陰陽師安倍晴明の優雅なオフ~五人の愛弟子奮闘記~ 作:阿弥陀乃トンマージ
♢
「ん?」
焔が振り返ると、そこには栞が立っていた。
「なにやってんだ?」
「縁側に座って月を見上げてんの」
「柄にもねえことをしていやがる」
焔の答えに栞は苦笑する。
「酷いな、アタシだって偶にはそういう気分になるよ」
焔が頬をぷうっと膨らませる。
「そういう気分ね……」
「そう、“かんしょうてき”って言うの?」
「それをオレに聞いても分からねえよ」
「だろうね」
「おい」
「ははは」
ムッとする栞を見て、焔が笑う。
「……隣、良いか?」
「ん~良いよ」
「よっと……」
栞が焔の隣に腰を掛ける。
「眠れないの?」
「ああ」
焔の問いに栞が頷く。
「珍しいね~」
「そうか?」
「いつも大いびきをかいて眠っているじゃない」
「え? そ、そうなのか?」
「うんにゃ、アタシも眠っているから知らないけど」
焔が首を傾げる。
「なんだよ」
「あはは」
「珍しいのはお前もだろうが」
「え?」
「え?じゃねえよ、眠れねえんだろう?」
「う~ん……まあね……」
焔が自らの後頭部をポリポリと掻く。
「当ててやろうか?」
「ん?」
「眠れない原因を」
「……良いよ、当ててみて」
「……ズバリ、不安だ」
栞が右手の人差し指をピンと立てる。
「ほう……」
「お前はあのデーモンとやらに……ビビっている」
「ふむ……」
「違うか?」
「まあ……当たっているかもね」
「かもね?」
「栞ちゃんはどうなのさ?」
「んなもん、ビビっているに決まっているだろ」
栞が胸を張る。焔が目を丸くする。
「おおっ……」
「なんだよ、おおっ……って」
「いや、ビビっているわきゃねえだろ!とか言うのかなと思ったから……」
「……オレのこと、どういうやつだと思っているんだ?」
栞が目を細めて焔を見つめる。
「怖いもの知らず」
「……つまり、馬鹿ってことだな?」
「そうとも言うね」
「おい!」
焔が両手を軽く振る。
「いやいや、良い意味でさ」
「良い意味でってなんだよ」
「言葉をそのままの意味で捉えないでってことだよ」
「捉えないでって……馬鹿は馬鹿だろうが」
「そうかもしれないけど……ただ……」
「ただ?」
「……言葉の意味合いというのは日々変化していくものだからさ……生き物と同じだよ」
「むう……」
「お分かり?」
栞が怪訝な顔つきになる。
「お前……熱でもあるんじゃねえのか?」
「酷っ⁉」
焔が声を上げる。
「だって、柄にもねえことを言いやがるから……」
「それはお互いさまでしょ」
栞が苦笑を浮かべる。
「はっ、そうかもな……」
「……ありがとう」
焔が頭をペコりと下げる。
「あん?」
栞が首を捻る。
「ちょっと元気が出たよ」
「へっ、そりゃあ良かった」
「……やっぱり栞ちゃんは頼りになるね」
「やっぱり?」
焔が視線を遠くに向ける。
「あの時もそうだった……」
「あの時?」
「アタシの育った村が賊に襲われた時……」
「ああ、神社の巫女さんだったか」
「まだ術とか上手く使いこなせなくて、どうすれば良いか分からずに震えていたアタシに迫る賊を追い払ってくれた……」
「まあ、刀槍の扱いは嫌ってほどに叩き込まれていたからな……」
「あの時から……栞ちゃんはアタシの憧れだよ」
焔が栞をジッと見つめる。
「へへっ、な、なんだか照れるな……」
栞が自らの鼻の頭を人差し指でゴシゴシと擦る。
「……ある意味ではね」
「ある意味ってなんだよ⁉」
「あははは!」
焔が大声で笑う。
「ちっ……まあ、元気が出たならなによりだよ……」
栞が肩をすくめながら、月を見上げる。
「……月が綺麗だね」
「ん? そうだな……待て、それはどういう意味だ?」
「ふふっ……」
焔は穏やかに微笑む。