平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話 作:浅学寺のえる
さて、龍退治には古式ゆかしい作法が御座いましてよ。
美衣と融合した際にも、
あの時は緊急でしたので、そのまま『柱』を投擲して武器としましたが……
【僕もA子から聞いてるよ】
【なんでも、柱へ乗って遥か彼方の海上まで跳んだとか】
ええ。実に理に適った移動方法でしょう?
ふふっ、あくまで物理法則を無視できる『精霊』にとっては、ですけれど。
話を戻しますわ。
その時に
歴代の巫女達が力を注いできた特別な柱。
高さ10m、直径2m。その巨大な柱を神通力で満たすには、巫女が八代にわたって力を込める必要があるんですの。
全ては、未来に訪れるであろう危機の為に。
その想いを託された柱が、8本ほど現存しております。
大昔の予言では、巫女八代ごとに未曾有の危機が訪れるなどと言われてましたのに……使われた機会は、平安時代に一度、昭和に一度、そして先日に一度のみ。
【やしろおり……まさか、
【ヤマタノオロチを退治した時の酒だ!】
【古事記にもそう書かれている】
ディエゴの仰る通り、古事記にも記されておりますわ。ただし、酒という部分は比喩ですの。
精霊を酩酊させる神通力。その効果を判りやすく『酒』と表現したのでしょう。
原理としては……そうですわね、奇しくもカクテルで例えられますわ。
比重の違う液体同士が混ざりにくい事は、あなたもご存知でしょう? なのでバーテンダーは、混合する為にシェーカーなどで攪拌してますわね。
そして、精霊と巫女の神通力も、比重の違う力なんですの。液体の例と同様、混ざりにくい性質が御座いますわ……ですが、勢いよくぶつければ話は別となります。
その場合、内部で力が攪拌され『精霊』は酩酊状態に陥りますのよ。
【脳がシェイクされるみたいな感じ?】
【それで、フラフラになった相手へとどめを刺す、と】
その通りですわ。
つまり、古式に則った龍退治の方法とは──酔わせて、ぶった斬る! ですの‼︎
【なるほど……】
【それが、イグナばーさんが待つ『九重その2』へ向かってる理由?】
柱の管理は、代々九重の家系が担っておりますの。
元々は、本家に使用許可を出す権限があったのですが……昭和の中頃、その実権が柱ごとジーナの家へ渡ったという話ですわ。お祖母様は、危機に乗じて強引に委譲させられたと嘆いてましたわね。
そう考えますと、当時の鬱憤が今回の
【あれ? おかしいな】
【僕の耳には、お話しという名の……殲滅に聞こえたけど】
【まさか、融合に不具合が生じてる?】
うふふ。すこぶる好調で、一切の不具合も御座いませんわ。それに『統合精霊』としての姿も気に入っておりますのよ!
燃える様に赤い髪は、デイゴの花を思わせる鮮やかな色彩。
服装は、ディエゴの趣味が反映された笛壱高校の制服。
そして、頭部には『ネコミミ』お尻には『しっぽ』が生えてましてよ!
そうですわ! 生えていると言えば、ディエゴの──【ストーップ‼︎】
なにを慌ててますの? 最初は私も驚きましたが、考えてみれば何も恥ずかしい事など御座いませんでしょう。男女で融合しているのですから、半陰陽となるのは当然ですわ。
【その表現は、将来的にあまり使われなくなる……と思う】
【だから判りやすく、ふたな──いや『両性具有』としておこう!】
まあ! それでしたら、天使と同じですわね!
【……おそらくは、天使のような笑顔を見せているであろう彼女】
【仕方ない】【イグナばーさんに禁止されているけど】
【僕の心の均衡を保つ為にも、少しだけ回想させてもらおう──】
武道館にて、融合は無事に完了した。
彼女の中へ溶け込んだ意識が再構成され──僕は現在、不思議な空間にいる。
図書館、幼稚園、萬宮寿流道場、羽吹流道場、パソコン部の部室……それらが混在した空間。
おそらく、これが『心象風景』というモノなのだろう。
夢の世界よりも、よほど現実離れした光景。
だが、予め『経験者』から話を聞いていたので、混乱する事なく事態を飲み込めている。
あの人は、僕の脳内を指して『私の部屋とキミの部屋。それが合体した場所』と言っていた。その6畳ほどのスペースで、スマホ画面に映る僕の視界を眺めていたそうだ。
僕がいる空間にも、ブラウン管テレビが設置されている。
そこに映し出されているのは、パイプ椅子の上で眠っている僕の姿。その頭を白魚の様な手が撫でている……『
あ、画面下に『たわわ』が映り込んだ。これで確定。
テレビモニターが、彼女の視界とリンクしているのだ。そして、さらに……
──以前、美衣と『
それに、力が暴走する兆候もありませんし……これが五属性を内包した統合精霊ですのね!
彼女の思考まで、スピーカーから流れてくる仕様だ。
おそらく『マイク』を使えば、僕の声も彼女へと届く。レイワさんで言う所の『コメ欄』への書き込み。僕はそのシステムに馴染みが無いので、マイクという形で反映されているのだろう。
あれで、しいなさんと会話できる筈だが……試す余裕が全く無いのだ。
彼女は『暴走の兆候がない』と思考していたが、とんでもない!
こうして状況把握をしつつも、僕が
幼稚園のスペース。
そこには、さも当然の如く園児がいる。
赤、茶、緑、金、青。各属性に対応する髪色をした、5人の幼女。
まるでハブとマングースのように、すぐにケンカをする 『火属性』と『土属性』
周囲の事などお構いなしに、二人だけの世界を作り出す『木属性』と『金属性』
仲間の輪へ入る事ができず、一人寂しそうに佇んでいる『水属性』
どこか既視感のある子供たち。その仲を取り持つ事が、僕の役割の一つなのだ。
これを怠れば、たちまち融合は解けてしまう。
……と、記載されていたのだ。なぜか図書館のカウンターに置かれていた『攻略本』に!
──あら? 美衣と融合した時と同じく、なんとなく『チカラ』の使い方が解りますわ!
そうですわね……手始めに、盾でも
急に
そうか、僕が攻略本を読み進めた事で、しいなさんにも情報が渡ったんだ。
彼女が求めてきたのは『複合能力』……最初の仕事としては飛ばし過ぎだが、やってやる。
この空間は、僕の心象風景。
属性を具象化した幼女たちも、ゲームの攻略本に似た仕様書も、僕が理解しやすい形で心の中に現れている。これら全てが、僕としいなさんを繋ぐ窓口。
つまり、ユーザーインターフェース──『UI』という事だ。
そして、統合精霊の能力を行使する為のUIが、パソコンとなる。
懐かしの愛機『PC-9801FA』搭載されているOSは『MS-DOS』
これを使って、精霊の不思議な力に
──この椅子が良さそうですわね。これを、丸い盾にしますわよ……えいっ‼︎
必要なプロセスは『圧縮』『膨張』『石化』だろう。
まずは、しいなさんが手にしたパイプ椅子を圧縮する作業からだ。
これはパソコンとも相性がいい能力なので助かる──よし、エンコード完了。
小さなキューブとなった元パイプ椅子が、彼女の手のひらに乗っている。
次は、これを膨張させて任意の形へ成形する作業だ。
『
ただ、立体造形として成立させるには圧倒的に質量が足りない。なにせ、素材がパイプ椅子一つだけなのだから。
それを解決するのが、石化となる。
『
これはレイワさんから教わった『3Dプリンター』の造形方式と似ている。
ちなみに、
五属性の幼女たちが協力して、足りないナニカを補填しているのだ。
有事の際には、きちんと団結してくれる子供たち。
ヒトの言語を発する事はないが、こちらの意図は汲んでくれる。実に頼もしい存在である。
よし、構築できた……これで『
──簡単に出来ましたわ! 私の思惑通り、ツルツルの表面を『鏡』として利用できますわね!
彼女の真意は判っていたので、表面にアルミの光沢を残しておいたんだ。
ふぅー。決して簡単な作業では無かったけれど、やり甲斐はあった。
保育士とプログラマーを『ワンオペ』で熟す状況にも、どうにか対応できそうだ。幸いどちらも得意分野。かなりギリギリではあるが……頑張れる!
──真っ赤な髪。ですが、長さは普段の私と一緒ですのね。顔もそのままですし……
おっと。しいなさんが、鏡で自身の姿を確認している今がチャンスだ。
子供たちと遊んであげながら、攻略本を読み進めておこう。
キジムナーとコロポックルに共通しているのは『祟りを起こす』という点。
僕と合体した彼女には、その特性が色濃く顕れている様だ。
祟りと呪いは微妙に違うモノではあるが、どちらも状態異常を起こす現象──
簡単にまとめると、彼女の身に起こった『呪詛返し』をアレンジできる。
それが、統合精霊としての基本能力となる。
幻覚、猫、洗脳、石化、圧縮、膨張、子供化、夢、入れ替わり。
九つの呪い。
僕も受けた事のある呪いは、攻略本に赤い文字で記されている。
共通して経験した『呪い』の為か、この五つには厄介な縛りがあるらしい。
──どうして、ネコミミが生えてますのーっ!?
どれか一つをチョイスして、常時発動させておく必要があるのだ。
圧縮によるキューブ化と子供化は、戦闘を考えれば論外。
夢と入れ替わりは、どう働くのか良く判らない。攻略本をさらに読み進める必要がある。
なので、現状では猫化が最善。完全な猫ではなく、あくまで『ネコミミ』と『しっぽ』が付くだけなので、戦闘への影響は少ないだろう。
──それに、なぜか制服を着てますし!?
融合前の彼女は、白いワンピースを身に纏っていた。
それが今、笛壱の制服へと変化しているのだ。B子さんとの融合時も、ギリシャ風の服装へ変化したと聞いていたけれど……なぜ今回は、現代の服なのだろう?
コロポックルのイメージだと、アイヌの民族衣装。
キジムナーのイメージだと、上半身ハダカで
──きっとディエゴの趣味ですわね! 思えば彼も、この服を着た経験がありますもの!
け、結果オーライだ。
仮に僕の趣味が反映されたのだとしても、彼女が腰蓑姿になるより余程いい。
だけど、しいなさんの制服を僕が着てしまったのは不可抗力だ‼︎ あれはB子さんが、勝手に僕の身体で着替えたせいで……
そうだ! 弁明の為にも『マイク』を試してみよう!
ブラウン管テレビと接続されているのは、見覚えしかないゲーム機。その2Pコントローラーには、マイク機能が付いているのだ。
という訳で、僕にコントローラーを貸してくれないかな? 『水属性』ちゃん。
ん? テレビを指差して、僕に何かを伝えようとしている。
画面に映っているのはスカート。しいなさんが少し屈んで、自らの下腹部を触っているみたいだ。一体、どうしたのだろう?
──ふぇっ!? 歩く時に、少し違和感があると思ってましたが……!
な、なぜ私に
【ネコミミ令嬢で、ふたなり!?】【設定を盛り過ぎだ!】
──ディエゴ?
【違う!?】【
【あと、露骨な表現をしない様に気をつけて‼︎】
子供が見ているんだ。
あれだけバラバラだった五人の幼女が、今は一丸となってモニターを凝視している。
五属性が完全な均衡を保った状態──相剋の真芯。
もし、これがそうなのだとしたら……やだなぁ。
──なるほど、現状は判りましたわ。
も、もう! 急に子供ができたなんて仰るから、驚いてしまいましたわ!
しいなさんと、一通りの情報交換が終了した。
只今の時刻は……10時50分だろうか? しいなさんの視力が低下したままなので、遠くにあるデジタル時計がボヤけて見える。
──諸々の問題は、お祖父様の発明品『シグマバイザー』で解決ですわ。
これを装着する事で、視力の補正はもちろん、敵がいる座標まで把握できますの。
うん。それ、カラーリングを白くしただけの『オメガバイザー』だね。
あ、でも液晶部分の表示が地味に変化している。
それなのに、左目部分が髪の毛で隠れているから意味がない!
──どうかしら? あなたの髪型に寄せてみましたの!
こちらの方が、なんだか落ち着きますわ〜。あ、あら?
バイザーから何か音がしていますわ!? ど、どうしましょう、ディエゴ!
これは……エラーを示すビープ音とは少し違う。着信音だろうか?
【落ち着いて、しいなさん】
【さっき、バイザーの側面に円形の切れ込みがあった】
【多分それがスイッチ】【取りあえず、押してみるんだ】
──あ、押せますわ! さすが、ディエゴですわね‼︎
機械に関してのプロですわ。あなたと一緒の私に、もう死角など存在しません事よ!
──《それは言い過ぎですよ、しいな。無事に融合できた様で何よりですが、あの者を甘やかしては……いえ、今は連絡事項が優先ですわね。これより、作戦の一部を変更します》
通信相手は、萬宮寿イグナ。
この土壇場での作戦変更とは流石である。レイワさんが聞いていたら、トラウマで失神していただろう。だって、この行為は令和時代のモンスターと同じなのだ!
すなわち『納期はそのままで、前日に仕様変更してくるクライアント』‼︎
──判りましたわ! 急な変更ですけど、やってやりましてよ!
ああー!? しいなさんが、一番ダメな返し方をしちゃった!
これはマズイ。レイワさんの言葉を借りるなら『やりがい搾取スパイラル』の入り口。
僕も逆境に燃え上がる性格だから、気を付けろと言われているんだ。
急いで、しいなさんを説得しなくては……!
──だって、ディエゴとの共同作業でしたら、どんな苦難でも平気ですもの! ね?
【任せて、しいなさん】【どんな作戦だろうと、やってやるさ!】
あら、回想が終了しましたのね。
精霊の力を温存する為、ここまで徒歩で移動しましたけれど……何やら、ディエゴから疲労感が伝わってきますわ。悩み事でもございますの?
【僕って、チョロいのかも知れない】
チョロい。私も良く周囲の人から言われますが……あなたも私も、赤の他人に利用されるような事態は極力避けていますでしょう?
心を許した友人の頼みを、快く聞き届ける。
その好意を『チョロい』と表現されるのなら、それは誇っても良い事だと思いますわ。
【……ありがとう】【それはそうと、ばーさんは?】
【呼び出した張本人が九重邸に居ないとか、ふざけてると思う】
その物言いは、お祖母様に心を許しすぎですわ!
私に、ヘンな嫉妬心を抱かせないで下さいませ……コホン、見たところ九重邸の柱が7本になってますわね。
それと、邸宅に大きな穴があいてますわ。穴からは煙も上がっていますが、雨のお陰で火災の心配は無さそうです。不幸中の幸いですわね。
さあ、ディエゴ。ここから推理して下さいな?
【イグナばーさんが、ロケラン発射】【壁を破壊】
【その大穴を見て九重その2が降参】【という具合かな】
【大坂城を攻めた徳川家康のやり口だよ】
まあ! 分かり易い例えですわね。ですが、柱が一本足りない理由が不明でしてよ?
「あら、やけに早い到着ですね、しいな。安心なさい『柱』は、邸宅の中庭へ運ばれております。しかも、愚かな企てによって既に
ロケットランチャーを肩に担ぎながら、お祖母様が悠然と闊歩して登場しましたわ。
ディエゴの推理は、見事に的中しましたわね!
【あはは、半ば冗談だったんだけど……】
強風に髪を靡かせる姿が格好いいですわ。アニメのエンディングみたいですの。
ほら、ディエゴも好きと仰っていたラストシーンが静止画になる、あの……きゃっ!? 突風でスカートが──
「しいな!? その
流石は、お祖母様。今の一瞬で見抜くとは、驚異的な観察眼ですわ。
ええ、現在の私は『両性具有』ですの。ディエゴの言葉を借りるのならば『
「──……!」
あら? お祖母様が【宇宙猫】状態に……うちゅうねこ? それも落語なのかしら。
お祖母様が復活するまでの間に、少しおさらいしておきましょう。
元の作戦では、柱の使用許可がおりていませんでした。
美衣と統合精霊化した際、既に一つ使用している事が原因ですわ。
なにせ、一本を作り出すまでに巫女が八代に渡って力を注ぐ代物。【タイパが悪い!】
タイムパフォーマンスの略かしら? ええ、その通り効率は良くありません。なので、そう易々と使用できませんの。
──既に龍位精霊は弱っているので、統合精霊の力だけでトドメをさせる。
それが【九重その2】からの返答でしたわ。
そういった事情から、当初立案した作戦は破綻しかけましたの。
お祖父様は、市街地への被害を最小限に留める為、海上での迎撃を想定しておりましたが……それは、柱による移動を前提にした作戦でしたから。
【確かにこの荒天だと、並の船や飛行機では無理そうだ】
【だけど、一つ疑問がある】
【普通の石柱や鉄骨を投擲する事で、解決できるのでは?】
統合精霊の力に耐え切れず、途中で燃え尽きてしまいますわ。『
例外は、精霊が生み出した物質と、巫女の柱──『
【なるほど】【それで
ええ。お祖母様のご実家から、助け舟が出されましたの。
重工会社『九重』が秘密裏に開発中の『全天候戦闘機・アペンドナイン』──その試作機で、龍位精霊の元まで乗り付ける。
これが、ディエゴにもお伝えしていた当初の作戦となりますわ。
【物理法則を無視せず】【純粋な科学力で対抗する】
【ものスゴく男心をくすぐる展開】
【……だったのに!】
うふふ、戦闘機に乗るのが楽しみでしたのね。残念ながら、今回はお預けですわ。
なぜなら、お祖母様のお陰で『柱』の使用許可がおりたのですから!
「ええ、そこで気絶している当主。九重
中庭に安置されているのは、改造された『柱』
表向きには使用を禁じながら、裏では真逆の行動を取っておりましたのね。
ジーナとディエゴが融合していた際は、
ふふ、まるで大きなダーツみたいですわ。よく飛びそうな形ですこと。
【しいなさん】【これは『ミサイル』と呼ぶべき代物だよ】
【噴射口も付いてるから、おそらく自力で敵の元まで飛んでいく】
そうなんですの? ですが、私が投げて上に乗った方が効率的でしてよ。
私には、3000km離れている対象へ命中させた実績が御座いますもの!
「それは、美衣の『千里眼』が大幅に拡張されていたから可能でしたのよ? 今回、敵を捕捉する手段はシグマバイザーのみ。性能を考慮すると、沖合い100km地点での迎撃が理想でしょう」
龍位精霊の上陸予想時刻は、本日正午。
現在の時刻は、11時15分。
シグマバイザーが、より正確に敵の座標を割り出せるまで──【およそ5分】
あら、ディエゴ。オペレーターまでして下さるの? 保育士、プログラマーとお忙しいのではなくって?
【統合精霊の能力を使わない時は、余裕があるよ】
【プログラミングが必要なのは、呪いを書き換える時だけなんだ】
今までに受けた『呪い』を利用する。それが、融合した私達の能力。
オメガIII財団の予測では『
『日照り』と『嵐』は相反する性質。龍位精霊のチカラを打ち消すには、最適の能力。
それを以て、柱を使用せずとも敵と対峙できる見立てでしたけれど──
「能力が貧弱すぎますわ! こうして対抗手段を確保できたから良いものの……あら、別に しいなを責めている訳ではありませんのよ?
私の下腹部を見て、ディエゴに苦言を呈するお祖母様。ですが彼は、そこには居りませんの。
彼が居るのは、心の中。この胸の中にずっと彼は居てくれますのよ?
【その表現だと、死んだ恋人になっちゃうよ!?】
まあ! 恋人だなんて、気の早いこと。
私はまだ、あなたからの返答を貰ってませんのよ?
【あ。なら今は、暫定的に『パートナー』と表現しておくよ】
あら、お上手。そうやって、のらりくらりと躱わすのがディエゴの特技ですものね!
羽吹流奥義『
「時間がありません、睦み合うのは後になさい。大事な確認をしますので──取り急ぎ、そこの噴水へ入ってごらんなさい」
待って下さいまし、お祖母様! む、睦み合ってなどいませんのよ!?
あ、背中を押さないで……あら?
「やはり
なるほど。キジムナー奇譚に載っていた、水面を歩いたという記述。
こうして自分で体験してみると不思議な感覚ですわ。まるで、ベッドに乗っているみたい。これならば、跳びはねて空中の敵へ攻撃する事もできますわ!
「最終確認をします。まず、統合精霊の膂力でミサイルを投擲。すかさず、その上へ乗り敵の元まで移動。そのまま命中させ、前回同様に敵を『酔わす』……そして、物理戦闘へ移行。幸いにして『
はい! 材料は
頼りにしてますわよ、ディエゴ。
【火薬は再現できないから】【ロケランとか銃は無理だよ?】
充分でしてよ。お祖母様と違って、私は元々『兵器』の扱いが苦手ですもの。
これからも、機械に関する事はディエゴにお任せしますわ。シグマバイザーが示す情報も、あなたが噛み砕いて説明して下さいまし。【了解】
「そうでした。肝心な儀式を失念しておりましたわ。今から貴女たちへ、ワタクシが巫女として『名』を与えます」
待って下さいまし!? それでは『反動』が、名付け親であるお祖母様の元へ──!
「ふふ、ここはシンプルに『萬宮寿しいな
お祖母様……! 【ばーさん……!】
「それと
真に勇気のある者は、無闇に人と諍いを起こさない。だから他人からは『臆病者』の様に見えてしまう……そういった意味の言葉ですわね。
きっとお祖母様なりに、デイ──ディエゴを発奮させていますのよ。
【しいなさんが、僕の名前を呼んでくれれば】
【さらに発奮するけれど……】【もう時間みたいだ】
ええ! 行きますわよ‼︎ 『
方角は【南南東】──この位かしら? 【もう3度、東へ──OK!】
では、お祖母様。行って参ります‼︎
斯くして、僕らは『
雷雲を切り裂く
それが龍のカタチと判別できた瞬間、ミサイルの尖端が標的へと命中していた。
『ダーツは得意なんですの』
そんなセリフを放ちながら、後ろ宙返りで海面へと
一切の滞りなく、ここまでの作戦は無事に成功を見せたのだ。
だが、禍福は糾える縄の如し。
そう言わんばかりに、事態は一変する──
「はははは‼︎ よもや、わらわ自身が込めた『力』を、この様な形で返してくれるとは思わなんだ!」
爆炎が晴れたその先に、龍の姿はもう無かった。
人型となったそれが、僕らを嘲笑うかのように高笑いを上げていた。
巫女の神通力が籠った『八代折』──古事記にて、酒と表現された理由は精霊を酔わす効果があったからである。実際に、前回の作戦ではその効果が認められている。
しかし、今回は違ったのだ。大きな差異は『柱の質』
通常ならば、八代に渡って巫女が力を込める八代折。前回使用されたものも、この例からは漏れていなかった。
ところが、先程の『柱』だけは唯一の例外となる。
九重その2の切り札。とっておきの隠し玉。
始祖オメガが、たった一人で力を込めた最初の一本。後世の巫女が八代かけて漸く満杯にできる物を、単独で満たして見せた史上最高の巫女。
そんな一線を画す、規格外の力が籠った『柱』──それがミサイルの正体だったのだ。
「馴染む……実に、能く馴染む‼︎ 礼を言うぞ、我が子孫よ」
遥か昔に『
ギリシャ数字の最後に位置付けられる
「さて……闘う前に、一つ問うておこうかの。なぁに、様式美というヤツじゃ」
ふと気付けば。
不敵な笑みを浮かべた
しいなさんと瓜二つな、白髪の少女。彼女からの問いかけに、僕らは戦慄する事となる──