陰陽師安倍晴明の優雅なオフ~五人の愛弟子奮闘記~   作:阿弥陀乃トンマージ

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第1話(1)週休五日制

                 壱

 

「い、いや、後は任せるって言われてもよお……」

 

 晴明が部屋から退出した後、横一列だった五人は円座になって座っている。栞が自らの頭を撫でながらぼやく。栞から見て、右斜め前に座っている金が胸を張る。

 

「晴明殿からの信頼を勝ち得たことを嬉しく思うべきです」

 

「……果たしてそうかな?」

 

「な、なにがですか?」

 

 金が自らの右隣に座る基に視線を向ける。基が話を続ける。

 

「体よく押し付けられたような……」

 

「せ、晴明殿に限ってそのようなことはありません!」

 

 金が声を上げる。基の右隣、栞の左隣に座る焔が口を開く。

 

「いやあ、案外そんなもんだと思うよ~金ちゃん?」

 

「焔さんまで! 何を根拠にそう思われるのですか?」

 

「う~ん……勘?」

 

「勘って!」

 

「それは半分冗談だけどさ……」

 

「じょ、冗談を言っている場合ではありません!」

 

「これまでの積み重ねっていうもんがあるからね~」

 

「積み重ね……」

 

 金が思いを巡らせる。

 

「恐らく、十中八九は焔の言う通りだろうね。要は面倒になったんだ」

 

「……だろうな」

 

 焔の言葉に、基と栞が同調する。金が反論しようとする。

 

「そ、そんなことは……!」

 

「ちょ、ちょっとお待ちください……! こちらを……」

 

 金の左隣に座る泉が紙を持ち出す。金が尋ねる。

 

「泉さん、それは?」

 

「退出の際に渡されました。今回の詳細については面倒だから、これに記してあると……」

 

「口頭でさっさと伝えちまった方が、面倒が少ないと思うんだけどな……」

 

 泉の説明に栞が苦笑する。焔が尋ねる。

 

「それで~? なんて書いてあるの~?」

 

「は、はい、えっと……『疲れた』と……」

 

「さ、三文字⁉ たったの⁉」

 

 金が愕然とする。

 

「……それはこちらが言いたいくらいなのだけれどね……」

 

 基が顎に手を当てて、呆れ気味に呟く。

 

「さすがに説明不足が過ぎるぜ」

 

「まあ、いつものことといえばそれまでだしね~」

 

 栞の言葉に焔が笑う。栞が頭を軽く抑える。

 

「そうは言ってもだな……」

 

「とりあえずは情報の整理に努めるべきです」

 

「与えられた情報が余りにも少な過ぎるよ……」

 

 泉の発言に基が肩をすくめる。

 

「ごぼう大臣がなんとかとか言ってやがったか?」

 

「弘法大師です」

 

 栞の適当な発言を、落ち着きを取り戻した金が訂正する。

 

「それだ、七輪がどうとか言っていたよな?」

 

「七曜です。煮炊きをしてどうするのですか」

 

「それだ……なんだっけ?」

 

 栞が首を傾げる。基が口を開く。

 

「七曜……古より、唐土などで用いられている天文についての考え方……木星、火星、土星、金星、水星に、日と月を加えてひとまとめにしたものだよ」

 

「なるほど……それで?」

 

 栞が腕を組んでさらに首を傾げる。基が続ける。

 

「晴明くんはこう言った……『七日の内、二日だけ働いて後は休ませてもらうよ』と……」

 

「うん? つまり……」

 

「どうやら七日間を『週』という単位でくくるという考え方もあるらしい……二日だけ働いて、五日間は休む……さしずめ『週休五日制』と言ったところだな」

 

「や、休み過ぎじゃねえか⁉」

 

 栞が基に向かって声を上げる。

 

「ぼくに言われても困るな……」

 

「連日連夜の物の怪退治でお疲れになったのでしょう……」

 

「昼間も陰陽寮での公務がおありですしね。それも若干サボりがちではありますが……」

 

 泉と金がうんうんと頷く。

 

「それにしても羨ましいよね~アタシもそれくらい休みたいよ~」

 

「オレもだぜ……」

 

 焔の言葉に栞が同調する。

 

「そういうわけにもいかないだろう。ぼくらと晴明くんは弟子と師匠の間柄……それぞれ恩義もある。意向には従わないというわけにはいかない……良い服を着せてもらって――殿方が着る狩衣だが――立派な屋敷に住まわせてもらい、豪華な食事を頂いているからね」

 

「ふむ……」

 

 基の話に金が頷く。

 

「というわけで、今後の方針を決めておかなければならない」

 

「今後の方針ねえ……」

 

「何を決めれば良いのか……」

 

 栞と焔が揃って腕を組み、首を捻る。

 

「やはりお困りのようですね……」

 

「説明不足の補足に参りました……」

 

「うわっ⁉ び、びっくりした……」

 

 栞と焔の後方におかっぱ頭の双子が立っている。それぞれ頭髪の半分が白髪である。

 

「も~う、音もなく現れないでよ~朧ちゃん」

 

 焔が頭髪の右半分が白髪の子どもに声をかける。子どもが首を左右に振る。

 

「われは(あさひ)です。(おぼろ)はこちら……」

 

 旭と名乗った子どもは、頭髪の左半分が白髪の子どもの方をを指差す。

 

「あ、そっか~ごめん、ごめん」

 

 焔が謝る。朧が口を開く。

 

「あらためて、説明をいたします……晴明さまが申すには、『君たち五人には教えることはもうほとんど何もない』と……」

 

「いや~それほどでも~」

 

「ありますわね……」

 

「ちょっと照れちまうぜ……」

 

「ああ」

 

「ええ⁉ 誰一人として否定しない⁉」

 

 焔と金と栞と基の反応に泉が驚く。朧が話を続ける。

 

「……続けます。『例えばこの五日間の間に物の怪の類が現れたとしても、五人全員で揃って出動する必要はない。つーまんせるで動くように』と」

 

「つーまんせるってなに?」

 

「二人一組で行動しろということだそうです」

 

 焔の問いかけに旭が答える。基が頷く。

 

「なるほど、二人組か……単独は危険……三人以上だと小回りがやや利かない……まあ、それくらいが適当なのだろうね……それでは組み合わせを決めるとしようか」

 

 基が四人に声をかける。話し合いは意外と長引いたが、夕暮れには決まった。旭が頷く。

 

「……お決まりのようですね」

 

「それでは、早速そちらのお二人から出動して頂きます。物の怪らしきものが現れたという報告がありました」

 

「!」

 

 朧の言葉を受け、五人の顔に緊張が走る。

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