陰陽師安倍晴明の優雅なオフ~五人の愛弟子奮闘記~ 作:阿弥陀乃トンマージ
玖
「……お師匠さま、全員揃いました」
晴明の前に五人が並んで座る。泉の言葉に晴明が頷く。
「うん……」
「どうしたんだよ、今日は休みじゃなかったか?」
栞が尋ねる。
「そうしたかったんだけどね……生憎そうも言っていられないからね」
「ん?」
「どういうことでしょうか?」
焔が首を傾げる隣で泉が問う。
「……皆、傷は大分良くなったようだね」
「……ええ」
「お陰様でね」
金が頷く横で基が微笑む。
「それはなによりだ」
「……晴明殿、泉さんの問いに対する答えは?」
金が問いかける。
「あ、ああ……」
「話をそらさないで頂きたいですわ」
「まあまあ、晴明くんとしてもなかなか話しにくいことなんだろうさ」
金を基がなだめる。
「えっと……なにから話せばいいものやら……」
「……蘆屋道満さまのことなどお聞かせください」
泉が口を開く。
「ああ……」
「なんか聞いたことがあるような名前だな……」
「良くない噂でね」
栞の呟きに焔が反応する。
「蘆屋道満……優れた術の使い手だ。だが……」
「だが?」
栞が首を捻る。
「悪しき心に囚われているというかね……」
「悪しき心?」
「そうだ」
金の呟きに晴明が頷く。
「ふっ、ならば、晴明くんと似た者同士だ」
「い、いや、我は違うよ!」
基の言葉に晴明は首を左右に振る。基がニヤリと笑う。
「冗談だよ」
「ま、まったく……とにかく良くないことに術を用いたがるんだよ」
「良くないことって?」
「挙げればキリがないけれど……例えば人を呪ったりするのさ」
焔の問いに晴明が答える。基と金がほぼ同時に反応する。
「呪い……」
「呪詛ですわね……」
「でも、その方は確か……」
「ああ、十数年程前に我が追放したんだ、この京の都からね」
泉の呟きに晴明が応える。
「追放? 倒したわけじゃねえのか?」
「そうだね。倒し損ねたというべきか……」
栞の問いかけに対し、晴明が苦い顔をする。
「その因縁の相手が戻ってきたというわけだね」
「そういうことになる」
基の言葉に晴明が頷く。泉が尋ねる。
「……これまでの動向は?」
「東国や西国でそれらしい動きは見られた。あくまでもそれらしい動きだけどね……」
「お師匠さまでもつかみきれなかったということですね?」
「ああ、あまり京を離れられないからね……」
「それも無理もないかもしれません……」
「え?」
「どういうこったよ、泉?」
金と栞が泉に視線を向ける。
「これは推測になってしまうのですが……」
「いいよ、言っちゃいなよ」
「ああ、構わないだろう? 晴明くん」
焔が言い淀む泉を促し、基が晴明に許可を求める。
「……ああ。恐らくは同じ考えだと思うからね……」
晴明が頷いたのを見て、泉が口を開く。
「……道満さまは外つ国を周っていた……」
「と、とつくに……⁉」
栞が驚く。基が自らの顎をさすりながら頷く。
「なるほど、腐った死体や不気味なからくり人形……」
「大ダコや人面木……」
「大きな黒い犬、そして、デーモンか……」
金と焔も思い出すように呟く。
「……それらを集めてきて、この京に現出させた……!」
「ああ、我もそういう考えだよ」
泉の言葉に晴明が首を縦に振る。
「何の為に?」
「それはもちろん、この京の都を混沌に陥れるためさ」
泉の問いに対し、晴明は両手を大げさに広げる。泉が戸惑う。
「ど、どうしてそのようなことを……?」
「……そもそも、何故悪しき心に囚われたと思う?」
「わ、分かりません……」
晴明から尋ねられた泉は首を横に振る。
「……復讐の為さ」
「復讐?」
金が顔をしかめる。晴明が金に視線を向ける。
「ああ、彼の術を皆が正当に評価しようとしなかったからだよ」
「……何故でございますか?」
「それよりもはるかに優れた者がいたからね」
「はるかに優れた者?」
「そう……我のことさ!」
晴明が何故か胸を張る。
「! じ、自分で言うか……」
「晴明ちゃんらしい……」
栞が呆れ、焔が苦笑する。基が再度頷く。
「なるほど……個人的怨恨の意味合いもあるというわけか」
「多分だけどね」
「ご歓談のところ、申し訳ありません……」
旭と朧が五人の背後に現れる。焔が驚く。
「うおっ⁉ びっくりさせないでよ~朧ちゃん」
「われは旭です。朧はこちら……」
旭が朧を指し示す。焔が謝る。
「あ、ま、毎度ごめんね……」
「物の怪らしきものが現れたという報告がありました。今宵も出動をお願いします」
「‼」
朧の言葉を受け、五人の顔に緊張が走る。