平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話 作:浅学寺のえる
「
予想の斜め上を行く問いかけ。対して僕らは、息を飲む事しか出来ずにいる。
白髪の少女が纏う気配──神気と表現するしかない威圧感が、僕らの口を閉ざしてしまった。
人型となり、しいなさんと瓜二つではあるが、相手は『龍の角』と『龍の尾』を持つ少女。麻で作られた古代の巫女服を身に纏い、さながら『龍神を宿した巫女』といった印象だ。
対してこちらは『ネコミミ』と『ネコしっぽ』が特徴的な赤髪の少女。
せめてトラ猫ならば龍虎相
もはや制服姿も相まって、ただのコスプレ女子高生。サイバーパンクな外観の『シグマバイザー』が、尚のことコスプレ感に拍車をかけている事だろう。
総括すると『ネコミミ赤髪メカクレ悪役令嬢(両性具有)サイバーパンク風味』という出で立ち……今にも属性が氾濫しそうである。見た目だけで、既に一杯一杯だ。
そんな彼女が、本物の龍神と対峙すれば──思考停止は、むしろ当然の反応なのだ。
「ん〜? ああ、『
龍を喰らった!?
なるほど……それで、原作とボスの配役が代わっているのか。
笛市近郊に封印されていた『
それが、龍位精霊の正体なのだ。
ちなみに龍が封印されていた山は、萬宮寿邸と例のスキー場との間に跨っている。僕らの見解では『クマゴローΣの撤退途上で、封印が解けた』という線が濃厚だ。
「ほれ、この顔を見て判らんか? ははは! 妾は今、すこぶる機嫌が良いのじゃ。よし! 見事、我が正体を看破する事ができれば──かの者の無礼を含め、全て許してやってもよいぞ」
こちらの混乱も構わずに、話が先へと進んでいる。
だけど、これは願ってもないチャンスだ!
先制攻撃を仕掛けた時点で、僕らには対話の機会など与えられないと考えていた。そもそも、話の通じる相手だとも思っていなかったのだ。
未だ龍神の纏う覇気は凄まじいままだが、口調だけは僅かに和らいだ印象。
気がかりなのは『かの者』と『許す』という二つのワードなのだが……このクイズに正解すれば、穏便に済む可能性が示されている。
ならば、答えておいて損はない。よし──!
【しいなさん】【気をしっかり!】
──ハッ……! ディエゴ。この方は、やはり……?
【うん。しいなさんの想像通りだ】
【ジンライムへ行ったはずの、あの人だよ】
良かった。しいなさんは放心しながらも、話が耳へ入っていたようだ。
名前当てに関しては、推理する必要がない程に大量のヒントが転がっていた。
しいなさんと瓜二つな風貌で、彼女を指して『子孫』と呼ぶ女性。どういう経緯で龍を食べたのか等、不明な点は多いものの。その正体は……
「あなたの名は、萬宮寿くいな!
「ふぇ……?」
し、しいなさん! この場面でポンコツを発揮しないでくれっ!?
相手も目が点になってるじゃないか!
ぐっ……僕も迂闊だった。
以心伝心に慣れてしまい、放心中のしいなさんへ確認も取らず『想像通り』などと言ってしまった! 実際、彼女は両親との再会を切望しているのだ。今の勘違いも仕方ない……っ‼︎
とは言え、クイズは不正解だ! どうしよう!?
「どうされましたの……あ! 私とした事が、うっかりしてましたわ。萬宮寿という姓は、既に旧姓となってますのね──つまり、如月くいな。それが、お母様のお名前ですわ‼︎」
「は、ははは! 良い。良いぞ。妾を母と間違えるとは、
杞憂だった。
もう自分から、ほぼ答えを言っているオメガ様。そこはかとなく、しいなさんとの血筋を感じさせるお人だ。口調こそ古風だけど、この人は話せばわかる性格の持ち主だろう。このまま、なし崩し的にラスボス戦が流れそうな雰囲気まである。
おっと、そうは言っても油断は禁物だ。しいなさんに任せていたら、また誤答する可能性が僅かにある……!
【答えはオメガだよ、しいなさん】
【時代を考えると、おそらく苗字は無い筈だ】
──始祖オメガ様!? た、確かに、今までの発言と辻褄が合ってますわね。
始祖様の生きておられた時代は西暦が始まる少し前……武家として『萬宮寿 姓』を名乗り始めたのは平安時代からですので、苗字の件も納得ですわ。
それに、ディエゴが言うのですもの間違い御座いませんね!
「解りましたわ。あなたは、萬宮寿の始祖にあたる偉大なる巫女──オメガ様ですのね!」
「なっ……‼︎ んな名前の日本人が、当時おるわけ無いじゃろー‼︎ 妾は海外の高級時計かっ!?」
えっ!? 彼女はオメガじゃないのか!? 【ご、ごめん、しいなさん!】
【偉そうなこと言っておいて、僕の推理は的外れだったみたいだ!】
──い、いえ! この方は間違いなく私たちの始祖様ですわ。
もし間違っていたとすれば、それはきっと……呼び名の方ですの。
「くっ、
2000年に及ぶ名前の間違え。それは怒っても仕方ない。
だけど、まるでシグマ氏を知っている様な口振り──いや、シグマ氏がこの人の『本名』を知っているという口振りか。四半世紀……25年前……昭和の中頃。当時、オメイラガとオメガ(仮)様が接触していた?
「待って下さいまし! お祖父様をご存知ですの!?」
「知っとるも何も、
マズイぞ。くいなさんに対する心象が、かなり悪い。
先程までの上機嫌が一瞬にして消え去り、怒りで神気が溢れて来て……それに呼応したかの如く、天候までもが荒れ始めた。
八代折のお陰で一度は晴れた空が、徐々に鈍色へと塗り替えられる。
再び押し寄せた分厚い暗雲に阻まれ、陽の光はついに潰えてしまった。
「あーっ! よく見れば其方、前回の『乳デカ』と同じ巫女ではないかっ!? ホイホイと
「ち、違いますわ! 美衣は姉で……ディエゴは! そ、その〜」
番という表現に、照れてしまう彼女は可愛い。
でも、こういう場面では『パートナー』と言い切って欲しい所ではある。
「それとな、素手でボコスカと殴られた怨みも忘れとらんぞ? 妾があれほど『武器』の心得を子や孫へ伝えたと言うのに……なんじゃ、あの闘い方は!? とこぞの時代で、あの忌々しい『ハブキ』一族の血でも混ざりおったか?」
驚愕の新事実が発覚した。
どうやらハブとマングースの闘争は、2000年以上前から続いているらしい。
いや、呑気に歴史の重みを感じている場合じゃない!?
いつ戦闘が始まってもおかしくない状況なんだ。パソコンで、武器の準備をしておかないと!
「いま一度、仕置きを兼ねて妾が手本を見せてやりたい所だが、無手のままでは……ん? おぉ! 丁度よい『武器』があったではないか! 龍の残り滓にしては、上等すぎる置き土産じゃな」
「えっ!? ご自分の
自身の手で龍の尾を根本から引き千切り、天へと掲げた始祖様。
そして、雷鳴が轟いた次の瞬間──尾は『剣』へと変化していた。柄と刃が一体化したそれは、博物館に展示されているような代物。見るからに『古代の剣』
だと言うのに、現代の武器を遥かに凌駕する存在感を放っているのだ。
ああ、考えてみれば当然だった。
見た目、成り立ち、纏っている神気。それら全てが合致してしまう。
古事記にも、日本書紀にも登場する、この国で最も有名な武器と──
「まるで、神器ですわ。まさか『
「ははは! その通りじゃ。コレを手にした益荒男を、九頭龍は腹へ飲み込んでおるからのう。まあ龍は、その後に切り刻まれておるのじゃが……チカラだけは取り込んでおった様じゃ。そして巡り巡って、かの神剣が妾の手で蘇ったということじゃ‼︎」
おそらく、ヤマトタケルの伝説。先程から日本神話のオンパレードだ。
神器をこうもあっさり取り出してくるとは、さすが萬宮寿のご先祖様。僕らが統合精霊でなければ、とっくに闘う気が削がれていた事だろう。
でも今は、対抗手段がある──よし!
【
【神秘には、神秘で対抗だ】
──七支刀……! 金属の様な硬さはあるのに、刀身が透き通ってますわ!
それに、淡く輝いていて綺麗ですの。
今回使った素材は『海水』
水から作り出した武器だから、
とは言え、精霊が作った物質なのだ。自然界の物質と違い、統合精霊の力に耐えられる『丈夫さ』が保証されている事だろう。
淡い光は『元素』の輝き。
盾を作った時と同様に、五属性の幼女が敷き詰めてくれた
リングリットの光輪を『太陽』に例えるならば、七支刀の光は『月』
昏い空の下、異形の剣が齎す燐光。
それが海面へと反射する事で、僕らの周囲は幻想的な光に包まれている。
月光を放つ七支刀──雰囲気だけならば、神剣とも互角の出来栄えだ!
「はははは! 妾に剣で挑む心意気があったとはのう! 此度の『
「ええっ! 受けて立ちましてよ!」
決戦の火蓋が切って落とされた。
白い少女が、埒外な膂力で神器を振りかぶる。ただそれだけの行動で、大気は震撼し、海がどよめく。だが、赤い少女は臆する事なく己の武器を構え続ける。膂力の差は同格。焦る事なく、冷静に彼女は狙いを定めているのだ。
剣術における『巻き打ち』を突き詰めた、萬宮寿流のカウンター奥義。
『
文字通り、相手の武器を巻き上げて無力化する妙技である。
そして七支刀の場合、支刀の又へ敵の刃を合わせる事で奥義の成功率は跳ね上がる。
剣を絡め、手首を捻り、相手の力を利用し、巻き上げを行う。常人が成せる技ではないが、しいなさんならば決めてくれる。明鏡止水へと至った彼女は、心の声が漏れない程の集中力を見せているのだから。
研ぎ澄まされた神経が、時の流れを緩やかにし──神剣の刃が、七支刀の又へと吸い込まれる。
狙い通りの角度。2000年に及ぶ武の研鑽が、古代の神秘を凌駕した瞬間だ。
その刹那。
僕の力作である七支刀は、呆気なく折れてしまった──
ディエゴ! 回想を続けて下さいましっ!?
【ごめん!】【いつも回想は、反省会も兼ねてるから】
【反省点が多過ぎると、無意識に中断しちゃうんだ】
御自身の行動を省みるのは素晴らしい事ですが……!
今の私の技量では、あなたの能力による『時間遅延』が無ければ太刀打ちできませんのよ!?
あと、次の武器は『トンファー』にして下さいな!
握り部分は私の手に合わせて、棒の長さは45㎝程で、太さは──
【や、やる事が多い!】
【回想の方も、いい加減ネタが尽きそう……!】
そう言いつつも、トンファーを生成してしまうディエゴは素敵ですわ!
防御も熟せる武器なので、これならば数撃は凌げます。さあ今の内に、回想を!
そうですわ! なぜ、回想が必要なのか。それを回想して下さいまし‼︎
【無茶苦茶な理屈……かと思いきや、的確な判断だ】
【よし──】
七支刀が砕かれた失敗を活かし、次に作ったのはダブルブレード。
そして、孔雀鉄扇、三節棍、鉤爪……と順番に破壊されて行き、現在に至る。
──やはり『層』の構成は、
次は、オーソドックスに大太刀を作って下さいまし。
今の膂力ならば、刃渡り3mでも使い熟して見せますわ!
そのサイズは、全然オーソドックスじゃない!? だけど【了解】だ。
属性幼女の協力で作る
【物質変換、完了】
──ふふっ。こんな大物、下が海でなければ『横薙ぎ』と『突き』しかできませんわね!
でりゃーっ‼︎
正面からの上段振り下ろし。しいなさんの掛け声も相まって、薩摩武士のような攻撃だ。
対する神剣は、下段から振り上げられた。海面ごと切り上げ、水飛沫が舞う中で剣同士が衝突する。
一合打ち合って、刃こぼれ無し。最初の失敗を考えれば、快挙と言えるだろう。
七支刀が一発で折れたのは、層が横向きだった為。
下から上へと積んでいった物は、横からの力に弱い。『だるま落とし』がいい例となる。七支刀の場合も、天叢雲剣を真横に受け、呆気なく刀身が折れてしまったのだ。
しいなさんが、咄嗟に上半身を逸らしたお陰で事なきを得たが……正直かなり焦った。
だが、そんな僕とは打って変わり、しいなさんは冷静に状況を分析していた。
彼女はすかさずダブルブレードを所望し、回転攻撃で武器の脆さをカバー。
次に、孔雀鉄扇を閉じた状態で使用し、耐久力の上昇を確認。
三節棍で攻撃を受けた際に『層』の向きに問題があると気付き……鉤爪で、その仮説を立証して見せたのだ。その惚れ惚れする程のバトルセンスに、頭が下がるばかりである。
──好機! 相手の動きが鈍りましたわっ‼︎
「ぬお……!? 危ないところじゃった。またもや『事象のゆらぎ』が起きておるな。しかも、発生源が近いとなると──まさか、そなたが番に選んだ
紙一重で斬撃をかわした、オメガ(仮)様。
こちらは彼女の名前が判らないと言うのに、向こうは僕の名前を看破してしまった。
だけど、そのハブキって……羽吹の方では?
『事象のゆらぎ』というワードで、まず思い浮かぶのが『
そうなると、やっぱりアレは本当の超常現象だったんだ……こわっ。
「確かに彼の姓は『葉蕗』ですが、ご先祖様の仰る萬宮寿の仇敵『羽吹』とは違いましてよ。発音が同じだけで別の血筋ですわ。彼の姓は、北の大地に由来していますもの」
「なんと!? 北へと旅立った方の『ハブキ』か! ならば『
得心がいったという雰囲気の、オメ仮さま。
そして、さらっとアップデートされている僕のルーツ。時省きの能力ってなに!?
僕って『時間操作』能力を持ってる『強キャラ』だったの!? 主人公の前へ立ち塞がる最後の敵、つまりラスボスは……他でもない、この『僕』だったのかァー!?
「はははは! ズルいぞ子孫よ! その男、
──っ!? 速度も技量も、先程までと段違いですわ!
今まで手加減をされておりましたの!?
く、ディエゴ! 武器の準備をしつつ『回想』を!
短い対話時間は終了し、再び激戦が繰り広げられている。
大太刀も耐久の限界を迎え、現在しいなさんは二振りの『ククリ刀』で交戦中だ。
しかし、オメ仮さまとの力量差は歴然。なにせ向こうは、喋る余裕があるのだから。
彼女は攻撃の手を一切緩めずに、少し前から様々な事を語っているのだ。
丁度いい。それらを思い返す事で『回想』を始めよう──
巫女の一族。
数多の不思議な力を有した『始祖』の血筋。
始祖は十人の子を産み、その子らに別々の才能を与えたそうだ。
精霊との交信に長けた、最初の子供『ジンガ』
占いのチカラに長けた、九番目の子供『コノエ』
戦いの才能に長けた、十番目の子供『マンジュ』
その特色は、子々孫々と受け継がれ……時に、混じり合う事もあった。そして、紆余曲折を経た現在。しいなさんには、始祖と同レベルの才能が集結しているのだとか。外見が瓜二つな事にも納得である。
そんな巫女の一族には、古代から仇敵が存在していた。
ハブキの一族。
荒々しく、野蛮で、すぐに諍いを起こす『むくつけき男』連中……と、始祖様は語っていた。
大いに偏見が含まれている疑いがあるが、そんなハブキの一族の中にも始祖様が認める男性が居たらしい。
それが、族長の弟である『ジエゴ』……うん。なんて迷惑な名前をしているんだろう! これが原因で、始祖様は僕を我が物にしようと奮い立っているんだ‼︎
……話を戻そう。
理知的で諍いを嫌うジエゴは、ハブキの一族としては異端の存在だった。
始祖様は、そんな彼と親交を深め──ついに、一族同士が和解する一歩手前まで漕ぎ着けたそうだ。
だが、ジエゴに妻がいた事が発覚し事態は急転する。
怒った始祖様は和解を取りやめ、ハブキの一族とはむこう100代に至るまで共存する事を禁じたのだとか。
それに責任を感じたジエゴは、一族の元を去り……妻子と共に北の地へ旅立っていったのだ。
めでたし、めでたし。
ちなみに、全ての話は始祖様が十人の子を
あくまで僕の所感だけど、ジエゴに落ち度は無いと思う。
彼の認識としては、族長と族長代理による会合。一族の未来を左右する大事な話し合いだったのだ。そもそも既婚者同士なので、恋愛自体が念頭になかった筈。
だと言うのに──
「ん? 何やら、妾へ向けた強い思念を感じるぞ。さては、子孫の中におる『ディエゴ』とやらが、妾に愛を囁いておるな! やはりお主は、ジエゴの生まれ変わりじゃ。妾の魅力を前にして、自慢の理性も爆発寸前なのじゃろう?」
──ディエゴ? 回想が止まってましてよ!
まさかとは思いますが、ご先祖様に目移りなどされてませんわよ……ね?
おっと。回想を中断する訳にはいかない。
ハブキの一族が持っていた特殊能力に付いても、まとめておこう。
『時省き』
集中力を高める事で、時の流れを狂わせるチカラ。
分かり易く言えば……集中して勉強や訓練などをした際『あっという間だった』と感じる現象を、実際に現実へと反映させる能力だ。
信じ難い程に桁外れな異能だが、羽吹流の門下生ならば誰もが納得することだろう。まことや老師は、意図的に稽古時間を『羽吹く』のだから。
もはや疑う余地もなく、羽吹家はこの地に残ったハブキの末裔だろう。
そして、北へと旅立ったジエゴの末裔が葉蕗家となる。
ジエゴは時省きのチカラに長けており、基本能力は勿論の事、集中する事で己の中の時間を加速させる事まで可能だった。
言い換えれば『思考の加速』だ。
人々が三日三晩かけて思いつく様な発想を、一瞬で提示してしまう男。それが、ジエゴへ向けられた周囲からの評価。始祖様が彼を理知的と評したことも、そこに起因している。
瞬き程の時間で、彼は『長考』できてしまう人物だったのだ。
この話を聞いて、僕にも思い当たる節が多々あった。
実際、思考に集中して時間の流れをゆっくりに感じたケースもある。120分の映画を脳内で再生して、現実では5分しか経過していない事すらあった。エンドロール中に、同じ映画を再度観てしまったのだ。
まあ集中し過ぎると周囲が見えなくなるので、戦闘の役に立つチカラでは無かったけれど。
しかし統合精霊となった今は、この能力が如何なく発揮されている!
僕が『回想』している間は、しいなさんの体感時間もスローになっているのだ。武道において、相手の動きを観察できる利点は大きい。
だからこそ『速度』も『技量』も格上となる相手に、どうにかくらい付けているのだ。
はぁ、はぁ、ディエゴ! 回想が終わってますわよ!?
まだ何か思い返せるエピソードがありますでしょう?
ご先祖様が、こちらの世界へ顕れた際、運悪く『龍』に食べられてしまったお話や……
龍位精霊を体内から操る事で、世界中を雨で浄化していたお話など!
お喋りなあの方が、色々と仰っていた事を回想して下さいまし‼︎
【あっ!?】【今の
【思考整理できた内容だと、深く集中できないんだ】
【ごめんっ!】
そんな……私は、あなたの邪魔をしてしまいましたのね。あ、
【はい】【できてるよ】
うぅ、ご先祖様の
やはり等速では厳しいですわ。スローでの戦いに慣れた事もあり、余計に速く感じてしまいますのー! かろうじて、対応、できて、おりますがっ‼︎
純粋な『武』で攻勢に転じられない現状では、絡め手も視野へ入れる必要が御座いますわ!
攻略本とやらに、何かいい手立ては載っておりませんの?
【ダメなんだ】【一応、最後まで読んだけど】
【あとはキミの目で確かめてみよう!】
【という文章で締め括られていた……】
なんですの、ソレは!? 出版元はどこですの! 抗議のお手紙を……
【無理だよ】【『夢の呪い』が作り出した本なんだから】
夢の呪い。ディエゴが居る空間を構成しているのは、夢の呪い。
そこで五属性が人のカタチを成しているのは、幻覚の呪い。
その子供たちが武器を作る際に協力的なのは、洗脳の呪い……この名称は聞こえが悪いですわね。実際は、言霊の力。元となる呪物は『催眠音声』ですもの。
私が心の中で武器の生成を依頼すると、声となって子供たちへ届く仕組みとなってますのね。
九つの呪いの内、今あげた3つはディエゴの環境を整える為のもの。
そして、武器の生成にも3つの能力が必須でしたわね。
残る呪いは、猫、子供化、入れ替わり。
この3つが、
【そうだね】【相手へ呪詛をもたらすには、直接送り込む必要があるんだ】
【その際に、僕らの中から『呪い』は消えてしまう】
懸念は、ご先祖様が『相剋の真芯』かも知れない問題と、私達にある制限『赤文字の呪い』ですわね。あ、十文字槍を下さいな。
【うん】【作っておいたよ】
【……相剋の真芯は、大丈夫だと思う】
ご先祖様が、事象のゆらぎを感じているから──それが、ディエゴの結論でしたわね。
理屈としては通りますが、他にも根拠が御座いますのでしょう?
あなたが言い切るからには、何か決定的な証拠が存在する筈ですもの。
【今日の僕はミスが多いのに】【信頼が厚くて嬉しいよ】
【えーと、実は……】
【前に、まことの『羽吹く』をリングリットが無効化していたんだ】
うふふ、あなた達はヒーローと仲がよろしいですものね。
まさかプライベートでも親交が御座いますの? 私、なんだか裏切られた気分ですわ……ジエゴに裏切られたご先祖様の御気持ちが、良く解りますの。
【と、とにかく!】
【そのご先祖様には、問題なく呪いが通るハズ‼︎】
でしたら、次は赤文字の呪いですわね。
どれかを選び、私の身へ常時発動させておく必要がある5つの呪い。猫、圧縮、子供化、夢、入れ替わり。
現在は『猫』を選んでおりますのよね? ですが、実質的に『夢』も発動しているのかしら?
【うん】【割合でいうと、猫が3割。夢が7割】
【だから、ネコミミと尻尾だけで済んでるんだよ】
心の空間を構成する為に、夢へ割くリソースが大きいという事ですわね。
つまり、猫を他の呪いへ変更しても3割程の影響で済むのが道理。それでも、圧縮は論外。子供化も、私の精神が中学生の頃へ戻ってしまう危険性がありますわね。
入れ替わりが不明な以上、猫を
消去法で、ご先祖様へ食らって頂く呪いは『子供化』で決まりですわ!
【ロリババア誕生フラグ!】
はぁ……? あまり、私達の始祖様へ不敬な物言いをなさらないで下さいまし。
一か八かで、ディエゴとご先祖様を『入れ替える』という博打プランでもよろしいんですのよ?
あと青龍刀!
【あ、ハイ】【出来てます】
【博打は勘弁して】【もう『オメ仮さま』って略さないから】
良い心がけです。それはそれとして、呼び名が無い事にも困りものですわね。
『オ』と『メ』が付くという事実は、ご本人が語られてましたし……今は暫定的に『乙姫』様としておきましょう。
龍神の様なお姿ですし、ピッタリでしょう? 【龍要素は、角しか残ってないケド】
【まあ呼びやすいし、乙姫でいいよ】
【それで、乙姫にどうやって呪いを?】
私に、いい案が御座いますわ。ディエゴが回想している間に思い付きましたの!
それを成す為にも、再び回想して頂く必要がありましてよ。
昨夜、私が去った後にお祖母様とお話された内容は思い出せませんの?
今こそ、お祖母様が仰っていた『窮地』ですわ。さあ、ディエゴ。回想なさいな!
【うーん】
【なにか、切っ掛けがあれば思い出せそうなんだけど……】
あら、『言霊』で命令してもダメですのね。
仕方ありませんわ。ならば、別の事を回想──する前に、ライオットシールドを。
今度は、横向きで層を構築した脆弱な物でお願いしますわ。
【え!?】【チョット、組み直す……よし完成!】
では、ディエゴ。
私とジーナが、元の身体へ戻った場面。確か、その辺りを回想しようとして、お祖母様に止められてましたわよね?
【うん】【その内容なら、回想できそうだ──】
武道館での出来事。
ヒコボシの計らいで、特殊能力を解除できるアイテム『ソージョー
だが、A子が僕の着替えをスカートにすり替えたせいで、飴玉が行方不明。
というのが今の現状となる。
僕はすぐにでも客間へと戻り、捜索するつもりだったのだが──
「まっふぇ、D。そのアメ、ちゃんとワタシが
口をモゴモゴと動かしたA子が、僕の袖を掴んで呼び止めて来たのだ。
舌足らずに、飴を回収したと報告する彼女。ジト目で僕を睨みながらも、少しだけ申し訳なさそうに眉をひそめている……。
イヤな予感しかしない!?