平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話   作:浅学寺のえる

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#25 龍神降臨/モンスター娘回

 「其方(そなた)は当然、(わらわ)の名を知っておるな?」

 

 予想の斜め上を行く問いかけ。対して僕らは、息を飲む事しか出来ずにいる。

 白髪の少女が纏う気配──神気と表現するしかない威圧感が、僕らの口を閉ざしてしまった。

 人型となり、しいなさんと瓜二つではあるが、相手は『龍の角』と『龍の尾』を持つ少女。麻で作られた古代の巫女服を身に纏い、さながら『龍神を宿した巫女』といった印象だ。

 

 対してこちらは『ネコミミ』と『ネコしっぽ』が特徴的な赤髪の少女。

 せめてトラ猫ならば龍虎相()つ、という構図に無理やり持ち込めた可能性もあるのだが……しいなさんのネコミミには、縞模様など存在しない。髪と同様に、綺麗な赤一色で染め上げられているのだから。

 もはや制服姿も相まって、ただのコスプレ女子高生。サイバーパンクな外観の『シグマバイザー』が、尚のことコスプレ感に拍車をかけている事だろう。

 

 総括すると『ネコミミ赤髪メカクレ悪役令嬢(両性具有)サイバーパンク風味』という出で立ち……今にも属性が氾濫しそうである。見た目だけで、既に一杯一杯だ。

 

 そんな彼女が、本物の龍神と対峙すれば──思考停止は、むしろ当然の反応なのだ。

 

 

 「ん〜? ああ、『龍の角(コレ)』のせいで警戒しておるのか。ははは! 安心せい、龍は既に()()()()おる」

 

 龍を喰らった!? 

 なるほど……それで、原作とボスの配役が代わっているのか。

 笛市近郊に封印されていた『九頭龍(くずりゅう)』の残留思念──レイワさん曰く『シブ声のオッサン』

 それが、龍位精霊の正体なのだ。

 ちなみに龍が封印されていた山は、萬宮寿邸と例のスキー場との間に跨っている。僕らの見解では『クマゴローΣの撤退途上で、封印が解けた』という線が濃厚だ。

 

 

 「ほれ、この顔を見て判らんか? ははは! 妾は今、すこぶる機嫌が良いのじゃ。よし! 見事、我が正体を看破する事ができれば──かの者の無礼を含め、全て許してやってもよいぞ」

 

 こちらの混乱も構わずに、話が先へと進んでいる。

 だけど、これは願ってもないチャンスだ!

 先制攻撃を仕掛けた時点で、僕らには対話の機会など与えられないと考えていた。そもそも、話の通じる相手だとも思っていなかったのだ。

 

 未だ龍神の纏う覇気は凄まじいままだが、口調だけは僅かに和らいだ印象。

 気がかりなのは『かの者』と『許す』という二つのワードなのだが……このクイズに正解すれば、穏便に済む可能性が示されている。

 ならば、答えておいて損はない。よし──!

 

 【しいなさん】【気をしっかり!】

 

 ──ハッ……! ディエゴ。この方は、やはり……?

 

 【うん。しいなさんの想像通りだ】

 【ジンライムへ行ったはずの、あの人だよ】

 

 良かった。しいなさんは放心しながらも、話が耳へ入っていたようだ。

 名前当てに関しては、推理する必要がない程に大量のヒントが転がっていた。

 しいなさんと瓜二つな風貌で、彼女を指して『子孫』と呼ぶ女性。どういう経緯で龍を食べたのか等、不明な点は多いものの。その正体は……

 

 

 「あなたの名は、萬宮寿くいな! (わたくし)のお母様ですわ‼︎」

 

 「ふぇ……?」

 

 し、しいなさん! この場面でポンコツを発揮しないでくれっ!?

 相手も目が点になってるじゃないか!

 

 ぐっ……僕も迂闊だった。

 以心伝心に慣れてしまい、放心中のしいなさんへ確認も取らず『想像通り』などと言ってしまった! 実際、彼女は両親との再会を切望しているのだ。今の勘違いも仕方ない……っ‼︎

 とは言え、クイズは不正解だ! どうしよう!?

 

 

 「どうされましたの……あ! 私とした事が、うっかりしてましたわ。萬宮寿という姓は、既に旧姓となってますのね──つまり、如月くいな。それが、お母様のお名前ですわ‼︎」

 

 「は、ははは! 良い。良いぞ。妾を母と間違えるとは、()い奴め。と、特別に、もうひとたび回答する権利をやろう。ちなみに『オ』と『メ』が付いとるぞ〜?」

 

 杞憂だった。

 もう自分から、ほぼ答えを言っているオメガ様。そこはかとなく、しいなさんとの血筋を感じさせるお人だ。口調こそ古風だけど、この人は話せばわかる性格の持ち主だろう。このまま、なし崩し的にラスボス戦が流れそうな雰囲気まである。

 おっと、そうは言っても油断は禁物だ。しいなさんに任せていたら、また誤答する可能性が僅かにある……!

 

 【答えはオメガだよ、しいなさん】

 【時代を考えると、おそらく苗字は無い筈だ】

 

 ──始祖オメガ様!? た、確かに、今までの発言と辻褄が合ってますわね。

 始祖様の生きておられた時代は西暦が始まる少し前……武家として『萬宮寿 姓』を名乗り始めたのは平安時代からですので、苗字の件も納得ですわ。

 それに、ディエゴが言うのですもの間違い御座いませんね!

 

 

 「解りましたわ。あなたは、萬宮寿の始祖にあたる偉大なる巫女──オメガ様ですのね!」

 

 「なっ……‼︎ んな名前の日本人が、当時おるわけ無いじゃろー‼︎ 妾は海外の高級時計かっ!?」

 

 えっ!? 彼女はオメガじゃないのか!? 【ご、ごめん、しいなさん!】

 【偉そうなこと言っておいて、僕の推理は的外れだったみたいだ!】

 

 ──い、いえ! この方は間違いなく私たちの始祖様ですわ。

 もし間違っていたとすれば、それはきっと……呼び名の方ですの。

 

 

 「くっ、志熊(しぐま)め。妾の名が()()()口伝された経緯を知っておきながら、未だに正しておらんとは……! あやつ、四半世紀も何をしておった‼︎」

 

 2000年に及ぶ名前の間違え。それは怒っても仕方ない。

 だけど、まるでシグマ氏を知っている様な口振り──いや、シグマ氏がこの人の『本名』を知っているという口振りか。四半世紀……25年前……昭和の中頃。当時、オメイラガとオメガ(仮)様が接触していた?

 

 「待って下さいまし! お祖父様をご存知ですの!?」

 

 「知っとるも何も、魔熊(まぐま)の倅じゃろうて……そうか、其方は志熊の孫か。つまり、当時の跳ねっ返り巫女の娘──ぐぬぬ、()()と妾を間違えておったのか……!」

 

 マズイぞ。くいなさんに対する心象が、かなり悪い。

 先程までの上機嫌が一瞬にして消え去り、怒りで神気が溢れて来て……それに呼応したかの如く、天候までもが荒れ始めた。

 八代折のお陰で一度は晴れた空が、徐々に鈍色へと塗り替えられる。

 再び押し寄せた分厚い暗雲に阻まれ、陽の光はついに潰えてしまった。

 

 

 「あーっ! よく見れば其方、前回の『乳デカ』と同じ巫女ではないかっ!? ホイホイと(つがい)を替えおって! 我が子孫ながら、節操のない娘じゃ‼︎」

 

 「ち、違いますわ! 美衣は姉で……ディエゴは! そ、その〜」

 

 番という表現に、照れてしまう彼女は可愛い。

 でも、こういう場面では『パートナー』と言い切って欲しい所ではある。

 

 「それとな、素手でボコスカと殴られた怨みも忘れとらんぞ? 妾があれほど『武器』の心得を子や孫へ伝えたと言うのに……なんじゃ、あの闘い方は!? とこぞの時代で、あの忌々しい『ハブキ』一族の血でも混ざりおったか?」

 

 驚愕の新事実が発覚した。

 どうやらハブとマングースの闘争は、2000年以上前から続いているらしい。

 いや、呑気に歴史の重みを感じている場合じゃない!?

 いつ戦闘が始まってもおかしくない状況なんだ。パソコンで、武器の準備をしておかないと!

 

 

 「いま一度、仕置きを兼ねて妾が手本を見せてやりたい所だが、無手のままでは……ん? おぉ! 丁度よい『武器』があったではないか! 龍の残り滓にしては、上等すぎる置き土産じゃな」

 

 「えっ!? ご自分の()()を……!」

 

 自身の手で龍の尾を根本から引き千切り、天へと掲げた始祖様。

 そして、雷鳴が轟いた次の瞬間──尾は『剣』へと変化していた。柄と刃が一体化したそれは、博物館に展示されているような代物。見るからに『古代の剣』

 だと言うのに、現代の武器を遥かに凌駕する存在感を放っているのだ。

 ああ、考えてみれば当然だった。

 見た目、成り立ち、纏っている神気。それら全てが合致してしまう。

 古事記にも、日本書紀にも登場する、この国で最も有名な武器と──

 

 

 「まるで、神器ですわ。まさか『天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)』その物なんですの?」

 

 「ははは! その通りじゃ。コレを手にした益荒男を、九頭龍は腹へ飲み込んでおるからのう。まあ龍は、その後に切り刻まれておるのじゃが……チカラだけは取り込んでおった様じゃ。そして巡り巡って、かの神剣が妾の手で蘇ったということじゃ‼︎」

 

 おそらく、ヤマトタケルの伝説。先程から日本神話のオンパレードだ。

 神器をこうもあっさり取り出してくるとは、さすが萬宮寿のご先祖様。僕らが統合精霊でなければ、とっくに闘う気が削がれていた事だろう。

 でも今は、対抗手段がある──よし!

 

 【物質変換(コンバート)完了‼︎】

 【神秘には、神秘で対抗だ】

 

──七支刀……! 金属の様な硬さはあるのに、刀身が透き通ってますわ!

 それに、淡く輝いていて綺麗ですの。

 

 今回使った素材は『海水』

 水から作り出した武器だから、外殻(フレーム)は無色透明。僕も製作途中で気付いて、驚いた事実だ。まさかのスケルトン仕様である。

 とは言え、精霊が作った物質なのだ。自然界の物質と違い、統合精霊の力に耐えられる『丈夫さ』が保証されている事だろう。

 

 淡い光は『元素』の輝き。

 盾を作った時と同様に、五属性の幼女が敷き詰めてくれた()()()()。それが黄緑色の光を発しているのだ。

 リングリットの光輪を『太陽』に例えるならば、七支刀の光は『月』

 昏い空の下、異形の剣が齎す燐光。

 それが海面へと反射する事で、僕らの周囲は幻想的な光に包まれている。

 

 月光を放つ七支刀──雰囲気だけならば、神剣とも互角の出来栄えだ!

 

 

 「はははは! 妾に剣で挑む心意気があったとはのう! 此度の『(つがい)』は中々に、良い手助けをするようじゃな──では、ゆくぞ!」

 

 「ええっ! 受けて立ちましてよ!」

 

 決戦の火蓋が切って落とされた。

 白い少女が、埒外な膂力で神器を振りかぶる。ただそれだけの行動で、大気は震撼し、海がどよめく。だが、赤い少女は臆する事なく己の武器を構え続ける。膂力の差は同格。焦る事なく、冷静に彼女は狙いを定めているのだ。

 剣術における『巻き打ち』を突き詰めた、萬宮寿流のカウンター奥義。

 

 『巻上裂隻(かんじょうれっせき)

 

 文字通り、相手の武器を巻き上げて無力化する妙技である。

 そして七支刀の場合、支刀の又へ敵の刃を合わせる事で奥義の成功率は跳ね上がる。

 剣を絡め、手首を捻り、相手の力を利用し、巻き上げを行う。常人が成せる技ではないが、しいなさんならば決めてくれる。明鏡止水へと至った彼女は、心の声が漏れない程の集中力を見せているのだから。

 

 研ぎ澄まされた神経が、時の流れを緩やかにし──神剣の刃が、七支刀の又へと吸い込まれる。

 狙い通りの角度。2000年に及ぶ武の研鑽が、古代の神秘を凌駕した瞬間だ。

 

 

 その刹那。

 僕の力作である七支刀は、呆気なく折れてしまった──

 

 

△△▼▼◁▶︎◁▶︎

 

 

 ディエゴ! 回想を続けて下さいましっ!?

 

 

 【ごめん!】【いつも回想は、反省会も兼ねてるから】

 【反省点が多過ぎると、無意識に中断しちゃうんだ】

 

 御自身の行動を省みるのは素晴らしい事ですが……!

 今の私の技量では、あなたの能力による『時間遅延』が無ければ太刀打ちできませんのよ!?

 あと、次の武器は『トンファー』にして下さいな!

 握り部分は私の手に合わせて、棒の長さは45㎝程で、太さは──

 

 【や、やる事が多い!】

 【回想の方も、いい加減ネタが尽きそう……!】

 

 そう言いつつも、トンファーを生成してしまうディエゴは素敵ですわ!

 防御も熟せる武器なので、これならば数撃は凌げます。さあ今の内に、回想を!

 そうですわ! なぜ、回想が必要なのか。それを回想して下さいまし‼︎

 

 【無茶苦茶な理屈……かと思いきや、的確な判断だ】

 【よし──】

 

 

▲▲▽▽◀︎▷◀︎▷

 

 

 七支刀が砕かれた失敗を活かし、次に作ったのはダブルブレード。

 そして、孔雀鉄扇、三節棍、鉤爪……と順番に破壊されて行き、現在に至る。

 

 

 ──やはり『層』の構成は、()()()の方が耐久力に優れてますわ。

 次は、オーソドックスに大太刀を作って下さいまし。

 今の膂力ならば、刃渡り3mでも使い熟して見せますわ!

 

 そのサイズは、全然オーソドックスじゃない!? だけど【了解】だ。

 属性幼女の協力で作る(レイヤー)の向きを、縦に……刀の場合は、刃から峰へと一層づつ構築する作業となる。

 

 【物質変換、完了】

 

 ──ふふっ。こんな大物、下が海でなければ『横薙ぎ』と『突き』しかできませんわね!

 でりゃーっ‼︎

 

 正面からの上段振り下ろし。しいなさんの掛け声も相まって、薩摩武士のような攻撃だ。

 対する神剣は、下段から振り上げられた。海面ごと切り上げ、水飛沫が舞う中で剣同士が衝突する。

 一合打ち合って、刃こぼれ無し。最初の失敗を考えれば、快挙と言えるだろう。

 

 

 七支刀が一発で折れたのは、層が横向きだった為。

 下から上へと積んでいった物は、横からの力に弱い。『だるま落とし』がいい例となる。七支刀の場合も、天叢雲剣を真横に受け、呆気なく刀身が折れてしまったのだ。

 しいなさんが、咄嗟に上半身を逸らしたお陰で事なきを得たが……正直かなり焦った。

 

 だが、そんな僕とは打って変わり、しいなさんは冷静に状況を分析していた。

 彼女はすかさずダブルブレードを所望し、回転攻撃で武器の脆さをカバー。

 次に、孔雀鉄扇を閉じた状態で使用し、耐久力の上昇を確認。

 三節棍で攻撃を受けた際に『層』の向きに問題があると気付き……鉤爪で、その仮説を立証して見せたのだ。その惚れ惚れする程のバトルセンスに、頭が下がるばかりである。

 

 ──好機! 相手の動きが鈍りましたわっ‼︎

 

 「ぬお……!? 危ないところじゃった。またもや『事象のゆらぎ』が起きておるな。しかも、発生源が近いとなると──まさか、そなたが番に選んだ(おのこ)は『ハブキ』の一族か!?」

 

 

 紙一重で斬撃をかわした、オメガ(仮)様。

 こちらは彼女の名前が判らないと言うのに、向こうは僕の名前を看破してしまった。

 だけど、そのハブキって……羽吹の方では?

 『事象のゆらぎ』というワードで、まず思い浮かぶのが『羽吹(はぶ)く』行為なのだし。

 そうなると、やっぱりアレは本当の超常現象だったんだ……こわっ。

 

 「確かに彼の姓は『葉蕗』ですが、ご先祖様の仰る萬宮寿の仇敵『羽吹』とは違いましてよ。発音が同じだけで別の血筋ですわ。彼の姓は、北の大地に由来していますもの」

 

 「なんと!? 北へと旅立った方の『ハブキ』か! ならば『時省(ときはぶ)き』の能力が異様に高い事にも頷ける。そうか、そうか……妾の果たせなんだハブキとの融合を、子孫が果たしたという訳か」

 

 得心がいったという雰囲気の、オメ仮さま。

 そして、さらっとアップデートされている僕のルーツ。時省きの能力ってなに!?

 僕って『時間操作』能力を持ってる『強キャラ』だったの!? 主人公の前へ立ち塞がる最後の敵、つまりラスボスは……他でもない、この『僕』だったのかァー!?

 

 

─────────

──────

───

 

 

 「はははは! ズルいぞ子孫よ! その男、(はよ)う妾に寄越さぬか‼︎」

 

 ──っ!? 速度も技量も、先程までと段違いですわ!

 今まで手加減をされておりましたの!?

 く、ディエゴ! 武器の準備をしつつ『回想』を!

 

 

 短い対話時間は終了し、再び激戦が繰り広げられている。

 大太刀も耐久の限界を迎え、現在しいなさんは二振りの『ククリ刀』で交戦中だ。

 しかし、オメ仮さまとの力量差は歴然。なにせ向こうは、喋る余裕があるのだから。

 彼女は攻撃の手を一切緩めずに、少し前から様々な事を語っているのだ。

 

 丁度いい。それらを思い返す事で『回想』を始めよう──

 

 

 巫女の一族。

 数多の不思議な力を有した『始祖』の血筋。

 始祖は十人の子を産み、その子らに別々の才能を与えたそうだ。

 精霊との交信に長けた、最初の子供『ジンガ』

 占いのチカラに長けた、九番目の子供『コノエ』

 戦いの才能に長けた、十番目の子供『マンジュ』

 その特色は、子々孫々と受け継がれ……時に、混じり合う事もあった。そして、紆余曲折を経た現在。しいなさんには、始祖と同レベルの才能が集結しているのだとか。外見が瓜二つな事にも納得である。

 

 そんな巫女の一族には、古代から仇敵が存在していた。

 

 ハブキの一族。

 荒々しく、野蛮で、すぐに諍いを起こす『むくつけき男』連中……と、始祖様は語っていた。

 大いに偏見が含まれている疑いがあるが、そんなハブキの一族の中にも始祖様が認める男性が居たらしい。

 それが、族長の弟である『ジエゴ』……うん。なんて迷惑な名前をしているんだろう! これが原因で、始祖様は僕を我が物にしようと奮い立っているんだ‼︎

 

 ……話を戻そう。

 理知的で諍いを嫌うジエゴは、ハブキの一族としては異端の存在だった。

 始祖様は、そんな彼と親交を深め──ついに、一族同士が和解する一歩手前まで漕ぎ着けたそうだ。

 だが、ジエゴに妻がいた事が発覚し事態は急転する。

 怒った始祖様は和解を取りやめ、ハブキの一族とはむこう100代に至るまで共存する事を禁じたのだとか。

 それに責任を感じたジエゴは、一族の元を去り……妻子と共に北の地へ旅立っていったのだ。

 めでたし、めでたし。

 

 ちなみに、全ての話は始祖様が十人の子を()()()()の話である。

 あくまで僕の所感だけど、ジエゴに落ち度は無いと思う。

 彼の認識としては、族長と族長代理による会合。一族の未来を左右する大事な話し合いだったのだ。そもそも既婚者同士なので、恋愛自体が念頭になかった筈。

 だと言うのに──

 

 

 「ん? 何やら、妾へ向けた強い思念を感じるぞ。さては、子孫の中におる『ディエゴ』とやらが、妾に愛を囁いておるな! やはりお主は、ジエゴの生まれ変わりじゃ。妾の魅力を前にして、自慢の理性も爆発寸前なのじゃろう?」

 

 ──ディエゴ? 回想が止まってましてよ!

 まさかとは思いますが、ご先祖様に目移りなどされてませんわよ……ね?

 

 おっと。回想を中断する訳にはいかない。

 ハブキの一族が持っていた特殊能力に付いても、まとめておこう。

 

 

 『時省き』

 集中力を高める事で、時の流れを狂わせるチカラ。

 分かり易く言えば……集中して勉強や訓練などをした際『あっという間だった』と感じる現象を、実際に現実へと反映させる能力だ。

 信じ難い程に桁外れな異能だが、羽吹流の門下生ならば誰もが納得することだろう。まことや老師は、意図的に稽古時間を『羽吹く』のだから。

 もはや疑う余地もなく、羽吹家はこの地に残ったハブキの末裔だろう。

 

 そして、北へと旅立ったジエゴの末裔が葉蕗家となる。

 ジエゴは時省きのチカラに長けており、基本能力は勿論の事、集中する事で己の中の時間を加速させる事まで可能だった。

 言い換えれば『思考の加速』だ。

 人々が三日三晩かけて思いつく様な発想を、一瞬で提示してしまう男。それが、ジエゴへ向けられた周囲からの評価。始祖様が彼を理知的と評したことも、そこに起因している。

 瞬き程の時間で、彼は『長考』できてしまう人物だったのだ。

 

 この話を聞いて、僕にも思い当たる節が多々あった。

 実際、思考に集中して時間の流れをゆっくりに感じたケースもある。120分の映画を脳内で再生して、現実では5分しか経過していない事すらあった。エンドロール中に、同じ映画を再度観てしまったのだ。

 まあ集中し過ぎると周囲が見えなくなるので、戦闘の役に立つチカラでは無かったけれど。

 

 

 しかし統合精霊となった今は、この能力が如何なく発揮されている!

 僕が『回想』している間は、しいなさんの体感時間もスローになっているのだ。武道において、相手の動きを観察できる利点は大きい。

 だからこそ『速度』も『技量』も格上となる相手に、どうにかくらい付けているのだ。

 

 

△△▼▼◁▶︎◁▶︎

 

 

 はぁ、はぁ、ディエゴ! 回想が終わってますわよ!?

 

 

 まだ何か思い返せるエピソードがありますでしょう?

 ご先祖様が、こちらの世界へ顕れた際、運悪く『龍』に食べられてしまったお話や……

 龍位精霊を体内から操る事で、世界中を雨で浄化していたお話など!

 お喋りなあの方が、色々と仰っていた事を回想して下さいまし‼︎

 

 【あっ!?】【今の()()()で、その回想は不可能になったかも】

 【思考整理できた内容だと、深く集中できないんだ】

 【ごめんっ!】

 

 そんな……私は、あなたの邪魔をしてしまいましたのね。あ、苦無(くない)を2つ。

 

 【はい】【できてるよ】

 

 うぅ、ご先祖様の()()()()()を覚えた事で、かろうじて対応できておりますが!

 やはり等速では厳しいですわ。スローでの戦いに慣れた事もあり、余計に速く感じてしまいますのー! かろうじて、対応、できて、おりますがっ‼︎

 純粋な『武』で攻勢に転じられない現状では、絡め手も視野へ入れる必要が御座いますわ!

 攻略本とやらに、何かいい手立ては載っておりませんの?

 

 【ダメなんだ】【一応、最後まで読んだけど】

 【あとはキミの目で確かめてみよう!】

 【という文章で締め括られていた……】

 

 なんですの、ソレは!? 出版元はどこですの! 抗議のお手紙を……

 

 【無理だよ】【『夢の呪い』が作り出した本なんだから】

 

 

 夢の呪い。ディエゴが居る空間を構成しているのは、夢の呪い。

 そこで五属性が人のカタチを成しているのは、幻覚の呪い。

 その子供たちが武器を作る際に協力的なのは、洗脳の呪い……この名称は聞こえが悪いですわね。実際は、言霊の力。元となる呪物は『催眠音声』ですもの。

 私が心の中で武器の生成を依頼すると、声となって子供たちへ届く仕組みとなってますのね。

 

 九つの呪いの内、今あげた3つはディエゴの環境を整える為のもの。

 そして、武器の生成にも3つの能力が必須でしたわね。

 残る呪いは、猫、子供化、入れ替わり。

 

 この3つが、()()()()な呪いという事になりますわ!

 

 【そうだね】【相手へ呪詛をもたらすには、直接送り込む必要があるんだ】

 【その際に、僕らの中から『呪い』は消えてしまう】

 

 

 懸念は、ご先祖様が『相剋の真芯』かも知れない問題と、私達にある制限『赤文字の呪い』ですわね。あ、十文字槍を下さいな。

 

 【うん】【作っておいたよ】

 【……相剋の真芯は、大丈夫だと思う】

 

 ご先祖様が、事象のゆらぎを感じているから──それが、ディエゴの結論でしたわね。

 理屈としては通りますが、他にも根拠が御座いますのでしょう?

 あなたが言い切るからには、何か決定的な証拠が存在する筈ですもの。

 

 【今日の僕はミスが多いのに】【信頼が厚くて嬉しいよ】

 【えーと、実は……】

 【前に、まことの『羽吹く』をリングリットが無効化していたんだ】

 

 うふふ、あなた達はヒーローと仲がよろしいですものね。

 まさかプライベートでも親交が御座いますの? 私、なんだか裏切られた気分ですわ……ジエゴに裏切られたご先祖様の御気持ちが、良く解りますの。

 

 【と、とにかく!】

 【そのご先祖様には、問題なく呪いが通るハズ‼︎】

 

 

 でしたら、次は赤文字の呪いですわね。

 どれかを選び、私の身へ常時発動させておく必要がある5つの呪い。猫、圧縮、子供化、夢、入れ替わり。

 現在は『猫』を選んでおりますのよね? ですが、実質的に『夢』も発動しているのかしら?

 

 【うん】【割合でいうと、猫が3割。夢が7割】

 【だから、ネコミミと尻尾だけで済んでるんだよ】

 

 心の空間を構成する為に、夢へ割くリソースが大きいという事ですわね。

 つまり、猫を他の呪いへ変更しても3割程の影響で済むのが道理。それでも、圧縮は論外。子供化も、私の精神が中学生の頃へ戻ってしまう危険性がありますわね。

 

 入れ替わりが不明な以上、猫を()()のが最善手。

 消去法で、ご先祖様へ食らって頂く呪いは『子供化』で決まりですわ!

 

 【ロリババア誕生フラグ!】

 

 

 はぁ……? あまり、私達の始祖様へ不敬な物言いをなさらないで下さいまし。

 一か八かで、ディエゴとご先祖様を『入れ替える』という博打プランでもよろしいんですのよ?

 あと青龍刀!

 

 【あ、ハイ】【出来てます】

 【博打は勘弁して】【もう『オメ仮さま』って略さないから】

 

 良い心がけです。それはそれとして、呼び名が無い事にも困りものですわね。

 『オ』と『メ』が付くという事実は、ご本人が語られてましたし……今は暫定的に『乙姫』様としておきましょう。

 龍神の様なお姿ですし、ピッタリでしょう? 【龍要素は、角しか残ってないケド】

 

 【まあ呼びやすいし、乙姫でいいよ】

 【それで、乙姫にどうやって呪いを?】

 

 私に、いい案が御座いますわ。ディエゴが回想している間に思い付きましたの!

 それを成す為にも、再び回想して頂く必要がありましてよ。

 昨夜、私が去った後にお祖母様とお話された内容は思い出せませんの?

 今こそ、お祖母様が仰っていた『窮地』ですわ。さあ、ディエゴ。回想なさいな!

 

 【うーん】

 【なにか、切っ掛けがあれば思い出せそうなんだけど……】

 

 あら、『言霊』で命令してもダメですのね。

 仕方ありませんわ。ならば、別の事を回想──する前に、ライオットシールドを。

 今度は、横向きで層を構築した脆弱な物でお願いしますわ。

 

 【え!?】【チョット、組み直す……よし完成!】

 

 では、ディエゴ。

 私とジーナが、元の身体へ戻った場面。確か、その辺りを回想しようとして、お祖母様に止められてましたわよね?

 

 【うん】【その内容なら、回想できそうだ──】

 

 

▲▲▽▽◀︎▷◀︎▷

 

 

 武道館での出来事。

 

 ヒコボシの計らいで、特殊能力を解除できるアイテム『ソージョー(がん)』の存在を知った僕ら。その飴は、僕のズボンへ忍ばせてあるという話だった。

 だが、A子が僕の着替えをスカートにすり替えたせいで、飴玉が行方不明。

 というのが今の現状となる。

 僕はすぐにでも客間へと戻り、捜索するつもりだったのだが──

 

 「まっふぇ、D。そのアメ、ちゃんとワタシが回収(ふぁいうー)してる」

 

 口をモゴモゴと動かしたA子が、僕の袖を掴んで呼び止めて来たのだ。

 舌足らずに、飴を回収したと報告する彼女。ジト目で僕を睨みながらも、少しだけ申し訳なさそうに眉をひそめている……。

 

 イヤな予感しかしない!?

 

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