「ブオオオ!」
「あ、あれは……竜巻⁉」
俺は眼鏡の三つ編みが変質した姿を見て再度驚く。
「ゴォア!」
一つ目入道が両手を大きく広げる。
「ブオオ! ブオオン!」
竜巻が大きなうなりを上げる。
「ま、まさか、竜巻と化すとは……」
俺はあっけにとられる。
「ゴォアア!」
一つ目入道が両の拳を強く握りしめて、突き上げる。
「あ、あれは……い、威嚇か?」
俺は呟く。
「ブオオ―!」
「ゴギャ!」
竜巻が一つ目入道の大きく出っ張った腹をかすめる。
「フオオオオ……」
竜巻がぐるぐると回りながら、一つ目入道の様子をうかがう。
「ゴォア……」
一つ目入道が腹をさすりながら後ずさりをする。
「ブオオ……」
竜巻が旋回しながら、一つ目入道との距離をゆっくりと詰める。
「ゴォ、ゴォア!」
一つ目入道が外へと飛び出す。
「あ、逃げた!」
「ブォォ……!」
「え⁉ ち、小さくなった⁉」
竜巻が自らの勢いを小さくさせて、外へ飛び出そうとするのに俺は驚く。
「ブォォ!」
「き、器用な真似を……」
竜巻が外に飛び出る。
「ゴォア‼」
一つ目入道が庭から旗の掲揚ポールを引き抜き、竜巻に殴り掛かる。
「あ、危ない!」
「!」
「ゴォアア‼」
「ブォォォン‼」
竜巻は小刻みに旋回の軸をずらしながら一つ目入道が振り回すポールをかわす。
「ゴォアアア‼」
「⁉」
一つ目入道が力を込めて、ポールを叩きつける。自らの勢いを取り戻そうとした竜巻はたまらずにバランスを崩してしまう。
「ゴォアアアア!」
一つ目入道がそこに飛びかかろうとする。
「ブォ……!」
「ゴォアアアア!」
一つ目入道が竜巻を抱きかかえて、大きな口を開ける。
「ま、まさか……」
そのまさかだった。一つ目入道は勢いが小規模になった竜巻をみずからの口の中に放り込んでしまったのである。
「ゴォ、ゴォップ……」
一つ目入道がゲップのような音を発する。
「た、食べちまった……?」
俺は唖然茫然とする。
「ゴォア……」
「うん?」
一つ目入道の大きな目がギョロリと俺に向く。
「ゴォアア……」
一つ目入道がこれまた大きな舌を出して舌なめずりをする。
「え?」
不用意に体育館の外へ飛び出してしまっていた俺は後ずさりをする。
「ゴォアアア!」
「ま、待て待て! 俺は美味くないぞ!」
一つ目入道が俺に迫ってくる。こういうのはありそうでなかったパターンだ。
「ゴォ?」
一つ目入道が首を傾げる。
「そ、そうそう! 美味くない! 不味い!」
俺は必死に頷く。
「ゴォ……」
一つ目入道ががっかりしたようにうつむく。
「ははっ、すまないな、期待に応えられなくて……」
俺は申し訳なさそうにする。一応ではあるが。
「ゴォアアアア!」
「はあっ⁉」
一つ目入道が俺をガッシリと掴む。
「ゴォアアアア‼」
「は、腹いせに、結局は食うってことか⁉」
「ゴォア~」
「ま、待ってくれ!」
「……ブォオオオオン!」
「ゴギャアア⁉」
次の瞬間、竜巻がうなりをあげたかと思うと、一つ目入道を腹の中から破り、ぐしゃぐしゃにしてしまった。
「どわっ! な、なんと……」
「まあ、ざっとこんなもんやな~ちょっと手こずってもうたけど……」
地面に落ちた俺がしばらく呆然としていると、元の姿に戻った眼鏡の三つ編みが、残っていた掲揚ポールの上に器用に立っていた。
「き、君はなんなんだ?」
「知りたい?」
「そ、それはもちろん……」
ここまできて内緒も何もないだろう。
「まあ……迷惑かけてもうたからしゃあないな、わたしは
新緑と名乗った眼鏡の三つ編みが俺に対して手を振る。
「怪事……竜巻のことか……」
俺は頷く。
「そういうこっちゃ」
「しかし……怪奇とはどういうことだ?」
「人が竜巻と化すんやで?」
「あ、ああ、十分、怪奇現象ではあるか……」
俺は再度頷く。新緑はにっこりと微笑む。
「納得してもらえたようで良かったで。よっしゃ、とりあえず問題はクリア!やな」
「そういうわけには参りません……」
「うおっ⁉」
「きゃっ⁉」
何かが光ったかと思うと、俺の体は地面から勢いよく浮かび上がった。どうやらまたまたさらわれたようだ。