フロンティア4の港――
「こんにちわ」
ウェーブのかかった白金髪をセミロングにまとめた少女はいきなりシンクに抱きついて来るなり、そういった。
シンクと年齢があまり変わらない少女には、不相応な艶が滲みでている。
「……なんのつもりだ?」
少女は人懐こい笑みを浮かべながら、シンクの脇に短銃を突きつけていたのだ。
「護身用だけど、殺傷力は十分にあるわ」
シンクは体が嫌が応にも強ばるのを感じだ。
「私の歩幅に合わせて歩いてもらえる? その怖い顔もなんとかしてくれればもっと嬉しいんだけど」
「その注文は聞けないな」
「それは残念」
少女はいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「それより随分大胆なんだな。目的はなんだ?」
「とりあえず黙ってついてきてもらえる?」
短銃を突きつけられているシンクに決定権があるはずもなかった。
少女に連れられて港を抜けると、そこにはエレカが一台停まっており、そこからサングラスをかけた中年の男が手をふってくるのが見えた。
「パパー」
少女は邪気のない笑みを浮かべながら、手を振りかえして答える。
「待った?」
「いえ、つい先ほどついたばかりです」
「すぐにだしてもらえる?」
「かしこまりました」
少女とシンクが乗りこむと、エレカはすぐに発車した。
「オズベルトさん、演技は苦手なほうで?」
少女がからかうような口調で話しかけると、男は苦笑いを浮かべる。
「自分でも無茶なのは承知ですよ」
「ちょっと大胆すぎましたかね?」
「コロニー公社には味方もおります。子供一人をさらうくらいの無茶は見逃してもらえるでしょう」
「そうだといいんだけど……」
「コロニー公社には、すでに連絡してあります。その少年のデータもすぐに手配するとのことです」
「仕事が早いんですね」
(……こいつらジオンか?)
シンクが二人の会話から、そう判断した。
「彼を私の部屋まで運んでくださるかしら?」
「まさかお一人で面倒を見るつもりで?」
「ロープで椅子に縛ってくだされば、間違いは起こりませんわ。それに工場に連れて行くほうがリスクは大きいでしょう」
「……わかりました」
エレカは市街地に入ると、すぐに右折してレンガ造りのアパートの前に停まる。
「降りて」
シンクは少女の指示のままエレカを降りる。銃は相変わらず突きつけられているし、オズベルトと呼ばれた男もいる。ここは指示に従ったほうが長生きできるだろうとシンクは思った。
「部屋は三階にあるわ」
アパートにエレベーターはなく、階段で乗り降りする必要があった。
少女は銃をシンクに突きつけたまま三階を登りきると、302と書かれた扉の前で立ち止まった。
「さあ、入って」
シンクはいわれるがままに、部屋に入る。すると、オズベルトがいきなり羽交い締めにしてきて、あっという間にシンクを椅子に縛りつけてしまった。
「ありがとう。なにかあったらすぐに連絡をするわ」
「三時間後に、また来ます」
オズベルトはそう言い残すと、部屋からでていってしまった。
「……これから俺はどうなるんだ?」
「さらってきちゃったものはしょうがないしね。一応、尋問はさせてもらうわ」
少女はなんでもないようにさらりと言ってのける。そしてシンクに近づいて来るや、彼を縛っていた縄をほどいてしまった。
「べつにあなたをとって食おうってワケじゃないのよ。オズベルトさんは私の我が儘につき合ってくれただけ」
「俺には君って人間が――って、なにをしてるんだよ!」
「なにって、着替えだけど?」
少女はいきなり衣服を放りだして、近くのソファーにかけてあった大きめの半袖のシャツに袖を通した。
「あんた、変わってるな……」
半袖シャツ一枚しか羽織っていない少女の脚はむきだしになっており、どうしても気になって目がそちらにいってしまう。
「そうかしら? 私、室内は楽な服装でって決めてるんだけど」
「俺はそういうことをいってるんじゃない」
「あなたの目の前で着替えたこと? ひょっとして不快にさせたかしら」
「……もういいよ」
少女のケロリとした態度がシンクには、なぜか悔しく感じられてなにも喋る気になれなかった。
「じゃあ、早速尋問させてもらうわね。私、まどろっこしいのは嫌いだから、単刀直入に聞くわ。あなた強化人間?」
「……強化人間? 人工的につくられるニュータイプとかのことか?」
「そうよ。非人道的だということで、研究はすでにとりやめになったされてるけど、実際はそうじゃないという話を聞いてね」
「それと俺が強化人間というのとなんの関係があるんだ?」
「話によると連邦軍には、強化人間だけで構成された特殊な部隊が存在するらしいの。構成員は私やあなたと年齢の変わらない子供らしいわ」
シンクは黙ったまま少女の話に耳をかたむける。
「仮にあなたが強化人間でないとして、なぜあの戦艦から一人で降りてきたのかしら?」
「俺はただの民間人で、あの戦艦には保護してもらってただけだ。それに俺は、あの戦艦とはもうなんの関係もないんだ」
「どうして?」
「降りたんだよ、もう。あの戦艦に乗ってたら戦闘に巻き込まれてばかりでさ、命がいくつあっても足りたもんじゃない」
「その割には未練が残ってるみたいだけど?」
「……ないよ、未練なんて」
「まあ、そういうことにしておきましょうか。じゃあ、あの戦艦のこと教えてくれる?」
「俺、民間人だからさ。軍事機密だっていわれてて、そういうことはなにも教えてもらってないし、触らせてももらえなかったんだ。だからわからない」
「ホントかしら?」
少女は薄ら笑いを浮かべて、シンクの顔を見つめる。すべてを見透かすような視線に、シンクの背筋を冷や汗が流れる。
「ホントさ」
「そう。残念だけど、あなた痛い思いをしてもらうしかないみたい」
オズベルトが屈強の男たちとともにやってきたのは、間もなくのことであった。