10
「……はっ!」
俺は目を覚ます。どうやらまたいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
「おはようさん」
視線をやると、セーラー服を着た、緑がかった長い髪を三つ編みにした平均的な体格の眼鏡をかけた女の子が椅子に座っていた。
「……誰だ?」
俺は半身を起こしながら問う。
「まあまあ、誰でもええやんけ~」
「いいわけないだろう。俺をさらっておいて……」
「へえ……自分がさらわれたんは理解出来るんか?」
眼鏡の三つ編みは感心したように呟く。
「それは……状況から判断すればな」
「案外冷静なこって」
「冷静というか……」
「ん?」
「慣れたというか」
「ははっ、三回もさらわれればそうなるか」
眼鏡の三つ編みは笑う。俺の状況を理解している……。
「何者だ?」
「誰やと思う?」
「分からないから聞いている」
俺は少し苛立つ。
「まあ、そう言わんと当ててみいや」
「そのセーラー服……隣街の高校か」
「おっ、鋭い観察眼」
眼鏡の三つ編みが自らの服の胸元あたりを抑える。
「ふむ……」
「っていうか……」
「うん?」
「制服でどこの高校か分かるんはちょっとキショいな……」
眼鏡の三つ編みがジト目でこちらを見つめてくる。
「なっ……い、いや、違う!」
「何が違うねん」
「ひ、比較的見慣れているからだ! 制服マニアというわけではない!」
俺は慌てて弁明する。
「……」
「ほ、本当だ!」
「……まあ、そういうことにしとこうか」
よ、良かった。あらぬ誤解をされるところだった。俺は話題を変える。
「と、というか……」
「ん?」
「こ、ここはどこなんだ?」
「どこやと思う?」
俺は周囲を見回す。
「……市民センターに付属している体育館か?」
「当たり~」
眼鏡の三つ編みが拍手をする。
「な、なんでここに……?」
「まあ、ここがわたしの根城ちゅうか……」
眼鏡の三つ編みが自らの眼鏡の縁を触る。
「根城?」
「アジトみたいなもんかな」
「ア、アジト?」
俺は面食らう。今時アジトって。
「せや。なんかかっこええやろ?」
「い、いや、それはよく分からんが……」
「ええ? センスないな~」
それはこっちのセリフだ。……というセリフを俺はグッと飲み込んだ。
「関西弁だな……」
「いや、気付くの遅っ!」
眼鏡の三つ編みがわざとらしくズッコケる。
「……君は何者なんだ?」
「さっきから同じことを聞くね~」
眼鏡の三つ編みが体勢を立て直して苦笑いする。
「気になるからだ」
「ナンパでも、もっとウマいこと聞くで?」
「ナンパじゃない」
大体、sさらったのはそっちだろうが。
「まあ、そんなんどうでもええやないか……」
「どうでもよくない!」
俺は声を上げる。
「お~怖……そないに怒らんでもええやん」
眼鏡の三つ編みが肩をすくめる。
「怒ってはいないさ。多少イラついているだけだ」
「同じことやんけ」
「いいから、本題に入ってくれないか?」
「えっと……村松藤次センセやんな?」
「あ、ああ、そうだ……」
この子も俺のことを知っている?
「そして、同好怪の顧問と……」
「あ、ああ、そうだが……」
やはり同好怪のことも知っている⁉
「怪傑の嬢ちゃんから何か聞いた?」
「え? に、肉体の鼓動がどうたら……」
「あ~そっちか」
眼鏡の三つ編みが自らの額に片手を添える。
「そっち?」
「それだけではないんよ。大事なんは……」
「それだけではない?」
「それは人間が誰しも備えている物……」
「? な、なんだ、それは……」
眼鏡の三つ編みが自らの胸元にそっと両手を添える。
「……精神や」
「精神?」
俺は首を傾げる。やはり話がよく見えない……。
「アンダスタン?」
「なんで英語……いや、全然分からん……」
俺は首を左右に振る。眼鏡の三つ編みは小さくため息をついてから話す。
「はあ……村松センセの精神の情動がこの地域の安定をもたらすし、また乱してしまうこともあるっちゅうってことや」
「はあっ⁉」
「お?」
「ゴォア!」
「変質!」
「ええっ⁉」
俺は大いに驚く。禿げ頭の一つ目大入道が壁を叩き割って現れたかと思うと、眼鏡の三つ編みが自らの倍くらいの大きさのものに変わったからだ。