平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話 作:浅学寺のえる
「おーほっほっほ、さあパオファンβ! みんな石像にしてしまいなさい!!」
「は〜い。まかせてね〜」
ブラウン管から現実離れした映像が流れている。
ここがアニメの世界だということを再認識させる光景だ。
ゾウを模した怪人パオファンβ──こと、B子さん。
彼女がその長い鼻から放つ液体は、浴びると身体が石化してしまうらしい。恐ろしい能力だなぁ。
僕は自宅の居間で、特撮番組を見るのと変わらないスタンスでニュースの生中継を観ている。
モブキャラに相当する僕は、毎回事件に巻き込まれる訳ではないようだ。
秘密結社オメイラガの一団が襲撃しているのは近所の商店街。徒歩5分の距離とはいえ、テレビで観られるのだから態々向かうこともないだろう。
「いやっ! 身体が!? や……やだ。どんどん固まって……!」
画面の向こうで、友達のまことが石化しかけている。
セリフだけを聞くと悲哀を感じさせる物言いだけれど、固まりつつあるポーズと表情はコミカルな印象を与えてくる。
それもその筈。脚が固まり動けなくなった彼女は、いつかの仕返しとばかりに女幹部ミーアによって弄ばれているからだ。
くすぐり地獄とでも言うような仕打ちを受け、まことは涙を流しながら笑っている。
「ひゃん!? やめっ、てよ! ひゃ、この変態女!! あんた、こんな趣味、がっ!」
「どの口が言うんですの!?」
「ひゃははは! もうイヤ〜っ!!」
「観念なさい!
只今の時刻は夕方6時を回った所。
この映像がお茶の間に流れていると思うと、彼女には同情しかない。
口元まで石化してしまい、もう抗議もできない彼女の表情がアップで映し出される。カメラマンも相当な変態である。
そういえばミーア・クシロンのコスチュームは前回と違う様だ。
マイクロビキニだった部分は、胸元から臍にかけて大きくV字に開いているスリングショットと呼ばれる上下一体式の水着へと変わり、下半身にはエナメル素材のマイクロミニスカートまで履いている。
どちらも黒を基調としたカラーリングこそ変化していないが、露出度は低減した印象だ。
彼女なりに、TPOを意識したのだろうか?
先程、石化する前のまことと格闘した際、ミーアはスカートの中身をバッチリとカメラに捉えられていたけれども。
ああそういえば、下着ではなく水着だから別に見られても問題ないのか……前に令和の叡智がそう言っていたな。
思えば、女性用の衣服に関してスラスラと名称が出てくるのも叡智による影響か。
今はだいぶ静かになった『叡智』について、少しだけ思いを馳せようか。
これ以上画面に映る光景を見続けるのは、とても危険を伴うからだ。
未だに変態カメラマンが捉えている画は
満面の笑みを浮かべ、コマネチのポーズで固まってしまった『まこと石像』なのだから。
意識を逸らさなければきっと──僕のナニカが歪んでしまう。
先週の土曜日。
萬宮寿しいなへ別れを告げ、僕は駐輪場まで駆けてきた。
理事長の説教という思わぬイベントが発生したおかげで、火鬼崎家を訪問する予定の時刻まであと15分といった所。
幸い、自転車ならばまだ間に合う時間だ。脳内で音楽を流しながら、僕は校門をあとにする。
頭の中で流れている曲は、先程しいなへ贈呈した新発売のCDアルバム。
最近では知識の引き出しが底を尽き、半ば卑猥なワードを垂れ流すだけの『叡智』だけれど、この機能だけは有難い。
端的に言えば、僕の脳内には音楽データがダウンロードされているのだ。
切っ掛けはCDショップで、
補足するとこれは別段珍しい事ではなく、レコード時代の名残りとして発売日前日に販売開始するのが通例となっている。
ちなみに令和でも、CDのみ特例で【フラゲ】という枠組みには含まれないらしい。なんだか言い訳みたいになってしまったな……。
これも『叡智』がやたらと【コンプライアンス】やら【インテグリティ】といった概念を流し込んでくるせいだろう。
話を戻すと、僕はCDジャケットを手にするとその中身の音楽を脳内にダウンロードする機能を手に入れたのだ。
これだけ聞けば【サブスク】【聴き放題】のように思えるかもしれないが、欠点が3つ程ある。
まず、購入せずに曲を聞くのは気が引ける点。
これは令和の価値観に由来したものではなく、単純に僕がファンとしてアーティストに利益を還元したいからだ【お布施ですね分かります】──言い得て妙な表現だな。
ちなみに、購入したアルバムは当初まことへプレゼントする予定で鞄にしまっていた。しかし、今のまことを増長させては【承認欲求モンスター】へと進化してしまう。ライバルが不在のままでは危険なのだ。あのアルバムが、少しでもしいなを復活させる手助けになってくれれば幸いだ。
次へ行こう。
いま挙げたのは、精神的なものなので厳密には欠点と言い難いのだが2つ目は別だ。
『ダウンロードする度に鼻血が出る』というこの欠点は、かなり問題だ。
CDショップでは友人を心配させてしまい、家に帰って再度実験した際には間が悪く姉に目撃されてしまった。
鼻血の件は
そして、最後の欠点。
特定のCD以外は触っても無反応。
これは実験が中断されてしまった為、仮説に過ぎないけれども。今脳内で曲が再生されているバンド以外は、ダウンロードできない可能性すらある。
僕はこの件から『叡智』にも指向性、あるいは嗜好性があると仮定している。
思い返してみれば、性的な方面に深い造詣を持っているのだから然もありなんと言った所だ。
まあ『叡智』に関しては、これからの検査で答えが出るかもしれない。
アルバムの3曲目が始まると同時に火鬼崎家が見えてきた。予定の5分前には着けそうだ。
庭に自転車を止めさせてもらい、脳内の音楽も停止する。
欠点を幾つか挙げたものの、時代に先駆けて【ワイヤレスイヤホン】を手にしたも同然なのだ。名盤がいつでも聴けるという利点ひとつで、些細な欠点など全て飲み込めてしまう。
「おー、んぐ。やっと説教が終わったか。もぐもぐ、じっちゃんが地下で待ってるぞー」
呼び鈴を鳴らすと、萬宮寿しいなの其れとは似ても似つかないツンツンとした黒髪が出迎えてくれた。
僕の友人の輪である。
一人で先に帰ったのは許そう。説教を受ける羽目になったのは僕の落ち度だ。
しかし、昼食のおにぎりを食べながらの応対には文句を言う。
僕は検査のため、昼食どころか朝食すら抜いているんだぞ! 立派な【飯テロ】だ!
そんな抗議をしていると輪の祖母である
笑っている輪から意識を逸らし、僕は恐縮したまま彼女の案内を受ける。
空腹感を誤魔化しながら螺旋階段を下って行く。行き着く先は、地下の研究施設。
短時間で様々な検査を受けた。
MRI、エコー検査、脳波測定、血液検査。
なぜ町の発明家が大学病院顔負けの設備を有しているのかとは、この際言うまい。
謎の液体で満たされたカプセルに沈められた後では、些細な疑問だからだ。
近未来的な機器が乱雑するこの研究所は、おそらく令和よりも科学水準が高いのだろう。
しかし、ここでリングリットのヒーロースーツが開発されているのだから当然と言えば当然なのだ。
さらに言うのなら、この世界はギャグアニメ。深く考えてはいけない。
「ふーむ。大脳新皮質のシナプス伝達が──いや、海馬の興奮性シナプスかの?」
元々の皺も相まって、一層深くなる眉間の皺。
輪をそのまま80歳ほど加齢させた様な見た目の火鬼崎博士が、その白髪を掻きながら検査結果と睨み合っている。
「改めての確認なのじゃが、鼻血を出す時は『エロいこと』を考えてる訳ではないんじゃな?」
何やら真面目な考察をしていたかと思えば、急に下世話な質問をしてくる博士。僕は、すかさず否定した。
『叡智』の嗜好はおそらく『それ』だと思う。
しかし、僕自身が性的な興奮で鼻血を出した訳じゃない。
これまでに原因不明の鼻血を出したのは4回──
叡智の書に触れた直後。
柴犬怪人を目視した直後。
CDショップで新発売のアルバムに触れた時。
自宅のCDアルバムに触れた時。ちなみに同バンドの1stアルバムだ。
「うーむ……やはり『叡智の書』が起因かのう。しかしのう、アレは本来……ああ、安心せい。そう慌てんでも説明するとも。よし、心して聞くんじゃぞ? 非常に言い辛いのじゃが、アレは本来…………ただの『エロ本』なんじゃよ」
は、い?
思いも寄らないワードが出てきて、放心してしまった。あの深刻な溜めは一体なんだったんだろう。
「いや、ただのとは言ったが侮ってはならんぞ? かの葛飾北斎が描いた『蛸と海女』に始まり、ワシが集めた珠玉の数々が──」
妻には内緒じゃぞと釘を刺し、饒舌にエロ本談義を始めてしまった博士。
眼前の助平な老人を思考の隅へと追いやり、僕は考える。
どうやら、学校の地下──正確には校庭にある防空壕から続く地下空間。
そこには博士が長年かけて収集した『エロ本』のコレクションが眠っていたらしい。急に話のIQが下がったな……。
博士が言うには、孫がとある活動を行う際の報酬として隠し場所を教えたのだとか。
僕がその孫に聞いた話では、御先祖様が残した宝の地図に『太古の叡智が記された書物』の在処が示されている。という触れ込みだったのだが。微妙に間違ってはいない所が頭にくる。
まんまと担がれた僕らは、少しばかりの探検を楽しんだ末に見事『宝』を発見した。
その直後、悪の組織の乱入で場は混乱。争奪戦の様相を呈した中、一番最初に『宝』に触れたのが僕だった。
話の顛末としては、これだけなのだが──ひとつ疑問が残る。
僕が触った『叡智の書』は本ではなくて、クリスタルの様な物なのだ。
「そうなんじゃよ。なぜクリスタルがあの場に? 一体、ワシのコレクションは何処へ……?」
どうやらこの老人、エロ本に御執心らしい。
おそらくは輪がヒーロー活動をする見返りに譲渡する予定だったのだから、いい加減忘れて欲しいものだ。
いや、ヒーロー活動の見返りがエロ本ってなんだよ。
孫も孫なら、祖父も祖父だな……。
「うむ。時に、君は『予知能力』あるいは『未来の観測』などできたりせんかのう?」
「っ!?」
「ある筋からの情報で、君がウォークマンを使い怪人の特殊能力を初見で回避した件は知っておる。そして、今日の世界史の授業で『架空の歴史』をすらすらと語っておったそうではないか。学問は時と共に進歩する。歴史に関しては新発見ひとつで大きく変化しおるしの。もし未来でサヘラントロプスなる人類の祖が見つかるのならば、君の語った内容は逆説的に未来を知り得るからこその答えだと証明される筈じゃ」
不意を突かれ、またもや固まってしまった。
ただの助平ジジイだと侮った瞬間に、これである。まんまと担がれた気分だ。
出来れば秘匿しておきたかった事柄だけど、こうなっては包み隠さず話すしかなさそうだ。
令和のこと。
この世界が、
そして、悪の女幹部ミーア・クシロンの正体が萬宮寿しいなだということ。
まずは何から話すべきか───
「待つんじゃ! その前に、最後の確認がある。君の脳内にある知識、あるいは人格かの? そいつは、なんと言うか……助平ではないかの?」
確かに。そちら方面の知識がやたらと豊富なのは身に沁みている。しかし、なぜ博士がその事を?
「ふーむ。ワシかのう? いや、もしや倅が……やはり、順当に行けばワッカかのう? まだ仮説の域は出んが、この件は伝えない訳にもいくまい。よし、落ち着いて聞くんじゃぞ? 君の頭に入っているその知識。その人格の元となっている存在は、未来の火鬼崎ワッカなのかもしれん!」
いや、それは無い。
「順番に説明せんとな。君がクリスタルに触れる前日から、大量のフェチニッチ粒子が観測されておった。それが、クリスタルの消滅と共にピタリと反応も無くなってのう。この粒子なんじゃが、ワシが構想中のタイムマシンには──
〜中略〜
よってワシ、いや恐らくはワッカの記憶をカー・ブラックホールに──
〜中略〜
しかしなんの因果か、バタフライエフェクトが起こり君が結晶体に触れてしまい──
〜中略〜
つまり、未来の情報を君が口外してしまえば時空連続体がアレして、世界が崩壊してしまうんじゃよ! 決してワシに、未来の事を語ってはならんぞマーティ!」
長期に渡る怒涛の講義で脳が熱をもっている。
ただの高校生である僕に、相対性理論の把握を前提に語られても困る。そもそもフェチニッチ粒子って何?
これは令和に【要約】という文化が浸透するのも頷ける。
専門用語が多すぎて、概要しか分からなかったものの僕なりに要約するとこうだ。
1)将来、博士はタイムマシンを作る。
2)それは脳内の記憶だけを過去へ送るもの。
3)叡智の書の正体は、未来から送られた記憶を結晶化したもの。
4)粒子の観測結果から、時空の歪みが発生していた。
5)未来の輪が、過去の自分に記憶結晶体を送ってきたと仮定。
6)それを僕が触れてしまったために、脳内で情報が混線してしまった。
7)その結果、脳へ過度な負担がかかり鼻血が出る。
他にもワームホールやら記憶結晶化のメカニズムなども説明されたが、僕には理解不能だった。
あと、僕の名前はマーティじゃない。
「まあ崩壊と言っても、実際はこの銀河だけで済むかもしれんがのう。サヘラントロプスの件もセーフなようじゃしな」
「それを聞いて安心したよドク。けれど、僕の鼻血は一体どうしたらいいんだい?」
博士の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ごっこに僕も付き合う。
さっきの仮説は、正直なところ間違っていると思うけれども。折角なので乗らせてもらおう。
未来の事を博士に話したら、銀河が崩壊するなんて言ってるんだ。これで堂々と黙秘できる。
萬宮寿しいなの正体を明かさずに済むのなら、それに越した事はない。
決して、普段の彼女が見せるあの笑顔に絆された訳ではないけれど──
【男のツンデレは、海原雄山とグミ撃ち王子で間に合ってます】
たった今、やけに長尺で叡智をもたらした存在は、輪でも博士でもないだろう。ついでに僕もツンデレとやらではないし、そもそもグミ撃ちって何?
この知識元。或いは人格とも呼べるものの元となる人物は、十中八九『女性』なのだ。
しかも、この世界を物語として観測しているのだから
僕の予想では、令和で流行りの『異世界転生』なる現象の亜種。
クリスタルに人格を封じられた転生者が、現地住民である僕に乗り移ろうとしたんだろう。
しかし邪魔が入ってしまい、女性の人格は不完全な形で僕の脳内に染み込んでしまった。
言うなれば転生失敗。僕としては自我が保たれたのだから幸運な結果だ。
ちなみに、相手が女性だと思う最大の理由は昨日の入浴中に【ショタの身体】【え?高校生?】【大丈夫、私の許容範囲】などと脳内に流れて来たからである。
これで相手が男性、しかも友人であったとすれば僕は人間不信になってしまう。
女性でも十分【ヤベー女】だという事実には、今は目を瞑ろう。
回想中断。
あれから博士にもらった『バングル』のお陰で、令和女性の毒電波はだいぶ大人しくなった。
僕の左腕にはめているそれは、一見するとただのチタン製の腕輪。だけどその表面を指で一周なぞると、光を帯びた梵字の様な模様が九つ浮かび上がる仕様だ。
博士曰く、この模様には煩悩を抑制する効果があるとのこと。
ただ博士の認識では、僕の脳内にいるワッカの煩悩を抑えることで僕の人格を保護する為の措置となっている。
仮説は間違っているのに、結果は出すのだから博士には脱帽するしかない。
さらにこのバングルの素晴らしい点はもう一つある。
なんと完全防水&抗菌仕様。
つけ始めて既に一週間。
手首を洗う際にだけ取り外せば済むので、僕も安心して入浴できる。
ちなみに腕から外すと板状に変形する。この仕様は、前に縁日で妹に買ってあげたリストバンドの様で面白い。
基本的には常時身につけているのだが、稀に例外もある。
それは『叡智』が強い意志で情報を送ってくる時だ。その状況に応じて、僕の気まぐれでバングルを外す時もある。
既に有用な知識は十分引き出したあとなので本当に気まぐれだ。
もう残っている情報と言えば、ニッチなフェティシズムと──
「おーほっほっほ! 罠に掛かりましたわねリングリット! パオファンβを拘束する事は不可能でしてよ!!」
「くそー! 怪人の手脚がぶっといせいで、リングが入らないなんて!」
「さあ、パオファンβ! その太ましい手脚で、直接リングリットを倒しておしまいなさい!」
「ミーアちゃん。太ましいは余計よ〜、ぱおん」
ミーアの一際大きな高笑いが聞こえてテレビへ意識を戻してみれば、どうやらリングリットがピンチのようだ。
いつヒーローが現れたのか見逃したけれど、画面には大量の石像も映し出されている。
カメラアングルも固定されているので、恐らく変態カメラマンも石化してしまったのだろう。
遠巻きに映る動く人影はヒーローと女幹部。そして、3メートル近い身長の象怪人だけ。僕の遠近感覚がバグりそうだ。
象怪人は巨体を活かしてヒーローへ重い一撃を喰らわせている。体格差で大きく負けるリングリットは、簡単に地面へと倒されてしまった。
そのまま怪人がヒーローへと伸し掛かる。丁度、象怪人──B子さんの胸部がヒーローの頭部を押し潰す形になっている。
余談だけど、B子さんは普段からグラマラスな体型をしている。それが象怪人と化した今は、平時の2倍はサイズアップしている。全体的に。
きっと、これで窒息したとしてもワッカは本望だろう。その証拠に、振り解こうとする素振りを全く見せていない。
勝負が決まったかに見えるこの状況で、僕のバングルが激しく振動する。
これは、どうしても送りたい情報が来る合図だ。
普段ならば叡智な事しか考えていない『レイワさん』も、こと原作知識に関してはまともな情報をくれる。
今こそ、真の叡智を見せてくれ!
【うぉ…でっか】【乳圧がすごい】【頭より太い太ももって叡智】
ダメだコイツ。
【令和ではピ◯チ姫も太ましい象に変身する】
嘘をつくな。国民的ゲームのヒロインが、そんなニッチな変身する訳ないだろ。
たまにバングルを外すとこれだから困る。
【象怪人は鼻が弱点】【古事記にもそう書かれている】
ああ、なるほど。古事記は置いておいて、確かに長い鼻の先端はリングの内径より細そうだ。
先程放たれてから空中を彷徨っていた光輪が、パオファンの鼻へと向かっていく様子が丁度映されている。
光輪が鼻へと嵌り、きつく締め付ける。固定された後は、前回同様に怪人ごと宙へと浮かび上がる。
象怪人の重量は、画面越しでも200キロは超えそうな巨体だというのに、鼻を起点に身体を持ち上げられている。
博士がタイムマシンを語る時に反重力が云々と言っていたけれど、その技術なのだろうか? ダメだ。理解不能で鼻血が出そうだ。
考えても答えが出ないので、巨体から解放されたリングリットに視線を移してみよう。
特にダメージは無さそうだ。それどころか、むしろ残念がっている。
彼のヘルメットは、口元が開いているので表情を読み取りやすい。
あの重量に乗られてこの余裕とは、ヒーロースーツは耐圧性にも優れているらしい。
「ハーハッハッハ! さあ観念しろミーア・クシロン!!」
「パオファンβ!? 大丈夫ですの!? そのお鼻、もげませんわよね!?」
「っタタ! ひぐぅ〜、ごめんミーアちゃ〜ん! もうムリかもぉ」
「離脱っ! 離脱しますわよー!!」
リングリットを無視する形で、B子さんを心配するミーア様。
彼女が離脱を宣言すると、画面は閃光で白一色となる。
そして、光が収まるとカメラが一人の少女をズームした。
顔を真っ赤に染めて蹲る羽吹まことが、そこには居た。うん、石化が解けてなによりだ。
けれどカメラマンに言いたい。普通、ここはヒーローを映すシーンだろう。
音だけは拾われているヒーローの勝ち誇った高笑いが、妙に虚しく感じてしまう。
毎度毎度、博士の手柄なのは最早言うまい。僕もその恩恵を受けているのだから、もうワッカを責められない。
【攻め? 受けでは?】【男の子は、男の子同士で仲良くすればいいと思うの】
ああ、バングルを外したままだった。早く腐海の毒を遮断しないと。
板状になっている金属を手首に向かって軽く振れば、ジャストサイズで巻きついてバングルへと変化する。
そのまま指の腹で一周なぞり、煩悩封じの模様を浮かび上がらせれば──
【ギャー! 痛い痛いっ!】
【無自覚ドSショタからの折檻!】【むしろ、ごほうびで、す──
この一週間。こんな感じでレイワさんへの躾を行うことで、僕の平穏が維持されるようになったのだ。
光速真芯リングリットX
「カチカチ象さん パオファンの罠」の巻