陰陽師安倍晴明の優雅なオフ~五人の愛弟子奮闘記~ 作:阿弥陀乃トンマージ
「やりましたわね!」
金が歓声を上げる。
「泉、大丈夫かい?」
「え、ええ……」
基の声に泉が頷く。
「どうだ、ざまあみやがれってんだ、道満!」
栞が空を見上げて叫ぶ。
「……」
「へへっ、悔しくて声も出ない感じかな~?」
焔が煽る。
「……あまり調子に乗らんことだ」
道満が低い声で呟く。
「はっ! その言葉そっくり返すぜ!」
「今、どんな気持ちなのかな~?」
栞と焔がさらに煽る。
「ふん……!」
「!」
長い角を頭部に二本生やした女が大きな鉄扇を地面に突き立てる。地面が大きく揺れて、栞たちの視線はそちらに集中する。焔が首を捻る。
「お、鬼?」
「いえ、あれはおそらく……」
「知っているの、泉ちゃん?」
焔が泉に問う。
「羅刹女です……」
「ら、羅刹女……?」
「またの名を鉄扇仙……」
「……それは仙人の類ではなかったかな?」
基が呟く。
「仙人であろうとなんであろうと、わしに使役出来ぬものはない……!」
道満の声が響く。
「な、なんと畏れ多いことを……」
金が言葉を失う。
「……」
羅刹が鉄扇を肩に担いで迫ってくる。栞が泉に尋ねる。
「……どう見る?」
「どうしても鉄扇に目が行きます。金の属性かと……」
「よっしゃ、オレが行くぜ!」
泉の答えを受け、栞が前に進み出る。
「……何故に」
道満が口を開く。
「ん?」
「何故に、属性の相性が悪いものをぶつける? まさかとは思うが……」
「そのまさかだ、相反の間柄で勝ってこそ、晴明の……オレらの師匠がてめえより上だってなによりの証になるだろうが」
「! なっ……」
道満がしばし絶句する。
「へっ、恐れ入ったか!」
「栞さん、まだ何もしていないでしょう……」
胸を張る栞を金が呆れ気味の視線で見つめる。
「ま、まあ良い……その余裕はじきに後悔へと変わるだろう! やってしまえ」
「むん……!」
羅刹は鉄扇を振り回す。細身の身体からは想像も出来ない怪力だ。
「『幹』‼」
「⁉」
栞が太い木の幹を生じさせて、羅刹の振り回す鉄扇を受け止めてみせる。
「へへっ、どうだい……」
「こ、これは……」
「羅刹が扇を広げて、風を吹かせるというようなことをせず、そのまま振り回してくれたことが逆に良かったかもしれないね。こうなると栞との力比べだ」
戸惑う泉に対して、基が説明する。
「似たような発想をするもの同士で助かりましたわね……」
「おい、金! なんか馬鹿にしてねえか⁉」
羅刹と鍔迫り合いをしながら、栞は金に声をかける。金は手を左右に振る。
「気のせいですわ。仙人と気が合うなんて、あ~羨ましい限りですわ~」
「わざとらしいんだよ!」
栞が叫ぶ。焔が声を上げる。
「栞ちゃん! よそ見している場合じゃないよ!」
「むうん……!」
「うおっ……この野郎!」
栞が羅刹の怪力に負けじと押し返す。
「互角……!」
「ああ、そうだね」
泉の言葉に基が頷く。
「しょうがないにゃあ~『雷撃』!」
「‼ ぬおおっ!」
「どわあっ⁉」
雷が鉄扇に落下し、勢いを増した鉄扇が、幹を割ってしまう。栞が吹き飛ばされる。
「栞ちゃん⁉」
「か、雷⁉ 雷雲はどこにも⁉」
焔が驚き、金が空を見上げる。
「いちいち大げさな雲なんて必要ないんだにゃ~これが」
赤褐色の肌をした長身で黒髪を三つ編みにした女の子が羅刹の後ろから現われた。
「か、雷の術……⁉」
三つ編みの女の子が泉をビシっと指差す。
「当たり~♡ あずまは
「またもや道満の弟子が……」
金が顔をしかめる。
「羅刹ちゃん、ちょっち苦戦しているみたいだから、あずまが手を貸してあげる♪」
「……」
羅刹が雷を睨みつける。
「まあまあ、そんな怖い顔しない」
「ひょ、ひょっとしてだけど……」
「うん?」
雷が焔に視線を向ける。
「雷をもろに喰らったのは羅刹なんじゃないの?」
「え~?」
雷が羅刹に視線を戻す。
「………」
羅刹が自らの角を指差す。
「もしかして……角にも雷落ちちゃった?」
「…………」
羅刹が頷く。
「あ~ごめん~♡ 上手く操作出来にゃかった~♡ あははっ!」
雷が両手を合わせて軽く頭を下げる。
「……む、むうん……!」
「『木枝の剣』!」
「むうん⁉」
栞が振るった木枝の剣を受け、羅刹が倒れ込む。
「わけわからんやつらに振り回されて気の毒だったな……」
「む、むう……」
「仙界に帰りな……」
栞が告げると、羅刹が霧消した。
「あ~羅刹ちゃんをよくも~!」
雷が頬をぷうっと膨らませる。
「遊びじゃねえんだぞ、てめえ!」
栞が怒りをあらわにする。
「知っているよ~」
「だったら! それに相応しい態度ってもんがあるだろう……が……」
「ウザっ……」
栞が雷に不用意に近づいてうつぶせに倒れる。泉が唖然とする。
「なっ⁉ き、斬られた?」
「そ。この『雷爪』でね」
雷が右手を掲げる。爪先が雷を帯びて伸びたように見える。
「か、雷の爪……」
「ふふっ、カワイイっしょ~♪」
「ぐうっ……」
「栞さま!」
泉が声を上げる。
「へ~え? 案外しぶといね~『雷絶木』のわりには……!」
「がはっ⁉」
雷が栞を蹴り飛ばし、無理矢理仰向けにする。そこに続けざまに踏みつける。
「道満ちゃんが決めた理に! 逆らうなよ!」
「やめたまえ……」
基が雷に飛びかかる。
「へっ、切り裂いてあげる! なっ⁉」
雷が爪を振るうが、基には効果がない。
「『土槌』!」
「がはっ⁉」
基は印を結んで槌を生じさせ、それを両手で持って、雷の横っ面を思いきり殴りつける。雷はしばらくフラフラとした後、倒れ込む。
「雷は土壌に豊かな実りをもたらすものさ。君らの理を借りるなら……『木絶雷』と言ったところかな?」
槌を肩に担いだ基が微笑みを浮かべる。