機動戦士ガンダムJ   作:あかつきp dash

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第十二話『一時の平穏』

 アーガマRがフロンティアサイドにあるコロニーの一つ――フロンティア4についたのが数刻前の話である。

 

 一度目の襲撃以降、戦闘はなく、アーガマRは平穏な航海を送れた。逆にこの静けさが一部の者の不安を掻き立てたが、大半のアーガマRの乗組員にはいい休息になった。

 

 その余暇を利用して、アーガマRおよび、ヘビーガンカスタムにビームフラッグを装備させることもできたのである。

 

「ビームフラッグの主な用途は、主に自分の存在を知らせるためのものですが、用途はそれだけに限定されません」

 

 ブリーフィングルームでトマスを講師に、ブライト並びにサイキ小隊の面々が講習を受けていた。

 

「イメージとしてマンガの吹きだしを思い浮かべてください。たとえば、ビームフラッグに暗号文などを表示して、部隊間で単純な情報交換も可能ですし、互いの生存確認も可能になります。また、退却信号の代わりとしても代替できます。つまり、ビームフラッグというのは、ミノフスキー粒子散布下におけるモビルスーツ間の情報交換をより密なものへ昇華するための手段となるわけです」

 

 当然、問題がないわけでもない。情報交換の手段としてのビームフラッグというのは、よくも悪くも目立つのである。それは偵察、隠密行動に際しては、まるで使いものにはならないといってるようなものであった。

 

 つきつめていくならば、ビームフラッグの主な用途とは、自分の存在を敵味方に知らせることだろうということである。

 

「ところがJに関しては、ビームフラッグの効果が少し変わったものになります」

 

「というのは?」

 

 ブライトが訊ねる。

 

「それには、Jに搭載されている《BWCS》の説明をする必要があります」

 

《BWCS》とは、Jの二人乗りを生かした一種のサイコミュのことである。

 

 二人の脳波を連動させ、Jから特殊な波をだし、その波の揺らぎから敵機の存在を探り当てるというものだ。それによって索敵能力の向上及び、敵機の早期発見による迅速な対応を行えるということである。

 

 理論上では、《BWCS》を利用して戦場全体の状況をすべて感知できるという話であるが、実際は二人のパイロットの同調率によって、その効果が作用されるため、一定の性能を維持するのは困難であったりと、なにかと課題も多かった。

 

「Jのビームフラッグには、《BWCS》の効果を向上させるための補助的な効果がある――つまり、アンテナとしての役割を担っているんです」

 

 Jのビームフラッグには、だした波の反響をより早く受信するための効果があるということであった。

 

「それで現在、私が考えているのは、そのビームフラッグの効果を生かして、Jと他のモビルスーツのレーダー機能を連動させることによって共有できるのではないかということです」

 

《BWCS》で感じとった敵機の気配を、Jのビームフラッグを通して特殊な波を味方機に送り、情報を共有しようというのである。

 

「そのシステムが使いものになるかどうかはおいておくとして、それを実践するならモビルスーツのシフトをJ中心のものに変更する必要がでてくるな」

 

 デュランがふと自分の意見を口にする。

 

「ふむ。シフトに関しては少し考えてみるか……」

 

 ブライトは顎に手をあてながらつぶやく。

 

「よろしくお願いします」

 

「話は以上か?」

 

 デュランがそわそわと落ち着かない感じで、トマスに訊ねる。

 

「ええ、話はこれで終わりですが、なにか予定があるんですか?」

 

「いや、ちょっとな。それでは悪いが、俺は先に失礼する」

 

 デュランはいい終えるなり返事も待たずに、ブリーフィングルームを飛びだすようにしてでていった。

 

「そういえば講習中もずっと時計を見てられたようですが、なにか予定があったんですか?」

 

 そのトマスの問いに、ホセが笑いながら答える。

 

「チビたちと遊ぶ約束してたのさ。たしか約束してた時間からもう三十分は過ぎてたはずさ」

 

「それは悪いことをしましたかね?」

 

 トマスはバツの悪そうに顔をしかめる。

 

「トマス技師長が気にするようなことじゃないさ。大尉の子供好きは昔からだしな」

 

 最初はデュランのいかめしい顔にメロディとティーロが泣きだしてしまうくらいだったが、いまではよく懐いていた。

 

「たしか奥さんとお子さんが五年ほどまえにテロで亡くなられたと聞いたが……?」

 

 ブライトがホセに訊ねる。

 

「ええ。さかのぼれば《111闘争》以降のあおりなのでしょうがね」

 

《111闘争》とは、宇宙世紀111年に起こったマフィアの争いである。この事件自体

は、一般に対してあまり話題にのぼらないのだが、それでも連邦軍に所属する人間なら周

知の話であった。

 

 当時、その頭角を徐々に現していった《ブッホコンツェルン》という企業があったのだが、その中に複数のマフィアの幹部が入りこんでいた。その目的とは《ブッホコンツェルン》が行っていたモビルスーツの開発事業を我がものにするためであった。そのためには

《ブッホコンツェルン》という企業を骨抜きにしてしまう必要があった。

 

 つまりこの闘争はマフィアの縄張り争いであり、《ブッホコンツェルン》はそれにまんまと巻き込まれてしまったのである。

 

 そのピークは111年に迎える。コロニーの各地で大規模なテロが起こったのである。いまでこそわかっている話であるが、テロの目的はマフィアのアジトを潰すための隠れ蓑であった。

 

 テロはサイド2であった大規模な爆破テロを最後に終息を向かえだす。

 

 その後はマフィア間で協定が結ばれ、《ブッホコンツェルン》で大規模な人事異動が行われるのもちょうどこの時期であった。それに伴い大規模なリストラがあり、事業は細分化されていった。これにより社長であったマイッツァーは失脚。その一族も役職を解任、または降格させられた。

 

 この横暴ともいえる人事を疑問視する者も決して少なくなかったが、その一方でマフィアに関わることをタブーとされていたこのような時代で、異議など唱えようもなかった。

 

 なにより、マフィアは労働組合やコロニー公社などにも浸透しており、政治家から見れば選挙の票にも関わってくる。マフィアのご機嫌とりなども必然なのであり、監査など入れられるわけもなかった。

 

 デュランが妻子を亡くしたのは、サイド2のコロニーであった。当時、民衆に絶大な人気を誇っていたハウゼリー・ロナの暗殺事件に巻き込まれたのである。

 

 デュランが単身赴任から帰ってくるというニュースを受けて、彼の妻子は港で彼の帰りを待っていた。事件はそこで起こったのである。

 

 ハウゼリーを撃ったテロリストはデュランの妻を殺し、子供を人質にとったのだ。その後、徐々に警察などに追いつめられたテロリストは、自ら子供とともにエアロックの外にでるという奇行に走った。

 

 数日後、犯人と子供の亡骸は収容された。見るも無惨な姿で――

 

「ああ、その話は一時期騒然になりましたね」

 

 トマスもその事件なら、当時何度も目を通していた。しかし、その関係者がこんな間近にいるとは、世間も狭いものだと思ってしまう。

 

「そういえば、ジュピトリス7の生存者のリストがあがったと聞きましたが?」

 

「ああ……」

 

 ブライトはトマスの質問に、苦渋の表情になって相づちをうつ。

 

「なにかあったんですか?」

 

「それが、リストに子供たちの両親の名前がどこにもないらしい……」

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