同好怪!?   作:阿弥陀乃トンマージ

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第1話(1)職員室にて

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 話はその日の昼間に戻る。非常にレアなイベントが起こった。職員室で昼食中の俺の下に三人の女子生徒が尋ねてきたのである。繰り返しになるが、地学というマイナー科目を担当している俺である。生徒が授業などの質問に来ることなど、ほぼゼロに近いことだ。まあ、それは裏を返せば、疑問点が生じないような授業を行えているということだから、良いことではあるのかもしれないが……。え? そもそも誰も授業内容に興味が無いのではって? いやいや、そんなことはないだろう、多分……。

 

「あのさあ、村松っちゃんよお……」

 

 おいおい、いきなりちゃん付けかよ。親しみを込めているような感じはしない。どこか大人のことを舐めている。俺は若干イラっとしながらも、つとめて冷静に応じる。

 

「……なんだ、紅蓮?」

 

「なんだってことは無えだろう、なんだってことは」

 

 その女子生徒、紅蓮龍虎(ぐれんりゅうこ)は俺の反応に対し、不満そうに唇を尖らす。

 

「なんだとしか言いようが無いだろう」

 

「ってか、オレの名前、知ってんだな……」

 

 それは知っている。紅蓮龍虎、学園内きっての不良生徒で、真っ赤なショートボブの髪型と細身ながらグラマラスな体つき、校則が緩いとはいえ、短いスカートなど、印象に残らない方がおかしいレベルの生徒だからだ。一人称がオレというのまでは知らなかったが。

 

「見ての通り、昼食の途中なんだ、後にしてくれないか?」

 

「昼飯なんていつでも食えるだろう?」

 

「いつでもって……お前はどうしたんだ?」

 

「んなもん、決まってんだろ、早弁だよ、早弁」

 

 早弁なんてワード、久々に聞いたぞ。

 

「……お前、授業中に食べたのか?」

 

「ああ」

 

「ああって……せめて休み時間とかに食べろ」

 

「休み時間は眠くなんだよ」

 

「そりゃあ、飯を食うからだ」

 

「腹が減ってはなんとやらっていうじゃねえか」

 

「それでしっかりと授業に臨んでいるのならまだ褒められるが、こそこそと隠れて弁当を食べているのではな……」

 

「こそこそなんかしてねえよ、堂々と食べているぜ」

 

 紅蓮は胸を張る。そんなことで威張るな。初めてまともに喋ったが、かなりの問題生徒だな……。例えば喧嘩だなんだという話は聞かないが、早弁の常習犯で注意されないとは……しかし、よく入学出来たな……そういえば、運動神経抜群なんだっけ。推薦枠ってやつか。

 

「……村松先生、よろしいでしょうか?」

 

「ああ……なんだ、疾風?」

 

 紅蓮の左隣で黙っていた眼鏡の生徒が口を開く。

 

「まずは初めまして……こうしてお話をするのは初めてのことなので。私は疾風晴嵐(はやてせいらん)と申します。以後お見知りおきをよろしくお願いいたします」

 

「あ、ああ……よ、よろしく」

 

 丁寧にお辞儀をしてくる疾風に俺は少々面食らう。疾風晴嵐……。青みがかったロングヘアーを後ろでまとめ、両サイドの前髪を長く伸ばしている。眼鏡の他に、パンツスタイルの制服を着ているのも特徴的だ。この学園では女子生徒には、スカートかパンツスタイルかを選ぶ自由はあるが、それでもスカートが多数派だ。そこでパンツスタイルの彼女は特に印象に残りやすい。もちろん、学園内でも有数の優等生だということも聞いている。

 

「昼食中、たいへん恐れ入りますが……」

 

「昼食の後では駄目なのか?」

 

「お時間は取らせません」

 

「そうは言ってもだな……君も昼食は良いのか?」

 

「ご心配には及びません。ゼリー飲料で済ませましたから」

 

 そう言って、疾風は飲み終わったゼリー飲料の袋を見せてくる。いや、逆に心配になってくるんだが……。もうちょっとがっつり食った方が良いぞ。紅蓮もそうだが、お前も結構細身で、しかも紅蓮よりはスレンダータイプだからな……。って、こんなことを口に出したらセクハラだよな……。俺は話題を変える。

 

「授業についての質問とかなら、後でちゃんと時間を取るから……」

 

「それは無用です」

 

「え?」

 

「私は文系クラスですし、地学はそもそも選択しておりません」

 

「あ、ああ、そうだったな……」

 

「それに……」

 

「それに?」

 

「仮に地学を選択していたとしても、授業後に質問することなどありえません。私は予習復習など、自分自身でしっかりと行えますし、授業にも集中して取り組みますので」

 

「あ、ああ、そ、そうなのか……」

 

 俺は圧倒されてしまう。す、すごい自信だな……。これが絵に描いた優等生ってやつなのか。オーラが見えるようだぜ……。

 

「よろしいでしょうか?」

 

「え、えっと、ちょっと待ってくれないか、すぐに食べ終わるから……」

 

 俺は弁当の残りをかきこむ。

 

「……ねえ、村松っち……?」

 

「ん?」

 

 疾風の左隣に立っていたギャルの生徒が口を開く。

 

「……彼女いないんだね」

 

「ぶほあっ⁉ ごほっ、ごほっ!」

 

 俺は思いっきりむせてしまう。ギャルがそれを見て笑う。

 

「あははっ、そのリアクション、マジウケるんですけど」

 

「な、何を言うんだ、雷電……!」

 

「あれ? ウチのこと知っているんだ?」

 

「知っているさ、雷電金剛(らいでんこんごう)……」

 

 雷電金剛……なんとも強そうな名前とは裏腹に本人は今時のギャルだ。金髪をポニーテールにして、短いスカートの下に黒いストッキングを穿いている。いわゆる『陽キャ』である。しかも超の付く陽キャだ。交友関係はかなり広いようで、俺の担任しているクラスにもよく出入りしているのは見かける。俺はあまり詳しくないのだが、SNSのフォロワーも結構多いようで、全国的に有名なインフルエンサーらしい。一説には高校を辞めても、充分食べていけるとか……羨ましい限りだ。

 

「へえ、ウチも有名になんだね……もしかして、村松っちの『リスト』に入っているとか?」

 

 そう言って、雷電は自分の体をわざとくねらせる。紅蓮や疾風に比べると、やや小柄でふくよかではあるが、体型は豊満と言っていい。って、なにを言っているんだ。

 

「リストってなんだ、リストって……」

 

「え? 狙っている生徒のリスト」

 

「馬鹿を言うな、狙っているわけないだろうが」

 

「え~狙ってないの? それはそれで不満~」

 

「……注目はしているさ」

 

 俺は笑みを浮かべながら、冗談を言う。雷電の顔が変わる。

 

「えっ……マジで? それはちょっと引くんだけど……」

 

「いやいや、どっちなんだよ⁉」

 

「あははっ、ジョーク、ジョークだって」

 

「ったく……で?」

 

 俺は三人にあらためて問う。学園きっての不良と、学園内有数の優等生、学園のカリスマギャル……この三人がそれぞれ交友があったのも意外だが、何故に俺なんかのところへ?

 

「……村松ちゃん、これ」

 

「ん? 部活動の設立申請書?」

 

「オレらさ、『同好怪』立ち上げるから、顧問になってくれよ」

 

 紅蓮が予想だにしないことを言い出した。

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