陰陽師安倍晴明の優雅なオフ~五人の愛弟子奮闘記~   作:阿弥陀乃トンマージ

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第3話(4)土克水

「焔! 頭を叩かれたのかい⁉」

 

「い、いや、肩だけど、強烈なのを食らっちゃったね……」

 

 焔が左肩を抑える。

 

「……」

 

 大ダコが足を振りかざす。焔はまだ動くことが出来ない。

 

「くっ……」

 

「あ、危ない! 『土砕き』!」

 

「!」

 

 基が右手を振って、印を結ぶと、足元の地面が砕け、いくつかの大きな土塊が飛び、大ダコに当たる。大ダコは足を引っ込める。

 

「焔!」

 

 基が焔と大ダコの間に割って入る。

 

「も、基ちゃん、ごめん……」

 

「動けるかい⁉」

 

「な、なんとか……」

 

「それならば下がっていてくれ、後はぼくに任せてもらおう!」

 

「う、うん……」

 

 基の指示に従い、焔は後方にゆっくりと下がる。

 

「ふむ、下がったね……さて」

 

 基が大ダコをあらためて見つめる。

 

「………」

 

「ただのタコの物の怪だと捉えると危険だね……」

 

「……!」

 

 大ダコが足を器用に動かして基を襲う。

 

「おっと!」

 

「………!」

 

「よっと!」

 

「…………!」

 

「なんと!」

 

「…………」

 

 大ダコが繰り出してくる足での攻撃を基はことごとくかわしてみせる。大ダコは足を再び引っ込める。基は笑みを浮かべる。

 

「ふふっ、攻撃はそれで終わりかな?」

 

「……………」

 

「……とは言っても、こちらもかわしてばかりではあまり意味がないのだけどね……」

 

 基は自嘲気味に呟く。

 

「………………」

 

「むっ……?」

 

 大ダコが足をにょろにょろと動かす。

 

「…………………」

 

「また足を使っての攻撃かい? それは何度もかわしただろう?」

 

 基がわざとらしく両手を広げる。

 

「……………………」

 

「意思の疎通が出来るような相手ではないか……」

 

「……‼」

 

「うおっ⁉」

 

 大ダコが足を川につけて、川の水を鋭く弾く。石礫のようになった水滴が基を襲う。かわしきれなかった基が片膝をつく。

 

「基ちゃん!」

 

 焔が声を上げる。基が唇を噛む。

 

「くっ、言っているそばから油断してしまった。ぼくの悪癖だ……」

 

「……自覚していたんだね」

 

「ああ……って、焔、気が付いていたのかい⁉」

 

 基が驚いて焔の方に振り向く。

 

「うん」

 

 焔が頷く。

 

「う、うんって……」

 

「他の皆も気が付いていたよ。基ちゃんはどうも恰好つけたがりのきらいがあるって……」

 

「あ、ああ、大方、栞と金が言っていそうなことだね……」

 

「主に言っていたのは泉ちゃんだよ」

 

「! い、泉が……? そ、それはちょっと驚きだな……」

 

 基がやや動揺する。

 

「言うべきときは言う娘だから……」

 

「そ、それならばはっきりと指摘して欲しかったな……」

 

「基ちゃんの顔を潰さないように極力配慮していたんじゃないかな」

 

「痛い……!」

 

「え?」

 

「そ、その心遣いが痛い……!」

 

 基が自らの胸をぐっと抑える。

 

「だ、大丈夫?」

 

「あ、ああ、大丈夫だよ……」

 

 基が体勢を立て直す。

 

「………………………」

 

 大ダコが基との距離をゆっくりと近づけてくる。基が自らの顎をさすりながら呟く。

 

「動きはそこまで早くはないけれど……ただ、あのにょろにょろ動く八本の足がやはり厄介だ……あれをどうにかしないと……」

 

「お困りのようだね……」

 

「ん⁉」

 

 基が驚く。自らの側に、手のひらほどの大きさの人の形をした紙がひらひらと舞って、それから晴明の声がしたのだ。基が呟く。

 

「晴明くんの式神……見ているのかい?」

 

「ああ、その人形の紙を通してね……」

 

「随分とヒマそうじゃないか」

 

「風雅な休日を過ごしていると言ってくれないか」

 

「それはどうでもいいけれども……なんだい、冷やかしかい?」

 

「その大ダコの対処法を教えてあげようかなと思ってさ」

 

「わ、分かるのかい? 早く教えてくれ!」

 

 基が式神を掴む。晴明の苦しそうな声が聞こえてくる。

 

「! ちょ、ちょっと、苦しいって……!」

 

「ああ、首元の辺りを抑えたのだけど、やっぱり苦しいのかい……」

 

 基が式神を離す。晴明が呟く。

 

「わ、分かっていてやったのかい……君もなかなか質が悪いな……おほん、あのタコは水の属性……ということは基、土の術を扱える君なら克つことが出来る……! 『土克水』だ!」

 

「そうか、水属性か、それならば確かにやりようはあるか……」

 

「………‼」

 

 大ダコが複数本の足を同時に繰り出してくる。

 

「……『土穴』!」

 

「……⁉」

 

 基が印を結ぶと、地面に大きな穴が開く。大ダコは本能的にその穴に複数本の足を突っ込んでしまう。大ダコは身動きが取れなくなる。基が笑みを浮かべる。

 

「とどめだよ……『土槍』!」

 

「⁉」

 

 基が印を結ぶと、土で出来た槍が生じ、それを手に取った基が大ダコの頭部に突き刺す。水分を吸収された大ダコはしぼんで霧消する。

 

「いいぞ、基。土は水を吸い取る。水を濁すともいう。いつも飄々とした態度で場を濁す君らしい。あ、これは褒めているんだよ?」

 

「濁してしまおうかな……」

 

 基が紙の式神を睨みながら小声で呟く。

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