陰陽師安倍晴明の優雅なオフ~五人の愛弟子奮闘記~   作:阿弥陀乃トンマージ

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第8話(4)端麗

                  ♢

 

「……」

 

 基が広い部屋に一人で座っている。

 

「基ちゃん」

 

 焔が声をかける。

 

「焔か……」

 

「どうしたのさ?」

 

 焔が部屋に入ってくる。

 

「いや別に……」

 

「ん?」

 

 基は首を静かに振る。

 

「なんでもないさ」

 

「嘘だ」

 

「え?」

 

「なんでもないってことはないっしょ」

 

 焔が笑いながら基の目の前に座る。

 

「………」

 

「…………」

 

「……………」

 

「………………」

 

 ふたりは黙って見つめ合う。しばらくして、基が笑みをこぼす。

 

「……ふっ、まったく、焔には敵わないな」

 

「ふふっ、アタシには隠し事は出来ないよ~」

 

「隠し事をしているわけではないのだけどね……」

 

「でもさ」

 

「ん?」

 

 焔が自らの胸を指差す。

 

「なにかを抱え込んでいるんじゃない?」

 

「! 抱え込む……」

 

「そ」

 

 焔が頷く。

 

「なるほど……確かにそうかもね……」

 

「でしょ?」

 

「これは……」

 

 基が自らの胸元を抑える。

 

「それってさ、悩み事ってやつじゃない?」

 

「悩み事?」

 

「うん」

 

「そうか……これが悩みというものか……」

 

 胸元から手を離した基が手のひらをじっと見つめて呟く。

 

「基ちゃんにも知らないものがあるんだね」

 

「泉ほど物知りではないからね」

 

「……って、悩んだことなかったの⁉」

 

 焔が驚く。

 

「ふむ……」

 

 基が自らの顎に手を添えて、首を傾げる。

 

「え……」

 

「そう言えば……なかったかもね」

 

「ちょ、ちょっと羨ましいな……」

 

「焔は悩んだことがあるのかい?」

 

「そ、そりゃああるよ」

 

「ほう……」

 

「い、いや、ほうって……」

 

「いつ?」

 

「え、それはしょっちゅう……」

 

「どこで?」

 

「そ、それは色んなところで……」

 

「誰が?」

 

「そ、そりゃあアタシだよ」

 

「何を?」

 

「な、なにをって……それは様々だよ」

 

「何故?」

 

「な、何故って……生きているとそういうものじゃない?」

 

「どんな風に?」

 

「そ、それもその時々によるよ……」

 

「うむ……」

 

 基が両腕を組み、若干顔を俯かせる。

 

「あ、あのさ……」

 

「意外だな」

 

「?」

 

 基が顔を上げて告げる。

 

「焔はそういうものとは無縁だと思っていた」

 

「酷くない⁉」

 

 焔が愕然とする。

 

「ふっ、冗談だよ……」

 

「……話を戻すけど、悩み事はこれまで無かったの?」

 

「無かったね」

 

「す、すごいね、それは……」

 

「そうかな?」

 

「思い返してみてよ、晴明ちゃんのところに来る前とかどうだったの? 確か宮勤めをしていたんだよね? そ、そういう時に悩みの種とか無かったの? 他者との軋轢とか……」

 

「他者との軋轢?」

 

「ほ、ほら、ああいう場所って、わりとドロドロしているって言うじゃない?」

 

「ああ、自分で言うのもなんだけれども……ぼくは大層モテてね」

 

「え、ええ?」

 

「みんないつも良くしてくれたから、不自由を感じることはなかったよ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 基の爽やかな物言いに焔が戸惑いながらも頷く。

 

「だが、今回はそうも言っていられないかもね……あのデーモンとやらは強力だ。どう立ち向かっていけばいいものか……」

 

 基が首を傾げる。焔が口を開く。

 

「……それぞれ役割っていうものがあると思うんだよね」

 

「うん?」

 

「あれこれと考えを巡らせるのは泉ちゃんや金ちゃん、とにかく体を動かすのはアタシと栞ちゃんの役割……」

 

「ふむ……ぼくは?」

 

「なんかこう……余裕をもって、どっしりと構えている役……」

 

「ぷっ、なんだいそれは?」

 

「基ちゃんにはそういう雰囲気を纏っていて欲しいんだよ」

 

「……分かったよ、努力する」

 

 基が微笑む。焔が胸をなでおろす。

 

「ああ良かった。基ちゃんは笑っているのが一番だよ。

 

「そうかい?」

 

「うん、物憂げな顔も素敵だったけどね」

 

 基がニヤリとする。

 

「こうしていると、誰かが必ず助けてくれるんだよ、便利なものだね」

 

「あ、ああ、そうなんだ……いいね、顔が良いって……」

 

 焔が苦笑いを浮かべる。

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