、ディエゴの趣味が反映された笛壱高校の制服。

 そして、頭部には『ネコミミ』お尻には『しっぽ』が生えてましてよ!

 

 そうですわ! 生えていると言えば、ディエゴの──【ストーップ‼︎】

 なにを慌ててますの? 最初は私も驚きましたが、考えてみれば何も恥ずかしい事など御座いませんでしょう。男女で融合しているのですから、半陰陽となるのは当然ですわ。

 

 【その表現は、将来的にあまり使われなくなる……と思う】

 【だから判りやすく、ふたな──いや『両性具有』としておこう!】

 

 まあ! それでしたら、天使と同じですわね!

 

 【……おそらくは、天使のような笑顔を見せているであろう彼女】

 

 【仕方ない】【イグナばーさんに禁止されているけど】

 【僕の心の均衡を保つ為にも、少しだけ回想させてもらおう──】

 

 

▲▲▽▽◀︎▷◀︎▷

 

 

 武道館にて、融合は無事に完了した。

 

 彼女の中へ溶け込んだ意識が再構成され──僕は現在、不思議な空間にいる。

 図書館、幼稚園、萬宮寿流道場、羽吹流道場、パソコン部の部室……それらが混在した空間。

 おそらく、これが『心象風景』というモノなのだろう。

 

 夢の世界よりも、よほど現実離れした光景。

 だが、予め『経験者』から話を聞いていたので、混乱する事なく事態を飲み込めている。

 あの人は、僕の脳内を指して『私の部屋とキミの部屋。それが合体した場所』と言っていた。その6畳ほどのスペースで、スマホ画面に映る僕の視界を眺めていたそうだ。

 

 僕がいる空間にも、ブラウン管テレビが設置されている。

 そこに映し出されているのは、パイプ椅子の上で眠っている僕の姿。その頭を白魚の様な手が撫でている……『一人称視点(POV)』なので手しか映っていないが、これは『しいなさんの視界』だろう。

 あ、画面下に『たわわ』が映り込んだ。これで確定。

 テレビモニターが、彼女の視界とリンクしているのだ。そして、さらに……

 

 

 ──以前、美衣と『統合精霊化(ディフュージョン)』した際は、二人の人格が混ざり合っていましたのに。今は完全に、私としての自我を維持してますわ。

 それに、力が暴走する兆候もありませんし……これが五属性を内包した統合精霊ですのね!

 

 彼女の思考まで、スピーカーから流れてくる仕様だ。

 おそらく『マイク』を使えば、僕の声も彼女へと届く。レイワさんで言う所の『コメ欄』への書き込み。僕はそのシステムに馴染みが無いので、マイクという形で反映されているのだろう。

 あれで、しいなさんと会話できる筈だが……試す余裕が全く無いのだ。

 彼女は『暴走の兆候がない』と思考していたが、とんでもない!

 

 こうして状況把握をしつつも、僕が()()()()()()を保っているんだ‼︎

 

 

 幼稚園のスペース。

 そこには、さも当然の如く園児がいる。

 赤、茶、緑、金、青。各属性に対応する髪色をした、5人の幼女。

 まるでハブとマングースのように、すぐにケンカをする 『火属性』と『土属性』

 周囲の事などお構いなしに、二人だけの世界を作り出す『木属性』と『金属性』

 仲間の輪へ入る事ができず、一人寂しそうに佇んでいる『水属性』

 

 どこか既視感のある子供たち。その仲を取り持つ事が、僕の役割の一つなのだ。

 これを怠れば、たちまち融合は解けてしまう。

 ……と、記載されていたのだ。なぜか図書館のカウンターに置かれていた『攻略本』に!

 

 

 ──あら? 美衣と融合した時と同じく、なんとなく『チカラ』の使い方が解りますわ!

 そうですわね……手始めに、盾でも()()()みましょうか!

 

 急に()()()()の役割が舞い込んできた!?

 そうか、僕が攻略本を読み進めた事で、しいなさんにも情報が渡ったんだ。

 彼女が求めてきたのは『複合能力』……最初の仕事としては飛ばし過ぎだが、やってやる。

 

 この空間は、僕の心象風景。

 属性を具象化した幼女たちも、ゲームの攻略本に似た仕様書も、僕が理解しやすい形で心の中に現れている。これら全てが、僕としいなさんを繋ぐ窓口。

 つまり、ユーザーインターフェース──『UI』という事だ。

 

 そして、統合精霊の能力を行使する為のUIが、パソコンとなる。

 懐かしの愛機『PC-9801FA』搭載されているOSは『MS-DOS』

 これを使って、精霊の不思議な力に手順(プログラム)を構築するのが僕の役目だ。

 

 

 ──この椅子が良さそうですわね。これを、丸い盾にしますわよ……えいっ‼︎

 

 必要なプロセスは『圧縮』『膨張』『石化』だろう。

 まずは、しいなさんが手にしたパイプ椅子を圧縮する作業からだ。

 これはパソコンとも相性がいい能力なので助かる──よし、エンコード完了。

 

 小さなキューブとなった元パイプ椅子が、彼女の手のひらに乗っている。

 次は、これを膨張させて任意の形へ成形する作業だ。

 『(CIRCLE)』を描くのはプログラミングの基本。ラウンドシールドの形ならば、割と簡単に描写できる。

 ただ、立体造形として成立させるには圧倒的に質量が足りない。なにせ、素材がパイプ椅子一つだけなのだから。

 

 それを解決するのが、石化となる。

 『(レイヤー)』ごとに()()を固めていき、盾の内部にあるスカスカな空間を埋める作業だ。

 これはレイワさんから教わった『3Dプリンター』の造形方式と似ている。

 ちなみに、()()()固めているのかと問われれば……『元素』としか答えようがない。

 五属性の幼女たちが協力して、足りないナニカを補填しているのだ。

 有事の際には、きちんと団結してくれる子供たち。

 ヒトの言語を発する事はないが、こちらの意図は汲んでくれる。実に頼もしい存在である。

 

 よし、構築できた……これで『物質変換(コンバート)』完了だ!

 

 

 ──簡単に出来ましたわ! 私の思惑通り、ツルツルの表面を『鏡』として利用できますわね!

 

 彼女の真意は判っていたので、表面にアルミの光沢を残しておいたんだ。

 ふぅー。決して簡単な作業では無かったけれど、やり甲斐はあった。

 保育士とプログラマーを『ワンオペ』で熟す状況にも、どうにか対応できそうだ。幸いどちらも得意分野。かなりギリギリではあるが……頑張れる!

 

 ──真っ赤な髪。ですが、長さは普段の私と一緒ですのね。顔もそのままですし……

 

 おっと。しいなさんが、鏡で自身の姿を確認している今がチャンスだ。

 子供たちと遊んであげながら、攻略本を読み進めておこう。

 

 

─────────

──────

───

 

 

 キジムナーとコロポックルに共通しているのは『祟りを起こす』という点。

 僕と合体した彼女には、その特性が色濃く顕れている様だ。

 祟りと呪いは微妙に違うモノではあるが、どちらも状態異常を起こす現象──

 

 簡単にまとめると、彼女の身に起こった『呪詛返し』をアレンジできる。

 それが、統合精霊としての基本能力となる。

 

 幻覚、、洗脳、石化、圧縮、膨張、子供化入れ替わり

 九つの呪い。

 僕も受けた事のある呪いは、攻略本に赤い文字で記されている。

 共通して経験した『呪い』の為か、この五つには厄介な縛りがあるらしい。

 

 ──どうして、ネコミミが生えてますのーっ!?

 

 どれか一つをチョイスして、常時発動させておく必要があるのだ。

 圧縮によるキューブ化と子供化は、戦闘を考えれば論外。

 夢と入れ替わりは、どう働くのか良く判らない。攻略本をさらに読み進める必要がある。

 なので、現状では猫化が最善。完全な猫ではなく、あくまで『ネコミミ』と『しっぽ』が付くだけなので、戦闘への影響は少ないだろう。

 

 ──それに、なぜか制服を着てますし!?

 

 融合前の彼女は、白いワンピースを身に纏っていた。

 それが今、笛壱の制服へと変化しているのだ。B子さんとの融合時も、ギリシャ風の服装へ変化したと聞いていたけれど……なぜ今回は、現代の服なのだろう?

 コロポックルのイメージだと、アイヌの民族衣装。

 キジムナーのイメージだと、上半身ハダカで腰蓑(こしみの)をまとった……あ。

 

 

 ──きっとディエゴの趣味ですわね! 思えば彼も、この服を着た経験がありますもの!

 

 け、結果オーライだ。

 仮に僕の趣味が反映されたのだとしても、彼女が腰蓑姿になるより余程いい。

 だけど、しいなさんの制服を僕が着てしまったのは不可抗力だ‼︎ あれはB子さんが、勝手に僕の身体で着替えたせいで……

 そうだ! 弁明の為にも『マイク』を試してみよう!

 ブラウン管テレビと接続されているのは、見覚えしかないゲーム機。その2Pコントローラーには、マイク機能が付いているのだ。

 

 という訳で、僕にコントローラーを貸してくれないかな? 『水属性』ちゃん。

 ん? テレビを指差して、僕に何かを伝えようとしている。

 画面に映っているのはスカート。しいなさんが少し屈んで、自らの下腹部を触っているみたいだ。一体、どうしたのだろう?

 

 ──ふぇっ!? 歩く時に、少し違和感があると思ってましたが……!

 な、なぜ私に()()()ますのー!?

 

 【ネコミミ令嬢で、ふたなり!?】【設定を盛り過ぎだ!】

 

 ──ディエゴ? ()()におりますの!?

 

 【違う!?】【()()には居ないよ!】

 【あと、露骨な表現をしない様に気をつけて‼︎】

 

 子供が見ているんだ。

 あれだけバラバラだった五人の幼女が、今は一丸となってモニターを凝視している。

 五属性が完全な均衡を保った状態──相剋の真芯。

 

 もし、これがそうなのだとしたら……やだなぁ。

 

 

─────────

──────

───

 

 

 ──なるほど、現状は判りましたわ。

 も、もう! 急に子供ができたなんて仰るから、驚いてしまいましたわ!

 

 しいなさんと、一通りの情報交換が終了した。

 只今の時刻は……10時50分だろうか? しいなさんの視力が低下したままなので、遠くにあるデジタル時計がボヤけて見える。

 

 ──諸々の問題は、お祖父様の発明品『シグマバイザー』で解決ですわ。

 これを装着する事で、視力の補正はもちろん、敵がいる座標まで把握できますの。

 

 うん。それ、カラーリングを白くしただけの『オメガバイザー』だね。

 あ、でも液晶部分の表示が地味に変化している。単眼(モノアイ)から、双眼(デュアルアイ)への変更だ。

 それなのに、左目部分が髪の毛で隠れているから意味がない!

 

 ──どうかしら? あなたの髪型に寄せてみましたの!

 こちらの方が、なんだか落ち着きますわ〜。あ、あら?

 バイザーから何か音がしていますわ!? ど、どうしましょう、ディエゴ!

 

 これは……エラーを示すビープ音とは少し違う。着信音だろうか?

 【落ち着いて、しいなさん】

 【さっき、バイザーの側面に円形の切れ込みがあった】

 【多分それがスイッチ】【取りあえず、押してみるんだ】

 

 ──あ、押せますわ! さすが、ディエゴですわね‼︎

 機械に関してのプロですわ。あなたと一緒の私に、もう死角など存在しません事よ!

 

 ──《それは言い過ぎですよ、しいな。無事に融合できた様で何よりですが、あの者を甘やかしては……いえ、今は連絡事項が優先ですわね。これより、作戦の一部を変更します》

 

 通信相手は、萬宮寿イグナ。

 この土壇場での作戦変更とは流石である。レイワさんが聞いていたら、トラウマで失神していただろう。だって、この行為は令和時代のモンスターと同じなのだ!

 すなわち『納期はそのままで、前日に仕様変更してくるクライアント』‼︎

 

 ──判りましたわ! 急な変更ですけど、やってやりましてよ!

 

 ああー!? しいなさんが、一番ダメな返し方をしちゃった!

 これはマズイ。レイワさんの言葉を借りるなら『やりがい搾取スパイラル』の入り口。

 僕も逆境に燃え上がる性格だから、気を付けろと言われているんだ。

 急いで、しいなさんを説得しなくては……!

 

 ──だって、ディエゴとの共同作業でしたら、どんな苦難でも平気ですもの! ね?

 

 【任せて、しいなさん】【どんな作戦だろうと、やってやるさ!】

 

 

 

△△▼▼◁▶︎◁▶︎

 

 

 あら、回想が終了しましたのね。

 

 精霊の力を温存する為、ここまで徒歩で移動しましたけれど……何やら、ディエゴから疲労感が伝わってきますわ。悩み事でもございますの?

 

 【僕って、チョロいのかも知れない】

 

 チョロい。私も良く周囲の人から言われますが……あなたも私も、赤の他人に利用されるような事態は極力避けていますでしょう?

 心を許した友人の頼みを、快く聞き届ける。

 その好意を『チョロい』と表現されるのなら、それは誇っても良い事だと思いますわ。

 

 

 【……ありがとう】【それはそうと、ばーさんは?】

 【呼び出した張本人が九重邸に居ないとか、ふざけてると思う】

 

 その物言いは、お祖母様に心を許しすぎですわ!

 私に、ヘンな嫉妬心を抱かせないで下さいませ……コホン、見たところ九重邸の柱が7本になってますわね。

 それと、邸宅に大きな穴があいてますわ。穴からは煙も上がっていますが、雨のお陰で火災の心配は無さそうです。不幸中の幸いですわね。

 さあ、ディエゴ。ここから推理して下さいな?

 

 【イグナばーさんが、ロケラン発射】【壁を破壊】

 【その大穴を見て九重その2が降参】【という具合かな】

 【大坂城を攻めた徳川家康のやり口だよ】

 

 まあ! 分かり易い例えですわね。ですが、柱が一本足りない理由が不明でしてよ?

 

 

 「あら、やけに早い到着ですね、しいな。安心なさい『柱』は、邸宅の中庭へ運ばれております。しかも、愚かな企てによって既に()()()()でしてよ」

 

 ロケットランチャーを肩に担ぎながら、お祖母様が悠然と闊歩して登場しましたわ。

 ディエゴの推理は、見事に的中しましたわね!

 

 【あはは、半ば冗談だったんだけど……】

 

 

 強風に髪を靡かせる姿が格好いいですわ。アニメのエンディングみたいですの。

 ほら、ディエゴも好きと仰っていたラストシーンが静止画になる、あの……きゃっ!? 突風でスカートが──

 

 「しいな!? その()()()は、まさか、貴女……‼︎」

 

 流石は、お祖母様。今の一瞬で見抜くとは、驚異的な観察眼ですわ。

 ええ、現在の私は『両性具有』ですの。ディエゴの言葉を借りるのならば『二形(ふたなり)』──これは確か、古典落語の演目名ですわね。【そうなの!?】

 

 「──……!」

 

 あら? お祖母様が【宇宙猫】状態に……うちゅうねこ? それも落語なのかしら。

 

 

─────────

──────

───

 

 

 お祖母様が復活するまでの間に、少しおさらいしておきましょう。

 

 元の作戦では、柱の使用許可がおりていませんでした。

 美衣と統合精霊化した際、既に一つ使用している事が原因ですわ。

 なにせ、一本を作り出すまでに巫女が八代に渡って力を注ぐ代物。【タイパが悪い!】

 タイムパフォーマンスの略かしら? ええ、その通り効率は良くありません。なので、そう易々と使用できませんの。

 ──既に龍位精霊は弱っているので、統合精霊の力だけでトドメをさせる。

 それが【九重その2】からの返答でしたわ。

 

 そういった事情から、当初立案した作戦は破綻しかけましたの。

 お祖父様は、市街地への被害を最小限に留める為、海上での迎撃を想定しておりましたが……それは、柱による移動を前提にした作戦でしたから。

 

 【確かにこの荒天だと、並の船や飛行機では無理そうだ】

 【だけど、一つ疑問がある】

 【普通の石柱や鉄骨を投擲する事で、解決できるのでは?】

 

 統合精霊の力に耐え切れず、途中で燃え尽きてしまいますわ。『精霊(ジン)』は物理法則を無視できる存在ですが、現実にある物質はその限りでは御座いませんの。

 例外は、精霊が生み出した物質と、巫女の柱──『八代折(やしろおり)』だけですの。

 

 【なるほど】【それで()()を使う、別アプローチ案が出たんだ】

 

 ええ。お祖母様のご実家から、助け舟が出されましたの。

 重工会社『九重』が秘密裏に開発中の『全天候戦闘機・アペンドナイン』──その試作機で、龍位精霊の元まで乗り付ける。

 これが、ディエゴにもお伝えしていた当初の作戦となりますわ。

 

 【物理法則を無視せず】【純粋な科学力で対抗する】

 【ものスゴく男心をくすぐる展開】

 【……だったのに!】

 

 うふふ、戦闘機に乗るのが楽しみでしたのね。残念ながら、今回はお預けですわ。

 なぜなら、お祖母様のお陰で『柱』の使用許可がおりたのですから!

 

 

 「ええ、そこで気絶している当主。九重 園児(そのじ)とは話がついておりますわ」

 

 中庭に安置されているのは、改造された『柱』

 表向きには使用を禁じながら、裏では真逆の行動を取っておりましたのね。

 ジーナとディエゴが融合していた際は、()()が切り札になっていたのでしょう。世界を壊すという計画も、龍位精霊に敗北してしまっては御破算ですもの。

 

 ふふ、まるで大きなダーツみたいですわ。よく飛びそうな形ですこと。

 

 【しいなさん】【これは『ミサイル』と呼ぶべき代物だよ】

 【噴射口も付いてるから、おそらく自力で敵の元まで飛んでいく】

 

 そうなんですの? ですが、私が投げて上に乗った方が効率的でしてよ。

 私には、3000km離れている対象へ命中させた実績が御座いますもの!

 

 「それは、美衣の『千里眼』が大幅に拡張されていたから可能でしたのよ? 今回、敵を捕捉する手段はシグマバイザーのみ。性能を考慮すると、沖合い100km地点での迎撃が理想でしょう」

 

 

 龍位精霊の上陸予想時刻は、本日正午。

 現在の時刻は、11時15分。

 シグマバイザーが、より正確に敵の座標を割り出せるまで──【およそ5分】

 あら、ディエゴ。オペレーターまでして下さるの? 保育士、プログラマーとお忙しいのではなくって?

 

 【統合精霊の能力を使わない時は、余裕があるよ】

 【プログラミングが必要なのは、呪いを書き換える時だけなんだ】

 

 今までに受けた『呪い』を利用する。それが、融合した私達の能力。

 オメガIII財団の予測では『(ひでりがみ)』の力が発現するとの事でしたが、外れてしまいましたわね。

 『日照り』と『嵐』は相反する性質。龍位精霊のチカラを打ち消すには、最適の能力。

 それを以て、柱を使用せずとも敵と対峙できる見立てでしたけれど──

 

 

 「能力が貧弱すぎますわ! こうして対抗手段を確保できたから良いものの……あら、別に しいなを責めている訳ではありませんのよ? ()()にいる軟弱者に言っていますの」

 

 私の下腹部を見て、ディエゴに苦言を呈するお祖母様。ですが彼は、そこには居りませんの。

 彼が居るのは、心の中。この胸の中にずっと彼は居てくれますのよ?

 

 【その表現だと、死んだ恋人になっちゃうよ!?】

 

 まあ! 恋人だなんて、気の早いこと。

 私はまだ、あなたからの返答を貰ってませんのよ?

 

 【あ。なら今は、暫定的に『パートナー』と表現しておくよ】

 

 あら、お上手。そうやって、のらりくらりと躱わすのがディエゴの特技ですものね!

 羽吹流奥義『落花柳垂(らっかりゅうすい)』は、話術でも冴え渡っておりますわ〜。

 

 

─────────

──────

───

 

 

 「時間がありません、睦み合うのは後になさい。大事な確認をしますので──取り急ぎ、そこの噴水へ入ってごらんなさい」

 

 待って下さいまし、お祖母様! む、睦み合ってなどいませんのよ!?

 あ、背中を押さないで……あら?

 

 「やはり()()()()()()事は可能。ならば、当初の作戦へ戻しても問題は無いでしょう」

 

 なるほど。キジムナー奇譚に載っていた、水面を歩いたという記述。

 こうして自分で体験してみると不思議な感覚ですわ。まるで、ベッドに乗っているみたい。これならば、跳びはねて空中の敵へ攻撃する事もできますわ!

 

 「最終確認をします。まず、統合精霊の膂力でミサイルを投擲。すかさず、その上へ乗り敵の元まで移動。そのまま命中させ、前回同様に敵を『酔わす』……そして、物理戦闘へ移行。幸いにして『物質変換(コンバート)』能力と萬宮寿流は相性バツグンです。貴女が持てる全ての技能を駆使して、目標を殲滅なさい!」

 

 はい! 材料は()()()()御座いますもの。『海水』からでも、武器は創れますわ!

 頼りにしてますわよ、ディエゴ。

 

 【火薬は再現できないから】【ロケランとか銃は無理だよ?】

 

 充分でしてよ。お祖母様と違って、私は元々『兵器』の扱いが苦手ですもの。

 これからも、機械に関する事はディエゴにお任せしますわ。シグマバイザーが示す情報も、あなたが噛み砕いて説明して下さいまし。【了解】

 

 

 「そうでした。肝心な儀式を失念しておりましたわ。今から貴女たちへ、ワタクシが巫女として『名』を与えます」

 

 待って下さいまし!? それでは『反動』が、名付け親であるお祖母様の元へ──!

 

 「ふふ、ここはシンプルに『萬宮寿しいなΔ(デルタ)』と名付けましょう。反動も責任も、全てワタクシが請け負います。思う存分、闘ってらっしゃい」

 

 お祖母様……! 【ばーさん……!】

 

 「それと()()()。窮地の際には、このワタクシに向かって啖呵を切った事を思い出しなさい。大勇(たいゆう)(きょう)なるが(ごと)し──その処世術の裏で磨き続けた『牙』を、今こそ見せて御覧なさい!」

 

 真に勇気のある者は、無闇に人と諍いを起こさない。だから他人からは『臆病者』の様に見えてしまう……そういった意味の言葉ですわね。

 きっとお祖母様なりに、デイ──ディエゴを発奮させていますのよ。

 

 【しいなさんが、僕の名前を呼んでくれれば】

 【さらに発奮するけれど……】【もう時間みたいだ】

 

 ええ! 行きますわよ‼︎ 『(ミサイル)』の投擲準備は万端ですわ!

 方角は【南南東】──この位かしら? 【もう3度、東へ──OK!】

 

 では、お祖母様。行って参ります‼︎

 

 

▲▲▽▽◀︎▷◀︎▷

 

 

 斯くして、僕らは『龍位精霊(ドライジン)』の元へと突撃した。

 

 雷雲を切り裂く八代折(ミサイル)へ跳び乗り、海上を目指す。瞬きの間に陸地は消え去り、視界は群青色を映すのみとなる。その中心には、小さな黒点。

 それが龍のカタチと判別できた瞬間、ミサイルの尖端が標的へと命中していた。

 

 『ダーツは得意なんですの』

 

 そんなセリフを放ちながら、後ろ宙返りで海面へと()()してみせた彼女。見上げた視界に映るのは、虹色の爆炎に包まれる龍の姿。神通力と精霊による炎色反応。物理法則を無視したそれは、とても綺麗な色彩を織り成していた。

 

 一切の滞りなく、ここまでの作戦は無事に成功を見せたのだ。

 だが、禍福は糾える縄の如し。

 そう言わんばかりに、事態は一変する──

 

 

 「はははは‼︎ よもや、わらわ自身が込めた『力』を、この様な形で返してくれるとは思わなんだ!」

 

 爆炎が晴れたその先に、龍の姿はもう無かった。

 人型となったそれが、僕らを嘲笑うかのように高笑いを上げていた。

 

 巫女の神通力が籠った『八代折』──古事記にて、酒と表現された理由は精霊を酔わす効果があったからである。実際に、前回の作戦ではその効果が認められている。

 しかし、今回は違ったのだ。大きな差異は『柱の質』

 通常ならば、八代に渡って巫女が力を込める八代折。前回使用されたものも、この例からは漏れていなかった。

 

 ところが、先程の『柱』だけは唯一の例外となる。

 九重その2の切り札。とっておきの隠し玉。

 始祖オメガが、たった一人で力を込めた最初の一本。後世の巫女が八代かけて漸く満杯にできる物を、単独で満たして見せた史上最高の巫女。

 そんな一線を画す、規格外の力が籠った『柱』──それがミサイルの正体だったのだ。

 

 「馴染む……実に、能く馴染む‼︎ 礼を言うぞ、我が子孫よ」

 

 遥か昔に『精霊世界(ジンライム)』へと旅立った筈の女性。

 ギリシャ数字の最後に位置付けられるΩ(オメガ)。偶然か必然か、その名を冠する最古の巫女。

 

 

 「さて……闘う前に、一つ問うておこうかの。なぁに、様式美というヤツじゃ」

 

 ふと気付けば。

 不敵な笑みを浮かべた()()が、僕らの眼前へと顕現していた。

 

 しいなさんと瓜二つな、白髪の少女。彼女からの問いかけに、僕らは戦慄する事となる──

 

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