「ホントにアーガマRを降りるつもり?」
アイラは冷ややかな視線をシンクに向ける。
「だったら……?」
シンクはそんなアイラを睨むようにして見つめる。
先日、ジュピトリス7の生存者のリストが送られてきたのである。しかし、そのリストには子供たちの家族の名前が見つけられなかったのである。
「ケネスとは随分と派手にやったみたいじゃない?」
シンクの頬にできた痣を見て、アイラがいう。
今後の身の振り方について、子供たちは先ほどまで話しあっていたが、シンクと他の子供たちの意見は相変わらず平行線をたどったままであった。
アーガマRを降りるべきだというシンクの意見に、ソールとケネスが真っ向から対立したのである。
最終的には殴り合いまでに発展してしまい、デュランが仲裁にはいるまで延々と続いた。
「いいご身分ね。降りたいっていえば、降りる許可がもらえるんだから」
「なにがいいたいんだよ?」
「あなたは自分がアーガマRを降りたら、みんな困るんじゃないかって思ってるんじゃない?」
シンクはなにも言い返さずにアイラに視線を向ける。
「だったら自分が特別な存在だなんて思わないことね。戦争は一人でやれるものじゃないのよ」
シンクはその言葉に虚脱感を覚える。
「私は一人でもJを十分に使いこなせるのよ。せいぜい、私の活躍を安全なところから拝んでるがいいわ」
ここに自分の居場所はない。シンクに絶望感が襲いかかる。
「ああ、頑張れよ」
シンクはそれだけ言い残して、アーガマRに背を向けた。
そして、シンクは走りだす。涙を流しながら……
――◇◇◇――
シンクがアーガマRを降りてしばらく、ソールはブライトに呼ばれ艦長室にいた。
「これでも一応、私にも監督責任というものがあってね。君たちの今後についてもそうだ
が、シンクくんがこの艦を降りた経緯を説明してもらいたい」
「は、はい」
固くなるソールを見てブライトは苦笑いを浮かべる。
「べつに誰が悪いというわけでもないし、大事にしようとわけでもない。できれば肩の力を抜いてくれたまえ」
それで実践できるなら苦労はないと、ソールは胸中で悪態をついた。
「たしかに、リストに僕たちの家族の名前はありませんでした。それでも僕たちにはジュピトリス7の人たちを頼るしかありませんから……」
「なるほど」
「……それでシンクはこれからどうなるんでしょうか?」
「君たちの扱いはあくまで民間人だからな。艦を降りる手続きそのものは、それほども難しくない。だが、それでも監視はつくことになっている。生活に関しても軍から助成金はでることになっているし、待遇もそれほど悪くないはずだ」
「そうですか」
ソールはホッと胸を撫でおろす。結果的にシンクを追いだすような形になって、後ろめたい気持ちがあったのだ。
という反面、こちらと足並みを揃える気のない姿に苛立ってもいた。モビルスーツには自分から乗りこんでおいて、ここについたら自分は関係ないといって、アーガマRを降り
る姿は、身勝手にも感じた。
だからソールをはじめ、他の子供たちも彼を見送らなかったのである。
「フロンティア1に行ってもご家族は待っていない。それでも君たちの決意は変わらないのだね?」
「……はい。皆で話しあって決めたことですから」
リストに記載されていないからといって、まだ生死が判断できるわけではない。記載漏れだってあったかもしれない。ソールたちはそんな淡い希望を抱いていた。
「そうか。話は以上だ。もうさがってくれてかまわない」
ブライトはそれだけを告げる。
ソールは「失礼しました」とおじぎをして、艦長室をあとにした。
「おい、ソール」
艦長室をでてきたところでいきなり声をかけられ、ソールはドキリとなった。
「ケ、ケネスか。驚かすなよ」
そこにはケネスがいた。妙にニヤニヤした表情を浮かべている。彼がこういう表情をするときは、たいてい悪だくみを思いついたときだ。
「いい話があるんだが、一つ乗ってみないか?」