平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話   作:浅学寺のえる

40 / 43
#27 D

 『萬宮寿しいな』『ジーナ・九重・ブーゲンビリア』

 『萬宮寿くいな』『萬宮寿イグナ』

 そして、乙姫こと『始祖オメガ(本名不明)』

 

 僕の知る、巫女の能力を持った五人の女性たち。その中で、唯一しいなさんだけが最盛期の只中にいる。16〜24歳。それが、巫女としての力が最も高まる年齢なのだ。

 その為、26歳のブーゲンビリアさんは自身の肉体を指して『最盛期を過ぎたオバサン』などと自虐していた。ただそれは、能力の向上が見込めなくなっただけであり、一気に力が衰えるという訳でもない。老化と同じく、ケア次第で力が衰えるスピードを軽減できるそうだ。

 まあ、納得しかない。還暦間近のイグナ婦人が、未だに巫女の力を有しているのだから。

 

 簡潔にまとめれば──最盛期を過ぎても、努力いかんで能力の維持は可能。という事だ。

 

 【その通りですわ】【そして、ディエゴの疑問は】

 【()()()()の能力に関して、ですわね?】

 

 そう。乙姫は、6歳程度の幼女となっている。肉体だけで言えば、最盛期を迎える前の状態だ。

 それなのに、惜しみ無く『ビーム』は放つし、常に『バリアー』まで展開している! チートだ。絶対、なんらかのチート行為をしてるに違いないっ‼︎

 あの神剣があやしい。ビームだって、剣先から射出されているんだし。

 

 【ええ。龍のチカラを宿した剣】【あれこそが】

 【子供の身でありながら、強大な神通力を操れる原因ですの──】

 

 

 なるほど。

 本来であれば、巫女の資質が高くとも『子供』は能力を上手く行使できないのか。

 肉体の持つ資質を『タンクに貯めた水』と例えるならば、能力の行使は『放水』となるのだろう。そして、未成熟な身体では放水する為の『蛇口』が小さいという事だ。

 だがそれでは、幼女が極太(ごくぶと)ビームを8本も射出している事実と矛盾してしまうが──それを可能とするアイテムが『天叢雲剣』だったのだ。

 

 神剣が蛇口の役割を担い、幼女のもつ膨大なチカラを外へと放出しているんだ。

 龍に由来した物が蛇口になるなんて、沖縄で見た首里城の湧き水を思い出す。そう言えば、笛市にある神社の手水舎も、龍のオブジェクトから水が流れ出ていたっけ?

 

 【あれは、(たつ)(くち)と呼びますのよ】

 【一説では蛇口の語源とされていますの】

 【古来より、龍と水は深い関係があって……】

 

 おっと。その話も興味深いけれど、そろそろ()()()の時間停止を始めないと!

 水と言うのなら、僕らの生命線である『水属性さん』は大丈夫そう?

 しいなさんの代わりに、コントローラーを操作してくれる大事なヒトなんだ。あまり『言霊』で、無茶な命令をしたらいけないよ?

 

 【……わ、解ってますわ】

 【水属性の彼女は、唯一おはなしの通じる相手ですもの!】

 

 うん。他の四属性を、物理的な『おはなし』で黙らせたって聞いたから、少し心配だったんだ。

 まさか道場のスペースが、しいなさん vs 属性乙女の為に使用されるとは夢にも思わなかったよ。あはは、夢の呪いで作られた心象風景なのに……おかしな話だね。

 

 【うぅ。怒ってますの、ディエゴ?】

 

 そうじゃない。何だかんだで、僕らは()()()()()()()()って言いたかったんだ。

 さて、それじゃあ……しいなさん、水属性さん、あとの事は二人に任せる。

 次の『回想明け』が勝負の決め手だ!

 

 【ええ!】【ですが、回想のネタは御座いますの?】

 【先程は、もう全て消費したと仰ってましたのに】

 

 ああ、それなら──【ふふっ、仕方ありませんわ。(わたくし)がとっておきの……】

 大丈夫。

 実は、ライムと石灰の話を回想した辺りで、とっておきの伏線を()()()()()いたんだ。

 

 【〜ッ‼︎】

 

 そう、あれは昨晩。

 しいなさんが客間を去り、イグナ婦人が僕を訪ねて来た場面。

 豪華な置き時計の針が三本揃って直立し、日付が変わった頃。

 

 その辺りから思い返してみよう──

 

 

▲▲▽▽◀︎▷◀︎▷

 

 

 「つまり、五香(ごこう)家は『御庭番』──判り易く言えば、忍者ですのよ」

 

 ニンジャ!? 突然のサプライズニンジャ‼︎ ナンデッ!?

 

 

 「なんでも何も、ワタクシは疑問に答えただけですわ。この程度で狼狽えるなど、相変わらずの軟弱さですわね。明日の……いえ、既に今日ですか。なんにせよ、決戦が思いやられますわ」

 

 時計の針を一瞥し、イグナ婦人が溜め息を吐く。これはまた、説教が始まりそうな雰囲気だ。

 おかしい。この展開を阻止する為に、僕は先んじて動いていたのに。

 珍しく、イグナ婦人を責められる『切り札』を僕は手にしていたのだ。

 『草が跋扈する、笛壱高校の中庭』という、理事長の明確な落ち度を──

 

 なのに。

 

 中庭の手入れをする業者『五香造園』が多忙だったと切り返され、僕はふと疑問に思った。

 全国規模で活動している萬宮寿グループに、どうして地域密着型の五香造園が含まれているのだろう、と。

 

 その答えが、まさかのニンジャ。

 かつて将軍家に仕えていた『御庭番衆』が、今は萬宮寿家の目となり耳となり、あらゆる諜報活動に勤しんでいるとのこと。

 九重の占星術が示した内容を裏付け調査したり、萬宮寿家に仇なす組織と影ながら戦い続ける傍らで──庭師としての仕事もこなしているらしい。

 

 僕の同級生でもある、生徒会の会計を務める『五香あやめ』さん。

 無口で武人肌な彼女もまた、忍者だったと言う事だ。僕と直接的な交流はあまりないけれど、業務内容がブラック過ぎて心配になってしまう……。

 

 

 「──こそが、明鏡止水の境地へと至るのです。ここまでは宜しいですわね?」

 

 はい! 何も聞いてませんでした、師匠‼︎

 

 「……『(ぬか)に釘』。この意味は、わかりますか?」

 

 糠のように柔軟な発想と、釘のように硬い信念を持って生きる。

 世間を渡る上で必要な処世術を表す言葉。それが『糠に釘』という、ことわざ?

 

 「違いますっ‼︎ 賢しら顔で、それらしい意味をこじ付けるのをお止めなさい! 正しくは、糠のように()()()()に何を言っても無駄。という意味ですわっ!」

 

 それが解ってるのなら、ながーい説教なんて止めて早く本題へ……わっ!?

 く、釘が飛んできたっ!? いや、違う!

 これは『棒手裏剣』だ!

 

 この御婦人、ネグリジェの袖口に暗器を忍ばせてるのか!? こ、怖すぎる‼︎

 

 

─────────

──◀︎▷──

───

 

 

 「こほん。時間も遅い事ですし、話を進めましょう。沖縄では、『デイゴの花』が良く咲く程に『台風』の被害が大きくなる。という言い伝えがありますわね?」

 

 

 確かにある。それも一種の占いなのだろう。

 デイゴの木は、年によって花の咲き方に変動があるのだ。全く咲かない年もあれば、見事なまでに咲き乱れる年もある。そして、長い歴史の中で『開花状況』と『台風の規模』が偶然にも比例している事が散見され──いつしか、知る人ぞ知る民間伝承となってしまったのだ。

 

 その為、デイゴという名前は一部の人からは『不吉』の象徴とされており。

 沖縄で過ごした一年間。僕は、あらぬ風評被害を受けたものだ……まったく、迷惑な話である。

 島の老人たちは、中学三年生の僕を『嵐を呼ぶ子供(ワラバー)』などと呼んでいたのだから! 

 

 「それは、破天荒な行動から由来した呼び名ではなくて? ワタクシも当時、『嵐を呼ぶ幼稚園児』に悩まされた側なので、島の御老人方の苦労が良く判りますわ──」

 

 遠い目をして、僕の幼稚園時代を回想するイグナ婦人。

 だけど、そのキャッチコピーは止めて欲しい……! それだと、日本で最も有名な幼稚園児になってしまう。アニメ化から一年、来月には映画まで公開される予定の『彼』──嵐を呼ぶという称号は、彼にこそ相応しい。

 なにせ『令和』でも()()の幼稚園児なのだ。つまり彼は、『ドラえもん』と肩を並べる御長寿アニメの主人公。平成の今でさえ、社会現象を巻き起こしているというのに……彼の快進撃は、これから30年以上も続くのだろう。

 

 それはそれとして。

 

 いい加減、話の脱線を終わらせよう。

 先程からイグナ婦人は、島の御老人の苦労を偲んでいるけれど……その人たちの孫は全員、僕と同じ学校へ通っていたのだ。つまり、僕と同い年の孫を持つ貴女とは同世代という事に──

 あ、なんでもないです。

 ダメだ。棒手裏剣を構えられては、どうする事もできない!

 

 仕方ない……お年寄りの昔話に、もう少しだけ付き合うとするか。

 

 

 「みさきさんに手を引かれ、萬宮寿流の道場へと来た子供。その第一印象は、大人しい()()。孫の良き友人になれるかも、と。ワタクシは期待しておりましたが──」

 

 残念な事にその子供は、とても手を焼くイタズラ好きの男児だったのです。

 何度となく聞かされた語り口なので、話の続きは凡そ想像できる。そもそも、他ならぬ『僕』のエピソードなのだし。

 

 

 ──10年前。

 

 木嶋(きじま) 梯梧(でいご)の人生における、最初の転換期。

 両親が一軒家を建てたこの年に、僕は初めて笛市へとやって来たのだ。とは言え、笛市こそが僕の地元であるという認識は変わらない。

 『引っ越しの時期』と『物心がついた時期』

 僕にとってその二つは、ほぼ同時に訪れたのだから。

 

 早熟な姉さんと違い、僕の成長速度は極めて一般的だった。6歳を迎えてようやく、僕は世界を鮮明に認識し始めたのだ。

 今にして思えば、自身を取り巻く環境の変化が切っ掛けだったのかも知れない。

 新しい家。新しい幼稚園。

 そして、新しい同居人。九重女学院大学への進学が決まった、叔母のみさきさん。高校卒業を目前にした叔母が、春先から木嶋家で暮らす事となったのだ。

 

 幼い僕は、すぐに叔母へと懐いた。

 両親は仕事で忙しく。姉さんは精神的に大人びていても、身体は子供。

 そこに包容力のある大人の女性が現れたのだから、当然の帰結と言えるだろう。

 

 なので、みさきさんが僕を『道場』へ預ける事も、また当然だったのだ。

 体力のあり余った6歳児と、インドア派で体力の少ない18歳女子。一週間も保たずに、みさきさんは疲労で寝込んでしまったのだから。

 高熱にうなされながらも、僕を心配そうに見つめるその顔が、強く印象に残っている。

 

 

 「その際に、みさきさんは『予知夢』を見ていたのです。甥の未来を視た彼女は、同質の力を持つワタクシへと相談を持ち掛け──」

 

 それは初耳だ。

 すると、あの思案顔は……幼い僕ではなく、未来の僕へ向けたものだったのか。僕が世界の命運をかけた闘いへ参加する事を、そんな昔から予見していたなんて……!

 

 「いえ──彼女が視たのは、悪童と化し、イタズラの限りを尽くす甥の姿ですわ」

 

 えっ!?

 

 「その未来を避けるべく、性根を叩き直す目的で『道場』へと預けに来たのです。最初は、大人しそうな外見にワタクシも騙されかけましたが……10分も経たずに肝を冷やす事となりましたわ」

 

 えーと、僕が道場へ行った初日と言えば……ああ、あれか!

 みさきさんが恋しくて、道場に置かれていたスーツケースの中へ潜み、脱走を試みたんだ。

 だけど、それは廃棄処分する予定のカバンで──向かう先は『焼却炉』だった。

 燃え盛る炎の中。あわやという場面で、みさきさんに助けられた記憶がある。

 

 「みさきさんの予知能力は、九重家に匹敵する水準。だからこそ、ワタクシが学院へ招きました。ですが、その彼女とワタクシの予知をもってしても……──」

 

 

 幼い日の僕は、行動の読めない子供だった。

 だが、一度注意された事をきちんと守る子供でもあった。その性質が、ますます大人を困らせてしまった様だ。

 スーツケースに入ってはいけません。そう叱れば、今度は『壺』や『木箱』に隠れてしまう。

 当時の僕は『言い付けを遵守』しながら『自由を謳歌する』生意気な子供だったのだ。

 

 なので頭ごなしに『勝手な行動をするな』とでも命じれば、一切の活動を止めていた事だろう。

 しかし、幸か不幸か。僕の周囲には、過度な『束縛』を言い付ける大人は居なかったのだ。

 

 「自身の頭で考え、条件に合う範疇で成果を挙げる。それが出来ている子を無理に束縛しても、良い結果にはなりません。ワタクシも、それは身に染みておりましたわ……なので()()()()()束縛を課す事に致しましたの」

 

 なるほど。それで『稽古中の脱走禁止』という、絶妙な加減のルールが敷かれたのか。

 そのルールに加え、休憩時間には みさきさんが訪問、或いは電話での会話が約束され──僕を取り巻く包囲網が完成したのだろう。

 

 今にして思えば、稽古自体も子供の興味を引く工夫がなされていた。

 武器の扱い方を学ぶ他に、巨大アスレチックを自分なりの方法で踏破する訓練があったのだ。レイワさんの知識で言うところの『パルクール』に近い特訓。子供の僕にとって、それは極上の『あそび』だった。

 

 だからこそ、わずか2週間足らずで()()()()へ侵入する術を身に付けてしまった。

 『絶対に開けてはならない』と言い付けられた扉を開ける事なく、僕は禁足地へと踏み込む術を思い付いてしまったのだ。

 

 大人の身長でさえ届かない高さにある換気口。

 そこを通り抜ければ、厳重に施錠された倉庫内へ辿り着ける──と。

 

 

─────────

──◀︎▷──

───

 

 

 3月中旬

 その日、みさきさんは卒業式の為に帰郷中だった。 

 イグナ婦人も席を外しており、僕を止める大人は誰も居なかった。

 直前の稽古内容が『棒術』だった事もわざわいしたのだろう。

 

 僕は壁に棒を立て掛け、それを足場に跳躍し、2mの高さにある換気口の蓋へと指をかけた。そして、一緒に稽古していた『しいなちゃん』の静止も聞かず……ポケットに忍ばせていたドライバーで蓋を開け、ダクトの中へと侵入していった。

 そのまま帰りの事も考えず、迂闊にも倉庫内へと飛び降りてしまったのだ。

 

 受け身の訓練をしていたため、着地は問題なく行えた。その事だけは、確かに憶えている。

 だけど、そこから先の記憶が一切ない。

 気付けば僕は、肩に大きな傷を負っており──萬宮寿流を破門されていた。

 

 それも当然だろう。

 だって僕は、武器を嫌いになってしまったのだから。

 心的外傷による武器の拒絶。そう診断された僕は、少し前まで包丁すら握る事ができなかった。

 その『呪い』は現在も残っており、刃の付いた武器には未だ苦手意識を感じてしまう。

 

 「あら? 意外と正確に、自身の状態を理解しておりますのね。いい機会ですし、()()()なにが起こったのかを話しておきましょう──」

 

 

 遠い日の真実。

 倉庫には『妖刀』が封じられていた。大昔、狒々(ひひ)を退治した事で呪われた刀。それに斬られた者は、文明に触れる事が出来なくなるという、極めて危険な呪物だったらしい。

 血塗れで発見された『僕』は、服も纏わず、言語すら忘れ──ただ暴れ回るだけの『獣』と化していたそうだ。人を人たらしめる要素が、完全に抜け落ちていたのだろう。

 

 そんな僕を、しいなさんが救ってくれていた。

 

 幼い彼女が無意識で行ったのは『呪詛返し』

 強大な呪いを返された妖刀は、それに耐えきれず砕け散り……最後の悪あがきをした。

 こうして、大幅に減衰した呪いが()()の身へと降り注いだのだ。

 

 自業自得でしかないと言うのに、僕は『武器』を持てない呪いだけで済まされ。

 何の罪もない幼い少女が、『機械』を操作出来ない呪いにかかってしまった。

 彼女の機械音痴は、僕の身勝手が巻き起こした結果だった。その大恩も知らず、機械操作に拙い彼女を『ポンコツかわいい』などと思っていたのだ。なんたる厚顔無恥。凡骨なのは、僕自身じゃないか。

 

 「しいなへ恩を感じるのは結構ですが、自身を恥じるのは其処までになさい。あの件は、子供から目を離した『大人』に責任があります。ワタクシこそが、責めを負うべきなのです。結果的に、仲の良い幼児達を『離別』させる事しかできなかったのですから──」

 

 

 僕らが受けた呪いは、互いに影響しあい『増幅』する性質だったらしい。

 ただそれは、物理的に距離をとるだけで防げるものでもあった。僕を破門することで、一旦の解決となったのだが……。

 しいなさんが、それを良しとしなかったそうだ。駄々を捏ね、屋敷を抜け出しては『僕』の事を捜し回っていたのだとか。

 素直だった孫娘の変容ぶりに、イグナ婦人は頭を悩ませ──強硬手段に出る決意をした。

 しいなさんの中にある『ディエゴ』に関する記憶を、一時的に封印したのだ。

 

 「時間経過で『呪い』が弱まるのと連動し、徐々に記憶も蘇っていた筈です。なので、アナタ達が中学生となった頃には、全てを思い出していたのでしょう。丁度その頃、呪いは完全に消滅したのですから」

 

 え? 呪いが、既に消滅している……!?

 でも僕は、まだ刀や槍を使えないし。しいなさんだって、機械を全く扱えないままだ。

 

 「長年の苦手意識がそうさせているだけで、呪い自体は綺麗さっぱり消えております。そうでなければ、同じ高校へ通う事を許可する訳がないでしょう?」

 

 た、確かに……! なら僕は、使おうと思えば剣を使えるってコト?

 

 「軟弱者。思い上がりも甚だしいですわね。萬宮寿流を2週間で去った者が、いきなり剣を使った所で高が知れています。これだからアナタは……ああ、美衣との入れ替わりが継続していれば

 

 

 説教をしながら、小声でぶつぶつと文句を言うイグナ婦人。

 なるほど。B子さんと僕が入れ替わった裏には、この人の思惑が含まれていたのか。

 大方、しいなさんとB子さんを融合させ、僕を蚊帳の外へ追いやるつもりだったのだろう。

 

 だけど、そうはいかない。

 先程の話を聞いて、僕の決心が揺らぐ事は、もう絶対に起こらないのだから。

 

 しいなさんと融合するのは、僕だ。

 

 

 「呆れましたわ。自身を恥じ、凡骨と揶揄しておきながら……一体、どこからそんな自信が湧いてくるのかしら?」

 

 自信なんてない。過信も慢心もするなと、幼い頃に教わっている。

 だけど、凡骨なりの気骨を見せる事はできる。しいなさんが、僕を信じてくれたから……僕と融合する事で世界を救えると、そう信じてくれたのだから。

 僕は厚かましくも、彼女が信じた『僕』を()()()に信じる事にしたんだ!

 

 「──良いでしょう。では、いい加減『本題』へと移りますわ。まずは、時計の針を見てご覧なさい。ワタクシの感覚では、かれこれ1時間ほど話し込んでいるのですが……」

 

 

 時計の針が示す時刻は、0時10分。

 あの置き時計、年代物みたいだし壊れているのでは?

 

 

─────────

──◀︎▷──

───

 

 

 イグナ婦人の本題は、融合後の能力に関する事柄だった。

 

 荒唐無稽な話だが、僕には時間の流れを歪めるチカラが備わっているらしい。

 トリガーとなるのは『回想』

 先程までの昔話は、一つの実験も兼ねていたようだ。イグナ婦人が謎の巫女パワーを使い、僕の回想へと便乗する実験。その結果、一緒に時の流れから外れる事に成功した。

 ……と、言うのがイグナ婦人の見解だ。

 

 眉唾な話ではある。だけど、置き時計だけでなく『僕の腕時計』まで同じ時刻を示しているのだから、信じるしかない。

 

 「その能力を十全に活かす為、これより『回想』を禁止します。いざという時、思い出すエピソードが枯渇していては大問題ですもの。念の為、保険もかけておきますが……()()()()の能力についても、話しておきましょう」

 

 まるで未来を見てきたかのように、融合した僕らの能力を解説するイグナ婦人。

 実際にこの人は、予知夢という形で『未来』を観測しているのだ。それが、的中率100%の占いの正体なのだが……未来は割と簡単に変動するものでもある。そうでなければ、占いで助言する行為に意味が無いのだから。

 『明日あなたは、車に轢かれます』と告げるだけでは、聞かされた相手も困惑してしまう。

 どういう経緯で事故に巻き込まれるのか。どうすれば、それを回避できるのか。そこまで話して、初めて助言が成立するのだ。

 

 そして、助言を受けた者が行動を変えれば、必然的に未来も変わる。酷い目に遭うと占われ、それに自ら飛び込む『へそ曲がり』などそうそう居ないのだ……。そんな奴は、僕くらいだろう。

 つくづく、幼い日の僕は──

 

 「回想禁止‼︎ ワタクシの話をきちんと聞きなさい。統合精霊化(ディフュージョン)後の能力は、精霊回帰(ジン・バック)の力を拡大延長したもの。アナタの場合、それが『時間』に関する力と『(ひでりがみ)』に関する力になります」

 

 

 コロポックルの伝承に、『干魃を起こす呪詛を吐いた』という記録がある。

 ついでに、キジムナーにも『火を操る力』があると伝えられている。

 その両方を受け継ぐ僕には『魃』としての素養が眠っているそうなのだが……。

 

 「スキー場の山小屋で、ストーブに火を点けた話。『生石灰』と『水』を化学反応させたという、例の話です。しいなから聞いた内容を元に、オメガIII財団で当時の環境を再現し、本当に可能なのかを検証した所──結果は、散々なモノでしたわ」

 

 薪へ着火できなかった上に、水素爆発でストーブが破損……?

 幸い怪我人は出なかったらしい。無事に着火できた僕らは、かなり運が良かったのだろう。

 

 「察しが悪いですね……。あの時、アナタが『火を操作していた』と考える方が理に適っているでしょう? あの条件で着火できた事実こそが、精霊のチカラが働いた証明。なぜなら精霊は、物理法則を無視できる存在なのですから」

 

 つまり、本来ならば火を点けられない状況だったのか。

 これまで沈黙を貫いていた『バングル』が、動揺から震えている。まあ、レイワさんのレクチャーが的外れだったとしても、僕らが助かる切っ掛けになった事には違いない。今更、あの件で責めたりはしないよ。

 

 

 「さて、回想を禁止したため時間も押しています。現在の時刻は0時55分──これより、アナタの頭の中にある直近1時間の記憶を封印します。安心なさい、窮地となれば自ずと思い出せますわ」

 

 かつて、しいなさんの記憶を封じたのと同じ能力か。イグナ婦人の『巫女パワー』こそ、物理法則を無視している気もするが……これも、必要な措置なのだろう。

 先程言っていた、予知夢で見た未来を変えない為の『保険』というやつだ。

 

 「あら、ワタクシとした事が、肝心なことを失念しておりました。記憶を封印する前に、確認しておかねばなりません。いま一度、夫・シグマに代わり、ワタクシが問いかけます……」

 

 

 ──アナタはなぜ、世界の命運をかけた戦いへの参加を、二つ返事で了承したのですか?

 

 

△△▼▼◁▶︎◁▶︎

 

 

 回想中断。

 全ての準備が整ったみたいだ!

 

 僕らを自動追尾する七本のビーム。綺麗に頭を揃えた光線群が、こちらへと向かってくる。

 『時間停止』と『解除』をこまめに行い、光線を一束に纏める作業が完了したのだ。

 そして、作戦通り──ビームと僕らの間には『乙姫』がいる。

 

 不敵な笑みを浮かべた幼女は、未だ己の優勢を疑っていない。背後から、自身が放ったビームが迫っているというのに、絶対防御の中にいる彼女は振り返る素振りさえ見せない。

 

 【ここへ至るまで、限りなく地味な調整をしましたわ!】

 【その為、水属性さんは限界ですの】【ここが正念場ですわ】

 【デイ──「はははは! そなたらの小細工なぞ、お見通しじゃ」

 

 しいなさんの言葉を遮る形で、乙姫の高笑いが響き渡った。

 同時に、七本の光線が弧を描く。幼女が纏うバリアーを避けるように、球体面に沿って軌道修正したビームは、まるで花弁の様だ。皮肉にも、その形は『デイゴの花』に似ていた。

 だが、それも一瞬。

 開いた蕾が閉じるように。散開しかけたビームは、再び僕らを標的として集束し始める。

 

 ここまでは、予想通り。

 

 ビーム同士が衝突しそうになると、うねる様に軌道修正する性質は把握済み。

 なので、同質の力で構成されたバリアーを避けるのも想定できていた。

 尾を引きながら、迫り来る七本の光線。ここで再び時を止め、僕らが少し後ろへ下がったとしよう。すると、予想された着弾点でビーム同士が衝突しかけ……再び拡散。

 以降、その繰り返しとなるだろう。それでは回想ネタが尽きた時点でゲームオーバーだし、そもそも水属性さんがダウンした現状では不可能な手段だ。

 

 だから、向かう方向は『後ろ』ではなく『前』

 コントローラーも、至極単純なボタン操作を一度きり。

 

  僕が、中断した回想を再開して時を止め──!

 【私が、方向キーの『↑』ボタンを押しますわ!】

 

 

▲▲▽▽◀︎▷◀︎▷

 

 

 「アナタはなぜ、世界の命運をかけた戦いへの参加を、二つ返事で了承したのですか?」

 

 えーと、格好いいから?

 

 「巫山戯てますの!? 龍位精霊による災害は、正しく『人類存亡の危機』であると! その軟弱な頭でも、理解できておりますでしょう!?」

 

 だからこそ。最期の瞬間まで、好きな人と一緒にいられる手段を選択したんだ。

 融合相手が しいなさんでなければ、僕は臆病風に吹かれて逃げ出していたと思う。相手が彼女だから、格好をつけたくなった。それで世界を救えるのなら、尚のこと嬉しい。この世界には生きていてほしい人が沢山いるから──と、言うのが僕の素直な感情かな。

 

 

 「まとまりが悪い決意表明ですわね……簡潔に言えば、しいなが一番という事でしょう? 清濁合わせ呑む覚悟が無ければ、その道は後悔へと続きますわよ」

 

 わかってる。

 彼女の目指す理想が、人類にとっては『悪』だとしても。

 僕が、しいなさんを愛しく想う気持ちは変わらない。その先で、もし正義の味方と対立する事があったとしても、ヒーローの()()()から彼女を守ってみせる。

 

 「……全て、理解した上での選択でしたか。ならば、ワタクシから意見する事は何もありません。思うように行動しなさい」

 

 ありがとう、イグナばーさん……改め、お祖母様!

 お孫さんの事は生涯大切にします。だから安心して、隠居生活に移っ──

 

 

 突然。

 僕の頬を『鉄扇』が掠めた。部屋の灯りに照らされ、鉄扇から尾を引くピアノ線が見える。線の先は、お祖母様の手元。左手薬指にはめられた指輪から、透明な線が伸びていた。

 

 「そういうセリフは、せめて結婚できる歳になってから言いなさいっ」

 

 お祖母様が手を引くと、連動してピアノ線が真っ直ぐに張る。その流れる様な所作と、至極当然な正論を前にして、僕は動く事ができず──

 

 「その時、もしワタクシから一本取る事ができたのならば……」

 

 言葉の先は判らない。戻ってきた『鉄扇』が後頭部へと命中し、僕は朝まで気絶してしまったのだから。

 気絶後に、巫女のパワーで記憶を封じる処置が施されたのか。

 はたまた、鉄扇の一撃が記憶を封じる『物理技』だったのか。

 僕には、それすら判別できない……。

 

 一つだけ判明したのは、将来的に『ばーさん』を超える必要が生まれたという事実だ。

 

 

△△▼▼◁▶︎◁▶︎

 

 

 短い回想が明けると、視界は青い光に包まれていた。

 

 紫電の蛇で形成された花の蕾。

 入り口は既に閉じ、僕らの背後には七つの光線が迫っている。

 弧を描き、ターンした七つの蛇頭。まるでプログラムされたかのように、正確に標的を追いかけるそれは──僕らへ着弾する事なく、弾けて消えた。

 

 スネークゲーム。僕が、去年の文化祭で展示したゲームと同じ原理だ。

 蛇の頭が、自身の身体へぶつかってゲームオーバー。

 光線の先端同士が衝突を避け、()()()()先へと軌道修正した結果。対消滅したのだ。

 

 「な、なんじゃとぉー」

 

 態とらしく、動揺したフリをする幼女。バリアーが健在だというのに白々しい。

 ビームは全部で八つ。手動で操作できる最後の一本が、乙姫の本命だろう。

 

 そして、それは【私達の本命でもありますわ!】

 

 そう。消滅した七本では、バリアーへ当てる手段が思い付かなかった。だから頭を揃えて、まとめて消す事にしたんだ。回想の間隙を縫うように、時間停止を瞬間的に『解除』。ビームが僕らを発見したら、再び時間を停止しての『位置調整』。その繰り返しで、水属性さんには大きな負担をかけてしまった……。

 そうして残った最後の一本。あのビームへならば『奥の手』が使える。

 時間停止が『切り札』ならば、僕にはもう一つ別の手が残っていたんだ。

 

 【奥の手、切り札、隠し玉は、別々に用意しておきなさい】

 【それがお祖母様の教えですものね】

 

 最後の手段を破られても、手を残しておけ。矛盾している教えだが、言いたい事は良く判る。

 早い話が、武を志す者はみんな『負けず嫌い』なんだ。

 僕だって昨日からずっと、まことの奥義をどう打ち破ろうかと模索中なのだし。

 

 【不撓不屈の精神ですわね】

 【やられたままでは、我慢できませんもの】

 

 それは、乙姫も同様であり──だからこそ、手に取る様に行動を読む事ができる。

 無敵のバリアーを纏いながらも、僕らへ肉薄する素振りを見せない幼女。

 その狙いは『不意打ち』一択。

 彼女は不意打ちで『子供化の呪い』を喰らい、さんざん泣き喚いていたのだから。

 精神まで幼くなった乙姫にとって、やり返さねば気が済まない。

 

 だからビームを隠した。僕らの視界が光に包まれたあの時、隠し玉を用意したのだ。

 

 

─────────

──────

───

 

 

 赤く燃え盛る焼却炉の中で、僕は確かに炎と戯れていた。

 窓の外にみさきさんを見つけ、彼女が恐がるといけないので炎には退いてもらった。

 左右に割れた炎の道が、周囲の可燃物を燃やす中。僕は、みさきさんの手によって炉内から救い上げられた。

 二人とも一切の火傷を負う事なく、あの一件は厳重注意につぐ厳重注意で幕を閉じた。

 師匠からは「火の回りが遅かったから良かったものの」と、幾度となく叱られたものだ。

 だから、いつしか僕もあの光景を夢だと思い込んでいた。

 

 だけど今は、紛れもない現実だったと確信できる。幼少期を回想した事で、はっきりと記憶が蘇った。あの時僕は、炎へ()()()して動いてもらったんだ。

 

 『言霊』による炎の操作を、無意識に行っていたんだ──

 

 

 そして、炎も雷も『プラズマ』の一種。前にレイワさんが、そんな事を話していた。

 相変わらず、僕には詳細な原理が理解できないけれど。精霊回帰にとって、それは差したる問題ではないだろう。物理法則を無視してこその、精霊だ。

 

 【そうですわ】

 【難しく考えず、思うままに】【力に逆らわず、あるがままに】

 【それが羽吹流・萬宮寿流、唯一の共通点ですの】

 

 羽吹流・奥義──『落花柳垂(らっかりゅうすい)

 萬宮寿流・奥義──『巻上裂隻(かんじょうれっせき)

 相反する両流派が辿り着いた極致は、奇しくもカウンター奥義だった。

 どんな実力者であろうと、一番の敵は己の中にある心。油断大敵。過信も慢心もするなという教えは、その心を律する為のものなのだ。

 だがそれでも、間隙は生まれる。乙姫が残心を忘れ、『猫の牙』を受けたのが良い例だ。

 

 相手の心へ生じた刹那の隙。それを見抜く事こそが、武の極地。

 まことの奥義『狭獄』も、乱舞の檻へ閉じ込め、相手が諦めた瞬間を見抜きトドメを刺す技だった。隙が生まれるまで攻撃を止めないという部分が、いかにも彼女らしい。

 

 だけど僕らは、逆の形で乙姫の隙を生み出す事に成功した。

 光線の檻に閉じ込められ、小賢しくそれを脱してみせ──今も尚、幼女を相手にマウントを取る()()を続けているのだから!

 

 

 おーほっほっほ!

 憎たらしい笑みを浮かべ、高笑いを上げる僕。大好きな『悪役令嬢』を演じるのだから、この程度はワケもない。今の僕は見るからに……己を過信し、慢心だらけで、高慢なさまを隠そうともしない【も、もう止めて下さいまし!】

 

 【闘いへ集中なさって!】【敵の攻撃を誘う事が目的でしょう】

 【本当に油断していては、元も子も御座いませんわ】

 【私に、ディエゴの得意な落下柳垂を見せて下さいな】

 

 ……実のところ、僕は落花柳垂の一段階前である『枝垂柳(しだれやなぎ)』までしか修得していない。回避と受け流しは可能だが、それを攻撃へ転じなければ奥義とは呼べないのだ。

 

 だけど、この局面で奥義と叫べないのはバツが悪い。

 なので今回も、あの奥義を拝借しようと思う──

 

 

 僕らの足元。海中から噴出した予測済みの『不意打ち』

 触れれば最後の熱の塊。その事実は、僕が炎を操作できたところで覆る事はない。

 しかし、触れる必要はないのだ。コロポックルが、呪詛を吐き干魃を起こしたように。キジムナーが、イタズラに火とじゃれあうように。

 ただ奥義名を叫び、人差し指でくすぐる真似をすればいい!

 

 黄胡蝶(おうこちょう)流・奥義──『胡蝶の舞』‼︎

 

 

 最後のビームは直角に曲がり、幼女の元へと軌道を変えた。

 今度こそ、本当に驚愕する乙姫。

 ようやく実現する『盾』と『矛』の打つかり合い。

 閃光が瞬き、轟音が鳴り響き、大気が震撼する。

 

 

 空前絶後の『雷同士』による衝突実験。その結果は──

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。