平成アニメ世界で令和の価値観を注入されたショタの話 作:浅学寺のえる
「あったかいですわ〜。それにしても、まさか
どうにか火は熾せたけれど、全く窮地から脱せていない!
今の僕には、頬を擦り寄せてくる彼女を拒む事もできない。
お互いにスキーウェアこそ着ているものの、結局1枚の毛布で一緒に包まっているのだから。
【エッチなのはダメ!】【死刑!】
叡智の化身が何を言ってるのやら。あと、死刑とか洒落にならないから勘弁してくれ。この状況をもしA子にでも見られたらお仕舞いなんだ……
だけどまあ、無事に暖を取れたのはレイワさんのお陰だ。ありがとう、今回ばかりは本物の叡智だったよ。それにしても、まさかレイワさんが『爆弾作れる系のリケジョ』だったとは驚いたな。
【違いますケド!?】【キャンプ動画の知識!】
そうは言うけど、化学方面に疎い僕だけじゃ思い付かない方法だった。実の所、どうしてあれで火が点くのか理屈もよく分からない。そもそも僕の手柄でもないのに、しいなさんから褒められるのはやっぱり居心地が悪いんだ。
と言う事で、教えてレイワえもん!
【仕方ないなぁ、D君は〜】
| 【氷点下で火おこし:薪ストーブ編】 〜 用意する物 〜 水、紙コップ、新聞紙、薪、 ※後半の3つは、缶パンの乾燥剤、ガムの包み紙、ラジオに入っていた単三電池
1.ストーブ内部を温める為、紙コップへ生石灰とアルミニウムを入れ水を注ぐ。 すると化学反応で高熱を発する。*1
2.ガムの包み紙の表面を擦って絶縁部分を剥がし、中央がくびれる様な形に細工する。 出来上がった物の両端を、それぞれ電池の+極と−極へ付ける。 すると、くびれ部分に電熱が溜まっていき紙が発火する。*2
3.これを新聞紙へと当て、燃え広げる。 ※今回は確率を上げる為に羽吹まことが残した起毛素材の手袋も追加で使用。 手袋へ発火した包み紙を当て、表面フラッシュ現象を起こす。*3 一気に燃え広がった手袋へ新聞紙を当て、火種をさらに確保。
4.火種を太い薪2本で挟み、上へ細い薪を数本並べる。 空気の通り道が上手くできていれば、無事に薪へと着火完了。
※最後に※ ※作者は実践した訳ではなく、あくまで創作上の空論です ※ ※諸々の危険を伴うので間違っても真似をしないで下さい!※ |
|---|
【とまあ、こんなカンジ】【水が完全に凍ってなくて良かった】
ふーん。頭が働かない今の状態じゃ、聞いてもよく判らないな〜。解説してくれたレイワえもんには悪いけど、もうどうでもいいや。
結局、薪ストーブは部屋全体が暖まるまで時間がかかるから、僕らはこうしてストーブの前に寄り添っているんだし。うん、よく考えれば一緒の毛布に包まるのも仕方の無い事だ! もう考えるのはや〜めた!
【酔ってる?】
【ショタが飲んでいいお酒は
それもダメだろ! 僕も飲酒してないし。僕らが飲んだのは、身体が温まる不思議なドリンクだ。あ、念のため言っておくけど叡智な物でもないからな。
僕は酔ってるんじゃくて、何故かハイテンションとなった彼女に合わせているだけだ。もうほっぺたスリスリでも、頭ナデナデでも甘んじて受けようじゃないか! えーと、ほらアレだ『私は一向に構わんッッ』って言うんだろ?
【いや構う】
【萬宮寿しいなのアレは、ペットを可愛がってる仕草と同じ】
ペ、ペット!? 彼女にとって、僕ってペットなのか? 言われてみれば確かに……いやいや! レイワさんの言うことだ。真に受けちゃダメだろう僕。アレは一方的に叡智な事を呟くだけのマシーンだぞ。
あれ? でも、思い返せばさっきからずっとレイワさんと会話が成立してるような……?
【君のような活きのいい牡蠣はフライだよ】
うん、成立してないなコレは。
いま会話する必要があるのは、しいなさんだ。ペット疑惑を解消しなければ!
えーと、話題は……しいなさんがガムを持ってた事でいいかな? 彼女は別れ際に、B子さんからガムを2枚渡されていた。1枚は何故か僕の分。B子さんがエチケット云々と言っていたけれど、しいなさんも僕もその意味が今一つ分かっていない。まあ、お陰で火熾こしのキーアイテムが手に入ったのだから感謝している。
そうそう。アレも、しいなさんが拾ってくれてたお陰で助かったよ。もう消し炭になってるけど、まことの手袋が無ければ危なかったかもしれない。
他には……ん? しいなさんがやけに静かだな。相槌も無くなったし、スリスリも止めたようだ。
「……あ、あの! さっきまでの
急に正気へ戻った彼女。それに合わせ、僕の昂った気持ちも少しだけ落ち着きを取り戻した。
頬を赤らめた彼女の顔を直視しないよう、目線を外したまま会話を続ける。さっきまでは僕が一人で喋っていたけれど、今度はしいなさんの主導で会話が進む。割とおしゃべりな彼女の話は、どれも面白い。
「私、学校でたまに女子の制服を着た貴方を目にしてましたの。けれど、あれはお姉様でしたのね。てっきり女装が趣味なのかと思ってましたわ!」
訂正。面白くない話もある。
しかし逆に考えれば、この人は女装癖持ちのクラスメイトを相手に、あれだけ親し気に話しかけていたという事になる。偏見の無さに驚くべきか。大らかな性格だと称賛するべきか。
そもそも、どうしてB子さんが教えてないんだ。姉さんを目撃した時に説明していれば、僕にあらぬ疑いも掛からなかっただろうに。彼女らは、殆ど一緒に行動しているのだから。
そう考えると、僕が彼女と二人きりという現在の状況が異常すぎる。今回B子さんは自ら別行動をしたけれど、しいなさんの不在に気付いたA子ならば吹雪を無視してでもここまでやって来そうなものだ。あくまでイメージだけど。この極寒の中で本当にやって来たら、もはや人間を超越した何かだ。
「あら? 今、扉をノックするような音がしませんでした?」
噂をすれば影がさすとは言うけれど、まさかな。【おや、誰か来たようだ】
やめてくれ。それもフラグだったろ確か。
けれど本当にA子がいるのなら、猛吹雪が吹き荒れる外に放置したままでは危険だ。
意を決して扉を開ければ、そこにいたのは──
雪山で遭遇したくない動物ナンバーワン……いや、
目の前にいる動物は、身の丈3メートルを越えるホッキョクグマ。
さらに言うのなら、後ろ足だけで綺麗に直立しているこのクマは、野生動物でも、動物園から逃げ出した個体でもなく、もはや恒例となった存在──怪人だ。
「な、なぜここに……!? どういう事ですの!?」
どうやら、しいなさんにとっても不測の事態な様だ。
僕もどこかで、今日は怪人が現れる日じゃないと思い込んでいた。悪の組織による過去4回の襲撃。それは全て金曜日だったのだから。今日は木曜日。その上しいなさん達と一緒に行動するのだから、逆に言えば最も安全な状況だと思い込んでいた。
推測になるけど、おそらくイレギュラーが起きたんだ。一応、根拠はある。今までの怪人はA子かB子さんがベースになっているから、すべて【メスケモ】だった。しかし、今回のクマ怪人は見るからに【オスケモ】なのだ。
そうだ! たった今、メスケモとかオスケモなどと僕の思考を邪魔したレイワさん。こんな時こそ原作知識という叡智を授けてくれ!
【ムリ、この展開知らない】【たぶん欠番回】
なんで肝心な時に限ってポンコツなんだよ! 劇場版のドラえもんか!
【つまり、最高の友達ってコト!?】
ポジティブだなぁ。僕も悪かったよ。ポンコツなんて言ってごめん、ドラえもん。
しかし、このピンチをどう乗り切ればいいのだろう。リングリットはいつも遅れてやってくるヒーローなので、今ひとつ当てにならない。
しいなさんは動揺してるのか、僕の後ろで震えているし。
山小屋の扉は、壁ごと破壊され屋内にクマ怪人が侵入しているし……これはもう詰んでいるのでは?
【待って、欠番回って事は】
【ものすごく叡智な特殊能力を持ってるってコト!?】
黙っててくれ! ああもう。金属製のバングルが冷えすぎて、装着できないのがもどかしいな!
けれど特殊能力か。相手は怪人だから、当然なにかしらの超常現象を引き起こすんだ。叡智かどうかはともかく、警戒しないと。もし猛吹雪を起こしたのがクマ怪人なのだとすれば、能力は雪や氷のようなイメージだ【氷雪系最強はショタ】ああ、そうですか。
『オイ! クマのツメにやられると、オレらみたいにアイスになっちまうぞ!』
ん? どこかから、Eの声が聞こえる。
あれか! クマが左腕に下げてる買い物カゴ。異様な光景すぎて、敢えて意識から外していたけれど。このクマ怪人、なぜかスーパーやコンビニで使うような買い物カゴを持っているんだ。
カゴの中には、幾つかの冷菓が入っている。その内の一つが、坊主頭のキャラクターでお馴染みのソーダ味アイス。ただし、描かれているキャラクターが変更されている。坊主ではなく、脱色した金髪のツンツン頭。デフォルメされているものの、その顔も見覚えがあるギザ歯男子だ。
つまり、Eがガ◯ガ◯君ソーダ味になったってコト!? なんであの状態で喋れるんだ。
「ガルルル!」
「きゃっ!?」
わっ!? 急にクマが攻撃してきた。右腕による薙ぎ払いは大振りだった為、どうにかしいなさんを抱えて避けられたものの、山小屋のさらに奥まで追い込まれてしまった。
とにかく、あのツメに当たったらアウトだ。さっきEは、
カゴに入ったアイスは、Eの他に3つ。メロンを模した容器のアイス、赤い箱に台形型チョコが幾つか入ったアイス、真ん中でポキッと折れるチューブ容器に入ったアイス。
各人の服装や髪の色から判断すると、上からB子さん、姉さん。そして、チューブアイスはA子と妹のセットなのだろう。複数本入ったアイスの下部分は同色のピンクウェアを着ていた二人のカラー。そして、上部分だけが二人の髪色である銀色と茶色のもので半数に別れている。
アイスの中にワッカが居ないのは当然として、どうやらまことも難を逃れたようだ。二人が無事なのは喜ばしいけど、他のメンバーは散々な状況だ。
パッケージに人間のキャラクターが載ってるE以外は喋れないらしい。時折、揺れたり膨らんだりはしているので意識はある筈だけど、それが逆に恐ろしい。アイスという『食品』に変えられている事も恐怖だろう。誰かに食べられでもしたら、存在自体が無くなってしまうのだから。早く元の姿に戻してあげないと、妹のトラウマになるかもしれない!
その為にも、このクマを──そういえば最初の一回きりで、あれから攻撃してこないな?
「ガウッ?」
床に落ちていた僕のバングルに興味を持ったのか? このクマ、怪人の筈だけど人間の言葉を話さないし、なんだか行動まで動物みたいだな。
板状になったバングルの匂いを嗅いだり、爪でつついたりしている。あ、突いた時の衝撃で爪の一つにバングルが巻き付いてしまった。急に動いた金属に慌てふためくクマの姿は、とても人間の思考力があるとは思えない。
うーん、しいなさんに理由を聞く訳にもいかないな……さっきからずっと怯えていて、僕の背中にしがみついている。この状況でクマの攻撃を避けるのは、もう不可能だ。クマの興味が僕らから逸れてる内に、どうにか打開策を見つけないと。
考えてみれば、悪の女幹部である彼女がこうも怯えるというのは、一体どういう状況なのだろう。怪人の暴走? いや、彼女は最初「なぜ、ここに」と言っていたな。だとすれば、怪人の脱走? 制御できない等の理由で、元々は閉じ込められていた存在。そう考えれば、クマに人間としての理性がない事にも合点が──そうか、理性!!
【D君、私にいい考えがある】
ああ、僕も同意見だよレイワさん。理性を失ってる状態だとすれば、
あとは、どうにかしてバングルの表面を一周なぞる事ができれば……
【Aパートで張られた伏線回収】【大丈夫、ショタならできる】
Aパートって、いつだよ! と言いたい所だけど、解ってる。A子のアレの事だろう? ショタならできるという話も、妹並みに体躯が小さい僕ならばクマの大振りな攻撃をすり抜け易いって意味だろうなっ! いいさ、やってやる! だから少し離れててくれ、しいなさん。
「どうしますの!? あの怪人は暴走してますのよ!? このままでは、貴方まで──」
壁に穴が開いたとは言え、熊の巨体が吹雪を遮っているおかげで床板に雪は積もってない。足捌き、上体の捌き、問題なくイメージできる。あとは大振りの攻撃に合わせて、カウンターを打ち込めばいい────今だっ!
「グッ、ぐわぁぁっ!!? あ、頭がっ!」
せ、成功した。A子や妹が使っていた『くすぐり奥義』を模倣し、無事に指の腹でバングルを一周する事ができた。
煩悩封じの文字が浮き出て苦しみ出したクマ怪人。言葉も話しているのだし、人間としての意識が戻ったのだろう。
博士が作ったあのバングルは、脳が持つ『本能』の一つである性欲、言い換えれば獣欲を封じる為のアイテム。獣の意識をバングルで封じたのだから、表に出てくるのは怪人の元となったヒトの意識。あとは、クマ怪人が話の通じる相手だといいのだけど……
「し、しい……な?」
「えっ? まさか、意識が戻りましたの!?」
どうやら大丈夫そうだな。でも動揺してるからといって、怪人に名前を呼ばれてその反応はマズいのでは? 僕はともかく、アイスになった他の人たちは……いや、改めて考えるとあの状態で聴覚があるのかは微妙な所だな。今までもなんだかんだでバレていないのだから、しいなさんは悪運が強いと言えるだろう。
彼女のうっかりは今に始まった事じゃないんだ。普段は生真面目な性格なのに、時折ポンコツな所がある。そういった面も、魅力の一つと感じてしまう。僕はどうやら、今回の一件でだいぶ絆されてしまったようだ。
【つまり、すこすこのすこってコト!?】
あ、そうだった。バングルはどうしよう? あれが無いと大変困る。だけどクマ怪人から回収してしまえば、元の木阿弥だからなあ──
「そこまでだ、オメイラガ‼︎ よくも、皆をアイスにしてくれたなっ。ゆ゛る゛さ゛ん゛‼︎」
ワッカ。いや、リングリットが漸く現れた。今回の「許さん」は気合い入ってるな。これでこそヒーローだ!
有無を言わさず、クマ怪人と闘い出すヒーロー。相変わらず格闘戦は弱いものの、特殊攻撃を完全無効化するのがリングリット。スーツの防御力も高いのだから、彼が倒される事はないだろう。
たった今、お馴染みの必殺技『クロスリット・ハイロゥ』を放ったのだから、あとは博士の出番だ。クマ怪人の四肢も、以前のゾウ怪人と同様に太いのだが、今回は鋭い爪が仇となった。爪に複数のリングが嵌められ、クマ怪人は宙へと浮かびあがる。お馴染みの必勝パターンだ。
もう怪人は何もできない。あとは、例の自爆で撤退するのだろうか?
「そこまでですわ、リングリット‼︎ よくも、クマゴローΣを痛め付けてくれましたわね‼︎」
「出たな、ミーア・クシロン!!」
んん!? なんだこの超展開は。さっきのヒーロー登場場面の焼き直しで悪の女幹部まで現れたけど、アレは……その。なんと言うか、偽物? そもそも、しいなさんは僕の後ろに居るのだし。
「な、なぜですの!? 私はここにおりますのに……!」
このように、うっかり正体がバレかねない発言をしている。けれどこんな反応をすると言う事は、ワッカや彼女にはあれがミーア・クシロンに見えているのだろう。認識阻害効果ってやつだ。どういう訳か僕にはその効果が薄いのだけど。
確かに格好は同じだ。以前ミーアが着ていた『マイクロビキニ』バージョンのコスチュームに、
実年齢59歳の彼女は、一見すると30代後半程度にも見える相当な若作り。スタイル自体も、しいなさんとの血筋を思わせるプロポーションなのだが……だとしてもだ。あの? レイワさん。こういうのって、令和だとなんて表現すれば
【きっつー】
ああ、うん。じゃあソレで。
僕もこれ以上は詳細に語りたくないから、以降はニセ・ミーアとだけ呼称しよう。
ニセ・ミーアは驚いた事に、クロスリット・ハイロゥを完全に見切っている。僕の目では追いきれないので正確な数は不明だが、既にリングは20個以上高速で宙を飛び交っている。にもかかわらず薙刀を巧みに使い、リングを撃ち落としたり斬り刻んだりと大立ち回りを繰り広げている。
相変わらず、とんでもないバ……御婦人だ。僕も昔、少しだけ手解きを受けた事があるけど、萬宮寿流の師範は年老いて尚健在のようだ。
「ひえー。いつもより怖ェー!?」
「その程度ですのリングリット? ヒーローが聞いて呆れますわね」
「こうなったら新必殺技だ! いけ! グリットライム・ドーナッツ!!」
再び、リングを飛ばすヒーロー。しかし、今度のリングは動きが遅い上に色まで違っている。通常時は天使の輪を思わせる黄色く光るリングなのに対し、新必殺技のリングは乳白色だ。
動きの遅いそれは、案の定ニセ・ミーアによって斬られてしまう。しかし、これこそが狙いだったのだろう。斬られたリングはトリモチのような粘着性をもった白い物体へと変化し、薙刀の刃を包み込んでしまった。
さらに驚くことに、その物体は高速でズルズルと動き回り、薙刀の柄を伝ってニセ・ミーアの腕へと這い上がる。そのまま全身へと伸びていき、どんどんと身体を包み込むように膨張していく。色も相まって、その姿は餅を焼いているようだ。
ニセ・ミーアの頭以外が全て餅に覆われ、餅はさらに膨らみ完全な球体となる。今度はまるで、雪だるまの胴体に人間が刺さったかのようだ。あっという間に拘束されたニセ・ミーアは、とても悔しがっている。
改めて思うのだが、ヒーローの必殺技じゃないだろうコレ。
「きぃー! まったく動けませんわ! え、ちょっと待って下さいまし!? 転がって……! ひぃっ!? 誰か止めて下さいましぃぃぃぃ」
ニセ・ミーアが、ゴロゴロと音を立てながら斜面を下っていく……。
山小屋の壁が壊され、吹雪が入り込んでいるこの状況だ。球体状の物が転がらない訳がない。唯一の救いは、頭の部分が横向きになっている事か。
斜面を転がる内に、巨大な雪玉となっているのか次第に音が重くなっていく。外を視認できないので、あくまで想像だけれども。
そして、轟音が鳴り響く。おそらく最下層の壁にぶつかったんだろう。
あまりの出来事に、リングリットまで唖然としている。君が作った雪だるまが原因だろうに。
自分の偽物が斜め上の方法で倒されてしまったせいなのか、しいなさんはさらに混乱している。
クマゴローΣと呼ばれた怪人に至っては、表情が読み辛いので良く判らない。それよりも、僕は怪人の名前が引っかかる。αでもβでもなく、Σ。シグマと言えば──
「物凄い風ですわ!? こちらへ! 今度は、私が貴方をお守りいたしますわ!」
山小屋の壁へ押し込まれる僕。しいなさんに【壁ドン&股ドン】されている状況だ。なにコレ?
吹雪とは比較にならないレベルで風が吹き荒れている原因は判る。ニセ・ミーアの衝突で施設の壁に穴が開き、屋内外の寒暖差によって急速に空気の入れ替わりが起こっているんだ。
激しい風のせいで、山小屋まで軋み始める。アイスにされた皆はリングリットが守ってくれているけど、しいなさんと僕は吹き飛ばされる寸前だ!
彼女によってガッチリと抑え込まれている僕だけど、そろそろ小屋自体が保たない。このまま倒壊したら、大変な事になる!
「儂を正気に戻してくれて感謝するゾイ少年。孫娘が気に入るだけあるゾイ」
クマ怪人はそう言うと、身体が光りだし自爆してしまった。
そして閃光が収まると同時に、風も緩やかなものへと変わる。
視界も開けたため、下層方面を確認してみれば壁に巨大な穴が開いていた。これは、ニセ・ミーア雪だるまの衝突による物だ。その反対方向。上層に開いた巨大な穴こそが、クマゴローΣが撤退時にあけた物だ。2箇所の穴によって、空気の通り道が作られ風が弱まったのだろう。
アイスにされていた面々も人間へと戻り、僕のバングルも床に落ちていたので回収できた。
これにて事件は一件落着。
その後、しいなさんに抱き留められていた僕は、A子から激しく抗議されたり。A子から奥義泥棒だと罵られたり。A子から決闘を挑まれたりと散々だったが、まあいつもの事だ。
翌日
テレビから流れるニュースでは、萬宮寿グループが手掛けていた建設中のレジャー施設が大損壊したという話題でもちきりだった。
しかし、その最中に緊急速報が入る。
グループ総裁、萬宮寿
現役を退いたと噂されていた総裁が、レジャー施設関連で開かれた記者会見の場へと現われたのだった。
この物語はフィクションですが、
登場する物質、化学反応などは実在するものに極力基づけています。
個人の判断による実験は大変危険であり、
また法律に触れる恐れがありますので、決して安易にマネをしないでください。
光速真芯リングリットX
「氷河期到来 ゲレンデに迫る恐怖!」の巻