陰陽師安倍晴明の優雅なオフ~五人の愛弟子奮闘記~   作:阿弥陀乃トンマージ

27 / 30
第7話(2)金生水

「野槌か~それほど大きいのは見かけたことが無いな~」

 

 人々がすっかり寝静まった夜の通りを歩きながら、両手を頭の後ろに組んで、焔が呟く。

 

「あら、そうでしたかしら?」

 

 金が振り返って焔に問う。

 

「うん、大きめの蛇くらいの奴なら何度か遭遇したことがあるけれど」

 

「そう言われるとそうかもしれませんわね」

 

「妖も日々成長しているのかな?」

 

 焔が笑みを浮かべながら首を傾げる。

 

「焔さん……その場合、決して笑いごとではありませんわ……」

 

 金が表情を険しくさせる。

 

「そうかな?」

 

「そうですわ」

 

「獲物は大きいに越したことはないでしょ?」

 

「獲物って……まさか獲って食べるおつもりですか?」

 

「場合によっては」

 

「場合によってはって……」

 

 焔の即答に金は言葉を失う。その様子を見て、焔は悪戯っぽく笑う。

 

「シシシッ……嫌だなあ金ちゃん、冗談だってば」

 

「貴女の場合、冗談ではなさそうなのですわ……」

 

「え?」

 

 金が焔をじっと見つめて、口を開く。

 

「その内、本当にお食べになってしまいそうですもの……」

 

「そんな、栞ちゃんじゃあるまいし」

 

「ああ、あの方もお食べになりそうですわね……ご飯のおかずだとかおっしゃって……」

 

「いいや、主食にすると思うね」

 

 焔が想像して笑みを浮かべる。

 

「やりかねませんわね、貴女も」

 

「……金ちゃんさあ」

 

「はい」

 

「……アタシのこと、馬鹿だと思っていない?」

 

「……阿保だと思っていますわ」

 

「酷っ! 栞ちゃんと同じ扱い⁉」

 

「同じではありません、きちんと別物として扱っています」

 

「物扱いじゃないのさ……」

 

 金の答えに焔は頬をぷくっと膨らませる。

 

「ふふふ……」

 

「……」

 

 微笑む金を、隣を歩く泉が無言で見つめている。金がそれに気付く。

 

「なにかしら、泉さん?」

 

「あ、い、いいえ、なんでもありません……」

 

 泉はサッと目を逸らす。金が問いを重ねる。

 

「いや、なんでもなくはないでしょう」

 

「本当になんでもありません……」

 

「嘘おっしゃい」

 

「いいえ……」

 

「なにか思ったことがあったのでしょう?」

 

「そ、それは……」

 

「図星ですわね」

 

「む……」

 

「さあ、存念をおっしゃってごらんなさいな」

 

 金が両手を大きく広げる。

 

「………」

 

「どうぞ、遠慮なさらずに」

 

「……野槌は結局、金さまが退治なさったのですよね?」

 

「ええ、このわたくしが」

 

 金が自分の胸に右手を添える。

 

「えっと……ぎ、ぎんこうせきで?」

 

「ちんこうせき」

 

「は、はい?」

 

「珍鉱石、珍しい鉱石ですわ」

 

「あ、ああ……」

 

 泉が色白の顔を少し赤らめる。

 

「その珍鉱石を以て……野槌をガン!と殴りつけたのですわ」

 

 金が身振り手振りで再現する。

 

「へ、へえ……」

 

「それがなにか?」

 

「い、いえ……」

 

「なんですの?」

 

「退治のやり方とか、珍鉱石だとか、金ちゃんも馬鹿阿保と並ぶ間抜けだって、泉ちゃんは思ったんじゃない?」

 

「はあっ⁉」

 

 金が焔の方に目線をやる。泉が慌てる。

 

「ほ、焔さま、本当のことをおっしゃらないで下さい!」

 

「本当なんですの⁉」

 

 金が泉に視線を移す。泉が口元を抑える。

 

「えっと……こ、金さま、これは……」

 

「ふっ、他ならぬ貴女の評価ですもの、甘んじて受け入れますわ……」

 

 金が苦笑交じりでうんうんと頷く。

 

「そ、そんな……はっ⁉」

 

 小柄な体格をした者が、口から火を吐き出しながら、泉たちに襲いかかる。泉たちはすんでのところでそれをかわす。焔が顎をさすりながら呟く。

 

「火男か……」

 

「…………」

 

 火男が体勢を直して、金たちにゆっくりと近づいてくる。金が声を上げる。

 

「……来ますわ!」

 

「!」

 

 火男が再び火を吐き出す。泉が金と焔の前に出て、両手で印を結ぶ。

 

「『水流』!」

 

「……!」

 

 泉が水を発するが、火男は吐き出す火の勢いを強め、その水を押し返す。

 

「なっ⁉ 『水克火』では⁉」

 

 泉が動揺する。焔が両手で印を結び、叫ぶ。

 

「『狐火』!」

 

「‼ ……」

 

 焔が大きな火を発生させ、火男を火で包み込むが、効果はない。焔は舌打ちする。

 

「ちっ、火の大きさで凌駕すればと思ったけど、そんなに甘くはないか!」

 

「『金玉』!」

 

 金が両手で印を結び、大きな玉を発生させて、火男にぶつける。泉が困惑する。

 

「え、ええっ⁉」

 

「泉さん、そのぎょくに向かって、水の術を!」

 

「あ、ああ、ぎょく……そ、そうですよね! 『水塊』!」

 

「⁉」

 

 泉が大きな水の塊を発生させ、火男を包むと、火男は消失する。

 

「『金生水』……金属の表面には凝結によって水が生じますわ……その凝結の力で以って火を消失させる……まったくお見事な手際ですわ、泉さん」

 

「い、いえ……」

 

「間抜けっていうのもあながち間違ってないかも……」

 

 焔が髪をかき上げる金を見つめて小声で呟く。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。