平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話   作:浅学寺のえる

41 / 43
#28 音凪姫

 バリアーを穿ち、なお消える事のないビーム。

 幼女を守る絶対防壁を崩し、容赦なく光線は『主』の元へと直進する。

 小さな体躯が光の奔流に飲み込まれて行く──

 

 

 その光景を目にし、ふと僕の頭を過ったのはJKの台詞。

 シマリス怪人との闘いで、リングリットは光線技を放った。背中から発射するそれは外れてしまったのだが……もし、当たっていた場合はどうなっていたのか。

 JKは、その疑問に答えていたのだ。

 

 『ビームが当たっても、元の動物と魂が分離するだけ』

 『ダメージが限界を超えると、()()()()はそうなる仕組み』

 

 彼女の言ったアイツらとは、合精霊(コンフュージン)を指している。

 だが、どうやらその理屈は『龍と融合した巫女』にも適用されていたようだ。閃光が収まっても、乙姫の肉体は健在。火傷どころか、かすり傷一つ見当たらない。

 つまりは、そういう事なのだろう。

 

 「くぅぅ……わぁぁっ‼︎」

 

 幼女が叫び、大きく眼を見開く。その瞳の色は、彼女本来の色彩。先程まで紅く染まっていたそれが、しいなさんと同じ淡褐色(ヘーゼルカラー)の瞳へと戻っている。

 同様に、龍を象徴する『細長く伸びた瞳孔』も人のカタチへと戻っており。

 さらには、頭の角すら崩壊寸前という状態だ。木の枝にも似た『龍の角』が、黒い煤となって空へと消えて行く。

 

 「っぁ……──」

 

 小さな手から『神剣』が零れ落ち、海へと沈む。

 それと同時に、幼女の身体も糸が切れたかの様に落下し始める。

 龍の要素が全て抜け落ちた彼女には、もう空を飛ぶだけの余力が残っていないのだろう。

 いや、それどころか……【気絶してますわね】

 八代折から吸収した、かつて自身の手で溜め込んだ強大な力。それも底を突き『ガス欠』となったのだろう。僕の腕の中で眠る彼女は、憑き物が落ちたかのように穏やかな顔を浮かべて──

 

 【な、なぜ自然と『お姫様抱っこ』しておりますの!?】

 【(わたくし)ですら、まだ経験した事が御座いませんのに……!】

 

 海中へ沈ませる訳にも行かないから、つい。

 だけど意外だ。しいなさんが『お姫様抱っこ』未経験だったとは。僕ですらJKにされた事が……おっと、これは余計な思考だった。まだ気を抜く訳には行かないんだ。

 

 【その件は、あとで問い質しますが!】

 【今の優先事項は、()()()()ですわ‼︎】

 

 そう。空が暗いままだ。心なしか、寄り集まって脈動している様にも見える。

 乙姫から抜け出した龍の残滓が、煤となって天へ昇り──黒雲と一体化。それが、現状で考えられる最悪のパターンなのだけど……【おそらく、当たりですわ】

 だとすると、もはや何度目となるか判らないピンチ到来だ。

 乗り越える度に、大きな脅威となって僕らを襲う『危機』。徐々に龍の形をとりつつある暗雲が、現実の非情さを物語っているようだ。

 あれが九頭竜の意思を持っているのだとすれば、その目的は人類の滅亡。

 乙姫の目的が、最終的には『僕』だった事を踏まえると……やり切れない思いがある。

 

 【ある意味で、これは結果の収束となりますわ】

 【世界の危機】【その件に関して、お祖母様の意見は一貫しておりましたもの】

 

 イグナばーさんの視た未来。予知夢という形で観測したそれは、統合精霊となった僕らが『時間』と『炎』の能力で()()()()と闘う内容。

 だから出撃前、ばーさんは『呪いの書き換え』という僕らへ発現した力に驚いていたのだろう。あの人が視た未来では、そんな能力は存在しないのだ。

 

 未来が分岐した切っ掛けは、おそらくレイワさん。

 予知夢の内容を聞かされた僕は、記憶を封印された。だが彼女の記憶は、無事だった可能性が高い。以前、僕が子供になった時もそうだった。あの一件で、僕と彼女の記憶領域が別々だと証明されたのだから。

 

 

 未来を知り、それを変えない為にレイワさんは黙った。

 それが、今朝からずっと大人しかった理由だろう。だから融合前のアドバイスも、意味深な事を述べるだけに留まった。僕への介入を減らす事で、未来の変動を避けようとしてくれたのだ。

 だが結果的に、その行動が未来へ僅かな変化を齎したのだとすれば……。

 

 例えば──目覚めて一番、僕がA子の罠で女装しかけた時。()()()()()()()()()()()()()()()、ズボンから落下した飴玉の存在に気付けたのかも知れない。

 ソージョー丸という、状態異常を回復させる飴。それが僕の手中にある事で、飴を舐める対象が変化した可能性がある。

 ブーゲンビリアさんの身体ではなく、しいなさんの身体が飴を舐める『もしもの世界』……その場合、呪詛返しの影響である『呪いの因子』まで綺麗さっぱり消えていたのだろう。

 

 材料の『呪い』が無い以上、統合精霊の能力は『時間』と『炎』が表面へと現れる。

 始祖の力が籠った八代折を導入するまでもなく、当初の予定通り『全天候戦闘機』へ乗り込む作戦へと戻るのだろう。統合精霊の力、八代折のコスト、僕の戦闘機への憧れ、諸々を考慮すればその公算は高い。

 その結果。

 乙姫は力を取り戻せず、僕らは『龍位精霊(ドライ・ジン)』との闘いへ身を投じる事となる。

 

 

 これは飽くまで、予知夢の結果から逆算した一つの可能性に過ぎない。

 レイワさんの沈黙が、バタフライエフェクトを起こしたという推論。

 所詮は空論だ。彼女が未来を思って口を閉ざし、僕を信じて送り出してくれた。その事実は変わらない。

 だから僕は、たとえ現実が非情であろうと立ち止まる訳にはいかないんだ!

 

 【その通りですわ】

 【レイワさんという女性に関しては、色々と……】

 【本当に色々と、問い詰めたい部分が御座いますがっ!】

 

 ……その辺りの事情は、全てが終わってからゆっくりと説明するよ。

 今は、龍位精霊への対処法を考えよう。問題点は山積みだ。

 

 

 どんどんと集合し、龍の形へと変化していく黒雲。

 一つ目の問題は、雲の高度。

 海面から、そこまでの高さは【目測で300m強ですわね】

 東京タワーくらいの高さだ。分かり易い。【夏の雷雲にしては、異様な低さですの】

 

 でも、今の僕らでは跳躍しても届かない距離なんだ。

 それが二つ目の問題。

 度重なる『時間停止』の使用で、僕らの出力が大幅にパワーダウンしている件。融合が維持できているだけでも、奇跡と言える。

 疲労困憊でダウンした『水属性さん』と、しいなさんが叩きのめした他の属性乙女たち。

 偶然にも均衡が保たれているお陰で、僕らはまだ融合できているんだ。

 

 【み、三つ目の問題へ移りましょう】

 【ええと。幼児を抱えていては、闘えない点かしら?】

 

 確かにそれも問題だ。抱えていなければ、乙姫が海に沈んでしまう。

 でもそれは、僕がプログラミングして『ボート』か『イカダ』を造れば解決できる……のだけど。その為には、しいなさんと僕が再び『入れ替わる』必要がある。

 これが四つ目にして、現状で最大の問題だ。

 

 コードは僕が記憶している。

 『(Soul)』『交換(Swap)』『呪い(Curse)』を、『デイゴ(D)』『しいな(C)』へ対象指定するだけなので、かなり短い。複雑な武器の生成と比べれば、百分の一にも満たない長さだ。

 

 【うぅ……無理ですわ】【ただでさえ、機械は苦手ですのに!】

 【このキーボード】【盤面に文字が書かれてませんのよー!?】

 

 ごめん。ブラインドタッチに慣れ過ぎたせいで、僕の心象風景にあるPCは全部『無刻印キーボード』になってしまったんだ。僕も指で覚えてるから、口頭で上手く伝えられないし……

 あっ!?

 そうこうしている間に、龍の輪郭が鮮明に浮き出してるじゃないか!?

 時間停止に慣れたせいで、悠長に構え過ぎてた……!

 

 どうしよう、何も手立てが──【Σバイザーの計器が動きましたわ!】

 

 え? 上空から熱源が接近……高度 1,000m!? 龍よりも、さらに上だ!

 

 

─────────

──────

───

 

 

 まさに光芒一閃。

 空を切り裂き、光の柱が落ちて来た。

 黒雲は呆気なく霧散し、もはや龍は原型を留めていない。

 

 天から降り注いだ『光線』の正体は、グリッドシャイン。

 太陽光を溜め込み、射出するその必殺技は『(イクリプス)・フォーム』でのみ放つ事ができる。黒のメタリックボディ。日食の名を冠した新しい変身形態。

 話には聞いていたけれど、格好よすぎだよワッ……リングリット。

 

 ははっ、救援フラグも立てていないのに、まさか来てくれるなんて。彼との敵対を覚悟した僕が言うのは筋違いだけど、ありがとうヒーロー。

 

 【なぜリングリットが!?】

 【しかも、あの男が乗っているのは、アペンドナインですわ!】

 

 なるほど、あれがそうなのか。九重本家が、秘密裏に開発した『全天候戦闘機・アペンドナイン』──その真っ黒なボディには一切の艶がなく、流線形をしている。

 機体の()()に、黒光りするヒーローが()()()いなければ、さらに格好いい戦闘機だっただろう……。

 そう。コックピットではなく、彼は機体そのものへ乗っているんだ。

 しかも、後ろ向きで。

 

 先程のビームは、彼の背中に固定された『ダイヤモンドリング』から放つ技。それ故に、戦闘機の推進方向とは逆を向く必要があるのだろう。その理屈は分かる。だけど、なんと言うか……ここ一番で締まらないというか……。いや、シチュエーション的には格好いいんだけども──

 ん?

 

 《報告。龍位精霊(ドライ・ジン)と目される雷雲、40%程の残存を確認。これより、掃討を開始します》

 

 Σバイザーの通信機能も回復したみたいだ。

 声の主は、アペンドナインのパイロットを務める女性。上空からの垂直落下、海面スレスレでの切り返しを行った凄腕の操縦士だ。

 でも、この声……どこか聞き覚えがあるような?

 

 【あやめですわ】【五香あやめ】

 【ディエゴが回想した際、お祖母様が話題に上げていたでしょう?】

 

 うんうん納得。龍位精霊が放つ雷を的確な操縦で回避し、リングリットのビームを標的へ命中させてるのは『五香さん』だったのかー……って!

 どうして女子高生が、最新鋭の戦闘機を乗りこなしてるんだ!?

 それも、あんなバランスの悪い機体で! 錐揉み回転をしながら雷を避けてるよ!?

 空気抵抗とか、絶対ヘンな事になってる! 航空力学へ、真っ向から喧嘩を売ってるとしか思えない‼︎

 

 【あの子は、忍者ですもの】【戦闘機の操縦ができて当然ですわ】

 【何か不思議な事でも御座いまして?】

 

 ニンジャおそるべし。

 

 《散った雲を完全に消滅させるまで、推定10分。その間に、しいな様へこれまでの経緯をお伝えします。まず、市街地に現れた『鬼』ですが──》

 

 操縦する片手間で、業務連絡まで熟すニンジャ。

 もうツッコむだけ野暮なので、僕は流す事とした。しいなさんを装い、「ええ」「はい」「どうなりましたの?」という3枚のカードだけで、ここまでの経緯説明をしてもらおう。

 

 

 五香さんの報告は淡々としていて、既に要約されている。

 なので、いつもとは逆に肉付けする事で軽く情報をまとめてみよう──

 

 鬼は、バングルの効果で人の姿を取り戻した。

 その時刻は正午。テレビ番組は、お昼の生放送バラエティへと切り替わり、決定的な瞬間は放送されずに済んだそうだ。なので、鬼の正体が『火鬼崎博士』という情報は笛市の中だけで留まった結果となる。

 次は、ヒーローがこの場へ現れた理由だ。

 それは僕の叔母である、みさきさんの懇願から始まっていた。

 市街地での激戦で、ショックを受け気絶していた みさきさん。あの人は、その際に『予知夢』を見ていたらしい。僕らがピンチに陥る未来を視て、二人の博士とリングリットへ救援を頼んでくれたのだ。

 

 いくつかの短い話し合いを済ませ、一同はアペンドナインの格納場所へと向かった。

 笛壱高校の体育館。その地下に、あの戦闘機は仕舞われていたそうだ。

 そして、善と悪の両ハカセが猛スピードで改造し、機体の尾翼手前へ足場を作成。

 クロスリット・ハイロゥを2本使い、脚首と機体を固定するという無茶苦茶な仕様だ。無重力装置も兼ねているので、高速で飛行してもリングリットへの負担は()()()らしい。

 

 魔改造が完了し、みんなの見送りを受けて戦闘機は発進した。

 学校から南へと伸びる長い直線道路。萬宮寿家の私道である例の道を滑走路とし、ヒーローを乗せた機体が上空へと飛び立つ。

 

 雲を抜け、太陽光を吸収し、僕らの窮地へと駆けつけてくれたのだ。ありがとう!

 

 

 《発進前、少しだけ()と話す機会がありました。市街地の戦いで既に満身創痍だったのに、なぜ快く了承したのか? そう問い掛けた拙者へ、彼はこう答えました──》

 

 ──「友達がピンチなんだ。助けに行くのは当たり前だろ?」

 

 ああ、やっぱり格好いいな。

 普段は助平でも。戦闘センスは限りなくゼロに近くても。

 現在は、ただのビーム発射装置と化してるけれども。

 

 リングリットは……

 僕の友達は、最高に格好いいヒーローだよ。

 

 

─────────

──────

───

 

 

 小さな黒雲も、残り5つ。

 既に雷による反撃も止んでいる。程なくして、掃討作戦は完了しそうだ。

 

 【キーッ!】【おいしい所を持っていかれましたわー‼︎】

 【あんな龍の残滓より、私達が闘った乙姫様の方がっ】

 【よっぽど、強敵でしたのにぃー!】

 

 まあまあ。悔しい気持ちは判るけど、彼らのお陰で助かったんだし。

 僕らは完全に手詰まりだったじゃないか。今は素直に感謝しておこうよ。

 

 【いえ、実は一つだけ手が残されてましたわ】

 【ですが、それを使ってしまえば……私達は生涯()()()()でしたが】

 

 相剋の真芯。呪詛を利用している僕らは、そこへ至れば『融合状態』すら固定されてしまう。統合精霊として消耗した現在を『デフォルト』として、これ以上の力の減衰は無くなるのだろう。

 だけどそれは──

 

 

 「やめておけ。永遠に続く『相剋の真芯』なぞ、地獄じゃぞ?」

 

 おっと。いつの間にか、腕の中にいる幼女が目を覚ましてる。

 

 「ふむぅ。やはり其方が『でぃえご』じゃったか。闘いの最中、動きが変化したので怪しかったのじゃ。ははは、よもや二千年の時を超え『ジエゴ』と言の葉を交わす機会が訪れようとは思わなんだ」

 

 僕の頬を撫でながら、慈愛の眼差しを向けてくる乙姫。その手に込められた力は弱々しい。

 荒ぶる気性も、人を威圧する覇気も、全ては『龍』の影響だったのだろうか?

 いや……まずは訂正が先だ。

 

 僕の名前は『葉蕗 梯梧』……ジエゴとは別人です。

 改めて、()()()の名前を教えて頂けますか?

 

 

 「──オトメ。それが、わらわの名じゃ。ははは、不壊(ふえ)の国の『音凪姫(おとなぎひめ)』と言った方が伝わるかの?」

 

 ぜんっぜん知らない。しいなさんは? 【同じく初耳ですわ】

 ならば、僕の勉強不足という線は薄い。消えてしまった歴史……その可能性が高い。

 

 【ですが】【消えずに残ったものも御座いますわ】

 

 うん。巫女の一族が興した、不壊の国。その名は伝えられずとも、『フエ』という音だけは残っている。二千年の時を経て、なおも人々の記憶へ残り続けているんだ。

 僕らの住む土地が『笛』と呼ばれているのだから。

 

 

 「んんー? 驚きで声も出ぬか? シグマめ。本当に何も伝えておらんようじゃの。ふむ、わらわが直々に教えてやりたいところではあるが……そう時間もないようじゃな」

 

 オトメの表情に影が差し込んだ。

 儚げな雰囲気。力を使い果たした肉体。そうか、彼女はもう──

 

 「たわけ!? わらわではなく、其方らの話じゃ! 龍が抜けた今、わらわの『巫女ぱわー』も僅かに戻っておる。直近の『未来』を視たわらわが、デイゴの身に巻き起こる危機を回避してやろうという話じゃー‼︎」

 

 えぇ!? 【まだ危機が訪れますの!?】

 

 だけど、既に雷雲は一つだけ……あ。それも消滅して、空が完全に晴れ渡った!

 もう雰囲気的には大団円じゃないか。ここから復活するラスボスなんて、空気が読めないにも程がある! ハッ……そうか、判ったぞ!

 龍が既に消えたのだから、ラスボスはやっぱり『オメガ』なんだ!

 聞き分けがいい幼女のフリをしておいて、これから最終決戦へと持ち込む気だったのか……!?

 

 

 「わらわは、オトメじゃ‼︎ おのれ迷推理をしおって。ちゃんと頭を働かせんか! 肝心な時にポンコツなところまで、ジエゴとそっくりでは無いか‼︎ この、愛い奴め! このぉ! 本当に其方は、わらわが着いてないとダメなんじゃからぁ」

 

 ポカポカと僕を殴りつつ、笑いながら怒るオトメ。器用だ。

 やっぱり、この幼女はラスボスじゃないな。だとすると──【ディエゴ!】

 

 【先程、そこの幼女様はデイゴの身と仰いましたわ】

 【それは、言葉通りの意味なのではなくて?】

 

 僕の身……肉体。そうか、武道館に置いてきた僕のカラダがピンチなんだ!

 どうしよう!? 僕の体は、ここから100km以上も離れた場所にある。融合を解除して『魂』だけで帰還? ダメだ。しいなさんとオトメを、海上へ置き去りに出来ない。

 

 【その場合、あなたの魂を掴んで私も同行します、が】

 【一つお忘れではなくて?】

 

 【萬宮寿グループが誇る最新鋭の戦闘機を──!】

 

 

 《報告。掃討任務、無事に完了しました。これより着水形態へ移行します。しばしお待ちを》

 

 アペンドナイン‼︎

 そうか、あの機体なら「まどろっこしいのぅ。ちと口を吸うぞ、デイゴ」

 ふぇ……!? 【なっ!?】

 

 「ん。魂から、デイゴの肉体がある座標を割り出しただけじゃ。ついでに、融合の『反動』も吸い出してやった。なぁに、子孫への餞別じゃ。元より、今のわらわは残留思念に過ぎぬ……この身が崩れようと其方らが気に病む事はない」

 

 よ、幼女に唇を奪われた……。【油断しすぎですわ!】

 

 「なにを呆けておる。口吸い程度、いくらでもしておろう? ……まさか其方ら、口吸いも済ませておらん間柄で『融合』しておったのか!? ヘ、ヘンタイじゃ!? まったく、今の若いもんは何を考えておるのか判らんっ‼︎」

 

 半透明になった幼女が、何やら騒いでいる。

 急にお年寄りみたいな事を言い出す姿が、とてもシュールだ。

 だけど僕はショックで、話の内容が半分も頭へ入ってこない。

 

 「はぁ、もうよい。デイゴ、稀人(まれびと)に見初められし者よ。わらわが特別に、其方の肉体の元まで『わーぷ』させてやろう。えいっ!」

 

 可愛い掛け声と共に、僕らの眼前に『穴』が現れる。

 空中に開いた直径2m程の穴は、中が真っ暗で先が見通せない。まるでタイムマシンが待機していそうな見た目の穴だけど? 【底なしの穴……!】

 

 【これは本来、精霊世界(ジンライム)へ向かう為のモノですわ】

 

 ──それって!?

 

 

 「ではな、デイゴ。そして、子孫(しいな)よ。この『わーぷげーと』を潜り、其方らの運命を自らの手で変えてみせよ──……」

 

 ゲートを作り、力を使い果たしたのか、満足そうな顔をしてオトメは消えていった。

 僕が呆けている内に、別れを告げる間も無く消えてしまった……。

 どうして、僕なんかの為に! このゲートは、しいなさんと詠が……!

 

 【行きますわよ、ディエゴ】

 【オトメ様からの餞別を、無駄にする訳にはいきませんわ】

 

 穴は少しづつ小さくなっている。

 そうだ。迷ってる時間はない。下降中のアペンドナインには悪いけれど、どうやら僕はあの機体と縁が無いようだ。

 

 ありがとう、オトメ。お節介な幼女様──

 

 

━━━━━━━━━

━━━━━━

━━━

───

──────

─────────

 

 

 穴へ飛び込むと、静寂が訪れた。

 戦闘機の駆動音は勿論、海のさざめきすら聞こえない。

 視界は昏く、音もない。落下しているのか、浮いているのかさえ判然としない。

 まるで無重力を体感しているかのようだ。アペンドナインに接合された彼も、こんな感覚を……いや、状態異常無効ならば三半規管も乱れないか。

 

 そんな益体もない事を考えていると、すぐに出口が見えてきた。

 なるほど、これは早い。僕らの真下に現れた淡い光が、徐々にその幅を広げている。

 だけど少し変な形の出口だなぁ。円形と言うには歪で、『◯』の下部分を『m字型』にくり抜いたような──

 

 【そ、それは、私の胸が視界を遮ってますのよ!】

 【あまり真下を見ないで下さいましっ!】

 

 ご、ごめん。その……B子さんになった時と違って、女の子になってる実感が薄くて。

 ナニがどうしてかは、えーと、説明し難いんだけど……。

 

 【二形(ふたなり)だからでしょう?】

 【あら?】【ディエゴが恥ずかしがっている間に、出口へ到着しましたわ】

 

───

 

 薄暗い部屋。薬品とオイルの匂い。ここは【お祖父様のラボですわ】

 どうやら僕の肉体は、武道館からこの場所まで移動していたようだ。

 誰に運ばれた訳でもなく『ひとりでに』

 そうだな、強いて犯人を挙げるのならば──

 

 「や、やあ。早かったね名探偵クン。それとも今は『悪役令嬢ちゃん』とでも呼んだ方がいいかにゃ? あ、噛んじゃった……」

 

 黒いバイザーを装着した『僕』が、いつかの焼き直しのような台詞を放つ。

 なるほど。通信機能が回復して以降の流れは、それで筒抜けだったという訳か。同型機であろう『Σバイザー』を盗聴し、僕らの動向を窺っていたんだろう?

 そして、戦闘機で戻るという話が覆り……急遽ワープして来た僕らに、内心では驚きを隠せていない。だから台詞を言い淀み、肝心な場面で噛んでしまったんだ。

 ラスボスという大役は、少し荷が重かったんじゃないかな?

 

 レイワさん。

 

 

 「お見事。女心は解らないのに、相変わらず推理だけは冴え渡ってるね」

 

 余計なお世話だ。それよりも、何か要求があるんだろう?

 追い詰められた犯人の如く、洗いざらい話してもらおうか。『謎のおねえさん』として『ラスボスムーブ』を続ける時間はおしまいだ。

 

 「あ、少し訂正させて欲しいな。私は別に、ラスボスでも何でもないよ? テレビを見て、リングリットを応援してただけの一般人だからね。あはは、あれは凄いエンターテイメントだったなぁ──!」

 

 洗いざらい話せと言ったのが災いしたのか、ヒーローの活躍を語り出す彼女。

 五香さんから受けた『報告』と違い、レイワさんの『感想』は熱が篭っている。

 

 A子が自分の腕にバングルをはめてしまい、ロックされた件。

 詠唱を間違え、ピンチに陥った場面を、僕の妹が救った件。

 完全詠唱する妹が全国放送の電波に乗り、赤面する僕の家族の話。

 うん、それは僕も恥ずかしい……。

 善童鬼が怒り狂い、炎を纏った斧で建物を破壊した件。

 その恐ろしい武器を見たまことが、ワイルドな笑みを浮かべ嬉々として参戦した件。

 

 「武器破壊は、羽吹の十八番。そう叫んで、まことちゃんが鬼の攻撃を掻い潜りながら、斧の柄のおしり部分へ『オーバーヘッドキック』を決めたの。鬼の手からスポっと抜けた斧が、空中へ飛んで──」

 

 宙でキャッチしたリングリットが、斧の柄に『アルゼンチン・バックブリーカー』を決めながら地面へと落ち……その衝撃で柄をへし折った? それはもう、別の技だ。

 

 まあ、いいや。そうして武器が壊され、善童鬼は再び素手となる。

 バングルを使うチャンス到来。そう沸き立つ一同だったが、鬼の腕どころか指にすら腕輪を嵌める事はできなかった。単純にスケールが違う。鬼の小指でさえ、僕の手首よりも太いと言うのだから。

 優勢から一転して、まさかの手詰まり。

 一同に混乱が起こる中で、B子さんが何かを決意する。

 『幼児タイコウ』というアイテムを使い、彼女は小学生程度の体躯へ戻ったのだ。

 弓を番える小学生B子さん。矢尻の先には金属の板。矢と共にバングルを射出し、鬼の『角』へと引っ掛けるのが狙いだった。

 しかし、子供の膂力では弓を引く力が足らず……

 

 「そこで、理珠ちゃんが力を貸すの。共同作業で弓を引く姿……あ〜尊い。あれで『百合』の良さに気付く日本人が増えたかもね!」

 

 矢は命中し、鬼の角にバングルが嵌る。

 同時に、鬼は地面へと両膝を着いた。リングリットのタックルが、鬼の膝裏へと決まったのだ。

 そして機を逃さず、その折れた膝を足場に跳躍する二つの影。

 シャイニングウィザードの要領で高く飛び上がったのは、僕の幼馴染たち。A子と、まことが、善童鬼の頭を挟んで左右へと躍り出た。

 二人に会話は無い。目配せ一つで、互いの意思を汲み取れるのだから。

 A子がバングルの半面をなぞり、もう半分をまことが繋げる。

 ついに『煩悩封じ』が発動する‼︎

 

 「そう! 苦しみ出す鬼。その姿は、徐々に人の形へと戻って行き──……番組が切り替わって、陽気な歌が流れたの。いや、サングラスの司会者は大好きだけどね!? あの番組編成はないって‼︎」

 

 確かにそれは酷いなぁ。【…………】

 

 「ねー。それで続きが気になった私は、何か手立てがないかなぁって屋敷を彷徨ったの。そしたら偶然、シグマ総帥のラボを発見して……このバイザーと、()()を見つけたってワケ。ね? 私は全然、ラスボスじゃないでしょ?」

 

 

 そう思うのなら、まず『拳銃』を置いてくれ。レイワさん。

 まるで自殺するかのように、『僕の身体』へ銃口を向けないでくれ……!

 

 

─────────

──────

───

 

 

 「あはは、別にいいでしょー。今は()()()()なんだから。あ、でも念のため言っておくよ。君たちが怪しい動きをしたら、このまま引き金を引くからね?」

 

 

 途中までは、いつも通りに話せていた。だけど、説得は失敗だ。

 彼女の動機が解らない。

 僕の身体を奪う事が目的? いや、それだと銃での脅しは矛盾している。

 まさか本当に、死ぬつもりなのか……? 解らない。バイザーで目元を隠した彼女の心が、何も解らない──

 

 【……レイワさん】【美衣の言っていた悪霊の正体】

 

 そうだよ。僕の頭の中へやって来た『令和の叡智』。四月の半ばからずっと、彼女は僕の中にいた。こんな形で紹介する事になって、残念でならないよ。

 ああ、だけど……しいなさんも夢の中で、あの人とは一度会っていたんだ。

 

 【名津いおん、さん】【水属性さん……?】

 

 それは、僕のイメージが反映されたのかも知れない。ケンカばかりの土属性と火属性は、しいなさんと まことに良く似た外見だった。仲のいい木属性と金属性が、姉さんとB子さん。

 余った水属性へ、たまたまレイワさんの似姿が反映されたんじゃないかな?

 

 【レイワ】【令和の叡智】【叡智の書】

 【全てが繋がりましたわ──彼女が、稀人ですのね】

 

 まれびと──別世界からの客人。

 僕らの世界でも、精霊世界(ジンライム)でもない『異世界』からの来訪者。

 あのオトメが稀人と呼ぶ存在など、彼女くらいだろう。【……】

 

 

 「D君。ひとつ疑問なんだけど、どうして君は『オトメ』って呼び捨てにしてるの?」

 

 【そうですわ‼︎】【なぜですの、ディエゴ!?】

 

 は? 銃を構えておいて、何を言っているんだこの人は。

 しかも、しいなさんまで。この場面で追及する事じゃないだろう。

 

 「なら『犯人からの要求』って形にするよ。これで素直に答えてくれるかな?」

 

 【答えて下さいまし!】

 

 ……改めて聞かれると困るんだけど。強いて言うのなら、気分的なもの、かな。

 『しいなさん』『レイワさん』

 『美衣さん』『みさきさん』ついでに『姉さん』

 うん。僕が名前に敬称を付けて呼ぶ人は、みんな精神的に大人なんだ。だから自然と尊敬してるんだと思う。つまり『オトメは子供だから呼び捨て』というのが、僕の答えだ。

 これで納得してくれたかな?

 

 

 「……ふーん。まあ『のじゃロリ』の件は、それでいいよ。でもね? 君が指折り数えた『大人の女性』に、私は含めないで欲しいな。君の身体を奪った女に、寛大な態度をとったらダメ。世の中には『悪いヒト』が沢山いるって──前に教えたでしょ?」

 

 【ディエゴ……!】【回想の準備を‼︎】

 

 え!? どうして急に──【女の勘、ですわ!】

 わ、わかった。でも、今は回想のネタが完全に尽きて──【4月10日】

 

 【4月の第2土曜日】

 【あなた達が猫怪人に襲われた翌日ですわ】

 

 それは、僕が『叡智の書』へ触れた翌日でもある。

 得体の知れない知識に、ただ怯えていた日。

 だから敢えて、回想して来なかった。あの恐怖を再体験したくなかった。

 でも、出会いもあったんだ。

 

 僕が『叡智』を受け入れようと思った、切っ掛けが──

 




光速真芯リングリットX
 「最凶の敵!? その名はドライジン(後編)」の巻
─ おしまい 来週もまた見てね! ─
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。