陰陽師安倍晴明の優雅なオフ~五人の愛弟子奮闘記~ 作:阿弥陀乃トンマージ
「……まさか、留守番せよとはね」
基が苦笑いを浮かべる。
「晴明の気まぐれにも困ったもんだ」
「まだ傷が治りきっていない私たちへのご配慮ですよ」
泉が栞を諭す。
「そうかねえ?」
「そうですよ、きっと」
「きっと~?」
「それはともかくとして……晴明殿は大丈夫かしら?」
金が自らの頬に手を添える。
「いやいや、晴明ちゃんなら大丈夫でしょ~」
焔が笑う。
「だって久々のご出動じゃないの?」
「旭ちゃんと朧ちゃんが付いているから平気だって」
「そう……」
「しかし……便利なものだね、これは……」
基が額に人形の形代をくっつけて、感心したように呟く。
「ええ、まったく。離れたお師匠さまたちの様子について形代を通じて見ることが出来るなんて……ものすごい術です」
泉が頷く。
「……これはどの辺りだ?」
「堀川小路の東側、二条大路の南東角辺りですね……」
栞の問いに泉が応える。
「禁中に近いじゃないか……」
基が目を細める。
「これはひょっとして……」
「そのひょっとしてだよ、金」
晴明が金の呟きに応じる。
「もしや、蘆屋道満殿は……」
「ふふっ、かなり位の高い御方のもとに匿われているようだね……探してもなかなか見つからないわけだよ」
晴明が笑う。泉がハッとする。
「し、しかし、お師匠さま! その近くに物の怪の気配がしたということは……!」
「概ね泉の思っている通りだよ……我をおびき寄せに来たのだろうね」
「い、一旦退却を!」
「残念ながらもう遅い……!」
晴明たちの目の前に双頭の巨大な犬が姿を現した。
「! な、なんだよ、あいつは⁉」
「あ、頭がふたつある……!」
栞と焔が驚く。
「大きいね……野良犬ってわけではなさそうだ……」
「お師匠さま、冗談を言っている場合では……」
晴明を泉がたしなめる。
「ああ、すまない。真面目にやるよ」
「晴明くん、ひょっとしてあれも……」
晴明が基の呟きに応じる。
「ああ、そうだ、はるか西方の国の化物……オルトロスと言ったかな?」
「オルトロス……」
金が呟く。
「ガルルッ……!」
「グルルッ……!」
オルトロスが唸り声を上げる。
「ふむ、唸り声は少し異なるんだね……」
晴明は自らの耳元に手を添えて、聞き耳を立てる。
「晴明殿、だからふざけている場合ではありませんわ!」
金が注意する。
「情報を集めることは大事だよ、金」
「ですが……!」
「ガルッ!」
「グルッ!」
オルトロスが晴明に向かって飛びかかる。
「速えっ⁉」
「晴明ちゃん!」
栞と焔が揃って声を上げる。
「『日槍』!」
「『月鎌』!」
「!」
「‼」
旭と朧が槍と鎌を取り出してオルトロスの牙を防ぐ。
「旭と朧の術か……」
「は、初めて見たかも……」
栞と焔が立て続けに呟く。
「なるほど、旭は日の術の使い手で、朧は月の術の使い手か……」
基が自らの顎をさすりながら頷く。
「はあっ!」
「ほあっ!」
「ガッ⁉」
「グッ⁉」
旭と朧がオルトロスを押し返す。
「わたくしたちとの修練では、いわゆる五行の術しか使っておりませんでしたわ……」
「ええ、あの二人の戦いをちゃんと見るのはほとんど初めてです」
金の呟きに泉が同調する。
「……」
「………」
「…………」
「……………」
旭と朧とオルトロスが対峙する。
「ガルアッ!」
「グルアッ!」
「仕掛けた!」
「さっきより出足が速い!」
栞と焔が揃って、オルトロスが旭と朧に向かっての飛び込みに反応する。
「『
「『
「ガラアッ⁉」
「グラアッ⁉」
旭と朧は印を結んで、それぞれ大きな矢と弓を発生させて、オルトロスの頭を鋭く射抜いた。頭をそれぞれ射抜かれたオルトロスは力なく倒れ込む。
「ゆ、弓矢……」
「合わせ技とは……」
金と泉が揃って唖然とする。旭と朧が晴明の方に向き直る。基が気づいて声を上げる。
「まだだ!」
オルトロスの尻尾が大蛇に変化し、旭と朧に噛みつこうとする。
「「『光輪』……!」」
「シャア⁉」
旭と朧が発生させたものと思われる光の輪が大蛇の首を斬り落とした。